序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
千日手だ。
俺同士の戦い。それは、存在のへし折り合い、消し潰し合いになる。
魔法だの、物理攻撃だのではなく、その先にある「対象の消去」を行い合う。
因果を潰し、未来を潰し。であるがゆえに、周囲からは何も無い空間がたわみ、歪み、時折弾けている、程度にしか見えないだろう。
この世界における知識は増えていっている。霊質だのなんだの。
けれど、俺の最大値、というものは……この世界に来てから今まで大して変わっていない。
どちらかが妥協したら。
諦めたら。
勝負がつく。
この戦いにおいて不利なのは──当然、俺だ。いやどっちも俺とかの話じゃなくて。
ノア・ヘドクイストの行動理念は人間賛歌である。
であるが故に、もしなにか輝きを見せつけられたら、「それもいいかも知れない」になる。
中に俺という人格があろうと関係はない。俺はその時々の人格に引っ張られた嗜好になるから。
対し、『博士の博士』の行動理念は子供達への愛情だ。
自身が負ければそれらが損なわれる、という背水は、紛れもない原動力になるし、確固たる芯になる。
何より。
「フフフ、キミは知っているはずダネ。ボクがゼッタイに諦めないということヲ」
「……」
「
「……そんな、昔のことを……今に絡めるのか。この世界には、君の生には、一切関係ないことだろう」
「関係ないわけがないサ。ボクらの根幹ダ。どうとでもなり、どうにもなるボクらが唯一大切にしていることダ。そうでなイト、ボクらはヒト足り得ナイ。──わかるカイ。キミのイマの行いは、かつての己の否定であるト」
そんなことはない。
これは俺の信念だ。それを貫くための行動だ。
死者を……過去を平坦にし、今へ持ってくる、など。
それこそ、この世界を蔑ろにしているようにしか思えない。
「君は知らないだろう。【マギスケイオス】という集団が持つ使命を。彼ら彼女らはそのために命を削り、そのために誓いを果たして世界の礎になろうとしている。世界の平坦化はその覚悟と使命さえ台無しにするものだよ」
「論点のすり替えダネ。それに、誰々が頑張っているカラやめてあげテ、だなんテ……そんな子供の擁護が、ボクに通じるとでモ?」
「君の原動力は子供への愛情なんだろう。まず僕を愛しなよ、『博士の博士』」
「キミが子供らしい名前を名乗っていたら考えたカモ。でも『橋守』ハ、子供の称号じゃアないネ。葬頭河を断つ者の名。奈河橋を守る番人の名なレバ、外での……越竜学園の学生としてならともカク、この幻術空間においテハ上位存在の視座になっていル。生死の分け目、生き死にの采配。生者が戯れに死することを防ぎ、死者の眠りが妨げられることを嫌ウ。ヒトがヒト以上になるために渡る河。天体や神々が手を出して良い範囲。存在する二者間に必ず流れる概念の河と、そこに架かる理解、そこを繋ぐ船の出入りを管理するモノ」
……そうだ。別に、名乗るのなら『学生』とか『験者』とかでも良かった。
それでも僕は『橋守』を名乗った。その理由には、僕のスタンスが関わっている。
全て、君の言う通りだ。
「キミこそ、その生には関係のナイ哲学を持ち出しているじゃアないカ。過去が未来に追いつくコト。ヒトがヒト以上になるコト。それらを嫌う根源を、ノア・ヘドクイストは経験していないはずだロウ」
「ならば『博士の博士』は、子供達を愛する根拠を有していると?」
「"少しの間だけ、共に過ごした"。──これ以上の根拠が、必要カナ」
たったそれだけだけど。
たったそれだけこそが──俺の。
「──ひとつ、良いか。貴様……『橋守』」
「え。……あ、うん。いいよ、なに、『王様』」
「エェ! あと少しで砕けそうだったノニ!」
「そうなのか? それは、すまんな。手短に終わらせよう。……問いは二つだ、『橋守』」
遠巻きにいた『庭師』が「そこで口を挟むの本気ですか」って顔してる。
その隣で『探偵』は肩を竦めている。
「何かな」
「つまるところ、貴様が嫌がっているのは、過去を生きた者達の軌跡が消えてしまうこと、だと思う。オレの理解が合っていれば、だが。どうだろうか」
「そうだね。そういう主張だ。『博士』のやろうとしていることは、彼らの軌跡に……上から、筆で、インクをべたぁとやることに思えてしまうから」
「ならば『橋守』。過去の人々の生に、一つ何か事件を追加する、という干渉には、どのような嫌悪感を覚えるだろうか」
……?
……それは。
「それは……別に……なんとも、かな? その人を殺してしまう、とかでもなければ」
「ならば、折衷案がある。──貴様らの力を用い、この世界に住まう全ての時代・全ての場所にいる存在が、『
「……ほう。面白い案だ、『王様』。……そも、涅月や緑月は時の円環構造に即していない。どの時代から接続しても、完全に独立した時間軸にいる。それを逆手に取る、ということだね?」
「そうだ。正直オレたちではどこから着手すればよいかわからない程高度なことだが、これをすることで、全時代、全存在が破滅を認識する。紫輝歴778年に生を繋いだ存在のみが対処しなければならないこと、ではなくなると……そう考える。どう、だろうか」
──『博士』と共に、全く同一のタイミングで潰し合いを終える。
ふむ。
「結果として、それで解決できるかどうか、というのはさておいて。……それならば僕も納得ができる。君は?」
「良い案ダ。とってモ。世界の平坦化なんかせズニ、波を集めることができル。【マギスケイオス】の使命とやらも潰さナイネ?」
「僕らにとっては敵だけど、定道の企てさえ潰さない。……なんだ、それ。折衷案の癖に……デメリットが何も見当たらない」
空に涅月を形成する。
地表から見えている涅月は虚像だ。時の円環に合わせて姿を変える、物言わぬ天体。その位置の位相空間内に実際の涅月が存在し、そこでは確かに過去や現在、未来の存在しない……正確に言うと二次元的な時間の存在しない、三次元空間が広がっている。
その『
「でも……この星の、どの存在が何をしたって」
「それを決めるのも、諦めるのもキミの役割じゃアないヨ、『橋守』。キミは『橋守』であればこそ、山より
「……はぁ、そうだね。ヒトの行為を超えて、死者の術を使って魔力を魔竜に変換するやり方。それだけじゃないだろう。もっともっと、色んなアプローチが出てきて……絶望を経験する。乗り越えられるかどうかは、僕の関与するところではない。……まるで、僕さえも天体になったかのような気分だ」
僕が手を出したら……手を貸したら、意味がない、なんて。
「それで、理想論を語るのはいーですけど、できるんですか、そんなこと」
「可視化は簡単だ。虚像を解けばいいだけだから。干渉については流石に特別な手法が必要になる。……エチェロエグズル教戒院と似たような仕組みの拠点を作って、位相空間へのアクセス手段を確立させるか」
「慎重に場所を選ぶべきダネ。この世界の人間が宇宙空間で生存できる時間はそう長くないみたいダシ。可能なことナラ、地表から魔力事象を放っテ、それを位相空間越しにどうこうできるシステムだと良いカモ」
「そうか、別に赴く必要はないもんね。……高空で、高密度の魔力が滞留している場所。滞積妖雲は密度が足りない。だし、あの辺
「ファウンタウンはどーですか。高密度の魔力の塊で、魔力流の中の位相空間にあるわけですし」
「位相空間の中に位相空間を開くト、少し面倒臭い変換式が必要になるだろウネ。こっちの魔法式でオートでやるだけじゃなク、魔法使い側がやらないといけないことが増エル。すべての時代でやる以上ハ、知識や識字率についても考えないトダ。だからナシ。でもアイデアだしはありがたいヨ。どんどんヤッテ。『探偵』クンとか、凄いんでショその辺」
「ふむ。天の至泉、という場所はどうだろうか。
「うん、だから、その理由でダメだね」
……なんか含みがあるな。知っていて話していないというか、わざとダメになる案を出して、譲った? そんな印象を受ける。
そうなれば。
導かれるように……視線が、一人に集まった。
「……オレに頼られてもな。オレは……世界を何も知らぬガキだ。ああいや、老衰した記憶もあるが……」
その目が。
俺に、合う。
「……少し、先の記憶だが。……『橋守』。お前と同年代……少し幼いくらいの子供と、出会った記憶がある。新たな名を贈られた……大切な記憶だ」
「そうなんだ。僕と似ている子かい?」
「似ているのはジジ臭いところくらいだ。……そいつは、自己を犠牲にすることで、連邦のすべての人々を救った。その場に居合わせたオレたちも、な」
「へえ。僕と同じくらいには良い子かもね」
「いいや、悪い子だったさ。子供は……そんな、自己犠牲なんて……考えるべきではないから、な。……その子供は、その最期。臨界状態にあった巨大魔晶石……涅月の涙と呼ばれるものを自らごと打ち上げ、爆散した。V・D連邦は
……成程ね。
演出好きすぎだろう、オンドウ。
「一考の価値がある。『博士』、データの記憶をあげるから」
「ハイハイ、この世界の耐久度からどれほどの影響かヲ算出すればいいんだロウ。人使い荒いなァ」
「僕は今から、プロトタイプの接続装置を作り出す。君達さ、今の自分にできる最高射程の魔法を用意しておいてくれる?」
「……それは、うちの全力も期待してますか」
「そうだよ。この問題は精霊だって無視できないだろ」
さて。
プロトタイプである以上、この世界で再現できるかどうかは度外視でいいだろう。
この幻術のものを見たヘンリーが再現することになるだろうし。
空が割れる。そこに、マーブル色の……混沌が現れる。
それは粘性の高さを見せつけるかのように垂れ落ちてきて、……けれど途中で止まって、ぷっくりと膨らみ始めた。
「変換率──99.82%。位相変換式魔導レンズ『クラトゥ・ファウダ』。さて、涅月が影響を受ける直前の時間をシミュレートしてみたから、現出する緑月に対し、君達の全力をぶつけてみてほしい」
「エー。増幅はつけてあげないンダ」
「プロトタイプだからね。ノイズは不要だよ」
さて。
「──
「理の魔法──禁断:指定対象の完全破壊:最適魔法構築」
強大種族二人が己を解放する。
気高き獅子と化した『王様』は、虚空より真白の爪を取り出し。
真白の球体を生成した『庭師』は、その真白から、必要量の魔力と必要な構築式を取り出した。
……あれ、俺の『万能』に似ているけれど……真っ白だな。
まさか、
「ふむ。戦闘は正直苦手だけれど……できることがないわけではない。 たとえばこうして、障害を除去する、とかね」
……なんだ、運勢の操作?
いや……バタフライエフェクトを意図的に起こしたとでも。
「爪焔」
「──
そうして。
その……強大な魔力が、何の減衰もないままに──レンズに飲み込まれ。
緑月の地表に直撃し……巨大なクレーターを作り上げ。
涅月と、衝突する。
「はぁ……はぁ。……でしょーね……」
「ああ……特に、絶望は無い。……魔族一人、精霊一人、人族一人の……全力程度で、天体が動かせて堪るか、という話だ」
その通りだけど、僕が知りたかったのはそこじゃない。
「これ、今……はい、緑月の地表にしたけどさ。あ、幻術ね」
「ここが……」
「このクレーター、ちゃんと君達の全力で穿てる大きさになってる? 深さとか」
「それで言うなら、明らかに小さいです。うちの……さっきの全力魔法は、人族の国程度なら砂粒も残さない程に消滅させて、地表に谷を作っちまえる威力なんで」
「オレもだ。仮にも魔王の
「だよねぇ。傍から見てて同じことを思ったよ。威力が足りなすぎるって」
つまり、この空間→位相空間→涅月のある空間の二つの変換式において、威力減衰がおきているということになる。
魔力そのものの変換率は99.82%もあるのに、威力が損なわれるって……なんだ?
「……外の幻術が一段落するまで、これの改良を手伝ってもらってもいいかな」
「無論だ」
「いーですけど、幻術停止して外に出た方がよくねーですか。いるんでしょ、外に大天才が」
「ともすれば可能性を塞いでしまいかねないからね。失敗の理屈くらいは知っておかないと」
「へえ、真面目だねえ」
そうして……あーでもないこーでもないという勉強会が始まる。
「アノ! ボク一人で計算しているんだケド! ボクを手伝ってくれるコはいないのかナァ!!」
「だってその計算うちら関与できねーじゃないですか。はぁ疲れた。なんで幻術世界で疲れるんですか。魔晶石とかくださいお腹空いたので」
「はい」
「わぁ。……くぅ、幻術だってわかってるのに……涎が止まらない。いただきます」
「魔晶石か。……人族が食べると、どうなるのだろうね?」
「やってみる?」
「いや、遠慮しておくよ」
まぁ多分、内側からグニャァのドパァンのビチャーッ! だろうねぇ。
……過去に一人くらいいそうだよな。そういうこと試して死んだ奴。
ま。
……あのまま『博士』と潰し合いにならなかったことは、本当に感謝するよ、『王様』。
お前の足取りが、その最期が。
幸福に満ちたものだったのなら、何よりだ。
*
過去のエリスフィア帝国三日目夜。
夕方頃には
ヘンリックと『博士の博士』が開発した魔道具で、【マギスケイオス】たちは現代へ帰る運びとなった。
「さようなら、未来の私。今の私には【マギスケイオス】のことなどさっぱりわかりませんが、何か使命があるのでしょう。それを成し遂げてください」
「……そう、ですね。ただ……私の記憶では、このあたりで『先見』との接触があったはずなので……もしかしたらあなたは、私にはならないかもしれませんね」
「そもそも『皇帝』はおれたちと冒険者やるんだから、魔法大好きクラブになんか入んねーって」
「おれたちと、って何よ。私はついていかないからね?」
みたいなやり取りや。
「キアステンさん。お一つ、伺ってもよろしくて?」
「え、あ。なにかしら」
「その……あなたは、夫を亡くした後にもう一度他の誰かと婚姻を結ぶ女性を、どう思われますの?」
「別に……どうも? いいんじゃない? ……劫白の国にいった夫さんだって、いつまでもいつまでも引き摺られていたら心労が絶えないだろうし。忘れろってわけじゃないけど、次の愛を探したって良いと思うわ」
「……ありがとうございます。──聞いていまして、『業運』。帰ったら、在り得るかもですわよ」
「はぁ? お前……何言ってんだよそりゃ」
「だって、『
「……アルカ。未来に帰ったらよ。どうにかしてこいつをぎゃふんと言わせてえ。手伝ってくれ」
「私は楽しそうな方につくよ~」
みたいなやりとりとか。
そして。
「未来、か。……どうなっているんだろうね、『博士の博士』」
「ウーン。案外今とそう変わらないカモ。未来にもヘンリックがいたりシテ!」
「っ、それは……」
「エレオノーラ、落ち着いて。今のは多分ふざけただけだから」
「エ? ボクなんか酷いコト言っタ?」
「……お前らってさぁ、今生の別れでもなんにも変わらねーのな。……おら、定刻だ。さっさと魔道具を起動しやがれxxxx共」
「そ、そこまで言わなくとも……。おじさんちょっと……同情しちゃうぜ」
白い箱の魔道具が、そうして起動される。
真白の反物のようなものに包まれていく四人。
そうして、全てが覆われて。
気付けば──越竜学園の給湯室にいた。
「……『
「そして、彼女。『魔女』がその解決の一助となってくれると思います」
学園長室にて……胡乱な目をしたヘンリーが、コンストラクトの形で編み出された『魔女』を見る。
数瞬の沈黙。
「現在観測できている魔竜、その最大サイズは28athl。その時に使用されたとされる総魔力量は推定で5,000兆Etrだった。これは紫輝からこの大地に降り注ぐ魔力量の、約四か月間に大地全体が受ける総魔力量に匹敵する」
「……すぐには……想像のつかない数字、ですね」
「そんな魔力量、扱えるかしら……」
「そう。まずそこの問題があって、そしてそれらが完璧にできたとして。『
「……それは」
「それで? その中心に生成される
わかる。何が言いたいかくらいは、ここにいる全員が。
「じゃ、『魔女』さんだっけ。その魔法を見せてくれるかい。できるだけ大衆化して効率よくしてやらないと。越竜学園の他にその魔法を効率よく使うためだけの魔法学院も作らないとかな」
「え……新しい方法を考える、じゃないの?」
「無いでしょそんなの。っていうかあるかもだけど、
あまりに突き放した態度だった。
いつものヘンリーではない。あるいは彼も、絶望というものをしているのか。
「じゃ、倍速で、あと七年。あっさり世界を救おうか」
そこから始まるは、絶望のカウントダウンか、希望に満ちた克己の階段か。