転生博麗   作:ライダー☆

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第二十話 妨害

どこかの屋敷に、一人の女性がいた。

 

屋敷の内部の構造は、一見しただけでは理解し難い。

廊下が途中で消え、部屋が想定外の場所に繋がり、階段が上に向かっているはずなのに下に出る。

だが、本殿だけは明確だった。「コ」の字型の本殿が、枯山水の中庭を囲うように建てられている。天井と床と障子で区切られ、扇の形に見えるその景色は、文字通りこの世のものではない美しさを誇っていた。白い砂が波のように整えられ、石が島のように配置されている。動かない庭が、動いているように見える。時間が凝縮されたような、そんな庭だった。

二百由旬の広さがあるのではと思うほどに広いその場所で、縁側に、その女性は立っていた。

 

金色の髪。長く、美しい髪が、風もないのに揺れている。紫色の服。複雑な模様が施された、高貴な衣装。そして、その目。深い、紫色の目。すべてを見透かすような、そんな目。

 

八雲紫。

 

彼女は、中庭を眺めている。枯山水の美しさを、静かに鑑賞している。白い砂が波のように整えられ、石が島のように配置されている。動かない庭が、動いているように見える。時間が凝縮されたような、そんな庭だった。

紫は、扇子を手の中で弄んでいた。開いては閉じ、閉じては開く。規則的な動きが、思考のリズムを刻んでいるようだった。

その時、紫は感じ取った。力を。遠くから、こちらに向かってくる力を。二つの力。一つは、霊力。もう一つは、魔力。

 

博麗霊夢と、霧雨魔理沙。

 

「……今ここに来られては、まずい」

 

紫は呟いた。静かに、だが明確に。声に、わずかな焦りがあった。それは珍しいことだった。この女性が焦りを見せることは、滅多にない。

まだ、準備が整っていない。あの二人がここに来るには、早すぎる。順序が、ある。見せるべきものを、見せる順序が。

紫は、扇子を閉じた。右手を、胸の前に上げる。パチン、と指を鳴らす。

その瞬間、空間が歪んだ。二人の行く先が、変わった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

俺は、上昇を続けていた。

魔理沙と並んで、雲に向かって高度を上げていた。桜の花びらが、増えている。確実に、増えている。雪と混じって降ってくる白とピンクの混合が、上に行くにつれてピンクが濃くなっていく。春は、確かにそこにある。

 

「もうすぐだな」

 

俺は言った。

 

「ああ」

 

魔理沙が答えた。目を細めて、上を見ながら。その口元に、わずかな笑みがある。

その時、世界が歪んだ。視界が、ぐにゃりと曲がる。空間が、捻じれる。

 

「ッ!?」

 

身体が、引っ張られる。強制的に、どこかへ。抵抗しようとするが、無駄だ。力が、強すぎる。霊力を展開しようとするが、間に合わない。一瞬で、世界が変わった。

俺は、地面に立っていた。雪が積もった、地面に。

周囲を見渡す。村だ。小さな、村だ。だが、人がいない。誰もいない。静かすぎる。不気味なほどに。家屋はある。生活の痕跡もある。だが、住人がいない。まるで、時間だけが流れて、人だけが消えたかのような場所だった。

 

「……何が起きた?」

 

俺は呟いた。一瞬で、場所が変わった。空中から、地上に。上昇していたのに、下に戻された。いや、戻されたというより、飛ばされた。誰かが、俺を飛ばした。だが、誰が?なぜ?

俺は、周囲を警戒する。霊力を高め、いつでも戦えるように。

その時、気配を感じた。小さな気配。子供のような、だが油断できない気配が。

振り向く。そこに、少女がいた。

黒い髪。ショートカットの、黒い髪。頭の上に、猫耳がついている。赤い服。中華風の、赤い服。そして、尻尾。黒い、猫の尻尾が、二本。丸い目が、俺をじっと見ている。警戒しているのか、興味があるのか、判断がつかない目で。

 

「……誰だ?」

 

俺は訊いた。

 

「あなたこそ、誰?」

 

少女が訊き返した。子供のような声で。

 

「ここは、迷い家。マヨヒガ。迷い込んだ者が辿り着く場所。あなたも、迷い込んだの?」

「迷い家?」

「そう。マヨヒガ。私は、橙。ここの、住人」

 

橙が、名乗った。

 

「あなたは?」

「……博麗霊夢だ」

 

俺は答えた。

橙が、目を丸くした。

 

「博麗霊夢?博麗の巫女?噂は聞いてる。紅霧異変を解決した、巫女さん」

 

橙が、俺に近づいてくる。興味津々、という顔で。猫耳が、ぴょこぴょこと動いている。

 

「でも、なんでここに?ここは、普通の人は来られない場所なのに」

「俺も、わからない。空を飛んでいたら、突然ここに飛ばされた」

「飛ばされた?」

 

 

橙が、首を傾げた。猫耳が、左右に揺れる。

 

「誰かに?」

「……おそらく」

 

俺は頷いた。

橙の表情が、わずかに変わった。猫耳が、後ろに倒れる。目が、泳ぐ。

 

「……そっか」

 

橙が呟いた。小さく、だが確かに。その声に、何かがあった。知っている、という響きが。飛ばされた、と聞いた瞬間に、何かを理解した、という響きが。

 

「お前、知っているのか」

 

俺は訊いた。

 

「え、えっと……」

 

橙が、視線を逸らした。尻尾が、ぱたぱたと動いている。落ち着きなく、不規則に。

 

「知ってるんだな」

 

俺は言った。断言して。

橙が、しばらく黙った。それから、深く息を吐いた。覚悟を、決めたような息を。

 

「……言えない。誰がやったかは、言えない。言っちゃいけないから」

 

橙が、顔を上げた。今度は、目を逸らさずに、俺を見た。

 

「でも」

 

橙の声が、変わった。子供のような声から、少し違う声に。

 

「あたしには、通してあげられない。ここを通って上に行こうとするなら、あたしが止めないといけない。藍様の式神として、ここを守る者として」

 

橙が、構えた。両手を前に出して、霊力を帯びた気を練りながら。尻尾が、真っ直ぐに立つ。猫耳が、前に向く。さっきまでの子供っぽさが、消えていた。

 

「……そういうことか」

 

俺は言った。霊力を、わずかに高めながら。

橙は、止める側だ。紫の仕業だとわかっていて、それでも言えない。言えないが、体で止めようとしている。嘘はつかない。ただ、仕事をする。それが、この子の誠実さなんだろう。

 

「なら、俺も止まるわけにはいかない」

 

俺は言った。

 

「異変を解決しなければならない。それが、俺の役目だ」

 

橙が、スペルカードを取り出した。

 

「妖符『飛翔妖猫』」

 

橙の身体が、光った。黒い光が、橙を包む。尻尾が、激しく動く。周囲に、小さな黒い光弾が無数に出現する。猫の目のような、楕円形の光弾が。それが、一斉に俺に向かって飛んでくる。

速い。予想以上に速い。

だが、見える。全部、見える。

俺は動いた。左に、右に、最小限の動きで、光弾の間を縫う。一発も、当たらない。霊夢の身体が、この弾幕を知っているかのように、自然に動く。息をするように、歩くように、回避が続く。

 

「ぐぬぬ~」

 

橙が、光弾の密度を上げる。隙間が、狭くなっていく。包囲が、締まっていく。

だが、当たらない。

俺は、右手を前に出した。霊力を、指先に一点集中させる。ほんの少しだけ、絞り込む。光球が、一つだけ出現した。小さな、金色の光球が。

それを、放った。

橙の弾幕を、真っ直ぐに貫いた。光弾を弾き飛ばしながら、まっすぐに、橙に向かって。

 

「きゃっ!」

 

橙が、吹き飛ばされた。小さな身体が、後ろに跳ぶ。地面に転がり、二回、三回と回転して、止まる。

俺は、無傷だった。

橙が、ゆっくりと起き上がった。服が、少し汚れている。だが、怪我はなさそうだ。その目が、丸くなっていた。信じられない、という顔で俺を見ている。

 

「……一発?」

 

橙が呟いた。

 

「一発だ」

 

俺は答えた。

橙が、しばらく俺を見ていた。それから、ふっと息を吐いた。

 

「……負けた」

 

素直に、言った。

俺は、橙に近づいた。手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?」

 

橙が、俺の手を見た。それから、その手を掴んで、立ち上がった。

 

「……うん。大丈夫」

 

橙が、俺を見上げた。その目に、悔しさと、それと同じくらいの何か別のものがあった。

 

「強いね、巫女さん」

「まぁな。」

 

俺は言った。本当にそう思って。

橙が、少し考えた。それから、口を開いた。

 

「……ねえ、巫女さん」

「なんだ?」

「紫様のことは、あたしには言えない。でも」

 

橙が、上を指差した。真上を。

 

「春は、あっちにある。あたしには止められなかった。だから、あとはもう、止められない」

 

それは、案内だった。敗北を認めた上で、それでも俺を送り出す、橙なりの言葉だった。

 

「ありがとう、橙」

 

俺は言った。

橙が、耳を伏せた。照れているような、そんな仕草で。

 

「……巫女さん、春、取り戻してね。早く暖かくなってほしいから」

 

俺は頷いた。そして、上に向かって霊力を込めた。境界を押し広げるように。空間が、歪む。裂け目のようなものが、現れる。その向こうに、外の空が見えた。

 

「行くぞ」

 

俺は呟いた。そして、裂け目に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

同じ頃、魔法の森では。

 

「うわっ!?」

 

魔理沙は、叫んだ。世界が突然変わった。空中から、地上に。

魔理沙は、箒に乗ったまま、木々の間に落下していた。必死に箒を操る。木にぶつからないように、地面に激突しないように。やっとのことで、地面に着地する。

 

「くそ、何が起きた!?」

 

周囲を見渡す。森だ。見覚えのある森だ。

 

「……魔法の森?」

 

自分の家がある、魔法の森だ。空を飛んでいたのに。霊夢と一緒に、上昇していたのに。突然、ここに飛ばされた。誰かが、飛ばした。

 

「ちっ、邪魔されたか」

 

魔理沙は、舌打ちする。

その時、声が聞こえた。

 

「あら、魔理沙じゃない」

 

女性の声。聞き覚えのある声。硬さと冷静さが混じった、独特の声。

魔理沙は、振り向く。そこに、女性が立っていた。金色の髪。短く、美しい髪。青い服。ドレスのような、優雅な服。そして、人形。何体もの人形が、彼女の周りを浮いている。糸もなく、だが確実に彼女の意志に従って動いている、美しい人形たちが。

 

「アリス……」

 

魔理沙は呟いた。露骨に、嫌そうな顔で。

 

「久しぶりね、魔理沙」

 

アリス・マーガトロイドが、微笑んだ。口元だけの、冷たい微笑みで。

 

「相変わらず、そんな顔するのね。私を見ると」

「当たり前だろ」

 

魔理沙は言った。不機嫌そうに。箒を握りしめながら。

 

「ここ、お前の縄張りじゃないだろ。なんでいるんだ」

「あなたこそ、なんで落ちてきたの?上から突然落ちてきたと思ったら、霧雨魔理沙。驚いたわ」

「飛ばされたんだよ」

 

魔理沙は答えた。短く。

 

「飛ばされた?」

 

アリスが、眉を上げた。

 

「それは、不思議ね。誰に?」

「知るか。わかったら苦労しない」

 

魔理沙は、周囲を見渡す。霊夢はどこに飛ばされたんだろう。別々の場所に飛ばされたとしたら、探さなければ。

 

「それより、あたしは行かなければならない。春を取り戻す異変解決の途中だ」

「知ってる」

 

アリスが言った。

 

「春が来ない異変でしょう。私も気になっていたわ。研究の材料にしようと思って、調べていたところよ」

「研究の材料?」

 

魔理沙が、顔をしかめた。

 

「相変わらず、感情がないな」

「人形を動かすのに感情は必要ないもの」

 

アリスが答えた。さらっと。全く、堪えていない様子で。

 

「それで、どこまでわかったの?春について」

「あたしが教える義理はない」

 

魔理沙は言った。ぷいと顔を逸らして。

 

「教えてくれるなら、私も情報を出してもいいけれど」

 

アリスが言った。淡々と。交渉するように。

魔理沙は、しばらく考えた。アリスとは仲が悪い。昔から、そうだ。二人とも魔法使いで、研究の方向性が全く違う。アリスは緻密で、計算通りに魔法を組み立てる。人形に細かい術式を組み込み、精巧に動かす。魔法を積み上げる職人のようなスタイルだ。

対して魔理沙は直感で、力押しで魔法を使う。理解よりも実践、積み上げよりも爆発力。スタイルが正反対で、お互いを認めながら、認めたくない、という関係が長く続いている。

だが、情報は欲しい。

 

「……春は、空の上にある。雲の上に、春が存在している。桜の花びらが、上から降ってくる。だから、上昇すれば春に近づける。それだけだ」

 

アリスが、顎に手を当てた。考えるように。

 

「空の上に、春がある。それは私も確認していた。問題は、誰がそこに春を集めているか、ということよ」

「誰かが集めているのか?」

 

魔理沙が、前のめりになった。

 

「おそらくね。春を集める能力を持つ妖怪が、幻想郷にはいる。春符を扱える者が。私が調べた限り、春告精たちの動きも普通じゃない。誰かの指示で動いているように見えた」

「春告精?」

 

魔理沙が訊いた。

 

「春を告げる妖精よ。普通は、春が来ると自然に現れる。でも今年は、春が来る前に動き回っている。まるで、春を運ぶ仕事をしているみたいに。誰かに、使役されているんじゃないかと思う」

 

魔理沙は、腕を組んだ。アリスの情報は、的確だ。研究者としての観察眼は、認めざるを得ない。

 

「つまり、黒幕がいる、ってことか」

「そういうことよ。そして、その黒幕は空の上にいる。あなたたちが向かっていた方向に」

 

アリスが、人形を一体前に出した。その人形が、空を指さす。

 

「あなた一人では、また邪魔されるかもしれない。さっきも、誰かに飛ばされたでしょう。黒幕は、あなたたちが近づくことを嫌がっている」

 

魔理沙は、黙った。

 

「……何が言いたい?」

 

アリスが、微笑んだ。今度は、少しだけ違う笑みで。

 

「私も、空の上を調べたかった。研究として、ね。一人よりも、二人の方が邪魔されにくい。それだけの話よ」

 

魔理沙は、アリスを見た。しばらく、じっと見た。

 

「お前、なんだかんだ言って、手伝いたいだけじゃないのか」

 

アリスの頬が、わずかに赤くなった。気のせいかもしれない。でも、確かに、赤くなった。

 

「そんなことないわ。ただの研究目的よ」

「顔が赤いぞ」

「寒いからよ!」

 

アリスが言った。いつもの冷静さが、一瞬崩れた。人形たちが、アリスの感情に反応するように、わずかにざわめいた。

 

「……まあ、いい。ついてきたいなら、ついてこい」

 

魔理沙は、箒に跨った。

 

「ただし、足は引っ張るなよ」

 

アリスが、人形を周囲に展開した。

 

「あなたに足を引っ張られる心配をした方がいいんじゃないの」

「言ってろ」

 

魔理沙が、動こうとした。その時だった。

 

「でも、その前に」

 

アリスが言った。静かに、だが挑発的に。

 

「久しぶりに会ったんだし、腕試しをしてもいいんじゃないかしら。あなたが強くなったって話、聞いたわよ。八卦炉を改造したって。どれくらい強くなったのか、見てみたいわ」

 

魔理沙が、止まった。振り返る。

 

「今は時間がない。異変解決が先だ」

「ほんの少しでいいわよ。そんなに怖いの?」

 

怖い。その言葉が、魔理沙の中の何かに火をつけた。

 

「……怖いわけないだろ」

 

魔理沙は、八卦炉を構えた。ゆっくりと、だが確実に。

 

「やってやる。ただし、さっさと終わらせるぞ」

 

アリスが、人形たちを前に出した。十体、二十体、それ以上の人形が、ゆっくりと展開していく。それぞれが異なる魔術式を帯びていて、複雑な弾幕を形成する準備を整えていく。

 

「スペルカードルール、使ってみましょうか」

 

アリスが言った。

 

「新しいルールよね。美しさを競う、か。私の人形魔法には、ぴったりのルールだわ」

 

アリスが、スペルカードを取り出した。

 

「魔符『アーティフルサクリファイス』」

 

人形たちが、一斉に動いた。弾幕が、展開される。複雑な軌道を描く弾丸が、美しいパターンを形成しながら、魔理沙に向かって飛んでいく。まるで、精巧な刺繍のような弾幕だった。

 

「チッ……綺麗じゃないか」

 

魔理沙は呟きながら、箒を傾ける。弾幕の隙間を、ギリギリで縫い抜けていく。アリスの弾幕は、確かに美しかった。だが、避けにくい。隙間が、計算し尽くされている。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

魔理沙が叫んだ。八卦炉から、極太のレーザーが放たれる。虹色に輝く光線が、空間を貫く。アリスの人形たちを、一掃しようとする。だが、アリスは避けた。人形を盾にしながら、優雅に横に飛ぶ。盾になった人形が、レーザーに飲み込まれ、消える。

 

「惜しいわね」

 

アリスが言った。涼しい顔で。

 

「ただの力押しじゃ、私には通じない。もう少し、工夫しなさい」

 

魔理沙の目に、火が灯った。

 

「工夫、ね。見てろよ」

 

魔理沙は、八卦炉の出力を絞った。レーザーではなく、細かい星型の弾幕を、複雑な軌道で放つ。アリスが研究者なら、こちらも研究者だ。ただの力押しではなく、理論に基づいた魔法を見せてやる。

星が、螺旋を描きながら飛ぶ。分裂し、収束し、また分裂する。アリスの人形の動きを予測して、逃げ道を塞ぐように配置される。

 

「……なるほど」

 

アリスが、今度は表情を変えた。わずかに、だが確かに。

 

「成長したのね、魔理沙」

 

それは、素直な言葉だった。皮肉でも、嫌味でもなく。

 

「当たり前だ」

 

魔理沙が答えた。少しだけ、得意げに。

二人は、森の中で弾幕をぶつけ合う。人形と星が、空中で交差する。複雑なパターンが、冬の森に色を添える。どちらも、全力ではない。そこには、不思議な空気があった。仲が悪いはずの二人が、どこか楽しんでいるような、そんな空気が。

やがて、アリスが手を止めた。

 

「……引き分けにしてあげる」

 

アリスが言った。

 

「負けを認めたくないだけだろ」

 

魔理沙が言い返した。

 

「そういうあなたもでしょう」

 

二人は、しばらく睨み合った。そして、同時に、ふっと息を吐いた。

 

「行くわよ、魔理沙。春を取り戻すんでしょう」

 

アリスが、空に向かって飛び立った。人形たちを従えて、優雅に、だが素早く。

 

「……最初からそう言えよ」

 

魔理沙は、箒に跨った。そして、アリスの後を追って飛び立った。

犬猿の仲の二人が、同じ方向に向かって飛んでいく。春を取り戻すために。それぞれの意地を張りながら、同じ方向へ。

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