序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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105.橋を架ける王女

 目を開ける。

 越竜学園の屋上。宇宙ステーションの施工から二週間くらい経ったくらいの日数。

 そろそろ紫輝が沈む頃合いだから、生徒の数は少ない。それでも残っているのは放課後訓練の子たちと、教師陣だろうな。

 

 ここから……紫輝の測量が始まる。或いはもう既に始めていたりするのかな。

 あれがどういう天体で、どういうものなのかを調べる作業を。

 けれど。

 

 ──挿げ替えるだけでは、何も解決しません。新たな星に私達が宿るだけです。

 あれは……赭地(アロクトン)自らも自覚していた通り、余計な情報だった。……だが、どうにも、それをわざわざ言うために俺の売り言葉を拾ったって感じだった。

 

 つまり……俺も、ヘンリーたちの測量終了までに間に合わせる必要があるってわけだ。

 ただ挿げ替えるだけでは意味が無いのなら、どうすればいいのか、という手段の、その構築を。

 天才との競争というわけだ。ハハ、笑えないね。

 

 しかし。

 真面目に考えると、新たな星に彼らが宿るという言葉の意味は、つまり、紫輝・赭地・涅月は相対位置で定められている、ということだろうか。

 それとも何か……それこそ俺のように、肉体に依存しないナニカがいて、そっちが本体だから、肉体をどうこうされても問題ない、みたいな?

 

 霊魂は大分肉体寄りの存在だ。だからやっぱり霊質あたりが関係してきそうではあるが……ふむ。

 ……こっから先、あんまり紫輝周辺でうろちょろすると宇宙人に間違えられかねんからなぁ。

 

「……その様子だと、こっちの忠告を無視して……紫輝のパーソナリティを知ったみたいだね」

「わかるのかい?」

「二週間前とは紫輝を眺める雰囲気が違うからね……。敵意が薄れていないどころか、濃くなっているのは僕としては僥倖だけど」

 

 屋上へ上がってくるなりそんな言葉をかけてきたのは勿論ヘンリーだ。彼はこの場に結界を張って、俺と同じように屋上の柵に寄り掛かる。

 彼の感知圏内に現れた俺に気付いて、まぁ別に急ぐ話でもないからゆっくり階段を上ってきたのだろう。別に引きこもりというわけではないから息が上がっているとかはない。

 

「そうだね。紫輝、この星、涅月……色々調べてきたよ」

「時間遡行。……調べたいなら現地に行けばいい、っていうのは研究者の鉄条だけどさ。君ほどの行動範囲は、素直に羨ましいよ。僕も過去の天才たちに会ってみたいし」

「僕じゃ物足りないかい?」

「流石に君だけじゃないからね、天才は。……たとえば、そうだな。君っぽくないやつで、教戒院生でもないだろうものをピックアップすると……紫輝歴124年の天才、ケビン・エニスタ。魔導伝達学の基礎式のほとんどは彼が発見している。彼は見ただけでその物質の魔力伝導率がわかったそうだよ」

「へえ。なんとも生きるのが難しそうな才能だね」

「あとは……涅月歴780年の天才、ヒルダ・アカネザギリ。錬金術による創造物の耐久性の低さについてを研究した人だけど、この学園の耐震・耐魔建築も彼女の理論が使われているくらいなんだ。つまり、エリスフィアの最先端技術の話に必ず出てくるのが約千年前の技術ということ。……凄いよね」

「それは素直に凄いね……」

 

 まぁ、そりゃそうというか。

 俺がやったことなんて世界の技術の毛ほどにも満たないことでしかない。それもブルーオーシャンを求めてやっていたから、隙間産業……じゃないけど、無数にある技術、天才と秀才たちの積み重ねの中の、その発想の転換ばかりだ。

 そういう……なんだ、生活の基礎を作る、みたいなのは数人だけだ。ほとんどは限定的な発明でしかない。

 

「会って何をしたいの? ディベート?」

「……そうだね。討論をしたい。僕の意見、僕の結論。それは……僕からして妥当性のあるものしか出していないつもりだけど、もしかしたら……別の視点があるのかもしれない。でも、それに気付けないでいるのが今の僕だから」

 

 つまり、俺より強い奴に会いに行く状態か。

 負かされてみたい欲求かね。マー天才さんはありがち。

 

「君が間違えていたら、何の遠慮も無く指摘してあげるよ。でも君、いつまで経っても正しいからさ」

「……似たようなことをアルカさんにも言われたよ。そして……彼女がまくしたてたあと、決まって、今度はエレンさんが言うんだ。"あら、私やアルカも天才の部類でしてよ?"って」

「あー。……まぁ、彼女らの言わんとすることはわかるけど、君が欲しているのはそこじゃないもんね」

「返す言葉も無いから負けたことにしているけど、そうだね……」

 

 確かにアルカは天才だろう。エレオノーラだって天才の部類なのだろう。

 けど、そーいうことじゃなくてだな。彼が欲しいのはつまり、前提の知識が彼と同等で、且つ真逆の意見を有する相手の存在だ。そんなもの。

 

「……君も、自律式コンストラクトをもう少し研究してみればいいよ。術者の知識を参照先に繋げて、且つ自分とは真逆の意見を出すように思考プロセスを組み替えるんだ」

「コンストラクトか……。……一応僕は、セーブしているんだよね、それ」

「どうして?」

「そいつは、人類を滅ぼしかねないから」

 

 ああ。……あー。

 確かに。ヘンリーは一応善性の存在というか、何事も良くなるように、というのが前提に物事を考える。

 それを……悪いとは言わないまでも、良くない方へ良くない方へ考えるコンストラクトは。

 

「プロテクトをつけていても、地頭がヘンリーなら突破されかねないね……」

「メタ認知を付け加えておけばいいんだろうけど……生憎と僕は、僕という存在が敵に回った場合を想定しきれていないから、危ないんだよね」

「……良い判断かもしれない。二人目の君が誰にも気付かれないままに計画を推し進める、なんてのは悪夢だよ」

 

 今の提案、もしや綱渡りだったか。

 ……こう、「そういう物語」を知っている身からすると……たとえば、実はもうとっくの昔に悪ヘンリーは作られていて、悪ヘンリーの記憶操作系の魔法で善ヘンリーがそれを忘れさせられている、みたいな展開まであり得そうではあったけれど……。

 それを彼が見越していないとは思えないし、けど悪ヘンリーもそれを見越していて、勿論またそれを……って。

 考えるのはよそう。

 

「ああそうだ、ヘンリー。(ワン)溢桔(イージュ)って名前に心当たりない?」

「いきなりだね。……紫輝歴615年、エリスフィア帝国ルァンバルケでその名前を名乗る青年が連邦に手紙を出しているね。郵便局に記録が残っている。宛先は……251720101726? それと……紫輝歴666年に、今度はゼルパパムの……宛先は3112201917302514? これ、さっきから……。あと、古いし媒体も違うけど、汪とだけ書かれた文書が……紫輝歴505年にアスミカタ帝国宛で、宛先は271725172010383710……だけど、当時鎖国中だったからだろうね、これは返されて廃棄になったみたいだ」

 

 何の数字だ。何かの暗号……だろうけど。

 

「……全部偶数……ってことは、二桁区切りかな。最小値は10、最大は38……37、38だけ妙に大きいな。……10が複数回出ているから、これが頻出文字だと仮定して……羅詞源語の三十文字にそれぞれ……6*5、ないしは5*6……? ……だと、最小11、最大56になるから……とすると、3*10の方が……最小11、最大310……? ああだから、列が0~9なんだな。そうすると、最小10の最大39だ」

 

 おお。流石は、なんかね? こういう分野は完全にヘンリーの領域だなー。心情を汲み取った推理とかなら俺に分がありそうなもんだけど、単純暗号の解く速度はネー。

 いわゆるポリュビオスの方陣ってやつだ。ポリュビオスがいないからこっちでは違う名前だろうが。

 ヘンリーの推理通りなら、行番号に1~3を、列番号に0~9を振り、羅詞源語を左上から流し込むことで読めるようになる暗号。

 

「251720101726は、Damianで、ダミアン。3112201917302514は……Rembaldoで、ゼルパパム訛りからしてレンバルトかな? そして271725172010383710は……」

「Sadamichiで定道か。なんというか、小癪な、って感じ」

「まぁ実際……幾つか発想を経ないといけないから、昔の暗号にしては上出来だと思うよ。……それで、この三人に聞き覚えがあるのかな。僕の辿れる汪という人の手がかりは、これが限界みたいだ」

「うん。全員汪の関係者だと思う。レンバルトの名前が出てきたのは予想外かも。ダミアンと定道は予想通りだったけどね」

「ダミアン。……良くある名前だけど……連邦でダミアンで……誰かと暗号でやり取りをしていそうな相手といえば、『魔鉱石抽出実験』の実行者、ダミアン・ゼンノーティかな?」

「え……ゼンノーティ姓、なんだ」

「知らなかったってことは違うってこと?」

「ああいや、名前とイニシャルしか知らないだけ。……ダミアン・T……確かに」

 

 ゼンノーティ(The innate)、だからな。

 ……繋がった、か。なんとなくそうだとは思っていたけれど。

 そして、レンバルト、ねぇ。……レベッカの中に寄生血液がいた時点でその可能性も考えていたけど……つまり魔王軍の命令でレベッカにアレを植え付けたんじゃなく、レンバルトに雇われてアレを植え付けた魔族がいたってことか。

 あの時代に、人族に雇われる魔族、ね。……まぁいないことはないか。誰だって生きていくための金は欲しいものだ。

 

「ゼルパパムでレンバルト、っていうのは……知らないかな」

「マリト・マフィアのドンの跡目争いに敗れた元ドンの右腕ってやつだよ。竜に食べられて死んでるけどね」

「それは、記録が残らないわけだよ。……記録や痕跡が残っていないとわからないから、そういうところも羨ましいね。……それで、定道というのは?」

「……定道は、紫輝歴500年から514年にかけてまでのアスミカタ帝国の皇帝だね」

「514年……竜の楔が抜けた年か。……というか、なに、その……何かよからぬ企てをしている汪って人がいるとして……不用心すぎない? 全部送り主を本名で書いて……軽く百五十年くらいの開きがあるのに。……こんなの、暗号が解けなくても精査されたらおかしいとわかるじゃないか」

「精査できるのがおかしいんだよね。それに、505年のは廃棄されてたんでしょ。だったら奴さんも警戒しないよ」

「でも……宛先は暗号で、送り主は実名って、おかしくないかな。……まるで、よく見つけましたね、おめでとうございます、と言われているような気分になったよ」

 

 あー。それは……あるかもしれんな。

 慇懃無礼を絵に描いたようなというか、ナチュラルボーン煽り散らかし心底リスペクトマンって感じだったし。

 

「彼らについてを軽く共有しておくと──」

 

 かくかくしかじかまるまるうまうま納豆ねばねばびよーんびよーん。

 

「──というわけなんだ」

「今の数瞬の溜めの間にたとえどんな情報が詰まっていたとしても、流石にノーヒントがすぎるかな……わからないや」

 

 ちゃんと説明する。といっても教えるのは汪と定道のことだけ。天体の話は特に教えはしない。

 

「……汪・溢桔に、定道。その……『希望の心(コア・ハート)』……ということは、一昨日あった宇宙ステーション近辺の魔力の誤検知は、そういうことかな……」

「ああ、成程? 紫輝観測用だけど、涅月にだって近いわけで。確かに狙ってきている可能性はあるね」

 

 じゃあ『希望の心(コア・ハート)』の代替物は作れなかったのか。

 あるいは……赭地の言葉を信じるなら、代替が一度起きたら次は起きない。代替できないということは代替済みである、という見方もできる。

 つまり、エコーが……というかトラッドが無理矢理エコーを代替した席に座らせたってだけで、昔はそれぞれ別の役職や役割があった可能性もあるか、これ。

 

「……その汪という男は、君から見ても高度な強化付与(エンチャント)と刻印魔法を使うんだね?」

「うん、僕から見ても高度で練度が高いと言わざるを得ない……いや、舌を巻くレベルの練度だったかな」

「だとしたら……今の守りじゃ足りないかもしれない。……お先に失礼するよ。少なくとも今の守りの十倍……いや、二十倍以上は堅固な作りにしないと……もう一度あの竜退治をやるのはごめんだし」

「頑張ってね。僕、耐久度向上とかは刻印以外だと門外漢もいいところだから」

「知ってるよ……だからヒルダ・アカネザギリを例に挙げたんじゃないか……」

 

 成程。これは一本取られましたな。

 ……しっかし、なんでわざわざ敵対する方を選ぶのかね。いや今までの功罪的に協力は無理だと思ってるのかもしれんが、秘密裡に手を結ぶ、みたいな……密書とか届いても良さそうなのに。

 それとも、ヘンリーは俺に対してそういう……裏切りみたいな行為はしない、ってとこまで読んでいるのか。別に裏切りだとは思わんが。

 

 さて。

 久しぶりに、ノア・ヘドクイストの部屋に帰りますかね。

 

 

 越竜(エリス)学園は寮制だけど、一般家庭から通っている子もちらほら程度はいる。他国からの子はみんな寮にいるけれど。

 五年生からは希望すれば一人一部屋が与えられるみたいだけど、四年生までは二人部屋。当然俺にも同室の子というのが存在する。

 ちゃんと男女は分けられているのでレイナが乗り込んでくることはない。レイナのことだから同室の子を脅して居座っている可能性もあったけど、流石に彼氏持ち。そういうことはしないようだ。

 

「やぁニコラス。ただいま。今戻ったよ」

「……あれ、ヘドクイストくん? おかえり……って、いやいやいやいや! どこ行ってたのさ! 学園長直々に長期休暇に出ていると聞かされたからそういうこともあるのかなって一回流しかけたけど越竜学園に長期休暇制度とか無いよね!? だってみんな竜退治を学びに来てるもんね!?」

「ちょっと星を眺めにね」

「そっかぁ天体観測かぁ学園長もやっていたみたいだし流行っているのかな? ……とはならないよね!? 二週間だよ二週間! 二週間ずっと星を眺めていたとでもいうのかい!?」

「本当は落とすつもりだったんだけど、邪魔が入っちゃってね」

「ああ、成程、墜とすつもりだったんなら二週間はかかっても……何言ってんの最早!?」

 

 キャッキャッ。

 

 ニコラス・アバークロンビー。

 ツッコミの腕自体はハニー老やカリアンには劣るものの、基本ノリツッコミをしてくれる優しい子である。あんまり面白くないのが玉に瑕であるが、これはボケ側も悪いので俺の反省点。

 状態異常を引き起こす特殊な作りの短剣を使って戦うゴッリゴリのインファイター。どう考えても基礎が対人戦専門っぽいんだけど、竜退治でも同じ動きができているので総合的な経験値が高いものと思われる。

 本人に自覚があるかは知らんがハーフ精霊だと思う。しかもイリアちゃんと同じ、精霊と魔族のハーフっていう珍しいやつ。若干精霊寄り。

 既に専門性あるクラス分けによって別クラスになっているのであんまり肩を並べる機会は無いけど、あのレイナといい勝負をして負ける程度の実力はある。ハーフ精霊に勝ち越すレイナは何なの。

 

「僕がいない二週間で変わったことなんかあった? 学園長の奇行以外で」

「学園長の奇行以外だと四割減になるね……あ、今の無し! 告げ口無しで!!」

「そんなのしないよ。彼も自覚あるだろうし」

「そ、そうなんだ。……んーと、あれ、二週間前の魔竜大決戦の時はいた、んだよね?」

「うん。その直後に失踪したね」

「自分で言うんだね……。……えっと、あの後からだと……冒険者が教師になって実戦戦闘を教えてくれることが増えた、かな? あと、キロスの警察の人達が魔力を使わない応急処置とかそういうのを教えにきてくれたり」

 

 へえ。……そう、結局なんでキロス警察は来たんだろうな。エレオノーラにそういう伝手があるとか? ……まぁあの子はどこにでもコネがありそうだが。

 あの戦いには周辺国の軍人も結構参加していたみたいだし、人徳というか金の力というか。素晴らしいものを感じますよ。人間賛歌ってヤツですね。ええ。

 

「あと……そう、これは数日前からなんだけど、矮翼魔竜(ワイバーン)って名付けられているちっちゃい竜が出るようになったのが結構大きいトピックかも」

矮翼魔竜(ワイバーン)?」

「爪と尾の先端に毒がある、全高1.7athlくらいしかないちっちゃい魔竜でね。大抵は魔竜の周囲に五匹から十匹くらいの集団で飛んでいるみたい。仲間って認識があるのか、魔竜同士は戦い合わないから……単純に対竜戦闘が面倒臭くなったって感じるよ」

 

 ……そういえば、この世界そういうのいなかったな。

 地球のワイバーンが小さい竜であるか否か、っていうのは諸説別れると思うけど、ここでそれらがそういう呼ばれ方をし始めたのなら倣わなくちゃならんか。

 えー……赭地(アロクトン)が今更何かするとは思えんし、じゃあ紫輝(トゥバン)の差し金か。今の魔竜は全部アイツの支配下だからさもありなんだけど。

 

「可食部はどれくらいあるの?」

「まず聞くことそれ!?」

「大事だよ。敵が増えたのなら食べられるかどうか確かめなくちゃ。被害が増える分食料も増えるなら釣り合いが取れるけど、どっちかが偏ると面倒臭い」

「きみ、そんな食い意地張った子だっけ……。……一応、今食べられないかどうか、毒の有無とか、種族ごとでどうとかの検証がされてるらしいけど……『ロストランド生態系図鑑』とかにも掲載の無い種類だから、中々進んで無いんだってさ」

 

 ほーう。

 竜肉は数少ないちゃんとした好物ですからね、はい。

 そんでもって毒があったら分解も解毒も考案できますからね──こーれは行くしか。

 

「食べてみたいって顔してるけど、学生がありつけるのは少なくとも半年後とかなんじゃないかなぁ」

「倒して、回収される前に食べたらいいんだよ」

「いやだから、毒があるかもって言ってるんだけどね!?」

「そんなの魔法でどうにかなるよ」

「ならないよ!? ならないからみんな今苦戦してるんだよ!? 治癒魔法は外傷しか治せない……って、治癒術師の君に言う事じゃないよね!?」

「それはたとえば、劫白の国の入り口で歌唱魔法を売るが如く……」

「そうそうまさに……いや意味わかんないよ!!」

 

 極楽の入り口で念仏を売る、をできるだけ翻訳してみたんだけど、無理か。

 しかし……いや、どうするこれ。もし汪の策略で、ワイバーンもあいつの作ったもので……俺が食ったら、俺でも解毒できないような毒があって、腹下したりしたら。

 

 その時はまぁ肉体を再構世でもすればいいからあんまし関係ないんだけど。

 

「真面目な話をすると、全部の魔竜が矮翼魔竜(ワイバーン)を連れてくるようになったの?」

「話戻すんだ……。あ、で、うん。そう。だから戦闘の時に矮翼魔竜(ワイバーン)だけを専門的に討伐する役目がいるってことで、大抵身軽なアタッカーが選ばれるから、僕は選ばれがちでさ……」

「君のナイフで攻撃した敵はとりわけマズそうだから、別の人に頼もうかな」

「酷い……って思ったけど、確かに。僕のナイフで斬った敵はとんでもない味がすると思うからやめた方がいいね……」

 

 特殊な調合のその毒素とナイフの内部構造は、魔竜さえ十秒は筋弛緩させるほど、だからな。戦えない人々へ配る武器に塗布する標準装備に加えようってエレオノーラやナウラー先生が騒いでいたのを覚えているよ。

 組み合わせ次第では人体程度であれば一瞬で殺せるような毒も作れるから、やっぱりこの子暗殺者とかそういう系だと思うんだけど……ま、誰が越竜学園に来ても別にいいっていうのはそれはそう。

 

「あ、それと、マイズライト理事長が探してたよ。──死ぬほど怒った顔で」

「おっと。……もう二ヶ月くらい旅行いこうかな」

「僕は何も聞いてないから行くなら行った方が良いよ……」

「いやいや、行かないけども。……でも、マイズライト理事長と話はしておくべきかもしれないな」

 

 どっかにいるだろうナタリーも捕まえて、どういう意図があったのか聞いておきたい。

 アイツ割とキーマンな気がするんだよなー。……あとはまぁ、それとなく……エステルト君の……いや、それは良いか。

 

「自ら死地へ向かうんだね、ヘドクイストくん……」

「君がマイズライト理事長のことを死地だと言った件については報告しておくよ」

「学園長にはしないのに!?」

「理事長には自覚が無いだろうからね」

「それはそれで失礼!!」

 

 何はともあれ。

 

「ただいま。今日からもよろしく」

「唐突だなぁ……。おかえり、ヘドクイストくん。でもその言葉はここ二週間ずっとイライラしてた砂塔さんに真っ先に言ってあげてほしいかな……」

「……朝の挨拶をした瞬間に首の骨が折れるほど殴られるに100ストレイル」

「じゃあ、魔馬乗りになって顔の輪郭が変形するほど殴られるに500ストレイル」

「おかしいな。殴られないで抱き留められる選択肢が見えない」

「昔から付き合いがある割に砂塔さんに夢見がちだよねヘドクイストくんって」

「今の言葉も報告しておくね」

「ああ、僕の命今日までかぁ……短かったような長かったような……」

 

 というわけで、今日からまたよろしくだ、越竜学園。

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