カゲノー男爵領での日々は、瞬く間に過ぎ去った。 兄・シドが15歳になり、王都のミドガル魔剣士学園へ入学する時期。通常であれば、2歳年下の弟である我――ギルガメッシュはあと2年待たねばならない。
だが、王に「待て」が通用するはずもなかった。
「……ふむ。たかだか2年の歳月、我が財の力で埋めるなど造作もないこと」
「……完璧だ。これならば、雑種どもに混じっても見劣りすまい」
鏡に映るのは、逆立った金髪と、燃えるような紅い瞳。そして、少年から青年へと脱皮した、神話の英雄そのものの肉体。 さらに
「ギル……君、また設定を盛りすぎじゃない? 飛び級の天才留学生なんて、目立ちすぎなんじゃないかい?」 隣で、パッとしない「モブ顔」を完璧に作り込んだシドが溜息をつく。
「フン、兄上。影は光があってこそ濃くなるもの。
「……あはは、それもそうだね。じゃあ、学園でもよろしく、ギルガメッシュ『先輩』」
こうして、史上最も傲慢な「新入生」と、史上最も影の薄い「モブ」が、王都へと足を踏み入れた。
ミドガル魔剣士学園の入学式。 そこは、この国のエリートたちが集う華やかな舞台だ。だが、その華やかさは、一人の男の登場によって完全に塗り替えられた。
「……何だ、あの男は」 「カゲノー男爵家の親族? 嘘でしょう、あのオーラ……」
生徒たちの視線を一身に浴びながら、
「雑種どもが。王と同じ空気を吸えることを光栄に思え」
「……あ、あの! 貴方が噂の特待生、ギルガメッシュ様ですか?」
声をかけてきたのは、数人の女子生徒たちだ。彼女たちの目は、憧れと、あまりの格好良さへの恐怖で潤んでいる。
「……許可なく
「キャー!!」という悲鳴と共に走り去る女子生徒たち。 (……よし。100点だ。これぞ『学園に君臨する孤独な王』のムーブ) 内心でガッツポーズをしていると、遠くの校舎の陰で、シドが親指を立てて「いい演出だ!」と合図を送っていた。
そんな
「……貴方が、カゲノー家の『特別枠』ね。ずいぶんと不遜な態度じゃない」
アレクシアは不機嫌そうに
「王……? 貴方、自分が何を言っているのか分かっているの? 私はこの国の王女よ」
「王女だと? フン、笑わせるな。この地上において、王と呼べるのは唯一人。……貴様が見ている、この
アレクシアの顔が怒りで赤くなる。 「……面白いわ。その口の利き方、その傲慢さ……ただのハッタリかどうか、試してあげる」
彼女が腰の剣に手をかけた瞬間、我の背後の空間が黄金に波打った。 一つ、二つの「槍」の先端が、彼女の喉元数センチの場所に突きつけられる。
「……動くな、雑種。次の一歩は、貴様の命の終焉だ」
学園全体が凍りついた。 王女に対して公然と武器を向ける狂気。だが、それ以上に彼女を驚かせたのは、突きつけられた武器から放たれる、見たこともないほど高密度の魔力だった。
「……くっ。……放しなさい」
「言われるまでもない。汚らわしい」
はそう言い捨てると、ヴィマーナを呼び出し、生徒たちの度肝を抜くような光の軌跡を描いてその場を去った。
その夜。学園の寮の、さらに屋根の上。 「……ギル、アレクシア王女に喧嘩売るなんて、最高の展開だね!」 シドがスライムスーツに身を包み、テンション高く現れた。
「フン、兄上。王女の一人や二人、王の進撃の足しにもならん。……それより、教団の動きはどうだ?」
「バッチリだよ。アレクシア王女の周囲に、キナ臭い連中が紛れ込んでる。……どうやら、近いうちに『事件』が起きるみたいだ」
シドの瞳に、狂気の光が宿る。 「僕は『犯人と疑われるモブ』として動く。君は『すべてを見通す王』として、裏で糸を引く黒幕を絶望させてよ」
「……よかろう。雑種どもの掃除、久々に腕が鳴る」
二人の最強が、学園という箱庭で静かに牙を研ぐ。 黄金の王と、陰の実力者。 彼らにとって、教団の陰謀など、自分たちの舞台を彩る安っぽい小道具に過ぎなかった