序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
天の至泉。
V・D連邦とゼルパパムの間に横たわる大きな水たまり、『
かつては冒険家エリオンベルグが発見し、竜ばかりが棲む秘境として描かれたその場所は、その後数多くの冒険者や調査隊を食らい尽くし、その悉くを湾の藻屑としてきた。
後年、竜の研究者になったらしいロイド・ルカス……ディル・カルロスがここを訪れ、竜の不在と、竜を思わせるほどの異常気象があるだけだった、ということを報告する。
島の中心にある、円形に切り取られた崖。島の中の陸の孤島。そこに沸き出でる温泉こそが天の至泉の正体だ、と。
果たしてそれは、またもこの場所へ人々を駆り立てる動機になったけれど──。
今、この光景を見て、誰が。
誰が、この島に来たいと思うのか。
「ウマイゾ! アレハ!」
「キャハハ! イタイ、イタイ!」
「ショクリョウダ! ミツケタ! コレデタスカルゾ! キャハハ!」
耳障りな金切り声を上げて空を飛び交う魔物。
猿の頭に蝙蝠のような翼、猛禽類……フクロウのような下半身。
人の言葉を理解しているわけではなく、恐らく今までこの島に訪れた者達が発した音を真似ているだけ。
あれらの足には腐肉が掴まれている。あれらの翼には血がべったりと張り付いている。
「──煩いぞ。黙れ、ゴミ共」
「キャハハ! キャハハ! キャハ──」
「黙れと言ったはずだ」
それが。
その全てが。
背より、心の臓を貫かれ、生命活動を終える。
声のした方を見れば、そこにいたのは。
「ようこそ、お客人たち。ここは天の至泉──世界で最も死に近しき場所。歓迎しよう、新たな到達者たちを」
巨大な剣を杖のようにして持つ、一人の老人──。
さて。
来てほしいと頼まれて、だから紫輝歴684年の天の至泉に来てみたわけだけど。
どういう因果なのか、丁度この島へ調査にきていた如何にも主人公パーティの前身っぽそうな調査隊と鉢合い、その窮地を助けるなどして親睦を深め、共に生きて調査を終えましょう、みたいなノリになってからの、冒頭だった。
そこで出会った件の老人についていくこと十分ちょい。
倒木と落石の間に作られた、人一人がようやく通れる程度の穴を抜けた先に、その居住スペースはあった。
「
「ああ。水と、金桃果を幾つか持ってきなさい」
「はーい!」
中にいたのは、俺達が来るまで縫物をしていたらしい少女と、槍らしきものを作っている男性、その他奥の方に何人かの人影が見える。
「……ここに住んでおられるのですか?」
「ああ。とはいえ、私を含め、原住民というわけではない。皆、あなたたちと同じように、元調査隊か、冒険者である」
「故国へ帰りたいとは……」
「無論、皆思っておる。だが、この島から出ることができぬのだ」
「それは……どうしてですか?」
「造る船の悉くは先程の怪鳥に啄まれ破壊される。海流は全てこの島に向かうが故に泳ぐこともままならず、連邦へと繋がる剣山はとても歩けたものではない。……あなたたちの船には、船番はいるのかね?」
「はい。四人ほど」
「そうか。可哀想に。弔いについて、この島では火葬を行う。土葬は奴らをおびき寄せるだけだからだ」
どういうことですか、なんて言っている調査隊を後目に、感覚素子を飛ばす。
……ああ、本当だ。全滅してる。……あの怪鳥だけじゃないな。何か、巨大なものが……船を割断したみたいな。
竜? ……竜がわざわざ船の割断なんかするか? 普通にブレスでいいじゃんな。
「汪爺、持ってきたよ!」
「ありがとう、キルャナ。……さぁ、お客人。喉を潤し、腹を満たし、一息を吐くといい。あなたたちはこれから、天の至泉に挑むのだから」
んー。
……わからんことが多すぎるし、ラソファヘリュミアンサイナと合流もしたいから……適当な理由つけて失踪するか?
勿論ここでなんか功績作っといての「──ですよね?」の下準備もするべきではあるんだけど、こいつらの次の世代までここにいるなんてつもりはないしなー。
あと、その果実さぁ。……あー、いやだから……うわー。
実益以上に関わらん方がいいかもなー。そういえばそういうことしてる人族がいるってアダンの時に聞いた覚えあるし、その生き残りとかなんかな。
「信じられんな。すまないが俺は船に戻り、彼らの無事を確かめてくるとするよ」
「え、それは……一人では危険ですよ!」
「問題ない。見せたはずだろう。これでも腕は利く方である、と」
有無を言わさずに岩屋の外に出る。
鬱蒼と茂るジャングルを前に一つ伸びをして。
「お兄さん、お水と金桃果、どうぞ! お腹空いているでしょう?」
「ふむ。今の精神性は普段の人間味溢れるものではないから、彼らの安否も特に気にしはしないが……その
「……なんのはなし?」
「さて、知らぬを貫くのならそうすればいいさ。薔薇に棘があることなど今更だし、普通に薬方として考えれば効果覿面だ。──じゃあな」
金桃果。味は恐らく良いだろうし、腹にも溜まるのだろうが……本質は腸内細菌の洗浄にあるのだろう。下剤ではなく、腹の中の物を食らって無害化する……下処理。塩漬けして毒を消すみたいな話。となればあの水も、ただの水じゃない可能性が高いだろうな。
つまりここは、注文の多い岩屋だったということだ。
船の様子を見にいく、なんてことはしない。残骸に興味は無いし。
ああそれと、一応エルフ化しておくか。ラソファヘリュミアンサイナが俺を見つけられないと困るしな。
向かうのは中心地。温泉旅館のあった場所。……いやそんなもんないんだけども。
歩きながら周囲の動植物……魔植物を見遣る。
ガラパゴス化と言えばいいか、ロストランドでさえ見たことのない進化を遂げたものがたくさんある。あの汪爺なる老人が言っていた「島を出ることができない」にどれほど信憑性があるのかはわからないけど、確かに外来種の一切が入らずに、この島の環境だけで生存競争をしてきた痕跡がある。
何らかによって隔たれた……隔離された種。……竜がいるんだ、恐竜みたいなのがいたっておかしくないレベル。
それと、外の世界では虫の魔物が結構いた。巨大な虫。
でもこの島にいるのは見覚えのあるサイズの虫ばかりだ。魔虫であることに変わりはないが、巨大化していない。
……酸素濃度がむしろ低い、とかなんかな。高度は然して変わらないはずだけど、高所環境と同じような感じになっている?
光合成の効率がそこまで高くないのかね。地面に死体や遺骸がほとんど無いから分解者は通常通りにいるみたいだし、酸素濃度の高くなる理由があまり存在しないと見た。
とすると、島から出られないのは生物だけか。大気的・魔力的に隔離されているわけではない、と。
「ん……果敢だな。このサイズ差で食おうとしてくるのか」
足を撫でるは鎌。……カマキリだ。外で見るシックルマンティスの普通サイズ版。ただし毒持ち、って感じ。
果実でさえああいう戦略を取っているっぽかったからなー。この島の植物と虫の化学戦はとんでもないところまで行ってそう。
ああ、っていうか、エルフ化しているから美味しそうな魔力塊に見えてんのかな。
そりゃ悪いことをした。隠蔽しておこう。……それでラソファヘリュミアンサイナが俺を見つけられなくなると困るから、霊質的な防御を薄めにして、と。
──背中から心臓を刺し貫こうとしてくる刃を後ろ手に掴んで止める。
「何か用か?」
「……先程までは、人族に擬態しておったのか。知っておるぞ、その特徴。赤き光沢ある銀糸のような髪。陶磁器が如き透き通る肌。振り向かねば見えぬが、その瞳は翡翠の色をしているのだろう。──あなたは、伝説に名高きエルフ……であるな?」
……構文的には理想形の「──ですよね?」なんだけど、俺の功績でもなんでもないことを、主人公パーティもいない場所でやられてもなぁ。
何の満足も無い。っていうか銀・結糸の二番煎じ感強いし。
「仮に、そうだとして。──エルフは食らったことがないから、食ってみたいと。そんな世迷言を言うつもりか?」
「ほう、理解が早いではないか。あなたのお仲間も既に眠りに就いた。今頃キルャナやエンリケがあれらの腹を捌き、内臓を取り出している頃であろう」
「そうか。お前は理解が遅いな。それに間違えている。第一に、俺はあれらと仲間ではない。第二に、船の様子も見ずに島の中心へ向かう姿を見て何も思わなかったのか。第三に、捕食者を気取るには、些か実力が足りていない」
「はっはっは、強がるな、強がるな。言葉を得た生物であるヒトは、命を乞う時、そうして言葉を尽くすものよ。それが最も適した手段であると信じ込んでな」
掴んでいた刃を離し、顔だけ振り返って、胡乱な目を彼に向ける。
鎖の先端についた刃。それを幾つも操るそれは、魔法か。手に持つ剣は飾りか、奥の手か。
怪鳥たちが慌てて飛び立つ。
「……む?」
「同意しよう。だからこそ、言葉を持たぬ者達は察しが早い。──お前の言う怪鳥も、あれほどいた毒虫たちも、あるいは、受け身であるはずの植物でさえも。俺という存在から逃げ果さんとしているのが、どうしてわからないのか」
地を這う虫。飛ぶ虫。擬態する虫。
すべてが逃げる。恐怖し、慄き、割に合わぬと逃げていく。
物事の
「この精神性になっても尚、俺は殺生を好まない。──最後のチャンスだ。退け。俺に関わるな。今回は、究極的に、他者の命に興味がな──」
言い終わる前に飛んできた刃。
それを……掴まない。顔面で受ける。
「クカカ! やはり言葉を尽くして己を守る矮小な──」
「い。……死にゆく者に名乗る意味はないだろう。さようなら、一つの命。どれほど短くとも今よりは長い老い先を楽しめばよかったものを」
その命は──。
ボトッと降ってきたナニカによって、溶かされ、食い尽くされた。
「……。ラソファヘリュミアンサイナか」
「そう。204年、待ち続けた。死した者として来ると思っていたから探すのが遅れたけれど、見つけた」
いつの間にか隣に並び立っていた少女。目の前のナニカは、汪爺の身体を食らった後、空気に溶けるようにして消える。
……マクマリの一種だろうが、普通の人族でも食えるんだな。
「『
「まず、ときたか。複数願い事があるのか?」
「ある。その全てが叶うとは思っていないけれど、見合う対価は用意したつもり」
ほう。……え、なに、無限「──ですよね?」させてくれるとか?
それはもう持ってるから要らないけどさ。
「アンドリアミアフィナイラロカもそうだが、お前達は名前が長い。略称を求める」
「リュミでいい。兄ではないあの少年に、一年間呼ばれ続けた。私はあなたをなんと呼べばいい?」
「ワンデラーのままだよ、俺は」
特に肉体の作り直しはしていないからな。
……煙管を吸い、魔力依存率を適切に保つ。……オールトヴァルト村は閉鎖的空間だったからよかったけど、外だと結構魔力が散逸するな。煙管を吸う回数が増えそうだ。
「こっち」
と述べるリュミについていく。
当然の顔をして障害物をすり抜ける彼女に「もう少し……様式美とかさ」なんて思いながら、原生林のようなジャングルを歩く。
「……あなたがいると、騒々しい島が静かになって良い」
「
「何を驚く? 私達は人の霊魂の成れの果て。その感性は確かに常人とは異なるかもしれないけれど、大きな音や耳障りな音を嫌うのは当然」
「ああいや、ゴーストになり果てる時、この島など比較にならないほどに喧しい声を聞いているのだとばかり思っていたから」
「……確かに狂乱へ引き摺り込まんとする意思は煩い。けれど、音の魔力を通す煩さとは別物」
「さもありなんだ。あまり差別的な発言をしないよう気を付けるよ」
本来は煩いで済まないはずだがね。
それを煩いでスルーできるやつが、こうしてマクマリとなったり、リュミのようにリーダー格となれる、って感じか。あるいはあのマヨヒガのように。
して。
それが見えてくる。島の中心地。円形の崖に囲まれた台地。
あの没入型推理ゲームで見た時と同じ、台地の中心からは水が湧き出している。……本当に温泉であるのか、湯気も立っている……が、当然その周囲に温泉旅館など無い。
……いやほんと、トンチキがすぎるよ涅月。あれ脚本書いたの誰なんだろうな。俺のコンストラクト産だとは思いたくないけど、ヴァルカンとかやりそうではある。
「どこを見ている? 天の至泉は上」
「上? ……──な」
思わず声が出てしまった。
上と言われたところ。湯気の昇る温泉の、その上空。
そこに、まるで、
天の至泉は……天の視線、なのか?
「ロストランドという巨大な
「それが……天の至泉、か」
「そう。天に至る泉。天に昇りゆく泉。無論、泉そのものがそうしようとしている、とは、誰も考えないようだけど」
ならばもしや、あれは湯気ではなく……上空へ巻き上げられた水が靄になっているだけか?
いや、いや。
これはファンタジーな光景だ。『
普通に見応えあって好ましいよここ。
「呆けていないで、行こう」
「ああ……飛行するべきか?」
「必要ない。あの台地の付近は浮き上がる魔力の暴風が吹いているに等しい。あそこに行けば、魔力依存率の高い肉体は、自ずと浮き上がる」
ほー。へー。
え、面白~。
……ここの生態系・地理図鑑も作りたくなるなー。色々片付いたらまた作りにいくのはありよりはべりいまそかり。
では、言われた通り台地に踏み入れ……おおー。
宇宙の無重力にちょっと似ているな。行くつもりのない星の引力に捕まっちゃって引っ張られている、みたいな感じ。
そのまま……結構な速度で雲の上にまで来た。
雲よりも高い場所。そこに存在する浮島。
始まりが土埃の塊だったのかなんなのかはわからないけど、種なんかも巻き上げられたのだろう、ここはここで全く違う生態系ながらも、一つの島として成立している。
ここが、天の至泉。
……俺が目だと思ったのは、ただただ、魔力の波が作る形でしかなかったらしい。特に眼球要素はないっぽい。
そんな浮島の、中心部。
そこに……見覚えのある三角錐があった。池……いや、これもまた泉かな? そんな感じの場所に浮かぶ、三角錐と……その中に浮かぶ霊魂。
……禄・玄妙の封印をそのまま拡大したみたいだな。伐開の魔族の扱う結界、夢妄の魔族の扱う位相空間などの痕跡もあるから、エステルト少年はきっちり俺の言葉を聞いていたのだろう。
それと。
「魔声札は必要か?」
「ゲェロ」
札……は、あんまり時間保たないし、色々を考えて……スカーフとかにしておくか。
永続のマジックアイテムだ。こういうの作る気はあんまりないから、貴重だぞ。
「ほう。……丁寧な仕事だ。貴様の仕事には毎回頭が下がるな」
「随分待たせたようだからな。これくらいはするさ」
魔力の吹き出でる泉。少女の封印された三角錐。
その前に陣取る、どこか乾いた巨大アマガエル。
「……ああ、雲の上だから、雨を降らせられないのか」
「できないこともないが、自然の摂理を覆す。しかし、魔力で精製した水はあまり好まぬ。我は自然の水が好きだ」
「ほらよ」
魔力精製、ではなく。
魔力マニピュレータで自然界の水を引っ張ってきて、それを泡みたいにしてカエルに押し付ける。
「気が利くな。エステルトとは大違いだ」
「そう言ってやるな。あの少年は青年となりても、己の運命を律するので精一杯なんだろう。……ああいや、そんなことはお前が一番よく知っているのだろうが」
「クク、違いない」
それで。
「リュミ。サラード・
「正しい。親しいとは言わないけれど、彼は狂乱の底に沈み、周囲に害を齎すだけだった私を……我々をこの段階にまで浮上させてくれた。恩ある神であると言える」
「迷える少年に飽き足らず、狂い落ちた亡霊まで浚うのか。そろそろ善神を名乗ったらどうだ?」
「振るった
「そうかな。俺もそっち派だったけど、どうにも人々は、そういう行いを"優しい"だとか"善意"だとかと呼ぶらしいぞ」
「クク、言いたい者には言わせておけば良い。大事なのは己が何を思い、何を為すか、であろう?」
違いないけど、なんというか、そりゃあエステルト少年も懐くわな、って。
エレオノーラと会えない期間がどれほどだったのかは知らないが、親代わりくらいには思ってそうだ。
「エステルト少年はいないのか」
「あの子はいばらの道を選んだ。
「……討たれるつもりなのか」
「そうだ。それだけのことをしてきたと言っていた。英雄……赭地と紫輝の走狗を殺してまわり、人類が滅亡の鍵を手に入れぬよう奔走した。──問いをかけよう、ワンデラー」
「なんだ」
「人類の滅亡の鍵とは、つまり、何か」
時折言われてきた言葉。いや、俺が直接言われたというよりは、俺以外の者達に囁かれてきた言葉。
自動取得した本から、あるいは伝聞によりその存在を知って。
「決まっている。争いだ。人類を発展させるものも滅亡させるものも、どちらも争いだ。……そしてこの場合、争いは、魔族とそれ以外との、を指す」
「おかしなことを言う。古来から繰り返されてきた争いが、今更何を揮う」
「そう、古来よりこの二者は争いを繰り返してきた。代替後の魔。代替前の生物。同じ席を取り合う二つは決して相容れず、だというのに互いを全滅させるには至らない。絶滅させるほどまでは、どうしてか、いかない。竜が裁定しにくるから? 戦力が足りないから? ……いいや、どれも違う。彼らは無意識ながらに理解している。
人は生まれる前に、自分が座る席を選ぶ。
死さば椅子から降りる。不要足れば魔に代わる。だが、その椅子には、次に座る者がいる。すぐに後続が来る。そういう仕組みになっている。
否──そうしないといけないと、知っている。
「俺の知る遊技には、椅子取りゲームというものがある。全体に対して一つ少ない椅子を取り合って、座ることができなかった者は脱落し、ゲームから除外される、という遊びだ」
「クク、なんとも物騒な遊びだな」
「空いている椅子があれば、死に物狂いで座る。だってそうしないと、
天体の造物。
ダーウィンの進化論を通ることなく、ただの思い付きで作られる生命。
エルフ。天使。──あるいは、まだ見ぬ悪魔か。
「神にその気は無い。だが、造物は、懸念通りであろうな」
「次に席へと座るのが、新たな人類でないように。旧人類は必死で椅子を守っているわけだ。争っても殺し過ぎないよう調節してまで、な」
そして。
「そして……リュミたちマクマリ、理性あるゴーストたちは、出てしまった被害者なのだろう? つまるところ、座る椅子を失くしてしまった者達。何者かに席を奪われてしまった者達」
「……正しい。我々はそういう存在。古来より存在する影であるのに、気付いた時には、居場所を失っていた」
「ならばお前達が『
「それも正しい。けれど、彼女に頼り切りになる必要は無い。あなたに問題解決能力があるのならば、我々はあなたに頭を下げる。そう言ったはず」
「まぁ待て、まずは建設的な話からしよう。『
とりあえず、三角錐の封印を強化しておくとして。
「過去からの刺客、というのは誰のことだ」
「──ふくく、ふくく! それは我が説明しようかのぅ」
……おお。流石に懐かしきだな。
いつの間にか泉の畔に、巨大なカタツムリが現れていた。
スモーキー・
「久しいのぅ、全能亭……む? 今は全能亭ではないのだのぅ。霊質を変える術を見つけていることもそうだが、今は全能である理由がない、といったところかのぅ」
「ああ、正しいよ。そこまで優しいつもりはないんだ、今回は」
「ふくく、ふくく! 良くないのぅ。楽しむ心を失わば、我らの視座はたちまち怪物となり果てようものだろうのぅ」
「楽しんで対処するか、機械的に対処するかの違いさ。今の俺に悦楽は必要ない。無論、事が終われば享楽に耽るつもりだがな」
「まぁ良い、良い。して、説明をしようのぅ」
カタツムリだけど、その顔がニヤりと笑った気がした。
「おまえにも縁のあるものだのぅ。名を、
「……また、よく知らん奴が来るものだな。というか、神の力というのは……お前なわけがないとしても」
「良い理解だよぉ、人ならざりし者。そこな神では他者を時の円環に乗せることなんてできないからねぇ」
なんて言いながら現れたのは、巨大なナマコ。
……ナマコぉ。
「初めましてだねえ、人ならざりし者。僕の名前はディナティ・
「ああ……茜座殺しの濡れ衣がかけられた神か」
「そうだよぉ。迷惑料をもらいたいよねぇ」
いや、あの、うーん。
他の神と違って……どこが顔なのかが全く分からん。いやカタツムリの顔もわかるかわからないかで言えばわかんないんだけども。
つか天の至泉ってなに、神々の同窓会の指定地なん? じゃあこれ、もしかして。
「──懐かしい顔だ。見知らぬ顔ぶれと、直近に見た知らぬ顔を混ざっているようだが」
なんて言いながら現れたのは、巨大サンショウウオ。
トライギル・
「やいやいやい! またぞろ悪巧みでもしているんじゃあねえだろうなぁ、ええ?」
なんて、江戸っこ……でもないか。まぁなんかエネルギッシュに現れたのは、見知らぬ巨大トカゲ。恐らくリサンフィビアの神。
「……これで全部か?」
「この地域にいる神は、そうだ。他の場には他の場の神がいるが」
ああ……それだけなのか。
確かにな。この辺はかなり広い大陸というか地域だけど、別に世界全土じゃない。それぞれの場所にそれぞれがいる、か。
「ふくく、ふくく! 懐かしい顔ぶれだがのぅ、説明をするに向かぬ面々だのぅ!」
「くふふ、くふふ! 説明なんて無駄だよぉ。どうあれこの時代に彼は飛んでくる。そしてやりたいことをやる。僕がそうなるよう仕組んだんだからねぇ」
「悪神共は相も変わらずか。……おい、サラード。面倒だからと眠ろうとするな。此度はお前が渦中だろう」
「……相変わらずで言えば、その目敏さこそ相変わらずだな、トライギル。元より我は騒がしいのを好まぬ。川と海は、笑い声がかまびすしくて適わぬ」
「おうおうおうおう! 煩さで言えば俺様も負けちゃあいねえぜ、サラード! ──だが、それよりも、どうしてここに人族がいる? サラード、貴様が居ながらどうしてそれを許した」
「エルフモドキとゴーストを人族と呼ぶか。クク、まぁ、その通りであるがな。……貴様の人族嫌いなど考慮するものか。手を出しあぐねて幻術を見せるに終わり、魔なる子らを救えなかった八つ当たりをされても残念だったな、としか返せぬぞ」
「あぁ……ボガード、キミってばまだそんなことしてるんだぁ。人類なんか、手を取っても取らなくても勝手に転がり落ちていくんだから、救う、なんてことに意味はないのにさぁ」
「人族の願いを聞いて時間跳躍などという無理を通してやった神とは思えぬ言い草だのぅ! 己で仕組み、己で動かしていると言いながら、願われなければ動きだすことさえできぬ漂流物が、ふくく、ふくく! まぁ、
「おい、スモーキー。喧嘩ならば他所でやれ。眠り子の前で大人がそうはしゃぐものではない」
「やいやい、喧嘩なら俺様も混ぜろよスモーキー、ディナティ! この生意気なアマガエル諸共ぶっ飛ばしてやるさ!」
「我を巻き込むなガキ共。……はぁ、かまびすしいことこの上ない。……刻限まで少し時間がある。ワンデラー、適当な位相空間を作ってくれ。話はそこでするとしよう」
おお。
俺のこと覚えてたんだ。そのままずっと喧嘩し続けるのかと思った。
「他の奴はいれなくていいのか?」
「ラソファヘリュミアンサイナだけは入れてやれ。あの場に残すのは可哀想だ」
「それは勿論だが、他の神の話だよ」
「一匹でもいれば話が進まぬ。……まぁトライギル・括石だけは構わないが、スモーキーまで入れると他が無理矢理入ってくる。奴にはディナティとボガードの相手をしていてもらおう」
ふむ。ガキ共、という発言からして、サラード・懈星だけちょっと年上なんかな。
無理矢理入ってくる、というのをされると面倒なので、今できる最高硬度で位相空間を構築。オールトヴァルト村周辺を参考にした無限も取り入れた結界だ。
そこにサラード・懈星、スモーキー・括石、ラソファヘリュミアンサイナを入れて、俺も入って入り口を消す。
静かになる。いやホント、煩いねあれ。……つかあの封印別に音は通すから、あの子起きるんじゃないかな。封印状態でもカマイタチとか起こせるっぽかったから外に出たら惨劇の現場が広がってそう。
「神とは……想像以上に、超常としていないものだと感じる」
「ク、違いない。……竜とは神の成り損ないだ、という話を耳にしたことがあるだろう。それは正しい。なればこそ、我らは赭地に見初められた魔物でしかない。超常は疎か、人類より高度であることを求めても空を掴むだけだろう」
「ああ、騒がしかった。……礼を言おう、ヴァルカン……ではないのだな。ワンデラーと呼ばれていたか」
「今の名はワンデラーだ。まぁ、好きに呼んでくれていいが」
「否、名があるのならば、それに倣おう。……改めて、再会を喜ばしく思うぞ。だが、それを喜ぶよりも先に話を終わらせねばならないだろう」
「うむ。やはり場を弁えることを知るのは貴様だけだな。──では、話の続きと行こう。定道という人族が企てることについてと、貴様に取ってもらいたい行動についてを」
ま、なんだってやってやるさ。
それを片付けるために来たんだからな。