序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
翌日。ヘンリックは有言実行を……つまりヘンリーでも十秒はかかる魔道具の解読を、二日で終わらせきって見せた。
ま、これが本当にヘンリックの力なのか、『皇帝』の認識としてのヘンリックなのかはわからなかったりする。『遠見』の魔法がどれほどを理解できるのかはわからないけど、単純な知識の収集力で言えば、あるいは『先見』にも勝るだろうし。
今はエカスベア魔導研究所に関係者が集められている状態。……なんだけど。
「キアステンお前、その魔法解けよ。説明が面倒臭いだろ」
「ええ? いいじゃない。これからフォーマルな場ではこっちの姿でいることにするわ」
「まぁまぁ、キアステンの長年の夢だったんだし、大目に、ね。……それより、そろそろ説明会を初めても良いかな」
ヘンリックの言葉に頷く一同。
「ありがとう。ではまず、この魔道具が何なのかについてから話そうと思う。『
「字面から察するに、魔力的な錨を射出し、『
「ああ、凄いな。キアステンの言う通り、あなたたちは凄い魔法使いなんだなってわかるよ。……そう、その通り。『
「常時オープンな位相空間になる、ってこと?」
「オープンとまではいかないけど、常時繋がっている、ということが実現するかな。閉じてしまうことがなくなって、あるいは記憶の問題も解決できるかもしれない。とはいえ一日一つの光の魔晶石が維持費だから、どこの国でもこれを導入、っていうのは難しそうだけど、エリスフィアならなんとかなる」
「その辺は安心しろ。軍費用から出してやる。つか、国が出すと思うけどな」
ヘンリックはその後、細々とした仕様の説明をしていく。つまらなそうにしている者、というのは見受けられない。皆興味津々だ。
ぶっちゃけ【マギスケイオス】は集会所とやらのことで位相空間なんて見慣れていると思っていたんだけど、そんなになのかな。あるいは『
「さて、魔道具の仕様はこれくらいで、次に重要なことがある。『
「まぁ、だろうな。んなこたろうと思ったぜ」
「正直『
「……いえ別に、必要なことであるのなら戻るけれど」
「どの道キアステンには万一の場合の補助をしてもらいたかったから、どっちみち使用者は無理かなって思ってる。……『博士』が託した通り、『皇帝』かノア君に頼みたいとは思うんだけど……ヘドクイスト家の皆さんは、それを了承してくれるのかな」
問われ──顔を見合わせる。そして各人の視界に、こんな文章を投下してみた。
"ザイカさんって子供認定されるのかな"。
みんな「確かに……!」って顔になっている。記憶世界であるから見た目が子供になっているけれど、今のザイカさんは50歳……というかそれ以降時を止めて生きてきたらしい200歳くらいの人である。
少なくとも子供ではない。
「ノア、あなたがやるべきですわ。その『博士』とやらに魔道具を託されたのもあなたであるのですし」
「ま、魔法的なアクシデントがあったら任せて。私もエレ……ママもパパも、荒事には強いわけだし」
「つぅか初見の魔道具を使いこなせるのがノアくらいのモンだからな。おじさんたちは新しいものにはとんと疎いわけで」
エレママの頬に若干の痙攣が見られる。ノア・ヘドクイストからならともかく、アルカからママと呼ばれるのは堪えるんだろうなぁ。
「僕も賛成かな。それに、『剣士』、『助手』、そしてもう一人というのを実際に探すのは『皇帝』であった方が良いと思うし。僕はその子達のこと知らないからね」
「それについちゃあたしらも同行するからなんとかなるとは思うが、そのもう一人ってのが確かに『皇帝』以外わからなそうだな」
もう一つ言うのなら。
──たとえ記憶の中であろうと、俺と『博士』は顔を合わせない方が良い。
戦いになる──とかではなく、『博士』ならばノア・ヘドクイスト"最新"であることを察した瞬間消えることを選びかねないからだ。俺製の魔道具を見た時点で若干察しはするだろうが、どれほど先か、まではわからない。いつかの……レイン・ヤーガーが『
此度の目的がもう一人の子……『魔女』であるのならば、消えた記憶のタイムラグこと、恐らく『
彼自体をアンカーとするために。
「決まりだな。ノア・ヘドクイストに魔道具を使用してもらい、その護衛にヘドクイスト家、及びキアステンがつく。あたしら軍と『皇帝』が『
「あ、あれ、僕は?」
「ア? テメェはこの国の要人なんだよ。昔みてぇなやんちゃはご法度だ」
「まぁノア君の隣にいるべきじゃないかしら。万一があった場合、魔道具の仕様を知り尽くしている人がいるべきだと思うし」
「……まぁ、それが妥協点か」
俺も腎臓を戻して、と。
じゃあやろうか。
の、前に。
「実際どうなんでしょう。私、子供判定になっているんでしょうか」
「多分だけどなってないと思う。何が懸念点?」
「……本来の歴史において、大人判定だった人は……その両方の性質を有していた『剣士』を除き、その他の全員が『博士の博士』を巨大な
「あー」
「それだけではありませんわ。当然の話ですけれど、『
「ふむ。……カインさん」
「ああ、それが一番だな。『
「もう一人の子、っていうのが見つかった時点で幻術を終了すれば大丈夫だと思う。鉢合わせて"じゃあこいつは、まさか
「はい、生存するための……逃げるための魔法はそれなりのラインナップがあります」
一番怖いのは……軍の人が先行して見つけちゃって、極秘裏にメッテに報告が行って、『魔女』を探すとかなんとかの前に対立しちゃうこと、だけど。
そこも「たまたまそうならないように」の調整はしてくれそうだな。機運を操作できるのはやっぱり強いよ。
「それと……話を聞いた感じ、
げ。……ヤバいな。理解され始めている。ちょっと色々見せすぎたか。
こうなられると情報の絞りが難しくなるけど……。
「まぁ、できるよ。というかあんな話の流れで作り出した魔道具がそんな複雑な効果持ってるわけないじゃん」
「そうかなぁ。結構複雑そうに見えたけど。ヘンリーでも十秒くらいかかりそうなボリューム感だったし」
「ボリュームはね。本気で作るならあの1/4くらいまで削減できるよ。効率化しないでやるとあんな感じになるだけ」
「やはり、あなたは魔道具製作もできるのですね。刻印に詳しかったのでさもありなんですが」
……ちょっと面倒になってきたな。
あんまり分析しないでほしい。ダルい。
「エレン、そこまでにしておきな。面倒臭いぞ今のお前」
「……何が、ですの?」
「普通の会話だろうと今後の方針だろうと、ノアのやることなすことに突っかかってその全てを分析しようとするのが、だ。話の腰を折りまくるのもそうだが、フツーにマナー違反だろ。そいつがどんな魔法を使うか、なんてのは、自己紹介以外……探りを入れるのは敵対者くらいのモンだと思うが。違うか?」
「……。……確かに。……そう、ですわね。少し……過敏になりすぎていましたわ。申し訳ありません」
おや。
クインが助け舟を出してくれたのはありがたいものにしても、えらく素直だな。
それこそクインには噛みつきまくっているイメージがあったが。
……もしかして、普段はああいう態度だけど、その実……奥さんに対する一途さやら善人っぷりに関しては、エレオノーラも知っていて……みたいな? こういう窘められること自体はクインに理があるとか思ってたりして。
重村鎖袋もだったけど、【マギスケイオス】は自分以外のことを最高の魔導士だと認めてるっぽさもあるよなー。
「ま、有用極まりないモンとかはジャンジャン詰めても良いとは思うけどな。この幻術視界伝言システムとか」
「いやだから、これは幻術内だからできること……っていうか、何そのネーミング」
「あ、ノアくん。ダメだよ。カインはネーミングセンス皆無だから」
「んだとアルカてめェ」
ま、命やら苦境やらの瀬戸際で技術を出し渋っている俺が悪いというのはそうなんだけどね。
すまんな、エレオノーラ。お前が思っているよりテキトー人間だよ。
して。
その二日後、すべての準備が完了する。
エリスフィア帝国軍第一から第四までの大隊がそこに揃っている。さらに第五大隊が俺達の護衛にあたってくれるとか。
彼らの眼前に立つは、メッテだ。堂々と胸を張った、軍服姿のメッテ。
「これより、エカスベア博士立ち会いのもと、新結界・新結界・『
怒号のような肯定が返る。
メッテ。准将、だったか。今の階級は。そんで……中将にまで上り詰めたとか。
すごいことだよ、本当に。頑張ったんだなぁ。
「それじゃ、ノア・ヘドクイスト。緊張はしないでいい。失敗しても咎めるこたねぇから、確実に頼むぜ」
「ノア君、大丈夫だからね」
そういう声かけは子供を逆に緊張させると思うんだけど。……その辺はまだまだ、ってことか。
魔道具に魔力を注ぐ。六文字-六単語の刻印、なんてものを求める仕組みにはしていない。
ちゃんと子供でも使えるようチューンナップしてあるのだ。
──『
そこへ──照射。魔道具から飛び出した錨が四本、真っ暗なそこへ突き刺さるのを確認する。
第一段階終了。第二段階へ移行。
暗闇をこじ開けるようにして正方形を確立し、そこから侵食するようにして魔力が染み渡っていく。
乱数である『
そうして──開く。巨大な道が。
「結界術・
それを補強するようにキアステンの結界が貼り付けば、第二段階終了。
「んじゃ、行くぞ。いいか、気配を感じたら、痕跡を見つけたら、気のせいだと思うな! 必ず見つけ出せ! 報告しろ! んでテメェらも死ぬな! 瓦礫に押しつぶされようが黒靄ダークミストに半身持ってかれようが、とりあえず生き延びようとしろ! それで被害が増えそうでもだ! んで、そうなったら大声を出せ!
進軍が始まった。
──その、ほぼ直後。四つの大隊が『
俺とクインが顔を上げる。
「な……んだと!?」
「──全員最大防御!! 上空!!」
何事かを問う前に、エレオノーラとアルカが防壁を張る。
瞬きの間を挟み、そこへ巨躯──35athlほどの竜が落下してきた。
渦巻く赭地の魔力自体は感じ取れたけど、なんて速さだ。災厄地よりも高い速度で竜が生み出された。
「りゅ……竜!?」
「まさか、
そうか、まだそれが信じられている時代か。
どちらにせよ──。
「──ッ、『
「"
魔力情報が事象に変換し直される。……ああ、成程。場違いな感想だけど……確かにこれは特別だ。
幻術空間でそれをやっている異様さがどれほどか、彼女は理解しているのだろうか。
……と、そっちはまた今度考えるとして……アルカもまた、凄まじいのを使ったな。
だいぶ解釈を捻じ曲げているけれど、要するに「生物を無理矢理崩壊させる」という刻印魔法だ。
その二つが竜へと突き刺さり──そのどちらもが、弾き返された。
「なんですって!?」
「オイオイ……今の威力を弾くマジックアーマー持ちは、流石にマズくねぇか」
「こんなの、当時のエリスフィア帝国の人達はどうやって倒して……って、あれ、第五大隊の人達が……いない?」
知覚を広げる。
……第五大隊だけじゃない。エリスフィア帝国から人が消えている。……どういうことだ?
空が暗い……っていうか黒い。紫輝だけが真っ白に……って。
「い──今のところ意味は一切わかってないけど、ここ『
「そりゃ……どういうこった」
「わかんないよ! なんだこれ……何が起きて……」
周囲にいるのは現実組だけ。キアステンもいなくなっている。
なぜか先に『
「──あら、ダメよ。お客さんに粗相をしては。遊びたいのならまたあとで。今はあっちにいっていて」
可愛らしい声が響く。
幼い少女の声。その声に対し、竜は……大人しく従うような挙動で、どこかへ飛び去っていく。
これは。
「……あなたは。……ああ、ようやく……思い出せました。お久しぶりです、『魔女』」
「あら、『皇帝』の口調は大人になっても変わらなかったのね」
「私達の事情を……知っているのですか?」
「ええ、聞いていたから。……改めて。初めまして、【まぎすけいおす】の皆さん。と、『橋守』さん。私は『魔女』と呼ばれている、エカスベア博士に拾われたもう一人の子供」
優雅なカーテシーと共に、少女は名乗る。
「本名は、ヨツハ・ラストピース。ふふふ、墓荒らしはいただけないけれど、世界のために、あなた達が会いにくるべきだった……どこにでもいる普通の女の子、よ」
その名前を。
***
想定される混乱は当然に起きていた。
「どういう……ことだ。どうして『皇帝』が……」
「フム。話を聞く感ジ、最初に現れた『皇帝』が偽物だったトカ、そんな話じゃないカナ」
「なんのために偽装だよ、そりゃ」
「当然、『
「なんっ……じゃあ、どうやってこの魔道具を作ったってんだ」
「別に、入ったことなくたって作れはすると思ウヨ。『
「だが……十年前のあたしらと同じくらいのガキだったぞ」
「キアステンの例があるダロ。見た目だけ、ということもあり得ル。そして、子供だからと差別するのは良くナイ。子供でも天才はいるんダロウ」
作戦が恙なく成功した。『剣士』、『助手』、……そして、『皇帝』と『博士』。
この四人を保護し、『博士』曰く「もう少しで『
その……懐かしのセーフハウスで、二人は会話をしていた。
「確かに、そうか。……クソ、あたしも頭が固くなりつつあるってか。嫌になるな」
「フフ、ボクとしては大人になったキミを見ることができて嬉しいケドネ。……ちなみに、いやホントに、『
「わかったわかった。だからそう怯えんな。キアステンとヘンリックもだが、あたしを魔物かなんかだと勘違いしてんじゃねーか。もう節度ある大人だぜ」
「う、ウーン。そうだと良いケド。……とまぁ雑談はこれくらいにシテ、真面目な話をしよウカ」
「おう」
「軽く痕跡を探ってみたけレド、あの家族は多分血の繋がりが無いネ。家族ではナイ……それでいて、とんでもなく魔導に精通してイル。ノア・ヘドクイスト以外はタブン、【マギスケイオス】ダ」
「【マギスケイオス】、ってのは……確か、世界でたった十二人にしか与えられない魔導士の称号を持っているやつら、だったか?」
「ボクも概要くらいしか知らないんだけドネ。とはイエ、どうニモ『
「探し物だぁ?」
「ソウ、探し物。見つかっていなかった最後のピース。ともかく、痕跡からは害意が見受けられないってコト。だから、まぁ、目的は隠していたのかもしれないケド、エリスフィアへ害をなそうとしていたわけじゃないと思ウヨ」
それを聞いて……メッテは、後頭部をガジガジと掻く。
「信用されてなかった、ってことか。……まぁ、最初の対応を考えりゃ妥当だな」
「メッテのことだから、今取り込み中だから、みたいに言って怒鳴ったんだロウ」
「……xxxx。十年前のたった一年間だけであたしのことを理解した風になりやがって」
「アハハ、そのスラングも懐かしいネ。……ウン。ボクも、ヘンリックやキアステンに会いたくなってきたカラ……『
「何言ってやがる。テメーはこの先八十年くらいはエリスフィアにいてもらうつもりだ。ヘンリックの孫の顔を見るまで逃がさねえぞ」
「エ。ナニ、ヘンリックは結婚するノ?」
「……」
「ワオ、黙ったネ。つまり結婚相手は──」
「──やっぱ斬らせろテメェ」
「今のはどう考えてもキミが悪いと思うけどナァ!」
なんて会話が、あったとか。
果たして──どの思惑が、どこへ落ち着くのか。