序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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3.いりめく人だかり

 人影は三つ。足音は二つ。

 

「うーん、流石にこちらは田舎も田舎ですね……。おっと失礼、カズラの故郷を悪く言うつもりはありませんよ」

「いや、田舎だから大丈夫。王都に比べちゃったら、どこもそうなると思うけど」

「それでも武器のメンテナンスするために帰るんでしょー? ハナカラとジルも装備持たせてきたし、贅沢っていうかこだわり強いっていうかさー」

「ですね……。武器そのもの、防具そのものは職人によって差が出ることはありますが、加工は誰がやっても同じでしょうに。しかもそのメンテナンスとあらば、尚更」

「ああ、今からお世話になりに行く人にも同じこと言われたよ。個人差はない、思い込み、気のせいだ、って。……かもしれないけど、おれからすると全然違うし、何よりあそこは……おれが英雄になった場所だから、とか。……クサいかな」

 

 足音が一人分無いのは、一人が浮いているからだ。

 カズラ・リアナ。フィノ・ルンテーニ。そして精霊族のメギス=ヘルトン。

 いつもは誰もついてこないカズラの「メンテナンス旅」であるけれど、此度は同行者がいた。カズラの新たな仲間の二人が。

 

 英雄。カズラがその名を受けたあの竜災から、既に一年以上が経っている。

 それでもシャルフロースの街は彼にとっての転換点であり、あのアトリエへは月一のペースで通う行きつけになっていた。

 

「クサいですが、元からあなたはクサい奴なので構いませんよ。……しかし、それほど言うのなら、私達の武器も見ていただきましょうか」

「メギスに武器とかないけど、美味しい魔鉱石とか持ってたら買おっかなー」

「……店でつまみ食いとかしようものなら、流石に追い出すぞ?」

「そこまで見境なしじゃないってー」

 

 一年を経ても、シャルフロースではカズラは英雄扱い……ということはない。

 他ならぬカズラがそうされることを苦手としたために、あそこでは「少し強い冒険者」くらいの扱いをされる。

 次第に名の売れ始めた……行く先々で人々を救うその姿から、「英雄」「冒険者」から「勇者」として見られ始めたカズラにとって、それはとても嬉しいことで。

 

 ようやく見えてきた懐かしの外壁に。

 

「ようこそ、二人とも。シャルフロースの街へ」

「別にあなたこの街出身でもないでしょう」

「領兵さんに言われるならまだしもー」

 

 ……肩書きがいくらすごくなろうと、別に彼本人がすごくなったわけではない証左であった、とか。

 

 

 さて、方々への挨拶もそこそこに、カズラ一行はそこ……アトリエ・シュピーゲルへと向かう。

 田舎の、どこにでもあるような店構え。その扉を開けば、ともすれば民家と見紛うほどに展示の少ない店内とカウンターがフィノたちの視界に入る。

 

「インゼン先生、今大丈夫かな」

「おや、カズラさん。いらっしゃいませ。魔鉱石のメンテナンスですか?」

「ああ、サブに使っている剣の黄魔石がうんともすんとも言わなくなってしまって……」

「……カズラさん。いつも言っているでしょう。魔力は芯を作るくらいの量で良いんです。力んでありったけを込めたって、腕力も切れ味も上がりませんよ?」

「ぅ……すまない、インゼン先生」

 

 どうやらただの客と店主の間柄ではないようですね、と……最近仲間になったばかりであるフィノはそんな評価を下す。

 英雄・カズラ。縮炎のカズラとしても名高い彼の人柄は、特筆すべきところのない好青年、といったもの。話してみても特別な部分はあまり感じられないが、芯の部分に強い意志を有している。それが人を惹きつけるのだろう、というところまで考察してあった。

 そんな彼を嗜めるように言葉を吐く店主。親しい間柄なのだろう。使用感云々を理由にここへ来ていたようだが、彼と会うためでもあるのでしょうね、と結論付けようとして。

 

「まったく……。ま、魔鉱石を嵌め替えるだけですから……お昼を食べ終わる頃には終わるでしょう。その時に受け取りに来てください」

「ありがとう。いつも、本当に」

 

 その店主の顔を見て……思わず己が武器を落としそうになった。

 

「驚きました。まさかこんなところで出会えるとは……」

「ああ、すまない。紹介が遅れた。彼は新しく仲間になった、フィノというやつだ。そしてフィノ、彼は──」

「当時あまりにも画期的な加工法で魔鉱学界をざわつかせ、その難度の高さと精度の高さ、そして飛躍的なまでの戦闘力の向上に今なお予約者の止まるところを知らない……『鏡の工房』工房主、シュライン・ゼンノーティさん……ですよね?」

 

 問えば。

 がらり、と……雰囲気が変わる。

 

 田舎に住まう、優しそうで、けれど時には厳しくしてくれそうな、親しみあふれる男性、から。

 空恐ろしくなる気配を持つ──竜にも勝る猛獣のようなそれへ。

 

「はて……人違いでは?」

「……そういうことにしておいても構いません。カズラの思い出を壊したいわけではありませんから。ただ、一つだけ。どうして何も言わずに王都から姿を消したのかだけお教えいただけませんか。あなたの弟子や……あなたの安否を想う人々が、眠れない夜を過ごしている、ということくらい、わかっているのでしょう?」

「人違いであるのなら、そう問い詰めるのは違う。そうでしょう、フィノさん」

「……」

「……」

 

 飲み込まれる生唾。フィノもメギスも、相当な実力の持ち主だ。

 その二人をして、動けない。にこやかな男性。無手の男性。それが……深淵のように深い空気を身に纏っている。

 

「インゼン先生」

 

 そんな空気を砕いたのは、カズラだった。

 

「はい、どうかしましたか?」

「先生は王都のこと、苦手に思っているよな。言葉には出してないけど、ちょくちょくそういう素振りがあった。だからおれは、先生を王都に近づけようとするやつとか、連れ戻そうとするやつがいたら、盾となる覚悟がある。おれは先生からたくさんのものをもらったし、教えてもらった。だからそれを返したいんだ」

「そう、ですか」

「だから……おれは、たとえ仲間に刃を向けることになってでも、先生の嫌がることはしたくない。仲間にも……そういうことは、してほしくない」

「──申し訳ございません。シュラ……いえ、インゼンさん。初対面にも拘らず、礼を欠きました。……カズラ、申し訳ありません。あなたの日常を壊すつもりはありませんでしたし、彼の現在を壊すつもりもなかったのです。……口が滑った……いえ、好奇心に突き動かされ、要らぬことを言いました。誠に申し訳ございません」

 

 頭を下げる。フィノ・ルンテーニの平時を知る者がここにいれば、驚くことだろう。

 彼はどんな権力にだって遜らない。丁寧なのは口調だけで、その実誰よりも過激派だ。

 そんな彼が、頭を下げて謝った、など。

 

「……こちらこそ申し訳ない。私からは……何も言ってあげられません。あなたの問いに是も否も。ですからどうか、ここでは私のことはただの加工屋と。そしてあなた達はお客様と……そういうことで、手を打ちませんか? カズラさんが怒る理由も、フィノさんが頭を下げる理由も、ここには無かった。なぜなら私とフィノさんたちは初対面で、フィノさんは私についてを一切知らないのだから、と」

「わかりました。──忘れました。ではカズラ、行きましょう。昼終わりに取りへ帰ってくればいいのですよね」

「せっかくなら、フィノ、お前もメンテナンスをしてもらったらどうだ?」

 

 人が折角一旦話を終わりにしましょう、に持っていこうとしたというのにこの律義空気読めない男……! と、声には出さないけれどフィノの胸中で割ととんでもない罵倒が飛び出る。割といつも思っていることだ。

 

「え、ええ。ではお願いします。構いませんか?」

「はい、勿論です。そちらの方は……」

「メギスは精霊だから武器とかないよー。美味しい魔鉱石があったら買おっかなって」

「ふむ。当アトリエでは金銭のやり取りをほぼ行っておりませんので……加工の際に余った魔鉱石の欠片であれば、袋詰めしてお渡しできますが、いかがですか?」

「え、貰う貰う! わーいおやつだ!」

 

 メギスもまた空気読めない……というか圧は感じ取れても空気が悪いとかは感じ取れない精霊である。

 いやいや長居する流れじゃなかったでしょう、と張り詰める胃をキリキリさせながら、ようやく店を後にすることができた時には、フィノ()の顔はそれはもうげんなりしていた、とか。

 

 

 店からそれなりに離れて、一息。

 

「ふぅ。……いえ、本当に申し訳ございません、カズラ。余計な言葉を吐いてしまいました」

「いや……おれも熱くなった。ごめん」

「無償でおやつくれるからあの人良い人だよ。フィノ、今後は失礼のないようにねー」

「……ええ、そうですね」

 

 一瞬殴ってやろうかコイツ、と思ったのは内緒である。

 フィノは荒れ狂う怒りを抑え、努めて冷静に話し始める。

 

「しかし……。……ああいえ、そう、いえ。はい。なんでもないのですが」

「いや。……先生を連れ戻したり、彼の日常を壊すことがないのなら、言論統制までしようとは思わないよ。それに……フィノがああまでいうってことは、よっぽどすごい人なのか?」

「とんでもない人、ですよ。……武具加工は歴史の浅い技術です。それは知っていますね?」

「ああ」

「その浅さは他の技術と比べるとかなり、なのです。なんせ武具加工がマトモに仕上がったのはここ数年での話。それまでは設置型魔道具ならまだしも、振り回すような武器へ魔鉱石を、なんて考えられないことでしたから」

 

 昔、興味本位で魔道具を分解したことを思い出すフィノ。

 中心にはめ込まれた魔鉱石からびっしりと書き込まれた魔法陣や詠唱文。あまりにも細かいソレは当然精密なもので、少しでもズレたら使い物にならなくなったり魔力暴発の起きる危険な代物だった。

 考えればわかることではある。魔鉱石に封じ込められた魔力はその魔鉱石を使い切るまでに吐き出せる魔力と同等。過剰駆動さえしなければ、どの魔鉱石も二年や三年は魔力を吐き出し続けられるものだ。それの扱いが繊細ではなくて如何とするか。

 

 だからこれを武器や防具に、なんてのは夢のまた夢だった。理論上はできなくはない。けれど準備に時間がかかるし、実戦では役に立たない。莫大な費用の掛かる手品遊びくらいにしかならない。

 しかしシュライン・ゼンノーティの名と共に台頭したその加工技術、及びそれらの施された武具防具は、夢を叶えたと豪語するに相応しいものだった。

 炎を纏う剣。風の刃を飛ばす剣。打撃の瞬間だけ重量化・硬質化する槌や、氷を纏う矢など……想像した通りの夢物語。

 

「シュライン・ゼンノーティ。夢のまた夢と言われていた武具加工を技術として成立させた、魔鉱学の権威。……人柄の良い、慕われていた人物だった、とも聞いています。あれを見れば納得ですが」

「インゼン先生が、そこまで凄い人だったなんて……」

「加工も調整も誰がやっても同じ、という言葉、取り消しますよ。少なくとも彼だけは別の場所にいる。別の次元にいる」

 

 生唾を呑むカズラ。その横でバリボリ魔鉱石の欠片を食べているメギス。

 

「だからこそ……二年ほど前、ですか。彼が突然王都から姿を消した時は大騒ぎになりました。経営が悪かった、どこかに借金していた、などの話もなければ、書き置きも伝言も無し。何があったのかは誰にも分らぬままに彼は姿を消し、『鏡の工房』は主を失ったのです。……今でも彼の取った数人の高弟が……彼らもまたその高い実力からそれぞれの工房を持っているのですが、皆で協力し、主を失った『鏡の工房』を守り繋いでいるそうですよ」

「……何があったのか、か」

「はい。愚かにもあの場で……彼を詰問するようにしてしまったことは、恥ずべきことです。少し考えればわかることでした。その失踪が、自らの意思によるものではない、ということくらい」

「初対面のメギスたちには勿論、仲の良いカズラにすら明かせないような何らかの事情があって、名を変えて身を隠している、って感じー?」

 

 頷くフィノ。ぐ、とカズラは拳を握った。

 

「おれと、ジルベルトと、ハナカラ。おれの仲間は最初はこの二人でさ。三人で……駆け出しだった頃、色々なことをあの人に教わったんだ。戦い方も、社会での生き方も。……恩人なんだ」

「調べるの、アリだよね~。どうせ向こう半年くらいは王都から動けないわけだし」

「ですね。"天空船"の建造にはどうやったって時間がかかります。タイムリミットというわけではないですが、半年の間は使える時間がある、というわけです」

「ああ」

 

 "天空船"。それはある古文書から見つけた製法と、『竜の星芯』と呼ばれる特別な魔鉱石があって成り立つ、天空を行く船。

 これがなければ魔王のもとへは辿り着けない。だから建造までの間、どうやったって時間が空く。

 調べるのだ。力は身に着けた。荒事を対処する力も、人の繋がりという力も。

 それを恩返しに使うのだ、と。

 

「そういえばさ、カズラー。そっちの、大切な時にしか抜かない、って言ってた剣の方さ」

「ん、これがどうかしたか?」

「ずっと言うか言うまいか迷ってたんだけど……嵌ってるの、魔鉱石じゃなくて魔晶石だよね」

「ああ。凝集加工・閻魔石獄炎。これもインゼン先生にもらったものなんだ」

 

 走るは激震。主にフィノに。

 

「魔晶石……ですか。それの……加工?」

「これもやっぱすごいことなのか?」

「うん。魔晶石って加工できないんだよー。だからそれを使う魔道具は絶対巨大になるんだってー」

「そうなのか。でもおれのこれは、元々使ってた魔鉱石を魔晶石に変えてもらったやつだから、ちょっと違うのかもしれない」

「待ちなさい、カズラ。情報量で殴らないでください。……成程、インゼン先生は……各勢力に狙われるに足る理由を幾つも有しているようですね。発表していない技術もかなりある……いえ、もしやその内のどれかを発表したがために、命を狙われるようなことが……?」

「だとしたら、王都に帰って……学者をあたるべきかな。インゼン先生が最後に発表した技術を知って、それを益とする勢力と不利益とする勢力を洗い出すんだ」

 

 話が詰まっていく。その後ろでメギスが「えっと、そういうことが言いたいんじゃなくて」と話を逸らそうとするのだが、二人は聞かない。耳を貸してくれない。

 

「魔晶石も加工できるなら、飴くらいの大きさにしてもらえないか、って相談しようとしただけなのにー」

 

 メギス=ヘルトン。精霊という強大存在であり、魔法攻撃者の少ないカズラのパーティでは欠かせない役割を担う仲間であるのだが、些か衝動を食欲に支配された……食いしん坊、である。

 育ち盛りだから仕方がない。人間換算十五歳。実年齢千五百歳は二人のする難しい話の隣で不貞腐れていた。

 

***

 

 ──満足である。

 もう望み薄かなーとか思っていたけれど、カズラ君……! ちゃんと強キャラを連れてきて、思った通りのムーブをしてくれて……。

 感無量! 俺もう感無量!!

 

 だから。

 

 もういいや。シュライン・ゼンノーティ、加工屋のインゼン先生はここで終わりでいい。「~さん──ですよね?」は一パーティにつき一回しか使えないものだからサ。

 ただここで消えると……ほら、正体バレしたから消えたみたいで、告発したフィノ君? の立場が悪くなりそうだから……何がいいかね。死ぬのがベストなんだけど。

 技術の方は弟子ーズに託したし……。あ、でも魔晶石関連がまだだなー。弟子ーズから一人だけ見繕って技術叩き込んで、適当な戦争地帯に行って行方知れずになろうかなぁ。今度は沢山の人が見ている前でいなくなろう。そうすれば噂も探しに来る人も消えるデショ。

 

 そうと決まれば準備準備。次はどんな技術でやろうかなー。今から期待が膨らむなー。気体だけに。

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