序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
先日──二百年前を先日と言っていいのかは定かではないが、先日見た銀・結糸の魔法を参考に開発した魔法を使う。
あいつの場合、大気中の魔力をかき混ぜることで発生する不確定で曖昧な泡をコンストラクトにしていたけれど、俺のこれは煙管から出る魔力煙を軸にコンストラクトを作る。
やっていることは似ているけれど、中身に魔力が詰まっているか否かが二つを分ける大きな違いかな。
そうして現れるは、怪鳥一匹一匹にタイマンを仕掛けられる規模の、無数のコンストラクトたち。
「ナニゴトダ! カカレ!」
「カショクブ! モンキー!」
「シンゾウヲネラエ! シナヌモノハイナイ!」
……すべて、こいつらが言われてきたこと、かな?
こいつらの心臓は悪辣にも胸部に無いようだし、今までの調査隊や冒険者がこいつらを見て言い放った言葉を真似しているだけなのだろうが……。
いやはや、俺もちょっと勘が鈍ったね。
魔物っていうのはどこまで言っても動物の代替。だから他の魔物は皆元となった動物の姿を大きくしたとか小さくしたとかばかりで、こうもかけ離れることはなかった。
多少目が増えたり尾が増えたりはしたけど、こんなキメラみたいなのは出てこなかったんだ。
それを人造魔物であると初見で見抜けないとは。
そして……人造、ね。
天体の造物が人間の席を奪う、という話だったけど……ワンチャン、濡れ衣か?
「ふくく、ふくく! 見誤るでないのぅ。ボガードがおまえやあの亡霊を嫌ったように、おまえも、ゴーストも、座る席はヒトのもの。魔物のそれとは違う椅子だのぅ?」
「ん……そうか。助言は助かるよ」
「良い良い。それに、あれなる亡霊の溜まるかしこは、
ああ……そういえばお前、そんな名前だったな。
ただの人間の勝手な呼び名ってわけでもないのか。
「その点で言えば、劫白の国はじゃあ、ディナティ・桟明厘の管轄になるのか?」
「否だのぅ。かしこを管理する神などいないよ。強いて言うのであれば、ディナティが司るのは、天へと昇る霊魂だけれど……ディナティに任せておいて有意義なことはないからと、それもサラードが掻っ攫っている現状だろうねぇ」
「お前とディナティがあんまりにも任せるに足らないからサラードが全体的に出張ってきている、って話で合っているか?」
「ふくく! ふくく! まぁ、その認識でいいねぇ。我ら神にも、世代があるのぅ? 一番若いのがトライギルとボガードで、その上に我とディナティ。その二つ上の世代にサラードがいるのぅ。だから、まぁ、下の世代の不始末を奴がつけている、という感じになるのぅ」
「後進の方が能力的に優れているべきだとは思うがな」
「返す言葉も無いねえ」
魔力の煙と取っ組み合いをしていた怪鳥たちは、ある程度戦ったところで、突然キラキラとした粒子レベルにまで雲散霧消する。
天の至泉を取り囲む、二百に登ろうとかという魔物たち。それが全て。
「──貴様、まさかとは思うが、連邦の縁者か?」
「その話は結界の中でちょっとしたけど、違うよ。それに、わざわざ魔族から抽出しなくたって──」
神妙な……というか殺気だった声で話しかけてきたボガード……ファミリーネーム知らんなそういえば。まぁいいや、リサンフィビアの神、トカゲの神に、パフォーマンスとしてそれをやる。
大気中の無主魔力。その組成を自らの手で組み替え、高圧高温化の結晶現象と同等の効果を引き出し──魔鉱石を生成する。
「そこに魔力があれば、こんなものいくらでも作れるからな」
「……低俗ではないことが、貴様ではない証左か。フン、赭地が邪険に扱う者……どのような者かと思えば、先行く技術をひけらかしたいだけの道化とは。下らん話だ」
「勝手に言っていてくれ。そんで、俺をくだらんと言うのならば、俺に万一があった時、あの少女を必ず守れよ、リサンフィビアの神」
「言われるまでもない。……ああ、それと、貴様は確かにヒトだが、人族ではないな。なればこうも嫌う理由は無いか」
まぁ、それは正解。人族……この世界のスタンダードな人間は、けど、やっぱり俺の知る人間とは少し違うように思うし。
俺自身もまた……そういう種族ってわけではないしな。
「一応説明しておくと、今あの魔物に起きていることは」
「ふくく、ふくく。その手にある煙管がおまえに齎す効果に同じ。つまり魔力依存率の著しい向上だのぅ。あの煙はそういう成分を持っているから、そんなものと取っ組み合えば、自ずと魔力にまで分解されるのぅ」
そういうこと。
散々危険だ危険だと言っていた代物だ。普通の煙管と違って煙管内部で発生した煙が俺の体内を通ることなくそのまま吐き出されている点について、……まぁ、様式として美しくないという批判は甘んじて受け付けよう。
この煙で作られたコンストラクトと戦えば、ものの数分でその成分を体内に取り込み、どんなキメラだったとしても、肉体の魔力依存率が跳ね上がって、いつしか魔力にまで分解される。
こんなあやふやで弱そうな見た目だけど、フツーにリーサルウェポンだよ。まぁ竜や精霊には効果ないけど。元から依存率高いから。
……そんなことを考えていたから、だろうか。
咆哮が響き渡る。
それが聞こえた瞬間、周囲に満ちた魔力を結晶化させ、『災晶』のように待機させた。
雲を突き破って現れるは魔竜……じゃ、ない!
「培養に成功していたんだねえ。くふふ、くふふ。あぁ愚か愚か。本物の制御だって結局『
魔力結晶ビームを照射する……も、高い魔力抵抗に阻まれた。
すぐに照射を止め、残った魔力を俺のプールに飲み込んでいく。効かない攻撃をいつまでもやる趣味はない。
あれは恐らく、竜の抜け殻+寄生血液の完成品。となればあれを討滅すれば、寄生血液のカラクリも解けるかもしれない。
とはいえ此度の主目的は守護。欲を張ることはない。より確実である方を取る。
「"
それぞれ『因果』、『確定』、『研ぎ澄ませる』、『爆発』、『体系化』、『結束強化』を意味する古代魔族語、その六文字-六単語。
さらに。
「"
それぞれ『嫉妬』、『反転』、『還元』、『無節制』、『崩壊』、『噴射』を意味する古代魔族語、その六文字-六単語。
元来六文字-六単語が最高の効果を発揮するとされているのは、それが最も安定する形だからだ。
それ以上を使うことはできても、安定した出力にならないし、あるいは暴走することもある。だから六文字-六単語が最も洗練された"方式則"として存在する。
が……制御ができる自信があるのなら話は別なんだ。
こうやって二セットの六文字-六単語を用意しても、それらが反発し合うのを抑え込めるのならば、より良い効果が得られる。
今の俺はエルフ。魔力をより感覚的に扱える種族。精霊ほどではないにせよ、その制御もまた随一。
属性魔法を使えないという縛りは俺には無いが、まぁ、使うのは属性魔法ではない。そろそろn番煎じな魔力砲でもない。
最初に作った刻印式を砲弾に。
後で作った刻印式を砲塔、及び火薬に。
多少、口角を上げる。
より確実な方を取る──とは。ははは、使うのが手慣れた刻印魔法というだけで、やっていることは初めての挑戦じゃないか。
俺という存在は結局、そういう「思いついたやってみたいこと」からは一生逃れられないのだろうな。
「──!!」
咆哮を上げ、いっちょ前にブレスを吐こうとしている偽竜に対し──その砲塔を突き付ける。
「刻印式魔導塊大砲──魔力銃が出てきてからまだ十一年。自前で砲撃魔法を撃てるからか、案外こっちには発想が飛ばないものなんだな」
地球においては大砲が先だっけな。とはいえ火槍なんてのもあったし、どっちが先かは微妙な所だが。
魔法があるせいか火薬の調合に関する発見が一切無いんだよなーこの世界。錬金術はあるけど物質変換が主だし。
まぁ火薬で起こす爆発より火属性・炎属性魔法の方が火力高いから伸びないのはわからんでもないけど、身体強化と魔法が同時に使えないことを嘆くくらいなら銃に頼りそうなもんなのになー。魔導兵器がまぁその道ではあるんだけど。
「つまるところ、まぁ、これは──その段階をさらに飛び越えたものだ、ということ」
fire。
それ単体で巨大事象を起こし得る刻印式を燃料に、同じくそれ単体で巨大事象を起こせる刻印式が砲弾となりて偽竜に直撃し──。
一瞬だけゆらりと蜃気楼のようなものが見えたかと思えば、直後無色の光を放ちながら、内側へ内側へと炎のような作用をする魔力が爆縮を起こす。
刻印を燃料にした砲弾は、燃料にした刻印の一部を汲み取って文章化するからな。発生し得る文脈を全て読み取ってこその刻印魔法使いってもんで。
痛覚があるのか無いのか、またも咆哮を上げてその「内側への掻き毟り」から逃れようとする偽竜だけど、無理無理。
そうしてそのまま、魔力の焔に食い尽くされて、消滅した。
「うわぁ……いかついねぇ。情緒が無いねぇ余韻が無いねぇ。彼らが苦心して作り上げたものなのに、こうもあっさりとは酷いねえ」
「抜け殻に寄生血液を入れただけのことを、苦心して、などと言われてもな」
「無数の失敗があったんじゃないかなぁ。僕は知らないけどねえ」
無責任な。……まぁ多分こいつも直接力を貸す系じゃないだろうしなぁ。本質的にはスモーキー・蔕紅杭と同じか。
さて。
偽竜は結構な切り札だと思うんだが、まだ出てくるかね?
「──お見事です。流石はマヨヒガの継承者、あるいは名前の無い者達の代表者。魔力というものへの理解度が我々を優に超えているらしい。いやはや感服、いえ、敬服しますよ。というわけで、こうまで時代にそぐわぬことをしているのであれば、彼はここにいてはならない──そうですよね、
声。あの時、定道に説明をしていた研究員の声と同じ声。
それが響いた瞬間──俺の身体に、とんでもない圧力……逆風のようなものがかかる。
コツコツと音を立てて、何も無い空間を階段でも上るかのようにしてやってきたのは、やはり件の男。恰好は少し違う。ちゃんと白衣を着ている。
「……
「……おや。おかしいですね。今あなたの身体には時の円環の回転力と同じ力がかかっているはずですが……どうして平然としていられるのです?」
「それはこの世界の法則だろう。魔力依存率の話も魔法の話も、この世界の法則に従ってやっているだけだ。別に無視しようと思えば無視できる。そんなに気に入らぬのならこの肉体程度お望み通り未来へ送り返してやってもいいぞ」
「ふむ。遠慮しておきましょうか」
鬼の首を取ったように出てきたところ悪いが。
今の俺の意志は、ちょっとやそっとじゃ砕けないぞ。
「名は?」
「
「汪? ……ああ、ならばつまり、あの老人はお前のクローンか何かか」
「クローン。複製人間、ですか。それとは少し違いますね。私の細胞片を培養して作った、いわば子供ですよ。常人の三倍早く歳を取る失敗作でして、あのような老人の姿になっていたのですが……どうやら片付けてくださったようで、お礼を言います」
何か魔法が動いているという気配は無い。本当に話をしに来ただけに見える。
ただ、こいつが本体かというと怪しいな。こういう手合いは自分を大切にするものだから。
「下にいたキルャナという少女やエンリケというやつもお前か?」
「あれらは過去この島に辿り着いた冒険者、及び調査隊の死体から培養した人間ですね。ああ、亡霊方々の椅子を奪ったのは彼らではありませんよ。人間というから少しややこしいですから、ヒトガタで会話が可能な魔物、とでも言っておきましょうか」
「どうにもその細胞の培養というのがお前の代表作らしい。寄生血液とやらはならばお前の作品か?」
「定道様にお見せしたものでしたら、はい、私の作品です。ただ、本物は『
雑談。これに興じる意味を考えるのならば。
「──時間稼ぎか」
「ええ、まぁ。時の円環の回転力さえ凌がれては、これ以上あなたの意識を逸らすすべなど、雑談くらいしかありませんので。──ところで、私達の……定道様の狙い、あなたはわかっておられますか?」
「知らん。竜とゴーストの制御権を奪いたいのか、時の円環から外れたいのか。あるいはどちらもか。俺はそいつではないから、判明はしないだろう」
「素晴らしい考察ですね。ええ、その通り。全てあの方の狙いですよ。あの方は強欲でいらっしゃいますから、その全てを叶えたいそうで。──私達は、そのお手伝いをしているにすぎません」
どれか一つ、ではなく。
全て。……であるのならば。
「ああ……成程。時の円環の外側から竜やゴーストを従えたいのか。……そして、その果てにあるのは……人間の出生の完全なコントロール、とかか?」
「ほう。……いえ、知っているつもりでしたが、成程、『解析』ですか。素晴らしい分析力ですね。……ええ、正しいですよ。あの方が目指すは、アスミカタ帝国という在り方……賢者の作り上げたあの箱庭を、世界という全体に適用させること。出生も、在り方も、死後でさえも意のままに操るには、『
「それはお前の発案か? 定道の自前か?」
「驚くべきことに、あの方の自前です。私達はそういうことをしたい、という相談を受け、そういうことができる手法を指し示したまで」
「そうか。つまり定道は道化ではなく、しっかりとした外道ということだな」
「面白いことをおっしゃいますね。今更な確認でしょう。無論、あの方はより良い世界を作るためにそれらを行いたいと言っていましたが」
今更な確認? いや、そんなことはない。
俺は定道という人間のパーソナリティを知らない。もしかしたらただ情報に踊らされただけの、こいつと神の間で操り人形になっただけのやつだったかもしれない。
けど、自分の意思でこれをやったというのなら。
「教え子と友人曰く、どうも、俺は手を汚してはならないらしい。何を今更だとは思いもするが、まぁ、そう願われている間くらいは、それを遂行するのも吝かではない」
「……」
「とはいえ、勝手に事故って死ぬことまで俺の手が汚れたことにされちゃあ敵わないだろう?」
そこまで意味はないけれど、指を鳴らす。
同時。
「ギ──ぃ、が……ぁ!?」
「どうした、ディナティ」
「どうしたじゃねえだろう! ディナティの中に、何かが現れたんだ!! 助けてやらなくちゃならねえ!」
それが起こる。
突然苦しみ出すはディナティ・桟明厘。その体表をぼこぼこと、人の形をした何かが押し上げている。
時間跳躍の先。出現先をどこにするか。
一度は結界に弾かれ、時の円環から外れようとし、それでも『
それをどこに置くか、など。
その魔力の繋がっている先を選ぶに決まっている。だからそこで作用する魔法の悉くを消し去る壁を予め設置しておいたんだ。
「
のたうち回るオオナマコを最小単位にまで分解し、異物を吐き出させる。
「
それを含まぬオオナマコを作り上げ、ぐちゃぐちゃになっていた中身を治癒する。
「……魔法無効化……いえ、無害化に加え、治癒魔法のハイエンド。今日何度言うことになるかわかりませんが、惜しまず言いましょう。お見事です」
異物……地面へ吐き出された定道は、明らかに生命活動を停止していた……のに、その胸元で刻印魔法の輝きが放たれたあと、すくりと立ち上がった。
あの時代に見た奴のまま。だから、奴の感覚的には目を閉じて開いたら未来だった、とかその程度だろう。そんでもって今の刻印は、レイン・ヤーガーの時に作った"死の回避"にも似たものだったな。
恐らく汪が施したもの。心臓に直接刻み付けていたか、
故意に事故らせたらエアバッグが出てきたわけだ。しっかりしてやがる。
「ここは……未来か。余は、神を手に入れたのか?」
「誠に残念ですが、失敗です、定道様。この銀糸の髪を持つ男によって阻まれました。あなた様が危険視していた茜座、及び痣火と同質の霊魂を持つ者です」
「そうか。まぁ、神となることは余談であったからな。そこまで気にはすまい。しかし、どうしたことだ。この手には蛟を統べる力も亡霊を統べる力も宿ってはいないようだが」
「それもそこな男に阻まれてしまいまして。どうやら『
ようやくそこで、定道が、その胡乱な目を俺に向ける。
お前の企ては全て失敗に終わったわけだが。何か言いたいことでもあるのか。
「ふむ。まぁ、失敗に終わったことを嘆くような性格はしておらぬ。阻まれたのであれば、まぁ、残念であったというだけだ」
「そうですね。ではこの先、あなた様は如何しますか?」
「手筈通りで良い。あなたたちの研究所なる場所へ。……だが、その前に、この男と少し問答がしたい。良いか?」
「無論にございます。どうぞ、心ゆくまで」
そいつは……この時代、というか他国ではまず見ない髷の頭をしたそいつは、俺に向き直り、口を開いた。
「まずは、名を聞こう。ああいや、余は定道という。姓は有しておらぬが、強いて言うならば、葦三方・定道……いや、外国風だと定道・アスミカタか?」
「本来の俺に名は無いが、今の俺はワンデラーだ。痣火でも茜座でもない」
「そうか。ではわんでらぁ、そなたに幾つか問いをかけたい」
「普通なら断るんだが……まぁ、先に名乗る程度の礼を見せられてはな。いいだろう」
「ありがたい。……まず、わんでらぁ、そなたは今の人類に満足しているか?」
「広い問いだな。聞きたいことをもう少し絞れ」
「む。……そうさな、余は今の人類……無論余のいた時代から少しばかり経っているから、そのままではないだろうが……今の人類の知識の獲得手順が非効率に思えてならんのだ」
突然始まった問答。まぁ、ディナティ・桟明厘が恢復に徹していて、神々はそれに夢中。『
「人間はたったの五十年しか生きぬ。だが、どれほど賢き人間でも、生まれてから十に至るまでに覚えるは読み書きや計算といった基礎知識の反復。十より先の十年では先人の辿り着いた専門知識の反復学習を行い、己の意見を持ち出せるのは大抵二十を過ぎてから。残り三十年しか人類を成長させることができない」
「……まぁ、言わんとすることはわかる。知識だけでなく技術もそうだな。知識獲得プロセス……先人の発見の反復学習に人生の大半を費やすのがあまりに無意味だと、そう言いたいわけだ」
「おお、そう、そうである。葦三方という無知であるべき国でそれが行われているのならば納得も行こうが、世界の全土でそれが行われていては、紫輝や大地の定める試練の踏破など夢のまた夢。そうは思わぬか」
ああ……こいつはそうか、時の円環から外れていたから、災厄が無かったことになって起きた色々を知らないのか。
あるいは知っていたとしても、かね?
「余が亡霊を用いて行いたいことは、出生時既に粗方の知識を取得している人類の発生……現行人類の再編である。そして、現行人類を減らして座を空けるために蛟を使う。……と、まぁ、余の野望はこの際どうでも良い。あなたのような力ある存在から見て、余のこの考え……人類とはこのままで良いのか、という疑問は、どう映るのか」
「理解はできる。やり方が些か乱暴だし、別のやり方もあるとは思うが、お前の言う通り、今のままの人類の歩みでは、紫輝らの望む"災厄を乗り越える人類"など天体でさえ気の遠くなる年月を経なければ現れなかっただろう」
「おお、おお。やはりか。やはりそう思うか」
「だが、それが何か問題なのか。人類の歩みが遅々としていることなど、どの世界でも同じだぞ。この世界よりも随分と技術的進歩を得ている世界でも、相変わらず遅々とした歩みを見せている。この世界よりもはるかに原始的な世界でも、人類の歩みは結局のところ遅い。俺はそういう、"世代を重ねるごとに少しずつしか進めないもの"を人間という種なのだと定めていたのだがな」
「うむ、まぁ、異なる世界なる概念は心躍るものがあるし、そういう例を出されては余の世界が狭かっただけであるというほかないのだが、ことこの世界において、紫輝と名乗る者の課す試練を乗り越えるためには、このような荒療治が必要である、ということである」
うーん。
……まぁ、やっていることはヘンリーとほぼ同じだ。幼少の内から不要とされない人間を育てるための機構を作る。出生時点で不要とされない、且つ人間という種を成長させることのできる人間を作る。
どちらが文化的か、文明的か、正しいか悪いか、という判断は一度捨て置いて、思想自体は……そこまで外道感も特別感も無いな、と。そう思った。
「確認をしよう。つまりお前がやりたいことというのは、千年周期の文明のリセット……災厄を正しい手段で乗り越えられるよう人類を再編したい、という話で正しいか?」
「正しい。ついでにディナティ・桟明厘という見るからに聞くからに悪神であるモノを乗っ取って、その半永久的な寿命を使えたのならば僥倖だな、と思って行動をしたが、別にそれはどうでもよい。悪神とは言うが、実害が然程あるわけでもなかったから、有効活用を考えただけである」
あー……。成程、そういう精神性か。
勿体ないし害があるっぽいからついでに使おう、でやろうとしただけってことね。想像以上に軽いというかなんというか。
「なれば、ゴーストや竜の隷属に関しても、出生時の調整と無駄の削除という同等の結果が得られるのならば、『
「うむ。これこれこういうことがしたいのだが、と汪に相談を持ち掛けたところ、これこれこういう方法がありますよ、と提示されたものを求めたにすぎぬ。葦三方の構造を世界に適用させるという発想は余が持ち掛けたものであるが、葦三方の構造の要となっているものが幼子の霊魂であると知った時には驚いたし、人類をより良くするための原動力が旧人類というのは少々
情緒……というか、他者を道具としか考えていないタイプの純粋悪且つサイコパスだけど、良識……というか様式美を理解する心が無いわけではない、と。
うわー、思ったよか面倒な手合いだな。
「ここを去った後はどうする気だ。ああいや、お前の問答の時間だったな」
「そうさな、まぁ、あなたとは問答をしてみたいことがたくさんあるが、どうにも余は場違いであるようだし、ディナティ・桟明厘からの恨みも怖いといえば怖い。だから問答はこのくらいにして去ろうと思う。そして、去った後は勿論『
「そこな『
「ううむ、どうだろうか。こちらの研究の果てで、再現が不可能という判定が出れば、狙いにいくこともあるだろう。だが、あなたを敵に回してまでやることかと言われたら、明らかに損得勘定が合わぬであろう。幸い一人の人間を増やすすべは汪が研究してくれているはずであるし、あの幼子に固執する理由は今のところない。新たなアレと同質の命を作ってくれるな、汪」
「ええ、それ自体は可能でしょうが、その人間が『
「そうであるのか。ふむ、そうなるとあれを狙うしかなくなるが……」
優柔不断……というか、何が何でも大望を遂げたい、そのための近道をしたいわけじゃないから、手段なんてどうでもいい、って感じか。
……紫輝の挿げ替えを俺がやったら、こいつやることなくなるんじゃないか?
「定道。俺は今、」
「ああすまぬ、どれも良い手段に見えてしまうのが余の悪い癖であるな。うむ、ここは一つ、汪が良く使う言葉を使おう。──持ち帰らせてもらう、と」
「ははは……技術者としてお恥ずかしい限りですが、ええ、そうしましょうか。──それでは皆様。私達はこれにて失礼いたします。何やら壮大な覚悟やら戦意やらを滾らせていたようで恐縮なのですが、この時代においてはこれ以上動くつもりはありませんので、良しなに」
「ではな、わんでらぁ。あなたのような視点を持つ者が人類の守護者であるのならば、究極、余は不要なのやもしれぬとは思うが……これもまた人類の足掻きの一つであると思ってほしい」
とか言って、自分たちの影に沈んでいく二人。
教戒院で『院長』がやっている疑似転移じゃない。召喚契約を逆手に取った自分たちの召喚、か。
……マー、契約遂行完了、でいいのかね?
ユランとの対峙の時もそうだったけど、こういう逃げ終わりにされるとなんか釈然とせんよなぁ。
……後は、リュミに幸福を、か。
難題だねえ。