最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

2 / 17
第2話 2人の探求者

カゲノー男爵家に次男が誕生した際、父である男爵は酷く頭を悩ませたという。 長女クレア、長男シド。それに続く次男に、どのような名を授けるべきか。

 

その時、生後間もない赤ん坊が、まるで天を指し示すかのように小さな手を掲げた。その瞳は、赤ん坊特有の曖昧なものではなく、すべてを見透かすような冷徹な紅。 男爵は直感した。「この子は、人の枠に収まる器ではない」と。 そうして授けられた名が、ギルガメッシュ・カゲノーであった。

 

それから8年。 (オレ)、ギルガメッシュは、豪華絢爛な(と我蔵から取り出した魔導具で偽装した)自室の長椅子に深く腰掛け、優雅に葡萄酒――に見える、蔵に眠っていた最高級の葡萄ジュースを傾けていた。

 

「……ふむ。8歳か。そろそろ『王』としての格を対外的に示しても良い頃合いだな」

 

我の脳内にある『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』は、日を追うごとにその解像度を増している。 かつて神に言われた通り、出力自体はこの世界の我の魔力に依存しているが、中身の「質」は一切妥協がない。 試しに指先をパチンと鳴らす。背後の空間が黄金に波打ち、一本の剣の柄が突き出した。

 

それは、ただの鉄の剣ではない。 後に数多の伝説を生み出すことになる「原典」の一振り。魔力を通さずとも、そこに存在するだけで周囲の空気を切り裂くほどの神気。

 

「雑種どもに見せるには惜しいが……まあ、露払いにはこれくらいが妥当か」

 

(オレ)は満足げに頷いた。 我の目的は、この世界を支配することではない。そんなものは、蔵の鍵を持っている時点で達成されているようなものだ。 (オレ)の真の目的は、この二度目の人生において、完璧なる「黄金の王」を演じきることにある。

 

カゲノー家の裏庭。そこは二人の「狂人」が互いの理想を研鑽する聖域となっていた。

 

10歳になった兄、シド・カゲノーは、今日も今日とて「モブ」としての修行に励んでいる。 パッと見れば、どこにでもいる「魔力の少ない、才能のない凡才」だ。だが、我の『全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)』の端くれが、彼の本質を見抜いていた。

 

(……相変わらず、気味の悪いほど魔力を凝縮させてやがる)

 

シドは木刀を振り下ろしながら、時折こちらをチラチラと見てくる。 その目は「僕の修行、陰の実力者っぽいでしょ?」と自慢げだ。

 

「兄上。相変わらず、泥臭い修行を続けておられるのだな」

 

(オレ)は豪華な椅子に座ったまま、不敵に笑いかける。 シドは木刀を止め、拭いもしない汗をそのままに、フッと口角を上げた。

 

「……ギル。君こそ、そんな椅子に座ってばかりで、魔剣士としての修行はいいのかい? 剣も握らない貴族なんて、すぐに足元を掬われるよ」

 

シドの言葉は、表向きは弟を案じる兄のものだ。だが、その裏にある真意をわれは知っている。 彼は(オレ)を「最強のライバル役」として高く評価しているのだ。

 

(ククク……『足元を掬われる』か。いいセリフだ、シド。王にそんな言葉を吐けるのはお前くらいなものだぞ)

(オレ)はわざとらしく鼻で笑い、空間をわずかに歪ませた。 黄金の波紋。そこから、一本の黄金の林檎を取り出す。

 

「案ずるな、兄上。王とは、ただ座しているだけで世界を統べるもの。剣を振るうなどという雑作は、臣下に任せればよい。……まあ、我が庭を荒らす不届き者がいれば、その時は我が財で消し飛ばすまでだがな」

 

林檎を一口かじる。その瞬間、溢れ出す神代の芳醇な魔力が周囲を支配した。 シドの目が、一瞬だけ鋭く細められたのを(オレ)は見逃さなかった。

 

(「……今の演出、すごいな。あの林檎、ただの魔力回復薬じゃない。あんな高密度なエフェクト、一体どうやって作ってるんだ? 弟のくせに、小道具のクオリティが高すぎる……! 僕も負けてられない、スライムの研究を急がないと!」)

 

シドの内心の叫びが聞こえてくるようだ。 彼はその後、いつもより3割増しのスピードで素振りを再開した。 お互いに、相手が「自分と同じ、理想のムーブのために命を懸けている変態」であると確信し、その設定の作り込みを称賛し合っている。この奇妙な信頼関係こそ、カゲノー兄弟の真髄だった。

 

その夜。(オレ)はカゲノー男爵領の森の奥深くへと足を運んでいた。 8歳になり、魔力量も増えてきた。そろそろ『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から放つ弾幕の、「同時展開数」のテストを行う必要がある。

 

「さて……雑種どもの掃除でもするか」

 

最近、この領地付近には「ディアボロス教団」とかいう、(オレ)の庭を汚すハエどもがうろついているらしい。 兄上も夜な夜な彼らを狩っているようだが、王として、自分の領土で好き勝手させるわけにはいかない。

 

森の開けた場所に出ると、そこには教団の略奪者たちが拠点を構えていた。 「おい、あんなところに子供が……」 「金髪に赤い目……カゲノー家のガキか?」

 

下卑た笑いを浮かべて近づいてくる男たち。 (オレ)は一歩も動かず、ただ腕を組んで彼らを見下ろした。

 

「下りてこい、雑種。王の前に立つことを、誰が許した?」

 

「はあ? 何言ってやがるこのガキ――」

 

男が剣を抜こうとした瞬間、(オレ)の背後の空間が眩い黄金に染まった。 一つ、二つ……十、二十。 闇夜を照らす黄金の波紋。そこから突き出しているのは、どれ一つとして同じ形のない、洗練された「原典」の武具たち。

 

「……な、なんだ、これは……!? アーティファクト……か!?」

 

「アーティファクト? フン、そんな現代の紛い物と一緒にされては困るな」

 

(オレ)が指先を、チェスの駒を動かすかのように軽く振った。

 

「――死して、我が蔵の肥やしとなれ」

 

シュバッ!!

 

空気を切り裂く音と共に、数本の宝具が射出された。 それは魔法ではない。ただの「投擲」だ。しかし、一振りが城門を粉砕するほどの質量と神気を持った宝具の弾丸。 教団の兵士たちは、悲鳴を上げる暇さえなかった。 地面は抉れ、木々はなぎ倒され、かつての拠点は瞬時にして「黄金の墓標」へと変わる。

 

「……ふむ。同時展開20。今の出力ではこの程度か。まあ、掃除としては十分だな」

 

(オレ)は満足げに鼻を鳴らし、散らばった宝具を蔵へと回収した。 は、使っても勝手に蔵に戻る。実にお財布に優しい仕様だ。

 

その時、近くの木々の影が不自然に揺れた。

 

「(……凄まじい。魔法という概念を超えている。あれは……『財力』を物理現象に変換しているのか?)」

 

聞き覚えのある、しかし極限まで「格好つけた」低い声。 シドだ。おそらく、彼も「陰の実力者」としてのパトロール中に、我のド派手な攻撃を目撃したのだろう。

 

はわざと気づかないフリをして、夜空を見上げ、月を背にマント(をイメージした黄金の光の残滓)を翻した。

 

「……退屈だな。この世界に、我を愉しませる宝はもう残っていないのか?」

 

我ながら、100点満点の王様台詞だ。 シドは木陰で、「あのアドリブ、今度パクろう……」とノートにメモでも取っていそうな気配を見せていた。

 

黄金の王と、陰の実力者。 二人の少年の「ごっこ遊び」は、この世界の運命を確実に、そして最悪な方向に塗り替え始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。