転生博麗   作:ライダー☆

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第十二話 続く異変

異変は、解決した。

紅霧異変と呼ばれた異変は、終わった。完全に、決着がついた。

霧が晴れ、太陽が戻り、幻想郷に平和が訪れた。久しぶりの、本当の平和が。

だが、その顛末は――

 

「号外!号外!博麗の巫女、紅魔館の吸血鬼を撃破!幻想郷に光が戻る!」

 

天狗の新聞記者、射命丸文が書いた記事によって、幻想郷中に広まった。瞬く間に、すべての場所に。

その記事は、かなり誇張されていた。いや、誇張という言葉では足りないほどに、脚色されていた。

 

『博麗の巫女、霊夢。四年間の沈黙を破り、ついに覚醒!その力は凄まじく――五百年を生きる吸血鬼、レミリア・スカーレットを、圧倒的な力で打ち倒した!その戦いは壮絶を極め、紅魔館は崩壊!幻想郷を覆っていた紅い霧は消え去り、太陽が戻った!まさに、博麗の巫女の面目躍如!幻想郷の守護者としての力を、見せつけた!』

 

まるで、英雄譚のように。まるで、神話のように。脚色され、美化され、誇張されている。

だが、それでも――事実は事実だった。核心は、変わらない。

霊夢が、異変を解決した。博麗の巫女が、役目を果たした。

人里では、祝福の声が上がった。

 

「博麗の巫女様が戻ってきた!」

「四年間、待った甲斐があった!」

「これで、また安心して暮らせる!」

 

人々は、喜んだ。安堵した。涙を流した。子供たちは笑い、老人たちは安心し、すべてが元に戻った。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

博麗神社。

俺は、新聞を読んでいた。文が書いた、誇張だらけの新聞を。苦笑しながら、何度も読み返しながら。

 

「……やりすぎじゃないかな、これは」

 

記事には、俺がレミリアを一撃で倒したと書かれている。実際は、何度も攻撃して、ようやく倒したのに。死にかけながら、必死に戦ったのに。圧倒的に勝ったと書かれている。実際は、一度死んでいるのに。

そして、霊夢のことは、一切書かれていない。

俺と霊夢が融合したことも、霊夢が消えたことも。霊夢が自分を犠牲にしたことも。

 

幻想郷の人々が称えているのは、「博麗霊夢」だ。

俺じゃない。

いや、俺は霊夢だ。この身体も、この力も、この名前も。

だが、その「博麗霊夢」を作ったのは、俺じゃない。霊夢が積み上げてきたものが、あったから。四年間引きこもりながらも、ここに神社を守り続けた霊夢が、いたから。

 

「……お前が解決した異変だよ、霊夢」

 

俺は呟いた。空を見上げながら。青い空を。風が、緩やかに吹いている。

返事は、ない。当然だ。

でも、風が動いた気がした。それだけで、十分だった。

ふと、霊夢の記憶の中に、ある人物の姿が浮かんだ。

紫色の長い髪。扇子を持った、優雅な妖怪。

霊夢の記憶の中で、何度も登場する存在だった。

引きこもっていた霊夢の神社に、何度も訪れていた。扉越しに、声をかけ続けていた。

「霊夢、元気にしてる?」「無理しなくていいのよ」「ゆっくり、休んでいいから」と。

霊夢を、本当に大切にしていた存在だった。

その妖怪が、俺が転生してからというもの、姿を現さない。気配は感じる。時々、神社の周りに。だが、来ない。

霊夢の変化に、気づいていないはずがない。あれほど霊夢を知っていた存在が。

なぜ、黙っているのか。今は、わからない。

だが、敵ではないと思う。少なくとも、霊夢の記憶の中のその妖怪は、そういう存在ではなかった。

答えが出ない問いを、これ以上考えても仕方ない。その妖怪が動くなら、その時に話せばいい。

 

「……まあ、いっか」

 

俺は新聞を置いた。縁側に出て、空を眺めた。

異変は、終わった。幻想郷に、平和が戻った。

それで、いい。それで、十分だ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

数日後。

俺は、神社で掃除をしていた。箒を使って、境内を掃いている。丁寧に、隅々まで。落ち葉を集め、ゴミを拾い、綺麗にしていく。

四年間放置されていた神社は、荒れていた。あちこちが傷んでいた。だが、少しずつ綺麗になっている。毎日の積み重ねで。

霊夢が愛した神社を、守るために。

 

「……霊夢なら、どう思うかな」

 

俺は呟いた。箒を動かしながら。

霊夢は、この神社が好きだった。記憶の中の霊夢は、いつも神社を大切にしていた。引きこもる前は。掃除をし、手入れをし、守っていた。

だから、俺も守る。霊夢の大切な場所を。

その時――

 

「霊夢ー、いるかー!」

 

声が聞こえた。聞き覚えのある、元気な声が。

魔理沙が、参道を上ってくる。箒に乗って。空を飛んで。いつものように。

 

「よう、霊夢!」

 

魔理沙は、俺の前に降り立った。軽やかに、優雅に。笑顔で。いつもの笑顔で。

 

「元気にしてるか?」

「ああ。元気だ」

 

俺は頷いた。

魔理沙は、あれから回復していた。傷も治り、元気になっていた。以前と変わらない、元気な魔理沙に戻っていた。

 

「それは良かった。あの後、心配だったんだぜ。お前、結構無理してただろ?顔色も悪かったし」

「……まあな」

 

否定しても、意味がない。レミリアとの戦いは、限界まで力を使った。霊夢の力を、すべて使った。

 

「でも、もう大丈夫だ」

「そっか」

 

魔理沙は安心したように笑った。ほっとしたように。

 

「ま、来た理由は現状確認もあるが……今日は用があって来たんだ」

 

魔理沙は、懐から手紙を取り出した。封筒に入った、手紙を。高級そうな封筒を。

 

「これ、お前宛てだ」

「……誰から?」

「レミリアからだ」

 

その名前に、俺は目を見開いた。

 

「レミリアから?」

「ああ。私のところに、咲夜が持ってきたんだ。『博麗の巫女に渡してほしい』って。丁寧に頭を下げてさ。何が書いてあるかは知らないけど、咲夜の顔、真剣だったから」

 

俺は、手紙を受け取った。

封筒は、高級そうだった。手触りが良く、重厚感がある。紅い封蝋がしてある。蝙蝠の紋章が刻まれている。

俺は、封を開けた。慎重に、破らないように。中には、便箋が入っていた。美しい字で、文章が書かれている。流麗な筆跡で。

読み始める。

 

『博麗の巫女、霊夢殿

まず、感謝と謝罪を。

貴女は、私を救ってくれた。あのまま暴走を続けていれば、私は自滅していただろう。幻想郷を破壊し尽くし、己も消えていただろう。それを、止めてくれた。

この恩は、永劫忘れることはない。吸血鬼は、恩を忘れない種族だ。貴女が困った時は、いつでも紅魔館の扉を叩きなさい。これは、レミリア・スカーレットの名において誓う。

そして、紅霧異変を起こしたことを、心から謝罪する。人間を苦しめた。作物を枯らし、病を広めた。できる限りの償いをするつもりだ。人里への物資支援は、すでに始めている。

それから、咲夜のことについても。

私は、愚かだった。咲夜が私を想ってくれていたことに、気づいていなかった。咲夜を人間として見ていなかった。それが、どれほど残酷なことか。咲夜が死んだ時、初めてわかった。あの痛みは、五百年生きてきて、初めて感じたものだった。

今度こそ、咲夜を大切にする。誓う。

さて、本題だ。

私の妹について、話さなければならない。

フランドール・スカーレット。私のたった一人の妹だ。彼女は強大な破壊の力を持っているが、制御できない。そのため、私は妹を地下室に閉じ込めていた。四百九十五年間。

だが、館が崩壊した際、封印が解けてしまった。妹が外に出た。四百九十五年ぶりに。

妹は今、暴れている。閉じ込められていた反動で。美鈴が妹の攻撃を受け、重傷を負った。命は取り留めたが、予断を許さない状態だ。

私と咲夜とパチュリーだけでは、妹を止められない。妹は、私以上に強い。

だが、傷つけたくない。殺したくない。四百九十五年間閉じ込めていたのは、私の罪だ。妹の人生を奪ったのは私だ。だから、妹を傷つける権利は私にはない。

そこで、貴女に頼みたい。妹を止めてほしい。傷つけずに。

貴女なら、できると信じている。暴走していた私を、貴女は止めてくれたから。

報酬は、何でも出す。

紅魔館があった場所で、待っている。

レミリア・スカーレット』

 

俺は、手紙を読み終えた。

 

「……」

 

しばらく、黙っていた。

感謝と謝罪は、心がこもっていた。レミリアらしい、誇り高い言葉で。後悔が、決意が、滲んでいた。

だが――

 

「四百九十五年か」

 

俺は呟いた。その数字を、口の中で転がすように。

七歳の時から、ずっと。四百九十五年間、地下に閉じ込められていた妹。

レミリアなりの理由があったんだろう。妹が暴走すれば、幻想郷が滅ぶ。それを防ぐための判断だったんだろう。

でも――四百九十五年間閉じ込めること自体が、妹を傷つけていたんじゃないのか。その間、パチュリーのような魔法使いがいながら、他に方法はなかったのか。

わからない。俺には、わからない。レミリアが何を試して、何を諦めたのかを、俺は知らない。

 

「……まあ」

 

俺は首を横に振った。

 

「今更責めても、仕方ない」

 

レミリアはすでに後悔している。咲夜のことも、妹のことも。問題は、今どうするかだ。

美鈴が、重傷を負った。それは事実だ。あの美鈴が、瀕死になるほどの攻撃を受けた。

フランドール・スカーレット。レミリア以上の力を持つ吸血鬼。四百九十五年間閉じ込められていた妹。

止めなければならない。だが、傷つけずに。

 

「……できるか?俺に」

 

俺は手紙を見た。

できるかどうかは、やってみなければわからない。でも、行かないという選択肢は、俺にはない。

美鈴が、待っている。レミリアが、待っている。咲夜も、待っている。あの、死から戻ってきた咲夜が。

 

「魔理沙」

 

俺は言った。

 

「ん?」

「行くぞ」

「……紅魔館に?」

「ああ」

 

俺は頷いた。

 

「美鈴を助ける。それから、フランドールを止めなくちゃいけない」

 

魔理沙は、少し黙った。考えるように。そして――

 

「わかった」

 

魔理沙は頷いた。笑顔で。

 

「私も行く」

「お前も?いいのか?」

「当たり前だろ」

 

魔理沙は笑った。いつものように。

 

「お前一人で行かせるわけにはいかないぜ。それに、美鈴も心配だ」

 

そして、魔理沙は言った。

 

「友達だろ?」

 

その言葉が、胸に刺さった。

魔理沙は、俺を霊夢だと思って言っている。ずっと、そう思っている。霊夢の友達として。霊夢の相棒として。

その言葉を、俺が受け取っていいのか。

わからない。

でも、今は受け取るしかない。霊夢の代わりに、俺が受け取るしかない。

 

「ああ」

 

俺は言った。

 

「友達だ」

 

俺は、手紙を懐にしまった。大切に、丁寧に。

そして、立ち上がった。

 

「じゃあ、行くか」

「ああ」

 

魔理沙も、箒に跨った。いつものように。

俺も、霊力を足に集中させる。気を巡らせる。自然に、当たり前のように。

 

「紅魔館へ!!」

 

俺は言った。

そして、二人は、空へと飛び立った。

紅魔館へ。再び、あの場所へ。

今度は、フランドールを止めるために。美鈴を救うために。

霊夢との約束を、果たすために。

お前が守りたかったものを、俺が守る。

その約束だけを、胸に持って。

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