転生博麗   作:ライダー☆

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第八話 人間として

「つまらない。本当に殺してしまいましょう」

 

レミリアは冷たく、そう言った。

その声には、失望が滲んでいた。心底、がっかりしたという響き。期待していた獲物が、あまりにも弱すぎたという落胆。

 

「もっと楽しめると思ったのに。期待外れね」

「……まだだ……」

 

俺は立ち上がった。

血まみれの身体で。全身が傷だらけで、服は破れ、至る所から血が流れている。

満身創痍の身体で。肋骨は折れ、腕は痺れ、足は震えている。

だが、まだ立てる。まだ、戦える。

 

「まだ、終わってない」

 

声を絞り出す。喉が血で塞がれそうになりながら。

 

「あら」

 

レミリアは微笑んだ。

その笑みは、残酷だった。獲物が抵抗する様を楽しむ、捕食者の笑み。

 

「……びっくりしたわ。立てるのね。でも――」

 

レミリアは窓の方を向いた。

紅い月を見上げながら。血のような、禍々しい満月を。

 

「私には勝てない。……あなたたちに、一つ教えてあげる」

「……何だ」

 

俺は警戒した。全身の神経を研ぎ澄ませる。次の攻撃に備えて。

 

「私は、運命を操ることができるの」

 

レミリアは宣言した。

その声には、絶対的な自信が宿っていた。何百年も生きてきた吸血鬼の、揺るぎない確信。

 

「この私自身もこの能力を完璧に理解しているわけではないわ。けど、確かなことは一つ。………未来を見ることができる。そして、その運命を変えることができる」

「……は?」

 

俺は理解できなかった。いや、理解したくなかった。

 

「つまりね」

 

レミリアは振り向いた。

その動作は、ゆっくりとしていた。まるで、演劇の一場面のように。優雅に、そして威圧的に。

赤い瞳が、俺を見る。深淵のような、底知れぬ瞳が。

 

「あなたたちの攻撃は、すべて当たらない。なぜなら、私がそう決めたから」

 

その言葉が、俺の心臓を凍らせた。

瞬間――

レミリアの周囲に、無数の紅い槍が出現した。

空間から生まれたかのように。何もない場所から、突然現れた。

数十本。すべてが鋭く、すべてが殺意を帯びている。

 

「……グングニル。」

 

その声は、美しかった。歌うような、リズミカルな響き。だが、同時に恐ろしかった。死の宣告のような。

槍が、俺に向かって飛んできた。

一斉に。音を立てて。空気を切り裂きながら。

 

「くっ!」

 

俺は避けようとした。

霊力を足に集中させ、横に跳ぶ。最高速度で。限界まで加速して。

だが――

槍の軌道が、変わった。

俺が避ける方向に、曲がった。まるで、生きているかのように。誘導ミサイルのように。

 

「!?」

 

避けられない。

どう動いても、槍が追ってくる。

槍が、俺の肩に突き刺さった。

痛い。激痛が走る。骨まで届く痛み。

 

「まだよ。」

 

レミリアは冷たく言った。

さらに槍が飛んでくる。次々と。容赦なく。

 

「くそっ!」

 

俺は御札を投げた。

複数の札を。槍を迎撃するために。破壊するために。

霊力を込めた、紅色の札を。

 

「無駄よ」

 

レミリアは断言した。

その声には、絶対の確信があった。

御札が、槍に当たらない。

軌道が、微妙にずれる。わずか数センチ、だが確実にずれる。

そして、槍が俺に当たる。

脚に。深く突き刺さる。

腕に。肉を裂く。

腹に。内臓に届きそうなほど深く。

 

「がぁ………あぁぁ!!」

 

避けられない。防げない。

何をしても、無駄だ。

 

「わかる?」

 

レミリアは笑った。

楽しそうに。心から楽しそうに。まるで、子供が玩具で遊んでいるかのように。

 

「これが、運命を操るということ。未来を見て、未来を決めるということ」

「……くそ!!」

 

俺はレミリアに向かって突進した。

全速力で。霊力を足に集中させ、人間を超えた速度で。

床を蹴る。空気を蹴る。

拳を構える。右拳を。

霊力を込める。全身の霊力を、この一点に。

 

「はっ!」

 

拳を振るった。

全力で。魂を込めて。

だが――

レミリアがいない。

 

「……なに?」

 

拳が、空を切った。何もない空間を。

振り向く。慌てて。

レミリアは、後ろにいた。

俺がいた場所に。まるで、最初からそこにいたかのように。

 

「こっちよ」

 

レミリアの声が聞こえた。

穏やかな声。だが、その奥に嘲りが滲んでいる。

 

「!?」

 

レミリアの拳が、俺の背中に叩き込まれた。

脊椎に。正確に、容赦なく。

 

「ぐっ!」

 

身体が、前に吹き飛ぶ。制御不能で。

床に倒れる。顔面を強打する。鼻が折れる音がした。

 

「運命を見れば、あなたがどう動くかわかるの」

 

レミリアは説明した。

まるで、教師が生徒に教えるかのように。丁寧に、だが冷たく。

 

「だから、避けられる。反撃できる。あなたの攻撃は、すべて無意味よ」

「……反則だろ、それ……!!」

 

俺は呟いた。血を吐きながら。

 

「反則?」

 

レミリアは笑った。

愉快そうに。本当に面白いという顔で。

 

「これが、私の力よ。五百年を生きる吸血鬼の、力よ。」

「……!」

 

突然、魔理沙のレーザーが飛んできた。

地上から。極太の虹色のレーザーが。

レミリアに向かって。正確に、狙って。

だが――

 

「ああ、それも見えてるわ」

 

レミリアは平然と言った。

そして、移動した。レーザーが飛んでくる前に。

事前に、避けていた。まるで、最初からそこにレーザーが来ることを知っていたかのように。

レーザーは、空を切った。何もない空間を貫いた。

 

「……化け物か、お前……今度はノーモーションで撃ったってのによ…!」

 

魔理沙の声が聞こえた。絶望が滲んだ声。

 

「化け物?」

 

レミリアは笑った。

その笑い声は、美しかった。鈴を転がすような、澄んだ声。だが、同時に恐ろしかった。

 

「そうね、人間から見れば化け物かもしれないわ。でも、それがどうしたの?私は吸血鬼。最初から、化け物よ」

 

そして――

 

「そして、あなたたちは人間。弱い、脆い、儚い人間よ」

 

レミリアが手を上げた。

紅い光が集まる。手のひらに。凝縮されていく。

 

「スカーレットマイスタ」

 

レミリアは詠唱した。

瞬間――

無数の紅い弾幕が出現した。

それは、俺と魔理沙を囲むように配置された。球状に。完璧に。逃げ場がないように。

何千発。いや、何万発。数え切れないほどの弾丸が、空中に浮かんでいる。

 

「まだこんな力を……!!」

 

弾幕が、一斉に動き出す。

俺と魔理沙に向かって。収束するように。

俺は避け始めた。

身体を捻り、霊力を駆使し、限界まで動く。

弾幕が、俺の動きを予測している。

避けた先に、弾幕がある。最初から、そこに配置されていたかのように。

 

「ぐぁっ!」

 

当たる。一発、また一発。

肩に。脚に。腹に。

何発も、当たる。避けられない。

 

「霊夢!」

 

魔理沙も、同じ状況だった。

弾幕が、魔理沙を追い詰めている。容赦なく、執拗に。

魔理沙の身体に、次々と弾丸が命中している。

 

「くそっ!どうやって避ければいいんだ!未来が見えるなら、どう動いても無駄じゃねぇか!」

「そうよ」

 

レミリアは頷いた。

満足そうに。

 

「避けられないわ。だって、私があなたたちの未来を見ているもの。どう動いても、結果は同じ」

「……なら」

 

俺は決意した。

歯を食いしばり、全身に力を込める。

 

「見えない未来を、作る!」

「は?」

「やれるはずだ。……咲夜と戦った時と同じ、霊力を……!!」

 

俺は霊力を限界まで高めた。

全身の霊力を。もう残っていないはずの霊力を、さらに搾り出す。

身体が悲鳴を上げる。細胞が悲鳴を上げる。だが、構わない。

そして――

 

「負けるわけにはいかないんだよ!!」

 

爆発させた。

全開で。限界を超えて。

金色の光が、部屋全体を満たす。眩く、圧倒的に。

弾幕が、すべて消し飛ぶ。光に飲み込まれる。

壁が揺れる。床が揺れる。館全体が揺れる。

 

「……へぇ…。」

 

レミリアは、わずかに驚いた顔をした。

その表情に、初めて動揺が見えた。わずかだが、確かに。

 

「それは、予想外ね。まさか、そこまでの力を隠していたとは」

「どうだ……」

 

俺は叫んだ。

息が荒い。身体が限界を超えている。だが、構わない。

 

「これなら、見えなかっただろ。未来にない力なら、予測できないだろ……!!」

「ええ」

 

レミリアは頷いた。

その表情は、まだ余裕があった。だが、さっきまでとは少し違っていた。面白そうな色が、混じっていた。

 

「確かに、見えなかったわ。あなたが、そこまで追い込まれて覚醒するとは。でも、もう無理でしょう?あの力を出すことは……」

 

レミリアの姿が、消えた。

いや、消えたわけではない。動いたんだ。人間には見えない速度で。

 

「!?」

 

どこだ、どこにいった………?

 

「ここよ」

 

声が、真上から聞こえた。

見上げる。慌てて。

レミリアが、天井にいた。

逆さまに立って。重力を無視して。

まるで、蝙蝠のように。

 

「とどめ。」

 

その声には、終わりが込められていた。

その手が、赤く光る。禍々しく、濃密に。

血のような光。死の光。

 

レミリアが急降下してきた。

流星のように。隕石のように。

圧倒的な速度で。

 

「!!」

 

俺は避けようとした。

霊力を足に集中させ、後ろに跳ぼうとする。

だが――

 

「遅い」

 

レミリアの声が聞こえた。

すぐ近くから。

レミリアの手が、俺の胸を貫いた。

左胸を。心臓の、すぐ近くを。

深く。骨を砕き、肉を裂き、内臓に届くほど深く。

容赦なく。躊躇なく。

 

「―――……」

 

声も出なかった。

痛みが、全身を駆け巡る。

いや、痛みを超えている。感覚が追いつかない。

神経が焼き切れるような感覚。

熱い。身体の中が、燃えているような。

いや、冷たい。凍りついているような。

感覚が狂う。熱いのか冷たいのか、もうわからない。

何もわからなくなる。

血が、噴き出す。

傷口から、大量の血が。まるで、泉のように。

口から、血が溢れる。喉を、口腔を満たして。

止まらない。どれだけ吐いても、止まらない。

 

「霊夢!!」

 

魔理沙の叫び声が聞こえた。

遠くから。まるで、遥か彼方から聞こえてくるように。

だが、もう声を返せない。

声が出ない。喉が血で塞がれている。

レミリアは、手を引き抜いた。

ゆっくりと。丁寧に。

俺の身体が、倒れる。

床に。力が入らない。膝が折れる。

ドサリ、という音。

自分の身体が倒れる音が、遠くから聞こえる。

痛みは、もう感じない。

感覚が、麻痺している。神経が、もう機能していない。

血が、床を染める。

広がっていく。どこまでも、どこまでも。

赤い海が、広がっていく。

視界が、暗くなっていく。

周辺から、中心に向かって。まるで、カーテンが閉まっていくように。

意識が、遠のいていく。

その途中で、何かが浮かんだ。

考えようとしたわけじゃない。ただ、浮かんだ。

鏡の中の顔。

黒髪。赤いリボン。紫の瞳。

霊夢の顔。

俺は、ここで死ぬのか。

霊夢の身体で。

霊夢の代わりとして、ここに立って、霊夢の身体を傷つけて、霊夢の名前を使って戦って。

それで、死ぬのか。

返せなかった。

何一つ。

 

「……すまない」

 

声が出たのか、出なかったのか、もうわからなかった。

魔理沙の声が、遠くから聞こえた。

レミリアの声も、遠くから聞こえた。

まるで、夢の中で聞こえてくるように。

 

「でも、結果は変わらない。あなたたちが負けて、私が勝つ。それが、運命」

 

「つまらないだけの、最低の運命よ。」

 

その声を最後に、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

咲夜は、目を覚ました。

 

「……ここは」

 

視界が、ぼやけている。霞がかかったように。

頭が痛い。全身が痛い。

何が起こった?

記憶を辿る。

霊夢と戦っていた。

時間停止が、通用しなかった。

誰かが床を突き破って飛んできた。

壁に叩きつけられて、意識が途絶えた。

 

「……くそ」

 

咲夜は立ち上がった。

よろめきながら。

左腕が、使えない。霊夢のナイフで貫かれた腕。血が止まっていない。

白いメイド服が、真っ赤に染まっている。

肋骨も、何本か折れている。呼吸するたびに、激痛が走る。

そして、喉が焼けるように痛かった。

 

「げほっ……げほっ……!」

 

咳き込んだ。止まらない。血が、口から流れる。泡立っている。

おかしい。これは、ただの咳じゃない。

 

「……霧?」

 

咲夜は気づいた。

紅い霧。

お嬢様が太陽を遮るために放った、紅い霧。

人間には、有害だ。長時間浴びれば、呼吸器が壊死する。

咲夜は、ずっとこの館にいた。

毎日、霧を吸い続けていた。

お嬢様は、何も言わなかった。

警告も、注意も、一言も。

 

「……」

 

その事実が、咲夜の胸に静かに落ちた。

石を水面に落とした時のように。

波紋が、じわじわと広がっていく。

忘れていた?

いや、お嬢様がそんなことを忘れるはずがない。

気づかなかった?

毎日顔を合わせていたのだから、気づかないはずがない。

なら――気にしなかったのか。

私の身体を。私の命を。

 

「……行かなければ……お嬢様のために……」

 

咲夜は、その考えを振り払って歩き出した。

階段に向かって。血を吐きながら。

だが、足が前に出るたびに、さっきの考えが戻ってくる。

気にしなかった。

私の命を。

拾ってくれた。名前をくれた。それは本当だ。

だがそれは、私の能力があったから、だったのではないか。

 

「……違う」

 

咲夜は首を振った。

そんなはずはない。

だが、振り払えなかった。

最上階に、到着した。

扉が、開いている。破壊されて、半分壊れている。

中から、静寂が聞こえる。

戦闘の後の、重苦しい静寂。

咲夜は、扉をくぐった。

そして――

目の前の光景に、立ち止まった。

レミリアが、いた。

窓の前に、月を背にして。

霊夢と魔理沙が、倒れていた。

床に。血の海の中に。

動かない。ピクリとも、動かない。

霊夢の胸には、大きな傷がある。左胸に。深い傷。致命的な傷。

 

「………結局、この程度。」

 

レミリアは言った。

失望したように。退屈そうに。

 

「もっと、楽しめると思ったのに。でも、所詮は人間ね。」

 

そして、手を上げた。

赤い光が、集まる。

止めの一撃のために。

 

「……死になさい」

 

その瞬間、咲夜は思った。

これで、いいのか。

 

「……お嬢様」

 

咲夜は、静かに言った。

レミリアが、振り向いた。

 

「あら、咲夜。起きたの」

 

驚いた顔だった。本当に、驚いている。

だが、その次の言葉は、あっさりしていた。

 

「ちょうどよかった。この二人を片付けて」

「……一つ、訊いてもいいですか」

 

咲夜は言った。

レミリアは眉をひそめたが、頷いた。

 

「なに?」

「霧を放つ前、なぜ私に何も言わなかったのですか」

 

レミリアは、一瞬だけ間を置いた。

 

「……思いつかなかったわ」

 

それだけだった。

悪意はなかった。隠しもしていない。

ただ、思いつかなかった。

私の身体が、私の命が、お嬢様の頭の中に存在していなかった。

 

「……そうですか」

 

咲夜は俯いた。

涙が、出ると思った。だが、出なかった。

それよりも先に、何か別のものが胸に満ちてきた。

冷たく、静かな、確信のようなものが。

 

「咲夜、早く片付けなさい」

 

レミリアは促した。

私との会話より、目の前の仕事の方が重要、という口調で。

 

「……できません」

 

咲夜は言った。

 

「……は?」

 

レミリアの声のトーンが、変わった。

 

「もう、従いません」

 

咲夜は顔を上げた。

レミリアを、真っ直ぐに見た。

初めてだった。何十年も仕えてきて、初めて、対等に見た。

 

「この異変を止めてください」

「……咲夜、あなた」

 

レミリアの声が、冷たくなった。

 

「私に逆らうつもり?」

「逆らうのではありません」

 

咲夜は首を横に振った。

 

「ただ、もう従わないだけです。……私は、道具ではありませんから」

 

レミリアは黙った。

しばらく。

そして、言った。

 

「いらないなら、他を探す。それだけよ」

 

その言葉は、静かだった。怒鳴らなかった。

だからこそ、重かった。

本気で言っている。

代わりを探せばいい、と、本気で思っている。

 

「……そうですか」

 

咲夜は、小さく笑った。

悲しい笑みだったかもしれない。自分ではわからなかった。

 

「ならば」

 

ナイフを構えた。

震える手で。だが、確かに。

 

「私は、お嬢様と戦います」

「……」

 

レミリアは、ナイフを見た。

それから、咲夜を見た。

何かを測るような目で。

 

「本気?」

「はい」

 

咲夜は頷いた。

 

「この命を使って、この異変を止めます」

 

血を吐きながら、そう言った。

 

「……」

 

レミリアは、しばらく黙っていた。

そして、笑った。

今までとは、少し違う笑みだった。

 

「久しぶりに、面白いものを見たわ」

 

紅い光が、手のひらに集まり始めた。

 

「いいわ。受けて立つ」

 

そして、付け加えた。

静かに。

 

「あなたが私に逆らえるなら、逆らってみなさい。それだけの覚悟があるなら、認めてあげる」

 

咲夜は、時間を止めた。

世界が、静止する。

レミリアに向かって、駆け出した。

 

「無駄よ」

 

レミリアの声が聞こえた。

時間停止の世界で。

 

「!?」

 

レミリアが、動いている。

時間停止の世界で。

 

「私は、運命を操る」

 

レミリアは言った。

 

「あなたが時間を止めることも、見えていたわ」

 

レミリアの拳が、咲夜の腹に叩き込まれた。

 

「うっ…!」

 

咲夜の身体が、吹き飛んだ。

壁に激突する。

時間が、動き出した。

 

「げほっ……げほっ……」

 

咲夜は血を吐いた。

 

「……それでも」

 

咲夜は立ち上がった。

身体が、動かないはずだった。

霧で肺が壊死しかけている。肋骨が折れている。腕が使えない。

それでも、立った。

 

「私は、人間として、戦います」

 

ナイフを構え直す。

震えながら。それでも、確かに。

 

「この異変を、止めるまで」

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