序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
晴れ亘る碧空。真白の恒星。
あまりに懐かしく、今生ではもう見ることがないものだと思っていた光景がそこにはあった。
どこから流れてきているのか、そしてどこへ流れていっているのかわからない小川と、それに押されてカラカラ回る水車。
「……空模様が
「あの頃は水車が基本的な動力でしたから。魔鉱石なんて存在しなかったので」
「ああ……成程ね」
魔鉱石が無く、磁力があった世界なら。
……順当に電力系統の技術も発展していっていたのだろう。
「助かったよ。多分だけどアレ、ハニー老とアルカ自身で、ダブルに暗示かけてたね。それが僕のとバッティングして……パニックに陥りかけていた」
「どうでしたか、私のあなた像。ソルスノメントゥムさんに出会ったことがないので、又聞きのイメージで作成しましたけど」
「とりあえずあそこまでガキガキ言わないかな……。まぁ、アルカが騙せるなら充分なんじゃない?」
点数をつけるなら、70点かね。少なくとも容姿や魔力は完全に俺だった。多分……こいつも、腎臓を作り替えて魔力の質を変える、というのをやっている。
お世話様である。本当に。
「それで、聞きたいのは……エレンさんの話ですよね。どうして彼女が特別なのか」
「うん。『財宝』の席が、というわけじゃないんだろう?」
「はい。『収蔵』の魔法が、という話です。……『
「亜空間、じゃないのかい。異空間ほどじゃないにせよ、手元で作ることができる簡易位相空間。僕も武器とかそこにしまっているけれど」
最近はやらないけど、昔はよく虚空から武器を出していた。あれのことだ。
エステルト君もやっていたかな。……そういえば彼の死後、すべての武器はどこへ消えたのだろうか。
「いいえ、『収蔵』は虚空を使いません。アレは『収蔵』したものを魔力情報に変換し、蓄えておく、という技術。つまり、【マギスケイオス】が欲している事象変換式そのもの……言わば途中式を途中式のままに使っている、稀有な魔法なんです」
「……魔力素で出来たものを魔力情報に変換するならともかく……老いや記憶といった、魔力に関係ないものまで……魔力情報に変換できる、と」
「はい。そしてそれができるということは、逆もできます。魔力は全事象において可逆であるもの。つまり彼女の魔法を上手く扱えば、魔力を『収蔵』して別のものに置換する、が可能になる」
なる、ほど。
それは……紛う方なき「特別」だな。
あるいは……彼女の魔法を意識的に分解・研究して、それを十二人が覚えたら、【マギスケイオス】の目的は果たされるということか。
「ただし、いつか死ぬ可能性のある存在では足り得ませんけどね」
「それについてだけどさ、『不死』も『蓋然』も、そして『最小限』も……ユランには敗北したわけじゃん。あれはどうなの?」
「ユランに敗北した霊魂は劫白の国へ行かないんですよ。だから紫輝の天使も"災厄が無かったことにする"なんて横暴ができたんです」
「それだと、結構な数が行かないことになるんじゃない? それで今まで回ってきたのがよくわからないけど」
「あなたは災厄後の時代にも行ったことがあるのでは?」
「あるよ」
「そこでは、人口が少ないというのにやたらゴーストが出る、という状況になっていませんでしたか」
……確かに。
古代ガルズ王国では……遺跡に出るゴーストがずっと問題になっていた。
けど、それは盗掘者のゴーストだとばかり。
ああ……でも、そうか。ゲームじゃないんだ、巣を持つ魔物ならともかく、ゴーストが固定リポップする、っていうのは……おかしな話か。
「そこで祓われてしまうと流石に劫白の国行きです。そうではないものだけが復活しました」
「……結局、あの"未来"は無かったことになったわけだけど……究極、あの後も時間は続いていたはずだ。それを考えると、そうではないもの、なんて残らないんじゃないかって思うけどね」
「続いたのはネムリ・ガルズが冒険者ギルドを開くまで、ですよ。そこから先はありません」
「それは……なぜ?」
「円環に刻まれているのがそこまでだからです。今から二千年前の古代ガルズ王国で、同じくネムリ・ガルズが冒険者ギルドを開きました。しかし、古代ガルズ王国に関する記録はそこまでで、以後数百年経ってから他の記録が開始します。当然ネムリ・ガルズや古代ガルズ王国の国民たちは何かしらをしたはずですが、記録に残されていないことは無いに同じ。無いものは無かったことになっても変わりません」
……直感に反するな。
けど、理解もできる。どれほどレコードの上で砂粒たちが踊ったって、溝になっていなければ音楽は再生されないから。
「話を戻しますと、いつか死ぬ可能性のある存在……いつか劫白の国へ行ってしまう存在では【真のマギスケイオス】足り得ません。ユランに敗北した三人の霊魂は、肉体が損なわれた瞬間にある存在に回収される契約になっていました」
「……精霊の方のハニー老、かな」
「正解です。『時渡』……精霊王ハニー=ロウ。災厄竜ユランをやりすごす方法の一つとして、自然と一体化する、というものが存在します。私も実践していたものです。ユランは文明・文化的であるものを狙って破壊しにくるため、原始的に近いものには興味を示さないんです」
「オールトヴァルト村も同じことか。あそこは結界の方が邪魔になってそうだけど」
「あの小さな範囲から出てこないのなら興味は無いのでしょうね。……こうして三つの霊魂を回収した精霊王は、然るべき時に三人を復活させます。霊魂が死していない限りは死者蘇生とはいえないため、"移し替え"の儀式は精霊王でも行える、というわけです」
ふむ。……つまり。
「それがあの三人の不死性のからくり、なのかな」
「その通りです。即ち、霊魂と肉体の切り離し──。肉体と共に加齢し、肉体の死と同時に切り離され、劫白の国へ向かうはずの霊魂。それに対し、三人はそれぞれのアプローチを行いました。『
「……察するに、違わなくてはいけないんだね。魔法として体系化されないために」
「その通りです。過去に残った六人の【マギスケイオス】もまた、三者三様の"不死"を実現し、定められた時間……円環という円周上の点に留まり、今もその時を待っています。となれば、あと三人……あと三つの"不死"を実現しなければなりません」
「じゃあ、エレオノーラ……エレンが【真のマギスケイオス】足り得ないのは、彼女の魔法じゃ永遠が実現できない、というのもあるけど、それ以上に"加齢しないことによる不死"はもうアルカが座ってしまった席だからダメ、ってことか」
「そうなりますね」
成程。……これは……厳しいな。
「……今、この空間を魔力からも切り離した。僕元来の力だけで結界を保っているから……そう長くは続かないけれど。現状埋まっている不死の席六つについてを教えてほしい」
「また無茶をしますね。……過去に残ったのは、『天眼』、『業運』、『到達』、『解体』、『義賊』、『自明』の六人」
曰く、過去の六人は。
一人目、『天眼』は"因果の逆転"により不死を実現した。死という結果が先に存在しなければ、死因を特定することはできない、ということにした。
二人目、『業運』は"確率構造の改竄"により不死を実現した。己が死ぬ全ての確率をゼロにした。
三人目、『到達』は"自身の範囲を世界と同等にすること"で不死を実現した。自己同一性の境界を拡張し、石、花、風……すべてが自身であるものとし、全宇宙が滅びない限りは自身も死なない、ということにした。
四人目、『解体』は"自らを既に死していることにして"不死を実現した。既に死しているものはこれ以上死ぬ必要が無い、ということで不死とした。
五人目、『義賊』は"自身の存在基盤を他者の認識に委ねること"で不死を実現した。早い話、誰かが自分を覚えていれば死なない、というのを哲学ではなく実現させた。
六人目、『自明』は"死した自分を自分と定義しないこと"で不死を実現した。自身は不死であるのだから、死した自身は自身ではないと切り捨てることで不死とした。
そして……未来においては。
一人目、『不死』は"依存の逆転"により不死を実現した。肉体が死さば霊魂も死ぬ、という依存関係を逆転することで、霊魂が死なない限り肉体も死なない、を実現した。
二人目、『蓋然』は"死の重複解除"により不死を実現した。肉体の死と存在の死が同等になる可能性を排除した。
三人目、『最小限』は"加齢概念の切除"により不死を実現した。加齢しないということは不死である、ということにした。
「……どうですか? 残り三つ……あなたなら何か思いつきますか?」
「別に……案だけならいくらでも思い付くよ。それを可能にする魔法も……作れないことはない」
「流石ですね。……しかし、何かひっかかること……難しいことがある、という顔ですが」
「……残っているのは、『全開』、『財宝』、『別界』、だよね」
「はい。必ずしもその名である必要はありませんが」
「『別界』は知らないから何とも言えないけど……今僕が思いついている方法の不死と、彼女らの魔法が……噛み合わないんだ。不死性を獲得させるために、ということをするのなら、次世代を待つ必要があるし、今の三人には退いてもらわないといけなくなるかもしれない」
「それは……」
究極、あと三つの不死の形を実現させて、そいつらに『収蔵』の魔法を習得させれば、この話は終わりだ。
十二人を礎にする、という考え自体俺はあんまり好きじゃないけど、そいつらの覚悟を踏みにじってまで「それは違うよ」と言いに行く話でもない。俺の倫理とも相反しない。
アルカがそうなることに……まぁ、多少思うことはあるけど、それについてはあいつの人生だしな。
「けど……君のその入れ込み具合から察するに、今回の【マギスケイオス】には期待をしているんじゃないのかい」
「その通りですが、期待しているのはあなた込みの話です」
「僕?」
「はい。『業運』、『薄明』、『別界』以外の全員と関りをあなたが有している。……あなたに自覚は無いと思いますけど、あなたは周囲の存在を開花させ、昇華させる。より良いものになるかどうかはその人次第ですが、あなたと関われば、必ず別の道を行き始める。生き始める。……あなたという存在自体がマヨヒガであり、教戒院なのだと、つくづく実感します」
「……まぁ、勝手になる分には止やしないけどさ」
「そしてそれは、【マギスケイオス】と交わることで、最大限の効果を発揮します。……本来、アルカ・ダヴィドウィッチさん……『
成程。……うーん、俺が責任を負えないのがツラいな。必ず開花させてやるぜ! と言えないというか。
「別に意識はしなくていいですよ。あなたはそのままにしているのが一番なので」
「……ちょっと話戻るけど、僕『観察者』とも接点無いよ」
「それはあなたが『観察者』を知らないだけですよ」
「いや、ザイカ・オンドウって人なんでしょ。先代の『先見』とは関わりあるけど……」
「……割と思い込み激しいですよね、あなた」
そう言うってことは、知り合いってことか? 知り合いで……正体を突き詰めなかった、というか全く知らない存在ってなると、やっぱり『博士の博士』関係者かなぁ。
誰だろ。……まさか『王様』とか。あるいは『庭師』? 確かに『観察者』っぽくはあるな。『
「その辺は自分で解決してください。……さて、過去の【マギスケイオス】に関してはこんなところです。結界、もういいですよ」
「あ、うん」
解除する。──途端、どばぁ! と流れ込んでくる魔力。
深海かよ、ってくらい圧すごいんだよな……。
「そういえば。……少し込みいった問いになるのですが」
「ん?」
「あなたって生殖能力無い……ですよね?」
……おまえそれ、わざとじゃねーだろうな。
「無いよ。それがどうかしたの?」
「いえ。……魔力や霊質の特徴があなたに似通っているあなたではない存在、というのを見かけたことがあって……先祖はあり得ないので、子孫かな、と」
「……まさか、クローン?」
汪・溢桔。奴の技術なら……あり得るのか。
つか……リュミたちの椅子を奪っているのって、まさかそういう類の?
「心当たりがあるようですね」
「そこまでしっかりしたものじゃないけどね……。……わかった、留意しておくよ」
まったく……余計なことをしてくれるよね。
キロス自治領。
未だエリスフィアの属国の立場から抜け出せていないそこ。
の、警察機構を訪問する。
「すみませーん」
「はーい。……あら、学生さん? どこの子?」
「越竜学園から来ました。先日の出動依頼のお礼を持ってきていて」
「あらあらまぁまぁ。ちょっと待っていてね、署長を呼んでくるから」
どうしてあの時キロス警察が来たのか、というのがどうしても気になったので、来てみた。
嫌な予感はしていないけど、不穏……違うな、不透明な感じがしたんだ。
──果たして。
「わ、お、っと、とと……。やぁ、遠いところはるばる来てくれたんだね。歓迎するよ、越竜の学生さん」
「……」
「……ん、どうかした? 僕の顔に何かついているかい?」
同じ顔。同じ声。同じ仕草。
強いフラッシュバック。
「……いえ。初めまして、ノア・ヘドクイストです」
「うん、初めまして。──僕はキロス自治領警察機構署長の、トゥーン・ペルトだよ。よろしく!」
同じ人間。……まさかもう、こんなにも……なのか?
というか、たかだか三百年前くらいの記録だろう。名簿とか……無いのか。
「署長、気さくすぎて逆に困らせていますよ」
「え。それは困ったな」
キロス警察が来た理由。
それは……まさか、何か工作をするため、だったりしないか?
もしこの組織が全て汪の掌中にあるのなら。
「ヘドクイストくん。立ち話もなんだから、奥の応接室にどうぞ。そこで、ゆっくり話し合おう」
「……ゆっくり、ですか」
「そうだよ。──たとえば、昔話、とかね」
……こいつ。
「署長? 何の話ですか? もしかしてお知り合い?」
「少し前、散歩している時に会ったことがあるんだよ」
「へえ。……じゃ、越竜学園からのお礼やお手紙はこちらでいただいて、積もる話を二人でしていてください。しばらく仕事回さないよう言っておくんで」
「さっすが仕事ができるね!」
「よしてください。あなたにそれを言われちゃ立つ瀬がない」
さて。
……鬼が出るか蛇が出るか、だな。
そうして、応接室に入った瞬間──高度な結界が張られる。
胡乱な目を彼に向け──問う。
「単刀直入に聞こう。……君、トゥーン・ペルトのクローン──だよね?」
「参ったな。……どういう嗅覚してるんですか? リセット機構がどうにかなるまで出てこないって言った手前、こっちの僕だって現れるわけにはいかなかったん……ん? 今なんて言いました?」
「え? だから、トゥーン・ペルトのクローン、じゃないの? 君」
「はい? あ……もしかして僕……もとい、私、早とちりしましたか、これ」
判断するに、その正体は。
「……トラッド?」
「あ、はい。本体じゃないですけどね。……お久しぶりです、『院長』」
色々知っていそうな意味深賢者こと、トラッド・ユニト。
それが、……どうしてかキロス警察署長の恰好で、「いやー、たはは」なんて言って。教戒院に居た頃と変わらない、にへら、という笑みを浮かべて。
これは……何か、互いに互いの思惑が外れた音がした感じあるね?
EDですが、時代変更なく続きます