序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
雨上がりの空を見上げる。……まぁ、なんとかなった、か。
息を呑む声。
「あ……あの、もしかしないでも……『
き……き……。
いや。
ギャー!!
***
もう我慢できない。
そう思ったのは、最近会話とか調査してばっかで肝心の最重要「──ですよね?」が無いなぁ、なんて思いながらちまちま実績作りをしていた時のことだ。
確かに「──ですよね?」の準備期間というのは非常に地味だ。基本的には「これこれこういうことがありました。ほいで、出来上がったものがこちらになります」の3秒クッキングスタイルを取り入れているから滅多に見せないものの、実績を作って名前を広めて人間関係を構築して失踪してと、美味しい「──ですよね?」の収穫には長く地味な水面下バタ足期間を要する。
けど、それでも細かな「──ですよね?」あってこそのデスヨニスト。デスヨナー。デスヨニアン!!
ぶっちゃけ調査なんてヘンリーに任せておけば最終的になんとかなりそうだし、アプローチは違えど定道だのトラッドだのが救済ムーブしてるってんならやっぱ俺はフルスタイル畜生エンジョイ勢でいいんだわさ。
ってことで方々から散々な評価を受けているノア・ヘドクイストのさらに幼少時代に関連する場所を巡っていこうのコーナー。
全てを舐め腐っていたって言われているアレね。
やってきたのは
ここには外国の子供がほとんどいない、純エリスフィア人で、親に強制されて、とかじゃないナチュラルボーンバトルジャンキーかナチュラルボーンドラゴンヘイターしかいない。竜災に遭ったわけでも、他国で武術をやっていたわけでもないのに五歳とか六歳で竜退治の技術を学びに来る子なんておかしいのは当然である。
我らがクラフトアーツ戦闘科3組こと『
入学後最初はみんな同じクラスで学ぶのだけど、その後すぐに得意科目ややってみたい科目に別れ、さらにその後成績で割り振りが為されていく、という結構シビアなシステムを取っている。
ヒーラー・バッファーは纏められて二組だけ。少ない、とかはない。この世界の人防御しないからねあんまり。
アタッカークラスは、軍隊式経験者やなんらかの武術を習ってきた子の入る
一科三組二十八人~三十人のクラスである。自分のクラスの子の名前と魔力の質を一致させるのに必死で他の科とか知らん知らん。……顔? 顔は……。
とはいえ対竜学園では実戦が行われない。実際の竜退治は越竜学園でやるから。
じゃあここで何が行われているのか、というと。
「よーしじゃあ今日の戦闘訓練行くぞー。誰でもいい! おれに一太刀入れたら昼飯二倍! いつものだ!」
懐かしきヴァルカン道場式稽古、である。
教師に対し、それぞれの科で様々を学んだ生徒たちが寄ってたかって殴る蹴る斬る放つ。
教師を務めるのは元冒険者とか現役冒険者が多目で、特に多対一の魔物戦闘に慣れた冒険者がやりがちだから、結構見応えがある。教師は攻撃禁止ね。
まだ肉体の出来上がっていない子供達とはいえ、上述の通りナチュラルボーンバトルジャンキーズなので戦いは超過激。それをどこ吹く風で流す教師役の構図は、……あれだ、自衛隊の運動会を見ている感じって言ったらわかるかな。あんな感じで観戦していても面白いものがある。
このように、やることはほぼ対人訓練だ。ただし一対一の構図でやることはない。あくまで対竜を想定した訓練であるため、こういう多対一の構図しかやらない。なんで対人戦の技術は言うほど上がらないわけだ。
なお、退役軍人や父兄の中でも元冒険者だった人なんかが観戦に来ることが多く、最近はそれ向けの軽食販売サービスも始まったとか。野球観戦かよ。
「ははは、そんなんじゃ掠りもしないからよーく狙えよー」
現役冒険者はこの訓練を割と楽しみにしているとかで、子供達の成長も見れるし、自分へのフィードバックも多いので、定期契約を結んでいる人までいる。
ここの教師の入れ替わりは他の学校に比べたら早い方だけど、それでも二年じゃまだまだ変わらないから、俺のことを覚えている教師も多いだろう。
それ+新入生+なんかどっかにいるだろう細目の強キャラで以てインスタント「──ですよね?」を狙おうという魂胆である。
……どっかにいるだろう強キャラがちょっと難点すぎるっていうのはそれはそうでございます。
ではまず受付に行きまして、お姉さんに「お久しぶりです」と述べればもうそれだけで──。
「……? もしかして入学希望の子、かな? 親御さんは近くにいるかなー?」
おおっと見たことのない人。新しい教員か。いやーこれはミスミス。
「ああいえ、僕、ここのOBで」
「えー? ……ボク、ここはね、十二歳にならないと卒園できないんだよ? あ、でもハーフ魔族さんとかハーフリングさんだったらごめんなさい」
「いや人族だけど、十五歳で……」
「成程……良い具合にありそうな年齢感だけど、私もたーっくさんの子供を見てきたから……騙されないよ。ごめんね」
な、なんだこの人。疑り深すぎだろ。
逆になんだよその年齢詐称してOBを騙るケースだったとして。そのケースの場合の俺は何が目的なんだよ。
ゴツン、と。
結構重めのグーがお姉さんの頭に突き刺さる。
「あ痛ァ!? ちょ、何するんですかぁ!」
「その子普通にウチの卒園生だから。つか胸に越竜のバッヂつけてんの見えないの?」
「へ? ……あ、ほんとだ! ごめんなさい!!」
拳を落したのは……ようやく懐かしの受付お姉さん。成程、この子は新人さんなのね。
会釈をすれば、ファイルを腋に挟み直し、よ、と軽い挨拶をくれるお姉さん。
「よ、ノア。今日はどうしたの、急に。対竜からやり直したくなった?」
「いえ、近々知り合いの子が対竜に来たがってて、僕が卒園した後から何か変わったかな、と思って」
「二年そこらじゃそこまで変わんないよ。ま、こいつみたいに新しい教員が増えてるのは事実だけど、教師陣もやめてった人いないからほぼ変わらず」
……ありがたいんだけど、あれだな。
俺のことを当然のように知っている人がいるとどうやったって「──ですよね?」は発生しない。この勘違い失礼お姉さんは主人公パーティっぽくないからどっちみちいいんだけど、このまま案内される流れになるのはマズい。
「学園内、少し見ていってもいいですか?」
「ああ、いいよあんたなら。他の子なら誰かつけたけど、一人でまわれるでしょ」
「ええっ、大丈夫ですかぁ? 卒園生だと逆に……その、喧嘩になっちゃったりは」
「この子はヘーキヘーキ。その辺の大人よりよっぽど賢いし、空気も読めるし。たまに敢えて読んでない時あるけど、それは事態に収拾を付けられる時だけだし」
わぁ、分析されてるなぁ。
でもま、そういう仕事か、教師って。この人は教員ではないんだけど。
「ありがとうございます。それじゃ、帰る時また来ますね」
「はいよ。……しっかし、あんたよくあの子を知らないでエリスフィア人やってられるね。結構有名になったよ、ノア・ヘドクイストって名前」
「のあ・へどくいすと。……ヘドクイスト。……え、あの『
「そうそれ。ウチの卒園生で一番の有名人。あの子の同期……というかクラスメイトは全員有名になったけど、流石にノアが飛び抜けて有名かなー」
みたいな会話を背中に流しながら校内に入っていく。
やはり「──ですよね?」のポテンシャルはあったか。……惜しいな。
とはいえなぁ、そもそも俺の本当に欲しい「序盤から利用する施設」が100%満たせないこの場ではそういう妥協も受け入れていくべきだから……今のも亜種として……いやいや、越えちゃいけないラインが……ううむ。
対竜での授業は座学三割実技七割だ。興味のない内から詰め込んでも力にならない、という教育方針で、勉強に興味を持った子には座学が一割増しの実技一割減という措置が取られる場合もある。
だから校内は基本静かめ。室内・室外の運動機能場に出ているケースがほとんどだから。
流石に座学中の教室に入っていく、というわけにもいかないので、向かう先は給食スペース。
そう、この学園なんと給食システムなのだ。給食というか元々外でご飯を出していた店に来てもらって、子供達+教員全員分の料金を契約金として支払って、校内で店をやってもらっている、が正しいかな。
給食と呼ばれるような専用の食事があるってわけじゃないけど、毎朝お弁当を作らなくてもいい、というのは保護者たちに大好評だった。竜災もあってそんなの捻出できない家も結構あるからねー。
で、その食事スペースは原則授業中以外いつ来てもいい。極端に言えば毎休み時間に来て食べてまた授業に、というスタイルも良しとされている。厨房側もそのつもりで常在戦場の構えだとか。
そんなわけで常に開放されているここになら居座っていても特に何も言われないのである。……注文はしないよ。俺はもう生徒じゃないから。
「おや? 君、見ない顔だけど……食べてくかい?」
「ああいや、そういうわけじゃなくって」
「遠慮しなさんなって。君らの食事を作んのが僕たちの生き甲斐なんだから。さ、メニューはどうしようか。決められないならおまかせ定食もできるよ」
また新人さんに捕まってしまった。
しかも……厨房を見る感じ、知り合いがいない。やめた人はいないって聞いたばっかだけど、この店は厳密には対竜学園とは関係無いから別枠なのかなぁ。
「いや、僕は実はもうこの学園を、」
「へい、ワイルドドランクボアの衣揚げ丼、上り」
「お、さすがはトメガシマさんだ。良いから食えよ坊主、ってことだよ。ありがたく頂きなって!」
「う、うん。わかった、ありがとう」
……仕方ない。もう作っちゃったんなら食うか。
後でお金を払おう。
なお、ここの店名は『ナリコジャク』という。……そう、アスミカタの『
荒枝方舟の名前とか背景作りの時に一度食べに行ったことがあるけど、吉冨の味の癖がそのまま引き継がれていてちょっとおもしろかった。
その流れで他の店がどうなったのかも調べたんだけど、後継者を作って続いているのは『
津吊の『
後継者問題はなあ、大変だよなぁ。
特に彼女は御庭番でもあるから余計に色々なぁ。
衣揚げ丼ことかつ丼をぺろりと平らげ、ごちそうさまを言いに返却口の方へ。
さてじゃあ改めて、ここでもう少し待たせてもらおうかな、なんて踵を返した俺の背に。
「へい、お待ち」
「……いやぁ、流石にお腹いっぱいで」
「嘘は好かない。見ればわかる。──まだ一分目にも満ちていない。……体格の大きい子供でも一杯で音を上げる衣揚げ丼をこうもぺろりと行かれたのは初めての経験だ。──必ず満腹にしてやるから覚悟をしろ」
「トメガシマさん落ち着いて、な? ……けど同じ気持ちだ。美味しそうに食べてくれたのは嬉しいけど、君の魂の震えが見えていない……本当に覚悟をしておくといい。君は今日、自分の好物というものを見つける!!」
いやあの。
「気合を入れろ! 俺達の信念、生き甲斐とはなんだ!」
「武を身に付け、強さを身に付け、竜に立ち向かいゆく勇敢なる子供達が勝利を掴み取れるよう、彼らの身体を作り上げることです!!」
「そうだ──そして今回の子供は足るを知る遠慮がちな大食らいだ! 気を遣わせたり愛想笑いをさせたりするな! 必ず満腹にして返せ!! わかったな!!」
「はい!!」
なんか始まったぞ。
いやえっと、あー、じゃあ、満腹を構築するか。満腹中枢を機能させるところから始めないとだけど。
「──魔力を使って……まさか、満腹状態を偽装するつもりか」
「なんだと? そうか、"その程度の料理じゃ満腹になんてぜったいならないし、あんまり頑張らせても可哀想だから満腹ということにしてあげよう"っていう魂胆か! これは舐められているな!!」
いやそんなに嫌な奴じゃないけど、なんでわかったの。良い目をしてんなオイ。
考えている間にも凄まじい勢いで並べられていく料理。
……はぁ、じゃあ、付き合ってあげよう。元来の意味での据え膳食わぬは男の恥、である。
ただし子供達の食べ物がなくなってもいけないので……ここの厨房の食材倉庫が空になってから少し経ったくらいのタイミングで食料が届くよう発注かけとくか。越竜学園の業者さんとは個人的な繋がりがあるので、遠隔起動したコンストラクトで手続きを済ませていく。
そういうことをやりながら食べ進めていくと、だんだん供給速度が追いつかなくなってくる。まぁ厨房十五人くらいしかいないし、その程度じゃあねえ。
「バカな……!? 対竜に所属するにあたり、厳しい訓練を積んだ精鋭十五人でも……満腹にできないどころか、追いつけないだと!?」
「何を食べても美味しそうにはしてくれるが、感情が等量だ! あんなの……あんなのって!」
「ここに来てから二年……初めての絶望を味わっている。だが、これこそが俺達が一皮むけるためのスパイス! やる気が出てきたァ!」
いや美味しいよ。美味しいんだけど、竜肉ほどティンとは来ないというか。
もうちょっと調理に魔力を込めてほしいんだよね~。茜座が調理に魔鉱石を使っていたのは調理工程を早めるためだけじゃなく、食事で魔力を恢復させるため。そして効果をつけるためだ。
なんでも『鳴子雀』の姉妹店らしいけど、吉冨に教えた「食事における効果の発生」が一つも実践できていないじゃないか。これでよく食事から戦場を操る、という理念を受け継げたものだよ。
俺が在籍していた頃にはその理念を理解している料理人が二人くらいいたんだけどな。その人たちいなくなっちゃったのかなー。
「──どのような味であろうと、どのような噛み応えであろうと、一切食事速度を変えずに平らげ続け、何を食べても"うん、美味しかったよ"程度の感想しか残さないことから、数多の料理人の自信を喪失させてきた伝説の
「な……あの、伝説の!?」
「聞いたことがある……。今いるベテランたちはみんな『好き嫌い無しの大食らい』を満足させるために修行を積み、その頂点たるウキヤバルさんとベルセポネさんはあの『奈斗燕』でもやっていけるレベルの腕になったって……!」
おお……。
食事中なのといきなりだったから全然今口に物が入ってて喋れない状態だけど、すごい、大分理想的な「──ですよね?」だ。
ただ、やっぱり俺が施設経営者じゃないから感動が薄い。つかそんな呼ばれ方してたんだ。知らんかった。
ごくん。
「そんな大した存在じゃないですけどね。……ごめんなさい、断るに断れなくて、卒園生なのに居座っちゃって。消費した食料はあと少しで補充されるよう手配済みなんで、安心してください」
「フフ……初めましての前にそんな気遣いをされるとは。こちらも流石だね──『気が利きすぎて手回しが上手すぎて逆に掌の上で転がされている感があって一生勝てないような惨めな気持ちにさせてくる生徒No.1』、ノア・ヘドクイストくん」
懐かしい。ガーリアたちがやってた新聞愛好会の出してた『生徒・教員のなんでもランキング』じゃないか。……これ称号だけが独り歩きして、そういう企画だった、っていうこと忘れられてない?
「初めまして。もしかして今の料理長さんですか?」
「はじめまして。ピーカーと申します。そして、私はまだ見習い料理長だよ。ベンヤミンさんが相変わらず料理長だから。今日ベテランがこぞっていないのは、アスミカタ帝国の本店の方で技術研修会が行われているから、でね」
「ああ……そうだったんですね。すみません、こんな時にいきなりお邪魔して」
「いえいえ、フフ……彼らにもいい刺激になったと思から、大丈夫。……それで、今の私どもの料理にアドバイスをするとしたら、どのようなものになるかな?」
アドバイス? アドバイスときたか。
ふむ。良質な「──ですよね?」をくれた人だし、真面目に答えるか。
「まず、ちょっと独り善がりだよね、料理が」
ピリ、とした緊張が走る。
「高みを目指すことに囚われすぎている。より良い味を、より良い満足感を、って目指すのは良いんだけど、本当に大事なのは子供の欲求を見抜くことの方だよ。その子が今何を食べたいか、何を欲しているのか。おまかせ定食を自薦するのにそれを見抜けないようじゃあダメだね」
「それは……そうだね。満腹にさせてやる、好みをみつけさせてやると血気立つのは素晴らしい挑戦者精神だけど、確かに料理人としての根っこの部分……出す相手に幸せになってほしい、という部分を欠いている」
「マインドの面はそれくらいにして、テクニックの面を言うと、もう少し魔力を使って調理するといいよ」
「魔力……? しかし魔力精製水は好みが分かれるんだよ」
「ああいや、水そのものは自然水で良くて、焼くとか斬るとかの工程に魔力があると、食材にも魔力が込められるんだよね。魔物っていうのは多かれ少なかれ魔力を持っているわけで、収穫されるとそれが抜けちゃうんだよ。抜けたら当然保たれていた肉質も落ちるし、油分や水分も飛びやすくなる。だから魔力を込めながら魔力を使いながら、って風に調理してやると、その肉本来のポテンシャルを発揮できるようになるんだ。こうやって調理された食材は、人族にとっても非常に美味しく感じられるものでね。これが魔族や精霊族だとより美味しく感じるみたいだけど……。まぁ習うより慣れよだよね。……ふむ、ちょっと厨房入ってもいい?」
「あ、ああ、構わないよ。誰か、エプロンを一着貸してあげて」
こういうこと、本来はやんないんだけど……対竜学園の中ならノア・ヘドクイスト伝説がそこそこ溜まっているし、今更料理できる話が増えたって変わらんだろ。
さらにここでノア・ヘドクイストはギム・ノードワットの技術を受け継いでいる設定が生きてくる。ギムは茜座と同門ってことにもなってるからね。
ってことでエプロンを身に着け、手を洗い、亜空間から用意しますは懐かしき火の練化石の包丁。勿論あの頃と同じものではない。同じものはセイムロンティーカの大蛇に突き刺してBombしちゃったからね。これは同じ製法で作った別物。
そこそこ久しぶりではあるので感覚を戻すために包丁を手なりでくるくるやりながら、作ると言えばやっぱりコレでしょ、ってことで
低温設定にした練化石を用いて三枚に下ろしていく。
魔物だからね、こいつも。その魔力に浸された組織を壊さないように魔力による保護を入れながら下ろし、骨は水を張った鍋の中へ。かなり苦い臓物の一部はボウルの中へ。
そして治癒魔法を使い、
右手側では練化石を一度置き、内臓の調理。捨てる人いっぱいいるけど食べられるよこれ。
まず毒素や寄生虫などの確認をしたのち、あればそれを除去、無ければそのまま水分を抜き、その水分は骨の鍋の中へ。
カラッカラに乾いてきたら、それをもう一度骨の鍋に通し、また戻して乾燥タイム。充分に乾いたらラップ……なんて便利なものは無いので結界で代用。干物に時間をかけなくていいのが魔法の良いところ。
その頃には魚も焼けているので皿に盛りつけし、こっちも結界ラップをかける。
骨・内臓の水分をたっぷり入れた鍋を手前に持ってきて、味噌を溶かし、風魔法による「混ぜ」をしながら炎属性の魔力で加熱。
もしあるのなら昆布だしとか入れても美味しいけど、骨層鱈自体かなり味のある魔魚なので問題ないと思う。
だし汁が完成に近づくにつれ味噌の香ばしい匂いが周囲を満たす。
そしてこれだと野菜が足りないので根菜を使った甘辛炒めをパッパと作れば。
「完成。エリスフィア風焼き魚定食、ってね」
まぁ骨層鱈が全国各地どこにでもいるからご当地感は無いんだけど。
エリスフィアは畜産も農業もそこまで有名じゃないし……。
「……なんという手際だ。今……本当に一人だったか?」
「作り始めてから五分と経っていないぞ!? そんなことがあり得るのか……!?」
「悔しいが……この速度ならば満足に満たないわけだ」
「驚いてくれるのは嬉しいけれど、料理人なら"手際より味"くらい言ってくれてもいいんですよ」
「フフ、料理人だからこそわかるよ。それは美味しい、と。けれど……確かに、食べてみたい。美味しそうすぎて目を離せない、なんて……初めての感覚だ。……では失礼して」
一足先にピーカーさんが箸を持ち、焼き魚をつまみに来る。
今回は全自動味覚対応の刻印を使っていないけれど、果たして。
「……」
彼は……ぽろぽろと涙を流し始めたではないか。
そ、そんなにか。いや、感情豊かな人なのかな、とりわけ。
「……成程、本当だ、こういうことか……魔力で調理する……。食べ慣れた骨層鱈が、ああ、こんなにも……。……今まで私はなんという勿体の無いことを……」
「ピーカーさんが泣くほどってことはこれ……」
「お、俺もひと口良いか!」
「おれも!!」
──多少ごめんなさいという気持ちはあります。
けど、これ以上ここにいて良いことなさそうなので……プレゼントに火の練化石包丁と調理法についての色々を刻んだノートを置いて、脱兎脱兎!
もう料理「──ですよね?」はやったからいいの! 別のがやりたいの俺は!!
食事スペースから逃げ果せた俺が次に向かった場所は、運動機能場第二準備室。
滅多なことでは人が来ることの無い場所で、時折授業についていけなくなる生徒たちの秘密基地と化す場所。
先客は……いないらしかった。
……よーし決めた。どうしても我慢ならないので──インスタントを決めに別の時代にいってこよう。
同じ時間に帰ってくるにしてもここに帰ってくれば「色々」問題ないだろうし。──では、いざ!!