最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

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第13話 武神祭③

武神祭本戦、会場のボルテージは最高潮に達していた。 その喧騒をどこか他人事のように見下ろす一画――王族や重要人物のみが許される特別観覧席。そこには、この世の理不尽を形にしたような光景が広がっていた。

 

「……ほう。ようやく『磨かれた石ころ』の出番か」

 

黄金の椅子を勝手に持ち込み、脚を組んで不遜に座る男。ギルガメッシュは、クリスタルの杯を傾けながら眼下のリングを見つめていた。その隣には、頭を抱えて溜息をつくアイリス・ミドガルの姿がある。

 

「……ギルガメッシュ。貴方、さっきからドエム公爵を睨むのはやめていただけませんか? 彼は我が校の友好国でもあるオリアナ王国の要人なのですよ」

 

アイリスが苦言を呈すると、ギルガメッシュは不機嫌そうに紅い瞳を動かした。視線の先には、これ見よがしに豪華な装束を纏い、慇懃無礼な笑みを浮かべる男、ドエム・ケツハットがいた。

 

「……フン、小娘。その『ドエム』とやら、名前からして救いようのない雑種ではないか。その卑俗な面、王の視界に入るだけで不快だ。……おい、ドエム。貴様のその安っぽい帽子、(オレ)の蔵にある『知恵を吸い取る呪いの冠の原典』と交換してやろうか? 貴様の空っぽの頭にはお似合いだぞ」

 

ドエムの顔が、一瞬にして怒りと困惑で引き攣る。 「……カゲノー家の……ギルガメッシュ殿、でしたかな。冗談が過ぎるようですな。……私はこれでも、王国の秩序を重んじる身。貴公のような『成り上がり』に侮辱される覚えはない」

 

「……成り上がり、だと?」 ギルガメッシュの周囲に、ピリリと空間を裂くような殺気が走る。 「……よかろう。貴様のその慢心、いつまで保てるか楽しみだ。……(オレ)の友が、これから貴様らの『常識』という安っぽい玩具を粉々に砕いてくれる。特等席で震えて待つがいい」

 

 

「――両者、前へ!」

 

審判の合図と共に、リングの上に二人の対照的な剣士が並んだ。 一人は、ベグアルタ帝国の誇る「七武剣」、アンネローゼ。その姿は美しく、研ぎ澄まされた一振りの名剣そのものだ。 対するは、ジミナ・セーネン。猫背で視線は泳ぎ、手にした剣はどこか曲がっているようにも見える。

 

(……きたきたきた! 観客のこの『勝敗は決まってる』と言いたげな冷めた視線! これこそが、陰の実力者の舞台装置だよ!)

 

ジミナは内心で歓喜に打ち震えていた。 「…」

 

「ジミナ、貴方の正体、この一戦で私が暴いてみせる」 アンネローゼが剣を構える。

彼女の放つ闘気は、会場の空気を一変させた。

 

「――始め!」

 

刹那、アンネローゼの姿が消えた。 超高速の踏み込み。帝国最高峰の剣技が、ジミナの首筋を狙って一閃される。

 

「――終わりよ!」

 

だが。 ジミナは圧倒的な速度でその剣筋をミリ単位で回避した。

 

「……なっ!?」

 

アンネローゼの追撃が続く。右、左、袈裟懸け。放たれる斬撃はどれも必殺の威力だが、ジミナはその全てを回避し続ける。

 

「……見事ですね。正直、今までの戦いは全て運による勝利だと思っていましたが…」 アイリスが眉をひそめる。彼女の目には、ジミナの動きが完璧に捉えられていた。

 

「……フハハ! 運だと? 貴様の目は飾りか、アイリス」 ギルガメッシュが嘲笑う。 「……見ろ。あの病弱な男の足運びを。一歩ごとに、あいつは空間の『最短距離』を定義し直している。……雑種がどれほど鋭く牙を剥こうと、虚空を噛むだけよ」

 

ドエム・ケツハットが鼻を鳴らす。 「……ギルガメッシュ殿、買い被りすぎですな。所詮は田舎の無名剣士。アンネローゼ殿が本気を出せば――」

 

「……黙れ、帽子男。貴様の薄汚い言葉で、あの至高の『喜劇』を汚すな」 ギルガメッシュは蔵から取り出した「黄金の林檎」を齧り、退屈そうに告げた。 「……もう終わるぞ。……やつが、飽き始めた」

 

リングの上では、アンネローゼが焦燥に駆られていた。 (……当たらない。なぜ!? 確実に捉えているはずなのに、吸い込まれるように空を切らされる!)

 

彼女は全魔力を解放し、奥義の構えに入る。 「(……やはりあなたの強さはその圧倒的な速さ!!だったら、足を潰せば!)」

 

視認不可能な一閃。 会場が歓声に包まれる中、ジミナは……ため息をついた。

 

アンネローゼの攻撃は確かにジミナを捉えたと思われた。しかし次の瞬間ー

 

「残像だ」

 

アンネローゼが空中に吹き飛ばされる。さらに空中で追撃を喰らい、落下する。

 

「(今の攻撃に魔力が乗っていたら、私は確実に死んでいた)」

 

「認めるわジミナ。あなたは強い、理不尽なほどに」

 

アンネローゼが抜刀の構えをとる。

 

「なるほど、カウンターか。たしかに、それしかあるまい」ドエムがそう呟く。実際その言葉は核心をついていた。速度、攻撃力ともに圧倒的な差がある以上アンネローゼにはカウンターしか残されていなかった。しかし、そこで英雄王(ギルガメッシュ)はまたも余計な茶々を入れる。

 

「ハッ、カウンターだと。やはり雑種らしい惨めな選択よな」

 

「どういうことですか?」

「カウンターが成立するのは、『ある程度』の実力差までだ」

 

次の瞬間、ジミナが動く。アンネローゼはそれをギリギリで見切り、カウンターを放つ。

 

「(殺った!)」

 

しかし、ジミナはそれすらも見切り、ギリギリで停止、追撃を入れる。

 

「(あぁジミナ、あなたの剣はなんてー)」

 

「……勝者、ジミナ・セーネン!!」

 

会場に爆発的なブーイングと、一部の戦慄が広がった。

 

アイリスは言葉を失っていた。

 

「……さて。余興としては上出来だったな」 ギルガメッシュが悠然と立ち上がる。黄金の椅子は霧散し、彼の背後には再び、不吉なまでの黄金の波紋が蠢いていた。

 

ドエム・ケツハットは、震える手で自身の帽子を押さえていた。 「……ありえんな。これはアイリス王女も少しばかり危ういのでは?」

 

「今のが彼の全力だとしたら、私の勝利は揺るぎません」

「それは心強い」

 

「……ドエム。貴様のその安っぽい策謀、精々今のうちに温めておくがいい」 ギルガメッシュがドエムの横を通り過ぎる際、耳元で氷のように冷たい声を落とす。 「……祝祭の終わりには、黄金の火で貴様らの国ごと焼き払ってやってもよいのだぞ? ……王の気分次第ではな」

 

「……なっ……貴様……!」

 

ギルガメッシュはアイリスに一瞥もくれず、黄金の粒子となって消えた。

 

試合後、人気のいない通路で。 「……ふぅ。アンネローゼ、いいリアクションだったなぁ。あのアドレナリンが切れた瞬間の絶望した顔……100点だよ」 ジミナが満足げに独り言を言っていると、壁の影からギルガメッシュが現れた。

 

「……兄上。このタイミングで力を見せ始めるのか?」

 

「……いや本当はもうちょょっと後の予定だったんだけどね。アンネローゼが思いの外強かったんだよ」

 

「……フン、貴様に認められたのならあの雑種も本望であろうな。……だが、あの帽子男……ドエムと言ったか。あ奴、裏で何やらゴソゴソと動いているぞ。王の庭に毒を撒く不届き者だ。……どうする?(オレ)が今夜、ヴィマーナで屋敷ごと消してやろうか?」

 

「……ダメだよ、ギル! 彼には『王の座を狙ったローズ会長に討ち取られる』っていう大事な役目があるんだから! 奪っちゃダメ!」

 

「……やれやれ。……よかろう。……だが、われもわれでで、少しばかり『王の裁き』とやらを見せてやるつもりだ。……武神祭の決勝戦、楽しみにしていろ」

 

二人の最強の「設定厨」は、互いに不敵な笑みを浮かべ、それぞれの闇と光の中へと消えていった。

 

武神祭は、いよいよ決勝へ。 それは、偽りの剣士ジミナと、王国最強のアイリス、そして空を統べる黄金の王が交錯する、伝説の幕開けとなる。

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