序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
室内運動機能場。
戦闘というものを行うのに余りある広さのあるここに敷かれた、「整合」を前提とした結界。
これだけでも見る価値があると集まる学徒が多かった。「整合」……つまりその時代に知っているべきではないことが、この教戒院を出た際に勝手に封印される、という魔法。一聴してこれを受けたくないと思う存在も多かろうが、逆に言えば「整合」を受けねばならないほどにまで卓越した内容を見ることができる、ということでもある。
普段の雑談……未来から来たものの話す内容もこの対象になることは多いが、魔法技術や戦闘技術にまでこれがかかることは少ない。
どれほど未来の戦いなのか。
そしてそれを、この教戒院においても有数の実力者に数えられる三人を敵に回した少年が行うというのであれば。
シュライン、ローレンス、モーガンを好ましく思う「層」だけではない、この時間の教戒院にいる者が全員来たのではないかと思うほどの人数が、そこに集まり始めている。
観客席の増築を瞬きの間に済ませた『院長』さえ眺めているとくれば、期待を高めに高めている中で──始まった。
開始直後、少年の身体から溢れ出た魔力に息を呑んだのは魔族たちだ。
特に特殊な魔族である者達は、それを理解できる。
「あの子……人族、よね?」
「あれでは、まるで……『
「否。『
鐘が鳴る。鐘が鳴る。
幻想世界が降りてくる。
既に先程までの運動場ではない。どこかの草原。黄金色の地面と、天上に広がるは白銀の街。
天を見よ。天を仰ぎ見よ。
五十二の光弾。三十六の翼束。二対五辺の外暈。
飛び上がり、浮かび上がり、魔力に揺蕩う嬰児を見上げろ。
「呆けて見入るのも止めはせぬが、学びを忘れるな。アレは再現の利かぬ教本だぞ」
耳に入るその声に、ようやく我へと帰る者達。
そしてすぐに己の解析魔法で、あるいか紙とペンで、その事象の記録を始めた。
何がどうなってこうなっているのか。たとえ外で「整合」されてしまうのだとしても──ここで、知りたい。理解したい。
「音の魔力だ。とんでもなく濃密な……」
「それに、多分刻印魔法だぞあれ。あの三人と対峙する時点でわかっちゃいたが……」
「我々の仮想演算領域に刻まれた刻印が、彼を強化しているのか。音と歌の響きで、聞くもの全員に同じ形を想起させる。実際にこの光景を見たことがあるがゆえの幻想だろうな」
「えっ、あ、そっか。ここ幻術空間なんだ。気付かなかった」
流石に教師陣が早い。だが、生徒も食らいつくように解析を進めていく。
「シュラインが……前衛か。ローレンスがシュラインの治癒をしつつ細かくガードし、モーガンの最大出力を邪魔させない魂胆のようだが……」
「直接殴りに行った方が良くないか? どこまで行っても歌だってんなら、歌わせないようにすれば勝ちだろ?」
「……幻術か? 歌が二重に聞こえる。……違う、本当に……二重に歌っていないか」
やがて、言葉が紡がれる。
──
雨が降る。極彩色の雨。雨の形をした、魔力砲。
凄まじい勢いで発射されるソレを前に……少年が一人、息を呑んで。
「……『院長』。……あれさ。……横やり入れちゃ、ダメかな」
「……フッ。良い、儂が許す。あやつに何か言われようものならば儂の名を出せば良い。──あの少年の名は、ノア・ヘドクイスト。儂がこのエチェロエグズル教戒院を作ろうと考えたきっかけである子供。おぬしらがアレを見て戦いたいと思うのであれば、それは」
驚いた顔をして……そして、ほとんど見ることの無い、優しい笑みを浮かべた『院長』は。
「儂が奴に出す、集大成という名の答えなのだろう。……命を削る技以外はすべて許す。アレは竜すら単身にて撃滅する者。心してかかれ」
「っしゃあ! いくぜいくぜいくぜ!!」
「わ、私も!」
「食指がさぁ、もう、止まらなくってさ!!」
紡いだ言葉にやる気を出して、開いた結界に入っていく者達。
魔法の雨の中を、持ちうるそれぞれの防御を携えて。
「……良いですね。子供達が……ああも」
「儂は、おぬしらも止めてはおらぬぞ」
「……では、ちょっとだけ」
認めた。
あの小さな少年は学徒ではなく、教師であり。
そしてこの場にいるものすべてが学徒となったのだと。
一瞬だけ、少年からの流し目が『院長』を向いて……それに得意げな笑みで返す彼に。
ソレが、本腰を入れ始める。
***
刻印で引き絞った魔力砲による絨毯爆撃。
それが……防がれ、そして治癒の魔力に変換されて行くさまを見届ける。
結合解除魔力の薄れた先にいたのは──モーガンたちだけでない、数人の子供と、数人の大人。
あいつを。……『院長』の方を見れば、自慢げに返された。
……お前も俺を討ち果たすべきものと見るか。
「お前達……我慢できなかったか?」
「当たり! ずりぃじゃねーか、お前らだけよ! あの『院長』が認めるほどの奴となんて、外界へ帰ったところでいつ出会えるか!」
「こんなに魔力素に干渉できる人間がいるなんて……全部、防いであげるから、三人はいつも通りの大火力をお願いね!」
「……これは、これは。……構いませんか? ノア・ヘドクイスト君」
「無論だよ、旧時代。君達がいくら集まったところで僕の足元にも及ばないことなんて自明だ。その上で見せてほしい。この場所の結集を。僕の時代にいなかった──武の英雄たちを!」
散らばっていた魔力を練り上げる。
魔力砲で空間に刻み付けた傷を用い、別種の刻印を刻み込んでいく。
「ジェーリオ、足元壊せ!」
「あいよぉ!!」
長い棍を持った少年。ジェーリオと呼ばれた子が、その背丈からは考えられないほどの震脚を見せる。
……空間に、傷がついた。それにより破壊される足元の刻印。こっちができるならそっちもってか? 慧眼だな、モーガン・カルストラ。
だが、遅い。砲弾は既に完成した。
「──
「火・炎・風・雷属性の剣状魔力砲! 付与するべきは耐靭性、属性耐性加えて、行けぇ!」
結界……防壁。……なんだ、あの子。この一瞬でそのレベルの壁を作れるのか。
俺みたいな……雑な位相結界によるなんでも防御じゃない。全部見切って、必要量だけだ。
「シュナ、続けて砲塔お願いできるかい」
「お任せあれ!! 直径36! いっけぇ!」
「合わせます。誤射の類は気にしないように」
「これは、久しぶりに──魔剣を使っちまうかなぁ!」
シュナというらしい少女。結界を丸め、砲塔とし、そこへシュラインが魔力結晶体を詰めた。威力は出ないが、魔力結晶の散布が狙いか。
背後から強襲してきた魔族の子、虚空より魔剣を取り出した教師、そちらに散った意識の隙を突いてくるもう一人の教師。
四方を全て潰す同時攻撃。凄い練度だ。普段から合わせているのかな。
凄い練度だけど。
──魔剣の腹に手を当てて軌道を逸らし、もう一人にぶつける。
強襲してきた子の足を掴んでシュラインのその砲弾に当て、自分はさらに高くへ跳躍する。
円環。霓環。
魔力スペクトルを円形に並べ、その一つ一つに膨大な魔力を並べていく。
「あいつ、格闘もできんのかよ!」
「魔法を……使いながら、身体強化をしなかったか、今」
「……できていておかしくはないでしょう。彼が未来から来たのであれば」
手ぬるい。手ぬるい。
こんなものか、旧時代。『院長』の手掛けたページの皺は、やはりその程度にしかならないのか。
新たなページを紡ぐほどには。
「みなさーん。身を寄せ合って、得意属性を放出してくださいねー。このシュナ・シュラッキースの名に懸けて! 絶対に守ってあげますから!」
「……集中する魔力が結晶化してきているね。ローレンス」
「大丈夫、わかっていますよ」
「ラッキー、俺の守りはいらねえから、他の奴らを守れ。俺は、食える」
「わかってますよ!」
全属性・全砲門集中。
中チャージ最大増幅。──命は取らない。そんなことをしに来たわけではない。
だが──叶うのであれば、これで終わりにならないことを祈る。
「ジェーリオ、蹴れ」
「トレイルホーン!! セット、ンン~ッ、ダブルレンジ!!」
ジェーリオ少年の足に、魔族の子が乗る。
なんだ。シュナという子による防御の後何かをしてくるものだと思っていたが。
……良いぞ、何かができるのならば、期待しよう。その上で。
「──
十の砲門から繰り出すは極光。
それは防御を固めたモーガンたちに直撃し──。
「らぁあアアアアッ!!」
「……魔力を、直接食べているのかい。強靭な胃……というか、肉体だね」
刹那の後、腕甲によりて殴りかかってきた魔族の子の一撃を受け止める。
魔力の奔流。それを足場とし、食らいながら駆け上がってきたように見えた。……かなり特殊な生い立ちに見える。
頭部を捻ってローレンスのメスによる一撃を避け、受け止めていたその子の腹に蹴りを入れたあと、追加詠唱という技能で砲撃に後追いをかける。
殺気。ふわりと倒れるように躱せば──そこを、ノア・ヘドクイストの身体すら切り裂きかねない一撃が走り去っていった。
……今まで隠れていたのか。また新顔だ。
「外したか! すまぬ!」
「謝るな! 謝る暇があったら次も頼む! 多分有効だ!」
「承知!」
侍……にしては、英雄すぎるな。霊脈上アスミカタに英雄は現れないはずだから、被れか、血の流出か。
「はぁっ……はぁっ……うふふふ、ふふふふふ!! 全属性による、一斉掃射……解析、蓄積、隷属完了……!!」
「シュライン、合わせろ。"反射"と"世界"だ」
「いいね、やりましょうか」
……さっきのを、受け止めただけじゃなく、……操作権限を奪われた?
へえ。へえ、やるじゃん。そんじょそこらの精霊でも無理だぞ。……ただし、他人のものを扱うのなら、少し気を付けるべきだ。
「っ、シュナ、手を放しなさい!」
「へ? ──きゃあ!?」
炸裂する魔力。操作権限を奪われてから炸裂したのではなく、炸裂が起きないように最初から操作していただけ。俺の制御が外れた瞬間に炸裂するだけ。
刻印の使い方に遅延概念を持っているローレンスだけが気付いたな。その辺の前提知識はやっぱり均されちゃいないか。
「そら、君ヒーラーだろう。直しに行ってあげなよ」
「くっ!」
彼女の方へローレンスを蹴り飛ばした──その瞬間、
殺気の方向は右。気配は左。ブラフ、じゃない。どちらも本物──鏡に映った
一人目は。
「行っけぇ、ミロク!!」
「応さ直伝!! ソーズカ断ちィ!!」
正面……蹴りによる射出の、最短経路。左右のはモーガンとシュラインの模造構造体か。
そして……直伝だって?
発音も上手くできていないのに。……けど、威力だけは本物だな。
英雄の生まれないアスミカタで……俺のアレを原理を正しく見抜けた奴がいて、そいつが他の国で……英雄足れるこの子に技術を?
あるいは……この教戒院で、という可能性もあるか。
「……ぐっ、進まぬ!」
「そもそも刀でやる技じゃないよ、それ。……誰に習ったのかは知らないけど」
「なんだと!? この技は師だけが知る、邪竜を断ち切った技! 未来の子供だかなんだか知らぬが、そのような戯言──ごあっ!?」
侍君が蹴っ飛ばされる。魔族の子だ。
「うるせぇ、ミロク。相手が未来から来たんなら、どういう可能性だってある。それだけの話だろう」
「……その通りである。すまぬ、集中を欠いた」
「その上で……シュラインとモーガンの鏡像どっちも直撃してノーリアクションってのは、どういう了見だ」
「だってそっちは魔法だろう。魔法は性質上どれほどセキュリティを高めても敵に操られる可能性がある。あの子が見せた通りだよ」
「……道理だな。──自己紹介だけはしておく。アルフレッド・"ソロウ"・マリア。獅子の魔族だ」
「ふぅん、予知名持ちか。将来有望だね」
……アルフレッドさんか。
成程、納得の戦闘力だけど、まだまだ発展途上。
「行くぜ、未来のガキ」
一呼吸の後──
身体を膨れ上がらせ、はち切れんばかりの魔力を纏う彼に──蹴りを、突き入れる。
「!?」
「いちいち驚かないでよ。魔獣形態なんて腐るほど見てきた。未来じゃ魔族と人族が共に高め合って災厄に挑んでいる。それがどういう仕組みなのかも、個人差でどれほど違いがあるのかも、全部知ってるんだよ」
「……侮っていたのは俺も同じか。……楽しいねぇ、そりゃ」
弾けるように飛び出してきたアルフレッドを上空へ蹴り上げる。そこで精神集中をしていたミロク君にぶち上げてそれを乱し、同じく刻印を刻むために集中していたモーガンとシュラインに、隠蔽魔法から出てきた教師二人を蹴っ飛ばす。
そして──手刀の形を取って。
「──まずい、あの気の形は……皆の者──回避に専念せよ!!」
「葬頭河断ち」
子供の腕でやるものだけど。
本家本元という言葉をよく味わうといい。
散乱していた魔力結晶も、鏡像がつけた傷も、簡易的に作られつつあった魔力の雲も。
全て台無しにする、"切断"。
雨が降り、河を断ち。
後に残るは、潮に浚われた平坦なる浜だけだろう。
──全滅だ。あの三人以外。
「わかっている。油断はしない。シュライン・ゼンノーティ。モーガン・カルストラ。ローレンス。君達が最後の最後まで意識を保つことまで理解している。ゆえに──四重開門」
先程使った全属性砲門を、四基。
虹霓の輪。それを四つ並べて中空で謡う。
「武術では倒さない。君達には刻印をぶつける。……さっきの魔力砲とは違うよ。わかっているだろうけれど、この四つ全てが刻印だ」
「……ええ、見えています。読めています。……僕の知る全ての刻印で、それが作られている」
「そうだ。そうだよ、シュライン。シュライン・ゼンノーティ。……すべては君から始まった。君はその言葉の意味を知らないだろうけど、僕は君を特別視している」
だからカズラたちには積極的には関わってこなかった。
シュライン・ゼンノーティ。ケレン・マイズライト。この二つの生は、その後に
「……確かに、その言葉の意味の全てが分かるわけではないけれど。出し惜しみはしたくなくなった。……これは、『整合』の中でしか使えない技術だ。それを理解した上で──君にぶつける。──
「……!」
「魔鉱石を魔晶石にまで昇華する……この加工は、禁忌であるべきだ。その上で、それを使う。それを魅せる。……この魔晶石なら、その四つを押して返せるリソースを」
言葉は最後まで紡がせない。
霓環。十の魔力を魔力結晶とし、二百五十六万の魔力マニピュレータでこれを魔鉱石に特殊改造し、さらに魔晶石まで持っていく。
計四十の魔晶石。たった一つで国が消し飛ぶソレを。
「そ、んな……」
「魅せるというのは、こういうことを言うんだ。シュライン・ゼンノーティを矢面に立たせ、それぞれ三つの魔晶石を作り上げていたモーガン・カルストラとローレンスの魂胆も見えている。出し惜しみをしない全力が。禁忌が! たったそれだけなのか!! 君達は結局、誰かに教わったことしかできないのか!!」
俺ではなくなったものよ。別人となったものたちよ。
俺がしない発想をしてくれ。俺が辿り着かなかったことをしてくれ。
このまま俺の後を辿るだけなんて、あんまりだろう。
「君は……いつまで経っても、泣きそうですね。……秘中の秘でしたが、確かにこの程度は誰でもできることだったかもしれません」
「ふん、なんだ、結局あれが泣きやすいというだけで、私が悪かったわけではないようだな」
「今回だけは、そのようです。……それじゃあ、『院長』に禁止されたアレ、やりましょうか」
「まぁそれしかないだろう」
「今から謝っておきます、『院長』。問題児三人でごめんなさい!」
三人が手を合わせる。シュラインの手のひらの上でモーガンが筒を掴むように両手を合わせ、ローレンスが蓋をする。
集約するのは魔力マニピュレータ。それにより──不可思議なものが編まれていく。
……お互いの魔力マニピュレータを、より細いものに改造して……魔力素の最終単位に偶然を混ぜ込んで。
なんだ、あれは。……知らないぞ。知らないものを……出せるじゃないか。あるじゃないか!
「『魔錠』と、そう呼んでいます」
「……『
「やはり鍵の方は見つかっていたか。そして……こちらはどうにも、私達の発見であるらしい。……。私はこれで、魔力切れだ。任せたぞ、シュライン」
「右に同じくです。……焼き切れていた腎臓の修復はしました。……ぶちまけてやりなさい」
コンストラクトに魔力切れとは、と思ったけど……どうにも『院長』がセーフティをつけたみたいだな。
それによって倒れていく二人と、託され、残ったシュライン。
青白い光の線で構成された、幾何学模様の集合立方体。
魔錠。恐らくは、万能、あるいは理の魔法でしか開錠できないもの。
「ごめんなさい。……私達はまだ未熟で、これの完全制御ができていません。……あなたとの魔法比べをしたら、制御が外れてしまうかもしれない。……そしてそれが、この場にいる皆を傷つけてしまうかもしれない。それでも……」
「心配は要らないよ。僕と『院長』がいるんだ、全て守ってあげるさ。……その上で、それをどう使うのか魅せてほしい。僕は今、とてもわくわくしている」
「ええ、期待は裏切りませんよ。……使い方は、ただ、こうして」
砲撃──そう勘違いするほどの圧力。
咄嗟に四十の砲門を向けて相殺……し、きれていない。
これは……この魔力は、まさか。
「覚悟をしてください、ノア・ヘドクイスト君。──これは、僕らが辿り着いた、赭地の起こし方です」
俺には手を貸さずとも──彼らには、ってか!
それは──いいな、最高だ!
「共に世界を叩き起こそうか、シュライン!」
破滅の危機を前にして、またも眠りにつかんとする母なる大地よ。
俺のことは愛さずして当然にしろ──もう少し己が子供達に目を向けてやると良い。
どうやら世界は、まだまだ捨てたものではないようだと──お前も骨身に刻め。