フランドールは、俺を見ていた。
光弾が、再び出現し始めていた。
フランドールが「もっと戦いましょう」と言い、その言葉通りに力が戻ってきていた。だが、さっきまでとは何かが違った。密度は高い。だが、一発一発の動きが、わずかに変わっていた。
俺はそれを感じながら、構えた。
魔理沙と咲夜が、左右に散った。
フランドールは浮いていた。両手を広げていた。だが、その目は俺を見ていた。「痛み」を知った後の目で。
「やっぱり、楽しい」
呟いた。だが、その声の奥に、楽しさだけではないものが燃えていた。
「こんなに話せたのは、初めてだった。でも」
光弾の密度が上がった。
「まだ、足りない。四百九十五年分は、これじゃ足りない」
フランドールの感情が、そのまま力に変わっていた。
俺は動いた。
霊力を全身に巡らせ、光弾の隙間を縫う。御札を投げた。三枚、続けて。爆発が連鎖した。視界が一瞬開けた。その隙間を抜ける。
「魔理沙、咲夜」
「わかってる」
「はい」
三人は、同時に動いた。
魔理沙が空中から弾幕を展開した。フランドールの視線を分散させるために。咲夜が時間を止め、ナイフをフランドールの死角から投げた。
フランドールは右手を握った。魔理沙の弾幕が消えた。ナイフも消えた。
俺は正面から踏み込んだ。拳を振るった。フランドールが身体を捻ってかわした。至近距離で光弾が放たれた。霊力で防いだ。爆発の衝撃で、二人とも弾き飛ばされた。
着地して、すぐに立て直した。
魔理沙がレーザーを放った。フランドールが左手を軽く握った。レーザーが消えた。
咲夜が時間を止めて近づき、直接刃で切りつけた。フランドールの腕に、血が滲んだ。
フランドールの目が、咲夜を捉えた。手を握った。咲夜が時間を止めて移動した。爆発が、咲夜がいた場所を抉った。
三人は、攻撃を続けた。
俺は御札を投げ、踏み込み、霊力を放った。魔理沙は弾幕を展開し、側面からレーザーを撃った。咲夜は時間を止めてはナイフを投げ、また止めては切りつけた。
フランドールの動きが、少しずつ鈍くなった。傷が増えた。吸血鬼の回復力があるはずだが、三人の攻撃がそれを上回っていた。
フランドールが、一歩後退した。
「なんで」
息を切らしながら、呟いた。
「私の方が、強いはずなのに」
「強い」
俺は言った。
「だが、一人だ。俺たちは三人で動いている」
「一人じゃ、どれだけ強くても限界がある。」
魔理沙が言った。
「どれだけ強くても、一人では届かないことがあります」
咲夜が言った。
フランドールの目が、揺れた。
四百九十五年間、一人だった。連携も、協力も、知らない。
「……そう」
フランドールが呟いた。
それから、叫んだ。
「私は、自由になりたかっただけ。」
声が、庭に響いた。
「四百九十五年間、閉じ込められていた。誰も会いに来なかった。外に出たかっただけだ。空を飛びたかった。風を感じたかった。それだけだった」
涙が、流れていた。
「力が強いことが、罪なの?生まれた時からそうだっただけで、なんで閉じ込められなきゃいけないの。私のせいじゃない。選べなかった。それが、そんなに許されないことなの」
フランドールの叫びが、止まった。
静寂があった。
誰も、何も言えなかった。
フランドールは正しかった。完全に正しかった。
「なら、幻想郷を破壊する」
フランドールが言った。静かに、だが確かに。
「私を閉じ込めたこの世界を、すべて壊す」
光弾が、これまでとは比較にならない数で出現した。空が、紅く染まった。太陽の光が遮られた。
これは、まずい。
「魔理沙、咲夜、散開しろ!」
光弾が一斉に放たれた。無差別に、幻想郷全体へ向かって。地面が抉れた。館の壁が崩れた。木が折れ、燃えた。
俺は御札を展開した。光弾を相殺するために。幻想郷への飛散を、少しでも防ぐために。魔理沙が弾幕を放った。咲夜が時間を止めて、ナイフを投げ続けた。
だが、数が多すぎた。
魔理沙の背後に、光弾が迫った。死角から。
「魔理沙」
咲夜が叫んだ。
時間を止めて、魔理沙の前に出た。光弾が咲夜に当たった。爆発が起きた。
「咲夜!」
煙が晴れた。咲夜が地面に倒れていた。血を流していた。
「魔理沙、大丈夫ですか」
かすれた声で呟いた。
「なんで…」
魔理沙が駆け寄った。咲夜を抱き起こした。
「あなたの方が、力があります。すみません、もう戦えません」
目を閉じた。意識が途絶えた。
「咲夜!」
魔理沙が叫んだ。
俺は拳を握った。咲夜が倒れた。魔理沙を守って。
残るのは、俺と魔理沙だけだ。
「行くぞ、魔理沙」
「ああ」
その時、赤い影が動いた。
レミリアだった。
満身創痍のまま、フランドールに突撃した。
「フラン」
拳が、フランドールの背中に叩き込まれた。
「お姉様?」
フランドールが地面に転がった。信じられない顔で、レミリアを見上げた。
レミリアは立っていた。血が止まっていなかった。服は破れていた。それでも、目に意志があった。
「やめろ。これ以上、暴れるな」
「なんで。お姉様は私を閉じ込めた。私の人生を奪った。なのに、なんで止めるの」
「私が、間違っていたからだ」
レミリアは言った。
「お前を閉じ込めた。四百九十五年間。それは間違いだった。取り返しのつかない過ちだった」
一歩、前に出た。
「フラン。破壊は何も生まない。お前が求めているのは自由だろう。生きることだろう。なら、生きろ。これから、私と一緒に。」
「偽善」
フランドールが言った。静かに、だが確かに。
「私を閉じ込めておいて、今更一緒に生きろと。お姉様は一度も、私のために変わろうとしなかった。今だってそうでしょう。お姉様が変わったかどうか、私には証明できない」
レミリアは、答えられなかった。
「そうだ」
間を置いて、言った。
「証明できていない。言葉だけ。それでも言わせてくれ。私はお前を愛している。四百九十五年間、間違ったやり方でしか表せなかったが、それは本当だ」
「黙れ」
フランドールが叫んだ。
「愛してるなら、なんで四百九十五年も来なかった。愛してたら、そんなことできない。お姉様が奪ったんでしょう。私からすべてを。笑うことも、泣くことも、誰かと話すことも、全部」
涙が止まらなかった。
「今更、綺麗事を言わないで」
レミリアは、また黙った。
それでも、前に出た。
「お前の言う通りだ。逃げた。向き合うのが怖くて、来なかった。それが現実だ。弁解しない」
また一歩、フランドールに近づいた。
「お前が許さなくていい。怒っていていい。憎んでいていい。でも、生きてくれ。お前が生きている限り、私は向き合い続ける」
「みんな、敵だ」
フランドールが叫んだ。光弾が一斉に放たれた。
「魔理沙」
俺は魔理沙の肩を掴んだ。
「全力を溜めろ。ありったけの魔力を」
「何をする気だ」
「レミリアがフランを引きつける。その間に溜めて、最大の一撃をぶつける。それしかない。」
魔理沙は頷いた。咲夜を地面に横たえて、両手を前に出した。魔力が、集まり始めた。限界まで。身体が光り始めた。空気が歪んだ。
俺はレミリアに加勢した。
レミリアとフランドールが、ぶつかった。拳と拳が交わった。姉妹の力が、真正面からぶつかり合った。衝撃波が広がった。地面が割れた。
レミリアが連続で拳を振るった。フランドールが受け止めながら後退した。その隙に俺が側面から踏み込んだ。拳がフランドールの頬をかすめた。
レミリアが蹴りを放った。フランドールの脇腹に入った。フランドールが後退した。
俺とレミリアが左右から同時に踏み込んだ。フランドールが跳んで両方をかわした。だが着地の瞬間、俺が背後から肘を打ち込んだ。フランドールが前に吹き飛んだ。
着地した。立ち上がった。傷が増えていた。息が荒かった。
俺もレミリアも、傷だらけだった。息が上がっていた。それでも、止まらなかった。
「二人がかりなんて…」
フランドールが言った。両手を広げた。光弾を生成しようとした。
俺の拳が先に届いた。腹に、深く。フランドールが折れた。レミリアの拳が背中に入った。フランドールが地面に落ちた。膝をついた。血を吐いた。
「魔理沙!」
「今だ!」
極太の光線が放たれた。魔理沙のすべてを込めた一撃が。虹色の光線が、大気を焼きながらフランドールに向かって走った。
フランドールが目を見開いた。
光線が迫った。
次の瞬間、空間が歪んだ。
音もなく、前触れもなく。空間の一点が、静かに裂けた。
光線が、消えた。音もなく。熱もなく。跡形もなく。
「何だ」
魔理沙が呟いた。
フランドールが、誰かの腕の中にいた。
気絶していた。傷だらけのまま、静かに眠っていた。
抱いているのは、女性だった。
金色の髪が、陽光の中で輝いていた。九本の尾が、静かに揺れていた。和服の裾が、風もないのに揺れていた。その存在が動くだけで、空気の密度が変わった。
「これ以上幻想郷を壊すことは、見過ごせません」
静かな声だった。感情の起伏がなかった。だが、その声には途方もない時間の重みがあった。
女性は、フランドールを丁寧に抱いたまま、俺を一瞥した。
何も言わなかった。だが、その目が何かを言っていた。
「……誰!?」