転生博麗   作:ライダー☆

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第六話 圧倒!博麗の巫女の力!

霊力が、全身を満たしていた。

細胞の一つ一つまで、血管の隅々まで、骨の髄まで。すべてが金色の光で満たされている。

金色の光が、俺の身体を包み込んでいる。まるで、太陽そのものになったかのように。眩く、温かく、そして圧倒的に力強い光。

これが、博麗霊夢の本来の力。

使い方を知らなかっただけの、圧倒的な霊力。

 

「さぁ……来い!」

 

俺は咲夜に向かって叫んだ。声に、自信が宿っていた。

咲夜は、一瞬躊躇した。

わずか一秒にも満たない、しかし確かな躊躇。

その表情に、明確な迷いが浮かんでいた。赤い瞳に、初めて見る何かが滲んでいた。

だが――

 

「……さっきのはまぐれよ。そのはず。…………消えなさい」

 

咲夜は呟いた。その声は、まだ冷たかった。だが、わずかに震えていた。

咲夜の姿が、消えた。

いや、消えたわけではない。時間が止まったのだ。

時間停止。

だが――

 

「見える」

 

俺には、見えた。はっきりと、鮮明に。

世界が静止する。音が消える。鳥の鳴き声も、風の音も、自分の心臓の鼓動すら。

空気が止まる。流れが途絶え、すべてが凍りついたかのように。

だが、俺の身体は動く。

自由に。制約なく。まるで、時間停止など存在しないかのように。

霊力が、時間停止の影響を完全に遮断している。時間停止の中で、俺は完全に自由に動ける。まるで、俺だけが別の時間軸にいるかのように。

咲夜が、動いている。

時間停止の世界で、彼女だけが自由に動いていた。

ナイフを配置している。

俺の周囲に。頭を狙う位置に。心臓を狙う位置に。正確に、計算して。逃げ場がないように。

 

「そこだ!」

 

俺は、咲夜に向かって跳んだ。

時間停止の世界の中で。何の制約もなく。

霊力を足に集中させ、地面を蹴る。空気を蹴る。

咲夜の目が、驚愕に見開かれた。

信じられない、という表情。ありえない、という表情。

 

「ッ!?」

 

咲夜は慌ててナイフを構えた。

防御の構え。だが、その動作には明らかな動揺が見える。手が震えている。

遅い。

あまりにも、遅い。

 

「遅い!」

 

俺の拳が、咲夜の腹に叩き込まれた。

霊力を込めた、渾身の一撃。全身の力を、この一点に集約した一撃。

気を集中させ、爆発させる。

 

「かっ!?」

 

咲夜の身体が、吹き飛んだ。

人形のように。糸が切れた操り人形のように。

壁に激突する。豪華な大理石の壁が、蜘蛛の巣状にひび割れる。破片が飛び散る。

時間が、動き出した。

世界に音が戻る。色が戻る。生命が戻る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

咲夜は壁に背を預けたまま、俺を睨んだ。

 

その瞳に、初めて見る感情があった。完璧なメイドの仮面に、確かにヒビが入っている。

「なぜ……なぜ、私の時間停止が……なぜ、完全に無効化されているの……誰も、私の時間を超えられないはずなのに……」

「教えてやる必要はないな」

 

俺は御札を構えた。金色の光を纏った札を。

 

「まだ終わりじゃないぞ!」

 

咲夜は舌打ちした。

血が、口の端から流れている。内臓が傷ついているのかもしれない。

そして――再び時間を止めた。

だが、もう俺には通用しない。

霊力が、時間停止を完全に無効化している。時間が止まった世界で、俺だけが動ける。

 

「もう、その手は効かねぇぞ!」

 

俺は咲夜に向かって御札を投げた。

複数の札を、同時に。五枚、十枚。

札が光りながら飛んでいく。金色の軌跡を描いて、まるで流星のように。

咲夜は避けようとした。

横に跳ぶ。時間停止の世界で、懸命に身体を動かす。

 

「そらぁっ!」

 

札が、咲夜の肩に命中した。

一枚、また一枚。正確に、容赦なく。

 

「ッ……ぁあっ!!」

 

咲夜は苦痛に顔を歪めた。

霊力を込めた札は、肉体だけでなく霊的にもダメージを与える。魂そのものを傷つける。

時間が動き出す。

咲夜は膝をついた。白いメイド服が、血で汚れている。

 

「……」

 

咲夜は、俯いた。

銀色の長い髪が、顔を隠す。

しばらく沈黙が続いた。

そして――

 

「このままでは……」

 

咲夜は呟いた。か細い声で。

 

「お嬢様に、顔向けできない……」

 

それだけだった。

言葉は短かった。

だが、その短さの中に、すべてが込められているような気がした。

咲夜という存在の、核心のような何かが。

 

「……」

 

俺は、黙って聞いていた。

反論しなかった。

何かを言う言葉が、見つからなかった。

 

「純粋な力だけで、倒してやる!」

 

咲夜は顔を上げた。

その瞳は、さっきまでと違っていた。

冷たい計算が消え、代わりに剥き出しの何かがあった。

完璧な仮面が、崩れていた。

 

瞬間――

無数の弾丸が出現した。

丸い、光の弾丸。純粋なエネルギーの塊。

その数は、これまでとは比較にならない。

何千発。いや、何万発。

空間が、弾丸で埋め尽くされた。隙間がないほどに。

そして、それらが一斉に放たれた。

全方位から。上下左右、前後、すべての方向から。

逃げ場がない。完全に、逃げ場がない。

弾速は、これまでのナイフとは比較にならないほど速い。

 

「くそっ…」

 

俺は避け始めた。

身体を捻り、最小限の動きで弾丸を躱す。一ミリ、また一ミリ。

霊力を足に集中させ、限界まで加速する。

弾丸が、俺の身体を掠めていく。

頬を。髪を。服を。肌を。

わずか一ミリでもずれれば、直撃していた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息が荒い。酸素が足りない。

集中力が、限界だ。意識が途切れそうになる。視界が霞む。

だが――

 

「隙間が、ある!」

 

弾幕には、必ず隙間がある。

それがどんなに密度の高い弾幕でも、完全に埋め尽くすことは物理的に不可能だ。

その隙間を見つける。俺の目で。俺の本能で。

そして、縫うように進む。蛇のように。風のように。

咲夜に、近づく。

一歩、また一歩。確実に。着実に。

 

「なっ…!?」

 

俺は床に落ちていた咲夜のナイフを掴んだ。

銀色の、鋭利なナイフ。血に濡れた、冷たいナイフ。

そして、霊力を込めた。

全身の霊力を、このナイフに。すべてを、このナイフに。

金色の光が、ナイフを包む。輝きが増していく。どんどん、明るくなっていく。

 

「これで――」

 

俺は、ナイフを投げた。

咲夜に向かって。全力で。全霊を込めて。

ナイフが、光の軌跡を描いて飛んでいく。

 

「ぎ!?」

 

咲夜は避けようとした。

横に跳ぶ。時間を止めようとする。

だが、間に合わなかった。

速すぎた。距離が近すぎた。

ナイフが、咲夜の左腕に突き刺さった。

深く。肉を貫き、骨まで届くほど深く。

 

「ああああ!」

 

咲夜の悲鳴が響いた。

霊力を込めたナイフは、ただのナイフとは違う。

肉体だけでなく、霊的なダメージを与える。

咲夜は、脂汗を浮かべながらナイフを引き抜いた。

震える手で。歯を食いしばりながら。

血が流れる。真っ赤な血が。白いメイド服を汚していく。

咲夜は、そのナイフを投げ捨てた。

そして――

俺を見た。

その瞳に、疲弊があった。

 

「……殺してやる。」

 

その声は、静かだった。

叫ばなかった。

ただ、静かに言った。

それが、かえって重かった。

 

「お嬢様のために……絶対に……」

 

咲夜は捨て身の構えを取った。

死を恐れない構え。

残ったナイフを、すべて手に持つ。両手に、何十本も。

 

「来るか……」

 

俺も構えた。

御札を握りしめる。霊力を、最大限まで高める。

これが、最後の攻防だ。

咲夜が、駆け出した。

全速力で。限界を超えた速度で。

ナイフを構えて。

俺も、駆け出した。

御札を構えて。霊力を全開にして。

距離が、縮まる。

 

あと、五メートル。

 

四メートル。

 

三メートル。

 

互いの呼吸が聞こえるほど、近い。

 

その瞬間――

 

「えっ!?」

 

床が、爆発した。

いや、下から何かが突き破ってきた。

轟音と共に。地震のような振動と共に。館全体が揺れるほどの衝撃と共に。

大理石の床が砕け散り、破片が四方八方に飛び散る。粉塵が舞い上がり、視界を覆う。

そして、何かが、吹き飛んできた。

人間大の、何かが。いや、人間そのものが。

人、だった。

箒に乗った、人。ボロボロの姿の。

 

「ちょっ……待っ……!」

 

咲夜は、それに巻き込まれた。

正面から激突する。避ける暇もなく。

二人とも、壁に叩きつけられた。壁が砕け、ひび割れ、崩れていく。瓦礫が降り注ぐ。

 

「あ、ありゃ~……咲夜が……!ってか、誰だ?」

 

俺は、その人物を見た。

粉塵の中から、姿が見える。

金髪。乱れた金髪。血と埃で固まった金髪。

黒と白の服。ボロボロの服。あちこちが破れ、焦げている服。

とんがり帽子。潰れた帽子。先端が折れている帽子。

そして、箒。折れかけた箒。柄が真ん中で曲がっている箒。

 

「……魔理沙!」

 

魔理沙だった。

満身創痍の、魔理沙。

服はボロボロで、血に染まっている。

顔は血だらけで、左目が腫れている。青紫色に腫れ上がり、ほとんど開いていない。

鼻は折れているかもしれない。曲がっている。

腕は不自然な角度に曲がっている。骨が折れている。確実に、折れている。

脚も、引きずっている。片方が、ほとんど動いていない。

だが――生きている。

確かに、生きている。呼吸している。心臓が動いている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

魔理沙は荒い息をしながら、俺を見た。

血走った目で。疲労困憊の目で。

そして、笑った。

血まみれの顔で。満身創痍の身体で。折れた歯を見せて。

 

「よう……霊夢……」

 

その声は、弱々しかった。かすれていた。だが、確かに魔理沙の声だった。生きている魔理沙の声だった。

 

「生きてたか、よかったぜ………」

 

よかったぜ、か。

俺も同じ気持ちだった。

だが、同時に、胸の奥に鈍い痛みがあった。

霊夢、と呼ばれた。

魔理沙は俺を霊夢だと思っている。

当然だ。この顔で、この身体で、この名前を名乗っている。

でも、この顔は俺の顔じゃない。

魔理沙が「よかった」と思っている相手は、本物の霊夢じゃない。

 

「……ああ」

 

それだけ返した。

それしか、言えなかった。

 

「悪い……遅くなった……。………魔理沙。」

「……ん?」

 

俺は訊いた。

魔理沙を見下ろしながら。満身創痍の魔理沙を。血まみれで、ボロボロで、それでも生きている魔理沙を。

 

「今の俺なら、お前をそこまで追い詰めたやつに勝てそうだ……あとは俺に任せてくれ。」

 

魔理沙は、驚いたように目を見開いた。

片方しか開いていない目で、俺を見つめた。

 

「お前……何か、変わったな……」

 

そして、笑った。血の混じった唾液を吐き出しながら。

 

「強くなってる……霊夢……さっきまでとは、別人みたいだ……」

 

別人みたい、か。

戦い方が力が、変わったことを言っているんだろう。

それはわかる。

でも、その言葉が妙に胸に残った。

別人みたい、と言われる理由が、魔理沙が思っている以上に本当のことだから。

 

「……まあな」

 

俺は短く答えた。

嘘はついていない。

本当のことも、言っていない。

それが精一杯だった。

 

「……どこだ」

「地下……図書館……」

 

魔理沙は呟いた。息も絶え絶えに。

 

「パチュリー・ノーレッジ……紫髪の魔法使い……あいつ、化け物だ……魔法の次元が違うやつ……」

「わかった。」

 

俺は、魔理沙の身体に手を置いた。

傷だらけの、血に濡れた身体に。

そして、霊力を送り込む。

傷口に霊力を集中させて、塞ぐ。さっき自分の身体でやったことと、同じ要領で。

完全に治すことはできないが、応急処置にはなる。

 

「……」

 

魔理沙は、わずかに顔を歪めた。

霊力が身体に流れ込む感覚は、心地よいものではないのだろう。

だが、すぐに血が止まった。完全ではないが、致命的な出血は防げる。

 

「ここで待ってろよ。すぐに片づける!」

 

俺は言った。

 

「すぐに戻る。絶対に、戻る」

「おい、霊夢……」

 

魔理沙は、俺の腕を掴んだ。

弱々しく。震える手で。だが、必死に。

 

「無理すんな……あいつ、本当に強いぜ……私の魔法が、全部見切られた……マスタースパークすら、効かなかった……」

 

マスタースパーク。

あの極太のレーザー。

それすら効かなかった相手か。

 

「大丈夫だ」

 

俺は言った。

 

「今の俺は、強い」

 

自信があった。根拠のない自信ではない。確かな手応えがあった。

だが、付け加えるべき言葉があった。

 

「……霊夢の身体が、強い」

 

魔理沙は、一瞬不思議そうな顔をした。

だが、俺はそれ以上説明しなかった。

説明できなかった。

 

「行ってくる」

 

俺は穴に飛び込んだ。

重力に身を任せ、落下する。

風が、顔を撫でる。

そして、地下の図書館に、着地した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

地下の図書館は、静寂に満ちていた。

いや、静寂というより――死の気配が満ちていた。

魔理沙との戦闘の痕跡が、あちこちに残っている。生々しく、克明に。

焦げた本。ページが炭になり、灰になっている。何百年、何千年の知識が、灰になっている。

破壊された書架。木材が砕け、本が散乱している。

散乱した紙片。破れたページが、宙を舞っている。まるで、死んだ蝶のように。

 

一人の少女が、空中に浮いていた。

紫色の長い髪。艶やかで、絹のような髪。紫色のローブとスカート。魔法使いの装束。そして、手には分厚い本。古びた、魔導書。

パチュリー・ノーレッジ。

紅魔館の魔法使い。百年を生きる、真の魔法使い。

 

「……」

 

パチュリーは、じっと上を見続けていた。

天井を。いや、天井の向こうを。穴の向こうを。

魔理沙が吹き飛んでいった方向を。

その表情は、冷静だった。感情がなかった。まるで、すべてを計算しているかのような、冷徹な表情。

そして――

俺が降りてくるのを見ると、その瞳がわずかに動いた。紫色の瞳が、俺を捉えた。

 

「知らない顔ね。」

 

パチュリーは静かに言った。

感情のない声で。まるで、機械が喋っているかのような、冷たい声。

 

「どうせ、さっきの未熟な魔法使いの仲間でしょう」

 

本のページが、光り始めた。淡く、だが確実に。

 

「だったら――」

 

瞬間、

巨大な魔法陣が出現した。

パチュリーの前に。空中に。光を放ちながら。

複雑な幾何学模様。六芒星、五芒星、円、三角形、それらが重なり合っている。

無数の文字。古代語で書かれた、呪文。

輝く紋章。魔力が可視化されている。

そこから炎が放たれた。

巨大な、炎の弾丸。

いや、弾丸などという生易しいものではない。規模が違う。

炎の津波。炎の奔流。すべてを焼き尽くす、業火。

魔理沙が上に吹き飛んだ時から、ずっと溜め続けていたのだろう。時間をかけて、魔力を圧縮し続けていたのだろう。

圧倒的な魔力が、込められている。空気が歪んでいる。温度が急上昇している。

 

「………」

 

俺は、霊力を足に集中させた。

一点に。すべてを、一点に。

気を使う。意識し、集中させ、爆発させる準備をする。

そして――

跳んだ。

地面を蹴り、炎に向かって突進する。

 

「はっ!!」

 

アックスキックを放った。

足に込めた霊力を、一気に爆発させる。

踵が、炎の弾幕に激突した。

金色の光と、赤い炎が、ぶつかり合う。

瞬間――

炎が、跳ね返された。

弾幕が、逆流する。まるで、川の流れが逆になったかのように。

パチュリーに向かって、猛スピードで飛んでいく。

 

「……!!」

 

パチュリーは、驚いたように目を見開いた。

初めて見る、パチュリーの感情。冷静な仮面に、ヒビが入った。

だが、すぐに対応した。さすがは百年を生きる魔法使い。動揺を見せたのは一瞬だけだった。

本のページを捲る。素早く、正確に。

 

「プリンセスウンディネ」

 

詠唱と同時に、水のレーザーが出現した。

透明な、だが分厚い水のレーザー。

炎が、水に飲み込まれる。

ジュウウウ、という音。

蒸気が立ち上る。白い煙が、図書館を満たす。

相殺された。完璧に、計算されたように。

視界が、白く染まる。何も見えなくなる。

 

「……」

 

パチュリーは、警戒の眼差しで煙を見つめた。

本を構え、次の魔法の準備をしながら。

 

油断していた。

ほんの一瞬。煙が晴れるのを待とうとした、その一瞬。

その一瞬を、俺は見逃さなかった。

 

「そこだ!」

 

俺は煙の中から飛び出した。

全速力で。限界まで加速して。霊力を足に集中させ、人間を超えた速度で。

煙を突き破り、パチュリーに肉薄する。

パチュリーの目が、驚愕に見開かれる。紫色の瞳が、恐怖に染まる。

 

「…!?」

 

俺の蹴りが、パチュリーの腹部に叩き込まれた。

霊力を込めた、渾身の一撃。

 

「がぁっ!」

 

パチュリーの身体が、吹き飛んだ。

人形のように。軽々と。

書架に激突する。木材が砕ける。本が落ちる。何百冊という本が、雪崩のように落ちてくる。

 

「げほっ……げほっ……」

 

パチュリーは咳き込んだ。苦しそうに。

血が、口から流れる。鮮やかな赤い血が、紫のローブを汚す。

 

「あなた……」

「悪いな、油断してたから、思いっきりやらせてもらったぞ。それにお前、その様子じゃあ、相当身体は弱いみたいだな。」

 

パチュリーは、俺を睨んだ。

その瞳に、殺気が宿っていた。さっきまでの冷静さは、完全に消えていた。

怒り。憎悪。そして――恐怖。

人間らしい感情が、初めて露わになった。

 

「許さない……」

 

パチュリーは立ち上がった。

よろめきながら。腹を押さえながら。身体が震えている。

 

「私の図書館を、汚した罪……私の本を、傷つけた罪……」

 

本が、激しく光り始めた。

さっきとは比較にならないほど、強く。眩く。

 

「命で償いなさい!」

 

瞬間――

図書館中の本が、光り始めた。

無数の本が。何千冊、何万冊という本が。書架に並ぶすべての本が。

すべてが、魔力の源となる。パチュリーに力を与える。

 

「賢者の石」

 

パチュリーは詠唱した。

五色の光が、パチュリーを包む。まるで、オーロラのように。

赤。青。緑。黄。茶。

五つの元素。火、水、木、金、土。

それらが融合し、一つになる。渦を巻き、混ざり合い、新しい力を生み出す。

 

「これが、私の全力………」

 

パチュリーは宣言した。

 

「百年の知識。百年の研鑽。百年の魔法。そのすべてを」

 

光が、爆発した。

図書館全体が揺れた。空気が震えた。

 

「こいつは……かなりのものだな。」

「あなたを倒すために!」

 

無数の魔法弾が、俺に向かって飛んでくる。

すべての属性が、混ざり合っている。融合している。

数は、数万発を超えている。いや、数十万発かもしれない。

俺は避け始めた。

身体を捻り、霊力を駆使し、限界まで動く。

右に。左に。上に。下に。

弾幕を縫うように、隙間を見つけながら。

だが――

 

「……ん?」

 

俺は、違和感を覚えた。

パチュリーの攻撃に、ムラがある。

凄まじい攻撃が来る。はずなのに、時々途切れる。威力が落ちる瞬間がある。

 

パチュリーの表情を見た。

苦しそうだった。

呼吸が、乱れている。

肩で息をしている。胸が激しく上下している。

顔色が、悪い。青白い肌が、さらに青ざめている。

 

「……もしかして、喘息か?」

 

呟いた。

確かに、さっき腹部に一撃を入れた時も、相当弱っていた。

そして、この図書館は――埃っぽい。

古い本が並ぶ、密閉された空間。空気が淀んでいる。

喘息持ちには、最悪の環境だ。

 

「なら――」

 

俺は、標的を変えた。

パチュリーを狙おうとしていたが、それをやめた。

代わりに、周囲の壁を狙った。

 

「はっ!」

 

御札を投げる。

壁に向かって。老朽化した、石造りの壁に。

札が激突し、爆発する。

壁が崩れる。石の破片が飛び散る。

そして――埃が舞い上がる。

大量の埃が。何百年、何千年分の埃が。

 

「!?」

 

パチュリーの表情が、歪んだ。

 

「げほっ……げほっ……!」

 

咳き込み始めた。

激しく。苦しそうに。

 

「何を……!」

 

パチュリーは叫ぼうとしたが、また咳き込んだ。

俺は次の御札を投げた。

今度は、書架に向かって。

古い、埃まみれの書架に。

爆発。

本が落ちる。そして、さらに埃が舞い上がる。

 

「げほっ!げほっ!げほっ!」

 

パチュリーの咳が、止まらなくなった。

魔法弾が、明らかに減った。威力も落ちている。

パチュリーは呼吸困難に陥っている。

 

「悪いな」

 

俺は言った。本心から。

 

「気の毒だとは思う。だが――」

 

さらに攻撃する。

床を。天井を。埃のたまった場所を、片っ端から。

爆発が連鎖する。

埃の雲が、図書館を満たす。

 

「やめ……えほっ!やめなさい……げほっ!」

 

パチュリーは懇願するように言った。

だが、俺は止まらなかった。

これが、戦いだ。

弱点を突く。それが、戦術だ。

これで仕留める。

霊力を両手に集中させた。

全身の霊力を、両手に。

魔理沙がやっていた。

あの構え。八卦炉を両手で構えて、極太のレーザーを放った。

あれは、八卦炉という道具から放たれた技だ。

俺には八卦炉がない。

だが、霊力を同じように圧縮して放出することは、できるかもしれない。

いや、やるしかない。

 

「……試すぞ」

 

霊力が、両手の間に集まる。

金色の光が、球体を形成する。

どんどん、大きくなっていく。

これは俺の技だ。魔理沙の真似じゃない。

霊力を、一点に圧縮して、爆発させる。

ただそれだけの、原始的な力だ。

 

「喰らえ!」

 

極太のレーザーが、放たれた。

金色の、圧倒的な光の奔流。

魔理沙のものとは少し違う。虹色ではなく、金色だ。

威力は、わからない。

だが、行くしかない。

レーザーが、パチュリーを飲み込んだ。

 

「きゃああああああ!」

 

パチュリーの悲鳴が響いた。

そして――

レーザーが消えると、パチュリーは地面に倒れていた。

ローブは焦げ、髪は逆立ち、身体は煙を上げている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

パチュリーは荒い息をしていた。

咳き込みながら。苦しそうに。

 

「……まだ」

 

パチュリーは呟いた。

 

「まだ、咲夜がいるわ……」

 

俺を睨む。憎悪と、諦めが混じった目で。

 

「力を持っていたところで……げほっ……あの娘は倒せない……あの娘は……げほっ……私よりも強いもの……」

「ああ、咲夜のことか」

 

俺は言った。

そして――天井を見上げた。

 

「ちょっと待ってろ」

 

俺は飛び上がった。

穴を通って、上の階へ。

 

気絶している咲夜を見つけた。

壁に寄りかかって、意識を失っている咲夜。魔理沙が突き破ってきた時に、巻き込まれて気絶したのだろう。

 

「悪いな。お前のもとに来る前に、倒してたんだ……多分、お前と魔理沙が戦っていた時に。」

 

俺は咲夜を抱え上げた。

そして、再び地下へ降りた。

パチュリーの前に、咲夜を置く。

 

「……え。」

 

パチュリーは、絶句した。

目を見開き、口を開けたまま、硬直している。

 

「咲夜が……倒されて……」

 

信じられない、という表情。

 

「そんな…」

「そんなって言われたって、倒しちゃったから……。」

 

俺は言った。

 

「お前たちは、負けた」

 

パチュリーは、しばらく黙っていた。

そして――

 

「……くそぉ」

 

小さく呟いた。

 

「これじゃあレミィに……申し訳が……立たない……」

 

涙が、目に浮かんでいた。

 

「百年生きて……こんな屈辱……初めて……」

 

そして――

 

「むきゅー……」

 

謎の言葉を発した。

何だ、今の。

口癖か?

それとも、魔法の呪文か?

わからないが、パチュリーは、そのまま気絶した。

力尽きたように。

 

「さて、魔理沙のもとに戻るか。」

 

これであとは、おそらく――

紅魔館の、主のみ。

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