序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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11.(まちが)える取捨

 のっぺりした顔のシベリアサンショウウオ……ユキヤマサンショウウオを見る。シベリア、無いからね。

 この雪山にあって両生類。体内はほとんど不凍液で満たされていて、つまようじとか刺したら破裂しそうに見える。

 

「何用かと、問うたぞ」

「む。ああ。お主がふもとの村の守り神で相違ないか?」

「然り。正しくは、我はこの山の守り神である」

 

 あーね? 村ができたらから成り行きで守っているだけで、本来は山神なわけだ。

 

「何用か。ふむ、ふもとの村の村長(むらおさ)に挨拶をしにいけと言われたから来たまでよ。特に用件は無い」

「我の認識が正しければ、人族と魔族は長きに亘って争い合っていたはずだ。なぜヒトの身が魔族にそのような指示を受ける」

「ふーむ。吾輩はぶっちゃけ種族とかどうでもよいからな。吾輩に実害が無い以上争う意味もあるまい。それと、後学のために参考にしたいのだが、どうして吾輩が魔族ではないと? 魔力はそのものであるはずなのだが」

「異なことを聞く。万物にはこの世に生まれ落ちた時から変わらぬ霊質がある。それは我ら神も、魔族も、人族も、精霊やそれに準ずるすべての知性体が同じである。魔力など、後天的に変わるその存在の影でしかない」

 

 なるほ……ど? 魔力の質以外にも霊質とかいうのでそいつの種族はわかっちゃうよ、ってこと?

 ……魔族の王族貴族には一般魔族とは違う質感がある。結界のこと。魔剣聖剣。そして霊質。

 ウワーッ! この世界まだまだ遊べそう!!

 

「ヒトよ。なぜあの村に目を付けた。その理由如何によっては、そして目的如何によっては、神の怒りがおまえに降り注ごう」

「見どころのありそうな幼子が多かったから、だな。理由があるとすれば」

「子か。意のままに子を操るか?」

「思うままに成長する子の枷を外しにきたまでよ。その後どう育つかはその者の自由であるし、何より吾輩は一度自身の手を離れたものへ再び干渉することを酷く嫌う。大人になるにつれ、吾輩のことなどふと忘れ……時折帰郷をするようにしてどれほど強くなったのかを見せにきてくれる。それだけで充分よ」

 

 実際今回は結構長期になりそうだなって思ってる。カズラくんと違ってここの子たちはまだまだ未成熟だからね。一年二年じゃ成功しないだろう。

 代わりに子供達がそれぞれにそれぞれの未来を追いかけ、それぞれに仲間を作ると考えれば……当然確率は上がりまくるというもので。

 申し訳ないが子供達には俺の夢のための食い物になってもらおう。その分強くしてやっから、な?

 

「ふむ……邪気の一切を感じぬ、純粋な想いを受け取った。問おう。おまえが見る夢において、おまえがヒトの身であることの露見は、その夢の阻害となるか?」

「まぁ、できることならバレたくはないな。魔族はヒトに対してあたりが強い。歴史を鑑みれば仕方のないこととはいえ、直接の被害を受けていない子供にまでそういう教育を刷り込むのはどうかと思うが……」

「良いだろう。おまえが人族であることは我の裡に秘めるものとする。形は違えど、子を想う気持ちは我も同じもの。その翼を支え、踏み抜く棘を減らすことがおまえの夢だというのならば、我は両目を瞑る」

 

 協力はしてくんないけど黙認するよ、って理解でいいよねこれ。そして協力を申し出られたら断っていたから危なかった。夢は一人で追いかけてこそ、だかんね~。

 あと……神ともなると、この世の法則とか原理とか色々知ってそうでさ。見つける楽しみまで半減されちゃったらヤバかった。一世紀くらい無気力人間になるところだった。

 

「覚えておけ。我の名はトライギル・括石(ククルイシ)。ブランコイデアの神にして、沼沢地を司るもの」

 

 あー。まぁ……サンショウウオの神がお前だけなら覚えるよ。もし別個体が出てきたら厳しい。いつか別のやつ話題に出して「誰よそのサンショウウオ!」が発生しそー。

 

 吹雪が強くなる。歩いていないのに足が雪に埋まっていく。

 これは……結界がどうこうだな、多分。

 

「さらばだ。おまえの理想、真に実現し、子らの笑顔が溢れることを我も願っている。ヴァルカン・ゼンノーティ。おまえの行く末に、幸多からんことを」

 

 ん。俺名乗ったっけ。つーか別にこの肉体はゼンノーティ姓のつもり無いんだけど?

 

 そんな感じで俺は雪に埋もれ──。

 

「お、帰ってきたの。寒かったじゃろう、今日はドランクボアの鍋じゃぞ。たんまりあるからの」

 

 気付けば、長老宅だった。

 ……そういうってことは歴代の挨拶者みんな雪に埋もれて移動させられてんのかな。もうちょいない? 便利な手段。俺じゃなかったら普通に凍え死ぬ可能性あるよこれ。

 

***

 

 挨拶の日から、約二年の時が過ぎた。

 魔王軍がこっちに探しにくるとか、竜に襲われるとか……マジでない。この村が寒村になるのにはそれだけの理由があるようで、魔物だろうとそうでないものだろうと滅多なことでは寄り付かないらしい。

 そんな中にあっても、我が道場は盛況だった。いや道場に繁盛もクソも無いんだけど、村じゅうの子供達、加えて退役したはずの魔族たちまでもが毎日の鍛練に勤しんでいる。

 子供達の面倒を見ることだけが老後の楽しみだ、みたいに言っていたじーさんばーさんだからな。それを俺が掠め取っちゃってやることなくなって、運動不足解消とボケ防止に鍛練に混じってみたら、想像以上に楽しかったっぽい。一応子供達に行うような魔力の質による潜在能力開放もやってあげているけど、まー子供達に比べると伸びしろないね。流石に仕方ないと思う。

 既に双剣使い志望ガジール、魔法使い志望ロノマ、スカウト志望フルエは村を出ていった。魔王軍に入るか武者修行を少ししてから入るか、というのは子供達次第だけど、できるだけ早く成果や結果を出して見せる! って意気込んでいたから、武者修行という名の浪人みたいなことはしなそう。浪人が悪いとは思わんがね。

 魔王軍に入られると強キャラの仲間が~のくだりができなくなりそう。そう思ったそこのあなた。いえいえそんなことはありません。

 魔王軍に入って部隊入りして、最初の一、二年は無理でも三年目くらいから長期休暇もらって里帰りして、その時になんか良い感じの雰囲気の強キャラと一緒に帰ってきたりしたら、そこでばったり「──ですよね?」が発生する可能性が高い!

 指導官だった頃の俺の教えを受けた兵士は流石にもう少し高いところにいるだろうから被りの心配もなし! イッツァグレイト!

 

 だからここは待ちである。次回用の色々を研究しつつ、あとヒューガタイプ……弟子の子たちが挑みにくるみたいな可能性も考えて俺の底力も上げておく。

 いつまでも衝撃に弱いフルプレートじゃありません。衝撃吸収系も簡略化できた部分に詰め込んでありますとも。

 あと地味にハルバードの扱いも上手くなってきた気がする。最初ノー知識で使ってたからマジのハルバード使いからしたら「何踊ってんだ?」くらいのアレだったかもしらんけど、今はハルバードらしい戦い方で、ハルバードだからこその攻撃が繰り出せる。

 武術系ね。俺のやりたい夢はあくまで技術の強キャラ隠遁者ムーブだからあんまり眼中になかったんだけど、どっかで一回やるのはアリではある。

 今回のこれはそうじゃないのかって。……まぁ魔王軍にいた頃は……いやでも俺指導力で売ってたし! 武芸で売ってねえし!

 

「師匠、師匠ー? お昼休憩終わりましたよー」

「む、おお、ここにおるぞ」

「ここ、って……いやなんでオクネンスギの上で釣りしてるんですか。どこに川があるかもわかんないし……」

 

 呼び声に返事をする。遠くで俺に手を振っているのは俺の道場の……まぁ現状の一番弟子だ。あくまで現状なのは、ただただ上三人が出ていったから、という話。

 のほほんとした声とは裏腹に一刺一殺に例えられる槍術を使う、鼬の魔族の女の子。名前はマハネ。

 ……ぶっちゃけ魔族の雌雄ほとんどわかんないからガン無視で育てているので女の子とか一切気にしてない。魔力の質にも出ないんだよな雌雄の違いって。あんま関係ないんだと思う。

 

 釣り具を鎧の中に収納し、ジュワッとジャンプして……彼女の前に着地する。ヒーロー着地はしない。衝吸加工という防具加工で衝撃を殺しているので、ヒーロー着地をすると膝に悪い以前に不格好になるのだ。

 

「流石の体術です……やってることは意味わかんないですけど」

「なに、これはちょっとした手品のような……。……否、精進すればお主にもできよう」

 

 危ない。いやマジで手品のようなものだから言いがちなんだけど、インゼンでもケレンでも言っていた口癖は流石に使わない方が良いだろう。

 どこで情報漏洩するかわからんし。弟子たちに移っちゃってその弟子がカズラくんとかの前でそれを口走った日にはもう。嘴になるよもう。

 

「そういえば聞きました? ユズハちゃん、もう武器を手に取ったとか」

「吾輩としては子らには武の道以外もあるのだと知ってほしいところであるが、余計な世話か」

 

 流石にな。この閉鎖コミュニティだと他人の名前も覚えるというもの。況してや滅多に生まれない赤子であればなおさら。

 ユズハ。俺が村に来た年に生まれた仮面の魔族の子供。仮面の魔族ってなに? って思ったそこのあなた。今でも俺は思っています。

 まだ二歳……ゼロ歳数えなら一歳? の子が武器を手に取るとか、世も末だっぺや。もっと釣りとか虫取りとかして遊べ~。雪山だから虫とかほとんどいないけど。

 

「流石に師匠でも赤ちゃんの武才は見抜けないんですか?」

「見抜けぬというより、無いという方が正しい。才とはその子の育った環境によって構築されるもの。ゆえ、陳腐な言葉になるが、赤子には無限の才能があると言える」

 

 マハネと共に獣道を歩いて道場へ帰ってくれば、中からは木剣と木剣が打ち合う音が聞こえてくる。

 武器種は多種多様だけど、基礎錬として剣を使うことが多いからね。

 ……っていうかお昼休憩終わってすぐだよ君達。もうちょい怠けることを覚えていいんだよ? 俺罰として、で厳しい修行とかペナルティ課したことないじゃん。そういうのやってたのは指導官だったあの時だけだから。

 

「師匠がお戻りになられました。──稽古、止め! 整列! 挨拶!」

「鍛練、よろしくお願いします!」

「お願いします!!」

 

 そしてこの体育会系のノリね。いや全然合わせられるけど、苦手な子もいるでしょ、という思いが強い。

 子供はこの道場に通うのが当たり前、みたいな風潮にならないといいな。俺の夢が叶ったら……俺、いなくなるわけだしさ。

 

 いやねー。父親設定で四十歳の身体になった上で子供連中と接するとね~~~。

 想定通り湧くのよ父性が。そんで……別れが惜しくなるのよね~~~。

 まぁ大望たる夢の前には敢え無く散るんですけど……。

 

 嫌われようとも好かれようともしないムーブのつもりだったけど、まぁお世話んなった人を嫌うのって難しいよね。

 ……割合長い時間を割くつもりではあるんだけど、別れが必定なのを考えるとね~……指導にも心が入るといいますか。

 

「よろしい。では、そうだな。今日は趣向を凝らし、別の稽古としよう。──退役したもの含め、誰でも良い。吾輩に一太刀入れてみよ。ハンデとして、吾輩はここから一歩たりとも動かずに対応する。吾輩が一歩でもこの場から動いた場合……動かしたと判定できる一撃を行った者には、吾輩謹製の武器をやろう」

「え! 師匠、それって私も参加していいんですか?」

「無論である。ただマハネ、お主は既に儂の作った武器を持っておるから、別のものになるが」

「あ、師匠それバラすのマズ……──なんでもありません! やりましょう! 勝ち取れば同じですからね!!」

 

 ん、あ、隠してたん? 誕プレで武器上げただけだったんだけど……そっか、他の弟子には特別扱いに映るか。……まぁそう、その通り。今勝ち取れば同じことだから、許してちょ。

 ──ちなみにズルする気満々である。具体的には足から地面にアンカー下ろすわよ~。

 

 

 結果。持久力お化けの馬の魔族の子以外、全員グロッキーになった。アンカー無くても全然いけたワネ。

 馬の魔族の子は持久力だけ高くても意味ないので……。何度か放り投げたら諦めちゃった。持久力の反面で冷めやすい性格なのがネックネー。

 

「ふぅむ。子らには連係というものを覚えさせるべきか……」

 

 自室で一人考える。魔族は基本個人技主体だ。魔王軍に属し、部隊や師団に属するのだとしても、団体で動くことはあんまり無い。

 そもそもが強大種族であるというのもあるけど、人間より魔力酔いしやすいから集団戦闘に向かないのだ。

 魔力酔い……自分由来じゃない魔力に長時間晒されると酔ってしまう、という厄介な症状で、船酔いと同じくらいの確率でなる魔族とならない魔族が分かれている。魔力酔いしている最中であれば魔力の質に干渉して無理矢理治癒、とかもできるんだけど、予防するものが今んとこ無い。これに関しては魔王軍でもたびたび問題になっていた。

 よく知らんけど数千年規模で魔族史というのはあるっぽいので、それでも治らんのやったらまぁそういうものなんでね、という思い。画期的な薬を作るとしたらまた今度。

 というわけで、魔力酔いを考えると二人一組は作れても、それ以上は多分きびcかなーと。兄弟姉妹だと魔力の波長が似ているとかなんとかで酔いづらいみたいなんだけど、赤の他人じゃねー。

 

 が、それでも今日のは……正直酷かった。

 一太刀も入れられないどころじゃなく、我先にと攻撃が来るせいで相殺や妨害が起き、俺が避けるまでもなく自滅、みたいなのが相次いだ。

 

 ……まぁ思いつくものはあるけど、ヴァルカンが魔力酔いを解消・克服しちゃうのは違うからな。

 心が痛むけれど、ルヴグ村の少年少女に連係を教えるのはナシで。やるとしても次の村、次の少年少女たちに、だ。

 魔力の質を利用した画期的なコレは……まぁいずれその恩恵を受けられるようにできるだけ理論を一般化しておくかね……。

 

***

 

 そこからさらに一年が経ったある日のことである。

 

 思わず顔を上げてしまうくらいには……強大な存在がルヴグ村に近付いていることがわかった。

 遠方からでも見える荒々しいその気は……ワンチャンがありそうでありつつも、間違いの方もありそうなので、弟子、門下生一同を別の道場へ移す。

 

 して。

 

 道場の扉が、蹴破られる。

 

「ちょっと、サミハラデさん!? ここは僕の、」

「ガジール、お前の故郷、お前の世話ンなった道場、なんだろ? ──その強さだ、さぞかし強ェのがいるもんだと楽しみにしてたんだよ!」

「うわ、だからそんな乗り気で……」

 

 額に二本の角を生やした灰色肌の魔族。……サイ? いやでもサイの角あんなねじれてなくね?

 

「が……なんだぁ? 誰もいやがらねぇな」

「もしかしたら、僕がいなくなってから……休日を作ることにしたのかもです。ちょっと僕、挨拶してくるんで……暴れて道場壊さないでくださいね!」

「おぅ、扉蹴破っちまったのは悪かったが、そこまでの荒くれものじゃあねえよオレは」

「どの口が言うんですか!」

 

 自室の方へガジール君が向かってくる。

 あらまぁ三年で精悍な顔立ちになっちゃっ……いやごめん魔族の顔の成長全然わかんねえ。けど魔力の質はかなり磨かれた感あるな。足運びも素晴らしい。

 

「師匠、いますか?」

「無論である。……しかしガジール。久方振りに帰ってきたことは喜ばしいが、扉を蹴破るのはどういうことか」

「いやそれ僕じゃなくて!」

 

 内心でその時を心待ちにしながら、できるだけサイくんが苛立ってくれるようからかいと雑談を展開する。

 刷り込まれたマインドコントロール……小ボケとツッコミのコントに慣れ切っているガジール君は一切を気付かない。一切を気付かずにサイの魔族を待たせる。

 

 そして。

 

「──おい、ガジール。いつまで待たせ、ン……だ……」

「ああすみませんサミハラデさん、話し込んじゃって……。サミハラデさん?」

「どういう……ことだ。なんで……テメェがここにいやがる」

 

 き。……き。

 

「え、師匠とお知り合いだったんですか?」

「三年前! 第四師団、獅子王ヒューガの下で指導官やってたっていう憤聖ヴァルカン! その漆黒の鎧、金色の魔力紋、何よりその体躯とハルバード! 間違いねえ。間違うはずもねえ」

「……」

「その指導を受けたやつは全員一端の将となり、獅子王ヒューガも子供をあしらうように熨しちまったっていう伝説の一人が……なんでこんなトコにいやがる」

「お、落ち着いてください、サミハラデさん! 師匠は確かに凄い方ですし、その経歴も納得のいくものですが、そう声を荒げてしまっては話も進みま、」

「うるせえ! その……その輝かしい伝説に、こいつは自ら泥を塗った! 脱走兵の焼き印を自らに押した恥晒しだ! 答えろ、ヴァルカン! テメェは……テメェは、なんでヒューガの……あいつの元を離れた。テメェがいなくなってからのあいつを知っているのか? 知っていて放置して、こんなとこで遊んでんのか!」

 

 ふぅ……。

 うむ。うむ。……「──ですよね?」の構文からは少し乖離していたけれど、割合満足です。もうちょっと怒りが少なめだとお兄さん嬉しかったかな。あいや今はおじさんか。

 では改めて言わせてもらいましょう。

 

 キター!

 

「脆弱。──ヒューガはその一言に尽きた」

「なに……!?」

「戦いを楽しむと言う割に、強者へ挑んだことがない。武技を極めたからなんだ。魔獣形態(オーバーウェルム)を使いこなしているからなんだ。魔王にも吾輩にも勝てぬ軟弱ものが師団の長を担い、将として自堕落を貪る。その姿は見るに堪えなかった。故に隠遁し、根本から魔王軍を変えようと……子供らを導こうとしたまでよ」

 

 炎を纏う拳。それを手甲で受け止める。その程度の温度変化じゃどーにもならんぞい。

 

「……成程な。ヒューガは……自分が弱かったからヴァルカンは消えたんだと、今は自分をも傷つけるような鍛練を積んでいる。俺はあいつの兄貴分として……違うんじゃねえか、そうじゃねえ理由があるんじゃねえかと勝手に思っていたが……あいつの方がてめぇの理解度は高かったってわけだ」

「一年を共にした仲間である。その理解も納得のいくところ」

「仲間であると認識したうえで、弱く、先が無いと断ずるのですか、師匠」

 

 んっ。

 ……おや、サイくんじゃないところから来たな。

 ガジール。魔族なのにまぁ、まっすぐ育った子だ。ちょっぴりカズラくんを彷彿とさせる。

 

「黙ってろガジール、これはオレの喧嘩だ」

「いえ、黙っていられません。師匠。僕はこの道場の一番弟子です。三年前、師匠がこの道場を開いたとき、僕が一番に師事し……そして僕が一番に出世した。名実ともにそうであると自負していますが、どうでしょうか」

「是である。続けるがよい」

「はい。……三年前。師匠がこの道場を開く前まで、僕は祖父の教えのもと、剣を磨いてきました。このルヴグでは食べ物が少なく、弱きは死にゆくしかない。手を差し伸べられることなど期待してはいけない。そう教えられてきました。ですが、師匠の教えは違った。得意を伸ばす。得手不得手を認識する。自身の最も得意とするものが、他者の最も不得手とするものであるとき、その他者を、自身の思うままに助けられるようにと……そういう理念があった。自らより劣るように見えるものは、自らとは少し違うことが得意なだけ。驕るな。見誤るな。たとえ背を預けずとも、肩を並べずとも、仲間というものはそういうもののの集まりである」

 

 そうだな。

 まぁ、そう教えた。

 

「師匠、教えてください。僕らへの教えは嘘偽り、あるいは過去への贖罪……後悔の念を払うためだけのものだったのですか。あなたが見捨ててきた過去は、あなたにとって見たくもないものばかりで……だから僕らには何も語ってくれなかったのですか」

「……剣を取るがいい、ガジール」

「師匠!」

「そちらの御仁も、構えよ。吾輩にぶつける憤怒、悲喜交交、星の数ほどあろうもの。全てぶつけてくるがよい。足ると判断したのなら、すべてを話そう。だが、足りぬと断じたその時には、吾輩に関するすべてを口外することを禁ずる。──魔族とは、力に従う種族なれば」

 

 他の弟子たちでも「──ですよね」チャンスがあると思っていたのだけど。

 

 これは、()()()()()()()()と踏んだ。ので。

 

「何を使っても良い! ──示せ、自らが吾輩の口を割る器である事実を!!」

 

 更なる失踪を遂げたいと思います!!

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