最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

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第12話 武神祭②

「武神祭」——それは、この世界の猛者たちがその腕を競い合う、最高の晴れ舞台だ。 だが、僕にとっては違う。ここは「陰の実力者」として、世の中の常識を根底から揺るがし、観客を驚愕と困惑の渦に叩き込むための「聖域」なのだ。

 

僕、シド・カゲノーは今、かつてないほど充実した時間を過ごしていた。

 

予選の数日間。僕は「ジミナ・セーネン」というキャラクターを完璧に作り込むことに全てを注いだ。 重度の貧血を装った青白い顔色(魔力で毛細血管を少しだけ収縮させている)、不健康そうな隈と無精ひげ。口角は下がり、肌もくすんでいる。そして何より、ホームセンターのワゴンセールで売っていそうな「なまくら剣」。

 

「フッ、俺の出番か」

 

控え室からよろよろと出てくる僕を、他の選手たちはゴミを見るような目、あるいは憐れみの目で見送る。 これだ。これだよ。 この「誰も僕に期待していない」という空気。これが最高に心地いい。

 

「…………」

 

リングに上がると、対戦相手はいつも鼻で笑う。 「おいおい、死神に連れて行かれる前に俺が介錯してやろうか?」 なんて軽口を叩きながら、大振りな一撃を繰り出す。

 

そこからの僕のムーブは、自分でも惚れ惚れするほど「偶然」に満ちていた。 靴の紐が解けたふりをして屈み、頭上を剣が通過する。 くしゃみをした拍子に体がよろけ、出した拳が「たまたま」相手の鳩尾にめり込む。 相手が勝手に滑って転び、僕のなまくら剣が「たまたま」その喉元に置かれる。

 

「……しょ、勝者、ジミナ・セーネン!」

 

審判の困惑した声。観客の「え、今のは何? 運が良すぎない?」というざわめき。 僕はそれらを背中で受け止めながら、再びよろよろと、しかし内心ではスキップしたい気分で退場する。

 

(……ふふふ。計画は順調だ。このまま『なんか知らないけど勝ち進んでる運だけの男』として、観客のイライラと疑問をマックスまで溜め込み、準決勝あたりでその正体を――!)

 

「――兄上。相変わらず、薄汚い勝ち方をするものだな」

 

舞台裏の通路。黄金の輝きを放つ「目立ちすぎ」な男が、壁に寄りかかって僕を待っていた。 ギルガメッシュ。僕の弟であり、この世界で唯一、僕の「美学」を理解している男だ。

 

「……ギル。君、また観覧席で暴れてるだろ。さっきから『黄金の王様がワインをこぼして、隣の公爵が気絶した』なんて噂が流れてきてるよ」

 

僕はジミナの「死にかけボイス」のまま、小声で釘を刺す。 ギルガメッシュはフンと鼻で笑い、虚空から呼び出した黄金の杯を揺らした。

 

「雑種が(オレ)の視界を遮るのが悪い。……それより兄上。今の試合、三手目の回避だ。あれは『偶然』にしては美しすぎたぞ。もっと不格好に、そう……生まれたての小鹿のように震えながら避けるべきだった」

 

「……えぇ、厳しいなぁ。自分なりに工夫したんだけどな」

 

「王の眼は誤魔化せん。……まあよい。次はあの『アンネローゼ』という女が相手だろう? ベグアルタ帝国の七武剣……雑種の中では、それなりに『磨かれた石ころ』の部類だ。精々、彼女のプライドを粉々に砕いてやるがいい」

 

ギルガメッシュはそう言い残すと、黄金の粒子となって消えた。 あいつ、あんなに派手な移動法をしてたら目立ってしょうがないのに、誰も不審に思わないのが不思議だ。……あ、そうか。あいつ、蔵の中の「認識阻害」の宝具を常時発動させてるんだった。贅沢な魔力の使い方だな、全く。

 

大会も本戦へと近づき、会場のボルテージは上がっていた。 僕、ことジミナ・セーネンは、中庭のベンチで「今にも息絶えそうな表情」でパンを食べていた。

 

そこに、一人の女性が近づいてくる。 凛とした佇まい、鋭い眼光。ベグアルタ帝国の英雄、アンネローゼだ。

 

(……きた。これぞ実力者同士の『静かなる接触』!)

 

僕はわざとパンを喉に詰まらせたふりをして、激しくむせた。 「……ゴホッ! ゲホッ! ……あ、あの、何かご用でしょうか……?」

 

「……貴方、ジミナ・セーネンね。……貴方の試合、全て見せてもらったわ」

 

アンネローゼは僕を射抜くような視線で見つめる。 「……運が良い、と言われているようだけど。……私には、貴方がわざと『運』を演出しているように見える。……貴方、本当は何者なの?」

 

(……完璧だ。アンネローゼ、君は最高の読者だよ! そう、その『違和感』こそが、僕が君に与えたかった最高のギフトなんだ!)

 

僕はあえて視線を泳がせ、震える声で答えた。 「……俺の真の実力に気づくものが現れるとはな」

 

「……次の試合、私の全力をもって、貴方のその『仮面』を剥ぎ取ってみせる。……覚悟しておきなさい」

 

彼女は背を向け、颯爽と去っていった。 その後姿を見送りながら、僕は心の中でガッツポーズをした。

 

(よっしゃあああ! 『正体を見抜こうとする強敵』との対決フラグ、回収完了!)

 

満足感に浸りながら控え室に戻ろうとすると、またしても黄金の気配が僕を遮った。

 

「……兄上。あの女、貴様を『実力者』だと確信しているぞ。……面白くないな」

 

ギルガメッシュが、今度は豪華なソファ(浮遊している)に座って現れた。 「……ギル、君はどこからでも湧いてくるね」

 

「……フン。あのような小娘に手の内を見透かされるとは、兄上の演技もまだまだ甘いということだ。……どうだ? 次の試合、我が蔵から『ハデスの兜の原典』を貸してやろうか? 貴様がどれほど無様に動こうと、周囲には『神々しい演舞』に見えるという呪いの品だが」

 

「……それ、僕の目指してる方向と真逆だから! 僕は『弱そうなのに実は強い』がやりたいの! 『強そうなのに実は強い』じゃ普通すぎるでしょ!」

 

「……理解できんこだわりだな、相変わらず。……まあよい。……だが兄上。あのアンネローゼという雑種、(オレ)の観覧席まで来て『黄金の王、貴方はあの男の何を知っているの?』などと不遜な質問をしてきたぞ」

 

「……えっ、ギルのところに行ったの?」

 

「……ああ。……だから、教えてやった。『あれは(オレ)の庭に住まう、一匹の風変わりな蜘蛛だ』とな」

 

「……蜘蛛って。もうちょっと格好いい例えはなかったの?」

 

「……王の庭を自由に、かつ緻密な糸を張って歩き回る者……という意味だ。……感謝しろ」

 

ギルガメッシュは愉快そうに笑うと、再び夜の闇へ消えていった。 あいつ、確実に楽しんでるな。僕の「ごっこ遊び」を一番間近で観戦している特権を。

 

宿屋の窓から、夜の王都を見下ろす。 明日は、アンネローゼ戦。 彼女は間違いなく強い。この世界の「常識」の範囲内では、トップクラスだろう。

 

だが、彼女が見ているのは「実力者」としての僕ですらない。 僕が張り巡らせた「ジミナ」という幻影の、その表面に過ぎないのだ。

 

(……アンネローゼ。君が僕の『仮面』を剥ごうとする時、君が目にするのは更なる深い『闇』だ。……そして、その闇の奥で黄金の瞳をした弟が笑っているのを、君は知る由もない……)

 

僕はなまくら剣を丁寧に布で拭き、そっと鞘に収めた。 明日の舞台。 観客のブーイングが、絶叫に変わる瞬間。 そして、アイリス王女やアンネローゼの常識が崩壊する音。

 

それを想像するだけで、僕の魔力は心地よく波打つのだった。

 

「……さて。明日の朝食は、やっぱり冷えたスープと硬いパンにしよう。……病弱なジミナには、それが一番似合っているからね」

 

僕は静かに目を閉じ、黄金と漆黒が交差する、明日の「演出」を夢見るのだった。

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