序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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117.捨てら(選ば)れた岐路

 ワーラスにとって、その日は本当に大変な一日だった。

 意気揚々と狩りに出たら、突然の大雨。

 樹の洞に隠れていたら、魔虫に刺されたか、腕がかぶれてしまった。

 腕を洗うために泉へ行ったら、大雨で興奮していたらしい泉のヌシの余波を受け。

 雨が上がり、濡れた服を乾かしていたらその服を魔鳥に持っていかれ。

 散々な気分になって家に帰った時に、愛用の弓をどこかに置き忘れたことに気付き。

 泉に行ったり樹の洞を確かめたりして、どこにもないことを嘆いていたら、そういえば濡れた服を乾かす物干し竿に使ったことを思い出し。

 ようやく見つけた愛弓の弦が切れていて。

 弦を張り直している間に魔物が現れたと村人たちに呼ばれ。

 仕方がないので有り合わせの剣で戦っていたら、その剣が中頃からぽっきりと折れ。

 あわや魔物の角にて胴体に孔を空けられる……というところで、魔物の眉間に突き刺さった鋭い矢に助けられた。彼の師の矢である。

 ……挙句の果てに、師と、師と共に遠征に出ていた大人たちから、「運が良かったな」とか、「悪運が強いな」とか言われる始末。

 

 一連の流れは誰のせいにもできない……どころかワーラスのせいも多分にあるため、喚き散らかすこともできず、けれどそんな彼の憤りを見抜いたのか、師が「今日あったことを話してみてください」と言ってくれて……この散々な一日を話すに至るのである。

 

「八割がたは君自身のせいですが、天運にも見放されたようですね。──まず、そうならないために、毒耐性をつけるところから始めましょうか。今日よりの食事に魔虫の毒に対抗できるような毒を混ぜ始めましょう」

「で、出たー! 正直そうなる予感はしてたけど、師のその謎な極端さは何! なんなの!!」

「愛ですよ」

「いーや違うね! いやそうなのかも知んないけどオレには伝わってこないね!!」

 

 師。ワーラスがそう呼ぶ壮年の男性は、五年ほど前にこの村へと流れ着いた凄腕の狩人だ。

 どこから来たのか、前は何をしていたのか、などは一切語ろうとしないけど、人柄も良ければ狩りの腕が抜群で、毒草の知識、魔物の知識にも長け、読み書きを他者に教えることまでできるとくれば、そんな存在を快く思わない村など無いという話で。

 けれどワーラスはそんな師の腕に惚れこみ、一番に弟子入りした一番弟子である。だから他の「生徒」たちとは訳が違うという自尊心があった。

 ……まぁ、このように、時折見せるおちゃめな部分がとんでもなくピーキーだったりするのだけど、総合して良い師、であった。

 

「腕、診せてください。薬を塗ってあげますから」

「……おう」

 

 赤く腫れた腕を見せれば、すぐになんの毒かわかったのだろう、師が救急箱と呼んでいる治療具一式の詰まった木箱が風の魔力に引き寄せられて、そこから治療が始まる。

 

「あ、そうだ。泉のヌシがさ、迷惑かけたお詫びに、ってなんかくれたんだけど」

「ほう」

「これ、師なら何かわかるか?」

 

 言いながら取り出すは、酷く透き通った球体。真っ黒だと理解できるのに、透明である……不思議なもの。

 

「……。……成程、そういう定めですか」

「師?」

「これは『涅月の宝珠』と呼ばれるものです。涅月との実際の関係性はわかりませんが、強大な魔物が有していることが多いとされています。……これは大切に持っていなさい、ワーラス。そして、腫れが引くまでは狩りに出ないこと。村に来る魔物は倒していいですから」

「えー! こんなの大丈夫だって!」

「そうですか。ではやはり、明日からの食事には毒を……」

「わー! わかった! 大人しくするから!!」

 

 多少の笑いを含みつつ……治療も終わって、その日はお開きになった。

 彼がこの『涅月の宝珠』の本当の意味を理解するのは、その日から一年が過ぎた日のことになる。

 

 

 その日もまた、大雨だった。いや、大嵐だった。

 どこまでも続く暗雲はどこか渦巻いているようでさえあり、今もゴロゴロと雷鳴が轟いている。

 

「おぅいワーラス、こんな天気でどこへ行く気だぁ」

「泉のヌシを見てくるんだよ。この規模の大雨だと、またぞろ興奮して暴れ狂ってるだろうし」

「おうじゃあ、おらも行くだぁよ」

「なら、キースのやつも誘うか」

 

 ワーラス、そして今彼の眼前にいる大柄な少年、ヌニェス。さらに今から彼らが呼びに行くキースの三人は、この村における狩人で、戦士だ。

 老いた大人、かつて戦士だった大人たちに代わる、次なる世代。他にも子供達はいるけれど、戦力として数えられるのは三人だけだった。

 

 しばらくして、少年たちは泉に辿り着く。

 

「わー……ワーラスの言う通り、荒れてますねェ」

「泉のヌシは雨が好きだからな。けど、このままじゃ泉が氾濫して村が水に浸かっちゃうから、宥めないと」

「よぉしおらに任せるだよ! ほぅら、こっち向くだ!」

 

 左腕に着けている小さなバックラーに剣を叩きつけるヌニェス。その硬質な音じゃ。長い肢体をくねらせていた泉のヌシのもとへ良く響いたらしかった。

 ぐるり、と回転し……そして、ざばぁと水を掻き分け、少年たちの眼前にソレがやってくる。

 

 巨大な魔蛇……金色に輝く目が無ければ、高い塔の影かと錯覚してしまいそうな躯体。

 泉のヌシ。ワーラスたちがそう呼ぶ魔物。非常に高い知性を持ち、竜にも神にもならない道を選んだ魔物だ。

 

「おう、ヌシよ。オレたちの言いたいこと、わかるよな?」

「……」

「そうずっと暴れられると困るんだ。──納得できないなら、疲れ果てるまでやりあおう!」

「──!!!」

 

 耳を劈くような咆哮。轟き上げる声。

 ワーラスたちに彼を殺す気などないし、泉のヌシもそれは同じだろう。

 ただ──大雨で楽しくなっているから、いつもより派手に遊ぼう、というだけ。

 

 

 ややあって。

 

「だぁ~……もう動けねー……」

「おらもだ~。疲れただよ~」

「久しぶりに……バテましたねェ……」

 

 泉の縁で、両手両足を投げ出して仰向けになる少年三人。

 彼らの上には今大きな葉っぱがある。泉のヌシがその髭で掴んでいるものだ。この光景だけで、泉のヌシの知性の高さは理解できるだろう。

 どうやら泉のヌシも満足してくれたようで、今も大嵐の下にありながら、暴れるのはやめてくれている。

 

 言葉が通じずとも、こうして語り合うことはできるのだ。

 

 ……と。そう思っていたのは、次の瞬間までである。

 

「……漆黒の肢体。金色の瞳。波のように揺れる髭と、何よりその手よりも器用な髭。──『ベルヌアヴァスの涅滝(ネロ)』、ですよね? まさかこのような村で守り神をしていようとは思いませんでしたよ」

 

 そんな言葉を吐きながら、細く尖らせた目と共にやってきたのは、彼らの師。

 何の話かと問う……その前に。

 地鳴りのような声が響く。

 

「──銀砂の如き髪と瞳。鱗を刺す魔風のような声。どれほど隠せども消え失せることなき圧倒的強者の気配。……三十年前のヴァグス公国にて魔物の大暴走(スタンピード)を単身にて打ち払ってしまった超越者……『ヴァグスの輝ける風』モルダロットだな。──貴様こそ、だ」

 

 空間に走る緊張は。

 

「え、え!? 師ってそんな凄い人だったのか、って驚きは勿論あるんだけど……泉のヌシ、オマエ! 喋れたのかよ!! しかもめちゃくちゃ流暢な羅詞源語で!!」

「……フン。子供には咆哮一つの方が却ってわかりやすいだろう。無駄にこの場へと居座られても面倒だったのでな」

「言ってくれよ! さすがにオレとはもう仲良しだろ!!」

 

 ワーラスによって打ち破られる。

 とはいえ、ヌニェスとキースはまだついていけていない。

 

「『ヴァグスの輝ける風』って……国の英雄じゃないかァ? 確か数年前にいなくなってしまって、国じゅうの誰もが探しているって聞いたようなァ?」

「おら、喋れる魔物は初めて見ただよ……。もしかしていつも狩ってる魔物も喋れんのかな? だとしたらおら、もう魔物を殺せないかもだぁよ……」

「言葉が通じるかどうか、意思の疎通が取れるかどうかで判断するのは些か残酷にも思うが……子供が解する話でもない。安心しろ、ヌニェス。大抵の魔物は我のような知性など持ち合わせておらぬ。そして、仮に言葉を使えるのならば、無様にも命乞いをしてくるはずだ。そうしないのは言葉が使えないからだし、使えたとしてもそうしないのは、奴らもまた人間を食う生態をしているからだ。それは自然界の暗黙のルール、というものだからな」

「そうだぁなら、いいけんど……。……え! 泉のヌシ、おらの名前わかってくれるだか!?」

「お前だけでなく、ワーラスも、キースも、覚えているとも。というよりあの村に住まう者の名は全て覚えている。意図的に霊質を隠していたその男以外は、だが」

 

 疲れて動けないながらも、嬉しくて仕方がない、という顔をする少年たち。その様子に、師……モルダロットが出てきてからずっとピリピリした空気を発していた泉のヌシも、少し和らいだ空気を見せる。

 

「私も彼らに倣って泉のヌシと呼びましょうか?」

「怖気が走る。貴様は普通に涅滝と呼べ」

「では、涅滝。単刀直入に聞きます。一年前、ワーラスに『涅月の宝珠』を授けた理由はなんですか?」

 

 和らいだ空気がまた緊張し始める。

 その宝珠を、彼はまだ大事に身に着けているけれど。

 

「異なことを聞く。貴様ならばその意味などわかるだろうに」

「では問いを変えましょうか。あなたは『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』だった存在、ですか?」

 

 問いに……涅滝は大きく唸り声を上げる。

 少年たちには何が何だかさっぱりだ。『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』という言葉も聞いたことがない。

 

「……そうだ。我はかつて『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』だった者。人の魔族であった者。故にこうして知性を残し、神にも竜にもならぬ道を択べている」

「やはり……仙実国などに見られる"長い年月を経た仙人が妖獣と化する"という伝承は、『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』のことでしたか」

「然様だ。そも、仙実国(シァンシーグァオ)における仙人のほとんどが『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』を差す。ヒトの容姿を持ち、幾年月を経ても変わらぬ姿を持つ者など、『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』程度のものよ」

「確かに、そうでしたね。……『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』の全てがそうなる定めなのですか?」

「そうだ。そも、『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』とは、"最終的に涅月へ住まえるよう赭地を親代わりとした命"を差す。親という性質の無い涅月に代わり、その性質を有する赭地が我ら『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』を育て、生物としての在り方を学び、多様性に適合し、やがて涅月へと帰る。人の姿を経て、魔物の姿となりて、いつか我も、あの中天の涅へと帰るのだ」

 

 涅滝が見つめる空。暗雲立ち込める分厚い灰色のその向こうにある涅夜の月。その望郷にも似た空気に、真っ先に反応したのは……やはり、子供達である。

 

「泉のヌシ、どっかいっちゃうのか?」

「だめだぁ、ワーラス。家に帰りたいのを、引き留めるなんてことはぁ……悲しいけど、だめだぁよ」

「そうですねェ。また……会えると良いのですがァ」

「フン、子らよ、貴様らが大人になり、老人になり、墓に入る時までを見ても、我が帰るまでの時間には程遠い。あまり図に乗るな、ニンゲン」

「え、そうなのか? ……じゃあ……逆に、ヌシはいつ帰れるんだ? 自分の家に帰りたいんだろ?」

「いつになるかはまだわからぬ。災厄が消え失せた時となるのだろうが、それがいつになることやら」

「災厄?」

「……このような大嵐さえも塵芥に感じるほどの災厄だ。それにより、ニンゲンだけではなく、知性を持つ者は全てのみ込まれ、死する。……我も全力で抵抗するつもりだが、その時、村人を守り切れるかはわからぬ」

 

 またもや遠い目をする涅滝。……ああ、けれど。

 

「よし、決めた! 師、なんか難しいこと言ってるけど、オレその辺わかんないから、とりあえずオレをもっと強くしてくれ! ヌシを守れるくらいに!」

「……彼を、守るのですか?」

「そうさ! だってヌシもオレたちの村の一員だからな!!」

「ほざけ。……そういう時は、共に戦うというのだ。……貴様の存命中に災厄が来ることはないだろうが、もしそうなったら、我は貴様らを背に乗せて飛んでやってもいいぞ」

「え! と、飛べるだか!?」

「魔蛇って飛べましたっけェ?」

「我をその辺りの魔蛇と同じにするな。空も海も飛べるし、泳げるとも。そこの者の言う通り、かつて我が『ベルヌアヴァスの涅滝』と呼ばれていた時は、悠々と戦場の空を飛んでいたものよ」

「……じゃあなんで今泉のヌシになってるんだ?」

「……まぁ、飛ぶという行為は結構疲れるし、目立つことで要らぬ敵意を買いがちなのでな。我の体がすっぽりと収まるこの泉に沈んでいた方が、色々楽なのだ」

「かつては『戦場を押し流す濁流(スズナ・アウヴィス)』とまで呼ばれたやんちゃモノが、形無しもいいところですねえ」

「うるさいぞ。……貴様こそこのような村で何をしている。国から探されているのだろう?」

「さて。今の私はこの子達の師ですから、さっぱりわかりません」

 

 フン、と鼻が鳴らされる。

 

「……ワーラス。その者は口を割らぬだろうから、お前にその宝珠そのものの意味を告げておく。それを預けた理由は、己で考えるがよい」

 

 知らず、ごく、と鳴るは、ワーラスの喉だ。

 どこかで鳴り響く雷鳴。その光に照らされて、涅滝の体が一瞬影そのものになったかのように黒々しくなる。

 

(きた)()()()()。涅と緑が互いを食い合うその日、それは()()が頼りにするための灯台(ビーコン)となる。……落したくらいでは壊れぬが、大事に持っていてほしい。お前の子孫にも、受け継がせてほしい」

「……大事なものなんだな?」

「そうだ。だが、我が持っていては意味がないものだ。涅月と一切のかかわりを持たぬ者で、決して緑や紫の手にかからぬものでなければ意味がない。頼めるか、ワーラス」

「おらたちも手伝うだぁよ! ワーラスだけ飛ぶのはずるいし!!」

「そういうことじゃないと思いますけどねェ。……でも、同意しますよゥ。そんなに大切なものならァ、村全体で守っていくべきだァ」

「ああ、それで良い。……そろそろ我は眠るよ。ああだが、その前に……モルダロット」

 

 先程まで「そこの者」とかしか呼んでいなかった彼を名指しで呼び止める涅滝。

 

「なんでしょうか?」

「あちらの山……ヴァルウド山だったか、ニンゲンの呼称は。それがどうにも、近頃煩い。()()()()()()()()()であろう。……対処せよ、英雄」

「やれやれ、私は神ではないのですが」

「ニンゲンは治水工事というものをするだろう。それと同じだ。──ではな」

 

 未だに嵐、未だに雷雨だけど……泉のヌシ・涅滝は、その巨体をくねられ、水面に沈んでいった。

 ……雨音だけが場を満たす。

 

「帰りましょうか。立てないのであれば三人とも引き摺っていきますが」

「立てまぁす! だから引き摺るのはやめて!」

「ヌシが残してくれたこの葉っぱに乗れば、引き摺られても大丈夫かもだぁよ?」

「あ、僕は歩けますので、引き摺る場合はヌニェスだけどうぞ」

「ええっ!?」

「どうしますか?」

「……た、立てるだぁよ! おらだって一端の戦士だからな!!」

 

 そんな。

 騒がしい会話を広げながら……四人は帰路に就くのであった。

 

***

 

 ──超インスタント「──ですよね?」を自分から投げかけてみたら返してくれたって話ねコレね!!

 

 いやー涅滝君良い奴すぎ!! むかーし戦場で会った魔蛇っぽい見た目のなんかとんでもない奴がいるなーくらいに思ってたんだけど、ノリが! 良い!

 ……ついでに色々なことが知れてしまった。その辺考えるのを後に回すためにテキトーな時代に跳んだのに。

 

 けど、なるほどなー。

 親の性質が無いノクスルーナが、それを有する赭地に……なんだ、托卵……っていうか、フォスタリング? してもらって、ヒトらしさと生物らしさを学ばせ、最終的に涅月へ帰ってきてもらう、と。

 でも……多分災厄のせいでどの『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』も帰ってきてなくて、だからノクスルーナは寂しがっていた、と。

 キアステンの話やナタリーの話を聞く限りでは、別に涅月生まれってわけでもないんだろうな。その辺は霊魂の話っぽかったが。

 ……だから、ファウンタウンで聞いた「ミツケテホシイ」みたいなのの対象は、『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』のことそのものだったりすんのかね。

 

 そんで……決戦の日だの、涅と緑の食い合う、だのさー。

 人が気を付けて気を付けてネタバレ踏まないようにしているのをさー。……まぁ君は「──ですよね?」してくれたからチャラなんだけど。

 

 あと……まぁ。

 実を言えば、わかってたし。スモーキー・蔕紅杭に散々見透かされてた時点でお察しではあったというか。

 

 この世界は時の円環という時間構造を持っている。だから時間遡行をどれだけしても、あるいはどれほど未来へ行っても「次の周回」という概念が無いため、辿り着けない、みたいな話があったと思う。トラッドの話な。

 が。

 ……それはまぁさぁ、この世界の法則というか。

 究極、俺には関係ぬぇえええ! ができちゃうのよね。

 確かに世界自体は二次元平面で、周回という概念が存在しない……言うなれば「同じ一日を繰り返し続けている世界」なのかもしれないけど、時間の軸っていうのは観測視点に持ってくることもできるわけで。

 つまり、たとえば俺という存在がこの世界に現れた瞬間を始点として、そこから一本線に今の俺まで繋げたら、それは新しい時間の見方になる。いわゆる本の目次みたいなことだ。作中でどれほど時間が前後していようと、あるいは経っていないことに……同じ場所が変わっているだけであろうと、必ず「最初の話」があって、「最新の話」がある。どう言い繕っても一本線の時間がある。

 だからそれを使って未来に飛べば、云十万年後、とかまで行けるのさ。

 

 で。……だけど。

 俺もさ、ファンタジー「──ですよね?」もいいけど、近未来「──ですよね?」も良いよなァとか思ったわけよ。だからとんでもなく遥か彼方に跳んでみたわけよ。

 

 無いでやんのな赭地さんな。

 具体的にいつ消えたのかも勿論調べましたよ。やば案件がすぎるし。

 

 結果としてわかったのは、そう遠くない瞬間に、涅月と緑月──当時は名称を知らんかったから小惑星だと思った──が互いに食い合う事象が起きて、ガンマ線……が無いから、だから魔力バースト……混沌バーストみたいな現象が起きて、赭地も大部分を削られて、紫輝……は別に無くなりはしてなかったけど、バランスとかは全部が瓦解する。全部が崩壊する。

 そんなあまりにもどうしようもない破滅が、割とすぐそこにあったって話。

 時の円環の「ろくろをなぞる」現象を考えるなら、涅月由来と緑月由来の何かがぶつかり合う時が来て、それが周囲全てを台無しにするまでの争いを生み出す……みたいな展開になるんじゃないかって目を光らせてはいるんだけど、今のところそういう現象は見つかっていない。

 可能性があるのはやっぱりチェルシーナニガシか銀・結糸、リュディ・ミーリィだよネー。リュミは別に緑月由来の存在ではないし。

 

 かつて、スモーキー・蔕紅杭に言われたこと。そしてハニー老に言われたこと。

 どっちも「俺が来る日に向けて戦力を補充しようとしている」みたいなニュアンスの言葉だったと思うけど。

 

 いや、はっきり言おう。

 そんな高尚なヤツではないッピ。流石に。

 でもまぁ、わざわざ「主人公パーティっぽいの」にこだわり続けている理由はそういうとこに無きにしも非ずんば虎児を得ずって感じで。

 

 ……俺の観測ミスかなぁ、とか。これ俺だから……なんか赭地がいきなり星系ワープしたとかで座標軸についていけてないだけなんじゃね、とか。

 色々希望的観測はしてたけど……力を持った『涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)』までそれを肯定するのなら、やっぱり本腰を入れなくちゃいけない。

 紫輝の挿げ替え……も一大事業なんだけど、優先度はこっちの方が高いよね。

 

 この世界は……正直、結構貴重だから、壊したくないし、壊させたくないし、追い出されたくもない。

 大体の世界は何かしらと関連付けが為されている。大きな何かに属する世界だったり、何かの世界の裏面だったり。

 でもこの世界にはそれが無い。タグ付けの一切が無い世界なんて珍しいし貴重だし、ありがたい。

 だってそこでは何が起きても許容されるということだから。

 

 だから、まぁ、なんだ。

 己の趣味を最大限楽しむためには……後顧の憂いはちゃんと除去しないとね、って話。

 

 久しぶりの「──ですよね?」もキメたし……このまま次の時代に流れて、新しいところでも「──ですよね?」をキメながら、調べなきゃいけないことを調べていこうかな、って。

 ワーラスたちは、もう大丈夫でしょう。知識面は教え切ったし……涅滝を守れるくらい強くなる、って目標ができたんなら、大丈夫。

 

 あとはどうやって関係性を断ち切るか、だけど……ま、あまりにも都合よくヴァルウド山……この世界でも珍しい活火山さんを調べてこいとのお達しがあったから、それを使わせてもらおうと思う。

 英雄だから噴火をどうにかするけど、ニンゲンだから代償に死ぬべや。良いバランス!

 

 となれば、準備準備!

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