序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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115.迎える調律

 災厄竜と共に現れる魔力結晶体・『災晶』。

 強力な地属性を内包するソレから発射されるのは、竜のブレスを彷彿とさせるものであるが、あれの何倍もの威力を持つ。……なんせ精霊王の方のハニー老の結界をプレパラートかってくらい簡単に割ろうとしていたからな。

 

「結論から言うと、僕にもあれの正体はわかりません。ただ、考察するとすれば、ユランという代替の代理人を立てておきながらもあれらが各地に出現するのは、ユランという"一見越えられそうな試練"の出現前から代替の代理人であったのではないか、ということです」

「それは僕も考えていたけれど、だとするならばどうして赭地はそれを排除しなかったのか、ということにもなるよね」

 

 紫輝と赭地は「現地の生物に災厄を乗り越えてほしくて」文明のリセットをしていた。

 本来は代替を起こすことが用途ではないのだ。だから、「目に見える災厄の代行者」としてユランを採用した、というのは想像がつく。正体の分からない結晶体より生物たる竜の方がまだ挑んだらどうにかなるかもしれない、という希望を見出せるから。

 そのわずかな期間……滄淵(あおふち)から赭地に切り替わったタイミングから、赭地がユランを投入するまでの期間に災厄の執行者として用意していたのが『災晶』である、というのは……まぁ、おかしな考えではないと思う。

 

 しかし、前ファウンタウンよろしく、ユランの姿が見えないうちから『災晶』だけで文明のリセットを行おうとする挙動が見えている。

 と思いきやvsユランの時に俺を遠方から狙撃してサポートする、みたいな動きも見せていた。

 

 あれは、なんだ。本当に。

 

「魔力は赭地由来だった。けど、赭地の意識が乗っているわけではなかった。彼女はつい最近視座を取り戻したばかりだからね」

「涅月歴で確認した限りでは、世界中の至る所、さらには位相空間にさえも出現するようです。教戒院は災厄前に閉院するため観測できませんでしたが、マギスケイオスの集会所や神の居所でさえ例外ではないそうで」

「……さっきまでの話を考えると、『災晶』は混沌の意思である可能性も高いよね。劫白の国には混沌の席もあるらしいし」

「混沌に意思が存在する、と?」

「少なくとも僕は感じたことないけど、明らかな意思を以て狙撃された身からすると、それもあり得るよね、って」

 

 そして……それならば、【マギスケイオス】の言う「知られてはいけない」、「劫白の国に情報を持ち帰ってはいけない」というのが深刻さを増すというか。

 

「『災晶』と類似するものを他で見たことはある?」

「いえ、ありません。あれは災厄の時にしか現れていないと思います」

 

 魔力結晶体というのについて少しおさらいすると、魔鉱石の亜種と考えるのが一番楽だ。

 二者の違いは、魔力結晶体が析出物であるのに対し、魔鉱石は相転移が対応する。

 不純物などを起点とし、魔力がそのまま結晶化したものを魔力結晶体と呼び、これは本来ほとんど害の無いものだ。暴発の危険性も無いから、置物として好む人間もいるほど。

 そういう起点を必要とせず、魔力だけが純粋に高温高圧環境下で魔力素の配列を変え、安定構造として結晶となるものを魔鉱石と呼ぶ。秘められたエネルギーは莫大で、もし置物にしているような奴がいたら早く通報した方が良いレベル。『博士』とかは投げてぶつけるをやっていたけど、あれはどうにかなってもどうとでも抑え込めるからであって、あの大きさの魔鉱石は普通に爆弾だ。シュラインと銘されずとも誰もが知っている危険物である。良い子は真似しないように、というやつ。

 

 話を戻して、『災晶』はその全てが地属性の魔力結晶体である。赭地由来の魔力で形成されていて、巨大で暴力的で威圧的な魔力を覚える結晶体。

 でも上述の通り、威力だけを目指すのならば魔鉱石の方が良いはずだ。いや、魔晶石の方が、かな。

 

「どうして『災晶』は魔力結晶体の姿なのだろう。混沌の産物であるというのなら、魔晶石程度簡単に作れてもいいように思うけれど」

「ふむ。……前々から思っていましたが、『院長』は多少、魔鉱石を信仰しすぎているきらいがあるように思います」

「それは……あるかもしれないね」

「はい。確かに魔鉱石・魔晶石の秘めたるエネルギーは凄まじいの一言ですが、派生のしやすさ、扱いやすさ、増やしやすさ、あるいは処分のしやすさでは魔力結晶体が圧倒的に勝ります。災厄時にしか現れないことを加味しても、『災晶』は魔力結晶体だからこそ短時間で使い切れる、というメリットがあるのかも」

「……魔鉱石だと、その後どうにかして生物が利用しかねないから? けどだとすると、やっぱりかなり高度な知性を感じるな……」

 

 その身が使われないために消える、というのは。

 ……あるいは?

 

「ユランも……そうだよね。あの巨体は……死した時、何の痕跡も残さない」

「そうですね。涅月歴・紫輝歴770年のその時以外では、彼の痕跡は世界のどこにもありません。どこから現れ、どこへ消えていくのか誰も知らない。……竜の肉体は魔力素となって解けてしまうことが確認されています」

「実際、僕らに敗北したユランは……その身から"災厄の行使権利"を抜き取られたあと、魔力になって解けて消えてしまったよ」

「まるで魔力結晶体のように……ということを言いたいんですよね?」

 

 そう。

 ユランが大天使の位置にいる、ということはわかった。理解した。

 だが、そもそも、もっと大前提として……あいつは「生物の形をした魔力結晶体」なのではないか、と。

 あるいは神々もそうかもしれない。天体の作り上げた星物。肉体を失った後に神としての身体を手に入れた者達。

 涅月は巨大な魔力結晶体。紫輝は魔晶石。

 

 センバー・アークライトに受けた報告の話。

 モゴイ丘陵は『大崩落(ラノエ・バウン)』へ調査に行ったヤン・ガーダロイは、「生物の心臓のように脈を打つ超巨大魔力結晶体」を発見している。

 手負いにて墜落した腐敗竜シルヴィア。あれがまるでその結晶体を守るかのように抱いて眠りに就いていたことから、彼はそれに『竜の核心(コア・ハート)』という名前をつけた。

 

 先程の話。

 エコーの前任、天体より役割を仰せつかっていたマハネエル。神々とは即ち魔力結晶体なのではないか、という推論が、意味を損なわない事実だとした場合。

 ヤン・ガーダロイの発見した超巨大魔力結晶体とは、そのままマハネエルのことだったんじゃないか? なんらかの要因で本体がむき出しになっていたマハネエル。あるいは仕事を放り出して遊んでいたという話からして、地中深くに埋めておけば誰にも見つからないだろう、みたいに思っていたもの。

 それが『大崩落(ラノエ・バウン)』で露出し、負傷したシルヴィアがその力に惹かれてやってきて……ホーロー・コンテインと、その後のあの事件に繋がった。

 

 だとするのならば、『災晶』とは。

 

「──さしずめ混沌の天使、ですか。いえ、ユランやかの紫輝の天使こそが……それぞれ"赭地の災晶"、"紫輝の災晶"と呼ぶべき前後関係かもしれませんが」

「赭地由来の魔力だった理由は何だと思う?」

「単純にその時"災厄の行使権利"を有していたのが赭地だったから、では? 次の災厄時は紫輝由来の魔力で出てくると推測できますね。恐らくこの二天体が混沌の魔力がそのままこの地に降り注ぐことを防いでいると思われますから、必ずどちらかにフィルタリングされるんですよ」

「地属性である理由は?」

「恐らくはブレスを打つ構造上地属性以外だと安定しないのだと思います。他の属性だと、自身のブレスに身を焼かれて崩壊する、なんてものになりかねませんから」

 

 納得の行く答えだ。

 混沌。代替の実行者。代替力こと魔力。

 千年周期のタイミングで出てくる理由も動機も理解ができる。

 

「仮に。この世界に降り注ぐ混沌そのものをカットできるとしたら……それはこの世界にとってデメリットになるのかな」

「……考えたこともありませんでしたね、それは。もし……それができるのならば、【マギスケイオス】も目的を失いますし、竜も魔竜も消えていなくなるでしょう。けれど、最早この世界の生物は……多かれ少なかれ魔力に依存しています」

 

 そうだ。なんせ物質を構成しているものが魔力なのか分子なのか分からなくなっているほどにその境界が曖昧だ。

 そこから魔力を奪うのは……やはり、ダメか。

 

「いやね、アルカがさ。僕にはどうしても手を汚してほしくない、みたいに言ってきたことがあってさ。ああ、ノアに、ってわけじゃないけど」

「だから……紫輝の手段を奪おう、ということですか?」

「というよりは、紫輝も赭地も、皓庚(しろがね)滄淵(あおふち)っていうのを魔力によって失って、それでも前に進もうとしている、って話だったじゃないか。──なら、再び両者が続き得る仕組みを作ってやれば……僕に目くじらを立ててくるようなことも無くなるんじゃないか、って」

 

 そいつらを生き返らせてやる、って話じゃない。

 単純にトラッドの話を聞いていて……紫輝も赭地も、本当は混沌(魔力)なんて嫌いなんじゃないかって思ったんだ。

 生物の成長を見守りたい。試練を課したい。その辺は別に魔力がなくともどうとでもなるものだろうし。

 長い目で見た時、魔力なんて無い方が良いんじゃないか、という話だ。

 

「……僕だけで判断するのは難しいですね」

「まぁ、それもそうか。僕は代替も混沌も無い世界を知っているからこんな提案ができるのさ。ま、その世界はその世界でより恐ろしいことや悲しいことがたくさんあったわけだけど」

 

 魔力自体は救いだと考えている。

 たとえば、災害に遭遇し、国が瓦礫だらけになった時。

 それまでに鍛えていた身体でも無いと、他者を助けることも、自分が助かることも難しい。けど、魔力は全く鍛えていなくてもフォークリフトくらいの馬力は出せるわけで。

 それってかなり凄いことだし、怖いことだし、良いことでもある。

 ……こっちはヘンリーと相談かな。あるいはアンドリアミアフィナイラロカに直で話に行ってもいい。

 

「さて、そろそろ結界を解こうか。他の人の認識とか一切弄ってないから、隣国から挨拶に来ただけのいたいけな少年を長時間拘束するキロス警察署長、なんて外聞の悪い結果になりつつあるからね」

「ふふん、そうなることを見越して僕が認識隠蔽系の結界を張っておきました」

「……やるじゃん」

 

 素直に褒めれば、ぱぁ、と顔を輝かせるトラッド。

 はいはい、ここを出たら君、トゥーン・ペルトだからね。おかしなことを吐かないように。

 

 

 ちゃんと仕事があるとかでトラッド……トゥーン・ペルトとはキロス警察で別れ、そのまま帰ろうかどうしようかなー、なんて考えながら、キロス自治領を歩いて回る。

 ナルツォーラ荘……は、流石に無かった。ジュノさんの子孫らしき人もいない。ああいや、いるにはいるか。越竜学園に、だけど。

 

 フラウ雑貨店も無いかぁ。リット君とかあの後どうなったんだろうなー。

 

 しかしそう考えると……何も無いとはいえ、キロス美芸博物館、まだ続いているのフツーに偉いな。凄いよ。

 あの頃の警察署長さんと……なんだっけあの犬。えーと。……ムセ。……あむせ? あ、バムセだ。

 彼らもあの後どうなったのやら。なんともなんとも。

 

「──Over sølvskogen vandrer en liten drøm(雨の森を、幼子の夢が彷徨う)Månefjæren danser stille over vannet.(水面に映るは涅月の踊り子)I tåkeslottet synger en glemt klokke(霧に包まれたお城で、誰も聞かない鐘が歌う)♪」

 

 そのまま特に目的もなく歩いていると、歌が聞こえてきた。

 ……この歌は。

 

「──Små stjernetråder følger(星から降りてきた糸が) barnet gjennom natten(子供たちを夜に導いていく)♪ En blå fugl bærer morgenlyset《青い鳥が飛んでいく、》 i vingene(朝の露を翼にのせて)♪」

 

 ……色んなことを知った後に聞くと……この歌の歌詞、なんか……何かを示唆しているような。

 歌の聞こえる方に歩を進める。

 少女の声だ。柔らかいけれど、降り積もった雪のような恐ろしさを秘める声。

 

「──I den lysende skogen danser barnets lille drøm(輝く森を、幼子の夢と踊る)♪」

 

 辿り着いた場所は、多分何かの建物が無くなったか、これから建てられる予定か。

 とかくそういう感じの場所だった。

 

 そこで……一人の少女がその歌を歌っていた。

 長い紺色の髪の少女。長い手足を三角座りに丸めて、身体を揺らして歌っている。

 

「フルドラの誘い歌、だったっけ。その歌」

「……あら? あなたは、だぁれ?」

「ノアという。エリスフィア帝国の学生だよ。ちょっと用があってキロスに来ているんだ」

 

 見た目の印象よりかは幼さの感じる喋りだ。

 

「そう。わたしはメナ。……さっきの歌は、暗い闇夜の鎮め詩。そんな名前じゃないのよ」

 

 メナ。……聞き覚えのある名前だけど、どこだっけな。

 

「そうだったのかい。……さっき、二番を歌いかけていたよね。続きを聞いてもいいかな」

「ええ、もちろん。──Den grønne månen svever stille over vannoverflaten(湖面に映るは緑月の踊り子)På broen som hviler i tåken(霧に架かったあの橋の上), spinnes en bønn som ingen kan nå(誰にも届かない祈りを紡ぐ)♪」

 

 やっぱり。

 涅月と緑月の順番が逆ではあるけど……古くから残る歌だ。リュディさえ口ずさんでいたものならもしかしたら、と思ったけど……これは化石だな。

 

「──En tråd fra stjernene fører(星の向こうから来た糸が) oss stille mot himmelen(私たちを天へと導いていくの)En hvit fugl hviler ved vinduet(白い鳥が窓辺に留まる) Den tomme kroppen gynger stille i stolen(空っぽの体は椅子に揺られたまま)♪」

「……それは、どういう意味なんだろう」

「いみ?」

 

 空っぽの体とはなんだろう。……天へと導かれる、が前文にあるから……死ぬ、ってことかな。

 鎮め詩。鎮魂歌。……誰へ向けての?

 青と白の要素から、失われた二天体へ……誰かが想いを綴ったものか?

 

「歌というのはね、お兄さん。こころで感じるものだから、いみなんてなくていいのよ」

「込められた想いに心を偲ばせることも時には大事だと思うけどね。……ありがとう、良い歌が聞けたよ。将来は歌手にでもなるのかい?」

「んーん。わたしは、鳴らすことしかできないの。だから、それはだめ」

 

 ……よくわからんが、楽器演奏家に生まれた、とかで家を継ぐのが決定している系かな?

 ま、あんまし首突っ込んでも良くなりゃせんか。

 

「じゃあね、メナ。キロスに寄る予定があったらまた来るかもね」

「ええ、さようなら、ノア。今日はのこりの人生のはじまりの日よ。楽しんでちょうだいね」

 

 踵を返す。

 良い歌だった。……俺も、完成させた歌唱魔法にもう少し手を加えてみるか。

 

***

 

 少年が去ってから少し経ったくらいの時間で、それが彼女を訪れた。

 

「やぁ、メナ。待たせてしまったかな」

「いいえ、歌をうたっていれば、寂しくなんてないもの」

 

 長身の男性。釣り竿などを入れる長めのバッグを背負った青年だ。

 

「上機嫌じゃないか、メナ。何か良い出会いでもあったのかい?」

「ほんのささやかな再会があったの。……さて、次は誰を殺しましょうか、お兄様」

「未来に夢を見ている子供が良いかな。指を大切にしている子の指を、一本一本丁寧に折ってあげたい」

「なら、そうしましょう。……次はもっと長くたもつといいわね」

「そうだね。この前のは餓えていて、三日と経たずに死んでしまったから……」

 

 悍ましい会話をしながら。

 

 その二人──『二律背反(アンヴィバレンス)』と呼ばれる二人組の殺人鬼は、にこやかに笑い合い、沈みゆく紫輝の陰に消えていく。

 

 そうして、誰もいなくなった。

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