序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
槍の側面を撫で、軌道を逸らす。
織り交ぜられる蹴りや足払いを往なしつつ、槍を引っ張って無理矢理に投げる……まで、行かないか。
「"
「あいよー♪」
セイラとソーマとの手合わせ。
それは、開始一秒にして、ほとんど決着がついたようなものだった。
俺とリッド、ナタリー以外、全員が死亡、という形で。みんなはもうゴーストになって観戦モードだろうが、目で追えている子がどれだけいるのやら。レイナも別にスピードタイプじゃないからねー。逆に純スピードタイプなニコラス・ベルガットはさぞかし悔しいだろうな。
「すごいすごいすごいすごい! この速さについていける子がいるなんて!」
「余裕ぶってないで、早く終わらせてこっちに助力くれ! どわっ、この、ナタリー! お前容赦な、のわ!?」
「S級冒険者の二人に対して容赦とか、持ち合わせていませんよ」
ソーマの相手はナタリー。こいつら互いが互いに苦手だろうから、時間稼ぎにはもってこいだ。
そしてだからこそ、ナタリーの助力は期待できない。俺とリッドだけでセイラを倒さねばならない。
「リッド──それ以上の速度、制御できる自信はあるかい」
「やれるだけ詰めな♪ ──期待に応えてやる!」
「いいよ、じゃあ僕も秘奥の一つを解禁しよう。"
"加速"を意味する一単語の六-六刻印。
普通一つの刻印式に同じ言葉を入れても意味はない──どころか一個の単語としてカウントされて意味が違ってきちゃうけど、歌唱魔法の発音・音域操作により全てを別の刻印として認識させる暗示を入れる。
これにより発生するは、完全同一の魔力乱流。魔力嵐と言っても過言ではないほどの強化。
直後、リッドの姿が消えて……遠くで「は!?」って声が聞こえて、そっちにあった建物が倒壊する。
「──!? ──!!」
「思考速度も喋る速度も君は六倍、いやもっとかな? だから会話はあんまり意味無いよ。この言葉は暗示だからちゃんと聞こえるだろうけど。──だからとっとと制御してくれるかい。単なるヒーラーをこんな怖いおねーさんの前に立たせ続けちゃダメだよ」
「ひどいなぁ! それに、単なるヒーラーじゃないでしょ、ゼッタイ! 避けてるだけじゃなくて、私が一番疲れるように、手が痺れるようにちょっとずつちょっとずつ槍を引っ張ってるの気付いてるからね!」
「それは驚いたな。──たったそれだけしか気付いていないのかい?」
回し蹴りにて槍を蹴っ飛ばす。
手先の痺れだけじゃない。肘から先全体が痺れるように暗示と調整を重ねていたんだ。あと数秒は槍が握れないと思った方が良い。
そして、リッド。君はここの「調整」にそこまで時間をかけるやつじゃあないだろう。
最高速度の肉体にかけられた、最高のバフ。
英雄なら使いこなしてみなよ。できるだろ、それくらい。
旋風が吹く。
一瞬のあと……セイラの姿は、消えていない。
消えたのはソーマだ。
「え……」
「へえ、守ったんだ。やるじゃないですか、ソーマ」
「……ってぇし、っせぇよ……タコ……」
リッドは……弾き飛ばされて別の建物に突っ込んでいるな。
ふぅん。あの速度で突っ込んできたものを弾き返せるのか。
「風になろうよ──アゲてくよーっ!」
今日一速い突き。──それを、背負い投げる。まだ握力が戻り切ってないね。
「な──」
「リッド!」
やったか!? ばりのフラグではあるが、言わせてもらおう。
「空中なら逃げ場はない! 最高速度で頼むよ!」
直後、セイラの身体が両断され……ない。
身体を丸めて刃のコースから外れたらしい。さらに空中にてリッドの背を蹴り──そのまま、槍を大きく引き絞り、放った。空中……姿勢なんて制御できないままに。
撃滅の槍がリッドの身体を捉える。
「空中じゃ逃げ場はないって言われたのに、勇んで空中に来ちゃった君の負け。鍛え直しだねー」
……いやぁ。
空中で、あの一瞬で……槍を投擲に切り替えて放てる、っていうのがおかしいんだと思うけどね。
さて。
「あー……クソ、オレも流石に歳かぁ?」
「かもねー? この子たちに比べたら、私達お婆ちゃんだし! あ、ナーたんは除く」
「ナタリアもまだ十六歳だから、除外はしなくていいと思うよ」
「え、珍しい。庇ってくれるとか、明日は魔竜が百体降りますよこれ」
ナタリーと背中合わせのポジションに移動し、セイラとソーマを眺める。
うーん。
「勝率」
「0.5%ですかねえ」
「僕もそう思うな」
「えーっ? 今まであれだけ私の攻撃避けといて、そんなこと言うー?」
「当然だけど、君達の勝率だよ。とはいえ99.5%勝てる戦いでも100%じゃないなら、こっちも頑張らないとね」
えー、嘘です。マージで勝率0.5%だと思ってる。どっちか片方だけ且つリッドみたいなジョーカーのいない状態で、レイナみたいなとんでもない拳法を使えるわけでもないナタリーが相棒で。
魔力銃の弾速も二人の速さを捉えられないし、こいつに加速バフかけたって特に何もならんし。
ノア・ヘドクイスト自体の肉体強度は学生の域を出ない……というかなんなら低い。
集中力を、こっちを20%上げて相手を40%下げる、みたいな彼我の差40%を使ってなんとかやりくりしているけれど、それさえも埋められつつある。ノってくるとステータスが全部上がる、みたいな話は本当なんだろうな。教戒院時代は常に全力ですぐバテる、みたいなことも多かったのに、その辺上手くやるようになったってことか。
もう強さはわかったし、長引かせても意味ない──勝てないけど負けないはできるから──し、ここは。
「ちゃんと戦ってあげてくださいよ。あっちはそのつもりなくても、どこか……懐かしく思っているとおもうので」
「体格も戦い方も全然違うと思うけど」
「戦い方はそうですけど、体格は同じくらいでしょう。あっちは座っていたわけですし」
こそこそと作戦会議をして。
……じゃあまぁ、ちゃんとやって、ちゃんと負けるか。……それに、別に『院長』は死んだわけじゃないし、俺のルーツはギム・ノードワットになっているんだから……いくらでもやりようがある。
「作戦会議は終わった?」
「うん。待ってくれてありがとう。──ここからは、僕本来の戦い方でやってみようと思ってさ」
「本来の戦い方? ……歌唱魔法ってことか?」
「ううん、歌唱魔法はあくまでサポート用だし、竜災相手には出しても意味のないものだからやっていなかったけれど」
左手を前に柔らかく出し、右足を引いて……通常通り、何の変哲もない構え。
足腰に力は入っていない。本来座ってやるやつだしね。
「……?」
「……もしかして、格闘? ノアくん……オレたちに格闘を挑むんスか」
「挑むというか」
──その声が聞こえたのは、ソーマの耳元からだった、はずだ。
「君達がチャレンジャーだと、さっき言ったはずだけど」
「ッ──!?」
槍に対し、てこの原理を使って後ろ投げをする。叩きつけではなく空中へ放り出す。
「なん──だ!?」
「決めておかなくちゃダメだよ。聴覚と視覚、どちらを最も信用するのか」
「ソーマ、レジストして。これ幻覚だ。距離感がおかしくなってるし、足音と体感速度を感じる感覚も幻術でおかしくなってる」
「いやいや、ここ幻術空間内だろ!? 他人の幻術の中で機能する幻術ってなんだよ!」
「実際そうなんだから仕方ないでしょ! そんなことより!」
空中にいるソーマ。その襟首をグッと掴むのはナタリーだ。そこの決着まだついてないだろうし、無理矢理分断したんだから上手くやってくれよ?
腰を軸に回された槍をマトリックス避けで避ける。
そのままバク転に移行して通り過ぎていく槍を少し上空へ蹴り飛ばし、追撃へ移行……するのをキャンセル。
セイラの眼球が完全に俺を捉えていることを確認し、左手をわざとらしく持ち上げる。
「──セイラ、蹴りだ! ぼーっとしてんな!」
「え、あ」
はぁ? 直前まで間に合ってなかったのに間に合わせてきた? ……足の速さだけじゃなく、これ握力や腕力もとんでもないな。
それに……ナタリーと戦いながら、よく見ている。トムさん直伝──勝手に盗んだだけ──のミスディレクションだったんだけどな。
顔、というか首を狙った一刺し。それは掌で往なし、前に踏み込んで槍を肩に担ぐ。
引き戻しよりもはやくセイラに辿り着き、手首に対して心臓マッサージのような形の変則掌底。
骨は……折れていないし、外れてもいないか。けど、多少は痺れているはず。重ねに重ねてきたからな。
「今の横薙ぎの掌底……それに、あの構えの感じ」
「元気がないね。お腹でも痛いのかい?」
「ううん。──友達への、良いお土産話が見つかったかも、って」
「こんな勝負眼中にない、っていうんだね」
「だから違うって! ──私だって、最初は対人戦特化だったんだから!」
知っている。
セイラ・ミルクトウォッチ。元気溌剌なその言動に対し、生い立ちの面ではそれなりに暗い。
幼い頃に母親を亡くし、父親と共に世界を旅する。その際にソーマと出会うも、入れ替わるようにして父親も死亡。とある国が滅亡した際、盗賊団へと崩れた騎士たち。それと対峙して敗北し、あわや幼いセイラも──というところを、その放心状態にあったセイラをソーマが連れて逃げ、セプウルクルム洋へ。その後、遭難。そういう流れだった。
父親に習っていた対人格闘術は、けれど教戒院に来た当初は使いたがらず、暗い気持ちを押し隠すように騒いで騒いで騒ぎまくっていたっけな。
ソーマがセイラと一緒にいるのは……勿論恋心、というか愛情もあるんだろうが、その1/4くらいは親心だと思っている。父親の代わりに自分がこの子を守らなければならないという決意。もう二度と彼女にあの想いをさせたくないという覚悟。
献身的なソーマの精神治療により、次第に過去を飲み込み、咀嚼し……父親から受け継いだ格闘術を昇華させて、彼女は今の槍術に辿り着いた。ソーマの使っていた槍術に感化された部分もあろうが。
俺とセイラの体格はほぼ同じ。セイラの方が少し高いくらいか。
つかみ合い、取っ組み合いになれば、膂力で勝るセイラに分がある。それを理解している上で、大きく踏み込む。
「うっ!?」
「震脚──なんて、もう原理はわかっているね?」
耳石器に直接働きかける暗示。皮膚の覚える震動に関する暗示。
それらを組み合わせて起こす、正面にいる者だけが感じる震脚。
それをやっておきながら、打撃を入れるのはさっきの手首。踏み込み自体がブラフ。
確実に外した。手首の脱臼は中々直らんぞ。
「いったぁ……。……やっぱり、その円運動を多用する武術、『院長』のだよね……!」
「誰の事かな、それ」
「会ったことないだけで、実は君も教戒院出身だったりする?」
「ああ、エチェロエグズル教戒院か。名前は知っているけれど、どこにあるのか知らないや」
「それは私もだけ、ど!」
膝蹴り。退避する場所は無い。後ろで手首の外れた腕が鎌のように待ち構えているから。
だからその衝撃が最大に達する前にヘッドバットをかまし、作用点をずらす。ぱっくりと割れる額。頭を大きく振る。
「あれ、もしかして頭揺れちゃった? ダメだよ、膝は固いんだから~」
「違ェ! 刻印だ、セイラ!」
チ……それがなんであるかを確認せずに退避したか。
直後、セイラのいた位置が思いっきりへこむが、意味はない。
「ちょっとナタリア。ソーマさんの気を引きつけてくれないと、僕が伸び伸び戦えないんだけど。……あれ、ナタリア?」
返事がない。まさか、と思って空を見上げれば……どしゃ、と落ちてきて沈黙するナタリーの身体。
マディ?
「はぁ、ったく、手こずらせやがって……。けど、ようやく一勝だ。次は全力を出しやがれ、馬鹿野郎」
「すごい、ソーマ……ナーたんに勝ったんだ」
「なんでか知らんが得意技を一切使ってこなかったからな、そんなナタリーはオレでも倒せるっつの」
ふむ。……これは。
「二人とも」
「なにかな、ノアくん」
「まさか降参とか言わねえよな。……オレたちだって、そこそこフラストレーション溜まってんだぜ?」
「降参とは言わないけど、ほら、僕側も有効打っぽい有効打がなくて、君達程度の速度だと僕に攻撃を通すのは一億年かかっても無理だからさ」
「……言ってくれるじゃねえか」
「最大の一撃。それを相手に入れた方の勝ちで、どう?」
よくある奴だ。ちなみに俺にそんな大技は──あることにしよう。今思い浮かんだ。
「まぁ……あんまオレたちだけに時間を使わせるのも悪ィか。んじゃそれで」
「ソーマ、私利き手壊されちゃってるから、アレやろ」
「わかった。久しぶりだが、ちゃんと合わせられるな?」
「うん!」
言って、ソーマが後ろに下がり、セイラが前に出る。
ああ……発射台か。
なら俺も、秘奥を今作ったものに重ねよう。
「いくぜ──だぁぁぁりゃあ!」
ギリ、と弓なりに引かれたソーマの身体から、超速の槍が発射される。
対し、完全にタイミングを合わせ。
「くらええええ!!」
セイラが槍の柄を蹴って加速させる。
この世界に神速という表現は無いが、まさに神の領域に手を掛けんとするその槍の一撃に。
同じ単語の別の組み合わせ。六-六刻印の四重詠唱をぶつけ──。
──バツン、と。
視界が真っ暗になった。
……ん?
目を開ければ……魔力切れで失神してしまっているクレーア先生の姿が。
あっ。……長引かせすぎたね。ごめんなさい。
***
クレーア先生の休息やらセイラとソーマからのフィードバックやら、諸々が過ぎ去ったその日の放課後。
問うた。
「え、【マギスケイオス】について? ……いやあのね、ノアくん。私達ってほら、一応殺し合った仲といいますか……」
「恨むと言ったはずですのよ。……生徒と理事長の関係である内は我慢もしますが、そうでなくなれば……殺しに行ってもおかしくないと」
「いくらでも来てよ叩き潰すから。っていう冗談はおいといてさ。【マギスケイオス】って今も活動してるの? フルメンバーいるの? ……あ、ですか?」
「うわあ話進めるんだ……。……今更敬語とか要らないけどさ」
身近に答えを知る奴がいて、考えても考えても調査しても答えの出なそうなもの……自然現象とかならまだしも、誰かの作った組織について、なんざ調査のしようがないからな。
聞いた方が早い。
「今は……『到達』がそろそろ高齢で、世代交代の時期かな。『観察者』ももう終活してるって聞いたし」
「『業運』もザミザイフェスがあんなことになっては、生き甲斐が無いとか言っていましたわね。『解体』も高齢ですし、そう考えるとフルメンバーというほどフルメンバーはいませんわよ」
「なんだっけ、まずその席の【マギスケイオス】の推薦が無いと集会所みたいなところには行けなくて、さらに過半数の認可が無いとメンバー入りは認められないんだっけ」
「詳しいですわね……。そうですけど、……もしかして【マギスケイオス】に入りたいんですの?」
「そっちはあんまし興味無いけど、誰が作った組織なのかが知りたくてさ」
問えば、二人は顔を合わせて。
「フラニー・ハニー・オーケストラ。『不死』の魔導士ですわ」
「最初の【マギスケイオス】が誰だったか、っていうのはね、わからないんだよ」
「え。……ダヴィド、あなた、どういうことですの?」
「へ? ……あ、あー。あ、フラニーおじーちゃんだよ」
無理があるだろうそれは。
この認識の差はつまり。
「【真のマギスケイオス】、だっけ。ダヴィド先生が言っていたの。それじゃないと知らない話、ってこと?」
「え、あ~。そのぉ~。ふんふんふふーん♪」
「……この際ですから、私も聞いておくべきですわね。『
「万能性とかだったりする? それだとマイズライト理事長が入っていない理由がわからないけど」
口笛を吹き、視線を明後日の方にやり。
よーし。
「マイズライト理事長。暗示の許可が欲しいな」
「こういう場合、許可するべきではありませんが……あなた以外口を割らなそうですし、いいでしょう。許可しますわ」
「ちょー!? 生徒にそういうことさせないの! 倫理観倫理観!」
「彼曰く、私もあなたも倫理観は破綻しているようですし、いいじゃありませんの」
おお、そういう風に使ってくるか。
そういうチョケは好きだよ、俺。
「ダヴィド先生、今僕が鳴らした指の音、聞こえた?」
「へ? 聞こえなかっ」
指を鳴らす。耳に集中したところに聞く甲高い音。
それは非日常を演出し、それでいながらエレンが隣にいることで安心感も与える。「見知らぬ場所で知り合いがいた」という事実は安堵の感情と共に口を滑りやすくさせ──。
「『
「
「へあ? ちょ、何して──『健……魔法陣が思い出せない!?」
「記憶や感情を奪えるのですから、こういうことだってできますわ~」
おいおい、マジで凶悪だな『収蔵』。
なんでこれで【真のマギスケイオス】じゃないんだよホント。
しかし──これで、通ったな。
「うわ……これ、ホント強烈……。……わかったよ、話すから……えーと。……【マギスケイオス】っていうのはね、彼方から飛来した混沌を過去と未来の両方から抑えつける役割を持っているの。本来は、だけど」
「彼方から飛来した混沌?」
「抑えつける……」
「簡単に言えば魔力のこと。でも紫輝、赭地、涅月の魔力、みたいになっている今の魔力じゃなくて、もっと純粋な魔力だね。エレオノーラは見たことあるでしょ。ローレンス先生が使ってた魔力がそう」
ああ……俺が除染した魔力のことか。あれは別に宇宙から来たものじゃないけど……除染した結果同じものになった感じかな。
「大昔……まだこの星の空が
だから……要するに宇宙線のことなのか? そいつが元から魔力だった。純粋な魔力。混沌。
それが……
「時の円環、って概念は、もうわかってるよね」
「……ええ、気に入りませんが」
「よく僕がわかっていると思ったね」
「え、だってノアくんって教戒院生でしょ?」
「違うけど」
「……セイラちゃんとソーマくんと仲良くて、ナターリアさんと付き合ってるから、てっきり。……でも、理解はしてるってことでいい?」
「うん、いいよ」
ナターリア。……あいつが災厄前に名乗っていた名前だ。つまりアルカはその辺も覚えているんだな。そしてあいつが十八歳じゃないことも恐らく知っている、と。
危険だけど、怒られるとしたらアイツだからいいや。
「時の円環。この世界はずーっと昔から同じ時間をすごしている。だというのに混沌は今も尚宇宙の向こう側から飛来し続けている。閉じ切っている時の円環に対し、無限に混沌が飛来し続けると……どうなると思う?」
「破裂する……ですの?」
「そう。今はまだまだ魔力に適応した人達が少ないからなんとかなるけど……もしこのまま、全生物が魔力依存生物になるほど混沌が溜まり切って、飽和状態になったら……」
「何か、とんでもないことが起こる、と」
……俺を追い出すために紫輝が採ろうとしている策。
人族すべてを魔族に代替してしまえば、というのは……あるいは本能的な話も含んでいるのか?
「で、それをさせないために生まれたのが【マギスケイオス】。この名前の意味は、"混沌を乗り越えるもの"。魔導の深奥を追求する、みたいなのは入ってないの。【マギスケイオス】はその半分が過去に残り、もう半分が未来へ行って、時の円環の、互いに最も離れた場所から混沌を消費し、抑える」
「……消費」
「そう。極めて純粋な魔力を大量に消費し、且つ魔力以外の形に変換できること。それが【真のマギスケイオス】の条件」
それは。……なるほど。特におかしな点はない。
「メンバーが十二人なのは、どうして? 端数じゃないか」
「でもノアくんだって同じ数が良く登場する魔法を使っているでしょ」
同じ数?
……ああ、そうか。そういえば……刻印魔法も六文字-六単語が最も美しい形か。
いやでもそれは、言ってしまえば十二ではなく六だし、もっというなら三十六だし。
「直感に反するのはわかるけど、魔法……混沌に対する数で最も安定するのは六とそれに連なる数なんだよね。だから過去の【マギスケイオス】が六人、未来の【マギスケイオス】が六人いれば、安定して混沌を消費できるし、抑えつけることもできる、ってわけ」
「しかし……発足当時の【マギスケイオス】はともかく、後世の私達は、その消費と変換のできない魔法使いだった、と」
「うん。それでも何かの役に立つかもしれないから、数合わせで十二人まで補充する。おじーちゃんも先代の『不死』からそうやって継承したんだって。その上で嘘を……真央を追求する集団だってことを信じ込ませてる」
「それはどうしてなのですか? 真実を言っておけば、いつか消費と変換へ研究テーマを進める者も出てくるでしょうに」
「劫白の国へ知識を持ち帰られると困るから、だったはず。だから、その可能性がある人には話しちゃいけなくて……だから……あれ、だから私、これ……」
──
咄嗟に張った防御結界を意にも介さずすり抜けたのは──。
「え……『教授』!?」
「何者ですの? ……それと、その子に何をしましたの」
「ふん、少し時を止めてやっただけだ。迂闊なことこの上ない……」
現れたのは──俺。ワンデラーやモーガンではなく、災厄地での俺──ソルスノメントゥムと呼ばれていた肉体。
瞬時にその中身まで見抜けたので、本当に時が止められたかのように肉体を赭地と相対位置固定する。
「安心しろ、アルカ。この小僧の記憶処理はやっておいてやる。ただ、エレオノーラには話しておいてやれ。『
「私を……エレオノーラと呼ぶのは。それに、アルカ、あなたが教授と呼ぶということは」
「うん。この人が、最新の迷い家。教授やローレンス先生……あと、ツェルニさんを発生させた人。……人? なのかは、知らないけど」
「俺が自らを人だと定義する限りは人だよ」
……微妙に俺のエミュレートが甘いけれど。
まぁ、ファインプレーということにしてやろう。
「そうでしたのね。……お久しぶりですわ。しかし……今になって出てきたのは、アルカや私が……あなたのいうところの及第点を超えた、ということですの?」
「まさか。くだらん暗示に引っかかって自己崩壊を起こしそうになっている馬鹿に赤点を突きつけにきただけだ。しかもお前、このガキに負けたそうじゃないか」
「……いやー、なんていうか、外界にも強い人や強い子がいっぱいいるといいますか……。あ、相性が悪かったというか……」
「歌唱魔法だったか。とはいえ刻印魔法の分野だろう。むしろお前の独擅場だろうに」
「カエスコトバモゴザイマセン……」
ピク、と指を動かす。
「おっと。……時間停止はそういう魔法じゃないんだが、抵抗しようとしているな。成程、俺の想像よりとんでもないガキらしい」
「それは……そうですわね。……彼が完全に起きてしまう前に、アルカ。話を最後までお聞かせくださいな」
催促が伝わったようで何よりだけど、あんまりガキガキ言うなや。俺そんな口悪くねーぞ。
「……エレオノーラ。今から言う事は、……もしあなたが【真のマギスケイオス】になれなかった時」
「ええ、『教授』に記憶改竄の魔法か、記憶消去の魔法、習っておいてくださいまし。そして……私がそうなれずに散りゆく時、私に施術してくださいな」
「うん。わかった。……じゃあ、話すね。さっきも言った通り、この情報は劫白の国に持ち帰られると困るの。劫白の国はわかるよね」
「すべての霊魂が席を選ぶために戻る場所、ですわね」
「そう。そして……劫白の国には、混沌の椅子、というのも用意されている、っておじーちゃんは言ってた。だからもし、混沌を抑えつけるための話があそこに来ちゃうと、混沌は【マギスケイオス】対策みたいなことを始めてしまうかもしれない。そうなったが最後、いつか食い破られて、この世界は破裂してしまう」
「だから……それをさせないために、あくまで偶発的に【真のマギスケイオス】が発生するように待たなくてはならない、ですか」
「そういうこと」
成程なぁ。……あー、で。だから。
「過去にはすでに、六人が残っている。あとは未来。円環における反対側に六人の【真のマギスケイオス】が揃えば、儀式は完成する、というわけだ」
「そういうこと。……今、私、銀、おじーちゃんの三人しかいないから、あと三人欲しい。エレンがそのもう一人になってくれたら嬉しい……けど、友達としては、なってほしくない」
「……あなたの言う、怪物に……ならなくてはならなくなるから?」
「そう。……ノアくんに色々言われたけど……やっぱり私は」
思いっきり左手をグーにする。
「マズい、起きるぞ。……時間流から直接固定しているというのに、どういう抵抗をしていたらレジストできるんだ、まったく」
「あ、あはは……この子、ホントにとんでもないから……」
「というか腕の先だけ動けてしまうと、血流とか大丈夫ですの?」
「何も大丈夫ではないからすぐに解く。……次会う時は及第点を取れるようにしろ、アルカ。俺の気はそこまで長くないぞ」
「……うん。……『教授』も……お元気で」
「水を差すようですけれどあなたは【真のマギスケイオス】にはなれませ……消えましたわね」
ソイツが消えた瞬間、とんでもない威力っぽく見える魔力の谷を用いた刃をぶっ放す。
「わ!?」
「先生たち逃げて、コイツは僕の手にも負えない!」
わざとらしく二人の前に立って、「……あれ?」と首をかしげる。
「……今、何か……あれ、僕……なんで先生たちといるんだっけ」
「うわー『教授』、どこまで消したんだろう……」
「……はぁ。……ノア・ヘドクイスト。今更騎士道精神を見せたって、私が恨むかもしれないことに変わりはなくってよ」
「え、うん。いくらでも来てよ叩き潰すから。……とはいえ、何の話だっけ? ああいや、マイズライト理事長の話を忘れたわけじゃなくて」
「なんでもないよー。ただ、ノアくんの実力的に実はヒーラーじゃなくて後衛火力でいけるんじゃないか、って話をしたかっただけ」
「ええ、そう……あなたのあの時の、黄金の大樹を生やす魔法は、歌唱魔法だけのことではないでしょう?」
「……あの大事な場面でこっちに気を割く余裕あったんだ」
「あんな派手な魔法使っておいてよく言いますわ」
話題逸らしは……及第点か、まぁ。
「真面目に答えると、あれはダヴィド先生が相手だったから、ダヴィド先生の刻印演算領域を間借りして作り上げた魔法なんだよね。あ、なんですよね」
「口調はもうどうでもいいですわ。……相手が竜だと使えないと?」
「その竜が刻印魔法を使ってくるなら話は別だけど、概ねそう」
「……良いでしょう。そういうことにしておきますわ。……さ、解散しましょうか」
「あ、うん。……えっと、はい?」
「っていうかエレオノーラ、私の魔法返してー!」
「ああ……忘れていましたわ」
……さて。
一応ファインプレーをしてくれたアイツに、エレオノーラは特別という言葉の意味を聞きにいこう。
自ずと判明しなかったからな。