カゲノー男爵家に次男が誕生した際、父である男爵は酷く頭を悩ませたという。 長女クレア、長男シド。それに続く次男に、どのような名を授けるべきか。
その時、生後間もない赤ん坊が、まるで天を指し示すかのように小さな手を掲げた。その瞳は、赤ん坊特有の曖昧なものではなく、すべてを見透かすような冷徹な紅。 男爵は直感した。「この子は、人の枠に収まる器ではない」と。 そうして授けられた名が、ギルガメッシュ・カゲノーであった。
それから8年。
「……ふむ。8歳か。そろそろ『王』としての格を対外的に示しても良い頃合いだな」
我の脳内にある『
それは、ただの鉄の剣ではない。 後に数多の伝説を生み出すことになる「原典」の一振り。魔力を通さずとも、そこに存在するだけで周囲の空気を切り裂くほどの神気。
「雑種どもに見せるには惜しいが……まあ、露払いにはこれくらいが妥当か」
カゲノー家の裏庭。そこは二人の「狂人」が互いの理想を研鑽する聖域となっていた。
10歳になった兄、シド・カゲノーは、今日も今日とて「モブ」としての修行に励んでいる。 パッと見れば、どこにでもいる「魔力の少ない、才能のない凡才」だ。だが、我の『
(……相変わらず、気味の悪いほど魔力を凝縮させてやがる)
シドは木刀を振り下ろしながら、時折こちらをチラチラと見てくる。 その目は「僕の修行、陰の実力者っぽいでしょ?」と自慢げだ。
「兄上。相変わらず、泥臭い修行を続けておられるのだな」
「……ギル。君こそ、そんな椅子に座ってばかりで、魔剣士としての修行はいいのかい? 剣も握らない貴族なんて、すぐに足元を掬われるよ」
シドの言葉は、表向きは弟を案じる兄のものだ。だが、その裏にある真意をわれは知っている。 彼は
(ククク……『足元を掬われる』か。いいセリフだ、シド。王にそんな言葉を吐けるのはお前くらいなものだぞ)
「案ずるな、兄上。王とは、ただ座しているだけで世界を統べるもの。剣を振るうなどという雑作は、臣下に任せればよい。……まあ、我が庭を荒らす不届き者がいれば、その時は我が財で消し飛ばすまでだがな」
林檎を一口かじる。その瞬間、溢れ出す神代の芳醇な魔力が周囲を支配した。 シドの目が、一瞬だけ鋭く細められたのを
(「……今の演出、すごいな。あの林檎、ただの魔力回復薬じゃない。あんな高密度なエフェクト、一体どうやって作ってるんだ? 弟のくせに、小道具のクオリティが高すぎる……! 僕も負けてられない、スライムの研究を急がないと!」)
シドの内心の叫びが聞こえてくるようだ。 彼はその後、いつもより3割増しのスピードで素振りを再開した。 お互いに、相手が「自分と同じ、理想のムーブのために命を懸けている変態」であると確信し、その設定の作り込みを称賛し合っている。この奇妙な信頼関係こそ、カゲノー兄弟の真髄だった。
その夜。
「さて……雑種どもの掃除でもするか」
最近、この領地付近には「ディアボロス教団」とかいう、
森の開けた場所に出ると、そこには教団の略奪者たちが拠点を構えていた。 「おい、あんなところに子供が……」 「金髪に赤い目……カゲノー家のガキか?」
下卑た笑いを浮かべて近づいてくる男たち。
「下りてこい、雑種。王の前に立つことを、誰が許した?」
「はあ? 何言ってやがるこのガキ――」
男が剣を抜こうとした瞬間、
「……な、なんだ、これは……!? アーティファクト……か!?」
「アーティファクト? フン、そんな現代の紛い物と一緒にされては困るな」
「――死して、我が蔵の肥やしとなれ」
シュバッ!!
空気を切り裂く音と共に、数本の宝具が射出された。 それは魔法ではない。ただの「投擲」だ。しかし、一振りが城門を粉砕するほどの質量と神気を持った宝具の弾丸。 教団の兵士たちは、悲鳴を上げる暇さえなかった。 地面は抉れ、木々はなぎ倒され、かつての拠点は瞬時にして「黄金の墓標」へと変わる。
「……ふむ。同時展開20。今の出力ではこの程度か。まあ、掃除としては十分だな」
その時、近くの木々の影が不自然に揺れた。
「(……凄まじい。魔法という概念を超えている。あれは……『財力』を物理現象に変換しているのか?)」
聞き覚えのある、しかし極限まで「格好つけた」低い声。 シドだ。おそらく、彼も「陰の実力者」としてのパトロール中に、我のド派手な攻撃を目撃したのだろう。
はわざと気づかないフリをして、夜空を見上げ、月を背にマント(をイメージした黄金の光の残滓)を翻した。
「……退屈だな。この世界に、我を愉しませる宝はもう残っていないのか?」
我ながら、100点満点の王様台詞だ。 シドは木陰で、「あのアドリブ、今度パクろう……」とノートにメモでも取っていそうな気配を見せていた。
黄金の王と、陰の実力者。 二人の少年の「ごっこ遊び」は、この世界の運命を確実に、そして最悪な方向に塗り替え始めていた。