シャドウガーデンの本拠地、アレクサンドリア。 古の英知が眠るこの地に、漆黒のスライムスーツを纏った乙女たちの悲鳴……もとい、歓喜の叫びが響き渡っていた。
「……遅い。遅すぎるぞ、雑種。貴様らの目は節穴か?」
庭園の中央。黄金の椅子に深く腰掛け、不遜に足を組むギルガメッシュが、紅い瞳で彼女たちを見下ろす。 彼の背後には、数え切れないほどの黄金の波紋――『
「くっ……! はぁ、はぁ……!」 剣を構え、膝をついているのは、七陰の第一席・アルファだ。彼女の美しい金髪は乱れ、スライムスーツの端々には焦げたような跡がある。
ギルガメッシュが指先をわずかに動かす。 その瞬間、波紋から放たれたのは、現代の魔剣士が一生をかけても拝めないような「原典」の槍だった。
「防いでみせろ。王の蔵にある『なまくら』の一振りだ」 ドシュッ!! 空気を切り裂き、音速で迫る槍。アルファは全魔力を剣に込め、紙一重でそれを弾き飛ばす。しかし、着弾の衝撃だけで周囲の地面はクレーター状に爆ぜた。
「……素晴らしい、さすがは、ギルガメッシュ様。ですが、次こそは……!」 「フン、威勢だけは良い。ベータ! 貴様は先程から筆を動かしてばかりだ。死にたいのか?」 「ひゃぅっ!? い、いえ! ギルガメッシュ様のあまりの神々しさを記録に残さねばと……ああっ、また新しい宝具が!」
ギルガメッシュの特訓は、シドの「実戦形式」とは異なり、圧倒的な物量と質による「強制的な限界突破」だった。 彼は蔵の中から、彼女たちの属性や弱点に合わせた「あつらえ向きの宝具」を選び出し、それを容赦なく浴びせる。 イプシロンには魔力制御を狂わせる音響兵器、デルタにはどれだけ暴れても壊れない神代の拘束具。
「シャドウが貴様らに陰の世界での歩き方を教えたのなら、
その傲岸不遜な態度。だが、彼女たちは知っていた。 ギルガメッシュが放つ宝具は、どれも彼女たちの成長を促すための絶妙な手加減、彼に言わせれば『王の慈悲』が加えられていることを。 そして何より、彼がシャドウと並び立ち、対等に言葉を交わす唯一の存在であることを。
特訓の合間、あるいは月の沈む頃。 ギルガメッシュとシドは、誰にも邪魔されない場所で剣を交えていた。 あの日、荒野で引き分けて以来、二人の「決闘」はカゲノー兄弟の日課となっていた。
「……今日の演出、10点満点中8点ってところかな、ギル」 漆黒の刀を構え、不敵に笑うシド。 「フン、評価を口にするか。貴様のその薄汚いスライムの粘り気、今日こそ黄金の炎で焼き尽くしてやろう」
二人の衝突に、もはや言葉はいらなかった。 ギルガメッシュは蔵を開き、原典の魔剣を二振り、両手に取る。 シドは魔力を極限まで圧縮し、漆黒の線を大気に描く。
キンッ、キンッ、キンッ!! 火花が散り、次元が歪む。 二人の戦いは、もはや七陰ですら視認不可能な領域に達していた。 ギルガメッシュが宝具を弾丸として放てば、シドはそれを足場にして空を駆ける。 シドが「アイ・アム――」と奥義の予備動作に入れば、ギルガメッシュは『
(……最高だ。やっぱりギルと戦うのが一番楽しい) シドは内心で、この「最強のライバル設定」を噛み締めていた。 弟がギルガメッシュとして完璧な「王」を演じてくれるおかげで、自分の「陰の実力者」ムーブにも深みが出る。
(兄上……。貴様のその執念、やはり侮れん) ギルガメッシュもまた、目の前の「狂人」との戦いに、前世でも味わえなかったような魂の震えを感じていた。 『
「――そこまでだ」 二人の武器が、再び互いの急所を指した状態で止まる。 「……また引き分けか。貴様という男は、どこまで
二人は武器を収め、肩を並べて夜空を見上げる。 そこには、自分たちがこれから塗り替えていく、広大な世界が広がっていた。
その様子を、遠くから見つめる影があった。 アルファと、七陰の面々だ。
「……あの方たちの領域には、誰も踏み込めない」 アルファがポツリと漏らす。 「シャドウ様と、ギルガメッシュ様。漆黒の闇と、黄金の光。……お二人が揃っている限り、シャドウガーデンに不可能はありません」
「ねぇアルファ様。ギルガメッシュ様が仰っていた『蔵の鍵』……あれ、いつか私たちも中を見せてもらえるのかしら?」 ベータが期待に胸を膨らませて尋ねる。 「……それは、私たちが『雑種』を卒業した時でしょうね」
彼女たちの目に、迷いはなかった。 シドが与えてくれた「目的」と、ギルガメッシュが与えてくれた「誇り」。 二つの最強に導かれ、少女たちはさらなる高みへと駆け上がっていく。
一方、その頃。 ディアボロス教団の秘密基地では、一通の報告書が震える手で握られていた。 『報告。シャドウガーデンに、新たな最高幹部を確認。全身を黄金の甲冑で包み、無数のアーティファクトを雨のごとく降らせる怪物。名は――ギルガメッシュ』
「黄金の、王……だと……?」
教団の絶望は、まだ始まったばかりだった。