序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
「曲者、曲者じゃ! 者ども、出会えい、出会えい!」
年老いた男性が力の限り叫ぶ。その視線の先にいるのは、屋根どころか何も無い空まで駆ける、全身を黒に巻いた者。
忍び、そう取ることに難しさはない。
ここが葦三方最大の忍び、愁牙衆の城でなければ、だ。
「おーおー、わらわらと……」
「決して逃がすな! その者、定道様との取り交わしを聞いておる! 殺してしまえ!」
「秘密なら叫ぶんじゃないよ、っと」
空中という袋小路はこの忍びに意味をなさないのだろう。虚空を蹴って虚空を走り、鉤縄を伸ばして悉くの忍術を躱す。
しかし、そこは忍びの城。入った鼠がさかしく逃げ回ろうと、犬猫の嗅覚を欺けるものではない。
「火遁、──
城の各所にいた忍びから放たれるは巨大な炎の球。前後左右上下、六方を封じる炎の檻に、ねずみめはなすすべもなく──。
「コツさえ掴めば、得物が無くても切れるのさ」
六つの炎球と、それを囮に放たれた土遁の縄を
気の理解者。それも、最高練度の手練れである。
「皆の者、退けぃ! ここは某の蛟で仕留める! ──式紙、奴眼蛟!!」
「なん……のことかと思ったらサモンかい。んで蛟じゃなくて」
式紙使い、その忍術。虚空より呼び出したるは、征武乱禍の大蛇のしもべと言われている大鰻。
円状の顎を使えば砕き削れぬ者などいない。
「ワーム、じゃね? いやイールか?」
直撃した。
そして、大口を開けた奴眼蛟はたしかにねずみめを食い殺した。
かに、見えた。
「な──」
「腹の容量が足んないよ。俺を食うなら、竜の一匹はもってこいってんだ」
ぱちんと、水の入った皮袋を割り裂くようにして、ねずみめを飲み込んだ蛟は死んでしまった。
その血飛沫、一滴たりとも身体にかけず。
「品切れってんなら、こちらから。──火遁!」
言葉を聞いて、即座に遮蔽物へ身を隠す忍びたち。
これほどの手練れの用いる火遁とあらば、生きて帰ることを望んではならぬと──。
「大煙幕!!」
空中に発生する黒い煙に、一瞬思考が止まった。
やがてその煙が風になびいて晴れると……もうどこにも、ねずみの姿はなく。
その後あまたの忍びによる必死の捜索虚しく、かの者が見つかることはなかったのである。
***
というわけで、忍者ごっこしてきました。
忍者っつってもマーただの魔法使い集団だな。体術ができる分普通の魔法使いよりは強いのかもしれないけど、国外で行われている魔法の研究を取り入れていないから脆弱魔法ばっか。
いくらこの肉体が弱いと言ったって、これくらいならどうとでもなる。……が、一層心配になったなー。征武乱禍の大蛇退治、侍と忍びどっちもいないと厳しそうだけど、練度があれだとどんだけバフ盛ったって……かもしれない。1000倍にしたって元が0.001なら……みたいな。
音もなく
「帰ってきたか。……そなた、そうしていると本当に忍びのようだな」
「御庭番も似たようなモンだろう。さて、ほら。全て聞いてきてやったよ。定道と忍びの密約を」
巻物に認めたそれを
「……忍びを勝たせる代わりに、合戦を長引かせたい、か」
「一聴して殿様に益が無い。だから忍者連中も、怪しみはしても話を受けた、ってところかいね。そんでもって、お前さんは操り難いと判断したんだろう」
「そのようだ。……どうにかせねば、忍びの連中めも食われるというのに……これでは、歴史の通りに大蛇が、となりかねぬ」
「侍からの情報共有に耳を貸すはずがないからね。まぁ、そのあたりは
「……というのは?」
「それくらい見通しなよ。──策ができたら呼ぶといい。しばらく休ませてもらう」
立ち去る。
そのままの足で宛がわれた部屋へと入る。
──そんな俺の背に、小刀の先端がめり込んだ。
「何者か」
「それはこちらの台詞。御庭番の居住へ忍び込もうだなんて、肝が据わっているね」
「俺も御庭番だ。
「ああ……あんたが。
なんか新鮮だな。御庭番としての津吊、か。
「正体がわかったのなら、敵意を引っ込めろ。その刀もだ」
「私は自室に入ってまで顔布を取ろうとしないやつは信用しないようにしているのさ」
「そも、『隙間風』は飯処に惚れこんで、足を洗ったそうじゃないか。元筆頭が末番に何の疑念を抱くというのだ」
「……御庭番としての仕事は続けている。その他で何をしようと、足を洗うだなんて話にゃならないよ」
「だと良いがな。お前も女だ、店主の男に跨りでもして、ころっと行ってしまっておかしくなかろう」
本気の殺気と共に刃が押し込まれる……が、既にそこに俺はイナーイ。
結界術を使ったなんちゃって身代わりの術である。
「師への侮辱は、許さない。……覚えておきなよ、
「ほうら、惚れ込んでいる」
ま、実際のところはそういう感情が無かったって知ってるけどな。
今のはあくまで煽りが目的だ。
「俺が顔布を取らぬのは、名の通り痣が酷いからだ。
「……なに、火だるまにでもなったの?」
「似たようなことよ。火に毒に倒木に矢に。全身が縛られた状態での四重苦は、中々に歯応えがあったぞ」
「良く生きてんね、それ。……はぁ。もういいや。疲れたし。……期待はしないでおくけど、精々頑張んな。
そんな感じの設定にした。
痣火。姓は無し。
診断の結果、毒と火に焼かれ、倒木に押しつぶされ、矢に追われ……そうして満身創痍になっていたところを
なんらかのアクシデントで顔布を取られてもいいように顔や全身へ波及する「爛れ」はしっかり作った。……ら、素顔を見た
さて。
身内の「──ですよね?」を起こさないように、且つ強キャラからの「──ですよね?」を受けられて、さらに「──ですよね?」の瞬間に主人公パーティ的なのが近くにいないといけない。
俺の「──ですよね?」のシチュエーションはこのこだわりにこだわり抜いた状況でしか達成し得ない。
よってまず主人公パーティを見つけなけれなならないのである。
幸いにして忍者の領地には侍の領地の情報がほっとんど入ってこない。侍の領地の飯処の店主が神憑きと神隠しに遭った、なんて話は入ってこないのだ。
これを利用し、うまいことやって「──ですよね?」を発生させる。
ということで。
まず用意しましたるは、武者修行という名の旅をしているという数人の忍者たち。
いやー見つけるのに苦労をした。けど、この国の今の情勢で旅をしようって連中が少ないから、聞き込み調査で割とイケた。
合戦の始まりがだいたい一年後、というのは
よって今回は一年でことをやり遂げなければいけない。それが終われば国盗りをして征武乱禍の大蛇退治に移行するのだから。そしてそうなれば、まぁ、俺は死ぬだろう。正直勝てる気しないし。
カタツムリの神の言う通り英雄が生まれずに終わるかどうかについては確約せんがな。もう芽は出ているだろうに。
「紙袋のおっちゃん、お団子三皿お願いするよ」
「あいよぅ」
軽快な返事をして爆速で団子を作り、『全味覚対応刻印』を刻んで出す。
注文をしてきた三人組……小さいのとのっぽと太っちょな若者たちは団子を受け取ると、待ってましたと顔を輝かせる。
ここ
そこに茶屋を建ててみた。食事ではなく、甘味だけを出す茶屋だ。そしてメニューに『全味覚対応ゼリー』や『報酬系直接刺激ゼリー』の応用の団子を用意。
料理ってそうじゃないじゃん、のオンパレードを以て売り出したところ、これが意外にも好評で。
俺が
「美味い! もう一皿……と言いたいけど、金が無いからまた今度!」
「相変わらず金欠なのかい」
「そりゃねえ。このご時世で侍と忍びが一緒にいるってんだから、どこへ行ってもお払い箱でさ」
侍と忍者は仲が悪い。戦争し合っているんで当然といえば当然なんだが、じゃあ町で見かけたら即殺し合いか、っていうと実はそんなことはないみたいで。
侍の領地、忍者の領地へは互いが互いに入り込むってことは無いっぽいんだけど、ここ
そしてこの若者たちのように、侍と忍者が一緒に行動する、ということもゼロではないみたいなのだ。
多分、教えがどうであっても、本質的にいがみ合う理由が無いからなんだろうな。
むしろ家を勘当された者とか、身寄りのない者は……教えを正しくないと受け取って、彼らとの縁を手繰ろうとする。それがこういう事例を生むのだろう。
ただし、彼らの言う通りこのご時世でなければ、の話だ。合戦が眼前にあるような状態で仲良しごっこしているのは普通に狂気の沙汰である。
ちなみにこの若者たちは……伸びしろは、正直微妙だと思う。魔力の質も平凡だし、魔力量も並。特筆すべき何かを持っているってこともない。
主人公パーティと呼ぶには些か見劣りするけれど、マー他に候補がいないのだから仕方がない。
「紙袋のおっちゃん、またなー。次は二皿食うくらい金を貯めてくるからさ!」
「また会いましょうー」
「おれはここの団子食ってる時が一番幸せでなぁ。……あ。……あれ? 守岡、鈴尾、どこいっただあよ~っ!」
甘味処『葵芙蓉』。なぜか誰が食べても美味い、それでいて幸せな気持ちになれる団子と茶を出す、何の変哲もない茶屋、である。
***
彼女は今、調べ物をしていた。
先日のことである。
彼女の潜入先にして、衝撃の出会いをくれた師、
全身から粘液を分泌してしまうその症状はうつるものであり、だから苦渋の決断で彼を隔離し──その日の夜に、無数の毒蛙の襲撃を受け、その肉体ごと
思い返す。それは彼女の同志となった、元大目付瓜良、そして長らく葦三方を脅かし続けていた毒蛙の元凶、羽澤。
昨日彼と共に行った腹の割り合いにおける会話である。
「いいかい。僕がこの国へ毒蛙を放っていたのは、僕の所属する組織で易占のできる者が、この国に不穏の影を見出したからなんだ」
「不穏の影?」
「そう。近々、葦三方だけではなく、全世界をも脅かす悪事がこの国で執り行われる。あってはならない悪事。起こってはいけない出来事が起こる。僕はそれを阻止するために派遣されたし、それを起こす可能性のある者を毒蛙を使って監視をしていた」
「『鳴子雀』におけるその監視の対象は……師か?」
「ああ、その通りだ。彼と、そして君、瓜良。この二人には類稀なる求心力があった。易占に出たのはこの国の誰かが何かをする、ではなく、この国で悪事が執り行われる、だからね。大勢を動かすことのできる人物に探りを入れていたよ。『鳴子雀』だけじゃなく、菖蒲家、桔梗家、殿様、忍びならば愁牙衆や弥栄衆になる」
一つの考えのもとに大勢を動かし得る存在。
それが悪なることを為すのだと。
「それで? それが、どんな関係があるって?」
「神による支配権の割り込み。食事で戦場を操作する力。未来を見通す菖蒲の姫巫女。この国は強大な力の持ち主が分散し過ぎている。僕がこの国で悪事を企むのなら、散らばった力を自分のもとに集めるし、集められない力は潰そうとする」
「……成程。師の力を危ぶんだ者は、その力を掌中に収めようとした。その者のもとに神がいる可能性がある、と」
「それなら、心当たりあるかも。詳細はわかんないんだけど、花紋三姉妹が定道様に囲われかけていた、ってのはよく聞くよ」
「姫巫女の力は誰に発現するかわからぬと聞く。此度は
「であればやはり定道様か」
そうだ、と。
そこで、思い出したかのように瓜良が言葉を継ぐ。
彼は巻物を取り出したかと思うと、墨に筆を入れ、なにごとかを描き始めた。
彼の描いたものは。
「これは……
「ああ。俺の覚えている限りだが」
「……あんた辞めたの三年前でしょ。よく覚えてんね」
「記憶力に関しては俺の唯一と言える自慢だからな。そんなことより、ここを見ろ」
彼が示すは一階。食料保管庫……氷室と隣接して存在する蔵だ。そこと、その隣の洗い場。いや、二つに挟まれた無の空間。
「蔵がここで、隣には洗い場がある。だが、ここの空間には何も無い。と、されている」
「……妙だな。僕には四畳ほどの空間があるように見える」
「ああ、俺も妙だと思っていたのだ。過去に気になって調べたこともあるが、ここへ通ずる道は終ぞ見つけられなかった。だが、羽澤。お主の蛙であれば」
「そうだね、可能性はある。わかった、試してみるよ」
その時そんな会話をして、今。
夜中、それとなく確認をするつもりで蔵へと来ていた津吊は、おかしなところに挟まって身動きの取れなくなっている毒蛙を発見していた。
羽澤曰く、もう二人を襲うことはないらしい毒蛙であるが、毒は毒。これに触れてしまわないよう細心の注意を払ってそれを助けてみれば、毒蛙はまたも妙な場所へ入っていく。
学習をしない蛙に津吊が呆れかえっていると、今度は蛙の声がくぐもって聞こえるようになった。
改めてその場所を聞きとれば、どうやら壁の中。そこで毒蛙の通った道を辿るようにしてみれば──。
「……隠し通路。それも……まっすぐ、御殿に通じている、か。……お手柄だよ、蛙ちゃん」
普通にやっても外せない、特殊な動かし方をすることでようやく外れた蔵の壁。
潜り抜けた先には、まっすぐ一本道の隠し通路が広がっていた。
ただ、これ以上を単身で向かうのは危険だ。
彼女は隠し通路を出て、蔵の壁石を元の通りに戻し、そうして滋島城を去る。
主である
過密な予定ではある。だが、
そんなことを考えながら
甘味処『葵芙蓉』。この最前線に、甘味処。
幻でも見せられているのではないかと思う不似合いな茶屋だが、店からは甘い匂いがしていて、思わずくぅと腹を鳴かせてしまう津吊。
調査も兼ねてその茶屋へと近づけば。
「……あんた、何やってんの?」
「茶屋だが?」
最近御庭番入りした生意気な男、痣火が、紙袋を被って、団子を作っていた。
一気に肩の力が抜ける津吊である。
「市井に混じり、市井の者から情報を抜く。何もおかしなことはしていないはずだが」
「……
「実際様々な情報が入ってきているぞ。愁牙衆の元に出た正体不明の忍びが彼らの包囲網を突破した、とか。誰も入城した姿は見ていないのに、滋島城で定道様の影を見た、とか」
これまた一気に引き戻される津吊。
どうやら彼女の考えている以上に有益であるらしい。
「ヒトは美味いもの食べると、幸福になる。幸福になると口が緩むのだ。普段はダメだと線を引いていても、これくらいならいいかと零す。ここ『葵芙蓉』はそういう口から零れた情報を丁寧に
「……その、定道様関連の噂。他にあったら教えてよ。なんならお金出すからさ」
「ああ、また仕入れたらな」
「なんか疲れた……。……団子、一本頂戴よ」
「まいどあり」
皿に出されるは、特に飾り気のない白い団子。三個が一本の串で貫かれているそれ。
毒や薬を嗅ぎ分ける彼女の鼻にも、細工の全てを見通す目にも、おかしなところは見受けられない。……というか、とんでもなく普通の団子だ。
結局怪しいのは見た目だけか、と一個を口に入れた津吊は……驚きの声を出す。
「へえ。……私が塩っぽい団子が好きって、よくわかったね」
「別に味付けは変えていないぞ」
「ああじゃあ、いつもこれで出してるんだ。苦手な人もいそうなものだけど」
美味である。茜座の作る甘味とは根本からして違う、ただただ津吊の好みの味。
そしてそうであるからこそ、確かに幸せな気持ちになるのだ。
ふと、疲労を覚えた。いや、眠気だろうか。
「なんか余計疲れたかも。按摩行こうかな……」
「その身に指を入れる按摩師は大変だな。岩のように硬い肌では、指も折れてしまおうに」
「はいはい。わかったわかった。……お代はツケといてよ」
「横暴なことだが、まぁいいだろう。金儲けのためにやっているわけではないからな」
「ありがとさん」
そんな感じで。
師のために、そして怒りと憎悪に駆られて、彼女は。
……とりあえず今日のところは美味しい団子を食べて、受けていないのに、全身按摩を受けたような甘い快楽に身をゆだねて、ぐっすり眠るのだった。
そして翌日からまた、食事処『
甘味処『葵芙蓉』。お品書き
『全味覚対応団子』 - 体力回復量120%Up、ストレス軽減300%、疲労回復300%、若返り1年分(対象年齢十歳以上)
『報酬系直接刺激団子』 - 会心率500%Up、会心ダメージ250%Up、攻撃力、防御力、俊敏、器用さ、魔力回復量30%Up、全状態異常耐性30%Up
ひとつの団子でみんなが「美味しい!」と思える光景を目指して生まれた新感覚団子!
見た目は昔ながらの素朴な白色団子ですが、口にしたのなら摩訶不思議! 老若男女、すべての方にとって美味しいと言える味わいが広がります。
また、慢性疼痛緩和、血行促進、疲労回復、免疫力向上、精神疲労改善、美肌効果など、さまざまな効能アリ!
一粒食べたらその日は快眠間違いなし!