序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
からぁん……と、どこか遠くで鐘が鳴る。
その場にいる者──あるいは、エチェロエグズル教戒院内にいた者すべてに響き渡る音だ。
黄金の薄野を幻視させる。天上の天体に映る白銀の街を彷彿とさせる。
そこに、いる。
二人が。
宙に浮かび、この世界の在り方とは違う姿の"天使"が如き姿の少年。
地に足を付け、頭髪を紫色に染め上げた青年。さらに青年の周囲には、ブルビネの花が咲き誇っている。
「何か、聞こえたかい。シュライン・ゼンノーティ」
「……僕を、認める、と。今の声が……赭地なのでしょうか」
「そうだよ。そいつが
鐘が鳴る。遠くで鳴り響く。
シュラインに理解できるのは、この光景が、この世界のどこにも存在しないことだろう。
赭地と繋がった今ならわかる。この少年が──どれほど異質であるかが。
「これは、あなたの故郷の光景と見てもよろしいのでしょうか?」
声がした。ブルビネの花から、たおやかな声が。
「そう思いたいのならそう思えば良いよ。……それで、わざわざ出てきたということは、シュラインに加護でも授けるつもりかな」
「いいえ。ですが……この空間を、ひと時ばかりの夢へ誘うことで、代理とするつもりです」
「何を……。……!」
地平の彼方から……人影が、無数の人影が現れる。
「っしゃあ、一番乗り!! よくわからんけど、好きなだけ戦っていいらしいぞ!」
「馬鹿、ここがどこなのかもまだわかってないのに……っていうか、あれ、私達……なんか若返ってない?」
「夢と幻術の狭間。どうやら僕たち、星に呼びつけられたのかも」
「……理解できない。けど、綺麗な場所」
「どうやら時間という概念の存在しない場所のようですね。年老いて朽ち果てたことも覚えているのに、どうにも若い頃の気分です」
「ぜ……絶対におかしい。僕が彼らと並び立っているこの状況はあり得ない……」
「……。……でも、呼ばれた理由は、理解できた」
勢い付いて勢い余る子供達。糸目の青年。蒼褪めた顔をしている青年と、双剣を携えた少女。
彼らが現れると同時、魔力切れで倒れていた二人にも赭地からの接続供給が開始される。
それにより、二人がふらりと立ち上がれば。
「……なんだ、今のは。……ここを……出た後の、記憶?」
「この星に……刻まれていた、未来の記録、でしょうか。……そうですか。私達全員……道半ばで、ですか」
「ハ、お前が最後まで生きるのか。……そして、この私が……子供達を、ねぇ。……なんとも格好の付かない終わりだが……良い夢じゃないか」
顔を上げたモーガン・カルストラ。
その周囲に集まるは。
「本当に不思議な気分だ。俺達は若返っていて、『教授』はもっと若いなんてさ」
「なんだ、不服か? アルジオ・レスベンスト。初めまして。そして……久方振りだ。肩を並べる用意は良いか、英雄」
「勿論準備は万端さ。ところで『船長』とエレオノーラは? これだけ集まってるのにいないとかあり得るのか?」
「まぁ彼女らは赭地由来の英雄じゃないから、用意できなかったんじゃないかな。あるいは僕に配慮したか、だけど」
「ふーん。なんかよくわかんないけど、とりあえずお前が敵ってことでいいか! 構図的に!」
「無論だよ、旧時代」
「良いね、シンプルなのは嫌いじゃない」
その隣。
医療用メスを手に構え直したローレンス。その背に武骨なロングソードが放り投げられる。
「人に向けて刃物を投げつけてはいけませんよ、カノン」
「……懐かしい呼び名。もう、そう呼ばれなくなって、名乗らなくなって……随分立つはずなのに、耳馴染みが良い」
「待て待て待て! カンナ、第一声は普通僕に譲るものだろう!」
「足が遅い。以上」
「ぐ……ぬぬぬ。……おい、ローランド。なんか大分若いっぽいけど、僕のことは覚えているのか?」
「残念ながら、今の私はあなたと出会う前の私です。思い出としては、あなたのそばにいた三年間を有してはいません」
「そうか。ならここで更新しろ。お前は僕の騎士で、僕の友で……お前が死んでから強くなった僕と共に戦う戦士であるって情報を、だ」
ローレンス。否、この場においてはローランドか。
カリアン・ヴィスマルク。カノン・フォーティナイン……いいや、カンナ・ヴィスマルクを左右に置いて。
「あ、そうでした。ご結婚おめでとうございます」
「絶対今じゃないだろ!?」
そんな……懐かしいやり取りをする。
そして、もう一組。シュラインの周囲に現れた
「あなた達は……」
「……久しぶりだ、インゼン先生。おれはインゼン先生のおかげで命を繋ぎ、英雄となった。だから……おれのことを知らないインゼン先生であっても、あなたの剣となり盾となることを誓うよ」
「いいえ。……知っていますよ。カズラさん。……経験はしていませんが、知っています」
「そうなのか。……そして、あんた!」
「……なにかな、カズラ・リアナ」
シュラインの隣に現れたのは、深炎の牙のメンバー。
そしてカズラ・リアナは、大きく吼える。
「礼を言う!!」
「……」
「おれたちが、そしてリュオンたちへと繋いだ言葉を聞いてくれて、受け入れてくれた! それが……今、この邂逅を成立させていると考えている。あんたなのか、その奥にいる誰かなのかはわからないけど──おれはあんたに見せつけたいんだ」
どこまでも律儀な青年は、言葉を続ける。
「世界を救い、星々が先延ばしにしていたものを見せつけてくれたあんたを、悪だなんて定めることは絶対にない。呼ばれたから仕方なしに来ているだけで、今更総大将面してくる赭地に腹を立てているやつもたくさんいるはずだ! おれ達を英雄たらしめたのは、星々などではなく、あんただ! インゼン先生たちをこの世に通ずるものにしたのも、あんただ! 本来あんたには剣ではなく称賛が向けられるべきだと、骨の髄まで理解している上で、見てほしい!」
その当人……当星が「あ、あら?」などと言っている横で。
「あんたが相手にするのは、この世にあんたが刻み付けた、あんた自身の軌跡そのものだ! 今を以て尚、仲間外れ気分でいるあんたに──おれたちをぶつけるから、覚悟をしておいてくれ!」
「僕が誰かも知らないクセに、よく吼えるものだね。──赭地。母なる大地よ。改めて言う。死者との再会。僕はそれを忌み嫌う。別離の悲しみとはピリオドの代行者であり、再会を心待ちにするための下準備などでは決してないのだから」
「それについては、同意を返しましょう。死者との再会は、死の意味を薄くする。別離があるから悲しみがあり、悲しみがあるから人は強くなろうとする。……どうやら私は、私の上で生まれた命を……放置しすぎてしまったようですが。それでも、私が人間というものへ懸ける期待はその一点にあります」
けれど、と。ブルビネの花は言葉を紡ぎ直す。
「それでも、故人を夢に見ることくらいはあるでしょう。過ぎ去った人を、過去の思い出を、白昼夢として見ることくらいはあるでしょう。──そのような些細な夢の一つにまで、あなたの嫌悪を押し付ける気ですか?」
「いいや。──これ以上は、熱が冷める。……全力で消し飛ばすよ、残影」
「望むところだ、未来!」
霓環、光輪、十の魔晶石。
それらが回転し、空間を激しく叩く。
直後──その場にいた全員が、超高空にいた。
「なん、だ!?」
「空なのに……踏みしめることができる。……これは」
「……そうですか。──
花弁のみが取り残されたブルビネの花が、どこか悲しそうに言う。
下方、焼け焦げた薄野。そこを征くは、滑らかなフォルムの物体。上方、遡る雨の降る白銀の街。そのところどころから煙が垂れてきていて、至る所で火の手が上がっている。
心なしか、先程より……二星間の距離は近く。
空を行く滑らかなフォルムの小型物体が、周囲で激しい戦闘を始める。
事情など何も分かりはしないけれど、これが戦争であることは誰しも理解できただろう。
鐘の音が鳴る。荘厳なる門が輝く糸によって編まれ、そして開いていく。
「初めから、最大威力で行くよ」
すべての争い、すべての抗い。
それらが。
「マズイ──墜ちてくるぞ!?」
「違う、下からもだ! これは──」
「とある星が経験した、敵星との正面衝突。これは君達が経験しようとしている破滅よりもさらに上の事象だけど、まぁ、大した差は無いでしょ。──まずはこれをどうにかして、意識を残した人とだけ、この先のダンスをしようと思うよ」
少年が、ゆっくりと手を下ろす。
それにより二天体は双方を互いの激しく引き合い始めたし──。
「疾ィ──」
「流石、一切怯まないね、君は」
その無防備な背中に対し、カンナ・ヴィスマルクが双剣を振るった。
けれど──刃を素手で掴みとられて、腹を大きく蹴り飛ばされて……ローレンスとカリアンに抱き留められる。
「世界の破滅を体感すると良い。──
二つの世界が共に潰える時の衝撃が、その場にいた面々を──。
「僕が安全な空間を作るよ。……なんだか不思議なかんじだ。みんなと旅したころは、僕、もう少し子供だったのに」
「合わせる。カンナ、見てて。魔法使いは、こういうことをするの」
一時的な位相空間が作られる。夢妄の魔族の夢にも似た、精霊と人族の合わせ技たるそれ。
インパクトの際、軋むことも罅割れることもない……昔の感覚的なそれとは違う、明らかに洗練された結界だ。
「なんかー……対抗意識持たれますねー?」
「みたいだな……。腹、大丈夫か?」
「咄嗟に身体強化の魔力を集めてガードしたんでー、大丈夫。……と」
「強がらずとも結構。治しますよ」
「……。……はい」
先程蹴飛ばされたカンナを癒すはローレンスだ。
本当にまるで、昔に戻ったかのような。
「実際の話をすると、どうなんだ。剣よりメスの方が使いなれているのか?」
「どうでしょう。教戒院では基本剣を使っていますから、問題ありませんよ」
「……教戒院。っていうかここ、え、エチェロエグズル教戒院……なのか? お前の出身校っていう」
「その中ではありますが、幻術の内部でもあるので、実際にそうかと言われると微妙でしょう」
「おい、昔話だか未来の話だか知らんが、ローレンスと……カノンだかカンナだかもこちらへ来い。視界が晴れ次第、今の私達にできる最強の砲撃魔法を行う」
「……まぁ、僕はそこには混ざれないか」
「お前は司令塔だ、カリアン・ヴィスマルク。レスベンスト冒険隊からの熱い要望があった」
「……そうか。……良いさ、やってやる。マリト・マフィアのドンがお前らの背を押すんだ、勝てなかったら承知しないからな」
やがて──世界が晴れ渡り。
彼ら彼女らは、行動を開始する。
***
星の砕けた世界で初めに見えたのは、洗練されたつくりの位相結界だった。……神の位相空間に似た作りのソレは、どうやら、メギスとヴィクニが作ったらしいもの。
成程、足切りは叶わなかったわけだ。
ならば、と手を下そうとした──その瞬間だった。
「──!!」
左腕に……矢が刺さる。これは、レベッカの。
「咲け、アダラザルカ!!」
咲く。矢に込められていた刻印式の励起。……結界の中で詠唱を終えていたのか。
それにより、身体が拘束される。……まずいな、これは、俺でも抜くのに時間のかかる封印になっている。……モーガンとシュラインの合わせ技か。
「──
唱えられるは砲撃魔法。……ヴィクニとハナカラが、カノンに合わせている。
それを片腕だけで魔力にまで紐解けば、その最中に両サイド&背後からの強襲。リチャードとフィノだ。背後のはユリウスかな。
「流石に、甘い」
腕を千切る。
その状態で三人に蹴りを入れ、獄炎を纏って現れたカズラを凍らせ、その死角から現れたアルジオに突き返す。
心臓と頭蓋直撃コースの二射目三射目も防いで。
「今だ!!」
カリアンのその号令を聞いたと思った瞬間、封印されたと思っていた腕が爆発した。
「……遅延型の刻印式? すごい隠蔽だね。僕が気付かないだなんて」
「それはー、遅延刻印じゃなくてー、契約の呪詛ですよー」
背後、強襲してくるカノンの剣を足で受け止め、往なす。
契約の呪詛。……レンパルドのアレを、他ならぬお前達が使った、と?
傷が増える。……ち、英雄相手に足だけは無理か。
仕方がないので腕を生や──。……なに?
「『魔錠』の副次効果をお伝えしていませんでしたね。……これは赭地への接続方法であるだけではなく、効果範囲内の特定の属性をロックすることもできます。また……魔力マニピュレータ使いがこれを
容赦なく首を狙う双剣を避けながら、言葉を聞く。
シュラインのその……冷たい感じの声と共に、俺の中の音の魔力への触覚がロックされたのを感じた。
──思わず、口角が上がる。
「っ! 何か来る──」
「
ヒーラーにあるまじき、ではあるけれど。
ひと時ばかり……この、最も得意であるものを封じた姿を楽しもう。
「それは……あいつの……!?」
「そんな、まさか、後世に伝わっていたというのですか?」
銀髪を黒髪に染め変えて、全身の至る所から魔晶石を露出させて。
この世界の魔族は獣人だからなぁ。
魔族と名乗るものが、本来どういうものか教えてやらなければ。
危険を察知して下がったカノンへ肉薄し、その顔に手を──当てる寸前で、剣が割り込んできた。
「させねぇ!! でゃああああっ!!」
「アルジオ・レスベンストか。有名人だね。だけど」
「は──おい、なんつー重さだよ……竜より重いとか、あり得るのか!?」
割り込んできたアルジオごと吹き飛ばすつもりで力を込めていく。……そこへさらにカズラが来たし、体勢を立て直したカノンもせめぎ合いに参加する。
甘い、身体強化だけで──。
「"
「アルジオさん、全力を出して構いませんよ。腕が千切れたらくっつけます」
「カズラ、合わせるぞ!!」
「よし来た、ジル!」
さらにそこへバフが加わり、ジルベルト・ノノフも加わって。
それでも──それでも足りないことを知れ。
「──ぜやぁっ!!」
「──!!」
押し返そうとしたその瞬間だった。
腕が、斬られた。──斬ったのはカリアン。……意識外。魔力の低さと、司令をするのだろうという先入観で意識を外していた存在。
直後、斬撃と──そして用意に用意を重ねられていた砲撃魔法が、さらに矢が、槍が拳が。
さらに──放り投げられた魔鉱石の、この輝きは──。
「ま だ だ」
まだだ。
まだだろう。
魔錠とやら。素晴らしい。色々できるんだろう。
赭地の英雄。素晴らしい。色々できるんだろう。
でも──俺を倒すには足りない。決定打が足りない。
カリアン、その点お前は素晴らしかった。素晴らしい動きだった。
ゆえに、次のを頼むよ。
まさか今ので終わりとは言わないだろう。
「ッ──!? みんな、下がれ!! 終わってない!!」
一番に気付いたのはアルジオ。流石だ。
治癒魔法を封じられ、音の魔力も封じられ。
両腕を失くし、全身を斬られはしたけれど。
それだけじゃないか。
それだけで……何を、勝った気になっている。
もっと容赦を失くせ。
もっと強い攻撃を探せ。
お前達がこれから相手にするのは、世界の破滅。世界の終わりだぞ。
そんなんじゃ。
……俺の、大好きになってしまったこの世界が……終わってしまう。
英雄なら。俺へ軌跡を返すというのなら。
頼むよ。もう少し、もっと、強くなってくれ。
「っし。アンタがインゼン先生であってるか?」
「うん、そうみたいだね」
「じゃあこれ。今のあいつの腕から取った魔晶石。これで俺達の武器を魔法剣にしてくれよ」
「ふむ……。本気、というか正気か、アルジオ」
「うわ。久しぶりにぞっとしたわ。そういえばそんなやつだったわねアンタ」
「なんだよ、まだあいつ遊び足りなそうだし、終わるの悲しそうだしさ。とことんやろうぜ。夢の続きってやつを」
「……そうだな。結局のところ、おれたちが返さないといけないのはそこだろうし」
「いやいやいや、僕の仕事っぷりが無に帰すだろうそれ! まぁ……やるならやるけど。ローランドとカンナが」
「おや。先程の剣……昔私といた頃からは考えられないほどの冴えでしたが、もうやめてしまうのですか?」
「……そ、そこまで言うなら……もちっと見せてやってもいいけど」
「さーすが坊ちゃま。おだてられやすい」
「うわその呼ばれ方も懐かしい……」
死者との再会は嫌いだ。
けど。
……これを、人は。
ドリームマッチと、そう呼ぶのだろうなぁ、とは。
……思うかな、ちゃんと。