序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
マリト・マフィアのドン、ジョージ・ヴィスマルク。そして彼の息子であるカリアン・ヴィスマルクには、一つ、奇妙な噂があった。
無疵のヴィスマルク──。
抗争の場でどれほどの傷を負っても、凶手や刺客に襲われても、次の日には無疵で現れる。
噂では【マギスケイオス】が筆頭『不死』と契約しているが故だとか、傷を負っても瞬時に再生する魔族であるとか。
果たして、その正体は。
***
暗い部屋で、一人の男が唸っている。
「うぅ~、あいつらバカスカ撃ってきやがって……!」
「はいはい、わかりましたから動かないでください。……やはり、今流行りの魔力銃ですね。自身の魔力から使用不可能な属性を結集させ、弾丸とする技術。肉体に穴をあけられるより、魔力に穴をあけられる方が効果があると見抜いている者がいるようです」
「説明は良いから早く治してくれ!」
灰色の髪の男だ。鋭い目つきの青年。青年の名前はカリアン。マリト・マフィアのドン、ジョージ・ヴィスマルクの一人息子にして、
彼の怪我を診ているのが、青い毛先のプラチナブロンドを下ろしている男性。三年前にジョージが連れてきたローランドという名の「大先生」。ジョージの持病、そして頭部と胸部に受けた魔法による貫通創をたちどころに治してしまったのだと興奮するように紹介されたことを、カリアンは今でも覚えている。
同時期にカンナというメイドが彼の側付きとなり、ジョージが家を空けることも増えていった。
「ローランド先生ー、カリアン坊ちゃんー、右舷から艦隊が近付いてきていますよー」
「艦隊だぁ!? っ、イテテテ……」
「魔力弾を分解するので動かないでくださいってば。……はい、処置完了です」
「ああ、助かった……。……で、艦隊っていうのは、どこだ。……って、嘘だろ!?」
そう、ここは暗い部屋ではなく、一隻の小舟の船室。
そして今、カンナが報告した艦隊は。
「一、二……十隻!? レンバルトの野郎、本当は頭悪いのか!?」
レンバルト・ドラン。
カリアンがいなければ、マリト・マフィアの次期トップと言われていた男の率いるもの。
「撃ってきますよー」
「のん気か!? 潜航、潜航だ! 帆をしまって急速潜航するぞ!」
「カンナ、直撃するものだけ撃ち落としなさい」
「はーい」
三人は今、その男に絶賛命を狙われている──。
奪海。ゼルパパム洋のことを指す別名であるこれの由来は、この海の所有権が何度も何度も奪い合われてきたことに由来する。
それはゼルパパムが四つの国を……地域を指す名でしかなかった頃の話。
マリト・マフィアを含む無数の勢力がこの海の所有権を唱え、航海や漁に関する様々な取り決めを敷き、そのたびに奪われ、奪い返されを繰り返してきた。
そのため沿岸や点在する島々に各勢力の旧拠点が設置されていることは珍しくなく、今三人……カリアン、カンナ、ローランドが身を潜めている場所もそんな場所の一つだった。
「酷い目に遭った……。ローランド。
「残存量は30%ほどですね。少なくともあと五時間はここで過ごす必要があります」
「五時間……天運頼みになりそうだな」
彼らが辿り着いたのは、島の全周約22kathlほどの無人島だ。ゼルパパム洋にはこういった島が無数にあるため、早々に見つかってしまう、ということはないだろう。
それでも五時間も滞在すれば、運に任せるしかない部分も出てくる。
すべての魔道具……というか魔鉱石がそうであるのだが、魔鉱石の保有魔力量と一度に使える魔力量は同等ではない。一般的にそれぞれがタンクと蛇口に例えられるが、より正確に言うとタンクとじょうろの関係性と言った方が良いだろう。じょうろの中の水を一度使い切ってしまうとじょうろにも水を溜めなければならなくなる。自然回復待機状態とはその状態のことを指し、タンクの水が充分であっても使用できない期間が発生する。
ここでタンクについている蛇口から無理矢理水を引き出すことを過剰駆動という。これをすると、魔鉱石はすぐダメになってしまう。
「坊ちゃまー、果実と魔物を狩ってきましたー。マークからしてバスタブ・ジンの拠点だろう場所に保存食もあったんですけどー、どれくらい昔のものかわからないですー」
「おお、流石だなカンナ。ああでも……火は起こさない方が良いか」
「ですね。とはいえ魔法を使えばこういうこともできます」
カンナが狩ってきたルートボアの一体を手に取ったローランド。彼はルートボアを上空へ投げ、どこからともなくメスを取り出し、一閃。薄くスライスされた状態で落ちてくるルートボアから骨だけが弾き出され、肉と臓器だけに。三人の頭上に浮かべられた炎属性の魔力へ突入したルートボアはそこで滞空し、みるみるうちに色を変えていく。
そして、これまたどこからともなく取り出された皿でローランドが肉と臓器を受け止めれば。
「お手軽ルートボアのホール・アニマル料理、になります」
「何がお手軽だ。魔力を自分から離れたところに滞留させるのがどれほど難しいことか……」
「保存食の方もどうにかできたりしますかー?」
「できないことはありませんが、この世の摂理を書き換える可能性がありますので、やめておきましょう」
「日常会話のトーンで恐ろしい言葉を口にするな!」
ローランドに対抗するように、いつの間にかフルーツを余すところなく、それでいて美しく切り分けていたカンナ。
こうして、逃亡中・無人島とは思えないレベルの料理が提供される次第になった。水は海水のろ過でどうとでもなるため、魔法万歳である。
「……父さんたち、無事だと良いけど」
「そればかりは祈るしかないでしょうね。レンバルト・ドランの手勢程度にジョージが負けるとは思えませんが」
今回の事件は、偏に派閥争いでありお家騒動であるのだろう。
無疵のヴィスマルクと言われていても、寄る年波には勝てない。ジョージは今年で五十八。平均寿命を考えれば、いつ斃れてもおかしくはない。
トップが変わるこのタイミングは外からの攻撃を受けやすいからと外側にばかり注力していて、結果裡に潜む悪意に気付かなかった。それがこの逃走劇の始まりだ。
レンバルト・ドラン。二十年以上をジョージの右腕として在り続けたマリト・マフィアのナンバー2。
「僕は……どうするべき、なんだろうな」
「というと?」
「正直に言えば、僕はレンバルトの言う通り……マリト・マフィアのドンの器じゃないと思っている。レンバルトを撃退できたとしても、父さんが寿命で倒れたりしたら、マリト・マフィアは終わりだ。……あくどいこともたくさんしてきたマリト・マフィアだけど、ギルドのないこの国の治安を少なからず支えてきた事実もあると思っている。その……最大勢力であるからこそ維持できていた均衡は、父さんとレンバルトの二人がいればこそなんだ。そう……考えてしまう」
野心を抱えていようと、組織のナンバー2で在り続けることがどれほど難しいか。
幼い頃からレンバルトと接してきたカリアンには、レンバルトの内側にある知性が見えている。思い付きで行動したわけではないと知っている。
「じゃあ、逃げますか」
「え?」
「逃げられますよ。
「そうですかー? 多少は整形しないとバレちゃいそーですけどねー」
「……まぁその辺も私ができますから」
逃げる、という選択肢は。
「いや……それは、できない。僕にはトップに立つ覚悟も才能も無いだろうし、器でも無いんだろうけど……それでも僕は、ジョージ・ヴィスマルクの……ドン・ヴィスマルクの息子だ。他の誰かが座るはずだった席に、そいつらを退かして座ったのが僕なんだ。生まれる前に決めたことなんか覚えちゃいないけど、でも、後悔はしたくないから」
それは宗教の一つだ。
すべての命は生まれる前に、どこで生まれるかを選ぶことができる。誰の子として生まれ、どの国で生きていくか、を。
生まれる前のことは誰も思い出せないけれど、今あなたがここにいるのは、少なくとも自身で選択したからなんだよ、という教え。
神の試練や偶然の所為にしてしまわない、あくまですべては自己責任とするその教えは、神が実際にいるからこその発生したものであるのかもしれない。
生まれてすぐに親に売られた少女は、何も言わない。
生まれも存在もすべてがどうとでもなる青年も、何も言わない。
「……なんだ、じゃあ、どうするべきか、なんて決まっているじゃないか」
「どうするのですか、坊ちゃん」
「ジョージ・ヴィスマルクの息子として、マリト・マフィアの次期ドンとして……その座を奪い返しにいく。なんせその椅子は、僕が選んだ椅子なのだから」
五時間後。
幸運にも彼らは発見されず、また
潜航モードは魔力消費量が大きいため、小舟の状態で移動を再開する──。
***
ある日のことである。
「……」
「どうしたの? レベッカちゃん」
近頃は落ち着いてきた魔物の被害。それでも時折現れる高位魔物の対処をし終えた、レスベンスト冒険隊。
近くの街へ立ち寄って、買い物のために解散をした彼らであったが、……その折にて、レベッカが手紙を受け取った。
手紙。魔法による特殊なそれを除外して、各地の郵便局に溜められたそれに対し、宛先にある人間が照会をしに行くことで受け取ることのできるシステム。
定期的な照会を行うことで遠方の友人ともやり取りが可能になるそれを読んで……硬直したレベッカ。
彼女と共にいたアルカ、そしてリチャードは、彼女の様子に気付く。
「……リチャード。パパが……」
「そう……ですか。……いつか来るとは思っていましたが」
二人だけにわかる話題。それでアルカは、レベッカとリチャードが長年隠してきたことに関わりがあるのだと察した。
「そろそろ、話してくれる? できるのなら、みんな相手にさ」
「……そうね。そろそろ……覚悟は、必要だった」
レベッカの抱えていた秘密。それは。
……定刻となり、全員が集合したタイミングで、レベッカは話を切り出した。
「変に気にしてほしくなかったから……ずっと言わなかったんだけど。あたしのホントの名前は、レベッカ・ヴィスマルク。……マリト・マフィアのドン、ジョージ・ヴィスマルクの隠し子、なの」
「隠し子……というと、別の奥さんの子供、という認識でいいのかな」
「そういうことよ。ユリウスは物分かりがいい……けど、アルジオはさっぱりって顔ね」
マフィアのドンの隠し子。
それがこの世界でどれほど厄介な意味を持つか。
加えて。
「マリト・マフィア……かぁ」
「ええ……ある意味因縁の相手、ですわね」
「そうね。……あの先生が狙われたのも、あたしを治したから、という可能性は……高いと思うわ」
三年前の話だ。レベッカの危機を救ってくれた、ある診療所の医者。
彼は、冒険隊が訪れた次の日に、マリト・マフィアによって誘拐されてしまった。
アルカにとっては教授の友人であり、大切な絵画をくれた相手。なんとしてでも助けたいと思った反面で、マフィアと事を構えるには足りないものがありすぎると断念していた過去がある。
「そして私は、レンバルト・ドランという……マリト・マフィアのナンバー2の命でレベッカさんを殺しにきた凶手でした。そのために偽名を用い、レスベンスト冒険隊に応募しましたし、旅の道中も度々機会を窺っていました」
「じゃあ、リチャードには他に名前があるの?」
「はい。ですが、もうリチャード・スミスでいいでしょう。呼び慣れているでしょうし、私も名乗り慣れました」
「で……もう蟠りはないってことでいいんだよね? リチャードはもうレベッカちゃんを殺そうとはしていない……んでしょ?」
「はい。信用できないのであれば、」
「信用も信頼もしてるからその辺はどうでもいいよ。聞いてもわかんねーし。……家族のこととかマフィアがどうとか、俺はよくわかんねーんだけどさ。レベッカ、今それを俺達に話した理由を聞かせてくれよ」
これはリチャードとアルジオの名誉のための追記であるが、別にアルジオにとってリチャードがどうでもいい枠に入っている、とかそういうわけではない。
今更聞いても仕方のないことに関しては元から興味を持ち難いというだけだ。
「手紙でね。……パパが……ジョージ・ヴィスマルクがレンバルトに裏切られて、大変なことになっている、って」
「うし! んじゃレベッカの父ちゃんを助けにいくか!」
「……アルジオ、あんた何もわかってないでしょ。マフィアのドンはあなたたちみたいな日向の人間に助けてもらうとかしないの。それに……今行けば何に巻き込まれるか」
「でも、レベッカとリチャードは行くつもりなんだろ? 家族を助けに」
全てを見透かしたような目で、アルジオは言う。
その様子に肩を竦めるはエレオノーラ。彼女もまた別の目的で冒険隊に参加した存在であるが、ここ何年かの付き合いでアルジオの性質をちゃんと理解していた。
アルジオ・レスベンスト。彼は彼女の弟、エステルトと同じで、自ら動く渦心。周囲をどれほど巻き込んだとしても、その歩みが止まることはない。
「水臭い、ってやつだ。たとえお前らが行かなくたって、俺はいくぜ!」
「ローレンス先生がまだマリト・マフィアにいる可能性は高いと思うし、私も行くよ」
アルジオとアルカが言う。最近では彼女もダヴィド船長としてだけでなく、『最小限』のアルカとして戦闘に参加することも多くなっている。
その力の強大さなど言うまでもない。言うまでもない、が。
「……じゃ、この辺りで僕も正体を明かしておこうかな」
でも、みんなを巻き込むわけにはいかないわ、と言いかけた──口がその形になっていたレベッカを遮るようにして、ユリウスが言葉を吐く。
「なんだよユリウス。お前もマフィアの息子か?」
「そこまでのことじゃないけど、僕にはヘカトンって精霊の血が流れている。精霊と人間のクォーターなんだ」
「……にしては魔法苦手だね、ユリウス」
「中途半端に魔力依存があるせいで魔力の制御が上手くいかないんだよ。ともかく、こういう事情で、昔から色んな勢力に狙われてきた。僕と一緒にいると密猟者に狙われるかもしれないよ」
「あら、それで言いましたら私は大金持ちの娘ですのよ。私といると金目当ての暴漢に襲われるかもしれませんわ」
「……レベッカさん。彼ら、一緒にいると迷惑に巻き込まれるかもしれない人達だったようですよ。いまさら……巻き込むわけにはいかないとか、水臭い話じゃないですか?」
胸を張るユリウスとエレオノーラ。その発言の意図をリチャードに説明されて、たじろぐように言葉を詰まらせるレベッカ。
その後ろで。
「ど……どうするヴィクニ。俺達さ、みんなを巻き込めるような正体とか無くないか?」
「うん……。ただのレスベンスト村出身の子供……ダヴィド船長が仲間になりたそうにこちらを見ているけれど、彼女は【マギスケイオス】だから、充分な理由持ち……仲間にはできない……」
「実は魔王の息子とか、失われた一族の末裔とかにするか?」
「魔王は実際にいるからおかしなことになる……失われた古代人族レスベンストの末裔とかに……」
無論、全て聞こえている。仲間に入れてもらえなかったアルカはいじけている。
「ああもう、わかった、わかったわよ! あたし以上になんか抱えているやつらも、そうじゃないのも! あたしの勝手な事情で巻き込ませてもらうわ! お願い! 隠し子って言われても、あたしはパパの愛情を感じていたの。だから、助けたい。その後どうなるかなんてわからないけど、あたしは家族を助けたい!」
「──よし来た! さぁみんな、
「なんでそうわざわざ危なくするのかなぁ! ちょっとは調べようよ、相手はマフィアだよ!?」
「マリト・マフィアに恩を売ることができる日が来るだなんて、夢にも思いませんでしたわ~。その価値を考えたら、垂涎モノ、ですわ~。……あと、これを利用して、あの先生を買い叩けたらベスト、ですわね……!」
こうして、レスベンスト冒険隊は帆を張る。
向かうは首都アンガ・ダナ。冒険隊結成以来、初めての魔物以外との戦いである。
***
飛び交う銃弾……というか魔力弾をメスで切り分け、雲散霧消させる。
「どわわわわっ!?」
「坊ちゃん、伏せててくださいねー。下手に動かれると守り切れないのでー」
「そもそもなんで無事なんだ僕たち!? なんで剣二本とメス一本で全方向からの魔法攻撃に耐えられるんだ!?」
「耐えない方がいいですかー?」
「いやいや耐えてくれ頼むありがとうカンナ! 今更だけどお前メイドじゃなくて僕の護衛だったんだなようやく理解したよ!!」
「わたしは坊ちゃんの護衛ではなくローランド先生の護衛ですねー」
「驚きの真実だあまり聞きたくはなかったかな!!」
指向性のある魔法は割込みを行って暴発させ、あるいはほかの魔法にぶつけて相殺。
時折混ざって飛んでくる矢はメスで防いだり蹴り割って防ぐ。
いや~~。
三年前のジョージを治療した時も相当な人数が来ていたけど、今回はその比じゃないないな。
あの日、これは失踪日和だと……良い理由付けができたと踏んで、マフィアのお抱えになった。マフィア。中にいるのはピンキリとはいえ、勿論強者もいる。
そしてあまりにも丁度いい、カリアンというジョージの息子。彼は俺の功績を欠片も知らなかったので、ローランドと名を変えて名乗り、こうして側仕えみたいなことを三年間行っている。
すべては「──ですよね?」のためだ。カリアンも知るほどの強者が俺に気付き、「──ですよね?」をしてくれるのを待つ。そのためならたとえ火の中水の中草の中土の中森の中魔法の雨の中。キャー。
カノンもすっかりメイドが板についているし、ジョージの人柄に多少心を許したのか、この三年間はあのカタコト感のある口調にならなかった。
「反撃、反撃はできないのか! このままだと磨り潰されるぞ!」
「していいのですか? レンバルトの手勢とはいえ、彼らもファミリーでしょう」
「レンバルトの手勢に落ちた時点でもうこっちには寝返らない! やってくれ!」
レンバルト・ドラン。あの日ローレンス診療所へ来た男だ。
三年前のあの頃は、話も通じるし風通しも良い、成程これはナンバー2、って感じのやつだったけど……野心は人を変えるのか、あるいは最初からか。
ヒトって難しいワネ。
「カンナ、許可が出ました。沈めていいそうですよ」
「はーい。──
砲撃魔法。彼女の名前の由来となった魔法であり、他ほとんどの魔法の練度を犠牲に、彼女はこの魔法のスペシャリストとなっている。
砲身の構築、魔力の充填、発射。すべてのプロセスが最速。威力も申し分ない。
そして、これができるということは、彼女が先程までやっていた双剣による魔力撃墜は素の身体能力によるもの、ということだ。魔法剣の時にも考察した通り、近接戦闘と魔法使いとでは、魔力の運用方法にそもそもの違いがある。ここの切り替えをパッとやることは難しい。
「い──っ!?」
「ああ、目を瞑ってください、坊ちゃん。眩しいですよ」
「言うのが遅い!!」
カノン……カンナの放った直径2athlくらいの炎弾が敵艦に着弾。その瞬間、海上に炎の柱が立ち昇る。真白の光を放つそれは、大波を作り出し、周囲の船をも転覆させるほどの威力があった。
「いやいやいや! あのでかい船が転覆するならこの船だって!」
「彼のモーガン・カルストラ教授が開発、設計した船ですよ? 転覆なんてするはずがないじゃないですか」
「僕はその人を知らん!!」
カリアン・ヴィスマルク。出会った時からだけど、スーパーツッコミ体質だ。
多少の魔法は使えるけど、体術はほとんどできないということもあってか、「自分は弱者だ」という思い込みがある。それがこの「見えるもの・感じたこと全部にツッコム」を成立させているんだろうけど……。
正直、音の出る玩具みたいで面白い。キャッキャッ。
「っ、連中なにか撃ってくるぞ!?」
「おや、よく気付きましたね。光属性と炎属性の……
「なるほど、じゃなあああい! ど、どうする、いやそうだ、急速潜航!」
「流石に間に合いませんよ。魔法使いが四人いますから、詠唱が早い早い」
「早い早い、じゃなくて! ちょ、うわああああ!」
カンナに目配せ。彼女は頷き、カリアンを押さえてくれる。
放たれた
「巨大で威力の高い魔法。──結構。ですが、放った後の魔力には所有権が無い、ということをお忘れの魔法使いの多いこと多いこと。セキュリティ、しっかりしないと乗っ取られますよ?」
膨大な魔法がすべて、治癒魔法に変わる。
「な──!?」
「光属性も炎属性も魔力の方向性の話でしかありませんからね。それを治癒属性に変えることくらい、容易です」
「坊ちゃん、勘違いしないでくださいねー。すくなくともわたしはできないのでー」
「だよな!? 今一瞬僕がおかしいのかと思ったけど、そうだよな!?」
常識の乖離に叫びたてるカリアンの隣で、カンナが「ただ──」と呟き、二発目を砲撃する。
「勝利、ですねー」
「……もしかして、二人がいればマリト・マフィアくらい潰せるんじゃ」
「さすがに魔力が保ちませんよ。一ヶ月はほしいですね」
「一ヶ月で潰せるんじゃん!?」
ま、こんなのは「雑魚の蹴散らし」だ。
レンバルト・ドラン。そして彼の手勢には、しっかりと強者が存在するはず。
いいタイミングで「──ですよね?」を言ってくれよ~? こちとら三年待ったんだからな~?
「
見据えるはヴィスマルクの土地。既に火の手の上がっているそこを。
「……わかっている。が、僕自身は弱いから、守ってくれ! 怪我をしたら治してくれ! ……二人にはちゃんと頼るけど、それでも見捨てないでくれるか?」
「もちろんですよ」
「よし。じゃあ……いくぞ!」
波の音が聞こえる。
さぁ、事態は最終局面へ、というやつだ。