序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
コーヒーを淹れる。
スランプとか存在しないので、慣れた手つきで。
それを……エレオノーラとアルカに出した。ドレン君も、とエレオノーラは誘ったらしいのだけど、
「いただきますわ」
口をつけるエレオノーラ。……すぐに。
「ふふ……。マスターの味まんまですわね」
「ギム爺さん以外から料理に関する何かを習った、ってことはないからね。コーヒー以外のことは優しかったのに、コーヒーに関してだけはとんでもなく厳しかったギム爺さんから合格を貰ったこれは、まぁ、一応誇れる味はしていると思うよ」
「程よい苦味で……飲みやすいですわ」
「え? 甘くない? コーヒーって苦いばっかで苦手だったけど、これくらい甘かったら飲めるかも」
「マスターが持っていた審美眼についても継承されているようですわね」
「こっちは別にギム爺さん由来じゃないけどね。僕はヒーラーだから、その人を見ただけである程度の好みがわかるんだよ」
「……? それにどんな相関関係が?」
「治癒魔法って誰しもが使えるものではあるけれど、ヒーラーとそうではないものを明確に隔てる溝として、治癒術師が対象の魔力組成をどれほど理解しているか、が挙げられる。同じ魔力、同じ時間の治癒魔法を使ったとても、人族相手とオーガ族相手じゃ結果が異なる。だから同じ魔力量同じ治癒時間にするなら、相手の組成をしっかり理解して、それにあった魔力の使い方をしなければならない」
ここが治癒量の分かれ目だ。傷というものに対して埒外の効果を発揮する治癒魔法にもそれなりの奥があるって話。
そして全味覚対応団子の術式を使えば、対象の魔力組成も味蕾が何を受け取るかも、そして脳がそれをどう好みであると判断するかも丸わかりってワケ。
「治癒魔法……ローズに今度その辺聞いてみようかなぁ」
「それってもしかしないでも、大陸監獄に幽閉されているっていうプロフェッサー・ローズのことだよね。そんな簡単に連絡取れるの?」
「確かに彼女は異端の罪に問われて収監されましたけれど、それ以外では特に罪を犯していませんし、そもそも大陸中央監獄とは同意あっての──」
「エレオノーラ、それ流石に喋りすぎかも。機密機密」
「……そうですわね。私たちは特に縛られてはいませんが……彼女の立場を悪くしたいわけではないですし」
なんかあるんだなー、ということはわかった。
「邪魔するぜー。よぅチビマスター。おじさんズにも一杯ずつ頼むぜ」
「……いやどっから入ってきたのさ」
「ん? いや普通に、ザイカの『遠見』と俺の『業運』があれば、鎖されていようが惑わされていようが行けない場所なんてないんでな」
「良い香りのコーヒーですねぇ」
それを不法侵入というんだよ。……まったく。
閉じていた結界の中に運良く迷い込んできた二人にも振る舞う。
「おわ、そんじょそこらのコーヒーショップの万倍うめぇな。金払ってやるよこれは。いくらだ」
「要らないよそんなの」
「お前に聞いてねえよ。エレン、お前的に価値をつけるなら、何ストレイルだこれは」
「……ふむ。マスターがいらっしゃらないことを加味しても、希少性と味からして……一杯二十万ストレイルはくだらないのでは?」
「たぁっけぇ……が、価値ありだ。もう一杯」
「いや言いすぎ言いすぎ……こんなのいくらでも注ぐって」
「ギム・ノードワッドのコーヒーといえば、コーヒーが毒である種族でも美味しく飲めるヴァリアブルコーヒーでしたっけ。製法こそ一般公開されているものの、ギムさん本人の淹れたコーヒーには誰も届かなかったと言われるほどの逸品。それをエレンさんが認める程の味に仕立てあげているのなら、二十万は妥当な金額な気がしますね」
……面倒臭いな。
ギム・ノードワッドだけ特別枠でコンストラクト化してコーヒーショップ開かせようかな。なんだよ希少性って。
あー……でも、そうか。瓜良みたいに弟子を作ればいいのか? 茜座の味は吉冨が完全に受け継いでくれたしなぁ。
「僕は学業とか色々あるからお店やるのは無理だけど、作り方の伝授はできるよ。マイズライト理事長の見繕った精鋭の人材にそれを教える、っていうのはどう?」
「どう、って……願ったりかなったりですけれど、将来……たとえばなんらかの理由であなたが戦場を退いた時の食い扶持が消えてしまいますわよ」
「それについては大丈夫。僕多才だから」
「うわー、思い上がりだってつっこめない~……。でもわかるなー、そうやって珍しがられるのが面倒臭い気持ち。自分は当然にできることが売り買いされるものだって言われると、じゃあ手放すから好きにして、って言いたくなるよねー」
「ぜんっぜんわからねえ。コーヒー一杯淹れるだけで低賃金労働者の月収くらいの金が入るんだろ。おじさんだったらレシピひた隠しにして売り口絞ってぬくぬく生きるけどなぁ」
「冒険者に依頼する時くらいしかストレイルを使わないからなぁ」
「衣類の修繕や毎日の食事にも使うのではないですか?」
「衣類の修繕は自前でやっているし、料理できるし……。食材を買うためのお金は方々に売っている技術代で充分だし」
「方々に売っている技術代?」
「別にそれが目的だったわけじゃないんだけどね。『涅月境界指面時計』とか、楽団ミュテスへの提供楽器とか、そこそこ実入りがよかったりするよ」
「カーッ、多才多才ってのは誇張でもなんでもねぇと。つかま、あんだけ強けりゃ冒険者でもやっていけるだろうし、そう考えりゃ手続き諸々込みでたかだか二十万のために技術独占は総合収支マイナスってか」
「そういうこと」
特にエリスフィア帝国は営業関連の部分がしっかりしているので……またあの眼鏡の宰相さんにお世話にならなくちゃいけない。
そう考えたら、エレオノーラ選抜の精鋭に技術を伝授するだけで良い、とか……なんて楽なんだ、って話で。
「理解しましたわ。……では後日、人を手配しますの」
「うん、お願いね」
「っていうかノア君料理もできるんだ……。他に何かできることあるの? 料理、戦闘、ヘンリーと対等に話す、魔法……以外で、自慢できることっていうかさ」
ヘンリーと話すことが技能に数えられているのは面白い話だけど。
うーん、そうだな。
「友達が多いところ、とか?」
「自分で言うんだ……」
「あとはまぁ、可愛い彼女がいることとか」
「カーッ! ……最近の若者は、なんだこりゃ。おじさん灼かれて消滅しちゃうぜ」
「謙遜を美徳だと思ったことがないからね。できることはできる、誇れることは誇れるってちゃんと言わないと、技術にも知識にも失礼だ」
「良いことだと思いますわ。……そして、だからこそ、あなたが単身で魔竜をどうにかできるという事実の真偽ははっきりさせておかなければなりませんの」
墓穴掘ったねェ!
くそ、『業運』はこれ誘い水か。……いや結託している様子は無いから、本気で僻んでいるだけか。
「うーん。……ダヴィド先生はさ、魔竜の一匹くらい、わけなく倒せる?」
「マジックアーマー持ちと30athl以上の巨体の魔竜は無理かな。それ以下だったら一人でいけるよ」
「マイズライト理事長は?」
「強力な魔法のストックがあれば私にもできますけれど、何も無い場合、私に使えるのは古代魔族語の捕縛魔法くらいですから、平時は無理ですわ。あ、そっちの二人の中年は論外ですの。『業運』はまぁ魔竜相手に死なないことはできますけど、魔竜を殺すことはできませんからね」
「おうよ。『不死』、『財宝』、『観察者』、『業運』、『解体』、『蓋然』、『別界』のいわゆる"安全組"は、戦えない奴らの集まりってな。当代の『不死』、『財宝』、『蓋然』が例外すぎるんだよ」
「しれっと混ざってるけど、『業運』は"当然組"でしょ。ノア君に嘘教えないで」
「前から気になってたけど、【マギスケイオス】の当然と安全ってなんのことなの?」
いやまぁなんとなくのニュアンスはわかるんだけど。
よしよし、いい感じの話題逸らし。
「んー、行使する魔法、あるいは研究テーマのジャンルっていうのが一番わかりやすいかなぁ」
「【マギスケイオス】の魔法は『生物が生きていくにあたり、有しているべき当然の権利』と『生物が生きていくために、保たれるべき安全の範囲』に大別されます。『不死』、『財宝』、『観察者』、『解体』、『蓋然』、『別界』は後者である安全組。死なないための安全、富を得るための安全、事前に危険を察知するための安全、生物の不思議を知るための安全、流されて生きることへの安全、誰かに否定されたすべての安全。それらを守り、自身のいる範囲であると定める。それゆえにそれを己の諱に数えるのです」
なる、ほど?
言うなれば保身的……あるいは受動的なスタンス、ってことか? 生きるために必要なことの内側を固めた、みたいな。
「反対に『生物が生きていくにあたり、有しているべき当然の権利』を諱にする者を当然組と言います。該当称号は『全開』、『業運』、『到達』、『四毒』、『最小限』、『薄明』。敵や障害を打ち砕くための当然、明日の幸運を願う当然、努力は実るという当然、恨み恨まれるという当然、無駄を省き節約する当然、何かに否定されたすべての当然。それらを突き詰め、可能な限り権利を主張し続ける。そういう研究テーマです」
「当然組は何かと攻撃的な奴が多いせいで俺もそっちに数えられるんだがな。残念ながら戦闘力らしいモンを俺は有していねえのさ」
「運勢を操る魔法、だっけ? 天運と機運のどっちもに作用できるのなら、『不死』や『全開』と張り合えそうなものだけど」
「そりゃ期待しすぎってやつだ。偶さか魔竜のブレスが外れる、みたいなことは意図的に起こせるが、偶さか魔竜の心臓が消滅する、みたいな奇跡は起こせないんでね」
それは……おかしな話だな。
ああいや、だから、機運しか操れないのか。
「つか話を戻すけどよ、さっきあの学園長ヘンなこと言ってなかったか? お前がアルカどころか『時渡』のジジイにさえ勝てるみたいな」
……話が逸れつつあったのに。軌道に戻しやがって。
「『時渡』って精霊王のことでしょ? ならまぁ、答えはYesだよ。魔力依存生物に対しては特効と言えるくらい強いんだよね僕」
「それはまた、どうしてですの?」
「僕の歌は魔力素に干渉できるから。音の魔力を媒介にして魔力にアプローチを、暗示を基軸にして精神に揺さぶりをかけることのできる僕は、対魔力依存生物戦闘において最高峰の相性を有する。僕がブレスを多用するタイプの魔竜に勝てるのも、この前ダヴィド先生を下せたのもそういう理由」
「……別に彼女は魔力依存生物ではないでしょう?」
「あ、いや、えーっと。……この肉体の時を止めた瞬間から、実は魔力依存生物寄りになっていたりして……」
「ダヴィド先生がどうやって自分の時を止めているのか、というのまで僕はわかるからね。この前の……あの言えない事件の時、僕にかけられていたっぽい時間停止の魔法の痕跡から理論を逆算してみたんだ」
「なんか怖いことやってるー!? じ、時間が止まってたこと覚えてるの? 時間が止まっていた感覚とか思い出せるの!?」
「うん。僕もヘンリーに倣って記憶のバックアップをしているから、おかしなタイムラグがあることにはすぐ気づいたよ。記憶も若干操作されていたみたいだけど、そこを掘り返すのは無理だった」
「記憶の操作、ですか。……お話にはあまり関係ないのでしょうが、少し気になってしまいますね」
ん。……なんだ、良い感じに誤魔化す理由が言えたからこのまま流そうと思っていたけど、そういう操作しなくとも『皇帝』の方へ持っていけるか?
「ザイカおじさんどうしたの? もう歳で記憶力ない?」
「ぐさっ。……いえ、私もアルカさんとは別口で時が止まっているじゃないですか。50歳の時で、なのでそうも若々しくはないのですが」
「ああなんだっけ、おじーちゃんが止めたんだっけ?」
「はい。ある目的のために。……だから、50歳の時までに気にしていたことが、私の中にはずっと残っているのです」
それで言えばこの『業運』も結構長いこと生きてる臭いけどな。モーガンの頃からこいつだったわけだし。
時を止めた不老不死は……正直オススメしない。肉体が加齢しないことに反し、精神は加齢し、疲労していく。そのギャップはいつかとんでもない苦しみに変わる可能性がある。
「上手くは思い出せないのですがね。子供の頃……迷い家事件に巻き込まれた頃、私には三人の友達がいたはずなんです。二人は思い出せます。『助手』というあだ名だった、エカスベア魔導博士の助手、ブリジット。『剣士』というあだ名だった、若い頃ともに『旅路の旗』というパーティを組んで旅をしたレドミラン。……しかし、もう一人……いたはずなのですが、恐らく『
「あら、それでしたら適任がいますわ。ノア・ヘドクイスト。あなた、無意識へ作用する暗示もできますでしょう?」
「ん……できるよ。成程、本人が忘れてしまったけど、無意識下に格納されているかもしれない記憶を引っ張り出す、か。……ちょっと待ってね、少し……構築式を組み立てるから」
「へぇ、便利なこったな。つか、記憶問題なら銀のやつもなんか困ってなかったか?」
「ああ……。自分が生まれた時のことをよく覚えてないとかなんとか。そんなの当然でしょ、って返した覚えがあるけど」
ふーむ。『
俺も『博士の博士』に関する記憶は曖昧だし、丁度いいかもなー。何を以て記憶の全消去なんて手段を選んだのかは不明だけど、流石にもうそろ思い出してもいいんじゃないか説。オンドウもアンキアもいないわけだしな。残ってるのはニツァ=ハルティヤくらいなもので。
しかし、するとなると、『皇帝』の記憶領域に手を出す必要が出る。なりふり構わずならどうとでもなるけど、暗示じゃ無理だな。一応精霊の創った世界……それも『
「ちょっと大掛かりになるかも。まず幻術で世界を構築して、そこに含んだ暗示によって、ザイカさん自身が記憶の友達を幻術として編み出す感じ。ザイカさんが幻術に適性があるかどうかは関係ないから安心して」
「ふふ、ちなみにありません。……その幻術は、一般の魔法使いでもかけられるものなのでしょうか?」
「無理だね。けど、僕実はクレーア先生の幻術空間の再現ができるようになっててさ。それでやってあげられるよ」
「……ノア・ヘドクイスト。後で自身の技能一覧を紙に書いて提出するように」
「うぐ。……はーい。……それと、一つ聞きたいんだけど、迷い家事件ってなに? あ、別に幻術は関係なんだけどね。単純な興味」
問えば……エレオノーラとアルカが「そういえば」という風に手を打った。
「この前ヘンリーが君の事荒枝方舟って人なんじゃないか、って疑った事件があったじゃん?」
「この前、って……もう一年半は前だけど……」
「おぉ、すっかり長命種の思考になってきたじゃねぇか、アルカ」
「ヤメテ! 気にしてるんだから! ……えっと、で、まぁ、そういう……なんだろうなぁ、歴史というものが一つの大きな巻物だった時……竜災や天災なんかの試練の前に、突然中身を見通せない靄……蓋、ううん箱? みたいなものができることがあるんだよね。その中では、必ずと言っていいほどとある人物……あるいはそれから発生した誰かが現れ、人々に知識や技術を授け、箱が取れて歴史が巻物に戻ると同時に、去っていく。それが迷い家事件の概要」
「齎される知識や技術が現在の知識や技術からかけ離れて優れたものであることがほとんどであるため、あの時のヘンリーは荒枝方舟、及びあなたをその迷い家派生の人間であると勘違いしたわけですわ。荒枝方舟の提唱した歌唱によるヒーリング効果などの論文も、あなたが実際に行った広域治癒や暗示に依るバフデバフも、同じくかけ離れたものでしたので」
「……でも別に僕誰かにそれを齎したり伝授したりってしてなかったような」
「ええ、まぁ、あの時はヘンリーも少し過敏になっていただけですの。あの後すぐに彼は言いすぎだった、やりすぎだった、早とちりがすぎたと反省していましたわ。それに、この理論を当てはめすぎると、歴史に出てくる"弟子を取った偉人"全員が迷い家になりかねませんし」
ヘンリーのそれは痕跡消しのための演技かな。ありがたいね。
「良いよなぁ迷い家。俺も出くわしてみてぇんだが。俺の魔法にも良いインスピレーションをくれそうな感じがするしよぉ」
「確かに……『教授』なら、運勢も簡単に操れそう」
「ちょっとちょっと、聞いたのが僕だから申し訳ないけど、今はザイカさんのお話でしょ」
「あっ。……ごめん、そうだった。ごめんなさい」
「おう、すまねえな。ジジイとババアになると話が長くゴフッ!? ……アルカテメェ、俺の『業運』突き抜けて肘打ちを……!?」
「ふふん、今の私には謎の勉強会の知識があるから、こういうことも少しは──」
突然二人の声が聞こえなくなる。
これは。
「話が進みませんし、うるさいので消音魔法で隔離しましたわ」
「ナイスすぎるよマイズライト理事長」
「申し訳ありません、私のせいでお時間を取らせてしまって」
「いいえ。【マギスケイオス】は私にとっても身内同然。それに、あなた個人にもそこそこお世話になりましたの。その恩返しだとは思っていませんけれど、こうして彼とめぐり合わせることができたことを喜ばしく思っていますわ。……ノア・ヘドクイスト。その記憶発掘に必要なものがあればなんでも言ってくださいな。どんなものでも用意してみせますから」
変わらんなぁ、コイツは。レベッカを救おうとした時もそうだった。
……しかし、問題があるとすれば……魔力量なんだよね。ツェルニの最高効率で幻術を動かすとしても、込々で考えると一時間も保たない。そこまでで記憶探索が終わるとは思えないし……よし、ここは。
「ちょっと来てくれるかな、
「……今とんでもない当て字をされたような気がするのですけど」
折り畳まれた空間から出てきたのはナタリアである。
一応この空間は『観察者』と『業運』がタッグを組まねば入ってくることができないレベルには秘密裡の空間だけど、まぁそこは俺だしコイツであるし。
そして。
「どこから現れ……いえ、その技術も後で記載するように。そして……あら……あなたは、最近編入してきた子、でしたか」
「ええ、お初にお目にかかります。ナタリア・アークライトと申します」
「面倒臭いな。別に正体隠しているわけでもないんでしょ。この場にいるのが【マギスケイオス】のみだから、何かと知識が必要になるかもってこと込みで君を選んだんだから、言っちゃいなよ。言わないなら僕が明かすよ」
「……何の話ですの?」
「えぇ……言うとおかしくなりませんか。ほら、私はあなたの彼女で、18歳とかその辺のはずで……」
「セイラとソーマっていう二大スピーカーに正体が露見していて、隠し通せるとか本気で思ってるの?」
「セイラはともかくソーマまで数えないであげて……。はぁ、わかりました。言いますよ」
そろそろ前に進みたい。だから、ここを起点に蟠りとか隠しごととか、全部吐き出してもらいたい。
俺のエゴというか、思わせぶりも匂わせも面倒臭いというだけだ。
ナタリアは……己の顔に手を当てて、そうしてしばらくしたのち、仮面でも取るかのようにその手を上げた。
手の下から出てきたのは。
「え。……ネイトアリス?」
「ええ、お久しぶりですね、エレン。……折角ナタリアという身分で生徒ごっこができると思ったのに。これってもうおしまいってことですか?」
「別に生徒は続けてもらうし、君が僕の彼女なのは間違いないよ。越竜学園の入学規則に年齢制限はないから、これからは君も生き字引としてヘンリーとの会話に参加ね」
「ネイトアリスというと、エレンさんの前の『財宝』、でしたか? 魔族……それも『
「わかるんですか?」
「ええ、私のお友達にも『
え。それ俺も知りたい。
俺はなんとなくの観察からそうだろうな、ってアタリをつけることしかできないのに。なにキアステンお前そんなこと知ってたのかよ。ずりーよ。
「……もしや、ノア・ヘドクイストの異常な知識量は」
「まぁ、半分くらいは私のせいですよ。もう半分は彼が元から持っていたものですけど」
おお、ナイスアシスト。
「成程……それなら色々納得ですわ。……それで、どうして彼女を呼び出し、その正体を明かさせたんですの?」
「正体を明かさせたのは僕の趣味だけど、呼び出した理由は単純に魔力を分けてもらうためだよ。構築式は組み上がったんだけど、僕の魔力量じゃ足りなそうだからね、彼女の魔力を貰うんだ」
「……もしやとは思いますけど、私達が最初に手を取り合った時みたいなことをやれって言ってます?」
「別に接続する必要はないけどね。自他境界を曖昧にして、そっちの魔力を吸い出せるようにしたいだけ」
「おや……エレンさん。もしかして……ふふ、これ、青少年の下世話な話ですか?」
「違いますから黙っていなさい。相変わらず自分の知らない魔法原理の話に関しては阿呆の極みですわね」
「はい……」
vsシルヴィアの時のあれは、両者の魔力の使用権原境界が曖昧になっていた。魔力砲台としてやったらまた自壊を引き起こすけど、普通に接続するだけなら問題はない。
「はぁ、わかりましたよ。タンクやってあげます。その代わり、流石にそろそろご褒美をもらいますよ?」
「いいけど、君って何が欲しいの? ストレイルも技術も足りないものないでしょ、君」
「この一連のことが終わったら、一度私と故郷に帰省する、とかどうですか?」
……。……それはつまり、『院長』として帰ってこい、ってことか?
あるいは……俺の行ったことがないゼンノーティ村の話?
どちらにせよ、こいつにとってのご褒美って感じはしないけど……良いだろう。
「わかったよ。帰ろうか、あそこに」
「ええ、約束ですよ。──それでは私、ナタリア・アークライト。もしくは先代『財宝』ネイトアリスの全魔力、好きに使ってください。必要ならそれ以上の魔力も持っていっていいですよ」
食らい続けた自分の分も、ってことね。あり難く使わせてもらうよ。
「ザイカさん。あなたの記憶発掘だけど、一筋縄ではいかない可能性もある。なんたって相手は『
「ああ……成程、今から私と君で、『
「だから、マイズライト理事長、ダヴィド先生、カインさんにも手伝ってもらおうと思うんだけど、どうかな。幼い頃の記憶を見られたくない、みたいなことってある?」
「いえいえ、隠すようなことは何もありませんよ。お三方がいることも心強いです」
「そうか、じゃあそうしよう。というわけだけど、マイズライト理事長とそっちの消音組も協力お願いできる?」
「私は構いませんわ。そして」
消音結界が消される。
「もー、ちょっと前から雑談さえしてなかったのに。で、はいはーい! 荒事は任せて! そして改めて初めまして、先代さん」
「先代『財宝』には先代『業運』が世話になったって聞くが、その辺よく知らねえんだよな。んで、おじさんで良ければ手くらい貸すさ。ザイカのためならなおさらだ」
「私も問題ありませんわ」
……『業運』クイン・ジェック・カイン。口の悪いおじさん、ってイメージだけど……身内には優しいのかな?
BB……リュディ・ミーリィからメンバーについての印象を聞いた時は、「口が悪くて頑固で面倒見の悪いおじさん」とか言ってたような気がするけど、あれはBBに対してだけだったりするのかな。
なんにせよ。
「じゃあ、行くよ。──
あの日あの時消された記憶へ、アクセスしよう。