最古の英雄王になりたくて!   作:sk20100626

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第9話 その後?

アレクシア王女誘拐事件の解決から数日。ミドガル魔剣士学園は、表面上は平穏を取り戻していた。 シド・カゲノーは、予定通り「五日間も拷問に耐えた悲劇のモブ」という肩書きを手に入れ、教室の片隅で友人たちから「よく生きてたな」と半笑いで声をかけられる日常を享受していた。

 

(……フフフ、完璧だ。王女との交際も、彼女が失踪したことで自然消滅したはず。僕はまた、平穏なモブ生活に戻るんだ……!)

 

シドが内心でガッツポーズを決めていると、教室の扉がこれ以上ないほど乱暴に蹴破られた。

 

「雑種ども。この(オレ)が通るのだ。道をあけろ」

 

黄金のオーラを隠そうともせず、制服をマントのように羽織った男――ギルガメッシュが、数人の取り巻き(という名の、彼の威圧感に当てられて逃げ遅れた生徒たち)を連れて入ってきた。 彼はシドの席の前に立つと、虚空から黄金の椅子を取り出し、ドカリと座った。

 

「兄上よ。あの小娘との『ごっこ遊び』は終わったようだな。……だが、王の庭を汚したハエどもの残骸がまだ鼻につく。いつまでそのパッとしない顔を晒しているつもりだ?」

 

「……ギ、ギルガメッシュ先輩。僕はただのモブですから。それに、アレクシア様とはもう終わったことですよ」

 

シドは必死に「モブ」の演技を維持しようとする。だが、ギルガメッシュはフッと鼻で笑い、蔵から最高級の葡萄ジュースが入ったクリスタルグラスを取り出した。

 

「終わった、か。……フン、女の執念を甘く見るなよ、シド。王の眼は、あの小娘がまだ貴様という『玩具』に未練を抱いていることを見抜いているぞ」

 

「ははは、まさか……」

 

その「まさか」は、数秒後に現実となった。 「――失礼するわ」 凛とした声と共に、アレクシア・ミドガル本人が教室に現れたのだ。

 

教室中の視線が突き刺さる中、アレクシアはシドの元へ歩み寄った。 「シド・カゲノー。貴方、拷問から解放されたのに、どうして私に挨拶に来ないの?」

 

「え、あ、いや……アレクシア様も大変だと思って……」

 

「……ふぅん。まあいいわ。私たちの『付き合い』、まだ終わらせるなんて言ってないわよね?」

 

シドの顔が絶望に染まる。それを見ていたギルガメッシュが、喉を鳴らして笑い出した。

 

「フハハハハ! 見ろ、兄上!雑種が、貴様のその冴えない面を求めているぞ! 案外、趣味の悪い女のようだな」

 

「なっ……貴方、またその不遜な口の利き方を!」 アレクシアがギルガメッシュを睨みつける。彼女は事件の夜、自分を助けた「黄金の輝き」の正体がこの男であると薄々感づいていたが、その傲慢すぎる態度がどうしても鼻につくのだ。

 

「ギルガメッシュ。貴方、昨夜の事件……どこにいたの? 騎士団の報告では、王都近郊で黄金の光が空を裂いたそうだけど」

 

「……どこにいた、だと? (オレ)の居場所を王女風情が確認するか。……(オレ)はこの世のどこにでもおり、同時にどこにもおらぬ。……ただ、王として庭の掃除をしていただけのことよ」

 

ギルガメッシュは立ち上がり、アレクシアの喉元に、蔵から溢れ出した神気の残滓を突きつけるように指を向けた。

 

「小娘。貴様が兄上の玩具でありたいと言うなら止めはせん。だが、我が庭の所有権まで主張し始めるなら……次は、その首、(オレ)の蔵のコレクションに加えてやる」

 

アレクシアは恐怖に身を竦ませたが、同時にその圧倒的な「王の格」に、抗いがたい魅力を感じていた。彼女にとって、シドは「理解できない異常者」であり、ギルガメッシュは「理解を絶した絶対者」なのだ。

 

放課後。騎士団本部では、アイリス・ミドガルが深い苦悩の中にいた。 「……報告を。黄金の男については、何一つ判明していないのか?」

 

「はっ。……カゲノー家の親族という身分も、徹底的に精査しましたが……すべてが『本物』です。しかし、彼が使った武具の数々、そして空飛ぶ船。……あのようなアーティファクト、歴史のどこにも記録がありません」

 

アイリスは、自分の折れかけた剣をじっと見つめる。 あの夜、自分は王国最強としてのプライドを粉々にされた。相手は剣さえ抜かず、ただ「鞘」だけで自分の全力の斬撃を受け流したのだ。

 

「シャドウ……そして、黄金の王ギルガメッシュ。……世界は、私たちの知らないところで変わり始めているのかもしれない……」

 

アイリスは決意を固める。 この「黄金の王」が、王国にとって益となるか、あるいは破滅の引き金となるか。それを見極めるために、彼女は自ら学園へと足を運ぶことを決めた。

 

夕暮れ時、学園の時計塔の天辺。 シドとギルガメッシュは、並んで座っていた。

 

「……ギル。君がアレクシアに喧嘩を売るおかげで、僕の『モブとしての平穏』がどんどん遠ざかっている気がするよ」 シドが高級そうなメロンパンを齧りながら愚痴をこぼす。

 

「フン、兄上。影の濃さは光の強さに比例すると言っただろう。(オレ)が最高に輝いてやればこそ、貴様の『影』がより深淵に見えるというものだ。感謝しろ」

 

「……まぁ、それも一理あるか。……あ、そういえばアルファたちが言ってたよ。王都の商業地区を買い占めて、何か店を出すって」

 

「……ほう。ミツゴシ商会、と言ったか。……王の庭にふさわしい贅沢品を揃えるというなら、(オレ)の蔵からいくつか原典の知識を貸し与えてやってもよい。……貴様の世界を、我が黄金に塗り替えてやろう」

 

シドはニヤリと笑った。 「いいね。それじゃ、僕は『裏から経済を操る謎の影』を目指すとしようかな」

 

「……勝手にしろ、雑種。(オレ)は、その経済とやらを全て買い占めてやる」

 

二人の会話は、誰に聞かれることもなく夜風に消えていった。 シャドウガーデンという闇の組織。 そして、すべてを統べる「黄金の王」。 彼らが学園という箱庭で遊び続ける限り、ディアボロス教団に安息の日は訪れない。

 

その夜。学園の寮に戻ったギルガメッシュの前に、一通の招待状が置かれていた。 それは、アイリス・ミドガルからの「個人的な会食」への誘い。

 

「……フン、騎士の小娘が。王を呼び出すとは、よほど死に急いでいると見える」

 

ギルガメッシュは招待状を黄金の炎で焼き捨て、窓から広大な王都を見下ろした。 彼の背後には、無数の黄金の波紋が、静かに、しかし力強く蠢いていた。

 

「……さて、次は何を壊してやろうか。……この世界は、まだまだ(オレ)を楽しませてくれそうだ」

 

黄金の王の不敵な笑みが、暗闇の中で紅く輝いた。

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