序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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113.最果ての歌

 トラッド・ユニト。

 教戒院に流れ着いたハーフ魔族の少年。好きなものは絵本。得意な魔法は結界。

 趣味はダーツ。得意スポーツは球技全般。苦手科目は格闘技全般。

 過去は語りたがらなかったのでヒアリング無し。ハーフ魔族だが魔族としての身体的特徴は教戒院時点では無し。

 

 こんなところがトラッドのプロフィールになる。

 

「それで……どうして君がトゥーン・ペルトのふりをしていたのか、聞かせてもらえるかな」

「ふりをしていた、というか……トゥーン・ペルトはそもそも僕ですよ。紫輝歴531年にレイン・ヤーガーと出会い、ケルスティ・ハルナック主任のもとで沢山の事件を解決した存在。勿論トゥーン・ペルトはトラッド・ユニトのことなんか知りませんでしたけどね。僕のコンストラクトは『院長』のものみたいに自律してくれないので、記憶を消さなくちゃ別人になれないんです」

 

 ……。成程。

 tlad・unytと。

 tlep・nuatで、taun・peltか。俺のアウィスと同じってわけね。

 

「どうしてそんなことを?」

「初めに言っておくと、『院長』を騙すためとかではありませんよ。僕もやるべきことのために日々邁進しているので」

「だから、そのやるべきことを聞いているんだよ。本体のトラッドが……"時の円環のリセット機構が改良されるまで"出てこない、なんて言ったのも、君がコンストラクトとして、そしてトゥーン・ペルトとしてこんなところにいるのも、何か君なりの理由があるんだろう。君は『及ばずながらに正しくあるモノ』であると僕は認識している。アスミカタの竜の楔なんかはその代表例だろう」

「ああ……いやまさか、『院長』に抜かれることになるとは思いませんでしたよ。……僕の目的、ですか。まぁ、とても簡単に言うと」

 

 トラッドは……たはは、なんて恥ずかしそうに笑って後頭部に手を当てて。

 

「世界を救う事、ですかね。定道さんのやり方やヘンリー・エカスベアくんのやり方とはまた別口で、別のアプローチで、世界を救うつもりでいます」

「定道はともかく、ヘンリーとは協力できないの?」

「うーん。できないというか……正直に言うと、無意味だと思っています。定道という人の出生調整というやり方も、ヘンリーくんの不要を出さないようにする、というやり方も。根本的な解決になっていない……それでは世界は救えない」

 

 魔力を遮断する結界を張る。

 

「おお……やっぱり使えるんですね、こういうの。僕たち純この世界人には使えない魔法……異能という外なる技術」

「それで? 君のやり方、って?」

「……なるほど、そのための。……。……まぁ、いいでしょう」

 

 こほん、と咳ばらいを一つ置くトラッド。

 

「『実行者』は『理解者』からの助言を突っぱねるけれど、時を経てそれを思い出し、本当の意味を知るも、時既に遅し……、新天地にて変わる……過去の自分を殺しでもしなくては、何事も成せない。それがつい最近まで時の円環……ろくろに刻まれていた"辿るべき指針"でした」

「……まさか、そういう"繰り返されること"をなぞりつつテコ入れして、違う未来を創り出そう、ということ?」

「うわ早。……さすが『院長』、説明し甲斐がありませんね。……まぁ、そういうことです。直近の例で言うと、魔王エステルトくんと、……そしてその姉君、エレンさん。二人はどちらもが『実行者』でした。エステルトくんは変われなかった……変わらない道を突き進み、死を受け入れましたが、エレンさんにはちゃんと介入の余地が生まれたでしょう?」

「君がそのアプローチをしていなければ……僕が彼女を見逃していた、と?」

「見逃していたというか、気付けなかった、が正しいですね。気付かぬままに、あるいは気付いた時には時すでに遅し、『実行者』たるエレンさんはその死、以外では変わることのできない存在になってしまっていた、と……史実ではそうなっていたでしょう」

 

 理解はできる。というか最近もしや? と思うことばかりだ。

 ろくろ。時の円環。レコードの溝。

 一度刻まれた事象は場所や人物の相関を起点に"再演"され、必ず同じ結末を辿る。

 あのトンチキゲームと災厄竜のリンクが一番印象に強いけれど、もっと昔から……というかこの世界は多分一生そういうことを繰り返してきている。

 

「円環をなぞること自体への是非は僕にはわかりません。良いこともなぞられますからね、良いことばかりの円環を一度作れば……悲劇の終わりを悲劇にしなければ。その後はもう何もしなくとも良い方向へ良い方向へと回り続けるのでしょう。……ですがこの世界……というかこの星は、千年周期で入るリセットと、そこへ向けた試練の追い込みのせいで、結末が悲劇であることが多すぎる。これではいつまで経っても救いなどきません。そして……"悲しい結末の記録"が残っている限り、何をするにもリスクが残り続ける」

「それについては自然の摂理に思うけど……。……『実行者』と『理解者』。定道と汪もその関係だし、ヘンリーと僕、ないしは僕とヘンリーもその関係にあるね」

「はい。とはいえ、定道さんが汪さんの助言にどういう態度を取っているのかはわかりませんから……問題は『院長』とヘンリーさんでしょう。助言を突っぱねた覚え、ありませんか?」

 

 ある。紫輝を見に行かない方が良い、という助言を突っぱねた。

 

「無論、この"実行者と理解者"に関連する溝は僕じゃない僕が出口を作ったわけですから、心配はありませんよ。憂慮すべきは僕も知らないような溝です。何か最近で気になった"再演"はありませんでしたか?」

 

 同じことを繰り返しただけで解決に至っていない"再演"。それについてをざっと話す。

 土地の権利書を巡る複数勢力の争い。その場にいるはずのない者が現れて、襲いくる試練を打ち破る。など。

 

「けれど……そうだ、ノクスルーナが話していたよ。僕じゃないと新しい軌跡は作れない、って」

「はい。それも正しい理解です。ですがそれ、正確に言うと、魔力に関係ない霊魂を持つ者でないと、になります。ですから……皓庚(しろがね)滄淵(あおふち)のあった時代から同じ霊魂を使っている者であれば、『院長』と同じことができますよ。もうご存知だと思いますが、ナタリーさんとか」

「……混沌が時の円環を作っている、ということ?」

「いえ、時の円環と混沌は別物、別起源です。でないと【マギスケイオス】の皆さんのやっていることの意味が無くなりますし」

 

 そういえば、そうか。

 まだちゃんと把握しきれてないんだよなその辺。【マギスケイオス】の目的……時の円環が混沌ではち切れてしまわないように、過去と未来で混沌を消費して抑える、だったか。

 

「コラージュ技法……あるいは多色版画について知識をお持ちでしょうか。あとはグレーズでもいいです」

(レイヤー)について話をしたい、であっている?」

「ええ、なるほど、面白い言葉ですね。とても良いと思います。……一度混沌に浸された霊魂は層の一番下に配置されます。混沌というものがそもそも一番下……背景である、といえばいいですかね。対し、『院長』は透明なシートを一枚挟んでその上からインクを垂らすことができるもの。黒で塗り繋ぐも白で消すのも思いのまま」

 

 ……概ねノクスルーナに言われたことのままだけど、成程。

 レイヤーが違う、というのは……新たな知見かもしれない。

 

「ナタリーさんもそういうことができます。彼女の肉体は混沌まみれなので、どうしてもなぞる側に寄りがちですが。……そして『院長』が疑問に思う通り、僕は背景側の人間です。この世で生まれ、この世で育った。時間流から外れたわけでも、影響を受けないわけでもない。教戒院に居た頃が唯一の特別ですね。時の円環にいなかったのはあの時点のみでした」

「察するに、トゥーン・ペルトや今の君の存在がまさにその"背景以外のレイヤーに現れるための手段"なんだね?」

「その通りです。といってもやり方は簡単なんですよ。同時に二人居ればいいだけなんで」

「……そうか、一人分の席しかないから……どちらかは自動的に弾かれる」

「素晴らしい理解です。僕はこの魔法をクァントゥムと呼んでいます」

 

 同時に二人いる。

 それは、霊魂一つにつき座る椅子が一つであると定められている世界において、あり得ない話だ。

 トラッドは自身の頬を引っ張る。

 

()()も、トゥーン・ペルトも、一人の人間に見えるでしょう。『院長』が相手をコンストラクトだと見抜けない、なんてことがある程度には。その理由は、霊魂があるから。そうですよね」

「……うん。コンストラクトにはそれが無いからね。瞬時に見分けがつくよ」

「まだ正式な名前ではありませんが、便宜上僕はこれをそのまま『人工的な霊魂(artificial soul)』と呼んでいます。『院長』のコンストラクトたちから着想を得まくりましたので、使用料を請求されると言葉に詰まりますが、僕はこれを様々な場所に配置することでたびたび自分の席をこの『人工的な霊魂(artificial soul)』に譲り、背景層ではないところで事象をろくろに刻む、という行為をしているんです」

 

 それは。

 

「……自殺行為に聞こえるよ。戻ることができる保証はあるのかい?」

「それこそ『院長』のコンストラクトとは違って根本が僕ですからね。名前が違えど、記憶が違えど、どの僕も必ず救世を志します。だから、唐突に現れた見知らぬ賢者に"お前は実は僕の作ったコンストラクトで、その席には世界を救うための用事の間代わりに座っていてもらっただけだ。用事が済んだので返してほしい"と言っても抵抗なんてしません。"そっか、そうだったのか"と席を明け渡します。……ちなみに僕自身に対して見知らぬ魔法使いがそういうことを言ってきても、同じことを返しますよ」

「教戒院に居た頃はそこまで壊れていた覚えが無いんだけど、あれは猫を被っていたのかい?」

「猫を被る? ……魔猫を……皮を剥いてかぶる、ということでしょうか」

「ああ、すまない。特定地域にしか伝わらない慣用句なんだ。だから、普通の子供を演じていたのかい、という問いだよ」

 

 そういえばここキロスだった。動物関係のことわざや慣用句が無いんだよな。

 ……でもトラッドは別に純キロス人じゃないだろうし、知っていておかしくないと思うんだけど……コンストラクトだから、かな?

 

「いえ、そんなことはありませんよ。あの頃は普通の子供でした。卒業してからですね、僕がこんなになったのは」

「理由とかあるのかい。君は過去を語りたがらなかったけど、それが関係していたり?」

「いえ、僕はハーフ魔族なだけの普通の子供でしたよ。遭難したのも家庭事情とか特に関係ありませんし……特にこれといった理由は無いです」

「理由が無いにしては献身的すぎるし、革新的すぎるように見えるよ」

「どうでしょうね? 同じくらいの年代に生まれた定道さんも救世を願ったじゃないですか。まぁ僕の結界が大いに影響していたようには思いますが……彼はあの立場でなくとも、アスミカタ人でなくとも、同じことを考えたと思いますよ」

 

 ……そう、だろうか。

 これは、この理解できなさは、俺が……「生きる」に必死になれないことが理由なのだろうか。

 アルカの師匠が作り上げた「生きるために必要だったから全力を尽くした結果」であるあの魔法陣というの。銀・結糸のやってみたかったこと。

 

 この世界に生まれ、この世界に生き、だからこそ心から世界を変えたいと願う者は、皆こうなる、と?

 

「たとえば、紫輝歴500年にはもう一人、僕とは別角度から世界の全貌を知ろうとした人が生まれていますよ」

「全貌を知る……。……『先見』のオンドウ、かな?」

「はい、正解です。彼は紫輝歴500年のアスミカタに生まれた忍者の家系の一人だったそうです。そして彼は、花紋三姉妹の……というか川の神の未来視から『先見』の魔法を作り上げた。その場でこの世の歪さを知り、そしてその歪さを正すために、自身と関わったこの世界という存在を大団円に導くために、『蓄音』の魔法を使って各所、至るところに"未来を手助けする言葉"を仕込み続けました」

 

 印象には深いさ、そりゃ。

 災厄地……変わり果てたキロスであいつが出てきたのは。

 

「それはたとえば、僕が今、この机を三回叩くと──」

「──私が出てくる、というわけだね」

 

 声。嫌でも耳に残っている声だ。

 

「……この、魔力から切り離された空間で……どうやって魔法の維持を」

「ふむ。まぁその通り、私の『蓄音』は紫輝の魔力と反応させることが多いけれど、君や『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』のように見えない存在相手には魔鉱石を使うことが多いんだよ。今回使ったのは応接室の机に置かれていると想定したインク壺に使われている粒状魔鉱石粉末六十四億粒。これに『蓄音』を行った。一粒一粒では秒と保たずに再生が終了するからね、発話が滑らかになるよう整えるのは至難だったよ」

 

 無駄な努力をするものだ。

 ……いや、こいつにとってはそれも大望のうちの一つ、か。

 

「やぁ、初めまして。それともお久しぶりです、かな。『先見』のオンドウさん。勿論僕らはこれが『蓄音』であるとわかった上で、僕らの声が実際に届いているのではなく、君が"僕らならこう喋るのだろうな"と推定して独り言を封入しているだけであるとわかった上で会話をさせてもらいますよ」

「勿論だとも。そして、初めまして。こんなにも近くに君のような存在がいたとは、生きている内に会ってみたかったよ」

「雑談はそのくらいにしなよ。『蓄音』ということは、そこまで長く話していられないんだろう。それでいながら言いたいことがあって出てきたんだろう、君」

 

 言えば……小さな溜め息と共に、コツ、とステッキを突く音が聞こえた。

 

「堪え性の無い若者だねぇ。それがコンセプトなのかな。……おっと、早くしないとインク壺が消滅させられかねないから、言いたかったことを言うとしよう。私、賢者クン、アスミカタ人として敬意を表して敬称をつける定道様。近い年代で言うと『王様』もそうだし、瓜良さんも英雄足れずともその括りかな。あとは……それこそエステルトクン、エレンさんもだ。紫輝歴500年の前後に生まれた"世界を変えようとする者達"。まだまだいるけれどね」

 

 ……そう聞くと、確かに。

 異様に……強い正義感や揺るぎない自身のルール、みたいなものを持つ奴が多い気がする。……いや、別にこの年代に限った話じゃなくないか。恣意的な切り取りじゃないか、これ。

 

「それもまたろくろをなぞる行為だ。──遡ること千年前。涅月歴500年にも、"自らの破滅と献身を以て世界をより良くしようとした者達"がいた」

「──時計の魔族か」

「そう、その通り。だから私にも賢者クンにも、君の欲するような"特別な事情"や"そうならざるを得なかった理由"なんて無い。私達は己を理解し、世界を理解し、だからこそ真にそれを憂いで、世界にハッピーエンドが齎されますように、と……そう願っただけの存在。ただそれだけの話。絶滅や献身はそのための手段でしかなく、そこに(たっと)い理由など無いよ」

 

 時計の魔族。その破壊の力を「未来に残すべきではない」として絶滅を選んだ、特殊個体魔族。

 越竜学園にも時計の魔族がいたからそれ自体無かったことになったのかと思っていたけど……。

 

「というわけで、僕には特にそれらしいトラウマとかありませんよ、ということを説明してもらうためだけの『先見』さんでした。……僕の見解を言うなら、そも、時計の魔族が滅んだ理由はその破滅の力を恐れて、ではなく……後世にて同じく未来を憂い、どうにかしようとする者達が現れることを願って、であるような気もしています。そのために死したというよりは、老い、あるいは寿命という避けられない出来事をそのために再利用した、という感じで」

「在り得るね。なんせ時計の魔族なんて名前だ。他の魔族よりも未来を見る力に優れていたのかもしれない。未来視というよりは、ただ案ずる、という話でね」

「わかった。君達の存在を……そういう生き方があるのだと理解し、認知しよう。これ以降僕はもう君達の行いの理由を疑わないよ。否定はするかもだけど」

「それは重畳。……さて、私はそろそろ失礼するよ。君に言う事ではないけれど、賢者クン。"代替"が何によってであるかの話は忘れないように」

「ええ、ありがとうございます。……さようなら。次はどこであなたの影に出会えるか、楽しみにしています」

 

 魔法が切れる。インク壺に使われていた魔力粉が力を失う。

 ……無駄だと思ったし、待望のためならと思い直したけど……実際、かなり効果的だったな。

 

「さて、では『院長』の結界のこともありますし、今託された話をしておきましょう。即ち、"代替"はユランによる円環のリセットの際に行われるものなのではないのか、という話について。ひいては、だからこそ、どうして天体までもが"代替"対象になり得るのかについて。あ、あと……『院長』が疑問のまま放置していた、どうしてユランには僕の楔が効かないのか、についても」

「……君も『先見』を使うの?」

「いえ、これは聞きました。ドリルパイル……じゃない、リュディ・ミーリィさんから。直接は言わなかったけど、そういうことを悩んでいそうだった、と。あの方、不器用ですが鋭いんですよね」

 

 多分意識をしているのだろう。トラッドは、自分の前で手を重ね合わせ、静かに目を瞑る。

 

「さて──」

 

 ……まぁ、口は挟まんでいておいてやるけども。

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