転生博麗   作:ライダー☆

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第十五話 レーヴァテイン

「……ちっ」

 

俺は、地面から立ち上がった。よろめきながら、だが確実に。足に霊力を集中させ、一歩ずつ力を込めながら。身体が、痛い。全身が痛む。骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。しかし、動ける。まだ、戦える。霊夢の力が、俺を支えている。

 

「魔理沙、大丈夫か?」

「ああ、何とかな」

 

魔理沙が答える。空中で、宙に浮きながら。箒なしで浮いている。純粋な魔力だけで、空中に留まっている。息が荒く、肩で息をしている。疲労が、顔に出ていた。

フランドールは、空中で悠然と浮いている。余裕を持って、まるで世界のすべてを手に入れたかのように。両手を広げて、神を気取るかのように。笑顔で。無邪気な、だが恐ろしい笑顔で。

 

「さあ、続きをしましょう」

 

フランドールが言った。楽しそうに。心から楽しそうに。まるで、これが最高の遊びだと言わんばかりに。四百九十五年間味わえなかった喜びを、今、思う存分味わっているかのように。

無数の光弾が出現する。先ほど以上に、比較にならないほど多く。数千発、いや数万発。もはや数えることすら不可能なほどの数が、空間を埋め尽くす。

 

「はっ!!」

 

俺は霊力を放出する。防御のために。光弾が、俺に向かって飛んでくる。凄まじい速度で。音速を超えて。空気を引き裂いて。俺は横に跳ぶ。地面を蹴って、全力で、限界まで霊力を足に集中させて。光弾が地面に当たり爆発する。轟音を立てて。石畳が粉々に砕け、破片が俺の頬を掠める。血が、流れる。

 

「くそ……」

 

俺は走る。全速力で。光弾を避けながら。右に、左に、ジグザグに。魔理沙も、空中で必死に避けている。箒がない分、動きが制限されていて、魔力だけで飛ぶのは消耗が激しい。長くは、持たないだろう。

光弾の数が多すぎる。避けきれない。すべてを避けるのは、不可能だ。

 

「魔理沙!!」

 

俺は叫んだ。援護を求めて。

 

「わかってる!」

 

魔理沙が弾幕を放つ。星型の弾幕を。虹色に輝く弾幕を。何百発もの星が、空間を飛ぶ。フランドールの光弾に向かって。

フランドールが手を握る。ぎゅっと。何もない空間を。魔理沙の弾幕が、消える。一瞬で。破壊される。音もなく、光もなく。

 

「……またその破壊か!」

 

魔理沙が呆然とする。何度見ても、慣れない。

「何度やっても、同じよ。私の能力の前では、すべてが無意味」

フランドールが言う。笑いながら。勝利を確信した者の余裕で。

その時だった。

時間が、止まった。正確には、フランドールの動きが止まった。光弾も、空中で静止した。まるで、時間の流れから切り離されたかのように。

 

「こっちにまで流れ弾が飛んでくるわ。お嬢様にこれ以上、危害は加えてほしくない。それに……ナイフも十分集まったわ」

 

咲夜だ。咲夜が、時間を止めた。フランドールを、止めた。全力で。

咲夜が、ナイフを投げる。何十本も。懐から取り出し、一気に。フランドールの急所を狙って。心臓を、頭を、首を。

時間が、動き出す。ナイフが、フランドールに迫る。あと数メートル。あと一瞬。

フランドールが手を握った。軽く、何でもないことのように。まるで、虫を払うかのように。ナイフが、すべて消える。一瞬で。何十本ものナイフが、すべて。

 

「私のナイフが……時間停止さえも通用しない!?」

「時間を止めても、無駄よ」

 

フランドールが言う。咲夜を見ながら。興味深そうに、だが冷たく。

 

「時間停止という現象にも、小さな『目』がある。概念にも、現象にも、すべてに。だから、私はそれも破壊できる」

 

咲夜が、目を見開く。理解が、追いつかない。

 

「……なんでもありですね」

 

咲夜は呟いた。か細い声で。それでも、諦めない声で。咲夜は、ナイフを投げ続ける。全力で。すべてを賭けて。何千本も、時間を止めながら、フランドールの周囲を完全に囲む。上下左右、すべての方向から。逃げ場がないように。時間が、動き出す。何千本ものナイフが、一斉にフランドールに向かって飛ぶ。すべての方向から。音を立てて。空気を切り裂いて。

咲夜は、一気にフランドールへと近づく。全速力で。自分の時間を加速させて。距離を、一瞬で詰める。

ナイフが、フランドールに迫る。あと数メートル。あと一瞬。

フランドールが、両手を広げた。大きく、天を仰ぐように。握った。両手で。ぎゅっと。すべてのナイフが、消えた。一瞬で。何千本ものナイフが、すべて。

フランドールが、咲夜を見た。真っ直ぐに。深紅の瞳で。冷たい瞳で。

 

「目障りね……あなたも、破壊するわ」

 

フランドールが、手を握った。咲夜に向かって。虚空を、握った。

咲夜の身体が、内側から光った。存在が、否定されようとしている。細胞が、分解されようとしている。

 

「咲夜!」

 

俺は叫んだ。声を限りに。咲夜が死にかけている。

あの時と同じだ。あの時、死んで、それでも生き返った咲夜が、また――。

 

その瞬間、赤い影が動いた。流星のように。彗星のように。

レミリアだ。レミリアが、高速で動いた。吸血鬼の全速力で。五百年の経験で培った速度で。一瞬で、咲夜の前に到達し、咲夜を抱えて離脱する。爆発が起こる。空間が歪む。咲夜はいない。すでに、そこにいない。

レミリアが、咲夜を救った。命がけで。満身創痍の身体で。血まみれで、全身が傷だらけで、服は破れ、髪は乱れ、顔は血で汚れている、そんな身体で。

それでも、動いた。咲夜を救うために。

 

「お嬢様……!」

 

咲夜が呟く。レミリアの腕の中で。驚愕しながら。

俺は、その瞬間を見た。そして、動いた。

計算したわけじゃない。咲夜が危ないと思って叫んだのは、本当の感情だった。フランドールの注意が逸れたのは、結果に過ぎない。

ただ、今ここで動かなければ、という本能が、身体を走らせていた。

 

「フランに……私の身体もかなりやられてるが……これぐらいは動けるみたい」

 

レミリアが呟いていた。それだけの言葉が、俺の耳に届いた。

今だ。今しかない。

俺は、全力で飛んだ。霊力を足に集中させ、一気に加速する。限界まで。限界を超えて。地面を蹴る。石畳を砕くほどの力で。空気を蹴る。音速を超えて。衝撃波を纏って。一瞬で、フランドールに到達する。

フランドールが、気づく。視線を、俺に向ける。目を、見開く。

遅い。

俺の拳が、フランドールの腹に叩き込まれた。深く。霊力を込めて。全力で。霊夢の力を、すべて解放して。

 

「あっ…!!」

 

フランドールの身体が、くの字に曲がる。小さな身体が。子供の身体が。目を見開く。驚愕の表情で。息が止まる。

俺は、止まらない。足蹴りを放つ。右足を振り上げて。霊力を込めて。フランドールの脇腹に。全力で。容赦なく。

フランドールの身体が、横に吹き飛ぶ。小さな身体が、ボールのように。空中で体勢を立て直す。翼を使って。虹色の翼を。

俺は、跳ぶ。フランドールを追いかけて。

地面を蹴って、空中に。霊力で、飛ぶ。距離を、一瞬で詰める。肘打ちを放つ。右肘を振り下ろして。全体重を乗せて。フランドールの頭に。真上から。容赦なく。

フランドールの身体が、地面に叩きつけられる。

凄まじい速度で。隕石のように。

ドガン、という音。地震のような轟音。地面が、砕ける。大きく、深く。クレーターができる。土煙が、上がる。視界を、遮る。

 

「……うぐっ……!!」

 

フランドールが、唸る。痛そうに。苦しそうに。呼吸が、乱れている。

 

「……よし!」

 

フランドールが、クレーターから立ち上がった。ゆっくりと、だが確実に。小さな身体を起こし、足を地面につけ、頭を上げる。血が、流れている。額から、口から、腕から。赤い血が、服を汚している。

初めて見る光景だった。フランドールが、傷ついている。

 

「……痛い」

 

フランドールが呟いた。

その声は、さっきまでと違った。楽しさも、余裕も、狂気も、すべてが抜け落ちていた。ただ、一人の子供が呟くような声で。

 

「これが、痛みなの?」

 

フランドールは、自分の手を見た。血が滲んでいる手を。傷ついた手を。

しばらく、それを見ていた。

 

「四百九十五年間、感じたことがなかった。誰にも、触れられたことがなかったから」

 

その言葉に、俺は動けなくなった。

四百九十五年間、誰にも触れられたことがなかった。殴られたことも、抱きしめられたことも、手を握られたことも、何も、なかった。

痛みを与えたのは、俺だ。傷をつけたのは、俺だ。

だが、これが初めて誰かに触れられた感覚だというなら。

 

「……すまない」

 

俺は言った。思わず、言っていた。

フランドールが、俺を見た。不思議そうに。

 

「なんで謝るの?戦いで傷つけたのに」

「それでも」

 

俺は言った。うまく言葉にできなかったが、それでも言った。

 

「お前が初めて感じた痛みが、俺の拳だったことは、すまないと思うぜ。」

 

フランドールは、しばらく俺を見ていた。何かを、考えるように。

 

「変な人間ね」

 

そして、フランドールは笑った。さっきまでの笑顔とは、少し違う笑顔で。

 

「でも、もっと戦いましょう。痛みを感じながら戦うのも、悪くないかもしれない」

 

光弾が、再び出現し始める。

だが、俺はその笑顔の中に、さっきまでとは違う何かを感じていた。狂気だけではない、何かを。

傷つくことを、知った少女の顔を。

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