序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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23.姿を見られた鶴

 三年を経た。

 瓜良、津吊、羽澤、新しく入った吉冨に調理を仕込み、俺以外も「効果の出る料理」で且つ「味も申し分なし」のところまで行った。

 ので──失踪日和……では、あったのだが。

 

「戦か」

「ええ。しかも敵は忍びでなく、桔梗家という鬼の一家。……困ったことです。敵は忍びであって、内部の鬼ではないというのに」

 

 さらに悪化していく侍vs忍者の戦いの最中で、常連さんになった菖蒲家のお嬢さんたちと桔梗家という別の……貴族? 豪族? とで戦が勃発したらしい。その辺の制度はよくわかっていない。

 この『鳴子雀』のある位置はどちらの領地とも言えない僻地にあるため、合戦に巻き込まれることはないだろう、とのことであるが、明らかにめっきり客足が途絶えているから……どうなるんだろうな。

 俺の料理は攻撃力Upとかは一日しか保たない。体調改善系は根治治療だからいいんだけど、たとえば毎日焼肉定食食べてた侍がそれを止めると、今日だけやけに力が入らない、から、いつまで経っても上手く力が入らない、というところにまで落ち込みかねない。

 それが起きると怖いからこうして弟子たちに効能込みの仕込みをしたのだけど、まさか戦で来られなくなるとは。

 

 食も薬に通ず。それも此度は自ら通院を推奨したようなもの。そこのケアを怠るのは正直うーん、だ。

 

「お前は元滋島城(じのしまじょう)の役人だろう。思うところがあるんじゃないのか」

「無いと言えば法螺になりますが、既に俺は役人を降りた身です。三年の間それでも業務が回っていた以上、俺の後釜はしっかり仕事をしたのでしょう。そこへ俺がやいのやいのと言いに行くのは、俺の役割ではありません」

 

 瓜良なー。めちゃくちゃしっかり者なんだよな。

 元がお偉方だってのは勿論あるんだろうけど、腐敗のフの字も感じない、常に勉強熱心で最高効率の努力をするタイプ。

 

「瓜良。聞くが、菖蒲が桔梗に勝てば、侍の領地はうんと先まで平和になると思うか?」

「ええ、思います。病に臥せられていた花樽(かるた)様も元気になられましたし、花紋三姉妹は健在。"姫巫女"としてのお力に目覚めている花居(くわい)様もいますから、盤石は硬いでしょう」

「ならばこの戦、()()()()()()()()()()

「ええ……そうなることを祈りたいですね。……師匠、待ってください。今の言葉は……どういう意味でしょうか」

 

 良いか、瓜良。バフっつーのはな、確かに雑兵へ振りまいたって然程意味のあるものにはならなかろう。小数点以下の戦力を何倍にしたってたかが知れている。

 だが──そりゃ何倍の話でさ。何十倍、何百倍にしたら、雑兵の一人が武将に化けるんだよ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()と思って出していなかった料理がうんとある。俺の研究がたかだか50%Upで終わるものかよ。200%、500%、1000%SPARKINGまで用意しているさ。

 

「瓜良。俺達は補給だ。戦においては一番後方で、戦場には関与できない立ち位置だ。──そう思っちゃいねえだろうな?」

「違う……のですか。俺は……目付の時から、そういうものだとばかり」

 

 食が身体を作り、肉体をコントロールするのなら、肉体が武器となる戦場だって操れよう。

 ヴァルカン時代の練兵の妙。モーガン時代の教育の妙。ローレンス時代の医術の妙。

 そして今回の食育の妙があれば、なんだってできる。

 

「この三年、俺が何もしていなかったと思ったら大間違いよ。三年前は思ったような効能が出せずに断念していたが、出前、いやさ弁当でも狙った効果が出るよう調理法を改良してきたのさ」

「弁当! それは、武士たちが喜びますよ!」

「ああ、忙しくなったのであれば、だからこそ朝にちゃんと食べて精を出すのが生き物さ。そうと決まれば瓜良、報せの張り紙を書いてくれ。誰もが読める綺麗な字で、弁当始めました、ってな」

「承知いたしました! ああ、よろしければ知り合いの役人にも直接伝えてきますよ。張り紙を見ている余裕のない者も多いでしょうから」

「全て任せる。俺はちょいと新しい調理器具を作るんでな。ああ、この件は従業員全員へ共有しておいてくれ」

「はい。……俺達が戦を終わらせる。食を通じて、戦場を作る。良い言葉です。俺は本当に、ここへ来てから学ぶことばかりで……」

 

 瓜良。アルジオやリュオン、アインが肉体面のポテンシャル最高値なのであれば、瓜良は知能面の最高値なんだろうな、というのをひしひしと感じる。

 物覚えも早いし、先も述べたが、効率化が鬼早いのだ。鬼だからか。

 物事をかみ砕くということがどういうことなのかを理解している。そりゃ大目付にもなるってもので。

 

「下ばかり向いてちゃ、料理はできても客の笑顔は見られねえだろう。前を向けよ、瓜良。そんなんじゃいつまでたっても一人前は渡せねえぞ?」

「っ、はい! 前を向き……すぐに行動します!」

 

 おう、そうしてくれ。

 それが俺のビバ「──ですよね?」ライフを助けるのだから。

 

 

 その後、スーパーぶっ壊れ弁当が兵士たちに届けられるようになって、たったの一ヶ月で戦いは終結する。

 桔梗家は菖蒲家と対等の立場から傘下へと格下げを食らい、侍の領地は"姫巫女"の一族が治めることとなった。

 平和が訪れたので、晴れて俺は──。

 

「面を上げよ。楽にしてくれて構わぬ。此度の戦、そなたら『鳴子雀』の活躍なくばこれほどの大勝を収めることは適わなかったであろう。して、褒美を取らそう。なんでも申してみよ。菖蒲家がそなたの望みを叶えてやろうぞ」

 

 ……まぁ、逃げられるはずもなく、である。

 

 俺、瓜良、津吊、羽澤は滋島城(じのしまじょう)へ招かれ、こうして「恐らく一番偉い女性」にこうべを垂れている。

 そういえば良い忘れてたけど、男女の云々ってのはあんまりないっぽいねこの国。女性の方が食は細いみたいだけど、出力で劣るわけではない様子。じゃあ燃費の悪い男が、ということも無い。何かで釣り合い取れてんのか知らんけど、なんならゼルパパムや最初の国……ガルズ王国より男女差が無い。

 

「良いぞ。なんでも申してみよ」

「……では、失礼して。弟子たち三人に、店を与えてやりたいのです」

「ほう! そうか、もう一人前か?」

「日々精進に違いはありませんが、ひとり立ちはして然る頃合いでしょう」

「そうか、そうか。それは良いことだ。花込(かごめ)、町のどこか良い場所の土地を与えてやれ。大工をつけることも忘れぬようにな」

「はい」

 

 とはいえこうして伏線は張らせてもらう。客が一か所に集中しているのが悪いのなら、分散させてしまえばいいだろうという読みだ。

 

「しかし、これはどちらかと言えば後ろの者達への報償よな。そなたは何か無いのか? 随分と無欲であると娘たちから聞いてはいるが……」

「私は料理ができたらそれで充分ですからね。これ以上欲しいものはありません」

「そうか。しかしそれでは私達の腹の虫の居どころが悪いのだ。さ、何か欲してみよ」

 

 おおっと。……花泪(はなさ)さんの母親なだけあって、茶目っ気と横暴の混じった……成程、ちょっとカリアンすら思い出すな。

 カリスマ、かねえ。カリアンとはマー別ベクトルなんだが。

 

「そうですね。……では、毒蛙を」

「ああ、駆除であれば、これからは役人にやらせるぞ。それで、他は──」

「食する許可をいただきたく」

「──なんと。食せるのか、あれは」

 

 俄かざわめきだす周囲の人々。まぁ、スーパー毒だからなアレ。雨の神の眷属とか言われてるけど、絶対違う。魔力の質が魔族に近いもん。どっかに操っている魔族がいるか、あれ自体が知能の低い魔族だよ。

 けど、これでも元日本人でね。

 この世に食えぬ物なしを地で行くんだ。散々試したよー、あいつの調理法。どうしたら食えるのかとか、半ば錬金術や魔女の秘薬みたいな域まで突っ込んだ実験とか。

 

「客に出すには……ううむ、そうさな。城の薬師の認可を受けるが良い。……しかしこれでも欲とは呼べぬ。他に無いのか。そら、そなたは一人身であっただろう。どうだ、花泪(はなさ)の婿に、というのは」

「些か歳が離れすぎていますよ」

「そうか? ……そなたは幾つか」

「今年で五十を数えます」

「なんと。そうにはまるで見えぬな。二十そこらの若い鬼に見える。……やはり食事か。若さを作るのは」

「母様、話が逸れています」

「む、おお。……欲しいものは、本当に無いのか?」

 

 チ、そのまま時間を食って、そろそろ時間だからここはお開きに、の流れだったのに。

 失踪させてくださいって言うのはダメ? ダメか。

 

 うーん。大抵のものは自分で作っちゃえるからなぁ。欲しいものか。

 ……ぶっこむのは、俺が一人だったらアリだった。欲しいものではなく聞きたいことがあります、からの「どうして忍者と争っているんですか」という話。

 瓜良たちに聞いてもはぐらかされるばかりだったし、町でもタブーな話題っぽくてちゃんと聞けていない。それが……こう言っちゃなんだけど、俺の解決できるものであったら、ちゃっちゃか解決して……そうして平和になった葦三方で「──ですよね?」ができるんだけど。

 

「母様。私が彼と"対話"を行い、彼の欲しているものを聞きだす、というのはいかがでしょうか」

花居(くわい)、それは無礼が過ぎぬか?」

「無欲の者は、自身が何かを欲していたとしても、それを言葉にできない、という場合が多いのです。時にはこちらから歩み寄るのも策の一つでしょう」

 

 花居(くわい)さん。彼女も何度か店に来ている。梅や似荏……紫蘇より、焼き魚や煮つけを甚く気に入ってくれているらしい彼女。

 初めに出会った時精神干渉っぽいの受けたから弾いちゃったんだよな。そこから……警戒されているような、一目置かれているような。

 

「そういうこともあるか。……うむ、よし、わかった。そうするとしよう。下がってよいぞ。褒美については後日役人から話があろう」

 

 こうして場が終わる。

 弟子たちを見れば……戸惑いが。ま、そうか。突然店を持て、なんてな。

 

「一週間後、卒業試験を出す。合格できなくとも放り出しゃしねえが、まぁ、合格してくれたら、俺も鼻が高い」

「……頑張ります!」

 

 大丈夫そうだな。

 あとの問題は、と。

 

 

 通された部屋は、壁に複雑な……恐らく遮音だろう処理の為された部屋だった。

 その真ん中に座る。

 

「──単刀直入に言おう。そなた、鬼の領地を去るつもりだな」

 

 ……ほう?

 初めてだな。失踪を言い当てられたのは。それも……ここまではっきりと。

 

「どういうこと……でしょうか? 確かに弟子たちへ店を任せはしましたが」

「菖蒲家は"姫巫女"の一族である、というのは知っておろう。だが、"姫巫女"が何をするのかまでは知らぬ。そうであると見たが、この認識は正しいか?」

「……はい。恥ずかしながら」

「"姫巫女"は災厄の予防を生業としている。未来を予め垣間見て、危うきを防ぐ。それが菖蒲の娘が授かる力だ」

 

 ……成程。

 それで見たのか。

 

「この目は沢山の可能性を映す。そして十年後、二十年後、五十年後の無数の未来において、鬼が全滅を引く未来は凡そ半々。そのどれもにおいて、そなたがこの国から消えていた」

 

 前。ヒュー……。……ヒューカー? に、未来が見えるのかと聞かれたことがあった。

 あれはそういうたとえ話かと思ったけど……いるのかな。魔族の貴族や、仮面の魔族なんかの特殊個体魔族には……彼女らと同じく未来の見えるやつが。

 それも、相当細かく見えている。……ふん。

 

「俺の先は、もう長くないってことですかい?」

()()()()()()()()()と言っているのだ。此度の戦、母様や妹たちはそなたの弁当があったから勝てたと喜んでいたが、あれは違うな。そなたの作った弁当を食べたから勝った。この二つは似ているが、全く違う意味を持つ。そなたは故意に私達を勝利させた。もしそなたが桔梗へ弁当を出していれば桔梗が勝っただろうし、野盗に配給していれば野盗がこの国を手に入れただろう。確実にそなたは情勢を読むことができる者で、自身の料理が持つ優れた効果についても把握している者だ」

「……お褒めの言葉、ありがたいですが──」

「ゆえに、そなたがいなくなることは、単なる事故や事件によるものではなく、そなた自身の意思によるものでなければ成立しない。そなたの歩みというのは、他者の、どんな悪意や善意に晒されようとも止まるものではない。つまり私の見た未来において、そなたは自らの意思でこの領地を去っている。どうしてそうするのか、というところはわからぬが、それを当面の目的としているのならば、弟子に技術を仕込んだことも、店を与えたことも、そして内紛たる戦を早期に終わらせたことにも納得がいく」

 

 未来が見えるから、だけではないな。

 人読みも上手いと見た。彼女と指す将棋はさぞかし楽しいことだろう。

 

「なぜは問わぬ。人の願いなど千差万別。聞いたところで理解できるとも思えぬからな。ゆえに、そなたには命令を下す」

「おや、褒美という話は」

「そなたが不要と断じたのだろう? 頼みがあるのだ、食事処『鳴子雀』大将、茜座(あかざ)。鬼の領地から忍びの領地へ行くのではなく、鬼の領地を離れるだけにしてほしい」

「……仰る意味がよくわかりませんね」

「さらに重ねて頼む。これから行う私の()()()に助力をしてほしい。名を変え顔を隠し、()()()()()()、私の夢妄に付き合ってほしい」

 

 ああ……成程。成程ね。

 未来が見えるというのは、シミュレーターもできる、ということか。

 唯一の「勝ち筋」がそれなんだろうな。

 ……そうさな。ここまでの大事となってしまっては、俺も消えるに消えられない。

 

「話は聞きますよ。ただし、一つ頭とんで上位の結界を張らせていただきますが」

 

 言い終わる前にワンランク上の遮音結界を張る。万が一にも聞かれちゃ困るからな。

 

「忍術……いや、魔法、か」

「おや、外国の概念を知っておられましたか」

「忍術はすべて忍びが使うものだから、と……知識を仕入れずにいては、国が傾こうさ」

「良い心がけです。──して、花居(くわい)さん。詳しい話をお聞かせください」

「ああ」

 

 彼女の口が、重々しく開く。

 

征武乱禍(せいぶらんか)大蛇(おろち)、というものがいる」

「魔物……いえ、妖でしょうか」

「一度は神になりかけた妖、だそうだ。……楙鯉山脈の向こう側に出没する、竜という巨大な妖を知っているか?」

「はい」

「あれは、征武乱禍の大蛇のような、長くを生きたが故に異形となり果てた妖が、神になりきれずに堕ちて、そこからさらに長い年月を経ることで生まれるものであるらしい」

 

 へー。竜って神の成りそこないなんだ。

 だから図体の割に知能低いんかな。堕天して暴走してる的な?

 

「葦三方では二度、妖を竜にまで至らせてしまった過去がある。一度目は奴首節(むしゅふし)の大蛇。二度目は溢頭迷(いつずめい)の大蛇。そして此度の征武乱禍の大蛇もここで討伐しきらねば竜へと化することだろう」

花居(くわい)さんはそれを止めたい、と?」

「無論だ。だが、この国を治める御方は私の進言に耳を貸さなかったし、何やら企てをしているようであった。日々の務めの傍ら、それを調べていくうちに、衝撃の事実が発覚した。それは、私達侍と忍びの連中が、そもそも、この竜や成りそこないを他国へ向かわせないための楔として、日夜争わされている、ということだ」

 

 ……ほー。

 ははぁ、成程。腹ペコ竜の晩餐会(サレナスズナ・クリロノミア)か。

 

「葦三方。古くは明日未片と書き、明日の()(きれはし)を意味した。つまり、周辺諸国から集められた罪人の流刑地としてこの地はあったのだという。そして、時の為政者や賢者の企てにより、大きな合戦を起こすと竜が寄ってくるという性質を利用した、流刑地一つそのものを楔にする政策が取られた」

「そして時を経て、流刑地であった事実は忘れ去られ、今残っているのは侍と忍者が殺し合うことをやめない、それでいて竜やその成りそこないが発生しても災厄であるとしか認識しない国の完成、ですか。戦いも災厄も仕組まれたものであると、誰もが知らぬままに」

「そうだ。征武乱禍の大蛇が討たれぬのも、彼の成りそこないを外国へ逃がしてしまうことを恐れるが故のようだ。……侍と忍びの関係は悪化の一途を辿っているが、その原因がどこにあるか、というのは、皆不文律のように口にしたがらない。それは大人から子供へ、代々連綿と受け継がれて来た"そういう教え"によるもので、本当の理由を知る者などいない。……そして、この関係悪化は、恐らくあと一年そこらで最大となろう。そこで起きる合戦を、征武乱禍の大蛇へ捧げ、鎮める。それが狙いのようだった」

 

 この国が鎖国していないにもかかわらずガラパゴス化したみたいな文化を辿っているのはそのせいか。

 山脈挟んだ程度で魔力や魔鉱石の呼び名が通じなくなるのはおかしいと思っていたんだよな。ただ地球でもドイツ語やフィンランド語が山一つ挟んだ向こうじゃ全然別の発音の方言、ってことがあったから、そういうもんかなとは思っていたのだけど。

 罪人の流刑地であれば、余計な知識が入ってこないのも理解できるし、教育の筋が断ち切れたことも何度もありそうだ。

 

「その規模の合戦を捧いだところで、竜が大人しくなるのは数年に思いますが……成りそこないだと何か違うのですかね」

「やはり知識を持っているのだな。他国の知識だろう。聞かせてはくれぬか」

「ええ。発音は難しいでしょうが、外国では腹ペコ竜の晩餐会(サレナスズナ・クリロノミア)と呼ばれています」

 

 そこから、さらっとこの現象についての説明をする。

 

「裁定者……あれが、か」

「外国では竜とは突然現れるもので、生態がわかっていないのです。だからそう見える。しかし、この国やモゴイ丘陵で育ち、出てきている、ということが知られたら、各国も認識を改めるやもしれませんね」

 

 この国以外では「突然現れて戦況をうやむやにして去っていく存在」だから、生物というより裁きか何かに見えるのはマーわからんでもないんだ。

 俺の目にはデカいだけの羽つきトカゲにしか見えないけど。

 

「話を戻しましょう。整理すると、この国を治める御方はこれらの仕組みを十全に理解していて、このまま征武乱禍の大蛇へ侍と忍者の合戦を捧げたい。花居(くわい)さんはその企てを止めたい。──つまり、諸外国へ竜やその成りそこないを押し付ける結果になる、というのは理解しておられますね」

「ああ。かつてここは流刑地であったのやもしれないが、今葦三方を生きる者達に何の罪がある。竜というものを背負うことは私達だけの責任ではないだろう。各地で起こるであろう被害については心苦しく思おうが、世界各国にももののふはいるのであろう? だというのならば、改めて、ヒトというものが立ち向かうべき生存競争の相手としてこれを解き放つことに、どんな咎があろうか」

「よろしい。そして花居(くわい)さんの目的は、国盗り。あなた自身が国を治める者となり、それを成し遂げてから。征武乱禍の大蛇を討滅する。この認識も正しいですか?」

「正しい。討伐隊を組もうにも、上に潰されてしまう。征武乱禍の大蛇は成りそこないといえど強大な存在だ。少数精鋭による暗殺、というのは難しい」

 

 ……まぁ、そうだな。

 レスベンスト冒険隊みたいな突然変異は今のところ見ていない。俺が魔晶石加工の武具を大量配布すればあるいは、だけど、実は今シュラインの時代からざっと百六十年前なんだよね。紫輝歴510年。この時期に魔晶石加工はダメだ。魔鉱石の武具加工すらダメだ。

 普通の鋼鉄武器で、突然変異の力を借りずに、成りそこないとはいえ竜の討伐を成し遂げなければならない。

 残念ながらこの肉体はローレンスよりさらに弱い。竜討伐には然程役に立てない。

 屈強な軍と呼べる規模の兵士を集め、全員に料理バフをかけてやっと、くらいか。それでも甚大な被害が出る。……そう考えるとこの国を治める御方っていうのは正しい判断をしているのだろうな。今までと何も変わらず、もっとも少ない犠牲で世界が救えるのだから。

 

 ふん。

 よく出来たシステムだけどさ。

 ま、人情には即していないのだろう。おまいうだけど。

 

「良いでしょう。あなたの夢妄に付き合うことも吝かではありません。ですが、私の失踪、どうするおつもりで? 忍者のせいにしては本末転倒だ。何も言わずにいなくなるのなら未来は変わらない。違いますか?」

「……そなたも先が読めるのか?」

「いえ、私がいなくなった程度でどうして鬼が全滅するのかを考えていただけです。別に私が忍者の領地へ赴かなくとも、何も言わずに消えただけで、思慮を働かせてしまう存在がいる。瓜良。そして──津吊」

 

 一応な。瓜良が元大目付だと知った時に、従業員全員の身辺調査をした。別に前の職業がなんであれ贔屓も差別もする気はなかったけど、俺の単純な興味でやった。

 住み込みでない従業員や羽澤はなんでもないこの国の民だったが、知っての通りの瓜良と、そして二番目の住み込み従業員である津吊は違った。

 

「葦三方が菖蒲家を束ねるは菖蒲(あやめ)花居(くわい)のその人なれば、麾下に連なるは御庭番。筆頭、綽名を『隙間風』。名を、津吊。──ですよね?」

「……やはり只者では無いな。あの子を見て怪しむことができることもそうだが、調べ上げてそこまで辿り着くとは」

 

 ……いや、まぁ、もうこういうノリだったからやったけどさ。

 まさか俺が他人に「──ですよね?」をする日が来ようとは……。本人がここにいないからシチュエーションはちょっと違うんだけど。

 

「私の失踪はどう頑張ってもあなたと会話をした後になる。瓜良はわかりやすいですが、津吊もなみなみならぬ感情を抱いてくれているようですから、この符号が合致した状態での失踪となれば、まず真っ先にあなたを疑うでしょう。そうでなくとも菖蒲家を」

「そうだ。瓜良の求心力は未だに高く、学もある。津吊の行動範囲と戦闘能力は末恐ろしい。この二人が組み、謀反を企てた場合、菖蒲家はあっけなく沈む」

 

 自らのカリスマや熱心さを用いて土台の方から崩していく瓜良と、侍版忍者みたいな御庭番として上から首を落としていく津吊。成程最強タッグだ。

 ちなみにここまで来たら羽澤にも何かあるんじゃないかと俺も思ったけど、マジでなんにもなかった。家族が死んでいるとか経歴が不明とかもない。アルカの時みたいに実は【マギスケイオス】である、という可能性まで疑ったけど、魔力の質があまりにも普通。そこまで偽装できる実力者、という可能性もゼロではないけど、多分あの子は普通の子。

 

「瓜良大目付が人の変わったように職を辞め、弟子入りを果たした食事処。何が起きているのかと御庭番を潜入させてみれば、その者まで御庭番を辞めて料理人になると言い出した。どうなっているのだ、そなたは」

「私は料理を教えただけですがね。……とかく、この二人を謀反にさせないような消え方をする必要があります。こうして店を与えたとしても本店の私がいなくなれば同じ途を辿るでしょう。なんせ彼らの読み通り、私はあなたに雇われるために名を消さざるを得なくなったのですから」

「……私が雇わずとも消えていただろうに」

「ええ、それは。私には私の目的がありますからね」

「それが何か、というところについては、"姫巫女"の目でも見えなかった。これほど顔と名前を売って、民に愛される飯処を作ってから失踪する。そこにどのような意味があるのかは皆目見当もつかぬが……」

 

 つかないだろうね……。まさか「──ですよね?」をしたいからそのためにやっています、だなんて。

 

「とにかく、策は考えてある。──冥津神と会ってもらう」

「……この国の、川の神、でしたか」

「ああ。古くは禍いの神としてあった。征武乱禍の大蛇の名も元はこの神の名だ」

 

 いや。まぁ。すーっごい既視感は覚えているよ、この流れ。

 シチュエーションは全然違うけど。

 

「わかりました。会いに行きましょうか」

 

 

 して。会いに行った先にいたのは。

 

「よく来たのぅ、迷い家の者。ふくく、ふくく、して、どうする気かのぅ。この国では、何を育てる腹積もりかのぅ?」

 

 で────────────────────っかい、カタツムリだった。

 蝸牛の蝸は禍ではないヨ……。

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