……体は天災、心は人間、その名も―――
2020年―――
世界で男女平等という言葉はなくなっていた。
〝魔都〟という異空間の出現によって―――
……これは、能力至上主義が蔓延る現代日本に生まれ落ちた一人の
■■の物語である。
<<< 公立上野毛高校 >>>
「始業ベルまでには済ませろよー」
クラスの担任の一声によって始まる始業前の教室掃除。
「ったく、毎朝毎朝こきつかいやがって……!」
担任が何処かに行ったのを確認してから愚痴を零したのは、ごく一般的な男子高校生和倉優希。
もはや日常になりつつあるとはいえ、ほかのクラスメイトが掃除など知ったことかと言わんばかりに遊び散らかしている様を見て苦言を呈したワケだが、当然その苦労は誰にも届いていなかった。
「大丈夫、二人でやればすぐ終わるよ(^o^)」
「っ〜〜〜、お前だけだぜ服部!俺の心の友は!」
……ただ一人を除いて。
優希には絶対の自信を持って言えることがある。
それは、一緒になって教室の掃除をしてくれる目の前の男服部
タラコ唇という特徴が霞んで見えるほどのずば抜けた身長(230cm)に機能美を追求した究極的な筋肉を全身に搭載するダビデ像も裸足で逃げ出す厳ついゴリマッチョであるが、優希が今まで出会ったどんな人間よりも穏やかで優しい心の持ち主なのだ。……オマケに自分と同じ家事上手、仲良くならないワケがなかった。
「……ケッ、お前ら全員に服部の爪の垢を5リットルくらい煎じて飲ませてやりてぇよ……!」
「おいおい……オレの爪がなくなっちゃうって……」
「まぁそんなこと言うなって!お前らのおかげで楽できてんだからさ!……おっ、女子サマの遅いご登校だ」
優希のもう一人の友達諏訪が眼下に映る女子の登校姿を目撃し、どこか皮肉めいた口ぶりでそう言う。
「仕方ねぇよ、男は〝桃〟の恩恵は受けられない。生まれた時点で人生ハードモードさ―――……んん!?」
男に生まれたことに対する諦観を滲ませたのも一瞬、ふと女子と手を繋ぐ男の姿を捉え驚愕とともに二度見してしまう優希。
「アイツらいつの間に……!!」
「剣道部の長沢くんと……隣のクラスの日高ちゃんか」
「『大会で優勝できたのは貴女のおかげです交際してください』って頼み込んだらしい」
「やっぱりスポーツできる奴はモテるんだな。クソッ、羨ましい……!」
「優希くんの掃除の上手さも十分モテる要素あると思うけどな」
「俺は今モテたいんだ!っていうか服部!お前のほうはどうなんだよ!?」
「オレ?何の話……?」
優希の指摘に疑問符が大量に浮かぶ服部。
「しらばっくれるんじゃねぇ!……お、お前、屋上で女子から告白されてたらしいじゃねぇか!……けっ、結構可愛い子から愛の告白って奴を!!」
「ちな、ソースは俺な(#^ω^)」(by諏訪)
「……………………………………あぁ、確かに」
「てめぇぇぇぇこの裏切り者がぁぁぁぁあ!!!」
「待って待って、確かに告白されたけどちゃんとお断りしたから。まずはお友達から始めませんかって……」
服部の言葉に嘘はない。
話は少し変わるが、服部の身体能力は見た目からも大体想像できる通り人間離れしている。
どのくらい人間離れしているかと言うと、
その身体能力を買われて色んな運動部から助っ人として引っ張りだこにされており、大会出場のたびに必ず結果を残してきたことから一時テレビに出たこともある。
「テレビで見た時に好きになりました、なんて言われてもオレのほうは初対面でどうすればいいのか分からなかったしさ。お互いのことを理解し合ってそこで初めて交際するかどうか決めるのが筋だろう?」
「ぐぬぬ……!言われてみれば確かにな……」
「そういうのが
優希は激怒した。……必ず、かの邪智暴虐な服部を除かなければならぬと決意した。
<<< 〜下校中〜 >>>
「もうすぐ社会人か。……寂しくなるなぁ」
「なに感傷的になってんだよ服部」
「だってそうだろ?社会人になったら優希くんと遊びづらくなるワケだし」
「そんなことねえって……お前ボタン取れかかってるぞ」
思わずあっ!と自分の制服を見る服部。先程乗った満員電車のせいだろうか、確かにボタンが取れかかっていた。
優希はすかさず携帯サイズの裁縫セットを取り出し、あっという間に服部の制服のボタンを縫い合わせてくれた。
「……そういうのが自然と出来るところが優希くんの凄いところだと思うよ。条件反射的な?」
「姉ちゃんに鍛えられたからな、男は能力使えないから技術を磨けって。……しっかり家事できないとお仕置きがさ……!!」
「ハハハ……オレはまだ好きでやってるけど優希くんはしっかり
「………」コクッ
それ以上聞くことは憚られた。……心友である優希の心の傷を抉るような気がして。
「(オレって、何者なんだろ……?)」
あまりにも唐突だが、服部には
しかし、その殆どが朧げで鮮明ではない。
「(……生まれてきた時からそうだ、オレは生まれた瞬間から
心友の優希にすら打ち明けたことのない悩み。
服部は、自らが何者であるのか分かりかねていた。
「(それでも
服部の今日に至るまでの17年間は、その身に宿る
〝完全調伏〟……ひとりでは到底成し得ることは出来なかった。家事上手の心友の存在が服部の心を支えてくれたから起こせた奇跡なのだ。
「(……この力を使って人の役に立ちたい。何故か分からないけど無性にそう考えるのも前世の記憶の影響からなのかな―――)……あれ?こんなに霧濃かったっけ?」
気付けば濃い霧が自分を中心に取り巻いていた。
「……っ、違う、これは―――」
取り巻いていた霧が急速に晴れ、服部の視界が全く別の景色を映し出す。
剥き出しの岩肌が地平線まで続き、至るところで雷雨や吹雪が発生する地獄の如きその世界は―――
<<< 〝魔都〟 >>>
「な、な、なっ……!?そんな、まさか……!!」
数十年前、日本各地に謎の〝門〟が突如として出現。
門の先には東京都ほどの異空間が広がっており、魔都と名付けられた。
魔都には
桃は女性にしか能力をもたらさず、これにより男女の力関係は崩壊した。
政府は魔都への門を管理化に置き新たな組織を編成。
それこそが魔防隊であり、戦闘のスペシャリストである隊員は全て桃の能力を得た
「ヒッ……大丈夫だ、こういう時こそ落ち着くんだオレ。端末にもマニュアルはあったはず……!」
バッグにしまってあった端末を取り出し、緊急時の対応を聞き取る服部。
『魔都災害についてお答えします。……魔都に通じるクナド……通称・門は位置が固定されていますが、中には突発的に発生する門もあり、一般人が魔都に迷い込んでしまったり醜鬼が現世に出てしまったりする被害を魔都災害と呼びます』
「(そういえば……六年前だったか?優希くんのお姉さんも行方不明になって魔都災害に認定されたって聞いたような……)」ボココッ…
『魔都に迷い込んでしまった場合、むやみに動かず魔防隊の救助を待ちましょう』
「し、信じていいのかな……?これでうっかり醜鬼と遭遇したら目も当てられなボゴッ
「「 ……… 」」
ちょうど服部の背丈くらいはある筋骨隆々とした灰色の体格に、能面を張り付けたような気持ちの悪い怪物が地面を突き破って出てきた。
背丈が同じだけあって自然と目線も重なり、つい見つめ合ってしまう両者。
永遠に続くかと思われた膠着は意外な形で破られた。
「HATTORI パンチ!!」
今まで人を殴ったことのない服部が、自分の命を守るために初めて人でなしを殴った。
渾身の左ストレートが醜鬼の顔面にクリーンヒットし、あまりの衝撃に脳味噌ごと頭蓋骨をグチャグチャに粉砕してしまった。
大の字に倒れ込む醜鬼。……即死である。
「……へっ?し、死んだのか……?」
まるで信じられないものを見たかのように驚愕を露わにする服部。
……服部が驚くのも無理はない。
醜鬼に通常兵器は通用しない。桃の力を宿した攻撃だけが唯一醜鬼を倒せる。そして、桃の恩恵にあずかれるのは女性だけ。……世間一般に広く浸透している常識だ。
いくら体格がいいからって桃の恩恵にあずかれない男の自分が素手で醜鬼を殴り殺せるのか?と服部は軽くパニックに陥っていたのだ。
「「「「 ■■■■■〜〜!! 」」」」
「ヒッ!?やべっ……!!」
仲間を殺されたことに怒ったのか、はたまた目の前の獲物を好敵手と見定めたのか、続々と地面を突き破りながら現れた醜鬼が悍ましい咆哮を上げる。
この数は流石に手に余ると思ったのか、服部は即座に踵を返して走り出した。
「(と、とにかく遠くに逃げないと……!)」
初速から最高速度(マッハ2)を叩き出しあっという間に後続の醜鬼の群れを突き放すことに成功した服部。
「(つ、突き放せたけど、いったい何処まで逃げればいいんだ―――……!?)」
後続の醜鬼の群れに意識を向けるあまり、前方にも醜鬼が迫っていることに気付くのが遅れてしまった。
たまらず急ブレーキをかけて止まる服部。……挟み撃ちの形となってしまった。
「(万事休すか―――)……えっ、人?」
「もう襲われているとは、運のない奴だな」
醜鬼に跨る
「私の後ろに隠れていろ」
軍服を身に纏う絹のような美しい白髪が特徴的な美女は、腰に差した刀を抜刀し服部を追ってきた醜鬼の群れに突き立て宣言する。
「屈服の時間だぞ!!」
そこからはもう凄かった。
醜鬼に跨りながらその美女は
だがしかし、美女の動きに無駄はなかったが、跨がられている醜鬼の動きがどこかぎこちなく、連携が取れてないように服部には思えた。
「チッ、コイツではやはり脆いか……!」
やはりと言うべきか死角からの不意の攻撃によって美女が跨っていた醜鬼は呆気なく倒されてしまった。
舌打ち混じりに近くの醜鬼を切り刻み安全圏を確保した美女は改めて服部に自己紹介を行う。
「魔都災害の遭難者だな?魔防隊七番組組長羽前京香だ。……安心しろ、助けてやる」
「た、助けていただきありがとうございます。オ、オレは……」
「待て。……感謝するにはまだ早い」
地鳴りを起こしながら迫るソレは、数え切れないほどの醜鬼の群れ。
確かに、感謝するには何もかもが早すぎた。
「こ、こんな数、逃げるしか……!」
パキィィィン「乗れ」
「え!?……あっ、はい!」
いったいどういう能力なのか、こちらに危害を加えない手負いの醜鬼に乗るよう命令する京香。
流されるように醜鬼に跨った服部ともどもその場から離脱した京香。……追ってくる敵をバッサバッサと斬り捨てながら死角から迫る不意打ちを察知した。
「右に回避しろ!」
「■■……」
「(反応が鈍い……)」
またしても反応しきれず首を断ち切られる醜鬼。……お返しと言わんばかりにその敵の首を斬った京香であったが、状況は芳しくなかった。
自分達をぐるりと取り囲むように迫る醜鬼の群れ相手に、
仕方なく懐から札を取り出し、それを地面に置いて結界を張った。
「簡易的な結界を張った。……パニックになるなよ」
「も、もう既にヒビが入ってますけどォ!!?」
騒ぐ服部はひとまず置いといて、一人思案する京香。
「(私一人ならどうとでもなるが……桃の恩恵、我ながら本当に外れの能力だったな……)」
『京香自身は強くても能力がねぇー』
『総組長になるのは夢のまた夢だね』
「(ふざけるなよ、私は必ず組長達を束ねる総組長になってやる……ッ!!)」
結界のヒビ割れが致命の域に達した。
「(……仕方ない、役に立たんだろうと男に試したことはなかったが腹を決めるか―――)……お前名前は?」
「はっ、服部です!服部弦太郎」
「弦太郎、ここを出る方法があるがお前にも働いてもらいたい」
「本当ですか!?オレなんでもします!」
「よく言った。ならば今から、お前を私の奴隷にする」
「…………………………………えぇ?」
理解が追いつかない服部を無視して京香は続ける。
「奴隷とした生命体の力を引き出し使役する、それが私の能力だ。……お前自身が強化されればこの場を生きて脱出できる」
「それしか、方法はないんですね……?」
京香の能力の説明を受け、服部は再度確認する。
京香は無言で首肯した。
「……分かりました。やってみます……!」
即承諾。……だがしかし、何も服部は勝算もなく京香の提案を受けたワケではない。
17年間にも及ぶ自分の中の化け物との戦いに完全なる勝利を収めたとはいえ、今の服部ではその力を1割も引き出すことが出来ない。
穏やかな気性もあるが、単純に
「いい返事だ。では早速だが私の指を舐めてもらう」
奴隷になるのと引き換えに自分の力を引き出すことが出来れば、この状況を本当に打開できるかもしれない。
つま先立ちの京香から差し出された人差し指に、服部の舌が無意識に反応する。
「屈服の時間だ」
京香の指と服部の舌が触れ合い、そして―――
『……は?……な、にが……?』
まるで訳が分からない。京香の思考を困惑が埋め尽くす。
『……確か私は、弦太郎に指を舐めさせ、そして……』
冷静に状況を整理していると、ふと自分の体が全く動かないことに気が付く。
『ど、どういうことだ!?動けない……私の体のはずなのに、何故だ……え?』
そこで初めて、京香は今の自分の状況を知る。
『わ、私は誰かに
「あれ?京香さん?」
京香の脳内に響く男の声……それは服部の声であった。
『弦太郎!?どこにいるんだ弦太郎!!』
「どこって……オレはすぐ近くにいますよ?」
『すぐ近くだと!?そんなワケ……』
そこで初めて、京香は自分が
『げ、弦太郎。もしかして私は今、
「……はい、そのようです」
京香の能力によって潜在能力を引き出された服部は、その姿を大きく異形へと変化させていた。
全体的なシルエットは人型を保ちつつも、全身の皮膚は黒くケロイド状に変質し、長大な尻尾が生え、更に凶悪になった面相も合わさってその姿は人型の怪獣を思わせる。
特に目を引くのが背中から生えた植物の葉を彷彿とさせる背鰭であり、ソレは
……その背鰭こそが京香である。
そうこうしている内に結界は破られ、醜鬼の群れがなだれ込んできた。
『っ、こうなって仕方ない!自分の力をふるってみせろ弦太郎!!』
「はい!!……うぉぉぉおおお!!!」
コントラバスの弦を革手袋で擦ったような独特の咆哮を上げて醜鬼の群れに突っ込む服部。
「スーパー HATTORI パンチ!!」
せめて痛みなく一瞬で絶命できるよう全力全開のパンチを先頭の醜鬼に叩き込み―――後続に控えていた大量の醜鬼ごと衝撃波によって粉微塵に吹き飛ばした
『ネーミングはともかくここまで強化されるとは……!』
「HATTORI―――テール スラッシュ!!」
長く野太い尻尾を居合切りの構えで固定し、襲いかかってくる醜鬼の群れがこちらの間合いに入ってきた瞬間、尻尾を横薙ぎに振るった。
京香をもってしても反応しきれなかったその攻撃は、上下に分かたれた醜鬼の死体と赤黒い血に塗れた服部の尻尾を見ることでその凄まじさが窺い知れる。
醜鬼達も埒が明かないと判断したのか急に合体しだし、一つの巨大な化け物として服部の前に立ち塞がる。
『とっておきを食らわせてやれ!弦太郎!!』
「はい!……ぉぉぉぁぁぁああああ!!!」
『……なっ!!?』
急速に光りだした
次いで、気力をゴッソリと削られる脱力感に襲われ堪らず意識が明滅しだす。
『これは、私の力を吸い取っているのか!!?……素晴らしい、素晴らしいぞ弦太郎!!』
「HATTORI ビ――――――ムッ!!!」
瞬間、世界が止まった。
……止まった世界が動き出した頃には、巨大な醜鬼
『凄い……確かに凄いが……流石に限界だな……っ」
「あっ……京香さん」
服部の変身に京香のほうが耐えきれず、変身はここで中断されることとなった。
服部の背中に体を預ける形となった京香。……当の服部自身は割と余裕そうにしていたが、おそらく京香の見間違いであろう。
「驚いたぞ……お前に……これほどの…力があるとはな。私の奴隷として……これからも…働き続けるといい…」
「京香さん大丈夫ですか?……無理は禁物ですよ」
服部の心配をよそに京香は背中から下り、服部を真正面から見据え、口を開く。
「……だがそれには、私の能力について話しておかないといけないな」カチャカチャ…
「え?……えっ!!?(//////////)」
突然身に付けている軍服を脱ぎ出していく京香。
気でも狂ったのかと思わず凝視する服部に、顔面が真っ赤っ赤になった京香が能力の説明を行っていく。
「こうくるか変態め……(//////////)……これが能力の代償、私は主として奴隷が働いた分に見合った褒美を任務が終わるたびに与える義務がある……(//////////)」
「きょっっっ、京香さん!!しっ、下着まで脱がなくてもいいんですよ!!?(//////////)」
「無理だ!!これは私の意志に関わらず自動的に体が動く能力の代償なんだ!!……おっ、お前が、私を、抱かない限り、私はずっと、このままだ……(//////////)」
「……っ!!(//////////)」
……一糸纏わぬ生まれたままの姿でいる京香を、使命感と性欲に押された服部が力強く抱きしめ、耳元で呟く。
「……自分、初めてで、加減がきかないですが、なるたけ優しくします。お願いします……っ!!(//////////)」
「わっ、私も、初めてだ。……優しくしてくれると、助かる……(//////////)」
……ちょうど誰も見ていないことが幸いした。
醜鬼とは毛色の異なるケモノの嬌声が響き渡る。
ゴジラシリーズに登場する全てのゴジラを足して人間サイズに圧縮したもんだと思っていただければオッケーです!
……誰がとは言いませんがね?
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