転生博麗   作:ライダー☆

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妖々夢
第十七話 白銀の春


翌日、昼時。

 

太陽が中天に達し、影が最も短くなる時刻。光が真上から降り注ぎ、万物が等しく照らされる時刻。

藍は、約束通り博麗神社に現れた。

音もなく、気配もなく。まるで、最初からそこにいたかのように。空間から滲み出るように、姿を現した。存在が、突如として顕現した。

俺は、神社の境内で待っていた。

準備を、していた。スペルカードルールについて、考えを巡らせていた。思考を、整理していた。

どのようなルールにすべきか。どのように戦うべきか。どのように美しさを競うべきか。どのように幻想郷の秩序を保つべきか。

一晩中、考えた。眠らずに、考え続けた。目を閉じる暇もなく、思考を重ねた。

 

「来たか」

 

俺は言った。藍を見ながら。立ち上がり、迎える。

 

「約束通りだ」

 

藍が答えた。簡潔に。感情を込めずに。

二人は、境内に座った。向かい合って。

そして、話し合いが始まった。

スペルカードルールの、具体的な内容について。決闘の方法について。勝敗の決め方について。細部に至るまで、すべてを。

俺は、提案した。藍は、聞いた。

藍は、修正した。俺は、理解した。

何度も、何度も。議論を重ね、言葉を交わし、理解を深めた。一つ一つの文言を吟味し、意味を確認し、矛盾がないか検証した。

時間が、過ぎる。太陽が、動く。影が、伸びる。

だが、二人は止まらない。話し続ける。議論を、続ける。

やがて、形が見えてきた。スペルカードルールの、具体的な形が。実践可能な、現実的な形が。

決闘は、スペルカードを使って行う。

スペルカードには、技の名前と意味を記す。美しい名前を。深い意味を。

相手のスペルカードを破るか、回避し続けるか。それで、勝敗を決める。力だけでなく、技術と美しさで。

殺してはいけない。傷つけるのも、最小限に。命を奪うことは、禁じられる。

美しさを競う。思念を込める。意味を持たせる。ただの暴力ではなく、芸術として。

それが、スペルカードルールだ。幻想郷の新しい秩序だ。

 

「……これで、いいだろう。」

 

藍が言った。満足そうに。長い議論の末に。

 

「ああ」

 

俺は頷いた。疲労を感じながらも。

ルールが、決まった。幻想郷の新しい文化が、生まれた。歴史的な瞬間だった。

藍が、立ち上がる。去ろうとする。役目を終えたかのように。

「待て」

俺は言った。藍を呼び止めて。思い切って。

藍が、振り向く。疑問の目で。何か、という目で。

 

「一つ、訊きたいことがある」

 

俺は言った。迷いながら。だが、訊かなければならない。ずっと、気になっていた。

「八雲紫という存在について、何か知らないか?」

その名前を、口にした。ずっと気になっていた名前を。謎に包まれた名前を。

藍の表情が、変わった。わずかに、だが確かに。目が、細められる。警戒が、滲む。

数刻、黙った。

沈黙が、流れる。重い沈黙が。圧迫するような沈黙が。

風が、吹く。冷たい風が。二人の間を、通り過ぎる。

やがて、藍が口を開いた。慎重に、言葉を選びながら。

 

「……紫様については、私の口から語ることはできない」

 

藍が言った。はぐらかすように。だが、その言葉に俺は反応した。

 

「紫様?」

俺は訊き返した。驚きを隠さずに。

 

「お前は、八雲紫を知っているのか。それも、様付けで呼ぶほどに…」

 

藍の表情が、さらに変わった。しまった、という顔だ。口を滑らせた、という顔だ。

俺は、理解した。瞬時に、確信を持って。

 

「口を滑らせたらしいな……。教えてくれ。お前は、八雲紫と関係があるのか?どういう関係だ?主従か?仲間か?それとも――」

「それ以上は、訊かないでくれ」

 

藍が遮った。強い口調で。拒絶の意志を込めて。

 

「私は、多くを語れない。語ることが、許されていない」

 

藍の目が、俺を見る。真剣な目で。

「ただ、一つだけ言える」

 

藍は続けた。慎重に、言葉を選びながら。

 

「紫様は、幻想郷を見ている。常に、見ている。そして、必要な時に、動く。それだけだ」

「八雲紫は、何者なんだ?」

 

俺は訊いた。食い下がるように。

 

「お前との関係は?なぜ、お前は紫について語れない?何を隠している?」

藍は、答えなかった。ただ、首を横に振る。

 

「いずれ、わかる時が来る。その時まで、待て」

 

それだけ言うと、藍は消えた。

またしても、音もなく。気配もなく。拒絶を形にするかのように。

俺は、一人残された。境内に、一人で。

八雲紫。

その名前が、頭に残る。謎が、深まる。

藍は、紫と関係がある。それも、深い関係が。主従関係、おそらくは。

紫は、幻想郷を見ている。

だが、姿を現さない。直接、動かない。

なぜだ?

何を、企んでいる?

疑問が、増える。答えは、得られない。

俺は、神社に戻った。考えながら。八雲紫という存在について。

 

 

*****

 

 

それから、異変のない生活が続いた。

紅霧異変が解決され、幻想郷に平穏が戻った。人々は、日常に戻った。

人里は、活気を取り戻した。作物が育ち、人々が笑い、子供たちが遊ぶ。市場には人が溢れ、商人の声が響き、生活が営まれる。

妖怪たちも、静かにしていた。大きな争いは、起きない。小競り合いはあっても、命を奪うような戦いは、ない。

スペルカードルールが、広まり始めた。

まだ完全には浸透していないが、少しずつ、認知されている。一部の妖怪が、試し始めている。

俺は、日々を過ごした。

神社の掃除をし、参拝者を迎え、異変がないか見回る。博麗の巫女としての、日常を。

魔理沙も、時々訪れた。相変わらず、元気に。新しい魔法の研究について、語りながら。

咲夜のことは、気になっていた。

痛覚がない。それが、何を意味するのか。世界の歪みの、象徴なのか。

だが、咲夜は紅魔館で働き続けていると聞いた。レミリアに仕え、メイドとして。完璧に、職務を遂行している。

フランドールは、まだ館にいる。だが、暴れてはいない。レミリアと、少しずつ関係を築いているらしい。姉妹としての、絆を。

 

平和な日々だった。穏やかな、日々だった。

だが、季節は移ろう。時は、流れる。

 

辺境から暖かさが奪われ、永い冬が訪れた。

 

寒さが、幻想郷を覆った。厳しい寒さが。骨身に染みる寒さが。

雪が降り、積もり、世界を白く染めた。純白の雪が、すべてを覆い隠した。

白銀の悪魔は幻想郷の人間を黙らせた。

人々は、家に籠もった。外に出ず、暖炉の前で過ごす。寒さに、耐える。

冬は、長かった。いつもより、長かった。記憶にないほど、長かった。

だが、やがて終わる。冬は、必ず終わる。それが、自然の摂理だ。

時は経ち、次第に春の香りが訪れる頃になった。

暦を見れば、春だ。立春を過ぎ、啓蟄も過ぎた。

いつもなら、幻想郷は白い吹雪から桜色の吹雪に変わるはずだったのだ。

雪が溶け、花が咲く。桜が咲き、幻想郷を彩る。桃色の花弁が、空を舞う。

それが、いつもの春だ。毎年繰り返される、美しい光景だ。

 

が、春はまだ来ない。

 

雪は、溶けない。地面を、覆ったままだ。

寒さは、続く。冬の寒さが、居座っている。

花は、咲かない。蕾すら、つけない。

桜も、咲かない。枝は、裸のままだ。

 

おかしい。

 

明らかに、おかしい。自然の摂理に、反している。

これは異変だと霊夢は思うと同時に、魔理沙もそこにやってくる。

その日、俺は神社の境内で雪を掃いていた。

積もった雪を、箒で掃く。毎日の、日課だ。終わりのない、作業だ。

 

「霊夢ー!」

 

声が聞こえた。元気な声が。馴染みのある声が。

魔理沙だ。

魔理沙が、箒に乗って降りてくる。雪の上に。勢いよく、着地する。

 

「よう、魔理沙。」

 

俺は言った。箒を止めて。手を止めて。

 

「どうした、こんな朝早くから」

「霊夢、気づいてるか?」

 

魔理沙が訊いた。真剣な顔で。いつもの軽さが、ない。

 

「何にだ?」

「春が、来ない」

 

魔理沙が言った。はっきりと。

 

「ああ」

 

俺は頷いた。同じことを、考えていた。

 

「春が、来ない」

「そうだ」

 

魔理沙が言った。箒から降りて、俺の隣に立つ。

 

「もう、春のはずなんだ。暦を見れば、春だ。桜が咲くはずなんだ。花が咲くはずなんだ。でも、咲かない。雪も溶けない。寒いままだ。異常気象にしても、ここまでの状態になるなんてありえない。」

 

魔理沙は続ける。腕を組んで。

 

「これは、異変だ。間違いなく」

「ああ」

 

俺は同意した。確信を持って。

 

「また、異変だ」

 

二人は、顔を見合わせた。目が、合う。

異変解決。

また、始まるようだった。博麗の巫女として。幻想郷の秩序を守る者として。

俺は、立ち上がった。箒を置き、身体を伸ばす。関節が、鳴る。

 

「行くか」

 

俺は言った。決意を込めて。

 

「ああ」

 

魔理沙が答えた。同じように、決意を込めて。

二人は、空を見上げた。

雪が降っている。白い雪が。終わりのない雪が。

春が来ない、幻想郷を。異変に覆われた、幻想郷を。

異変解決は、また始まるのだった。

 




Back Story 

「そういえば…お前、マスタースパークだのなんだの名付けてたが、スペルカードルールがある前からだったよな。」

「え?だって、かっこよくないか?ただ光線撃つだけじゃ、物足りないだろ。」

「そんなもんかなぁ………」
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