序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
静寂の訪れた天の至泉。
ディナティ・
ここにいるのはサラード・懈星、スモーキー・蔕紅杭、ラソファヘリュミアンサイナ、俺。
そして──。
「ワンデラー。魔声符を貼ってやってはくれぬか」
「……死の直前が静謐であるように、蘇生の直前もまた声の入るべき空間であるとは思わないけどな」
「蘇生ではない。数百年の間失っていた肉体を取り戻すだけだ」
そうかい。じゃあ、まあ、作るけども。
久しぶりに作った符だけど、失敗は無い。
それを三角錐に貼り付ければ。
「"……あら? しらない気配に、しってる気配に……わたしのお願いを聞いてくれなかったひと"」
「あの時はお前の封印を受け継げる後進が育ちきっていなかったんだ。エステルト少年……魔王に預けるのが最適だった。理解してくれ」
「"ええ、りかいはしているのよ。これでもレディですから。でもそれと、しんじょうは、別物でしょう?"」
「返す言葉は無いよ。ま、これ以上の容赦を願うこともしないが」
「"むだに謝らないひとは、すきよ、わたしは"」
「マセガキめ。そういう話は……それこそ、大人になってからするんだな」
「"それは……どういうこと?"」
鈴を転がすような声だ。からからと、ころころと。
俺の魔声符の設定がそうってわけじゃない。とはいえ肉体の肉声というわけでもないから、まぁ、彼女の精神、霊魂、霊質、魔力の質……そういうところに結びつく声なのだろう。
「我がわかるか、幼子」
「"もちろん。みんなに優しくしたいけれど、優しくしていると理解されたくない、すなおじゃないかえるさん、よね?"」
そのあんまりな言いぐさに、この場では笑い声や茶々入れを控えていたスモーキーが小さく「ふくく、ふくく」と笑っている。彼には多分あとでサラードから何かが下るのだろう。
「わかればよい。であるならば、この亡霊のこともわかるか?」
「"……ああ、むねんの集合体。わたしがくるしい時に、ずっとそばにいてくれたたましいね"」
「……! 覚えている、の?」
「"むかし、人間だった時のことはにくしみ以外ほとんど覚えていないけれど、まほーつかいさんに核にされてからのことは、すべておぼえているわ"」
「魔法使い。……それが、トラッドか」
「"ええ、そう、そういう名前。せかいをすくわなければならない、いつわりだらけの大賢者さま"」
どうやらそうらしいな。
教戒院に居た頃は絵本の好きな子供、という印象だった。何かを隠している様子も無かったし、己がハーフ魔族であることも当然に話していたし。
いつからそれが変わったのか。教戒院が変えてしまったのか、それとも、俺すら欺く技術の持ち主だったのか。
「その亡霊の願いを聞き届け、我、サラード・懈星が、貴様を再度ヒトの形に直す」
「"え……やめてくださる?"」
煙管の煙を吸って無害化し、吐く。
息を呑んでいるリュミには悪いけど、だろうなぁ、としか思わん。だから意思確認などせずに勝手にやったればよかったんだ。
「生を望まぬか」
「"とうぜんでしょう? わたしは望んでこうなったの。パパとママをころした人を、いっぱいいっぱいくるしませるために。なのに、また、なんの力もない女の子にもどっちゃったら、それが叶えられないわ"」
「もう……その人は、いないはず。初期のアスミカタ帝国の民として苦しみに苦しんで、死したはず。あなたの憎悪の対象は、もう、どこにも……」
「"いいえ? また、うまれてくる。そうでしょう、仙人さん?"」
「……今、というか俺は仙人ではない。ワンデラーと名乗っている。……で、まぁ、そうだな。そいつがどこのどいつかなんて知らないが、この閉じた円環の中にいる限り、何度死しても生まれてはくるだろう。その時そいつがアスミカタ帝国の人間の席にいるかどうかは知らんが」
この世界はそういう世界だ。
待ってさえいれば。災厄さえ乗り越えられたのなら──同じ霊魂と再会できる、というのは、まぁ、そうなのだろう。
千年周期の災厄さえ無ければ楽園なのかね、ここは。記憶を引き継げるかどうかは……それこそ定道のやり方ならば、か?
「もう一度その者が生まれてくるまで待ったとしても、次にアスミカタ帝国が成立するとは限らぬだろう」
「"それも、そんなことはないわ。一度刻まれたものごとは、次もせいりつしつづける。まほーつかいさんはそのために深くへきざみこむのです、と言っていたわ"」
「サラード。身を案じるがために嘘吐きになるのはやめておけ。この子は罪人に厳しいからな」
「……。……そうさな。待っていれば……同じことが起こる。今度はその魔法使いの手助けなしに、明郷神権王政国の成立後……災厄竜によって破壊された彼の国は、やがてアスミカタ帝国と名を変えるのだろう」
「"ええ、その時、またわたしはあの国のかなめとなって、核心となって、りゅーを集め、あの人をくるしめるの。なんども、なんどもなんどもなんども"」
「──いつかその霊魂が、席を選ぶこと自体を憚るほどまで、か?」
「"たしかに、そうなったらようやく終わりかしら。罪あるひとびとが、だれもいなくなったのなら、わたしはやすらかで──おぞましいえんさに呑まれ、くるしんでしんでいくのよ"」
自分が怨霊であることの自覚もアリと来た。
トラッドのやつ、見つけた逸材が逸材すぎるだろう。逸脱してるだろこれは。
……さて。
だから嫌だったんだよな起こして蘇生の流れ。
だってこうなった以上、そのまま蘇生になっても、蘇生をやめることになっても……リュミが幸福になる道なんて無いじゃないか。
どれほど恨まれることになっても、とは彼女も言っていたけれど、これじゃあなぁ。
「サラード。これが、君という優しさの限界だねぇ」
「……スモーキー」
「君は世界の善性を信じている。君は人々はいつか、恨みつらみから解放され、暖かな気持ちで眠ることを望んでいると信じている。……けれど、これが現実だのぅ。憎悪に染まった魂は、そんな生温さを望まないねえ。己を苛烈に虐め、他者にも同じ責め苦を望む。この世界は、君の信じる世界より、ちょっぴり
……大人しくしているから、と位相空間に入らなかったスモーキーだけど。
なるほど、そういう役割を担うつもりだったのか。こいつの性悪は人間に向くときは手が付けられんが、同じ神には違うのかね。
「"古の約定に従い、アナタの定めた一人を死の運命から解放することを許す"……という、紫輝との賭け事の末に得た権利。これは、別のところで、別の相手に使うべきだねぇ。彼女に使っても、君の嫌う悲しみが増えるだけだのぅ」
「"ええ、おおきなかたつむりさんの言うとおりよ。わたしも嫌だし、わたしがこれからまた作るかなしみは、かえるさんがのみ干せるものではないでしょうから"」
少女に。その言葉に。
リュミは。
「ワンデラー。私の願いは──」
撤回する、と。そう続くのだと思った。
「──変わらない。この少女に新たな生を与えてほしい。そして、神の願いを飲み込んで、この私にも幸福がほしい」
「……」
「"ちょっと、あなた、わたしは要らないって"」
「良い覚悟だ、ラソファヘリュミアンサイナ。その果てに憎しみを煮詰めるだけであっても、その果てに死を願うのであっても、お前はそう願ったのだったな。フン、結局どこまでも性善説な神や性悪説を唱えつつも身内への優しさを優先する神々とは違い、"吐き、誓った言葉を曲げない"という一点において、俺はお前の肩を持とう」
魔力を動かす。ロストランドに沈んでいく魔力の一部を掻っ攫う。
「お前も覚悟を決めろよ、サラード・懈星。あの時の言葉の綾のつもりやもしれんが、お前も俺に願ったのだぞ。──その願いに、この少女の幸福は含まれていない。ラソファヘリュミアンサイナの幸福のためであるのならば、少女の意思とて無視しよう」
「"あなたたち、いいかげんにして! わたしをむしするのなら、どうしてわたしをおこしたの!"」
「それについてはそこな大ガエルの希望だ。俺の意思ではない。──して、ラソファヘリュミアンサイナ。お前はもう、決めているな?」
「肯定する。『
トロッコ問題……になるのかね。
此度あった幾つかの路線図は、確かにどれもが悲劇を生むものだった。サラードの望んだ誰も悲しい結果にならないハッピーエンドは、残念ながら存在しなかった。
だけど、唯一、この手段が最も被害が少ない。
長らく眠っていた患者が周囲の変化や己の変化についていけず自死するかもしれない。亡霊にとっての幸福というのが、傍から見たら悲劇に見えるのかもしれない。
でも、
平時の俺なら……もしかしたら、誰も損をしない全く新しい道を捻出したのかもしれない。あるいは創造の域にまで手を掛けたのやもしれない。
今の俺は、残念ながら、そこまで優しくないからさ。
「『万能』」
取り出すはいつもの黒球。ただし、サイズが少し違う。
──天の至泉、その全てを覆い尽くす規模の記述圧縮球。当然の話だけど、モーガンの頃と比べて今の俺はこの世界の万物への理解が更に進んでいる。
霊質、霊魂。古代魔族語、精霊語、純天体語。紫輝、赭地、涅月、緑月。時の円環、ろくろ、影、意味。
今の俺が万能に手を掛けるのならば、最低限この大きさが必要、というわけだ。──つまるところ、アルカ。お前の辿り着いた『万能』の大きさは、あるいは、俺より早くに見つけていた最適解である可能性が高いんだよ。
「こ……れ、は」
「……驚いた。ワンデラー、それは……世界を作るために必要な
そうかい。まぁ、勝手に慄いていてくれ。
……魔力が足りない、というか、出し渋られているような感覚があるな。
この星の地表にある魔力のほとんどは紫輝のもの。今更妨害しようってか。いちいちやることが陰湿だねえ、それでも恒星かよ。
「
──勿論、なのだわ! というか最近頼ってくれなくて忘れられてるかと思っ……。
幻聴が聞こえた気がした。ので、途中から雑音として処理させてもらった。今そういう空気じゃないから。
真っ黒だからわかり難いけれど、黒球が回転を始める。
この球の黒は魔力で形作られた黒なれば、当然、紫輝の視線も阻む。
ここで行われるすべては記録されない。どの天体にも。
「……あなたは、何者……なの?」
「さて、何者かと言うのならば、結局のところ『
死者蘇生。それもまぁ、できるといえばできる。やる気が無いだけ。
だけど今回取り出すべき式はそちらではなく、長い間肉体を失っていた彷徨える魂に新たな器を用意してやるというだけ。彼女はまだ死の判が押されていないから。その辺細心の注意を払ったらしいな、トラッドは。
「貴様、我の願いを……」
「お前が肩代わりする、という点については無視させてもらう。願い自体は聞き届ける。ラソファヘリュミアンサイナの、この少女に新たな生を、という願いと、サラード・懈星のラソファヘリュミアンサイナに幸福を、という願い。同時に別々から願われたというだけだ。そんなのよくある話だろう」
「"ちょっと! さすがにおこるわよ! りゅーを呼んじゃうんだから!"」
「好きにするといい。だが、寄越す竜は選べよ? こちとら災厄竜さえ下した者なれば、それ以上のものでないと指先一つすら止められんぞ」
始める。
今回はいつもの「再生命」と「再構世」は使えない。元から無いものを作るのだから。
よってこの『万能』に従い、全てを丁寧に、超圧縮して行う。
「……う」
──意識レベル:正常。
──衣服構築。欠乏魔力充填。
「……うぅ。……う~~っ!」
「はぁ、疲れた。人間は設定項目が多くて敵わん。これでも大部分を無意識の彼方に飛ばしたが、正常に動いているようで何よりだ」
とはいえ俺がいつもやっていることではある。魔力マニピュレータを使い、これらが全て機能するように配置していたのは今は昔。
途中からこうやってシステマチックに肉体を作るようにしていた。これはそれを、この世界の法則を使ってやった感じかね。
「なんてことしてくれるのよ……ああ、りゅーをあやつる力が、ない……!」
「続けてラソファヘリュミアンサイナ、お前に『
「わかっている。それでもそれを、私は幸せであると見定めた。──もし、私が自我を砕かれ、人を害するゴーストとなったら、その時は──討伐を、願う」
「そうはならないさ。お前は強いからな。それに、仲間がたくさんいる」
球体……『万能』を消してやれば、次々と集まってくる「ナニカ」たち。
風であるもの。森であるもの。恐れであるもの。畏敬であるもの。
ネノカイ……中でもマクマリと呼ばれる者たちだ。
それが次々とラソファヘリュミアンサイナの中に吸い込まれるようにして消えていく。
「……なにを、皆。そんなことをすれば、あなたたちの自我が消えてしまう」
「当然よォ。そのためにこんなけったいな場所まで来たんだ。──オレたちマクマリは、どいつもこいつも、結局何がしたかったのかわからない霊魂の集まり。他のゴーストのように生者を襲うでもなければ、さめざめと泣いて嘆いて世の中の不条理を喚くわけでもない。どちらもしたくなくて、けれど在り方を定められて、心と行いの相反に散々苦しめられて」
いつの間にか、いた。
小さな老人。金槌を持った、髭のある概念。
「だが、皆、大の大人だったから、誰にも泣きつけなかった。苦しくて苦しくて、なぜだなぜだと慟哭をぶつけたかったのに、それを噛み殺して、自我を失って自己を失って、概念なんて呼ばれるものにまで身を墜としてでも、意図しない行動をしてしまう怪物になってでも──消えることを選ばなかった阿呆の集まりだ」
「……ワンデラーなら、この人なら、あなたたちの席も用意してくれる。取り返してくれる。だから、こんな馬鹿なことはやめて、出ていって」
「お前さんはそんなオレたちを見捨てなかったな。同士だと見定め、誰も置いていこうとはしなかった。──充分なんだよ。たとえば神と呼ばれる者が願いによって動くのならば、オレたち怪異は存在を認められただけで動くんだ。妖怪。根の界。
老人は、こちらを見る。俺を見る。
「オレの名は、マヨヒガ。
「葬頭河の
「そうさ。ゆえに、彼岸の名はオレが彼方に持っていく。マヨヒガという名は、今日、この時を以て、この世から消える。……だが、迷いし仔らを受け入れ、導き、美味い飯を振る舞ってやるという役割は残る。それをお前に譲ろう。継承しよう」
「いいだろう、受け取ってやる。心置きなく死ね、マヨヒガ」
「応さ」
そうして……彼は、リュミへと近付いて。
「悪いな。最期の最期まで、迷惑をかける。いつかお前が全ての荷物を下ろし、劫白の国へと来た時は、オレの得意料理でも振る舞おう」
「……私達が、劫白の国へ行けるとは、思えない」
「行けるさ。なんせこの世に罪を償う場所、なんてものは用意されてねえんだから」
正しい。この世界に地獄や冥府に該当する場所は存在しない。
地上の地獄はあったのやもしれない。それがアスミカタ帝国なのだろう。だが、すべての魂が初めに席を選ぶのならば、あるいは、すべての席が負うべき罪は、席を用意したやつに委ねられる。
とすれば成程、罪人の魂など出ようはずもない。
「ここから先の苦しみを全てお前に背負ってもらうことになる。だから、これまでに蓄積された苦しみ程度は、オレたちが譲り受けよう。──そういう調整はできるかい、金物屋」
「朝飯前だよ、旧時代」
「カカカ、生意気千万──安心できる言葉だ。……それと、娘」
言いたいことは終わり、かと思ったら。
まだあるらしい。彼女なりに空気を読んで黙っていたというのに話しかけられて、一気に不機嫌になるのがわかる。
「……なによ」
「お前は覚えちゃいねえだろうが、生前、お前が父母を失う前に、マヨヒガへと迷い込んだことがある」
「……そうなの?」
「その時お前はオレにこう言った。"おじーさんの料理はおいしいし、ここはとてもあたたかいから、いごこちが良いけれど。外はこわいものだらけだし、おそろしいことばかりだけど。──それでも、ここにはパパとママがいなくて、外には、パパとママがいる。だからわたしは、ここを出ていくのよ、おじーさん"、と」
わずかに……少女の目が開かれる。
そうか。
……憎しみだけじゃ、ないんだな。待ちたかった理由は。
「お前が迷い込んだ"コア・ハート"という
「……余計な、お世話……なんだから」
「カカカッ、そうさ、そうさな。だが、これは性分でねえ。迷っている者を見ると導きたくなるんだ──その変えられない在り方は、次世代にもちゃんと受け継がれているようで」
ふん。……けど、そうか。
他者から見る俺ってこんな風に見えてんだな。
「じゃあな、新しい時代たち。人も神も星も魔も、すべてがより良い未来を得られることを願っていてやるさ」
それだけ言って……老人は、マヨヒガは、リュミと重なり、消えた。
気障な老人だことで。
「施術を開始する。どれほど肩代わりされたとしても、本体はお前だ、リュミ。──行くぞ」
「……無駄には、しない」
空席になっていた『
失くした席との相関性を断ち切り、新たな運命に再接続する。
「っ……!」
苦悶の声を漏らすリュミ。己の霊質が無理矢理書き換えられるようなものだ。その苦痛は如何ほどか。俺は苦痛に思わないから参考にならん。
「はぁ。……耐えようとしないで、ながされて、けれど元居た場所を強くおもって、そこにひもをつないで、じぶんをつなぎとめるの」
「……」
「そう、そうよ。どれほど耐えても、おわりはこないから、つきあいかたを見つけるの。そのだくりゅうは、あなたをおしながそうとしているんじゃなくて、ただ流れているだけ。だから、もっともていこうをうけない形に、じぶんを作りなおすのよ。肉体があるとむずかしいけれど、たましいだけなら簡単だから」
少女のアドバイスを聞いたのか……一気に安定していくリュミ。
そこまで言語化できるのもすごいけど、この子も思ったより悪性存在ではない、か。
「……この、暴風の中を、五百年……よく、頑張った、ね」
「もう、こんな時までわたしのことを気にするの? ……じゃあくなわたしのことなんてすてて、あなたはまっとうに幸せになるべきだったわ。お願いをする神様をまちがえたわね」
「言われているぞサラード」
「ふくく、どう考えても君だねえ」
「ゲェロ」
鳴き声じゃなくわざわざ言う奴があるか。
……よし、安定したな。
マクマリたちがさらにリソースを持っていったらしい。無茶をするよ、本当に。
「──さて、ラソファヘリュミアンサイナ」
「うん、わかっている。報酬、だよね」
「ん? ああ……そんなのあったな。忘れてた。いいよ10ストレイルとかで」
どうやら今の俺は神の視座らしいし。
信仰とその願いに代価を求める神がいるのかって話。……まぁ神に依るか。
「お金は、持っていない」
「ならば、そうだな。この先で罪悪感に苛まれたりしないこと、でどうだ」
「……? この、先?」
さて。
トロッコ問題……最小限の被害で食い止める、という話はしたが。
無論、さらに被害を減らせる案を思いついたのなら、それを実行するべきだろう。
なんせ俺は、「思いついたやってみたいことを試さずにはいられない」やつなんでな。
「これよりお前を涅月に送る。そこではトンチキな涅月の化身と、俺の作ったコンストラクトがボードゲームをして遊んでいる」
「……えと、意味がよく」
「定道や汪はまだ諦めたわけではないから、お前を赭地に置いておくのは危険だ。お前の安否っていうか世界の負うリスクからして。だが、あいつらでは軽々しく涅月に手を伸ばすことは難しいだろう。つまり最適なんだよ、あそこ」
「いやその、妥当性の話では、なく」
「怨嗟は消えない。『
まだ繋がっている涅月とのラインを道に定め、『
すすす、と……ゆっくり上昇を始めるリュミ。
「いつかお前のその重荷を根本から解除しに行ってやる。それまでの余暇、精々楽しく過ごすといい」
「急すぎる……! そ……その、……天の至泉、直下、地下900athlのところに、あなたへの報酬を用意してある。それと……受け取ってもらえるかは、今となってはわからないけれど……ありがとうございましたと、そう言わせてほしい」
「受け取るさ。そんで、達者でな」
「うん。あなたも」
そうして、軌道に乗って、上昇速度を高めて。
一瞬にして見えなくなったリュミを見送って。
さて。
「ク……なんだなんだ、やはり貴様を信じた我が正解か。どうだスモーキー。トライギルのやつはこの男には悪性も善性も宿っていないなどと世迷言を言っていたが、今の一連の流れを見て、そんな言葉が吐けるものか?」
「ふくく、ふくく。どうだろうねぇ。どこまで行っても自分のためであるようには思うけれど、でもそれが世間にとって善性に見えるのならば、彼は善性かもねぇ」
「じょうだんじゃないわ! りゅーをあやつるちからをかえして! あの子がむだにくるしむだけだわ!」
「今更憤慨とは驚きだ。その制御の仕方を教えていただろうに。あれを教えなければ、あるいはリュミはあの場で砕け、消え、その力がお前に戻ってきていたやもしれないだろうに」
「あの子にきえてほしいなんて思っていないもの。むかんけいの、それもわたしを助けてくれた子がくるしんでいたら、くるしまない方法をおしえるのが、そんなにおかしいのかしら?」
「ならばそれもまた、世間にとって善性に見えるものなのだろう。……それに、マヨヒガに言われた言葉が刺さっていないわけじゃあないんだろう?」
うぐ、と言葉を詰まらせる少女。
アスミカタ帝国の竜の楔。その中には決して父母はやってこない。良い導きだよ、ほんと。
「なら……ここからとびおりて、しぬわ。パパとママにあうために」
「ほう。お前にとって自死は罪ではないのだな。お前を想うリュミがその身を切ってまで与えた生を、お前は、むざむざ捨てると、そう言うわけだ」
「べ……べつに、わたしのいのちなんだから、使い方なんてかってでしょう? 誰にさゆうされるというの?」
「何も命令はしていないだろう。俺が聞いているのは、お前は本当にそれでいいのか、ということだけだ」
たとえば、と。
煙管を見せる。
「この煙管の中の煙を肺一杯に吸い込めば、肉体の魔力依存率が跳ね上がり、瞬時に魔力へと分解される。ここから落ちて頭蓋骨を潰して脳を破壊するよりずっと苦しみ無く逝けるぞ」
「……」
「ふん、今、生唾を飲んだな。それが答えだろう」
両親に会うために死ぬというのなら、迷わず取れよ。
憎しみに突き動かされているというのなら、そんな理性は捨ててしまえよ。
「憎しみなど、もう無いんだろう、実は。父母を殺した奴──そいつの顔さえ覚えていないんだろう」
「……そんなこと、ない」
「そうか。じゃあ名前と顔を教えてくれ。思い浮かべてくれるだけでいい。他者への時間跳躍の魔法式は
「……」
「どうした。思い浮かべるだけだぞ。鮮明に思い出す必要は無い。名前と顔だ。ぼんやりとでもいい」
いつまで経っても。
少女の脳裏には……ただ、父母から受けた、暖かい抱擁の記憶があるばかり。……あとはこれは、リュミからの抱擁も、かね。
「う~っ!!」
「別に憎悪が悪いとは言ってないよ、俺は。……ここから先、あと四十年だか五十年だか生きて、老衰で死んで、また当時に生まれて……その時にそいつと再会し、憎悪が再燃することだってあるだろう。そん時は殺してやればいい。お前がその後どういう扱いを受けるかまではサポート範囲外だが、多少の溜飲は下りるだろう」
「……嫌よ。それ、なんだか……わたしが、あの人のことを、すきみたいじゃない」
「二千年、降り積もった愛情を伝えにいくかのようではあるな、確かに」
「あんな人……記憶にさえ残していたくなかったから、わすれたのよ。……死ぬ気は、ないわ。賢いレディですもの。……彼女、リュミの分くらいは……生きないと」
普通の女の子、ね。
まったくその通りかもしれない。
「サラード。リュミの席というのは、何年の席だったんだ?」
「紫輝歴780年だ。連邦、エリスフィア帝国、ゼルパパム関連地域のどこかに生まれ、亡くなった女。死後、その席は奪われた」
「じゃあそこに座らせるのが妥当だな。……ああ、で。お前に名前はあるのか? 生前の名前」
「今の……このからだのわたしは、その子そのものじゃない。パパとママから生まれた子供じゃないもの。……だから、そうね。エコー・ノート。そう名乗ることにする」
エコー・ノート。……もしかして回向の塔から取ったのか?
そりゃなんとも自虐的だが。……いや、というか、その知識源は……地球、じゃないか?
……俺は劫白の国の空が青空であるのだと睨んでいたけれど……もしや地球の空を知っているやつがいるのか?
「たくさんめいわくをかけて、ごめんなさい、かえるさん、かたつむりさん」
「此度我はほとんど何もしていない。礼ならばワンデラーに言え」
「ふくく、ふくく! 迷惑を謝れるうちは、また怪物にはならないから、大丈夫そうだのぅ」
「なんだ自己紹介かスモーキー」
「ディナティのことさぁ。……我からも礼を言うよぉ、ワンデラー。まぁ、死んでくれていても一向に構わなかったけれど、一応同じ世代の……同じ時間を生きた神だからねえ。欠片程度は仲間意識があるんだのぅ」
「お前達はもう少しサラードの落ち着きを見習った方が良いが、お前はお前なりに役割を理解している、というのもわかったよ」
ああそうだ、位相空間の結界を解除しよう。
結界を解けば、出てくるは三神。
「おうおうおうおう──なんでぇ、あの亡霊が消えて、そっちの人族からはおかしな力も感じなくなってんなぁ。すべてまるっと解決しちまったってわけか、ワンデラー」
「おお、サラードもスモーキーも、存外晴れやかな顔をしているではないか。我の予想では、どちらかが渋い顔をしているというものだったが……素晴らしいな」
「……神の躯を分解して再構築するとか、気持ちの悪い魔法を使うよねぇ、君」
「おうコラディナティ! まずは礼を言えっつっただろ!」
「そうだぞディナティ。苦しみ悶えるおまえを救ったのは、紛れもなく彼なのだから」
「ふん、君達の指示を受け入れるはずがないだろう。……定道め、僕を利用し、騙して……ああ、体内に入ってきた時点で修復不可能なほどに押しつぶしてやるべきだった」
「愉しむ心を忘れては、化け物になるだけ、らしいぞ。ディナティ・桟明厘?」
揶揄気味に言えば……思ったより暗い感情を向けてくるディナティ。相変わらず表情の一切はわからんが、霊質も魔力の質も……ろくな感じじゃないな。
「あまり、調子に乗るなよ──」
「それはお前だ、ディナティ」
ぴょーんと跳ねた大ガエルが、俺とディナティ・桟明厘の間に入る。
「試練と称して、趣味と称して、人類の生育を彩る──その在り方を
「……また、古い話題を持ち出すね。そんなことを考えて振る舞っている神なんかいないよ。……そうだろ、トライギル、スモーキー、ボガード」
「いや? オレはそう在るものとして振る舞っているぜ? 加護対象から人族は外したが、それでもオレは加護を与えるモノだ」
「我もまた同じよ。住処が魔王国内ということもあって、その麓に住まう者達を加護している」
……成程、そういう区別だったのか。
どちらも
やり方は多少どころじゃなく不器用に思えるが、紫輝よりは会話の余地がありそうだ。
して……逃げ場を失ったディナティは、最後、スモーキーを見る。
彼は。
「ふくく、ふくく、ふくくく! なんだのぅ、ディナティ。その目は……我に縋ろうというのかのぅ?」
「……君だって、悪神だろう? 葦三方じゃあ、なんなら僕の方が、善神として祀られているほどだよねぇ」
「そうか、そうさ、そうさな。ヒトは死を悪に、生を善に唱えるがゆえに、そういう認識だのぅ。──だが、我もまた加護を与える神よ。未来を視通す目を渡し、人を超えたる力は己が身を亡ぼすだけだと伝え。ふくく、ふくく──己の趣味嗜好のためだけに人間を崖下へと突き落とすおまえとは、全く違うのぅ!」
まぁ、試練も加護も、どちらも祝福なのだろうけど。
ディナティのそれは……どちらでもなかったのかね、結局。
「なんだよ……皆して。……ああそうか。結局皆も、そいつが怖いんだねぇ。人間で在らんとしていた時のこいつならいざ知らず、今のこいつは、僕たちにほど近い。いや、上かな。この場におけるすべての生殺与奪の権利を有している彼に、君達は──」
言葉は、最後まで紡がれなかった。
いや、紡がれたのかもしれないけれど、聞こえなかった。
「──醜悪。無様。そちは、それでも神か」
それが現れたからだ。
オレンジ色の光。魔力塊。隣にいるエコーがひ、と喉を鳴らすほどに、圧倒的な気配を持つ存在。
「な……
「然り。我である。──何を驚く。先程まではそこの野卑なる男がこの場を隠していたが、再びここには我が魔力が満ちた。我が光が満ちた。なればこの場を見るにどんな壁がある」
野卑で悪かったな。
「これほどの醜悪を曝け出しても、尚、
「……これは神の問題だ。
「蒙昧。浅慮。神とは我と赭地が協力して作り上げたる生物ではない
「ディナティをどうする気だ、
「無論──赭地に還すつもりだが?」
……まだ強い恐怖に慣れてないな。過呼吸を起こしかけているエコーに安静の暗示をかけ、位相空間に飛ばす。
「下劣である。
「異論は無いが、一つ問題がある」
「……先程の言葉ではないが、これは神と我ら天体の問題だ。そちの口を出せる話ではない」
「くだらん分類をしてくれるなよ
「そうか。それで、何が問題だ」
「別にディナティ・桟明厘の存亡には一切興味がないし、そいつに繋がる感情の線についてもどうでもいいんだがな。──俺はお前が嫌いだ、
「……」
「先も魔力の出し渋りによる遅延行為なんてくだらない嫌がらせをしてきただろう。紫輝の愛し子なる者達に"期待"をかけたり、到底超えられるはずのない試練を課して、それが超えられぬことを人類のせいにしたり、その進捗の遅れを俺に責任転嫁してきたり。俺はお前のやり方が、心底嫌いだ。苛々する」
だから。
「今、ここは、俺の縄張りだ。──これ以上荒らすつもりなら、相応の報いを受けると知れよ」
「……厚顔無恥に極まるところを知らぬな。ここは我らの世界。我らの縄張りだ。荒らしているのはそちだろう。まさかその自覚が無いとでも言うつもりか?」
「いいね、やるつもりならやろうじゃないか。友人の準備を待つつもりだったが、縄張りを荒らされて黙っていられるほど気の長いつもりもない」
「フン、驕ったな。……出てくるな、アンドリアミアフィナイラロカ。今そなたに出る幕は無い」
手に出現させたるは、普段使いの方の『万能』。
涅月よりも昏い黒。世界に孔が穿たれたかのような黒。
戦いは。
「──お待ちになって、二人とも」
声に、諫められる。
……
この浮島。その地面を割いて……無数に生えてくるは、オレンジ色の花。……ブルビネか。ハナアロエ、とも言うが。
それから声が発せられている。花弁こそオレンジだが、纏う魔力は紫色だ。
「……何百万年ぶりだ、
「二百万と少しぶりです。……
「そちの気が長すぎるだけだ」
こいつが……この声が、赭地。
まさに母なる大地って感じだな。
「おお……
「ええ、サラード。お久しぶりです。トライギルも、スモーキーも、ボガードも、……そして、ディナティも」
「……何を言いに来たのかは、だいたいわかる。その上で問おう
「ディナティへ罰を与える役目は、私が貰います。……あなたが私の天使から盗んだ試練開始の権限について、今更とやかく言うつもりはありません。私の忍耐に、あなたの短気が噛み合わなかっただけですから。……けれど、私の手足に、私の目鼻耳口に等しいこの子たちを奪うと言うのなら──私は、あなたと事を構えなくてはいけなくなります。わかるでしょう、
まるで諭すような口ぶりだ。
対等じゃない、のか? 赭地の方が年上?
「……ふん。醜悪と無様が我の知覚範囲から消えるのならば、それでいい。──野卑な男。我らの勝負は未来に預ける。赭地の顔を立てて、だ」
「ああ、存分にやろう。ヒトとホシの食らい合いだ。盛大にやらなきゃ嘘ってものだろう」
「……さらばだ。精々精進しろよ、神々」
オレンジ色の魔力塊が消える。
消えて……そのまま全員の視線は、ディナティ・桟明厘に行く。ハナアロエの視線とは?
「……罰、か。じゃあなんだ、僕は、あなたから見ても罪を犯したんだねぇ」
「ええ、大罪でしょう。己が享楽のために一個人を未来へ飛ばす。況してやそれを、そこな害虫に習得させる、など」
おっと。……丁寧なだけでちゃんと敵意はあるのね。まぁそりゃそうか。
「それで、罰ってぇ? 結局あなたも僕を世界に溶かすのかなぁ?」
「今日から、千年間。あなたには、普通の海鼠となって、海で過ごしてもらいます」
「……」
「神としての全能力を削ぎますが、寿命は来ません。とはいえ外敵に啄まれでもしたら怪我をしますし、食事もしなければなりません。千年間──己の意思ではどうとでもできない世界を見て、生きる苦しみを知り、死の恐怖を知り、その後また、神として世界を見つめ直しなさい」
ま、良いんじゃないか? 海の魔物が怖いとはいえ、思考能力を落とされるわけでもなし。……まぁそれこそが罰なのだろうけど。
千年、ね。俺からしたら短く感じるが、何もできない生物の尺度を考えれば気が遠くなるほどに長いんじゃないかな。
「僕にも……役割があったよねぇ。それは、どうするのかなぁ」
「サラード。あなたは既に担ってくれているようですが、正式に譲渡しても構いませんか?」
「我でも良いが、スモーキーの方が適任だろう。治める土地も似通っているし、
「……それは、もしかしないでも嫌がらせだのぅ? というか君が面倒事を背負いたくないだけ、という風に聞こえるのぅ?」
「ゲェロ。む、すまんな。魔声の魔道具の調子が悪かったらしい。今一瞬全てが蛙の鳴き声に聞こえた」
どう壊れてもそんな聞こえ方にはならねーし魔声スカーフに聞こえる音を調整する機能はねーわ。
「ああ、良かった。私が……大きな視座になってしまっても、あなたたちはあの頃のままなのですね」
「趣味嗜好は少しずつ変わっているがな。我などは、ワンデラーの淹れる珈琲を好ましく思うようになった。次は珈琲の池に住むつもりだ」
「……害虫だ害虫だとは思っていましたが、意識汚染までするとは。早急に駆除したいところですが……益虫でもあったのが、本当に残念です」
「ク、そう嫌ってやるな。今回の一件で我はこの者をさらに見直した。あなたや紫輝が思っているほど悪い世界にはならぬさ」
「そういう問題ではないのです。彼らが自ら殻を破ることが大事だったのに……。……とはいえ、ディナティを利用したあの人族も、彼の干渉無く殻を破っていましたか。その結果が残念であるとはいえ、まぁ、私達の願いは、多少は、叶いつつある、ということなのでしょう」
ブルビネの花は、はぁ、と溜息を吐く。……どうやって? いやまぁこれが端末ってだけでこれそのものじゃあないんだろうけど。
「覚悟はいいですか、ディナティ・桟明厘」
「……やるんなら、やればいいさ。どうせ僕が何を言っても……あなたの決定を覆すことなんか、できないのだし」
「そうですね。それでも意思が通じ合うのならば、言葉を交わすべきだと私は考えますが……いえ、長らくあなたたちを放置してしまっていた私が何を言っても無駄でしょう。──お元気で、ディナティ・桟明厘。次に会うのは千年後です」
紫色の魔力に包まれるディナティ・桟明厘。
直後、その身体が普通のナマコサイズにまで縮み……セプウルクルム洋の方へ、ぴゅーんと飛んでいった。
……今の、銀・結糸の「対象の大きさを変える魔法」とそっくりだったな。紫輝と赭地に嫌われているから属性魔法が使えないとアイツは言っていたけど……もしかして、もっと根源的な魔法を使っているだけなんじゃないか?
「さて、では、私もこのあたりで失礼します」
「おうおうおうおう! もう行っちまうのか。積もる話もあるだろうに」
「此度より、できるだけあなたたちの小さな声を聞きとれるよう頑張るつもりですよ」
「……赭地よ。そも、どうして此度のことに気付けたのだろうか。赭地でさえ無視できない魔力をワンデラーが持っていた、ということか?」
「いえ、
ほーん。
……まぁ、なんだ。客観的に見たら……MVPだ、ノクスルーナ。
「惜しむらくは、害虫と親しいこと、ですけれど」
「なんだ
「戦闘などしませんよ。それに……挿げ替えるだけでは、何も解決しません。新たな星に私達が宿るだけです」
「……」
「ああ……これは、余計な情報でしたか。……今は、そうですね。あなたの名乗る通り、放浪者と呼びましょう」
赭地は……感覚、俺に向き直った、気がする。
「大部分に関しては、私も
「だろうな。乗り越えさせているつもりは無いが」
「ですが。……あなたによって、世界という円環が、より良い方向に流れつつあるのもまた事実。私達は気の長い天体ですからね、あなたが去った後で、あなたによって高められた水準に対し、更なる試練を、という形でも良いと思い始めました」
「それは……まぁ、俺の知るところじゃないか」
試練そのもの、災厄そのものは、まぁ、他の世界でもあるものだしな。
文明リセットまでされるのがやりすぎなだけで。
「昔……
──"なんというか、あなたたちのやり方って不器用なのだわ。愛することが、愛でることだけではない、というのはわかるのだけど、突き放すことばかりも愛ではないのだわ。人間というのは、見える光も、聞こえる音も、とーっても難しい
「……そりゃ、なんというか真理に聞こえるが」
「ですね。今は私もそう思います。……けれど、当時の私と
「で、何が言いたい。それを反省しているので許してください、か?」
「ふふ、口が裂けても言いませんよ、そのようなことは。……あなたや、未来の人類が……私と
また……バンバンにネタバレしてくるなコイツ。だから嫌なんだよ世界の真相に近い奴と話すの。
どういう順番なんだろうな、じゃあ。緑月が最古参って感じはしない。全体的な言い草が……なんというか、年下に対するそれな感じがある。
まぁ、初期大地→赭地、初期恒星→紫輝、その後に緑月という衛星が生まれ、それが涅月に代替した、って流れなら……色々納得いく、かな?
「私達とあなたは、相反する思想の持ち主。敵となったのなら、こちらも容赦はしませんし、そちらも無用です」
「言われるまでもないが」
「その上で、私達もまたこの世界のすべてを愛していたことを知っていてください。私の大雑把なやり方や、
「愛、ね。それが世界で最も強い力だと知った上で、その言葉を吐いているんだよな?」
「当然でしょう。一度は"
……ふん。ならいいさ。
やることは変わらないが。
「わかった。もうそこを疑いはしない。お前達はお前達のやり方で愛を伝え、育んでいるのだと。……だからこれは、俺からのアンサーとしての問いだ。これにお前が答えたら、この場を開く」
「はい、どうぞ」
「神だけでなく、己が天使の……竜らに、その名をつけ、呼びかけたことはあるか」
「……いいえ、一度も」
「愛を語るのならば、そこに優劣をつけるなよ。母なるものを自称するならな」
「我が魂に刻み付けましょう。──金言です」
そう言って……ブルビネは、また、地面に引っ込んでいった。
静寂が満ちて。
神々が、それでは我らも、とか言い出そうとした頃合いで……地面が揺れ始める。
「む、これは」
「ああ、さっき魔力ドカ食いしたからな。渦が乱れて浮島の安定が無くなったんだろ。赭地が生えたことも原因の一端だろうが」
「ワンデラー、のん気がすぎよう!」
「別にもうこの時代に用はないしな。エコーを連れて、780年に帰るよ。下にいた連中はマクマリが食ったかどうだか知らんが、中心地にいなければ死にはせんだろう。お前らの着地は知らん。頑張れ」
というわけで。
「あ、サラード。お前の珈琲の池は、それも780年に施工するよ」
「……エステルトを見る気は、無いか」
「無いよ。あの子が選んだ道だ。──じゃあな、神々。精々精進しておけよ、ってね」
これにて、幕引き。