転生博麗   作:ライダー☆

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第十二話 痛み

地面から立ち上がった。

全身が痛んだ。霊力を足に流して、無理やり膝を伸ばした。骨が軋んだが、動ける。

 

「魔理沙、大丈夫か」

「何とかな」

 

魔理沙が答えた。箒なしで空中に浮いていた。純粋な魔力だけで浮遊を保っていた。息が上がっていた。

フランドールは、空中に浮いていた。

 

「さあ、続きを」

 

無数の光弾が出現した。先ほどより多く、密度も高かった。

俺は動いた。横に跳んだ。光弾が地面を抉った。石畳が砕け、破片が顔をかすめた。

走りながら御札を投げた。魔理沙が側面から弾幕を放った。フランドールが手を握った。魔理沙の弾幕が消えた。

 

「何度やっても同じよ」

 

フランドールが言った。

その時、時間が止まった。

フランドールの動きが止まった。光弾が空中で静止した。

 

「これ以上の危害は加えさせません」

 

咲夜だった。

ナイフを何十本も、フランドールの急所に向けて投げた。時間が動いた。ナイフが迫った。

フランドールが手を握った。ナイフが消えた。

 

「時間停止にも、目がある」

 

フランドールが言った。咲夜を見ながら。

 

「概念にも現象にも、すべてに目がある。だから、私はそれも壊せる」

「…なんでもありですね」

 

咲夜は呟いた。それでも、諦めなかった。

ナイフを何千本も展開した。時間を止めながら、フランドールの周囲を完全に囲んだ。時間が動いた。ナイフが一斉に飛んだ。

フランドールが両手を握った。すべてのナイフが消えた。

そしてフランドールは、咲夜を見た。

 

「目障り。あなたも壊すわ」

 

手を握った。咲夜に向かって。虚空を。

咲夜の身体が、内側から光り始めた。

 

「咲夜!」

 

俺は叫んだ。

赤い影が動いた。

レミリアだった。満身創痍のまま、一瞬で咲夜の前に出た。咲夜を抱えて、爆発の外へ出た。空間が歪んだ。爆発が、咲夜がいた場所を抉った。

 

「お嬢様……」

 

咲夜がレミリアの腕の中で呟いた。

レミリアは血まみれだった。服は破れ、髪が乱れていた。それでも、咲夜を抱えたまま立っていた。

 

「フランに……再生能力を破壊されてる…だが、これぐらいは、まだ動ける」

 

レミリアが呟いた。

今だ。

俺は全力で飛んだ。霊力を足に集中させ、一気に加速した。フランドールの注意がレミリアと咲夜に向いている間に、距離を詰めた。

フランドールが気づいた。目を向けた。

間に合わなかった。

拳が、フランドールの腹に入った。霊力を一点に絞った、密度の高い打撃だった。

 

「——」

 

フランドールの身体がくの字に曲がった。息が止まった。

止まらなかった。霊力を右足に集め、脇腹を蹴った。フランドールが横に吹き飛んだ。空中で翼を広げて体勢を立て直した。

俺は追った。距離を詰めて、肘を振り下ろした。フランドールが地面に叩きつけられた。

鈍い音がした。土煙が上がった。

しばらく、動きがなかった。

煙が晴れた。

フランドールが、ゆっくりと起き上がっていた。

血が流れていた。額から、口から。赤い血が、服を汚していた。

 

「……痛い」

 

フランドールが呟いた。

その声は、さっきまでとまるで違った。楽しさも余裕も、何もかも抜け落ちていた。ただ、子供が痛みを覚えた時の声だった。

 

「これが、痛みなの」

 

自分の手を見た。血が滲んでいる手を。しばらく、それを見ていた。

 

「四百九十五年間、感じたことがなかった。誰にも、触れられたことがなかったから」

 

その言葉で、俺の足が止まった。

四百九十五年間、誰にも触れられなかった。殴られたことも、抱きしめられたことも、手を握られたことも、何もなかった。

この少女が初めて感じた他者の接触が、俺の拳だった。

 

「……悪い」

 

言っていた。思わず。

フランドールが俺を見た。不思議そうに。

 

「なんで謝るの。戦いで傷つけたのに」

「それでも」

 

言葉が続かなかった。うまく説明できなかった。

 

「お前が初めて感じた痛みが、俺の拳だったことは、すまないと思っている。もう少しましな感じ方があったはずだろ」

 

フランドールは、しばらく俺を見ていた。

 

「変な人間ね」

 

それから、笑った。

さっきまでの笑顔とは違った。無邪気でも狂気でもない、何か別のものが混じっていた。

 

「でも、もっと戦いましょう。痛みを感じながら戦うのも、悪くないかもしれない」

 

光弾が、再び出現し始めた。

だが、その笑顔の中に、俺はさっきまでとは違う何かを見ていた。

四百九十五年間、誰かに触れられることがなかった少女が、初めて誰かの存在を身体で感じた。その事実が、この少女の中で何かを変えていた。

痛みを知った、ということは。

誰かがいる、ということを知った、ということだ。

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