最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

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第5話 唯一の例外

カゲノー男爵領での日々は、瞬く間に過ぎ去った。 兄・シドが15歳になり、王都のミドガル魔剣士学園へ入学する時期。通常であれば、2歳年下の弟である我――ギルガメッシュはあと2年待たねばならない。

 

だが、王に「待て」が通用するはずもなかった。

 

「……ふむ。たかだか2年の歳月、我が財の力で埋めるなど造作もないこと」

(オレ)は自室で、蔵の奥底から一つの霊薬を取り出した。 それは前世において彼が若返りのために用いた、あるいは肉体を最適化するために用意されていた『若返りの薬』。その効能を逆転させ、「肉体の黄金比を固定する概念」を上書きすることで、(オレ)は自身の外見を17歳前後の「完成された全盛期の肉体」へと変貌させた。

 

「……完璧だ。これならば、雑種どもに混じっても見劣りすまい」

 

鏡に映るのは、逆立った金髪と、燃えるような紅い瞳。そして、少年から青年へと脱皮した、神話の英雄そのものの肉体。 さらに(オレ)は、蔵にある『姿を隠す布(ハデスの兜の原典)』の力を応用した指輪を用い、周囲の認識を「シドの兄、あるいは遠い親戚の特待生」という極めて曖昧なものへと書き換えた。もっともこんな子供騙し、我が兄ならいざ知らず『ある程度の実力』を持った雑種なら看破してくることもあるだろうがな。

 

「ギル……君、また設定を盛りすぎじゃない? 飛び級の天才留学生なんて、目立ちすぎなんじゃないかい?」 隣で、パッとしない「モブ顔」を完璧に作り込んだシドが溜息をつく。

 

「フン、兄上。影は光があってこそ濃くなるもの。(オレ)が天辺で輝いてやるのだ、貴様はその裾野で精々、泥にまみれた『陰』を謳歌するがいい」

 

「……あはは、それもそうだね。じゃあ、学園でもよろしく、ギルガメッシュ『先輩』」

 

こうして、史上最も傲慢な「新入生」と、史上最も影の薄い「モブ」が、王都へと足を踏み入れた。

 

ミドガル魔剣士学園の入学式。 そこは、この国のエリートたちが集う華やかな舞台だ。だが、その華やかさは、一人の男の登場によって完全に塗り替えられた。

 

「……何だ、あの男は」 「カゲノー男爵家の親族? 嘘でしょう、あのオーラ……」

 

生徒たちの視線を一身に浴びながら、(オレ)は学園の廊下を堂々と歩む。 制服は着ているが、ボタンは一つも留めず、内側には黄金の装飾が施された私服を覗かせている。一歩歩くごとに、蔵から漏れ出す魔力が大気を震わせ、周囲の生徒たちは無意識に道をあけた。

 

「雑種どもが。王と同じ空気を吸えることを光栄に思え」

 

(オレ)は誰に聞かせるでもなく独り言ち、最高級の「原典の椅子」を虚空から呼び出して中庭に設置した。 周囲が「何をしたんだ!?」「アーティファクト召喚!?」と騒然とする中、(オレ)は優雅に足を組み、蔵から取り出した最高級の葡萄ジュースを傾ける。

 

「……あ、あの! 貴方が噂の特待生、ギルガメッシュ様ですか?」

 

声をかけてきたのは、数人の女子生徒たちだ。彼女たちの目は、憧れと、あまりの格好良さへの恐怖で潤んでいる。 (オレ)は彼女たちを一瞥し、フッと口角を上げた。

 

「……許可なく(オレ)に話しかけるか。だが、その勇気だけは称えてやろう。……去れ、今は一人で月を……いや、太陽を愛でる時間だ」

 

「キャー!!」という悲鳴と共に走り去る女子生徒たち。 (……よし。100点だ。これぞ『学園に君臨する孤独な王』のムーブ) 内心でガッツポーズをしていると、遠くの校舎の陰で、シドが親指を立てて「いい演出だ!」と合図を送っていた。

 

そんな(オレ)の前に、一人の少女が立ちはだかった。 凛とした佇まい、白銀の髪。ミドガル王国の第二王女、アレクシア・ミドガル。

 

「……貴方が、カゲノー家の『特別枠』ね。ずいぶんと不遜な態度じゃない」

 

アレクシアは不機嫌そうに(オレ)を睨みつける。彼女の背後には、騎士団の面々が控えていたが、われの放つ威圧感に気圧され、誰も近づけない。

 

(オレ)は椅子に座ったまま、王女を見下ろすように目を細めた。 「……ミドガルの小娘か。王の休息を邪魔するとは、この国の礼儀はどうなっている?」

 

「王……? 貴方、自分が何を言っているのか分かっているの? 私はこの国の王女よ」

 

「王女だと? フン、笑わせるな。この地上において、王と呼べるのは唯一人。……貴様が見ている、この英雄王(オレ)のみだ」

 

アレクシアの顔が怒りで赤くなる。 「……面白いわ。その口の利き方、その傲慢さ……ただのハッタリかどうか、試してあげる」

 

彼女が腰の剣に手をかけた瞬間、我の背後の空間が黄金に波打った。 一つ、二つの「槍」の先端が、彼女の喉元数センチの場所に突きつけられる。

 

「……動くな、雑種。次の一歩は、貴様の命の終焉だ」

 

学園全体が凍りついた。 王女に対して公然と武器を向ける狂気。だが、それ以上に彼女を驚かせたのは、突きつけられた武器から放たれる、見たこともないほど高密度の魔力だった。

 

「……くっ。……放しなさい」

 

「言われるまでもない。汚らわしい」

 

(オレ)は指先を鳴らし、宝具を蔵へ戻した。 「アレクシアと言ったか。……貴様のその『凡庸な剣』、精々磨いておくがいい。いつか(オレ)の蔵のコレクションを拝む資格ができるまでな」

はそう言い捨てると、ヴィマーナを呼び出し、生徒たちの度肝を抜くような光の軌跡を描いてその場を去った。

 

その夜。学園の寮の、さらに屋根の上。 「……ギル、アレクシア王女に喧嘩売るなんて、最高の展開だね!」 シドがスライムスーツに身を包み、テンション高く現れた。

 

「フン、兄上。王女の一人や二人、王の進撃の足しにもならん。……それより、教団の動きはどうだ?」

 

「バッチリだよ。アレクシア王女の周囲に、キナ臭い連中が紛れ込んでる。……どうやら、近いうちに『事件』が起きるみたいだ」

 

シドの瞳に、狂気の光が宿る。 「僕は『犯人と疑われるモブ』として動く。君は『すべてを見通す王』として、裏で糸を引く黒幕を絶望させてよ」

 

「……よかろう。雑種どもの掃除、久々に腕が鳴る」

 

二人の最強が、学園という箱庭で静かに牙を研ぐ。 黄金の王と、陰の実力者。 彼らにとって、教団の陰謀など、自分たちの舞台を彩る安っぽい小道具に過ぎなかった

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