序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
カズラ君が行ったり来たりを……シャルフロースの街と自分の故郷、そして旅路における次なる街々を行き来することこれまた半年ほど。
すっかり俺の店の常連さんになったカズラ君。彼がよく武器を壊してしまう──力の込め過ぎや無茶な戦い方で──ことを毎度のように咎めていたら、いつのまにかインゼン先生と呼んでくるようになった彼。
そんな彼との楽しい日々は、唐突な終わりを告げる。
ここから山を三つ四つ越えたところにある王都ソノヴァキア。彼が頑なに話さない目的……魔王討伐の旅の中継点としてそこに第二の居を構え、幼馴染や家族とそこへ移り住む予定を立てているとかなんとか聞いた。
今までは故郷と旅路の通過点に俺の店があるため通えていたけれど、これからは王都から旅路の町々へと向かうため、シャルフロースを通ることはなくなる。だから頻繁には来ることができなくなってしまう、と。
話した時は当然後方腕組師匠面で送り出したし、実際良いことだと思う……けれど、夢はこれ遠のいたかなー、なんて考えていた。
王都。まー無理だ。これ以上近付くとバレる。「顔は売れているけれど絵画などには極力描かれないように」を徹底していたので知らない人も多くなっては来たと思うけど、流石に一年そこらじゃ王都じゅうが俺の顔を覚えている。
俺がやりたいのはあくまで「田舎で店を営んでいる俺のもとに強キャラが来て「──ですよね?」」のパターンなので、ただただ行方不明になった人がいましたって通報を受けるのは望むところではない。
しかし王都には弟子が……『鏡の工房』本店がある。武具加工についてはそこでできてしまう。そうなるとやっぱりシャルフロースへ帰ってくることはなくなるかなー、と。
カズラ君の律義さを舐めていた俺は、当時そんなことを考えていた。
上記の話があってから、三か月くらいした頃の話である。
ドアベルが鳴った。
扉へと目を向ければ……そこにはカズラ君の姿が。
「カズラさん? お久しぶりですね」
「ああ、インゼン先生。すまない、魔鉱石のメンテナンスをしてもらえないだろうか」
「それは構いませんが……王都に住んでいたのでは?」
曰く。王都の武具加工工房で調整をしてもらうことはできたのだけど、どうにもしっくりこない。違和感の残るその調整では120%が出せない。
だから、仲間たちに断りを入れて、シャルフロースの街まではるばるやってきたのだ、と。
いやこーれ絶対俺に会うための口実じゃん。
確かに魔鉱石加工は難しいし精度が求められるけれど、職人ごとの個人差が出るとか無い。況してや『鏡の工房』にいる弟子は俺の本弟子。俺が手ずから教え、技術習得を導いたやつらだ。そこに翳りは無い。
加工でそれなんだから、メンテナンスなんか違和感を覚えるはずがないのに……俺に会いたくて来たじゃんコレィ! となった。
勿論口には出さないけど、絶対そうだ。まぁ俺に会いたくてっていうか、お世話になった人を捨てるようになってしまう形が申し訳なくて、っていう律義さの塊なんだろうけど。
いやもうはりきりもするよ。カズラ君だけじゃなく、ジルベルト君とハナカラ君も己が武器を預けたらしく、二人の武器もメンテナンスしてほしいと。
合点承知の助でござい。
もうね、夢……は全然捨ててないんだけど、それとは別軸に、なんていうの? 親心? 父性? が湧いてきちゃってモー。だって俺この子らがペーペーの頃から面倒見てんのよ。世話してんの。武具のだけど。
その子たちがこんなにも俺や俺の店を想ってくれたら……そりゃもう! そりゃもうでごぜぇやすよ。
だから、カズラ君たちがあんまり試さなかった方……防具加工の方まで施してあげた。防具は結構頻繁に替えるものだから、って理由でやってなかったんだけど、王都で自分の身体にフィットする品質の良い防具を作ってもらったらしくて、当分は替えないだろうから、ってことでぎっちょんよ。
防具加工。敵を傷つけるための武具加工と違い。自分を守るためのアレソレを、この世界の人々はなぜか疎かにしがちだ。命あっての物種だろうに、自分の守りにお金をかけるくらいなら敵を迅速に殲滅すべきだ、みたいな人が多い。攻撃は最大の防御みたいなね。
だから王都にいた頃から防具加工は人気なかったんだけど……当然をして否であると言おう。
身を守る、防御を上げる。それは即ち攻撃の機会を増やすということだし、仲間が割く気を少しでも減らす、ということでもある。
あいつは硬いからしばらく放っておいても大丈夫、って思えることがどれほど自分に集中できるか。
というのを力説しながら防具加工をさせてもらった。機会があれば彼の仲間のものもやってあげたいけど、わざわざここまで出向かなくても王都でできるからな。やる機会はないだろう。
しかし、というか、嬉しいことに。
カズラ君がこうしてはるばる赴いてくれると、たとえば王都以降の街で仲間になった強キャラがこのとんぼ返りについてきて、「……あなたは」のパターンあるじゃん、って。
君は本当に良い子だね色んな意味で! あと過去の俺、すぐにあきらめなくて良かった! カズラ君引っ越しのタイミングで転居することも考えてたから……あぶねぇぜ。
またも去り際にお辞儀をしていくカズラ君を見送って、一息。
……ホントに使用感が……違和感を残す加工や調整をしてる可能性を考えて、ミステリーショッパーでも依頼するのアリか? でも予約がなぁ、当分取れないからなー。
***
ガツンと硬質な音を立てて、肩鎧に突き刺さったホーンラビットの角が割れる。
空中で静止する形になったそれの首を焼き切れば、白い胴体がぽとっと落ちた。
「……懐かしいな。ジルとハナカラと……色んな所に傷を負いながら、この角を集めたんだったな」
今もそうであるが、カズラの反応速度ではホーンラビットの跳躍を捉えることができない。
肉体面の弱さに反し、ホーンラビットの角による一突きは人体を容易く貫通する。故に避けなければならず、駆け出しの頃は回避に必死で攻撃ができずに苦労をしたものだ、と……懐古を覚えながら、割れて地面に落ちた角、頭、胴体を拾い上げた。
既にカズラたちのパーティはもう一つ上のステージの魔物を狩っている。新たに加わった仲間の助力もあって、B級と言われるランク帯に突入しつつあるのだ。
とはいえ狩り殺した命を捨て置くつもりはない。ギルドへ持ち帰って換金し、その素材を余さず職人たちに使ってもらおうと考え、屈んだ──その直後。
「っ……?」
直撃があった。顔面、ど真ん中。
そこに……別個体のホーンラビット、その角が突き刺さっている。いや、突き刺さることができずに止まっている、というべきか。
「あぶな……かった。……油断大敵だな」
ランク帯以下の魔物といえど、人間を容易に殺し得るのだと再認識するカズラ。
同時に、胸鎧の中央にはめ込まれた空色の魔鉱石も撫でる。
「インゼン先生に……この加工にしてもらってよかったな」
帽護加工、というらしいそれ。防具加工にはとんと疎かったため、インゼンのお任せを選択したカズラ。その内の一つがこれだった。
胸だけでなく頭までを守る加工とは聞いていたけれど、まさか頭部の周囲に透明の障壁を張る効果だとは。それでいて食事や呼吸は普通にできるのだから、魔鉱石とは不思議なものだ。
なお、これはインゼンにも念を押されたことであるが、今も衝撃は普通に来た。すべてのものを防ぐことができるわけではない、ということだ。防具を過信してはいけないと。
それでもこれがあって助かる命は無数にあるだろう。また一つ、助けられた。
それに。
「やっぱり……使いやすい。出力も、初速も……」
王都でたくさんの魔道具を目にした。その最中で、魔道具には気分が……あるいは使用感の違いのようなものがあることに気付いた。
同じ魔鉱石が存在しないので当然ではあるのだが、同じ魔道具であっても、たとえば噴き出す火の幅がわずかに違ったり、吐き出される水がトップスピードに至るまでの時間がわずかに違ったりと、様々ある。
そしてそれは、武具加工となるとより顕著な差となる。
王都の加工工房『鏡の工房』にて武器のメンテナンスをしてもらった際、してもらう前と後とで若干の差……職人や仲間に言ってもあまり伝わらないだろうが、出力や初速の下限に翳りがあるように感じられた。上限、つまり最大火力や最高速度は申し分ないのだけど、最低火力や初速に違いがあるのだ。
もう少し言葉を選ぶのなら、インゼンの調整の方が細かい……意思が伝わりやすい、というべきか。
やっていること自体はそう変わらない感じがした──無論カズラは素人であるので素人目線だが──なので、これはインゼンの持つ顧客への親密さや態度の為せる技なのだろうと結論付けたのだ。都会は客が多いから、そういうところにまで気を回していられないのだろう、と。
その時はそれで我慢した……のだけど、やっぱり違和感が残って気になって……こうしてはるばるシャルフロースの街まで戻ってきてしまって。
久方振りに会う彼に調整をしてもらっての、今。
カズラは思う。
全然違う、と。
明らかに振りやすい。明らかに炎を発現させやすい。
剣が軽くなった、魔力操作が上手くなったと錯覚してしまいそうになる使用感。手に柄が吸い付く感じ。イメージ通りに火が出る感じ。
「……やっぱりインゼン先生はすごいなぁ」
この街と王都くらいでしか武具加工をやっている人がいなかった。というのも、武具加工は比較的若い技術であるらしく、まだまだ職人が育っていない状況にあるのだという。
王都の工房でも驚かれたものだ。この加工は誰がやったのか、と。その情報をくれるのならば、本来予約を待たねばならないメンテナンスを繰り上げでやってくれる、とまで。
カズラたち一行が──というかカズラ、ジルベルト、ハナカラが──彼の話をすれば、「名前は聞いたことがない」が、「とんでもない原石かもしれない」などと述べた後で、「もし可能なら一度王都へ出向くようスカウトしてきてくれないか」とまで言われた。
無論、断ったが。
カズラは理解している。言葉には出していないが、インゼンはそこはかとなく都会……あるいは王都を苦手に思っている。
なによりシャルフロースの街を気に入っている感じがした。その見解はジルベルト、ハナカラ共に同じだったようで、謝礼金を出すとまで言われた話をしっかり断ってきた。
大恩があるのである。
武具加工のおかげでなんとかなった場面がたくさんあった。そしてそれだけでなく、インゼンはカズラたちに「生き残るための戦い方」や「信用のできる商人の見分け方」など、田舎から都会へ出ていく彼らへの生きる術を教えてくれた人だ。
彼との付き合いは未だ一年と少しくらいであるが、その途中から彼を先生とつけて呼ぶようになったのは、その知識の深さと、それによって助かった場面があまりにもあったため。
仲間からは「雑学博士」とか「割合世間知らずのくせに役に立つことだけは知っている」とか称されるカズラだけど、その知識の七割くらいはインゼンから来ている。残りの三割は彼の好奇心が調べ上げた成果だ。
色々なことを教わった。第二の父親と言っていいくらい色々なことを。
そんな彼を謝礼金欲しさに嫌がる場所へ連れていくだなんて、するはずがないのである。
処理を行ったホーンラビットを荷物袋に入れて、立ち上がる。
もう一度……勿論誰も見ていないだろうが、シャルフロースの街の方向へお辞儀をして、カズラは帰路へ就く──つもりだった。
ぐぁん、と。
暴風と共に地に影走らせたる存在があった。
そのあり得なさに振り返り、ギリギリで視認できたのは、紫と茶色の巨躯の背。
被膜の通った
魔竜、と。
カズラは踵を返し直す──。
***
カンカンカン、と警鐘が鳴る。
滅多にならないあの鐘は、魔物が攻めてきたとか、盗賊の集団が来たとか、兵士ではどうにもならない可能性のある場面……避難が必要な場面において鳴るものだ。
勘弁してくれよ、というのが正直な気持ち。
そういうのはカズラ君の物語だろうに。俺の前でやってもあんまし意味ないんだよ。あとアレよ。ジャンル違いっつーかさ。これは俺が如何にして強キャラに認められる強キャラになるか、みたいな話だから、なんつーのかな。
何が狙いか知んないけどさ、全然抵抗しないで譲渡するからそれで勘弁してくんない?
──とかなんとか考えていたら。
バッサバッサと音がして……シャルフロースの街の外壁に、どすんと。
紫と茶色のまだら、みたいな皮をした……クソデカ羽つきトカゲが降り立った。
うわー。言葉通じなそ~。
「逃げてください! 皆さん! 領城を解放しています! 逃げてください!」
兵士の避難誘導の声が響く。領主さんな、感じのいいいつもニコニコした領主さん。こういう緊急事態でも真っ先に動いてくれるのは流石だけど、どうだろうね。あの竜が人間食いにきたとかならその避難は二次被害を生みそうだけど。
んー。どうするかね。
カズラ君は多分俺がどこにいても会いに来てくれる気がするから、ここでシャルフロースの街が壊滅しても、たとえば復興中のシャルフロースであろうと、逃げた先のどこか知らん街や村であろうと……俺が居を構えるには充分な気がするけれど。
信頼をまた再構築することへの煩わしさと、竜の被災地としてシャルフロースが目立ってしまい、王都から誰ぞかが派遣されてくる可能性の面倒臭さ。
天秤は……うーん釣り合い取れてら。ららら。コッペパン。
口に……なんぞ、毒々しい色の煙を蓄え始めた竜。
うわ火以外のブレス吐くタイプか。めんどっちぃな。俺は大丈夫だけど逃げ遅れた人がいたら……あー、んー。
──とか考えているうちに、準備が完了したらしかった。
何がって、ブレスの。
空気の圧縮された音と、その直後の破裂音と共に──そのブレスが砲弾のようになって放たれる。
こーれは復興とか無理な廃村ルートだな、とか。
呑気なことを考えていたら。
「ぁぁああああああっ!!」
空中、シャルフロースの街上空。
ブレス弾と街を遮るようにして入ってきた炎の塊。
いや。
「──カズラさん!?」
「ぐ……逃げてください!! この魔竜は、おれが……!」
……厳しい。
いくらカズラ君が主人公タイプとはいえ、仲間のいない状態で、炎特化装備だけじゃあ……厳しい。
ああでもナイス過去の俺。防具加工で毒とか麻痺とか状態異常系への耐性つけといたのが効いているな。でもジリ貧だぞあれ。耐性も無効化じゃないからなぁ、いつか抜かれる。
その前にあのデカトカゲを叩き落とさんことには……。
轟、と火炎が燃え盛る。ああまた無理矢理魔力込めたな。でも……その余剰魔力が炎魔石を過剰駆動させたらしい。
毒々しいブレスが爆炎に飲み込まれ、消え去った。毒を焼いた、ってか? 汚物は消毒だぜ。
けれど直後、ブレスを防ぎ切ったカズラ君へ襲い掛かるは竜の尻尾。それによって叩き落とされるようにして俺のすぐ近くまで吹っ飛んでくるカズラ君。
防具込みの総合防御力で防げてはいると思うけど、衝撃は殺せんからなぁ。これで失神していたら終わりだけど。
「くっ……」
「カズラさん!」
「……インゼン、先生。逃げてください……おれが、あいつを……倒します! お世話んなったこの街を……壊させはしない!!」
……ま。
一個……カズラ君で夢が叶わなかった場合の次なるブルーオーシャン用技術があるけど……これ使っちゃうか。
俺以外の職人が発見しちゃったら持ち腐れになるもんな。技術も道具も、使うべきに使うのが吉ってもんさ。
「──シャルフロース領兵士の方々!! 五分の間、魔竜の気を引いてはいただけませんか!!」
「インゼン先生、なにを」
「英雄の誕生を前に、どうか時間を稼いでいただきたく!!」
兵士さんの名前は知っている。全員の名前と顔が一致する。
それを敢えて兵士と呼び、況してや死んでくれないかと冀う。
あまりにも最低な呼び声に。
「──いいだろう! ヴァーハウスト隊、死にたいやつだけ私に続け! 日々の命の恩を返す!!」
「グランペリエ隊! 弓、及び投擲にて魔竜の気を引け! シャルフロースの街を守るのだ!」
「トゥースィーニの誇りにかけて! インゼン殿、そしてカズラ! 私達は君の顔を覚えている! この街のために戦ってくれて感謝をする! だから、私達冒険者にも戦わせてくれ!」
当然だけど、『アトリエ・シュピーゲル』の客はカズラ君たちだけじゃない。
武具加工は若い技術だ。歴史の浅い技術。それでも新しく店を開く俺を気にかけ、常連になってくれる兵士さんたちがいた。冒険者たちがいた。
呼び声に応えてくれたのは彼らだ。武具や防具の様々な箇所に魔鉱石を散りばめた、オーラからして異彩を放つもののふたち。
ハ、そうさな。そうさそうさ。
英雄一人が戦局を変えてたまるかと、それはその通りだ。
「インゼン先生、おれ、」
「落ち着きなさい、カズラさん。──今よりあなたの剣に凝集加工という一段上の武具加工を行います。性能は少々ピーキーと言わざるを得ないものになりますし、練習の時間はありませんが──どうか御して、あの羽のついたトカゲを叩き切ってください」
本来はそれ用に作り出した専用の道具を使うんだけど、今手元に無いからな。
最初にこの技術を編み出した時と同じで、完全手作業でやらせてもらう。
剣に嵌っている、過剰駆動により色を失った炎魔石を取り出す。手で、ではなく、両の掌に集中させた魔力と、その魔力から作り出したマニピュレーターで。
俺が見つけた魔鉱石のエネルギー、その性質。なぜあの時雷は曲がったのか。なぜ曲がらない雷を落とせるのか。
その秘密は魔力にあった。普通、自然現象に魔力は伴わない。勿論魔力による自然現象もあるけれど、それはそこにあるものが現象によって押されて見える波紋でしかない。
魔鉱石のエネルギーで作り出す自然現象はその全てに魔力が籠っている。よって魔力をより流れやすい方向へ導いてやれば、魔力、及び魔鉱石による自然現象はその通りに流れる。
あの落雷兵器は照準を絞る際に作り出した魔力の通り道を重ねる、ということをしていた。こうすると魔法が思った場所へピンポイントに飛ぶから、と。
なぜピンポイントに飛ぶのかを調べた人間はいなかったけれど、それはやっぱり最大のヒントだったんだ。
魔力で作った魔力の通り道。それが重なることで、導魔性が上がる……魔力抵抗が減るのである。導魔学──魔力の伝わりやすい材質を考え、質の良い杖を作る、という学問での知識が役に立った。
つまり魔力は、伝達という部分に関しては、電流と一定の類似性を有しているということだ。
俺が発見して技術として確立したのは、導魔性と魔力抵抗の外部からの調整による任意の方向・出力・噛み合いなどの変更及び加工技術。魔鉱石そのものへのアプローチというよりは、魔鉱石を嵌める場所にこのエネルギーを精密に使うための集積回路を敷く技術だ。
精密で難度が高い加工というのは、要するに集積回路の中身を人力で調整する技術であるから難しいって話だわな。
んで。
「……魔鉱石が……修復されて……いや、これは」
その考えでいくと、魔鉱石は電池ということになる。スイッチは使用者本人だし。
つまり魔鉱石の加工技術を謳っておきながら、魔鉱石側へはほっとんど手をつけていないのが俺の謳う新加工法だった、と。
よって今行っているのは新技術の方……魔鉱石そのものを加工し、調整する、本邦初公開の技術である。
「固まって……?」
魔鉱石。その中では実は、流動する魔力が渦巻いている。
魔物の体内で固形化した組織などに魔力が宿り、それが様々な性質を有することで、魔物にもその力が付与される。火を吐く魔物や雷を纏う魔物は体内で魔鉱石を作り上げているからそれらができるのだ。
言ってしまえば魔鉱石とは生体の一部品であり、そうであるから中身が流体として変わり続けている、というのも納得のできる答えだと思う。
しかし世の中には魔物に依存しない魔鉱石も存在する。
洞窟の奥深く。湖の奥底。霊峰の頂上。
そういった場所でひっそりと生える魔晶石の存在だ。
これらは魔物を通すことなく魔力を蓄え、魔法の性質を帯びる。その中にある魔力は魔鉱石のように流動してはおらず、固まりきっている。であるのに──あるいはであるから、魔鉱石よりも高い出力のエネルギーが取り出せる。
俺はこれに目を付けた。魔晶石を作る──というのは、原理は模倣できてもかかる時間が途方もなすぎて現実的ではない、という結論に至ったけれど、魔鉱石を魔晶石に作り替える、というのはできそうだったからやった。
これは電池じゃできなかったことだ。既存電池から全固体電池を、とか絶対無理だし。何が言いたいかって言うと、お手本の無い途方もない作業だったって話ね。
できそうだなって考えた自分を殴りたくなるくらいの難しさ。でもやっぱりできる気がする。それで煮詰めに煮詰めた技術。文字通り技術の結晶ってやつだ。
まぁ、できた。結構かかったけど、考え方は液体の凝固と同じだった。
魔力を形作る小さな粒。魔力素。魔物の体内で生まれた魔鉱石はこの魔力素が様々な場所から現れた魔力素であるから、結びつきが弱く、中の魔力も流動的。
自然物に形成される魔晶石はほぼ単一の魔力素によって形作られるから、魔力素間の引力が特定の位置に束縛されていて、動こうと思ってもあまり多くは動けない。だから固まっているし、強い指向性のエネルギーが取り出せる。
なれば俺が加工者としてやるべきことは、この魔力素間の引力をつくることと、それらを正しい位置に配列し直すこと。
魔力素自体は同じ魔力素同士と引き合う性質をはじめから有しているから、やるべきは並べ替えだけ。本来必要な専用の道具というのは光魔法系の魔道具を使った顕微鏡だけど、それが無いから手作業、と。
手作業で魔力素配列を組み直す──これが魔鉱石を魔晶石に組み替え、飛躍的な性能を引き出す加工技術。
経った時間はきっちり五分。
魔鉱石の名が炎魔石ならば、今ここに黒々とした深紅を表すこの魔晶石の名は。
「凝集加工・閻魔石獄炎。──どうか使いこなしてください」
「……ああ、ありがとう」
生唾を飲み込んだカズラ君。
剣に嵌った魔晶石を撫で──兵士さんたちの戦う魔竜のもとへと駆け出した。
その剣身に宿すは、深紅の炎──。
誕生する。新たなる人類の英雄が。魔なる王に立ち向かう、灯火を掲げる者が──。