序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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29.ランタンから伸びる影

 ぜぇぜぇと荒い呼気が少女から吐き出される。

 手元の光の魔鉱石は先程から明滅を繰り返しているし、その明かりも足元を照らすほどにも満たない。

 いや──今、明かりが、消えた。

 どたどたと大きな足音が聞こえてくる。ひたひたと水気の含む肉の擦れる音まで聞こえてくる。

 いる。すぐ、後ろに。

 走るしかない。走って走って、もう少し先にある「博士」の家にさえ逃げ込めれば。

 

 ぴと、と。

 足に、冷たく、濡れたものが触れた。

 

xxxxx!」

 

 それを口汚く罵って、光の魔鉱石を叩きつける少女。

 鋭い痛みが足に走るけど、それを無視してひた走り──そして、その家へと辿り着くことが、できた。

 鍵の開いているそこの扉を開いて転がり込む。そこでようやく振り返れば──無数の目の開いた不定形の黒たちが、べちゃ、べちゃと。

 まるでそこに、見えない壁でもあるかのように……玄関へ張り付いて、手に見えるものを張り付かせて、「ナンデ」とか「コッチ が アンゼンだよ」とか、ぼそぼそ呟いているのが見えた。

 

「ハッ、xxxxが! テメェにゃ便所の底がお似合いだっつーの!」

 

 ようやく安全を得たから、だろう。先程まで荒い呼気を吐いていた少女は、ひとしきりの汚い言葉を吐いて、ふぅと落ち着きを取り戻す。

 ギ、と。床板が鳴った。

 

「っ──!」

「やぁ、メッテ。何度も説明した通り、家の中へアレらが入ってくることはナイヨ」

「……博士か。ったく、驚かせんなよ。……そうだと知ってても、長年染み付いたクセってのは抜けねえんだ」

 

 そこにいたのは、ともすれば骸骨が話していると勘違いしてしまいそうなほどに細く、青白い肌の男。

 少女……メッテらが「博士」と呼ぶ男性だ。

 

「……ヘンリックの野郎はまだ来てねえのか?」

「三十分ほど前に出ていったばかりダネ。光の魔晶石を見つけたとかなんとカ。こんな住宅地で見つかるものではナイと言ったんだが、聞かなくテネ」

xxxx! あの野郎、また一人で……」

 

 メッテはガジガジと後頭部を掻いて、「ああ、そうだ」と、腰につけたポーチから、試験管を取り出した。

 中には血の色をした宝石のような花が入っている。

 

「オオ」

「六区のボス猿が守ってた。やっぱあんたの読み通り、こういう採取物はクソゴミたちにとって大事なものらしいな」

「みたいダネ。じゃあ、いつも通り光の魔鉱石で買い取ロウ。使い切ってしまったものも引き取ルヨ」

「ああ、頼む」

 

 物々交換が行われる。他国に比べても高度な文明を持つと言われるエリスフィア帝国ではもう滅多に見ない光景だろう。

 試験管を渡し、光の魔鉱石を受け取るメッテ。五つの魔鉱石の内の一つをぎゅ、と握りしめ、安堵のため息を吐く。

 今のエリスフィア帝国を冒険するのなら、光の魔鉱石は必須アイテムだ。単純な光源としても、いざという時の攻撃手段としても。

 

 さて、メッテは博士の横を通り抜け、二階のブリーフィングルームへ移動する。

 ヘンリックを探しにいくにしても、準備が必要だ。その準備をするために。

 

「メッテ」

「ん? どうした──もご」

「顔色が悪イヨ。飴を食べるといい。精神的ストレスが和らぐカラネ」

「……おぅ。ありがとよ」

 

 痩せぎすで青白くて、そのまま折れてしまいそうな男、「博士」。

 けれど少女ら子供達が彼を信頼するのは、その根底に優しさがあるから、である。

 

***

 

 紫輝歴558年初頭。エリスフィア帝国にて、黒靄(ダークミスト)と呼ばれる現象が発生する。

 初めは黒いだけの靄に思われていたソレであるが、次第に魔物やそれを掛け合わせたような形を取るようになり、そして人を襲うようになった。

 とはいえエリスフィアは他国へ武力を貸し出すこともあるほどに強力な国家だ。正体不明である程度の靄など簡単に鎮圧される──予定だった。

 事態が発覚したのは、皇帝の孫であるニールスが発見・保護されてからのこと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──それは父親も、祖父の皇帝さえも。

 子供だけを取り込み、異界へ連れ去り、人々の記憶から消し去ってしまう怪異。

 エリスフィア政府は黒靄(ダークミスト)を最上位危険存在として設定し、連れ去られたと思われる子供たちの捜索を開始したが──。

 

xxxx! ああクソ、助けを求めそうになる自分が嫌になる。そんなもの、絶対来るはずねぇってのに」

「メッテ、そうだとしても、今はヘンリックを探さないと……」

「わかってるよ。今のはただの愚痴さ」

 

 連れ去られたと思われる子供たちの行方は、杳として知れていない──。

 

 

 ……というのが、今のエリスフィアの現状である。

 エリスフィア帝国。南北を仙実国、V・D連邦という強国に囲まれながら、非常に高い武力と工業力で、その小さな面積に比例しない強さを持っている国だ。

 雰囲気としては十六世紀のイスタンブールが一番近いかな。貿易が盛んだし、色んな国の人種が入り混じっている。教育にも熱心に力を入れている感じ。

 なんだけど、少し前に発生した黒靄(ダークミスト)と呼称される……妙な魔力塊が蔓延っていて、それが厄介な問題、って感じ。

 大人は連れ去られないというか、大人にとってはただの物理攻撃無効の靄……不定形とよばれる種類の魔物と同じだからあんまし問題ないんだけど、十五歳以下の子供にとっては恐怖の対象だ。

 子供を異界へと連れ去り、大人から忘れさせてしまう。大規模な精神干渉と高度な結界術を使う、意思があるんだかないんだかわからない魔力塊。

 連れていかれる異界は紫輝が昇っているのにあたりが真っ暗という世界で、退治されたはずの黒靄(ダークミスト)がそこらじゅうに徘徊している……まぁ、ホラー世界だ。言ってしまえば。

 基本的な光の明暗が反転しているようで、だから火とかも黒く燃えるらしい。

 そんな中で燦然と輝くは光の魔鉱石さんだった、と。帰ってきた子供たちの証言だから、どこまで正しいかはわからん。

 

 マー、当然、ここに「──ですよね?」を見出すよね、っていう。

 幸いにして俺は子供たちを忘れなかった──精神干渉効かないから──し、魔鉱石についてはそこそこ知っているつもり。ただ加工なんかのアレソレが出せないのは前回と同じなので、研究するのは結界の方だ。

 

 結界。神の座するところや、その他秘されるべき場所に張られているもの。

 黒靄(ダークミスト)の連れ去る異界もこの類だ。そんでもって召喚術もここに分類されるし、式紙とかいうガラパゴス召喚契約術もこれ。痣火でやってたやつはコンストラクト経由だから実はちょっと違う。

 隣り合うAとBの位置を外側の観測から変更すること。それが結界術というものの基礎。隔てることや隠すことは派生でしかないわけだよね。

 

 精神干渉の方はまた別口な気がするけど、とりあえず大人も異界を行き来できるようになれば全部解決じゃんね、の気持ちで研究を続けること二年。紫輝歴560年に、ようやくそれは完成した。

 この異界とかいうの結構厄介で、リアルタイムで組成が変わり続ける。つまり結界術における「隣り合うAとBの位置をどうにかする」が使えないのだ。こっち(A)は大丈夫なんだけど、そっちがB~ZZZZZZまでをランダムに変動するみたいな感じ。

 よって結界の基礎をかなぐり捨てて、新しく結界術を一つ作った。

 名前は「付与式結界道」。いつだかの研究者風の男がやっていた技術から着想を得たもので、AとBの位置を変えるのではなく、無理矢理BにB'という強化付与(ラベリング)を行い、内部に入れた魔力を目印にAとの位置を変えてトンネルを作る技術だ。

 ただしその性質上、異界側に通した魔力がかき乱されると道も崩れてしまうし、異界の端っこを見つける必要があるし。

 また、異界の中からこれを行うことはできないため、救助における命綱が必須になる。

 そんな穴だらけの技術だけど、今まで異界に対しては何のアプローチもできずに終わっていたからな。結構感謝されたし、結構役に立ったらしい。

 

 次々と救助されていく子供たちと、自分たちに子供がいたことを思い出した両親の涙を見て──思った。

 

 これ、親なき子はどうなるん? と

 

 エリスフィア帝国は周囲に比べてかなり発展している都市だけど、軍事にも力を入れていることもあってか、家なき子親なき子が結構いる。

 そういう子は徒党を組んで路地裏や廃屋に溜まってチームごっこをしているんだけど、そういう子が連れ去られた場合、どうなる。危険度は親がいようがいなかろうが関係ないだろうけど、子供によっては救助隊から逃げるように動いて……どんどん深みに嵌っていっちゃうんじゃないか?

 

 というか、そもそもそういう子は帰ってこれるのか、これ。

 今のところ助けられた子供には必ず親がいる。親によって抱擁を受け、どれほど大人びた子でも涙のちょちょぎれた顔でその抱擁を返している。

 そんなこと、あるか? これだけ帰ってきていて、その中に親なき子が一人もいないって……おかしくないか?

 

 仮定。もしも彼らが無事だった理由、ないしは救助隊に発見されるに足りた理由が「親の愛を受け取っていたから」であるとした場合。

 そうでない子供は、永遠に異界を、か。

 

 マー、快くはないわな、フツーに。

 だけど今のアプローチだと同じものしか作れない感じがあった。だから、俺も異界へinしてみることにした。

 それも非正規の手段で入るのではなく、正規の手段でinする。魔力の質を子供に合わせ、いちおう背格好も子供にして。

 

 そうしたら、ものの数日で黒靄(ダークミスト)に攫われることができた。家にいたのに普通に入ってきたから、帝国政府が打ち出している「子供を守りましょう」の対策一つも意味を為さないなこれ。

 

 背丈を元に戻し、魔力の質も戻してみたけど、弾かれる様子はなく。

 そしてこの明暗の反転した世界にやってきた、というわけだ。

 

 ちなみに帰る方法はまだ開発できてない。はっはっは、まぁなんとかなんべ。

 

 まずたんまりもってきた光の魔鉱石で自分の家を照らした。そして、光の魔鉱石が出す光と同じ成分の魔力で結界を作り上げ、家に適用。

 見事なまでのセーフティエリアができた、というわけだ。

 そこでこの世界についての研究をしていたところ、数日と経たない内に三人の子供が家を訪ねてきた。

 

「なんだ……ここ。明るい……?」

「光の魔鉱石がたくさんあるのかも。……ほら、化け物たち……ここに入ってこられないみたいだ」

「誰か住んでるかも……二人とも、気を付けて……」

 

 ハロウ、と。マー俺が十割悪いんだけど、ぬぅっと姿を現してみれば、とんでもない罵倒ワードと共にナイフが飛んできてびつくりぎゃうてんである。俺じゃなかったら穴だらけになって死んでいましたよ。受け止めるのも違うと思ってコミカルな動きで全部避けさせてもらいましたけど。

 そこから色々誤解を解いて、互いの身の上話を話すことになった。

 

 一人目、メッテ・イェルネ。非常に口が悪く、罵倒言葉の語彙が豊富。男勝りな性格で、非常にアクティブ且つ好戦的。多数のナイフを持ち歩いていて、それを使った格闘と投擲技術が卓越している感じがある。

 二人目、ヘンリック・エカスベア。魔鉱石好きな少年。光の魔鉱石が怪異に有効なことにも気付いていたし、魔鉱石の落とす痕跡を見分けることもできる、好きを通り越してオタクな子。怖がりのくせに一度集中すると周りが見えなくなって、メッテもびっくりな行動力を発揮してすぐ一人でどっか行く。

 三人目、キアステン・ゲーゼ。音楽好きな少女で、少々引っ込み思案。慎重であるが勇敢な気質で、二人のブレーキ役。引っ込み思案というか多分人見知りが激しいだけで、二人に対しては結構ガツガツ行ける感じもする。

 そして三人とも、親がいない。三人は異界の中で出会い、意気投合し、ここに至るのだと。

 

「と、そうだ。あんたって学者かなんかなんだろ? これ、見てくれ。なんか異彩を放ってたから採ってきたんだ」

 

 そう言ってメッテが見せてくれたのは、結晶化した血で出来た花、としか表現できないものだった。

 確かにおかしな魔力を放っている。そしてそれは、黒靄(ダークミスト)の放つ魔力と非常に似通ったもの。

 こーれはキーアイテムです。そう察した俺は「じゃア、こうシヨウ」と提案をした。

 

「キミたちはこの異界でおかしなもの、奇妙なものを見つけて、この試験管に採取してクル。ボクがそれを買い取ル。光の魔鉱石デネ。光らなくなった魔鉱石のメンテナンスもしてあげルヨ。本来魔鉱石は三年くらいは保つものだカラ、使い過ぎで動かなくなっているだけだカラネ」

 

 と。

 こうして俺はなったのだ。そう。

 

 ──序盤にあるセーフティエリアで、光の魔鉱石を補充・メンテナンスしてくれる、収集物の買取もしてくれる施設経営者に!!

 

 あまりにも理想的な流れであった。

 

 

 さて、異界側の自宅を改造し、一階にリビングルームを、二階にはブリーフィングルームと寝室を設けた。研究室は地下。

 敢えてゲーム的に紹介するなら、二階のブリーフィングルームで現在判明しているマップの確認やどこで何が採れたかの確認、そして次に向かうべき場所の確認ができる。

 二階の寝室で休めばなぜか──俺が回復させているからだが──体力が全快するし、負った傷の治りも早くなる。心なしか精神的疲労も回復している。

 一階のリビングルームでは食事を摂ることができる。あとは、研究をしていない「博士」こと俺に話しかけて雑談をすることが可能だ。割と有益なことを吐くぞ!

 地下の研究室では「博士」が採取物の研究を行っている。特に出入りは制限されていないので、たまに行って話しかけてみると、自分たちが採ってきたものについて現状わかっていることを教えてくれるぞ!

 

 って感じ。

 ホラーアドベンチャー……ですかねぇ……。

 

「博士、これ、なんだ?」

「アア、まだ開発中なんだガネ。メッテ、キミはよくナイフを使うだろう? だからそれの強化をしてあげようと思っテ、作ってミタ。といっても柄に光の魔鉱石をはめ込んだだけだカラ、光の刃を放ったりなんだりというのはできないケド……」

「へー。便利かもな、これ。手元が暗いとどこ刺したかわかんねーし、結構困ってたんだ。投げてもすぐに位置がわかるし……。ただ、不意打ちには向かねえかな」

「一応対策としてハ、こんなモノに入れるのが良いのかナッテ」

 

 研究室へ来たメッテに対し、強化武器の試作品と、そして革で作った鞘を渡す。

 

「おお、ナイフケースか。そりゃありがてえ!」

「光の魔鉱石の光が漏れない設計になっているカラ、不意打ちはこれを付けた状態で、攻撃の瞬間にだけ抜き放てば良いと思ウヨ」

「おう! あんがとよ。……んじゃ、そろそろヘンリックのやつを探しにいくよ。キアステンが起きてきたらそう伝えてく……お?」

「ばかメッテ……。それじゃ私が二の舞になるだけでしょ……。一緒に行こ。ヘンリックの馬鹿を探しにさ」

「んー、まぁ、そうだな。うっし、行くか!」

 

 こんな感じで、武器の強化もやっていくつもり。武具加工はオーバーパワーなのでナシです。

 

 子供達の出ていった家で、ふぅ、と一息。

 

 新しい採取物である結晶化した血色の花を見る。

 

「……血、ね」

 

 何かと縁深いか。

 ゼルパパムでは偽月の血因(ファルスルーナ・ブラッドチップ)。アスミカタ帝国では定道と研究者風の男の話していた、レベッカに寄生したものと恐らく同質の血液。

 まぁ……多分、どっちも涅月の血属(ノクスルーナ・ブラッド)が関係していそうだよな、とは思う。

 こいつも、だ。

 

「『万能』」

 

 モーガンの時に作った万能魔法を取り出す。そこに世界の穴が開いたかのような黒。漆黒を通り越したその黒から無数のマニピュレータが伸びて、試験管の中の花へ殺到する。

 ……いや。

 万能魔法を消す。

 

「近道じゃア、面白くナイ」

 

 こういう謎は、楽しみながら解決しないと嘘だ。

 子供の命がかかっているのにか、という糾弾は甘んじて受けよう。それを心配してやってきたんだろうという指摘もその通りだ。

 けど、趣味は趣味だからさ。

 

 できないことがたくさんあった方が、人間は全力を賭せるってものだよ。

 

 さーて研究研究!

 

***

 

 はぁ~っ、とメッテは大きなため息を吐いた。

 

「ご……ごめん」

「……今更おせーって。博士も言ってたけど、こんな街中に魔晶石なんざあるワケねーだろうがこのxxxx

「そこまで言わなくても……。でも、今回はメッテに同意。だし……一人で行ったの、意味わかんないし……」

「本当にごめん……。魔晶石があれば、これからの探索が楽になるって……それしか考えてなかった」

 

 ヘンリックが見つけたという魔晶石。その正体は、薄ぼんやりと光る尾の先端を疑似餌として獲物を仕留めようとする黒靄(ダークミスト)だったのだ。

 彼はそれが疑似餌であることにも、死角から迫る大顎にも気付けず、あわや食われてしまうか……というところでメッテとキアステンに助けられた。

 

「しっかし、早速役に立ったな、博士のナイフ」

「それ……聞こうと思ってたんだ。博士の、なの?」

「博士が作ったんだとよ。魔鉱石をはめ込んだだけで、光魔法が使えたりするわけじゃねーが、手元は明るいし、クソゴミの攻撃もある程度斬れるし。いやホントあいつ、なんの学者なんだか」

「魔鉱石は……その形を変えることすら、難しいんだけどね……。……いいなぁ。やっぱり僕も……学者になりたいなぁ」

xxxx! 卵が孵らないうちに雛を数えるな、っていうだろ。そういうのはここから出られたら口に出せよ」

「う、うん。そうだね……」

 

 ひとまずの安全に気が緩んだか、いつもの調子で雑談を始めた二人を、キアステンがその小さな手で制する。

 彼女の視線の先には──巨大で毛深く、手足の長い犬の魔物の姿をした黒靄(ダークミスト)が徘徊している。その足元にも無数の黒靄(ダークミスト)がいるが、極めて危険なのがそれであることは一目瞭然だ。

 

「静かに。……また来たよ、あいつ」

「はぁ……xxxxが。皇帝府の警備員だってここまで執念深くはねーぞ」

「……どう、しよう。そうだ、僕が囮になるから、二人は博士を──……め、メッテ? キアステン? 顔……怖いよ?」

「囮じゃなくて餌にしてやろうかコラ。テメェのその自分が犠牲になれば周りが助かってハッピー、みたいな発言いい加減イライラするからやめろ」

「くだらないこと考えてる暇あったら、三人で博士のもとまで帰る方法考えて。私、ご飯食べ損ねててお腹空いてるの」

 

 今三人は黒靄(ダークミスト)の入ってこられない大きさの窪みにいる。いつまでもここにいることはできない。

 隙を見て脱出しなければ。

 

「……おい、魔鉱石ナード。ちと頭貸せ」

「う、うん。なに?」

「こいつは博士から貰ったナイフケースだ。光の魔鉱石の光を漏らさねえ仕組みになってる。ギリッギリまでクソゴミを引き付けて、その眼前でこれを抜き放ったら、奴らは怯むと思うか?」

「わからない……僕は魔鉱石については詳しいけど、あの化け物の専門家じゃないから。ただ眩しいだけのものに怯むかどうかは……」

「……けどさ、黒靄(ダークミスト)が光そのものじゃなく、光の魔鉱石の光を嫌がっているっていうのは、今回のヘンリックのアホ行動でわかったことよね。あの黒靄(ダークミスト)だって光っていたのに、それ自体を嫌がる素振りはなかったし」

「確かに。だとしたら、メッテの作戦は有効かもしれない。このナイフケースが……光の魔鉱石の、光だけじゃない、すべての性質を覆い隠すものなら……うん。試す価値は、あると思う」

 

 ちゃんと話し合い、方針を決め、行動に移す。

 この三人の少年少女は、そのことに酷く長けている。

 一人が突っ走ると大抵危ない目に遭うけれど、三人で動けば──怖いものなんて、ないのだと。

 

「せーので飛び出す。あたしが最後尾を走って、追いつかれそうになったらこいつを抜く。怯んだら振り返らずに全力ダッシュだ」

「怯まなかったら?」

「あたしの手を引っぱってくれ。そっから全力ダッシュだ。ナイフは……まぁ、クソゴミにぶっ刺すからよ。あたしが一番危険だ、って言うつもりなのかもしれねーが、危険度は多分どのポジションもどっこいだぜ。一番安全なのはあたしを見捨てるポジションだが──」

「絶対助ける。引き摺ってでも連れていくから」

「手、離さないからね、メッテ」

「おう。信じてるさ。──いくぞ。せーのっ!」

 

 この後。

 命からがらに、そして口汚い罵倒を挟みながらも……三人は「博士」の家まで戻ることができた。

 

 都市を覆う黒靄は、未だ晴れないまま──。

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