カゲノー男爵領の果て、草木も生えぬ剥き出しの岩場。 今宵、この場所は世界の命運を分かつ「決戦の地」へと変貌していた。
月光が照らし出すのは、二人の少年。 一人は、漆黒のスライムスーツを纏い、闇に溶けるような「陰の実力者」シド・カゲノー。 もう一人は、闇を拒絶するように黄金の光を放つ、人類最古の王ギルガメッシュ。
二人がここにいる理由は、単純だった。 「……兄上。いや、今は『陰』を騙る者と呼ぶべきか」 ギルガメッシュが、紅い瞳に冷徹な光を宿して口を開く。 「貴様のその演技、その執念。見過ごすには少々、度が過ぎている。
対するシドは、顔をフードで隠しながらも、内心で狂喜乱舞していた。 (きたきたきた……! 弟からの決闘の申し込み! しかもこのセリフ、このシチュエーション! まさか実の弟が、僕が一番やりたかった『正体不明の強敵』のポジションを完璧にこなしてくれるなんて!)
シドはあえて低く、地を這うような声で応じる。 「……フッ。王、だと? 世界を統べる光の覇者が、泥にまみれた『陰』に何用だ。……望み通り、貴様のその傲慢、僕の闇が飲み干してやろう!」
(よし、完璧だ! 今の僕、最高に格好いい!) 二人の内心は「最高の設定遊び」への期待で満ちていたが、その肉体が練り上げる魔力は、冗談抜きで世界を滅ぼしかねない濃度に達していた。
「――不遜なり。雑種が王の顔を覗き込もうとはな」 ギルガメッシュが指先を鳴らす。 刹那、夜空に無数の黄金の波紋が展開された。
『
ヒュンッ、と空気を切り裂く音と共に、数十振りの伝説級の武具が射出される。 それらはただの飛び道具ではない。一つ一つが神代の魔力を秘めた「原典」であり、着弾と同時に小規模な爆発を引き起こす質量兵器だ。
「……甘いな」 シドの体が、残像を残して消える。 彼はスライムスーツの特性を最大限に活かし、最小限の動きで宝具の雨を回避していく。 「その程度か、王の力は!」
シドが足元から魔力を爆発させ、一気にギルガメッシュの懐へと飛び込む。 手にするのは、スライムで作られた漆黒の刀。 「『アイ・アム――』」 「させんよ」
ギルガメッシュは手近な波紋から、一本の無骨な戦斧を取り出し、シドの斬撃を真っ向から受け止める。 ドォォォォォン!! 岩場が震え、衝撃波で周囲の岩が粉々に砕け散った。
「ほう。
我が蔵の武具を、その紛い物の剣で受け止めるか。……シド、お前という男は、どこまで
二人は至近距離で視線をぶつけ合う。 (やばい、今の受け止め方めちゃくちゃ格好いいな、弟!) (兄上、そのスライムの使いこなし……本物の変態だ!)
互いへのリスペクトが、戦いをさらに加速させる。
戦いはさらに熾烈を極めていった。 ギルガメッシュは展開する波紋の数を50の大台に乗せ、空間そのものを宝具で埋め尽くす。 対するシドは、魔力密度を極限まで高め、もはや肉眼では捉えきれない超高速移動でそれらを捌き続ける。
「認めよう。貴様は、ただの雑種ではない!」 ギルガメッシュの叫びと共に、波紋の中から『
「僕を捕らえたければ、銀河の果てまで鎖を伸ばすんだね!」 シドが空中で魔力を収束させる。まだ「アトミック」を完成させる前の、全魔力を一点に集中させた刺突。 「喰らえ……!」
ギルガメッシュの紅い瞳が、悦喜に細められた。 「よかろう。ならば
ギルガメッシュは蔵の奥深く、まだ完全には制御しきれていない「乖離剣」に手をかけようとしたが、今の肉体ではまだ早すぎると判断し、代わりに『
ドカァァァァァァァァァァァァン!!
夜が昼に変わったかのような錯覚を起こすほどの閃光。 爆風が収まった後、そこにはボロボロになった二人の少年が、互いの武器を相手の喉元に突きつけたまま、静止していた。
ギルガメッシュの黄金の甲冑は砕け、シドのスライムスーツも剥がれ落ちている。 だが、二人の顔には、これ以上ないほどの晴れやかな笑みが浮かんでいた。
「……ククッ、ハハハハハ!」 先に笑い出したのは、ギルガメッシュだった。 彼は突きつけていた剣を消し、大の字に地面に寝転がった。 「……引き分け、か。まさか、この我と並び立つ者が、こんな田舎の男爵家にいたとはな」
シドもまた、漆黒の刀を霧散させ、肩で息をしながら座り込む。 「……ふぅ。……ギル、君は本当に『完璧』だ。その傲慢さも、その力も。僕が見てきた中で、君こそが最高の『ライバル』だよ」
ギルガメッシュは天を仰ぐ。その脳裏に、前世の記憶――友と戦い、語り合った「あの王」の姿が重なる。 「シド。
その言葉は、演技を超えた本心だった。 シドもまた、少し照れ臭そうに鼻を擦る。 「……そう。なら、友として一つ、提案があるんだけど」
シドは立ち上がり、芝居がかった動作で手を差し伸べた。 「僕たちは今、世界を裏から操る教団と戦う組織を作っている。……シャドウガーデン。君も、そこに来ないか?」
ギルガメッシュはフッと笑い、その手を取らずに自力で立ち上がった。 「……『陰』の組織か。王であるこの
「だが、貴様と同格の『盟友』として、共にこの庭を掃除してやるというのなら……悪くない。……
(よっしゃあああ! 弟ゲット!) シドは内心でガッツポーズをした。
数日後。 シャドウガーデンの本拠地。そこには、アルファをはじめとする七陰たちが集まっていた。 「シャドウ様、新しいメンバーを連れてこられたと聞きましたが……」 アルファの言葉が途切れる。
奥から現れたのは、シャドウと同じ……いや、それ以上に圧倒的な存在感を放つ少年だった。 漆黒の組織にあって、彼は敢えて「黄金」を纏っていた。 Fateの世界で見た、あの黄金の甲冑。そして、腰の辺りからは赤色の豪奢なマントを羽織っている。
「名乗る必要はない。
シャドウは深く椅子に腰掛け、脚を組んで告げる。 「……彼は、僕の半身。闇を照らす黄金の王だ。今日から彼は、この組織において僕と同格の権限を持つ。……いいな?」
アルファたちは困惑しつつも、ギルガメッシュから漏れ出す「王の器」に抗えず、深く膝をついた。 「……御意。黄金の王、ギルガメッシュ様に敬意を」
ギルガメッシュは満足げに頷き、虚空から黄金の椅子を取り出して、シャドウの隣に並べた。 「フン。雑種ども、精々
こうして、シャドウガーデンに「黄金の王」が加わった。 漆黒の闇と、黄金の光。 二人の少年の「究極のごっこ遊び」が、ついに世界規模の組織を動かし始めた。
この時のギルガメッシュは乖離剣が使えないどころかFakeで見せたように空一面を宝物庫で覆い尽くすなんていう芸当はできません