「……
黄金のソファから立ち上がった
ドエム・ケツハットの顔が、期待と恐怖の混ざり合った卑俗な歪みを見せる。
「お、おお! ギルガメッシュ殿! 貴公がやってくれるか! さあ、その黄金の力で不遜な影をなぎ払え!」
「……黙れ、雑種。貴様に命じられた覚えはない」
眼下では、シャドウ――兄上が、漆黒のコートを風になびかせ、冷徹な仮面の奥から
(……ふふふ。いいよ、ギル。やっぱり最後はこうこなくっちゃ。最強と最強がぶつかり合い、世界が震える。……これぞ『陰の実力者』のクライマックスだ!)
兄上の瞳には、狂気にも似た歓喜が宿っている。
背後の空間が波打ち、数百、数千の黄金の波紋がスタジアムの夜空を埋め尽くす。
「シャドウよ。貴様の闇、この王の光でどこまで耐えられるか……試してやろう。さぁ、神話に残る一戦、今ここに始めようか!!」
ドォォォォォォォォォォォォン!!
スタジアムを揺るがす爆発。土煙が舞い上がるが、
「……遅いな、黄金の王。その程度では、我の影をかすめることすらできん」
シャドウが動いた。
一瞬。まさに一瞬だった。
漆黒の刀が、の首元へと迫る。
ギィィィィィィィン!!
「フハハハハハハハ! 良いぞ、雑種! その太刀筋、蔵にある名剣たちも震えて喜んでいるぞ!」
「……戯言を」
二人の衝突は、もはや凡人の目には捉えられない領域へと突入していた。
空中で交錯する黄金と漆黒。一撃ごとに空間が歪み、スタジアムの石壁が塵へと変わっていく。
シャドウの剣が変幻自在に形を変える。
ある時は巨大な鎌、ある時は見えない針。シドが得意とする「認識の阻害」と「錯覚の演出」が、
「見えているか? この影の底に沈む絶望を」
「……フン、小癪な。王の眼を欺けると思うなよ!」
「――出よ、
七枚の光の盾が展開され、シャドウの不可視の斬撃をすべて跳ね返す。同時に、
「――燃え尽きよ。
スタジアム全体を、重力を無視した黄金の炎が焼き尽くす。これは単なる魔法ではない。蔵にある「原典」が書き換える世界の法則そのものだ。
「……っ。流石は英雄王、派手にやってくれる!」
シャドウは炎の中を、影を纏って悠然と歩く。
(……最高だ。これだよ、これ! 全てを破壊し尽くすライバルとの最終決戦! 僕のアイ・アム・アトミック、どこで撃とうかな……!)
兄上のワクワクが伝わってくる。
「……黄金の王よ。貴様の輝き、ここで終わらせてやる」
シャドウが刀を鞘に収め、腰を深く落とした。
周囲の魔力が、目に見えるほどの漆黒の渦となって彼の手元に集束していく。
空気が凍りつき、スタジアム中の人々が、死の予感に震え上がった。
「……よかろう。ならば
「宝物庫の鍵を開けてやろう」
円柱状の刃が三段に分かれ、それぞれが逆方向に回転を始める。
赤い稲妻が走り、空間が、世界そのものが、その圧力に耐えかねて悲鳴を上げた。
「原子は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。死して拝せよ!」
「アイ・アム」
「――
「――アトミック!!」
漆黒の魔力放射と、空間を切断する黄金の旋風。
二つの最強の力が、スタジアムの中央で衝突した。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
爆音すら聞こえない。あまりのエネルギー量に、世界の音が消えた。
白光がすべてを飲み込み、ドエムも、アイリスも、ローズも、ただその光を呆然と見守るしかなかった。
光が収まった時。
スタジアムの中央には、深さ数十メートルにも及ぶ巨大なクレーターが穿たれていた。
目の前には、ボロボロのコートを翻しながらも、不敵に笑うシャドウの姿。
「……フッ。勝負は預けておこう、黄金の王。……今夜の戦い、悪くなかった」
「……フン。逃げるか、雑種。……だが、今日という日は、この世界の歴史に刻まれた。黄金の王と、漆黒の影……真の支配者が誰であるかをな」
シャドウはローズの腰を抱き寄せ、闇の中へと消えていった。
「……顔を上げろ。今宵、貴様の運命は書き換えられた」
その言葉を残し、影は完全に消滅した。
われは黄金の船『ヴィマーナ』を呼び出し、ゆっくりと座乗した。
眼下では、ドエムが腰を抜かし、アイリスが震える手で剣を握りしめている。
「……さて。雑種ども。祝祭は終わりだ。……精々、明日からの『新世界』を怯えて待つがいい」
ヴィマーナは爆音と共に加速し、夜空へと消えていった。
あとに残されたのは、伝説の戦いを目撃した人々の、消えない震えだけだった。