序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
アルジオ・レスベンスト(19) - レスベンスト冒険隊:リーダー
ヴィクニ・レスベンスト(19) - レスベンスト冒険隊:魔法使い
レベッカ・ヴィスマルク(19) - レスベンスト冒険隊:弓使い
ユリウス・ヴァーハウスト(22) - レスベンスト冒険隊:槍使い
リチャード・スミス(26) - レスベンスト冒険隊:魔拳闘士
エレオノーラ(?) - レスベンスト冒険隊:魔法使い
アルカ・ダヴィドウィッチ(22?) - レスベンスト冒険隊:魔法使い
カリアン・ヴィスマルク(24) - マリト・マフィア:ドン
カンナ(カノン)・フォーティナイン(26) - マリト・マフィア:メイド
オーレリア・セントグラフフィエ(20) - ハンラム王国:第三王女
キアステン・バリムケラス(140) - S級冒険者パーティ『薔薇の棘』:リーダー
フィノ・ルンテーニ(26) - 『深炎の牙』:魔拳闘士
メギス=ヘカトオン(1,5) - 『深炎の牙』:魔法使い
トラッド・ユニト(?) - 大賢者
片や金髪糸目、すらっとした体躯。
片や黒髪糸目、すらっとした体躯。
「え……」
「……リチャー……ド?」
リチャード・スミス。彼らレスベンスト冒険隊の仲間の一人。
その……微妙な色違いが、目の前にいた。
***
紫輝歴680年、浅紫の月。
港湾国家ゼルパパムは首都アンガ・ダナのとある会議室に彼らはいた。
一人は灰色の髪の男、カリアン・ヴィスマルク。鋭い目つきとは裏腹に、この場の雰囲気に尻込みするような表情が見え隠れしている。彼の後ろにはメイドが一人立っているばかりだけど、見る人が見ればそのメイドがとんでもない手練れであるということがわかるだろう。
その右側の席にいるのは、青年という年齢域に到達している元少年少女たち──レスベンスト冒険隊。明らかに緊張しているカリアンを弄ったり宥めたりして緊張をほぐしてあげようとしているけれど、あまり成果は得られていない様子だった。
彼らの対面に座っているのは、たおやかな空気を持つ女性……オーレリア・セントグラフフィエ。両脇に座るは近衛兵なのだろう、非常に洗練された闘気を纏っている男性。
その右側の席にいるのは黒髪黒目の少女、キアステン・バリムケラス。涼しい顔で果実水を飲んで、涼しい顔の裏で想像以上の酸っぱさに舌を丸めているのだけど、誰にも気付かれてはいない。
遠くで鐘が鳴る。刻限だ。
「時間ですね。──改めて。今日はお集まりいただき、ありがとうございます」
「いえ……こちらの願い出のためにご足労いただいたことを感謝こそすれ、集合に礼を言われてはこちらの立つ瀬が……」
「ああ、そうでしたね。申し訳ございません、つい癖で」
この四勢力がここに集まっている理由。それは。
「ゼルパパム初の冒険者ギルドの設置。ハンラム王国は王族、オーレリア・セントグラフフィエ様には、その保証人になっていただきたく……こちらが赴くべきところをご足労いただき誠に申し訳ない限りです」
「そのやり取りはもう手紙で終わったでしょう? というか、なんですかその口調は。世にも恐ろしきマリト・マフィアのドンが、他国の王族にそうも遜っていて良いのですか?」
「い、いえ、マリト・マフィアは別に荒くれ者の集団ではないので、敬意を向けるべき相手にはしっかりと敬意を持つと言いますか」
「カリアン、そこじゃない。お前にとってそこは大事なのかもしれんがそこじゃない」
「しかしだな……。僕は今マリト・マフィアのドンとしてここにいるんだから、他国の王族に勘違いされたままでは色々……」
こそこそ話を始めたカリアンとアルジオ。それを見てコロコロ笑うオーレリアと。
「もう……覚悟が決まったから立会人になってくれ、なんて言うから来てあげたのに、覚悟ブレブレじゃない」
「それは本当にすまない……。あー……その。えーと……お返事をいただけたりは……」
「ふふ、交渉事はまだまだ成長の余地がありますね。……ええ、いいですよ。ハンラム王家はゼルパパムへのギルド設立を認めます。勿論ゼルパパム側の許可が取れ次第、ですが」
「それについては問題ありません。既に行政から許可を取得済みです」
「流石、お仕事が早いですね。……それでは、ギルドの代表を紹介してくださる?」
ギルド設立において必要なものは三つ。
一つは確かな腕を持つギルドマスター。依頼と冒険者のバランスなど、様々を見極めなければならない。
二つ目、一定数以上の冒険者。所属冒険者が極端に少ない場合は冒険者ギルドを名乗ることができない。それはもう個人間の取引に近くなってしまうから。
最後、代表冒険者が存在すること。高難度の依頼、あるいは国からの要請があった場合に出撃を命じることのできる、最高ランク……S級冒険が一人在籍している必要がある。
「S級冒険者パーティ『薔薇の棘』代表のキアステン・ゲーゼさんをゼルパパムのギルドの代表冒険者に任命する」
「ええ、任されたわ。……とはいえ、どうしてあなた達がならなかったのか、っていう疑問は残っているのだけど」
「レスベンスト冒険隊は別にギルドのパーティじゃないからなぁ。冒険者で言えば実績が足りないんだよ」
「冒険者としての実績を積むには他国で登録しなければいけなくて……できるだけ早くやりたかったので、半ば強引ながら、この形を取りました」
「成程ね」
正式な場ではあるものの、実のところカリアン・ヴィスマルクとオーレリア・セントグラフフィエはペンフレンドであり、互いの性格はそこそこ知っている。
きっかかけはとんでもなくひょんなことから。何の気もなく釣りをしていたカリアンがボトルメールを釣り上げたことがきっかけだし、オーレリアが抱えていた気持ちを海へ流したのもまたきっかけだし。
そこから数年単位でお互いの正体も知らぬままに、しかも「海に瓶を流して」の元来のボトルメールで文通を続け、最終的に自分たちの身分を明かし……という具合での繋がり。
互いにそれ以上の感情は持ち合わせていなかったが、合縁奇縁とはよく言ったものだと両者共に思っているとか。
「マリト・マフィアは冒険者ギルドに対し資金援助をするのでしたか」
「ええ、そうです」
「こう言っては何ですが、外聞はあまりよろしくないのではありませんか?」
「まぁ……そうですね。荒くれ者の集まりではないとはいえ、一般的な道徳観念における悪事というものをさんざんやってきたマリト・マフィアから資金援助となれば、汚い金が使われているのではないか、と……他国からそうみられることは、正直理解しています」
「自国からは、問題ないと?」
「ここ数年で問題ないように誠意を見せたつもりです。それでも来るやっかみに関しては、正々堂々
ゼルパパムにおけるマフィア、マリト・マフィア。
これの見え方は確かにギルドという公正を謳う組織にとっては影を落とすだろう。それは十分理解している。
それでも、ここ数年で……少なくともゼルパパム国内では、マリト・マフィアを見つめ直す風潮が出てきている。それは確実にカリアン・ヴィスマルクの手腕、そしてレスベンスト冒険隊のおかげであると言えるだろう。
「わかりました。改めて、ギルド設立の後ろ盾となることを表明します。……そして、事前にお話させていただいていた件についてもよろしいですか?」
「ああ、探し人の話ですね」
「はい。ケレン・ゼンノーティ。あるいはケレン・マイズライト。そう名乗っていた少年の捜索願になります。いえ、そちらのギルドへの初の依頼という形ですね」
「マイズライト?」
「え、ゼンノーティ?」
反応は二つ。
この話をレスベンスト冒険隊が受けた時、二人は丁度いなかったから、ここが初耳なのだ。
「何か……知っておられるのですか?」
「知っているってほどじゃないけど……私のお師匠様が、ドブロガク・ゼンノーティって言うから、もしかして、って。あと、もう一人知ってる人がいて」
「……あまり明かしてはいませんでしたけれど、ここの方々のみならばいいでしょう。私のファミリーネームがマイズライトなのですわ。……ただ」
「凄まじい偶然ですね。そのようなことがあるとは……」
「ただ、なんだ?」
「……詳しくはあまりお伝えできないのですが、少なくともマイズライト、というのは……とある冒険団のようなものに所属していた者に与えられる名前なのです。それこそレスベンスト冒険隊のようなものが昔あって、私はそこに属していたから、エレオノーラ・マイズライトという姓を有している。……ただ、とっくのとうに解散した冒険団ですし、その時にケレンという名を見たことはなくて」
ケレン失踪から半年。一切見せていなかった事態の進展がここであって、多少勇み足になる心をなんとか抑えつつ、オーレリアは問いをかける。
「もしよろしければ、明日、ガルズ王国の冒険者との定例会があるので、そちらにも参加していただけませんか? そこで情報共有をしたくて」
「構いませんわ。気になりますし」
「私も構わないかな。あ、でもカリアンたちは」
「ああ、私は他国の者とはみだりに顔を合わせない方がいいでしょう。というわけで、失礼させていただきます。……と、いうわけだが……正式な場は終わったとして話させてもらうけど、……あれだ。写真? だっけ、魔道具のやつ。あれで顔写真とか、無ければ肖像画とか、そういうのをくれたら、ゼルパパム全域の裏側を調べることはできるぞ」
「助かります、カリアン」
「じゃあ、そうだな……カンナ、その定例会に参加しておいてくれ。身分は明かさずに」
「いいですけどー、一人で帰れますかカリアン坊ちゃまー」
「オイ、人前で坊ちゃまはやめろって……。というかアンガ・ダナからアウロディシアに帰るくらいの距離で付き添いなんか要らん!」
席を立つカリアン。彼はそのまま部屋を出ていこうとして……けれど、ゆっくりとオーレリアに振り返る。
「改めてになるが、感謝を。資金援助はするにしても、マリト・マフィアだけじゃギルド設立まで漕ぎ付けるのは無理だった。正直な話、ゼルパパムという国のお上は頼りなくてな。礼を言うよ、ハンラム王家」
「余計な口出しをしたとして睨まれなければ良いのですけれど」
「大丈夫、もしそういうことを言い出したら、マリト・マフィアが内側から食い破るからな」
「それに、レスベンスト冒険隊の人気もありますわ。この二つを前には国家も形無しでしょう」
「ふふふ、王族としては国より求心力のある組織、というのは些か思うところありますが……お互い、これからも良い関係を築き続けられることを願っていますよ」
「こちらもだ。──失礼する」
今度こそ退室するカリアン。
始まる前の緊張はどこへやら、その後ろ姿は一つの組織の長に相応しいものだったと言えるだろう。
──なお会議室にいる面々は知らぬことだが、このあとカリアンはトイレに直行したという。水鳥は水面下で足を必死に動かしているということである。
そんなことは露知らず、会議室では「その話」で賑わっていた。
「中々魅力的な殿方に成長しましたわよね、カリアンは」
「時々ヘタれだけど、やる時はやるんだよなーあいつ。さすがはレベッカの
「家でもそんな感じよ。基本ぶつくさいう割にやらなきゃいけないことに関しては目を瞠るほどに冴えていて……それに、なんというか、
カリアン・ヴィスマルク。次期ドンの座を巡るあれそれがあったのは七年前のこと。
それを経て精神的に成長した彼は、ヘタレではあるものの、臆病癖は抜けきらないものの……少しずつ成長し、今やマリト・マフィアのドンとしても、人間としても好青年になった。
件の一件を経てレスベンスト冒険隊との付き合いも増しているから、カリアンとアルジオは何でも言い合える仲になっているし、そのメイドのカンナもまた冒険隊と知己である。
「さて、じゃあ、私もこの辺で失礼するわ。ギルド所属の云々とか、全部決まったらまた連絡を頂戴。あと五、六年くらいはゼルパパムにいるつもりだから」
「ああ、待って、キアステンさん」
「なにかしら?」
「これ、ローズからのお手紙。会うことがあったら伝えといてくれ、って言われたんだ」
「ローズからって……。あ、そっか。あなた【マギスケイオス】だったわね」
「そういうこと~」
ローズ。湯島・ローズ。『薔薇の棘』のメンバーにして、今なお大陸中央監獄に幽閉されている者。
ただ、昨今は医療に多少の見直しが入り、彼女について多少の恩赦が入るとかなんとか。
「ありがと。帰って……もう一人のメンバーの墓前で、ゆっくり読ませてもらうわ」
なんて言って退室するキアステン。
カリアンとはまた違う大人の余裕がそこにあった。見た目はかつてのレスベンスト冒険隊と同じくらいの年頃の少女なのに、だ。
「……会った時から思ってたけど、キアステンさんって幾つなんだろうな」
「アルジオの成長の一つに、女性に歳を聞かなくなった、があるよね」
「冒険隊女性陣の、教育の賜物」
「まぁおれだって来年には二十だぜ? 流石に落ち着くよ」
なんて盛り上がりつつあるレスベンスト冒険隊を微笑ましい目で見て、「では」とオーレリアも立ち上がる。
「私達もこのあたりで失礼しますね。では明日、ラーテロー通り七番地にある議会堂にお越し頂けますか? ガルズ王国の冒険者もそこに来る予定になっていますので」
「ああ、わかった。ちなみにどんな冒険者が来るのかとか聞いてもいいのか?」
「それは」
オーレリアは……リチャードを見る。
そして、笑みを深めた。首をかしげるリチャード。
「明日のお楽しみにしておきましょう。人柄についての心配はありませんよ。良識のあるパーティですから」
「そうか。……そんなに言うなら、なんかあるんだろう。わかった、じゃあ明日な。カンナはどうする?」
「適当な宿に泊まるつもりでしたけどー、なにかあるんですかー?」
「だったら
レスベンスト冒険隊の所有する
とはいえまだレスベンスト冒険隊の所有物だ。それはそのまま、彼らの宿でもある。
「海の上を滑って移動する船ですか。……私も」
「オーレリア様」
「うっ。……わかっています。それでは明日、よろしくお願いしますね」
近衛の者が止めていなければ、確実に「私も乗せてくださいませんか」と言っていただろう。
オーレリア・セントグラフフィエ。ケレン失踪に心を痛めていたのは短期間だけだった。その後の彼女は意欲的に世界を見つめ直し、動き、ケレン捜索に向けてあらゆる情報を取り入れるようになっている。それは好奇心の増幅を示し、こうしておちゃめな、あるいははしたないほどの「がっつき」を見せるのだけど、そこは周囲の者達が押しとどめているとか。
友人のマルガナレ、ジュリアなどはどっちかというとオーレリアのそのノリ気に便乗するタイプなので、周囲の者達は振り回されっぱなしとか、まぁ、色々あるのである。
彼女が退室して、いつまでもここにいるわけにはいかないから、レスベンスト冒険隊も退室して。
誰もいなくなった会議室に……ふわりと人影が現れる。
フードを被った青年だ。大きな杖を持ったその青年は。
「──怪しいものではありませんので、その剣を降ろしていただけませんか?」
「怪しくない人は、誰もいなくなった場所にわざわざ来たりしないですよー」
首筋と心臓の裏に双剣を突き付けられ、たまらずホールドアップした。
カンナ……カノンだ。
「凄いですね。完全に全員の意識が外れたとみていたのですが、演技でしたか」
「そもそもわたしは退出していませんでしたよー」
「……成程、隠形。参考までに、どうしてそれをしようと思ったのか伺っても?」
「波の音がしていましたからねー。わたしにとっては、淡い期待半分でしたー」
「波の音……ああ、成程。凄いな、奇跡的な確率だ。その生い立ちが、奇跡的に
波の音。カノンが昔から耳にしていその音は、決して幻聴などではない。
英雄という高潮。逸脱という水滴。それらが織り成す波紋を音として聞くそのスキルは、仙実国や一部の秘境に存在する「自然との話者」である
「改めて。何者ですかー?」
「トラッド・ユニト。『
「……! 4500兆ストレイルの懸賞金首……!」
「おや、500兆ストレイル上がっていましたか。それは初耳です」
施された武具加工に従い、カノンの双剣が炎を纏う。
肉の焼ける音──は、しない。
「好戦的ですねえ。判断は良いですが、別に何かをしに来たわけではないですよ」
「……それは、あり得ない。波の音を響かせる者は……自らに襲い来る荒波を、鼻歌を唄って越えていく者達。何かをしようとしているのは、間違いない」
「良い理解です。──だからこそ、単純な武力で僕を倒すことはできません。──
大きく後方へロンダートするカノン。回転しながら中空にて魔法を叩き落とし、天井に着地して反撃の機会を窺う。
「本当に何もしませんよ。確認をしにきただけです」
「何の、確認」
「この世界には、ある一定の状態にあると、そのせいで世界が滅ぶ、ないしは人類が滅ぶ、とされている方々がいるのです。その兆候のあった一人がカリア、」
最速。カノンに今出せる最高速度による突撃は、ユニトの持つ杖によって防がれる。
「ン・ヴィスマルク。……とはいえ、あなたがいれば大丈夫そうですね」
「ある状態、とは?」
「不信。諦観。口でどうと繕っていてもそれが心にあれば、その状態にあると定義します。僕は一応人間のための賢者ですからね。単一個人の気分で人類滅亡とか、困るんです」
「もし、そうなっていたら……彼をどうする気?」
「殺しますよ。邪魔ですし」
横合いから来た殴打にカノンは反応した。
剣で受け、弾かれて回転し、天井と壁に手をついて止まる。
攻撃してきた相手を見れば。
そこに──二人目の大賢者がいた。
「クァントゥムという魔法の応用です。ここは密室ですからね、いくらでもできます」
「……わたしがいれば、大丈夫、というのはー?」
「彼が唯一心から信頼している相手があなた、ということですよ。義理の妹にも開いていない心をあなたには開いている。無論、未来のことはわかりません。この先で彼がそういう手合いを増やしていってくれたら言うことはありませんので」
「どうして、カリアンが、そんな重要人物に?」
「それについは僕もなんとも。まぁ恐らくですが、彼の場合は好かれやすいのでしょう。そういう艱難辛苦に」
「……理解」
「おお、それは可哀想に。……さて、僕はもう行きます。お騒がせしてすみませんでした」
言うや否や、自らの影に溶けるようにして消えていくユニト。
そうしてようやく、彼の姿も、そして波の音も聞こえなくなって──。
「……鍛え直し、ですねー。……あんなヒョロプロテスに一撃も入れられないとはー」
自戒し、カノンも通常通りに……カンナに戻って、会議室を退室するのだった。
翌日、指定された場所に彼らはいた。
そこへ。
「申し訳ありません、オーリエさん。少々道中でトラブルがあって遅れました。所要により今回は私、フィノ・ルンテーニとメギス=ヘカトンの二人だけとなります」
「ええ、入ってください」
声が聞こえた時、レスベンスト冒険隊は当然反応した。聴き覚えがあったから。
そうして入ってきた人影に。
「え」
「……リチャード?」
「失礼します。『深炎の牙』、フィノ・ルンテーニ、メギス=ヘカトン。到着いたしました……と?」
「あれ……なんか懐かしい気配があるね♪」
驚きが訪れる。
鏡。髪色以外、ほぼ違いがないその二人は。
「……まさか、セノ?」
「フィノ……なのですか?」
お互いを、そう呼び合った。
しばらくして。
「じゃあ、二人は実の兄弟ってこと?」
「兄弟というか、双子ですね。十歳までは共に育ちましたが、紫輝歴666年、突然失踪して」
「簡単に言えば、人攫いに攫われたのですよ。……まぁ道中でボコボコにして人攫いを乗っ取って、そのまま人買いも壊滅させようとゼルパパムにまで乗り込んだ挙句返り討ちに。そこで……まぁ、色々あって、レンバルト・ドランに雇われ、レベッカを殺すために差し向けられ、リチャード・スミスと名乗って……という具合です」
「そうだったのですか。母上も父上も心配していますから、今度帰って無事を報告してください」
「優しく撫でられたあとに鼻の骨が折れるほどの拳が飛んできそうですね……」
「逆じゃないんだ。撫でてから殴るんだ」
「容易に想像できます」
双子というだけあって、非常に似た容姿の二人。声も喋り方も似ているものだから、二人以外は混乱が隠せない。
そしてもう一つ。
「ユリウス。確かユリウスに混ざっている精霊の血って」
「うん、そうだよ。ヘカトンって精霊の血。そう聞かされてる」
「そもそも精霊のハーフというのはどのようにして生まれるものなんですの?」
「うーん、精霊って発生するものなんだけどねー♪ その発生場所は基本、感情の線が繋ぎ合わされた空間、両親の周囲の魔力帯域になるわけなんだけどー、これは精霊同士じゃなくても成立するのさー♪ で、男性精霊と精霊以外の女性のバアイー、発生先が胎内になる、って感じだったはずだよー? ボクも詳しいことはわからないんだけどねー♪」
「へえ、そういう仕組みで……」
「……私の知り合いにも精霊が何人かいるんだけど、メギスくんからは……私の知ってる一番強い精霊と同じくらいの強い力を感じるよ」
「精霊は年齢がそのまま力になりやすいからねー♪ 同年代くらいの子かなー?」
「確か、涅月歴の55年生まれだったかな?」
「ああ、じゃあその子の方が年上だー。ボクは170年の生まれだからねー♭」
とんでもないスケール感の話が繰り広げられている。
さらにさらに、そうなってくると気になってくるのは。
「メギス、あなた……まさか子供がいたのですか?」
「あれ、言ってなかったっけー?」
「聞いていませんよ。カズラたちも知らないでしょう」
「ルツっていうハーフリング族の女の子がボクの奥さんでねー、だから、ユリウス君のお婆さんになるのかなー?」
「え、じゃあ、直系ってこと?」
「僕の両親は、母親がハーフ精霊で、父親が人族だったはずよ。だから……」
「あ、じゃあ君の家を訪ねれば、ルツに再会できるのかなぁ」
「その、デリカシーの無いこと言いますけれど、流石に千五百年以上前の方ですと……お亡くなりになられているんじゃ」
「うん、お婆様の話は聞いたことがないから、そうなんじゃないかなぁ」
「そっかぁ。……まぁボク自分の子供の顔も知らないからねー、会っても何を話せばいいのやら、なんだけどさー♪」
メギスはそこで一度拍を置いて。
「でも、ユリウス君の両親は、存命だったりするかいー?」
「ああ、うん。まだ生きているよ」
「一応今度、会わせてほしいかなー。……懐かしい気持ちになっちゃったからさー♪」
「どうして……その、ルツさんと離れ離れになってしまったのかを聞いても?」
「行方不明になったんだよねー。確か……紫輝歴250年とかの話ー。空流コンテストっていうコンテストで彼女が一位になって、けど商品授与の前に姿を消しちゃってさー。あ、人攫いとかは無いと思うよー♪ ファウンタウンの出来事だからねー♭」
「ファウン……タウン?」
「知らないかぁ~」
物々しいワードが出てきたことで、雑談に興じていた彼らは、ようやく現実を見た。
正確にはにこにこしているオーレリアを見た。
「っと申し訳ない、話し込んでしまって」
「いえいえ、構いませんよ」
「とりあえず定例報告会として集めた情報を出す気でいますが……そういえばなぜ彼らはここに?」
「ゼンノーティ、そしてマイズライトという姓に心当たりがあるそうなんです」
「おお、本当ですか? というと、インゼン先生……もとい、シュライン・ゼンノーティについても何か心当たりが」
「え。……シュライン・ゼンノーティさんは、亡くなったと聞きましたけど……」
「はい、ですがその死がどうにも不審で」
という切り口から共有されていくのは彼らが直面してきた様々なこと。
シュライン・ゼンノーティの話。ケレン・ゼンノーティの話。マイズライトの話。
その流れで、アルカは件の絵画をフィノらに見せる。
「おお……これは」
「昔、ガルベン・ゼンノーティっていう画家のお爺さんが描いたという三人の絵です。シュライン・ゼンノーティさん、ローレンス先生、モーガン・カルストラ教授」
「ガルベン・ゼンノーティ……我が国の英雄にして、ケレンの育ての親ですね」
どんどん点と点が線で繋がっていく。
だからこそ浮き彫りになっていくのはその名前だ。
「マイズライトは……どういうことなんだろう」
「わかりませんけれど……オーレリアさん。確かさっき言っていましたわよね。ケレン・マイズライトは何者かに襲撃され、王城よりいなくなった、と」
「ええ、はい」
「その時、不審な商談が来ていたとも話していたように記憶しているのですけれど、それについて詳しくお聞かせ願えますか?」
「……あの時、おかしな集団がいたんです。ケレンに対し、値踏みするような視線を向ける集団が。その集団はケリュニーワと名乗る商隊で……彼らは私がケレンを王城に呼び寄せる前日、"彼らから取引を持ち掛けてきておいて、彼らからそれを撤回する"という動きを見せました。その後襲撃があり……私がその話を思い出し、父に調査を要請した時にはもう、ケリュニーワなる商隊はハンラムにいなくて」
ケリュニーワ。その言葉に反応したのは──アルカとヴィクニ、そしてメギス。
「待って……
「ジュン・ダリオン?」
「
アルカとメギスは、それぞれ古代魔族語・精霊語として聞き覚えがあって反応しただけだった。
けど、ヴィクニは違う。
「ジュン・ダリオン? あー、なんだっけ、それ。俺もその名前見たことあるよヴィクニ」
「レスベンスト村にある絵本。ずっと昔からある本で、とても大切なものだって聞いてる。そこに、
「それだそれだ」
微かに。俄かに。けれど、確かに。
果たしてこの先に答えがあるのかどうかすらわからないけれど……何かが繋がっている。
「エレオノーラ、何か心当たりがあるの?」
「ジュン・ダリオン……。……聞き覚えがありますわ。何よりその……取引の持ちかけ方が、どうにも気になって」
「それじゃあ久しぶりにレスベンスト村に帰るか。……爺さんたちが売っぱらってなきゃいいけど」
「大丈夫だと思う。むしろ丁寧に扱えって口を酸っぱくして言われたのを覚えている」
「ふむ。……その里帰り、メギスも同行させてくださいませんか? 私は帰ってカズラたちに話をしてきますので」
「そーだねー。精霊関係のことなら手伝えるしー。ボクの曾孫君のこともちょっぴり気になるしー」
「カンナはどうする? 帰るか?」
「うーん、じゃあ途中までついていきますよー。レスベンスト村までー。その後帰りますねー」
「絶妙に理由が分からないけど、わかった。よろしくな」
この時。
私もついていきます、とは言えないオーレリアを含めて、皆が胸中に抱いていた感情があった。
それは──高鳴り。わくわく。冒険心。
事態が動いている。何かが明らかになりつつある。
これは幕間の物語。
けれど──話が進まないとは、誰も言っていないのだと。