序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
曰く。
「最近の涅月はお客様を迎えたり竜を迎えたりして忙しいのだけれど、そのお客様の一人からくいん・じぇっく・かいんさんに伝言? というのがあったのだわ。だから私が直接伝えに来たのだけど」
「おじさんに? ……つかノクスルーナっつったかアルカ」
「あ、うん。この子はノクスルーナちゃん。涅月の化身、って言えば良いのかな?」
「あ、これは失礼をしたのだわ。はじめまして。私はノクスルーナ。そろそろお姉さんぶりたい年頃になってきた、お空で真っ黒に輝く涅月様、なのだわ」
若干引いた感じのクイン。まぁ、その反応になるよな。
「あ、ああ、こりゃどうも。俺はクイン・ジェック・カインだ。ジェックでもカインでも、好きに呼んでくれ」
「ええ、なのだわ。……それで、伝言を再生するのだわ」
再生? と皆が首を傾げていると、ノクスルーナの口から──聞き覚えのある声がする。
「"これで、良い感じかな。……こほん。皆さん、お久しぶりです。初めましての方もいるのかな"」
「"やっほー、あたしに会えなくて寂しかった? みんなの銀・結糸ちゃんだよー!"」
「"直接顔を見合わせんでもわかるわい。……『財宝』も『最小限』も、つ、次会った時には優しくしてちょ"」
「"ってあれ? ライっちは?"」
「"別に話すことは無いから、やりたいことをやる、と"」
「"ちぇー。相変わらず集団行動×だねー"」
みんなが探しに探していた『不死』と『蓋然』。さらには『悪意ある大賢者』に……名前が挙がっただけだが、『別界』も。
一瞬思考を巡らせればわかる。
つまり──涅月にいたのだ、と。
「"皆さんも気になっていることでしょう。果たして私達がここで何をしていたのか。ま、簡単に言えば、皆さんの状況を作り出していたのですよ。この閉じて止まった円環を前に進ませるために"」
「"世界のオワリが、あたしたちの作った結果ってこと~?"」
「"ええ、それでも、前には進みました。『実行者』は『理解者』からの助言を突っぱねるけれど、時を経てそれを思い出し、本当の意味を知るも、時既に遅し。己を殺すでもしなければ、何事も成せない。覚え、あるでしょう。特にエレンさんとアルカさんには"」
「"儂らはちょーっと工作をしててのー。それを打破するために、十年も使ってしまった。もうちょっとでそっちに帰りはするし、破局を前には協力もするから、そ、そんなに怒るでないぞ"」
この世界というものの仕組み。それを利用し、解決の糸口を作り上げたのが彼らである、なんてそんな荒唐無稽なことを。
……疑う者達は、いない様子だった。
「"そこで、だ。ジェック、少しお願いがある。私達はこれから、他の天体からの干渉を避けるために
「はぁ!? ちょ、呑気に……クソ! 『業運』! それは"明日いいことありますように"なんて祈る当然を行使する者の諱!」
おお。確かに……いるな。上空からフリーフォールして来ている集団が。
はたして『業運』は……機運程度でどうにかなるものなのか。
落下物に急な減速がかかる。他方から……その速度を止めるためのものが押し寄せている。
それでも止まらないそれらだけど、地上にあった幾つかの店舗の旗やテントが風で巻き上げられて、落下物に付着。それが偶さかパラシュートのような役割を果たし──。
どさ、と、華麗な着地を越竜学園は室外運動機能場にて決める、トラッドの姿が──。
「──
「──
「ちょわーい!? 二人揃って炎属性のバ火力魔法!? 儂ら死ぬけど!? 『不死』といえども!!」
「ちょ、おこんないでよー。こっちだってトラッドに連れていかれただけなんだからさー」
「危ないですねぇ」
アルカとエレンから飛んだ炎属性の魔法。それを事もなげに叩き落すトラッド。
……って、あれ。
「『別界』の人は、いないんだね」
「ああ、はい。ライゼンはまだやることがあるので、涅月に置いてきました。……初めまして、ノア・ヘドクイスト君。この時代における最先端──最後の
「え! っていうか、迷い家さんいるじゃん! なになに、もう最終局面なの!?」
「……フン。また煩いのが来たな。……レンズの件には協力してやる。それ以外は、まぁ、このガキの態度次第だ。──じゃあな、アルカ。魔力マニュピレータについてはまだまだだったが……天体を作る魔法は、見事だった」
「あっ、『教授』……行っちゃった。……。……へ? ちょ、やっぱり見て……!?」
「あ、そーじゃ儂、『時渡』に用があって……どえええええ!? ネイトアリス!? な、なんでここに……」
「へえ、そっちで呼ぶんだ? なら、そっちで相手してあげる。みんな、話を進めるならやっていて。私はこのお爺さんで遊んでくるから」
「と! と!!」
トラッドから「場がカオスになりつつあるから幻術を使ってくれませんか」という視線が飛んでくるけど、こんな場所で使えるものか。
このカオスはお前が受け止めるべき事情だよ。心して取り組めっての。
さて。ナタリーによるフラニー老への折檻も終わりを告げて。
トラッドたちがいなかった理由と、オンドウによってもたらされた破滅。及びそれへの対抗策についての共有が終わった。
「ふぅむ。……ヘンリー・エカスベア。現時点で、魔法的に何が必要だと考える?」
「レンズの基礎概論については共有を受けたし、構築済みだけど……欲しいのは、『魔女』の魔法を踏襲した、
「ほう。……もう辿り着いておったか」
精霊の生み出し方。
それは。
「魔竜では、ユランクラスでないと……いえ、ユランでも容量限界があるところを、精霊の形にすることで、実質無制限に魔力を詰め込める、と?」
「うん……まだ空論段階だけどね。ノクスルーナさんという存在は、かなり……助けになった。恐らくだけど、オンドウさん……あ、『先見』さんの方の読み通り、緑月に手を出す手段は、ない。だから……涅月が一度滅びを迎えるのは、確定……かもしれない」
「ふえーん、なのだわ」
「けど、あくまで一度の、だ。この大地の人々が何度も滅びを経験しても滅んでいないように……涅月で起こる滅びをやり過ごす方法はあると見ている。……そして、緑月を吸収した新たな涅月が出来上がり……その際に発生する全ての魔力で作り上げる精霊は、実質的に、ノクスルーナさんの姉妹になる、のかな」
「──妹!? 妹ができるのだわ!?」
うわぁ。ヘンリーのやつ、もうノクスルーナの扱い方を……。
ほんと、あいつが悪人じゃなくて良かったよ。
「星三つを消し飛ばす魔力で作られた精霊……暴発や……悪意を持つかもしれない、みたいな危険性は、どう考えますの?」
「そんなのすべての精霊に言えることでしょ……。僕らが口を出す話じゃない。僕も君も、悪意を持たば、世界を動乱に導ける。それをしないのは、まぁ、良識があるからだ。……なら、それは、教育でどうにかなるんだろう」
「わあ、それってロマンチックなのだわ。滅びの化身たる、いわば破滅の精霊が、良識を学ぶために学園へ……その時には私も通うのだわ!!」
ふむ。良いかも知れない。
この破局を乗り越えたとて、竜災の危険がなくなるわけじゃないからな。対竜学園に入学予定のエコーやナタリーの友達に、その破滅の精霊とやらが来るのは、中々面白い。
だが。
「問題は、どうやってその魔法を扱うか、だね。今から『不死』と『時渡』が合作したとて、人間が使い得る構造に仕上げるまでに最低一年は必要だと見ている。しかも一人で扱えるものではなく、複数人で制御するものになる。……色々な糸口が見えたからって、時間制限が変わったわけじゃないことは忘れないでよ」
「わかってる……。それに、魔法的事象はこれでどうにかなるとしても……物理的な衝撃は消せない。だから、涅月と緑月が融合する前に……緑月現出から涅月衝突までの短い時間で、僕らはしっかり緑月を破壊しないといけない」
「破壊、ですか。……人一人の魔法で、天体を破壊なんて、できますの?」
「正直できないと思っていた。何人集まろうと……人間が天体を破壊する、なんて。……けど、緑月の何倍もの大きさの天体を、たった一人で作り上げた魔導士を……その偉業を見せつけられちゃったからね。計算は、し直しだ。少なくとも……考慮する価値がある」
いや本当に。
俺も驚いた。アルカがそこまでやれるとは思っていなかった。
あれは幻術の中だからできたこと、じゃない。現実世界でもできる。消滅した星を、アルカの命と引き換えとはいえ、たった一人の犠牲で星が存続する奇跡を引き起こせる。
ヘンリーがやるべきは、その犠牲の一人を出さないように、それと同じくらいの偉業を構築すること、だ。
「トラッドさん。……あと、銀・結糸さん。今から学園長室に来てくれるかな」
「おや、私ですか」
「へ、あたし? あたし一般的な魔法の事なんにもわからないけど、いいの~?」
「むしろ今回のことに一般的な魔法なんか使わないからね……。……のちのち合流はするだろうけど、各自でやるべきことをやらないと。……僕はレンズの検算をしながら、破壊の魔法についてを考えるよ。刻限は八年。いや、七年と無いと見た方が良い。時間は大切にしよう、みんな」
「……ネイトアリス。『財宝』の諱について、少し伺いたいことがありますの。一緒に来てくださいます?」
「良いけれど、そろそろ私のことは、謎の編入生のナタリアちゃんとして扱ってほしいかなー」
「時間がないので、早く」
「はぁい」
そう言ってヘンリー、トラッド、銀・結糸。エレン、ナタリーの組み合わせが捌ける。『財宝』ズはともかく、前者は意外な組み合わせだ。
「……ああ、そうでしたら、『不死』。私についてのことでご相談があるので、『時渡』のところへ向かうついでにお話良いですか?」
「ひょ。……うむ、構わぬ」
フラニー老と『皇帝』が。
「んじゃ……おじさんはちょいと、魔王様にでも会ってきますかね。伝言を頼まれたんでな。……ついでに『
「またね、クイン」
「おう。……その呼び方で思い出したが、どっかにいるはずのリュディも見つけてくる。じゃあな」
クインが。
残されたのは……俺と、アルカ。
「さて、じゃあどうする? このまま解散で良いかな」
「んー……ちょっとショッピングに付き合ってほしい、カモ?」
「呑気だね。良いけど」
何を言いたいのかも、理解はできるしな。
過去とは全然違う様子のロペル。竜災の影響もあって閑散としているそこを、二人で歩く。
「わ、このネックレス綺麗」
「そうだね。魔法的価値は無いけど、綺麗だ。買う?」
「……んー、いや、いっかなー」
みたいに冷やかしながら回る。
回って。
いつぞやの。
クインに呼び止められた場所と、全く同じ場所で。
「ノア君ってさ。……『教授』、じゃないん……だよね?」
「またその話? 違うよ。いや何を以て違うって言うのかは知らないけど」
「そうだよね。……そうだよ。だってさっきまで、『教授』は、別にいたわけで」
ナタリーの創作、大元は別にいる云々が攪乱しているとみたね。ナタリーめ。本当に余計なことしかせん。
コンストラクト……は、もうアルカにはバレるだろうしなー。
……流石にこれには、反応せんよ。空気くらい読む。
「うん……ごめんね、おかしなことを言っちゃった。……君が、そうだよね、うん。……トラッドも言っていたけど……『教授』が、英雄になるはずが、ないし」
「……僕はまぁ、幻術の術者だからさ。ダヴィド先生が……どれほどその人を想っているか、っていうのは、まぁ、聞いちゃったわけなんだけど」
「む。……悪趣味」
「まぁ聞いてよ。……だから、なに。軽く話してみただけで、彼や……『博士の博士』とは、話が合うんだ。話の……階層とでもいうべき部分が」
「ああ……うん、そうだろうね。ノア君頭いいし、魔法についての理解もすごいし……合いそう」
「だから……なんか聞きたいこととか、あと、探ってほしいことがあれば……受け付けるよ」
「ううん、いい。……私と『教授』の共通言語が魔法だけ。それはもう、わかっているから」
そうだな。魔法。魔法戦。
それ以外では、想いなど、もう。
「ナタリアちゃんとは、長いの?」
「まぁ、そこそこ? 六年目とかかな」
「へえ、じゃあ、ラブラブなんだ」
「ちょっと表現が古いカモ……」
「ぐさぁ!? ……そ、そうなんだ。今は何て言うんだろう……」
無理に元気に振る舞っていることはわかる。けど、俺は……すまない。
何もしてやれないよ、アルカ。前にも言った通りだから。
「出会いは、どんな感じだったの?」
「最初に会った時、ナタリアは血まみれだったんだ。その時はお互いの名前も、というか声すら知らなかったけど、急いで治癒魔法をかけにいったら、これは全部返り血だから大丈夫、って言ってきてね」
「へー」
雑談をするしかない。それを……慰めとするしかない。
そうだ。『博士の博士』に言われた通りだ。俺は……俺の根幹には、ずっとずっと"彼女"がいる。だから振り向けない。だから手を取れない。
俺は彼女しか愛さないと、そう決めたから。
「……ダヴィド先生の方は?」
「私? あ、あー。『教授』との出会いか。……まぁ、恋人でもなんでもないケド……それでもいい?」
「もちろん」
「……ゼルパパムのね。国立大学。私はそこに通ってたの。……その時から既に『最小限』だったけど、学歴が無かったから……そこを卒業して箔をつけろ、って、そう言われてさ」
「学ぶことは、なんにもなかったの?」
「ううん、そんなことなかった。基礎的な数式とか、導魔学とか、そこそこ面白かったよ。……そんな日常が……そこそこでしかなかった日常が、一気に面白くなったのは、『教授』の……モーガン・カルストラ教授の授業を取ってから。……刻印魔法学なんかさ、『最小限』ど真ん中だから……在野の講師から学ぶことなんかないとか……ちょっと、思ってた。ひねくれ娘だった。……けど、あの時はなんでだっけなぁ。確か、噂を聞いたはず。勉強が楽しくなったとか、あの授業なら全コマ入れてもいいかもとか……同級生の、国立大に入ったくせに不真面目寄りの子たちがそう話していたのを聞いて、興味が出たとか……そんなことだったかなぁ」
……まぁ、面白い授業、については……ヴァルカンの頃から模索し続けたことだしな。
「それで、出てみたら……世界が変わった。刻印魔法についての内容そのものは、普遍的なものだったけど……その講師の刻印は、その場で私が真似することのできないくらい綺麗なものでね。師匠さえ超える人がようやく表れた、って……その日の内に彼の研究室にも参加して」
「へえ。行動力の塊だね」
「あははっ、考えなしなだけかも。……思った通りだった。モーガン教授は本当に凄い人だった。……まぁ、とんでもなく偏屈な人でもあったけどね」
「教授あるあるな気がするよ、それは」
「確かに。……教授がブレイクスルーを発見した時も、一緒にいた。楽しそうに刻印を刻んでいくその横顔が……多分、最初に好きになったところ、かな。……その頃はまだ、あくまで教授の刻印行使が好きなのであって、恋心があるわけじゃない、とかって誤魔化していたけど……今にして思えば、多分あそこが最初に自覚をしたところ。そこからもう、目が離せなくなって。……偽悪的な口調なのに、やることなすこと、世のため人の為になることばかり。そんな教授に【マギスケイオス】の……『最小限』の席を薦めたこともあったけど、断られちゃった」
アルカの口から語られるモーガン像を聞く。
……ただ、ひたすらに。
「ついてくるか。彼はそう言って……私を世界に連れ出した。あの日私の世界は変わったし、あの日私の人生は変わった。師匠がそうだったから、って受け継いだ『最小限』を誇らしく思うようになったのもこのあたりから。……けど、その後……レスベンスト冒険隊との出会いの後に……モーガン教授は、死んだ」
「……」
「時の魔王に、殺されてしまった。……エレオノーラの弟なんだって。この辺複雑なんだけどね。……あの時のことはよく覚えていないけれど、引き戻してくれたのはエレオノーラとレスベンスト冒険隊の皆だった。……そこから、レスベンスト冒険隊をしながら、【マギスケイオス】本来の使命に戻って……ぽっかりと空いた心の孔を埋めるみたいに、なんでもかんでも引き受けて……。……その中で、モーガン教授が、迷い家現象と呼ばれる広域魔法現象の派生者である、というのを知ったの」
魔法現象、ね。
まぁ……間違っちゃいないんじゃないか。
「色々言われたけど、私の心に去来したのは、一つだけ。……また教授に会えるかもしれない、って。……そう思った」
「……結果として、また会えた、ってことだよね」
「うん。無かったことになった記憶だけじゃない。実際にまた。……でも、ちょっと、違う気もしているの。まるで……誰かが見よう見まねで作った『教授』って感じが」
「……」
「多分他の人に言ってもわかってもらえない。……そして、その些細な違いを。……君に、感じているの」
「……そうかい。けど」
「あ、わかってる。違うのは。……というか、その些細な違い以外の部分は、君と『教授』は違い過ぎるから。違う度合いで言えば、君の方が違うから」
……死者との再会は、嫌いだ。
それは死の冒涜に他ならない。
けど。
......、
「君の記憶に対し、ザイカさんにかけたものと同じ幻術をかけることもできる」
「え」
「……君が本当に会いたい人に、会いにいける。……そう、言っている」
お前が本当に愛していた時間に。
過去の、ゼルパパムに。
「……ううん、大丈夫」
「……」
「それをやって、会いに来た私を見たら。……モーガン教授は絶対にこう言うよ。──そんなことをやっている暇があるのか? って」
「……そっか」
「うん。あの人は、過去を振り返るまでならともかく……過去に行って、思い出の安寧……そういう泥に浸かって一緒に沈んでいこうとする人じゃない。私が好きなあの人は、常に前を向いて進み続ける人。私の手すらも振り払って……夢に向かって邁進し続けるあの人のことが、好きなんだ」
……。
ああ、そう、だな。
その通りだ。
「ありがとう、ノア君。……君も、私のことなんか気にせずに、前へ進んでね」
「うん。ただし僕は、全員引っ張り上げるつもりでいるよ」
「あれっ、この件には手を出さないんじゃなかったの?」
「だから、全員をこの破局と対面できるよう引っ張り上げるんだ。その先は、知らない。破滅をどうにかするにせよしないにせよ好きにして。僕は宇宙でも生きていけるし」
「さ、さすがノア君……。……うん、わかった。どうにかするために頑張るよ」
わかっている。
その言葉が、どういう意味かくらい。
でも、いつか。
その時が来たら。
よくやった、くらいは……言わせてくれ。
それが、せめてもの──。