最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

11 / 17
第11話 武神祭①

武神祭、予選当日。 王都の喧騒を離れた路地裏で、シド・カゲノーは「究極の変装」を終えていた。 猫背、不健康そうな顔色、そして今にも折れそうな細い剣。どこからどう見ても、一回戦で無惨に散るモブ剣士――その名も「ジミナ・セーネン」だ。

 

「……フフフ、完璧だ。この弱そうな僕が、強豪たちをバッサバッサと『偶然』なぎ倒していく……。これこそが、実力者の醍醐味だよ」

 

「……相変わらず、その趣味の悪さには恐れ入るな、兄上」

 

背後から響く、重厚な声。 そこには、制服の上から黄金の甲冑を纏い、不遜に腕を組むギルガメッシュが立っていた。彼は『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』によって、シドが魔力を極限まで制御し、わざと「弱者の波長」を出しているのを見抜いている。

 

「ギル。君も出るなら、せめて名前くらいは変えたらどうだい? そのままじゃ目立ちすぎて、僕の引き立て役にもならないよ」

 

「……フン、誰が貴様の引き立て役など。(オレ)は言ったはずだ。王が雑種どもの品評会に並ぶことはないとな」

 

ギルガメッシュは指先を鳴らし、蔵から一つの「仮面」を取り出した。それは黄金に輝く、威厳に満ちた意匠の面だ。

 

(オレ)は特別観覧席を、文字通り『買い取って』きた。……貴様のその茶番、特等席で見物してやる。せいぜい、王を退屈させるなよ」

 

「……へぇ、買い取ったんだ。流石だね、黄金の王様」

 

二人は不敵な笑みを交わすと、それぞれの「舞台」へと向かっていった。

 

武神祭の会場、メインスタジアム。 そこには、ミドガル王国の重鎮や、招待された貴族たちが顔を揃えていた。その最前列、本来であれば王族しか座ることを許されない一等地に、一人の男が踏ん反り返っていた。

 

「……誰だ、あの男は? 黄金の髪、そしてあの不遜な態度は……」 「カゲノー家の特待生、ギルガメッシュだ。……アレクシア王女でさえ、彼には手出しできないと聞くが……」

 

周囲の貴族たちがヒソヒソと囁き合う中、ギルガメッシュは蔵から呼び出した「神代のワイングラス(中身は高級ブドウジュース)」を傾けていた。 彼の隣には、困惑した顔のアイリス・ミドガルが座らされている。

 

「……ギルガメッシュ。貴方、また勝手に席を設けて……。ここは王族の監視の場でもあるのですよ」

 

「……フン、小娘。王がどこに座ろうと、そこが中心だ。文句があるなら、貴様の父である王を連れてくるがいい。……もっとも、連れてきたところで、(オレ)の蔵にある『ありとあらゆる権力を剥奪する原典』を見せてやれば、奴は泣いて逃げ出すだろうがな」

 

アイリスは溜息をつき、視線を闘技場へと戻した。彼女には分かっていた。この男を力で従わせることは不可能であり、今は機嫌を損ねないのが最善だと。

 

「……それで。貴方が注目している選手はいるのですか?」

 

「……一人だけな。……間もなく出てくるぞ。この世で最も不格好で、しかし最も底知れぬ『病弱者』がな」

 

闘技場に、一人の男が入場してきた。 「……ジミナ・セーネン選手、入場です!」 実況の声と共に現れたのは、よろよろと歩き、今にも吐血しそうなジミナだった。

 

対戦相手は、王都でも名の知れた実力者。彼はジミナを一瞥し、鼻で笑った。 「……おいおい、死人を連れてきたのか? 棄権するなら今のうちだぞ、坊や」

 

ジミナはゆっくりと、しかし確かにその剣を抜く。

 

観客席からは失笑が漏れる。だが、その中で唯一、ギルガメッシュだけは愉快そうに喉を鳴らした。

 

「……ククッ、ハハハハハ! 見るがいい、王女よ! あの無様な演技を! 100点満点だ!」

 

「……え? 演技? 彼は本当にか弱そうに見えるのですが……」

 

「……フン、凡人の目にはそう映るか。……刮目せよ。真の『最強』が、これから雑種を屠る様をな」

 

試合開始の合図。 対戦相手が猛然と切り込む。だが、ジミナは首を傾げ、耳を掻くような動作をしながら、紙一重でその斬撃を避けた。 「……あ、あれ? 避けた?」 観客が首を傾げる。ジミナの剣が、まるで杖をつくような動作で相手の足元を突いた。

 

「グハッ!?」 相手は勝手に転び、そのまま場外へ。

 

「……しょ、勝者、ジミナ・セーネン!!」

 

会場に静寂が走る。偶然か、運か。誰もがそう疑う中、ギルガメッシュはグラスを高く掲げた。

 

「……良い。……あの『無駄のなさ』、我が宝物庫の財の数々にも匹敵する。……やはり兄上、貴様はを飽きさせない」

 

予選の合間。闘技場の通路の暗がりで、ジミナとギルガメッシュはすれ違った。

 

「……兄上。あの首の傾け方、少しオーバーだったぞ。次はもっと『偶然感』を出せ」

 

「……注文が厳しいなぁ、ギル。でも、観客のあのキョトンとした顔……最高だったよ」

 

ジミナは満足げに笑い、影に消えた。 ギルガメッシュもまた、不敵な笑みを浮かべて観覧席へと戻る。

 

教団の介入がない、純粋な武の祭典。 だが、そこには二人の「最強の変態」が紛れ込んでいる。 一人は地を這う病弱な最強として。 一人は天から全てを見下ろす黄金の王として。

 

武神祭の歴史に、かつてないほどの「勘違い」と「戦慄」が刻まれようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。