序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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幕間 - 紫輝歴680年浅紫の月某日 港湾国家ゼルパパム北東の島オルカヌヴィスにて

 開口一番は。

 

「え、おれが魔族? ……ああ、そっか。そっちの少年は精霊か。……あ、待って、その通り! とかじゃないよ。おれは人族。ただ……昔、魔族の心臓を移植してもらったことがあるんだ。だからそう見えるんだと思う」

 

 あっけらかんと、そんな、最大級の秘密を言ってのけた。

 

「心臓移植って……昔ローズが話してた概念だけど、成功例があったんだ……」

「イショク? っていうのは?」

「簡単に言えば、死する前の……他人の心臓を貰い受け、病を患うなどした己の心臓と取り換えて生き長らえる、という()()ですわ」

「外法って……。この辺の認識ってほんと遅々として進まないモンなんだなー。院内だと体に刃を入れるのはそこまでおかしな話じゃなかったはずだけど」

「失礼。話を遮ってしまいますが、アナタの依頼の場所に夢妄の魔族がいた、という事実は変わりません。何か心当たりはないのでしょうか」

 

 そう、冒険隊はそれを疑っていたのだ。

 魔王が暗殺を企て、実際に多くの英雄が消されていっている中でのこれについてを。

 

「繋がりを疑われたところで、どうやって潔白を証明すればいいのさ。仮におれが魔族でもそのまま人族でも、精霊だろうとコンストラクトだろうと、実は魔族と繋がっていました、なんて可能性は無くならないし、同じく潔白である可能性も無くならない。そうだろ?」

「……ん。大丈夫だと思う。こうして相対してわかったけど、店主さんはそういう……なんだろう、究極的に、どこかの誰かと敵対する可能性のある道を選ばない気がする、っていうか」

 

 アルジオの言葉に、少しだけ目を見開く青年。

 正しかった。その通りだった。

 

「ふぅん。レスベンスト冒険隊っていうのは、本当に英雄なんだな。……それじゃあ、どうしようかな。依頼先で想定外があったというのなら、何かを補填する、っていうのは吝かじゃないんだけど……とりあえず依頼の品は持ってきてくれたってことでいいのか?」

「ああ。ほら、これ」

 

 カウンターに置かれるもの。

 それは、眩い黒色の光を放つ薔薇らしきもの。

 通常自然界には生えない黒薔薇。ヴェスティア自然保護地区の中心部にそれが生えているということで、冒険隊はこれを採りにいっていたのだ。

 

「おお、確かに。……じゃあまず、報酬の本を渡しておくな」

 

 契約は成立した。本来であればここで終わりで良い。だけど。

 

「そうだな。ここは誠意を見せるか。──改めて。おれの名前はアレクサンダー・フォノン・"ルベント"・ドノヴァ。世界を股にかけて骨董品を売る商売をしている商人だ。そんで、取り扱っているのは骨董品だけじゃなく、情報も、なんだけど……お客さんには迷惑をかけたみたいだから、なんでも好きな情報一つをタダで提供するよ。それでどうかな」

目を凝らして(ルベント)……」

残された一粒(ルベント)? 不思議な名前だねー♪」

 

 予知名。その存在は魔族なのではないかという疑惑を加速させるだけですけれど、とはエレオノーラの胸中である。

 

「なんでも知ってるっていうことなんですか?」

「いや? 知らないことも多い。けど、知らない事は二日三日あれば調べられる。そうだろ?」

「もし持ち合わせの無い情報だった場合は調べてきてくれる、ってこと?」

「そう、その通り。おれは……戦闘はそこまで得意じゃないけど、結構色んなことができるからな。色々やってやれる」

 

 だというのならば、丁度いい話があった。

 アルジオは他の面々と顔を見合わせた後、問いをかける。

 

「ケレン・マイズライト、という少年を探しているんだ。何か知らないか?」

「マイズライト? ……あー、確か160年前くらいにそんな旅団がいたような。内部抗争で自然消滅したって聞いた気がするけど」

「……」

「それと……あとは、ああそうだ。おれの知り合いにアマナって女の子がいるんだけどさ。そいつの務めている海洋研究所にドレン・マイズライトっていうのがいたはずだぜ」

「なんっ……あなた、ドレンの行方を知っていますの!?」

「アマナって……まさかあのアマナじゃないよね……」

 

 ここは閉口しておくのが吉ですわね、なんて思って黙っていたエレオノーラだったけど、そんなことの一切を忘れてアレクに詰め寄る。

 それほどまでに重要なことだったから。

 

「ちょ、近い近い!」

「エレオノーラ、珍しいですね。あなたがそんな剣幕になることなど」

「うん。初めて見た」

「っ……。……失礼しました。……ドレンは、その……幼い頃に生き別れた弟なのです。私にはもう一人弟がいるのですけれど、二人でずっとずっと……長い事探していて」

「え、そうだったのか。じゃあ丁度いいかも知れない。明日の朝一にアマナがここに来るからさ、その時一緒に連れていってもらうといいよ」

「すげー、そんな偶然もあるもんなんだなー」

 

 あるいは。

 そういう「出来事」に遭遇しやすいように、青年が己にそういう呪詛を刻んでいる、などということは……まだ、彼らでは読み解けぬ話であったのやもしれないが。

 

 アルジオの信用により、少なくともレスベンスト冒険隊から疑いの晴れた青年は──そうだ、と手を打つ。

 

「宿とかの用意が無いなら、今晩泊まっていかないか? 魔王とは繋がってないアピールってわけじゃないけどさ。おれ、飯にはそこそこ自信があるんだ。だから食ってってくれよ」

「いいのか? おれたちには港湾艇20スケール(アリアトレアス)っていう家兼船があるから大丈夫ではあるんだけど」

「お詫びも兼ねてだからな。……あー、毒とか心配されると、もう調理工程を見ていてくれ、しか言いようがないんだが」

「んー、彼がここまで信じているしー、ボクも信じることにしてみるよー。疑ってごめんねー♪」

「疑いたくなる気持ちはわかるから詫びは要らないさ。そんでもって、精霊のあんた。料理の話を聞いて、期待、一切してないだろ」

「え? あー、まぁ、精霊にとって美味しいごはんは、魔鉱石だからねー♪」

「チッチッチ、大丈夫。精霊でも美味いって感じられる飯だから、期待してな!」

 

 その言葉は。

 

 

 ──果たして、実現する。

 

「……本当だ。美味しい……けどなんで? 魔鉱石も入ってないのに……」

「え……え? 『船長』、この味ってさ!?」

「……うん。……言いたいことは……わかるよ」

 

 酸味をベースとした味付け。一品一品バランスの取れた味というよりは、すべてを食べ合わせることで完成する料理。

 間違いない。いや、勿論細部は違うけれど、これは。

 

「アレクさん、これ……誰に習ったの?」

「爺さんだ。ああ、血は繋がってないんだけどな。おれの命を繋いでくれた爺さんに習ったよ」

「……懐かしい味、ですわね」

「ええ、本当に」

 

 実のところ、一緒にいた時間は一年とないのだけど。

 それでも冒険隊の心に深く刻まれている経験。それを思い起こす味だ。

 

「これも爺さん曰く、だけどな。精霊が普通の料理を食べても味を感じられないのは、魔力で調理していないから、なんだそうだ。だからメギスさん、あんたに出した飯は全部魔力で調理させてもらった。これをすることで精霊でも味を感じ取れるようになるんだってさ」

「へえー♪ ……今度自分でもやってみよう♪ 味って……良い物だね♪」

 

 確信があった。

 だから。

 

「アレクさん。……さっき、院内じゃどう、とか言ってたけどさ。それってもしかして……エチェロエグズル教戒院、って場所のことだったりする?」

「お、やっぱ知ってる人は知ってるんだな。そうだよ、セプウルクルム海のどこかに存在すると言われる幻の教戒院。海で遭難した者の中で、とりわけ幸運であった者だけが辿り着くことのできる場所。過去の己に別れを告げて、新しい自分に出会い、卒業をする場所。……おれはそこの出身さ」

 

 喉に何か、えづきに似たものが走る。

 顎の奥に痺れが走る。

 

「その。……モーガン・カルストラ、って。……知ってますか?」

「ああ、知ってるよ。会ったこともある」

 

 少し、心配そうな目線が飛ぶ。

 アルカのその顔は……今にも泣き出しそうだったから、かもしれない。

 

「そっか。……みんなは、モーガンと縁があるんだな」

「ボクは違うから、ちょっと席を外しているねー♪」

「ああ、悪い。……聞いたよ。モーガン、シュライン、ローレンス。……全員がどうなったのかについて」

「え、シュライン?」

 

 どこかに行きかけたメギスが戻ってくる。ここでその名前を聞くとは思っていなかったから。

 

「じゃあ、今日は語り部をしようか。何の参考になるかは知らないけどさ。あの三人がエチェロエグズル教戒院で何をしていたのか、一応先輩だからな、教えてやれる」

 

 こうして。

 悲しいだけの思い出に、少しだけ彩りが出る。

 まだ見ぬ幻。もう見ることのできなかったはずの幻想。その補完。

 

 たとえシュラインの名が出たとしても、情報以外には興味無かったはずのメギスも交えて、語りの上手い……吟遊詩人のように面白おかしく話すアレクの話術に、刻々と時が過ぎていくのであった。

 

 

 翌朝。

 

「えー! アルカ! 久しぶりー! ……けど、嘘、あなたってば学生時代からほとんど成長してないんだ……かわいー!」

「ちょ、アマナ……久しぶりは久しぶりだけど、あなたこそ背が伸びすぎっていうか」

「色々あったからねー私も。……それで、この子たちは? アルカの子供?」

「流石に無理があるでしょ。……レスベンスト冒険隊。今の私の仲間だよ」

「へぁ? ……風のうわさでそんな話は聞いてたけど……え、じゃあアルカが魔物と戦ったりなんだりしてるの? ふにゃふにゃへらへらほわほわアルカが!? 教授好き好き大好きストーカーするけど自分に自信は無いへなちょこアルカが!?」

「恐ろしいですわねアレ。100%悪口なのに、感情に悪意が一切載っていませんわ」

「天然……悪口……お姉さん」

「おれたちは船長に対して頼りになるお姉さんって印象だけど、同年代から見るとあんな感じってことなんだろうなー」

 

 会うなりハグして、持ち上げて、ぶんぶん振って。

 アレクを訪れてきた女性、アマナ・ヘルトリーズンは、やはりアルカの知るアマナで。

 

 喋る隙を与えられずにシェイクされ続けて──プチンと切れたアルカが雷を墜としたあと。

 改めて、互いの近況を話し合うターンになった。

 

「そ……っか。教授……亡くなったんだ」

「うん。……知らなかったんだね」

「ゼルパパム大卒業後はずーっと海の上にいたし、途中でエチェロエグズル教戒院に行って……帰ってきてからは、本当にやりたかったことに専念してて……情報を仕入れる暇がなくてさー」

「そうなんだ。……って、え? アマナも教戒院にいたの?」

「ああうん。そんなに長くは在籍してないけどねー。……だから、若い時の教授にも会ったよ」

「へ? どういう……時系列がおかしくない?」

「あれっ、ルヴァンくんその辺説明してないのー?」

「混乱させるのも良くないかと思ってさ。……変に希望を持たせちゃうのも、つらいだろうし」

 

 生唾が飲み込まれる。

 それは。その可能性は。

 

「エチェロエグズル教戒院。すべての時間に存在し、すべての時代に存在する。だから、千年前の人物と同室になって同窓になって自分の境遇を語り合ったり、自分のお母さん世代が後輩として入ってきたり。あそこではそれがあり得る。だから……私は、若い頃の……ゼルパパム大に来る前の教授と同じ時間を過ごしたよ。……亡くなっているって知ってれば、もっと……色々積極的に行ったかもしれないけど、そっか。……そっかぁ」

「それってさ、もう死んじゃった英雄とかもいたりするのか?」

「海で遭難してればねー。有名どころでいくと、『竜体の叡秘』っていう巻物を書いた冒険家ロイド・ルカスとか、第一代魔王とか、『竜殺し』セイラ・ミルクトウォッチとか」

「最後、なんて? 聞こえなかった」

「未来の話だから、『整合』の魔法が聞こえなくしたんだよ。アマナの嬢ちゃん、セイラとソーマの生まれは確かに紫輝歴650年だけど、その称号を得たのは710年の話だったはずだからさ

 

 それはエチェロエグズル教戒院生に施される魔法。未来をかき乱さないように、過去を混ぜ返さないように。

 その『整合』は強く、硬く、知るべきではない情報を縛り付ける。

 

「え? なに? うしろ聞こえないよー」

「ん? ……あ、そっか。アマナの嬢ちゃんはがっつりこの時代の人間だから、『整合』対象なのか。まぁなんだ、その名前が有名になる……あー、その名前で伝わるようになるのは未来の話だから、無理なんだよ」

「そだっけ? そっかそっか。じゃあ他で言うと……」

「ローレンスとシュラインの話はもうしたぜ」

「えーっ、エリート三人衆まで話されちゃったら、えーとえーと。……まぁ色々いたよ!」

 

 なれば、本題。

 だったら。そうだと言うのなら。

 

「……私が……そこに行ったら、教授に……また、会えるのかな」

「あー……」

 

 アマナがチラっとアレクを見る。彼は、「だから言わなかったんだよ」と言わんばかりの顔をしている。

 答えに困るアマナに、アレクははぁ、と溜息を吐いて。

 

「まぁ、やろうと思えば会えると思うぜ。──それをあんたの心が許すのなら、だけど」

「……」

「おれも……色んな無理を通して、ある人を捜してる。だからおれにあんたを止める権利は無い。……けど、まぁ、多分……そういう目的で、わざと遭難したところで……あそこには辿り着けないと思うけどな」

「偶然遭難して行く場所だからねー。教戒院のご飯にまたありつけたら、って思う日はたまにあるけど、そういう目的で行ってもただただ死ぬだけだってわかるしなー」

「なんで院内で料理習ってこなかったんだよ」

「ルヴァンくんだって習ったわけじゃないでしょ。外に出てから恋しくなって覚えたってこの前話してたじゃん」

「まぁその通りなんだけどさ」

 

 いけないのか。

 死者の影を求めて、過去の滞留物に縋る、ということは。

 割り切ったつもりだ。『収蔵』の魔法にかけられて、少しずつ咀嚼して、ようやく前を向けた。

 それでも──もし、また、会えるというのなら。

 

 会いたいと、そう願うことは……いけないことなのか。

 

「会ってどうする気だよ、『船長』」

「……アルジオ」

「私達は『教授』、あなたの教え子です。一年ほど共に旅をしました。その後あなたは死にます。だから、あなたのいなくなった未来から、思い出を作るために参りました。──そう言うつもりですか、アルカ」

 

 アルジオとリチャード。

 この二人だって後悔は絶えないはずだ。なんせ、アルカよりも近い場所で、その喪失を見たのだから。

 

「正体を隠して。真実を隠して……素知らぬふりをして、『教授』のそばにいる。……その方が、ずっとつらいと……思う」

「というか、『教授』なら若い時分でも色々察して帰れとか言ってきそうだよね。お前のいるべき場所はここじゃない、とかってさ」

 

 なぜ。どうして。

 レスベンスト冒険隊は、こうも強く在れるのか。

 

「ま、行くんなら止めないわ。探す手伝いだってしてあげる。わたしたちだって『船長』にはたくさん助けられたし、それでも会いたいっていう気持ちはわかるし。ただ、仮に見つけられたとしても、わたしたちはついていなかないから」

「……それは、どうして?」

「アリアトレアス。これ、古代魔族語じゃないから、意味を知らないでしょう、アルカ」

 

 肯首するアルカ。教授の遺したものだからと調べに調べたけれど、アリアトレアス、そしてユゼイナスの言葉の意味は見つからなかった。

 

「え、知らなかったのか?」

「確かに……ゼルパパムの田舎生まれじゃないと……知らないかも?」

「僕も純粋なゼルパパム人じゃないけど知ってるよ」

 

 世界各地には口伝でしか伝わらぬ民話や寓話の類が存在する。

 アリアトレアス、ユゼイナスは、そこから取られたものだと、レベッカは言う。

 そして。

 

前進することを躊躇わないモノ(アリアトレアス)。これは、そういう意味。前に進むことができなくたって、目の前が崖であったって。迷わず、躊躇わず、前に進み続ける。そういう、一聴して愚鈍にさえ思える存在がゼルパパムの人々の心の中に居ついている。……教授がわたしたちの使う船にこの名前を授けたのは、わたしたちをそういう存在だと信じたからだって……そう信じてる」

「ちなみにですが、ユゼイナスにはどのような意味が? 私もそれ、知りませんので」

何があっても諦めきれないモノ(ユゼイナス)。カリアンには、ぴったりの名前。でしょ?」

 

 諦めないのではなく諦めきれない。カリアン・ヴィスマルクの精神性をこれでもかと表す名前だろう。

 

「過去を振り返って、思い出に触れて。……わたしは、わたしたちレスベンスト冒険隊に翼を与えてくれたあの人に報いる生き方をしたい。記憶を懐かしむことはするし、他人から聞く話で目を細めることだってするでしょう。けど、わたしはそこに戻りたいとは思わない。過去の人に会いたいとは考えない」

 

 レベッカ・ヴィスマルク。

 彼女とて、多くのものを失ってきた人生だ。

 

「なんでか、っていうの。……言葉にできる? レベッカ」

「喪失も含めて、今のわたしだから。……わたしは、わたしという今の存在が大好きなの。愛している。義兄の存在も、冒険隊のみんなも、培った縁も。そういうものを構成しているのは、たくさんの出会いと別れ。敵対と和解。挫折と克己。絶望と展望。……わたしは別のわたしになりたくない。今のわたしで満足してる。モーガン教授に導かれ、ローレンス先生に救われたこの命を誇りたいから、もう会えないという感情を決して手放したくない」

 

 ふと、アルカは考えた。

 もし……教授が、その死のあとも意識を残していたら。

 空の彼方、天の至泉。席を選ぶ劫白の国で、レスベンスト冒険隊の行く末を見ていたら。

 

 こんな気持ちになったのかもしれない。

 ──成長。あるいは、自らをも追い抜かしていく風。

 

「……はぁ。立つ瀬がない……っていうかさー。アレクさんとかメギスくんとか、そこまでまだ親しい間柄でもない相手にまで……こんな情けない姿見せるの、思うところあるけど」

「ご、ごめんねアルカ。私がおかしな話題振っちゃったから」

「たしかに。……アマナ発端な気がするから、あとで埋め合わせはしてもらうとして。……そこまで言われて……教授に会いに行きたい、って言えるほど、私も子供じゃない。……けど、情けない確認をするけどさ、アレクさん」

「ん」

「アレクさんから見ても……教授は亡くなったって……エチェロエグズル教戒院というところの技術や魔法があっても、絶対に蘇ることはない、って……そう言ってくれる?」

「教戒院の技術は確かに凄いけど、だとしても今の技術の延長線上でしかないよ。死んだ人間が生き返らないという絶対の法則は、どれほど先の技術になったって覆せない。モーガン・カルストラは死んだ。それはあんたが、一番よく知っているはずだ」

「……うん。そう。……その通り。……よし! それじゃあ、……えっと、そう。だから……アマナ!」

 

 ぽんこつ頭お花畑少女だったのは今は昔。

 アマナ・ヘルトリーズンは多少空気の読める女性に進化したので、この空気にはあわあわおどおどしていたのだけど。

 名前を呼ばれて、シャキっとして。

 

「アレクさんとの用事? っていうのが終わったら、あなたの船に乗せて。港湾艇20スケール(アリアトレアス)も一緒についていくから」

「へぁ? え、ああ、いいけど」

「アマナが今働いてるとこにいるドレンさんって人がね、エレオノーラ……あっちの子の探し人なんだって」

「ドレンお兄さんが? あ、もしかして長年探してるお姉さんって」

「あら……あの子、そのようなことを言っていたのですか?」

「うん、っていうか、ええ、はい。海洋研究所に来たのもお姉さんとお兄さんが遭難している可能性を考えて、とかって話していたような」

「……そうですか。恐らくはそういう処世術ですわね。……その、同行しても構いませんの?」

「勿論いいですよー。……っていうかさ、アルカ。立ち直ったのなら一言言うとかしなよ~……皆さんなんて声をかけていいか迷っちゃってるじゃん」

 

 高速で首を縦に振る冒険隊……主に男性陣。

 

「ん。ごめんね、降って湧いた可能性ってやつに、靡きそうになった。……大丈夫。みんなの頼れるダヴィド船長だって、前に進むことを躊躇わないんだから」

「良かったねー♪ ボク、こういう空気、茶化すくらいでしか対処してこなかったからさ♪ 冗談を挟もうかと何回か迷ったんだよねー♪」

「それはまた……フィノが烈火の如く怒りそうですね」

「うん♪ ボクとハナカラって子で、一緒によく怒られてるよ♪」

「いやーしかしレベッカも言うようになったなー。さすがはマリト・マフィアの裏のドン!」

「誰がよ誰が」

「えっ……嬢ちゃんマリト・マフィアの関係者なのか?」

「関係者というか、ドンの義妹。他言無用」

「ヴィクニ、そういうのはあまり大っぴらに話すべきじゃないと思うよ……」

「……えっとおれ、マリト・マフィアに許可とか取らずに商売してるけど……大丈夫か。詰められたりしないかこれ」

「そういえば魔族疑惑が出ていた時にそうなりかけていましたね」

「だからしないってば。わたしにそんな権限無いし。……周囲のやつらが勝手に、ってことはあり得るけど」

「それで言えば、そういえば教戒院にマリト・マフィアの創設者がいたよねー。ルヴァンくんもお友達だったから、大丈夫なんじゃないかな?」

「えっ、誰!? まずい友達多すぎて誰のことかわからん!」

 

 途端賑やかになるその場に。

 

 少しだけ離れて……ほぅ、と一息を吐くは、エレオノーラだ。

 

 ──ようやく暗雲晴れたようですわね。

 

 それは過去の話。『不死』の魔導士より「その時代の『最小限』にかかる暗雲をどうにか払ってほしい」という申し出をされた時は、正直に言えば不満を見せたエレオノーラである。

 元より人族につく気は無くて。

 弟エステルトの自ら定めたやるべきことを、遠くから見ていればいい、程度の考えだった彼女だけど。

 

 それでも引き受けたのは、見てほしいと言われた『最小限』の魔導士が、まだ年端も行かない少女だった、という事実と。

 

「いずれお主の、親友となる存在……でしたか。まったく、あの節介焼きは……余計なお世話にも程がありますわ」

 

 こうして気に掛けたから親友になったのか。

 親友になること自体は決まっていたのか。それはまだわからないけれど……少なくとも、あの時点で、見放す選択をしないで良かった、と。エレオノーラは安堵する。

 それと同時に。

 

「……しかし、【真のマギスケイオス】……。『不死(センピテルナ)』と『蓋然(インコグニタ)』の狙いがやはり"手中に収めること"であるにしても、『最小限(シンプレクス)』が必要な意味とは……果たして。そして、『財宝(アバンダンス)』ではダメだった理由は……」

 

 人族が夜明けを手にするか、魔族が涅月に手を届かせるか。

 訪れるとしたら。溢れ出るとしたら。

 おそらくは、あと、数年。

 

 エレオノーラは……首を振る。

 あまり暗い面をドレンに見せたくないからだ。

 

 だから彼女は何食わぬ顔で賑やかさの中に戻る。

 最愛の弟を、最高の笑顔で迎えにいくために。

 

 そして──微かなつながりを見せた手がかりを、一本の線にするために。

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