序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
食事をしている様子はなく、繁殖も……というか雌雄がある様子もない。子供を狙って攫ってくる彼らは、けれど、大人だって襲いはする。
目や耳、鼻、口はあるけれど、それがまともに機能しているところをメッテたちは見たことがない。どのようにして子供を子供だと認識しているのか。どのようにして外敵を認識しているのか。そして、なぜ光の魔鉱石の光が効くのか。
「光の魔鉱石の光ハネ、松明なんかの光とはちょっと違うンダ。ヘンリック、キミはそれがどう違うのか、言えるカイ?」
博士。この世界に唯一いる、大人。
子供ですらどんどんいなくなっていっているこの世界で、メッテたちに安全を提供し続けてくれている男。
彼の問いかけに、ヘンリックは答える。
「自然の光は、光が差し込んできているだけで、魔鉱石の光は、魔力が発光している……っていう話で、合ってる?」
「それだと六十点ダネ。それはすべての魔鉱石……というか魔力に言えるコトダ。たとえばだけど、火の魔力は赤いヨネ。けど、ただ赤いだけのものだっタラ、明かりを消した時には暗くならないといけナイ。デモ、火の魔力は明るいとこにあっても暗いとこにあっても同じ赤色をしてイル。それは火の魔力が赤い光を放っているカラデ、火の魔鉱石は同じ光を放ってイル」
博士の手に火やらその魔力やらが現れる。
そして「ケド」と指を一本立てて、それらを光の魔力へと変えた。
光自体は真っ白だが、その周囲を波打つ光芒には青白いものが混じっているように見える。
「光の魔力は、じゃあ、何色ダロウ?」
「……白?」
「青っぽい時もあるような……」
「どっちも正解ダヨ。光の魔力が放つ光というのは、色そのものというより、人間が感じ取れる可視光の限界域ナンダ」
「……??」
説明シヨウ! と言って、博士はホワイトボードを持ってくる。そこに「可視光スペクトル」と書いて、読みやすく美しい字で説明を書いていく。さらに「魔力の放つ光は本来の光と相互作用が無いのだけど、この場合は光の振る舞いを説明するものとする」と追記。
メッテたちは三人とも親がいないけど、文字は読める。文字が読めるようになったあとで親を失った、というのが正しいか。
「このヨウニ、光属性の魔力は、白も含むけど、正確には人間の視認できる光の外側ギリッギリの光を放っている、というべきなンダ。というか、半分くらいは見えていない、が正しいカナ」
「それで……光の魔鉱石の光が効く理由は?」
「ボクは、この可視光の外。赤外線側ではなく紫外線が奴らにとっての毒なんじゃないかと考えているヨ」
紫外線。三人にとっては今知ったばかりの概念だが、この図でいうところの、可視光の外側の光、ということになるのだろう。
「ホラ、光の魔鉱石。これと、光の魔力。見比べてわかることはアルカナ」
「……魔鉱石の方が、魔力より眩しくない?」
「素晴ラシイ。その通り。魔鉱石っていうのは基本的に魔力が凝縮されている石だカラカ、光の魔力が凝縮されルト、放出する光の帯域が可視光を飛び越えて、見えなくなってしまうンダ。……まァ本当に紫外線になっていたラ、まず真っ先にキミたちの角膜が焼かれて、激痛と共に涙が止まらなくなるだろウシ、視力もそこで終わっちゃうと思ウカラ、あくまで可視光スペクトルの話は参考程度なんダケド」
サラっと怖いことを言いながら、博士はホワイトボードに注釈を書き加える。
注:恐らく物理的な実害は無く、見た目だけが同様のふるまいをするものと思われる。
「それで、キミたちの視覚にはなーんの悪さもしない光の魔鉱石ダケド、
「じゃあ……やろうと思えば、奴らの目とか鼻を一切利かなくさせる、ってこともできるのか?」
「光の魔鉱石で作った部屋にぶち込めば、あるいは? でも、考えてみテヨ。目も耳も使えなくなった怪物が、次どういう行動に出るのカ」
「……なりふり構わず暴れまくる、んじゃない?」
「そういうコト。おすすめはしナイ」
ホワイトボードに下線を伴って書かれるのは、結論:光の魔鉱石は
「つまり、光の魔鉱石じゃなくても、その紫外線ってやつを出すことができるものが他にあれば、
「良いことを言うネ、キアステン。そしてその最たるものが紫輝ダヨ。空で輝くアレからは、大量の紫外線が出ている。……そう考えると、この世界が真っ暗な理由もわかるヨネ。奴らはそれをどうにかシテ遮っているンダ。そして外界で簡単に討伐されるノハ、紫外線を受けて弱っているからカナ? あと、家の中でも出てくるんじゃなクテ、家の中だから自由に動ケタ……?」
「他! 他に無いのかよ。紫外線っつーのを出す道具!」
博士は、少し困った顔をする。
「あるにはアル。でもこの世界じゃ数が用意できなイシ、ボクが作っていいものか微妙。少し先の技術だかラネ」
「……博士って、もしかして学会を追放とかされている感じ……なの?」
「追放はされていなイヨ。むしろ歓迎されていたくらイサ。ただ少し彼らにとって理解のできないモノを作っていたダケ」
三人は察した。
あんまり深掘りしてもロクなものが出てこなそう、と。
だから……結局この講義は、奴らの特性を理解するためだけのものだった、と──。
「諦めるのは早イヨ。言ったロウ? 数を用意できナイ、と。そして異界でなら……外界へ持ち出さなければいいだロウの精神で、作ってみたンダ」
ピンと指を立てて、ニヤリと笑って。
博士は、それを……この話が始まった時からずっとテーブルの上に置いてあった、大きめの箱を「ジャーン」と言って見せる。
「これは?」
「ボク特製の、光の魔鉱石の放つ光を周囲に放ち続ける魔道具、ダヨ」
「魔道具!? そんな限定的な効果のを持ってた……なんてはずがないし……え、じゃあ、もしかして作ったってこと!?」
興奮気味にヘンリックが問う。
「食いつきがすごいネ。そしてその通り。ボクが魔道具を作れるっていうのは内緒にしておいテネ。言う相手がいないとは思うケド」
「す、すごい! 博士は魔道具作成の博士なの!? 僕、魔鉱石も魔道具も大好きで、でも高いから絶対買えないって思ってて……」
「落ち着けよ魔鉱石ナード。んで、博士。こいつの使い方を教えてくれ。きっと有用なモンなんだろ?」
興奮冷めやらぬヘンリックの首根っこを掴んで後ろへ放り投げ、メッテが聞く。博士の作る武器や強化について、格闘を主体とする彼女は既に結構な信頼を置いていた。よくよく考えてみれば、おかしいのだ。新たに魔鉱石をはめ込まれたはずのナイフが、前までと同じ取り回しで使える、というのは。
今ヘンリックは魔道具作成の博士なのかと聞いたけど、メッテは違う視点で博士を見ている。
即ち、魔導兵器の博士なのではないか、と。
「使い方自体はカンタンだ。それを持ち運んで、上部についているボタンを押し込むダケ。そうすれば、箱が開いて、周囲……半径40athlくらいカナ。そこに、ここと同じようなセーフティエリアを作りダス」
「すげえじゃねーか! そりゃ……ああだが、数が作れないんだったか」
「ソウ。そして、魔道具だカラ、衝撃にも弱イ。
「それは……結構難しいわね。どこかに隠して置いておく、ができないってことか……」
難しい性能だった。
今のところ博士の言うような「岩石を放ってくる
そんなデリケートな魔道具を、しかし吹きさらしに置いておかなくてはならない。
「あ……あの、博士。結界は……どうなんでしょうか」
「オ」
放り投げられた後も魔道具についてを語って……語り狂っていたヘンリックが戻ってくる。
戻ってきた彼の言葉は、博士の望み通りのものだったらしかった。
「良い所に気付クネ。ソウ、結界は光の魔鉱石の光を通す……というか、そういう設定にすれば通ル。結界は基本設置型だカラ、その魔道具との相性もイイ」
「んじゃそれをすりゃ済む話じゃねーか」
「何かできない事情がある……の?」
「というヨリ、ボクが基本的に戦えないかラネ。この案を通すナラ、キミたちには、ボクと魔道具の双方を守りつつ、セーフティエリアを設置したい地点に赴いてもらわないといけナイ。でもキミたち、戦えるのはメッテだけダロウ?」
そうだ。この中で唯一戦闘行動が行えるのはメッテだけ。
ヘンリックは深い魔鉱石知識でサポートし、キアステンは機転や発見、二人に欠けている一般常識を補ったり、ブレーキ役を務めたりするポジションにある……が、メッテ以外は戦えない。
「あたしがメインで戦いつつ、二人には気を散らしてもらって、ってのでも……厳しい、か?」
「ボクを護衛するだけならなんとでもなったかもだケド、魔道具があるかラネ。そう激しい動きはできナイ」
「うーん……」
八方塞がり。
……否。ここでキアステンが、それに気付く。
「……その、博士」
「なにカナ」
「私達に……魔法を教えてもらえませんか? もしくは、戦い方を」
「そっか。……僕らが戦えないからダメっていうのなら、僕らが戦えるようになればいいいんだ。……ってあれ? でもこの話って、博士が戦えないから、ってところから始まったんじゃなかったっけ?」
「そうだぜキアステン。博士は……まぁ魔法は使えるんだろうが、戦闘は多分素人だ。重心の位置がすぐ動きだすのに適さないところにあるし、軸もブレブレ」
いいえ、と。キアステンは、確信めいた声色で言う。
「覚えてない? 博士はメッテのナイフを全部避けてるのよ。わたわたした動きで、まるで偶然避けた、みたいに見せていたけれど、全てを、確実に」
「饒舌だねェ。いつもの引っ込み思案なキミはどこに行ったのカナ」
「っ……!」
押し黙るキアステン。痛い所を突かれた、のかもしれない。
つまり、本当の彼女は、引っ込み思案などではなく──。
「で? 結局戦えんの? あたしにはそーは見えないけど」
「回避はできルヨ。ナイフを持ってザクザクってのは専門外サ。この細腕を見てくれたらわかると思うけドネ」
「充分だよ。回避ができて魔法が使えたら、いっぱしの兵士だ。そんで、それをこいつらに教えてやってくれ」
さっぱりとメッテが言う。
「……ボクにも兵士になれって、言わないのカイ?」
「やらねーって決めてるやつはできないのと一緒だよ。本当はできるとか関係ない。んで、博士は、何のメリットもないだろうにあたしたちをサポートしてくれてた。あたしは他二人よりちょっと……まぁ、悪意の温床で育ってきたからさ。そういう
「大丈夫だと思うよ、メッテ。……君は本当に素敵な人だね。僕、自分に言われてるわけじゃないのに……なんだか嬉しくなっちゃった」
「ばッ、xxxのxxxxか!? こっぱずかしいこと言うんじゃねーよ、調子狂うだろうが!!」
一瞬とんでもなく汚い言葉が流れて、赤面した顔を鎮めるために出ていこうとした彼女……だったが。
押し黙っているキアステンの首根っこを掴んで、博士の前に持ってくる。
「ちょ」
「面倒臭いから仲直りしろコラ。……んで博士。戦えって言わねえから、こいつらに魔法と回避の仕方、教えてやってくれ。頼む。金がかかるってんなら……ここ出た後に、働いて、返す! いつかな! すぐじゃねえから!」
言葉に。
「……いいヨ。無償で教えてあげルヨ」
「おう、あんがとよ」
「ただシ、約束してほシイ」
「ん……何をだ?」
「諦めないでクレ。外へ出ることを。キミたちに家があるのかは知らないケド、家に帰ることヲ。……ボクにも親がいないかラネ。ボクと同じ道を辿ってほしくはなイヨ」
真剣な──何かを後悔するような言葉が返って。
ああ、でも。
「へえ。朗報だぜヘンリック。親なしでも博士にゃなれるみてーだ。なりてぇんだろ、こいつみたいな博士によ」
「うん! 博士は今同じ道を辿ってほしくない、って言ったけど、道は違っても、同じところには辿り着きたい! 僕、魔鉱石や魔道具の博士になって……そして、今の博士みたいに、子供を救うヒーローになるんだ! ……っていう夢は、あはは……え、えと、子供っぽすぎる、かな?」
「なんで最後でドモんだよ気持ちわりーな。良い夢なんだから胸張りゃいいだろうがよ」
「あ、酷い! え、あれ、褒めてくれたの?」
「うるせー。つかキアステンもずっと俯いてないで早く仲直りしろウゼーから。つかあたしは魔法習っても意味ねーしブリーフィングルーム行ってくるわはー顔あつぅー」
そんな感じで、彼女はリビングルームを出て、階段を上っていった。
「……ばっかみたい。……あの子、ああいう言動してたら、きっといつまでたってもお嫁さんにはなれないわ」
「そうかな? メッテはかっこいいから、惚れちゃう人は沢山いそうだけど」
「自分がそうだから、って?」
「え、ちちちちちちちち、違うよ!?」
やれやれと肩を竦めるキアステン。その顔に……疑念や警戒はもう、浮かんでいない。
「ごめんなさい、博士。余計なこと言ったわ。メッテの言う通り。本当に戦える人なら、私達に色々してくれる理由が無い。そして、戦えない人でも、自分の命綱と同じみたいな光の魔鉱石をよくわからない採取物と交換してくれる意味がわからない。つまり、あなたは理由なく子供を助ける良い人、ってこと。そうでしょ」
「……まァ、ボクも謝ルヨ。余計な茶々をいれタネ。君が実は饒舌に喋ることができる、だなんて、ヘンリックもメッテも知っていただろウシ」
「え。……え、それ本当?」
キアステンの振り返った先。問われたヘンリックは。
「あ……あはは。いや~……そ、そんなことも……ああでも二人の仲を考えるなら認めた方が……? でもそれだとなんで何も言わなかったのかっていう言い訳が……」
「な、ななな、ななな」
「いや! あの、そう、メッテと話して、話したくなったらその……なんで猫を被っていたのか教えてもらおう、みたいな、それと、頑張って演技しているのが可愛いし、別に有益なことはちゃんと言うから良いだろってメッテが、えっと!」
「メッテぇぇぇえええ!」
キアステンがさらに怒るとわかっていながら、博士はホワイトボードに文字を書く。
総評:みんな仲良し。
書き終わる前から書かれることが読めていたキアステンが博士に
こうして、今まではついていくだけだった二人が微力ながら後衛というポジションを確立する。
これによりメッテが動きやすくなったり、連係ミスでひと悶着あったりもしたけど、無事魔道具と結界を設置することができた。
今までは安全を確保するため、博士の家から半径2kathl以内しか行動できていなかった子供達。けれど、新たなセーフティエリアを手に入れたことで、その行動範囲はぐんと広がったと言えるだろう。
これで一層広範囲の採取物を見つけられるし──もしかしたら、出口を見つけることができるかもしれない。
彼らが抱いた、その希望は。
新たに発生した鳥型の
***
……というのを何度か繰り返した。問題が現れて、研究と克己を挟んで成長し、問題を解決して、のシンデレラ曲線だ。
気付けば一年に差し掛かろうというほどの
メッテはもう立派な遊撃だし、ヘンリックとキアステンも立派な後衛だ。
けど、……まー、なんだ。比べるのはアレなんだけど、たとえばカズラ君とか、リュオンとか、アルジオ君みたいな……The アタッカー、みたいなやつがいない。
どれだけやってもナイフじゃあ防戦一方になる。後衛も魔力量と魔力操作練度の問題で特大火力は出せない。
これじゃあ色々厳しいものがありそう、と。
やっぱり強キャラだ。強キャラがほしい。
メッテたちは主人公パーティとして文句ないので、新たな仲間になる強キャラをだな。
……ただ、どうにも救助隊は頑張っているみたいでなー。
どーやらメッテたちには見えていないし聞こえてもいないようなんだけど、観測している限りでは毎日のように救助隊が入ってきて、親のいる子を救助しているっぽい。
一度異界に取り込まれたからって次はもう取り込まれない、みたいな話は無いんだけど、外界の方での証言から対策が練られているんだろうな。攫われた子供たちは基本攫われた場所から動かないか、自宅まで戻って待機をしている。そこに救助隊が来ている様子だった。
あくまで
成程、それなら忘れても見つけ出せる。忘れないように、っていうのが無理だと悟ったのだろう。行政か皇帝府に頭のキレる奴がいるんだろうな。
話が逸れたけど、つまりそういうこともあって、新しく子供が取り込まれても一瞬で助け出されるんだ。良いことなんだけどね、それは。
ただ、このシステムである以上、やっぱり親なき子は取り残されるだろう。そこに強キャラがいることを願うしかない。
一応至るところに親なき子……登録されていないっぽい子にはそれとない誘導ができるよう痕跡を残している。俺の家、もしくはよく救助隊が通りかかる場所に辿り着けるような痕跡を。
最近は
同じだけ外界でも増えているのか、救助隊はなんでもない顔でそれを対処しているから、戦力の点では問題ないんだろうけど……メッテたちが対応できなくなってくると流石にマズい。
強キャラの加入、及びパーティの強化が必要である。
ある、のだが。
「……ねえ、博士。外界って……まだあるのかな」
「どういうことカナ」
「だって、おかしいよ。こんなに助けが来ないなんて……。外界はさ、魔王の手で滅ぼされちゃったんじゃないかな。だから……僕ら、ここに住んだ方が良いんじゃないかな。魔王の手の届かないここで……」
ヘンリックが限界だ。大分マズい。
メッテとキアステンも、自分がギリギリながら彼を気にかけている。それもジリ貧だなぁと感じる。
俺は一年そこらじゃ研究を諦めないから、まーなんとかなんべ、の精神なんだけど……この子らは子供だ。
先の見えない状況は、さぞかしストレスだろうなぁ。
……ま。
この子たちはかなり理想の主人公パーティだったけど、背に腹だろ。
「三人トモ。ちょっと来てほシイ」
「ん。……どうしたよ、博士」
呼び出す。
確かにマーフルスタイル畜生エンジョイ勢で行くと決めたけど、それはそれこれはこれ。
この異界がある限り似た境遇の子はいくらでもいるだろうしな。
つーかこれをとっとと使わない時点で畜生なのは変わらないってそれはそう。
「どうしたの、博士」
「──今カラ、キミたちを、ボクの全力を以て外へ送りかエス」
「え」
未だに異界から外界へ繋がる結界は作ることができていない。が、それは近道をしなければ、の話。
面白くないからやっていなかっただけで、背に腹が代えられぬというのなら、いくらでもやりようがある。
「"盤石の意志"、"夢を見る修道女"、"朝焼けの波打ち際"、"夕飯を呼びかける声"、"牧場を見下ろす煙突の主"、"髪を撫でる大きな手"」
持っている光の魔鉱石を浮かべ、空間に書いていくは刻印式。
それぞれ、『固定』、『保護』、『受容』、『呼応』、『昇華』、『元居た場所』を意味する刻印の、六文字-六単語……つまり最上位版。
「どういうこと……なにこれ、なに、この魔法……」
「刻印魔法……それも、なんて高度な……!」
「おい、待て! 博士! テメェはどうする気だ!!」
「ボクは大人だかラネ。どうとでもなルヨ」
こちらに手を伸ばそうとするメッテだけど、『固定』がそれを許さない。
そして、この状態の三人にはあの司書の男さえ干渉できない。内外万包、すべての因果を制限している。干渉できるのは、魔法の行使者たる俺だけ。
ここで取り出すは勿論『万能』魔法だ。
アルカの……というか前代の『
「なん……だ、その黒は……」
「
「……
どんなことでも対応可能な魔法だ。
彼らを異界の外へ出すなんて、ワケない。
「──嫌だ、嫌だよ、博士! 僕、博士とさよならは嫌だ!! 僕、博士のこと何も知らないままだ! 名前も、どこの学校にいたのかも! もっと話を聞きたいよ、博士!」
「嬉しいことを言ってくれルネ。じゃあ、キミが大人になって、ボクと同じ学者になっタラ……その時にまぁ、会いにいクヨ。ヘンリック博士を訪ねに、ネ。その頃にはもうボクも外に出られているだろウシ」
「本当に……本当だろうな!? テメェ言ったよな、諦めんなって! 諦めねえからな!? テメェと会うの! あたしたちはずっと待ち続けるぞ!? その意味、わかってて言ってんだろうな!! テメェが……テメェが前に言ってた、親がいないってのは! 同じ道を辿ってほしくないってのは! それは、もうずっとずっと前にテメェがここに取り込まれてて、ずっとずっと帰れてねぇって意味じゃねぇって、心の底から言えんだろうな!?」
「ああ、勿論ダ。そんなことはなイヨ。ソシテ、ちゃんと見ているカラ、精進を怠らないよウニ」
見つけた。
この異界を行き来する方法。ついでにこの異界の仕組みもわかったけど、まぁこっちはどうでもいい。
あと……は。ちょっと魔力が足りないから、プールから取り出して。
「ごめんなさい──博士、私、あなたに嘘を吐いていて──」
「知っていルヨ。言っただロウ、ボクは大人だ、ッテ。その上で言う。子供は大人に嘘を吐くもノダ。反抗をするもノダ。ケド──これからの生を正直に生きてくれるのナラ、ボクも、キミを生徒に持った甲斐があったというものダロウ」
彼女が抱えていた秘密については、ま、別の機会にでも、かな。
「──さ、お別レダ。一瞬周囲が真っ黒になるケド、大丈夫。次の瞬間、キミたちは外の世界にいるかラネ」
発動する。構築された魔法の名は。
「──
さいならさん。
ま、元気でやれよー。俺はまた適当に次なる「──ですよね?」を探すからさー。
──そこから、十年の時が過ぎた。