王都の地下、日の光さえ届かぬ拷問室。 そこには、椅子に縛り付けられ、顔を腫らしたシド・カゲノーの姿があった。
「さあ、吐け! 王女をどこへ隠した!」 騎士団の取調官が、激昂と共にシドの腹部を殴りつける。だが、シドの内心は至福の絶頂にあった。
(……これだ。これだよ。無実の罪で捕まり、苛烈な拷問に耐えながらも口を割らないミステリアスな少年。……今、僕は確実に『物語』の深淵にいる!)
シドはあえて弱々しく、しかし芯のある声で呟く。 「……僕は、何も知らない。アレクシア様は、どこへ行ったんだ……」
(よし、演技点100点。次は爪を剥がされるシーンかな? ワクワクするなぁ)
そんな狂気的な兄を、拷問室の天井付近に展開した「認識阻害の結界」の中から、ギルガメッシュは冷ややかな目で見下ろしていた。 彼は黄金の椅子に座り、蔵から取り出した冷えた果実水を口に含んでいる。
「……フン。相変わらず、兄上の『ごっこ遊び』は徹底しているな。その執念、ある種の敬意すら覚えるぞ」
ギルガメッシュは指先を動かし、影の中に潜む『
数日後。拷問を「満喫」したシドが脱獄し、シャドウとして闇に消えた頃、王都の夜空に異変が起きた。
雷鳴も、雲もない。ただ、夜空の一部が眩い黄金色にひび割れたのだ。 「な、なんだ……!? 空が燃えているのか!?」 パトロール中の騎士たちが足を止める。
雲を割り、ゆっくりと下降してきたのは、神代の英知が結晶化した黄金の飛行船――『ヴィマーナ』。 その船首に立つギルガメッシュは、紅い瞳で眼下の王都を見下ろした。
「……見つけたぞ、ハエども。湿った地下でコソコソと……。王が直接、日の光を見せてやろう」
ギルガメッシュは右手を掲げ、黄金の波紋を空一面に展開した。 その数、100以上。 「――散れ。王の庭を汚すゴミ共よ」
ドォォォォォォォォォォォォン!!
一斉に射出された宝具の雨が、教団の秘密研究所があると言われる区画の「地上」を容赦なく粉砕した。 それは攻撃というより、巨大な鍬で大地を耕すような暴力的なまでの整地だった。
一方、その爆撃を合図に、シャドウガーデンも動き出す。 「ギルガメッシュ様、派手すぎます……。ですが、おかげで入り口は開きました」 アルファ率いる七陰たちが、崩落した地面の亀裂から地下へと突入していく。
地下深く。アレクシアを拘束し、実験を行おうとしていたゼノン・グリフィは、頭上の地響きに顔を歪めた。 「な、何だ!? 騎士団の攻撃ではない……この、魂を削るようなプレッシャーは……!」
その時、地下室の厚い壁が、紙細工のように内側から弾け飛んだ。 黄金の光を纏い、悠然と歩み寄る男。
「……よお、雑種。少しばかり、庭の掃除に来てやったぞ」 ギルガメッシュが、背後に数振りの魔剣を浮かべながら現れた。
「貴様……ギルガメッシュ! なぜここが……!」
「なぜ、だと? この地上のすべては王の庭。どこにハエが湧こうが、
ギルガメッシュは指を鳴らし、蔵から一本の無骨な「鍵」を取り出した。 「貴様のような卑しい盗人には、宝具の雨すら勿体ない。……この世界の重みに、押し潰されるがいい」
その瞬間、部屋の重力が数十倍へと跳ね上がった。蔵にある「質量操作」の宝具による理不尽な圧殺。 ゼノンは床に這いつくばり、悲鳴を上げることもできずに骨が軋む音を響かせた。
「……さて。シャドウが来るまで、あと数分か。その間に、貴様の命、蔵の肥やしにすらならぬ価値しかないことを教えてやろう」
「――そこまでだ」 静かな、しかし有無を言わせぬ声。 闇の中から、漆黒のロングコートをなびかせたシャドウが姿を現した。
ギルガメッシュはフッと笑い、重力負荷を解いた。 「……遅かったな、闇の住人。獲物はもう虫の息だぞ」
「……いいや、これでいい。物語の最後を飾るのは、いつだって『陰』から現れる者と決まっている」 シャドウはボロボロになったゼノンを見下ろし、漆黒の刀を抜いた。
(……きたきたきた! ギルが舞台を整えてくれたおかげで、最高の『トドメのシーン』ができるぞ!) 内面で歓喜するシドに対し、ギルガメッシュは肩をすくめた。
「よかろう。トドメは貴様に譲る。……だが、王女の回収は
ギルガメッシュは拘束されたアレクシアに近づき、蔵から取り出した「黄金の神酒」を彼女の口元へ。 「……飲め、小娘。死にたくなければな」
「I AMー」
朦朧とする意識の中、アレクシアは自分を見下ろす黄金の瞳に、言い知れぬ畏怖と安らぎを感じていた。
「ATOMIC」
研究所が崩壊し、全てが解決した後。 燃え盛る瓦礫の山の上で、二人は並んで月を見上げていた。
「……ギル。今回の君の演出、空からの爆撃は流石にやりすぎだよ。僕の隠密行動が台無しだ」 シドが不満げに口を尖らせる。
「フン。王の進撃に隠密など不要。……だがまあ、貴様の『アイ・アム・アトミック』とやらの輝きも、蔵の宝具に並ぶほどには美しかったぞ、兄上」
「……へぇ。王様に褒められるなんて光栄だね」
二人は笑い、それぞれの帰路につく。 翌朝、王都の住民が見たのは、地図が書き換わるほどの更地になった教団拠点跡と、そこに突き刺さった、見たこともないほど豪華な一振りの「黄金の剣」だった。
それは、黄金の王からこの世界への、最初の「警告」であった。