実質八雷神sideの話です。
<<< 〝魔都〟 >>>
「ぐっ……ぅぅ……!」
地獄の如き風景が広がる魔都の、人知れない不気味な洞窟の中から痛みに耐えるような苦悶の声が聞こえてくる。
声の主である鬼の面のようなものを被る大柄の怪人は地面に直接仰向けに倒れ込んでおり、その全身は氷のようにひび割れ、今にも粉々に砕け散りそうである。
「ぉのれ……我を雑魚同然にぃ……!」
それでも息を繋いでいられるのは、ひとえに人間を超えた〝神〟として存在している故か。
大柄の怪人雷煉は、今日ほど自分の肉体強度の高さに感謝したことはなかった。
その身を震わすのは活火山の如き怒りか、それとも自分を芯まで冷え固めた氷の竜人への―――
「……辛うじて命脈は繋いだ。後は体を温めていけば万全に動けるまでに回復するだろう」
……雷煉と添い寝をしていた褐色肌の長身の美女壌竜はおもむろに上体を起こし、この場にもう一人いる
「うんうん、ありがとうね壌竜」
石で出来たテーブルの上に寝そべり
それだけ自分の強さに信頼を置いていることの表れだと頭では理解していたが、どうにもその態度が癪に障り、雷煉は青筋を立てながら苛立ち気味に口を開く。
「紫黒よ、何故余計な真似をした……ッ」
余計な真似、それはつまり服部との戦いに途中で割り込まれ、あろうことか身柄を回収されたことを指していた。
「僕はホラ、
憤怒に満ちた雷煉の視線を軽く受け流しながら紫黒は当時の出来事を回想する。
『やぁ、降臨だよ』
神経まで凍りつき身動きが取れずにいた瀕死の雷煉を回収すべく、予定よりかなり早いが壌竜ともども六、七番組の面々の前に姿を現した紫黒。
そこそこなのが三人、結構強そう(おそらく組長格)なのが一人、そして―――雷煉を真っ正面から圧倒した氷の竜人が一人、突然天から舞い降りた紫黒達の登場に面食らった様子で呆然としていた。
『僕達は八雷神!……醜鬼達を束ねる存在さ』
『『『『『 か、神……!? 』』』』』
『そっ、神様だからね、崇めていいよ♪』
とりあえず脅威になりそうな存在は組長(天花)と氷の竜人(服部)の二人しかいないと判断した紫黒は、目配せをして壌竜に雷煉の保護を任せた。
身動きが取れない虫の息と言ってもそこは人を超えた神。
尋常ならざる生命力に加え、壌竜の支援を受けることで何とか峠を越えることは出来たと内心胸をなで下ろした。
『八雷神だと?……ソイツを助けるということは敵ということでいいんだな……!?』
『そうだよ、人を滅ぼす存在さ』
氷の竜人の、ちょうど背鰭に当たる部分から聞こえた女(京香)の問いかけに恐ろしいほどの殺気を放ちながら答えた紫黒。
もうちょっと理想的なシチュエーションで登場したかった不満と数少ない姉妹の一人を傷付けられた怒りで今にも暴れたかったが、時期ではないと何とか踏みとどまる。
『ここで滅ぼしてあげてもいいけど、今回は仲間を回収することが目的なんだよね〜。しっぽ巻いて逃げるなら追わないであげるけど?』
『……ここであなた達を逃がす手はないね』
『日万凛を傷物にしかけた奴など鏖殺じゃ!!』
『……もうちょっと頑張る〜!!』
『アタシも!……ここで逃げる気はないし逃がすつもりもない!』
『行くぞ弦太郎!奴らを屈服させる!!』
それに今ここで暴れた場合、雷煉を圧倒したあの氷の竜人を相手取らなければならない。
今なお噴出し続けている冷気の危険度は雷煉との戦いを観察して十分理解している。
雷煉を回収するついでにそんな痛手を被るなど、紫黒にとっては割に合わない話だった。
『……京香さん、ここは退いてもらいましょう』
いつ戦闘が始まってもおかしくない緊迫した状況で声を上げたのは、ほかでもない紫黒から高い評価を得ていた氷の竜人、もとい服部であった。
『どういうことだ弦太郎!?敵にみすみす背を向けるなどありえん―――』
『日万凛ちゃんがもう限界ギリギリなんですよ!いつ変身が解けてもおかしくない!』
どんなに強力な能力にも必ず穴はあるもので、自分達神と肩を並べられるだけのあの力は、その実
追撃を仕掛けてこないのがいい証拠だ。
あれはこちらの出方を伺っているのもあるだろうが、単純に後もう少しで電池切れを起こして能力が使えなくなるから動くに動けないことも大きいだろう。
『……みくびらないで……このくらい……ッ』
『これ以上無茶はさせられないよ日万凛ちゃん!』
『ひまりん!』
『ふふ〜ん?……今ならちゃっちゃと滅ぼせそうだねぇ―――』
『そんなことはさせん!』
急に氷の竜人の全身が発光したと思ったのも束の間、視界が回復する頃には軍服姿の白髪の女、七番組組長羽前京香が背後にいる部下達を庇うように立っていた。
『大切な部下達にこれ以上危害を加えるというのなら覚悟しろッ!!敵に向ける慈悲はないッ!!!』
『私もいるよ』
京香の隣にスッと立った天花の存在も相まり、これ以上の継戦には利がないと紫黒は迅速に撤退を始めた。
『……あっそうだ、そこの雷煉と戦った君、名前はなんて言うの?』
『えっ……服部弦太郎』
『服部弦太郎ね。……君のことは覚えたから』
泥水のような影の中に消えていく紫黒の表情は、さしもの服部も恐怖を覚えるほどに〝興味〟に染まっていた。
「あの後も戦えたわ……ッ」
怒りと激痛に悶えながら雷煉は抗議の声を上げる。
しかし悲しきかな、その声には普段の元気が乗っかっておらず、雷煉自身かなり苦しい言い訳をしている自覚があるのか段々と声が萎んでいってしまった。
「醜鬼の軍勢が全滅させられちゃ負けでしょ」
「紫黒の判断に賛同」
「ぬぅぅ……ッ」
現段階での状況を纏めるべく紫黒は口を開く。
敵となる魔防隊の戦力を計るべく三番組と戦い圧勝。
しかしその場に組長がいなかったため、今回は組長もいる魔都交流戦の場を強襲したワケだが―――
「……結果思わぬ障害にブチ当たった」
「あれは正確には組長じゃないのか?」
「たぶんね。組長格なのは間違いないだろうけど男だし……」
なんだか雲行きが怪しくなってきたと頭を抱える雷煉。
そしたら案の定と言うべきか、自分の提案した作戦である現戦力だけで魔防隊本部を強襲し決戦という案がなし崩し的に没になってしまったではないか。
立ち上がって抗議を上げようとするも、ズキズキと痛む体がそれを許してくれない。
そうこうしているうちに話はどんどんと進んでいく。
「……どちらにせよ、雷煉がああでは決戦は自殺行為だからな」
「僕達が
渋々ながら雷煉も紫黒の作戦に賛同するほかなかった。
長姉の存在によって神側の勝利は担保されているものの、自分をあと一歩のところまで追い詰めた氷の竜人のような強者が魔防隊にはまだいるのかもしれない。
勝ちました、でも被害は甚大では話にならないのだ。
だがしかし、雷煉には我慢ならないことがあった。
「……我らが揃うのも時間の問題、まぁいいだろう。だが―――我らを人と言うな!一緒にするな!!」ズキッ
声を張り上げすぎて傷が開いてしまった雷煉。
再びぶり返してきた激痛に身悶える姿を紫黒に笑われながら、雷煉は本格的に回復に専念した。
「紫黒は、人に興味があるんだな」
壌竜の問いかけに紫黒はケラケラ笑いから一転、含みを持たせた微笑みを浮かべながら首肯する。
「人は面白いよ。魂は思ったより複雑っていうか……♪」
いま紫黒は何を思い浮かべて人を語っているのか。
もしかしたら―――現在進行形で二人の美女美少女から叡智を極めた奉仕を受けている服部を思い浮かべているのかもしれない。
人にさほど興味がない壌竜には分からないことであった。
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