序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
ここ『
それはもうエリスフィア帝国に住まう人間であれば誰もが知っている話だ。けれど、一つ、とても単純な話については失念されがちである。
「『魔女』?」
「そう。三年前くらいにいなくなった、私達の友達です。大人たちはみんな忘れてしまったまま……救助もされませんでしたが、私達は覚えているんです」
それは彼らが『博士の博士』の家を訪れて、細くない信頼関係を築いた頃の事。
少年『皇帝』は、それを話す。
「どんな特徴の子カナ」
「魔法が上手な子で、薬学にも精通していました。よく怪我をする『剣士』や私に塗り薬を渡してくれる子で……」
「三年前カ。……わかッタ、探してミヨウ。あまり期待しないでほしいケド」
「いえ、探すのはむしろ私達がやるので、『博士の博士』には、彼女がこの家を訪ねてきたら、私達のことを伝えてほしいだけで」
「わかっタヨ」
そう、忘れるのは大人だけなのだ。子供は覚えている。
十五歳を過ぎるとその子も忘れていってしまうが、それに満たない子供は、消えた子供のことを覚えている。
それは確かな「命綱」であると言えた。
けれど、三年前となると、望み薄であるのも事実である。子供達は知らぬことだが、『博士の博士』は子供のいない時には『
果たして。
***
ホワイトボードをマーカーが走る。
描かれるのはデフォルメされた胎児。その脳の部分をズームアップする、みたいな絵。
「勿体ぶらずに行コウ。ずばりこの異界、『
生徒たち……子供達はしっかり傾聴している。眠りこけている者がいないのは、皆が皆学習好きであるためかもしれない。
「小難しい話は措いて擱いて、経験を問オウ。キミたち、子供の頃……もっともっと幼い頃に、魔法が暴発シタ、という経験はないカナ。身体強化で怪我をした、でもいイヨ」
「お、あるぜ。魔法の方は無いけど、魔力の込め過ぎで強化失敗になったことが結構ある」
「私は魔法の方でありますね……。それで……少々苦手意識が出たくらいで」
「エカスベア博士にも秘密にしてるけど、実は一年くらい前まで結構やっちゃってたかも……」
うんうんと頷いて、『博士の博士』は絵に文字を書きながら喋る。
描いているのは道と川の絵だ。
「それって実は生まれた時に起こるシナプスの過剰形成が問題なンダ」
「しなぷす?」
「簡単に言うと、身体の中にある情報の通り道ってところカナ」
疑問符を浮かべる子供達。いくら識字率が高いからといって、身体の中身のことまで深く知っているわけではない。というか百年後に至るまで解剖の禁止されているこの時代である。子供がそんな話を知っているわけがなかった。
「そうダナ。『剣士』、魔物の多くは頭が弱点ダネ。それはなぜカナ」
「なぜって……ほとんどの魔物は、頭を潰せば動けなくなるからだよ。魔物だけじゃない、人間だって弱点だ」
「そう。身体を動かすには頭が必要ダ。頭が身体を動かしていると言ってもイイ。頭が手を動かせと命令するから手が動クシ、頭が足を前に出せというから歩ケル。逆に手で触れたものが熱かったリ、傷を負って痛いと感じるのも同じ理由。手足の方からこれは熱いトカ、痛いトカ、そういうのを伝えてイル」
「言われてみれば……。そう、なのかな?」
「マ、この辺は大人になってから学べばいいサ。とにかく人間の身体の中にはそういう命令や感覚を伝えるための神経というものが張り巡らされているンダ」
そこで、と。『博士の博士』は先程描いていた道と川の絵を見せる。
「神経を一本の長い道だとスル。スタート地点は手足で、ゴールが脳ネ。逆でもいいケド。で、シナプスっていうノハこの川なンダ。痛みや命令という名のランナーはこの川を渡ることができナイ。だからランナーは向こう岸にいるランナーにバトンを渡す。手紙でもいイヨ」
「シナプスは邪魔なもの、ということですか? 無い方がスムーズに動けるもののような」
「またも『剣士』に問おうか。キミ、誰かと一緒に魔物退治をしたことはあるカイ?」
「ああ、あるぜ。それこそ『皇帝』と一緒にやることもある。『助手』とはやってねーけど」
「じゃあ、戦っている時に、『皇帝』が"私、今呼吸をしました"、"あの魔物鼻息が荒いですね……"、"空が青いですねぇ"とかって言ってきタラ、どうスル?」
「ぶん殴る! 集中しろ、って!」
隣でうんうんと頷いている『助手』もまた『剣士』と同じ気持ちなのだろう。というか、戦闘でなくとも『皇帝』はそういう余計なことを言うのだろう。彼の口から乾いた笑いが出た。
「シナプスは、そういうノヲ遮るためにあるンダ。要らない情報、邪魔な情報を脳に伝えないようにシテ、欲しい報告だけを流ス。要らない報告をする場所は川幅が広くなって道が狭くナリ、通り難くナル。逆に何度も何度も行き来の発生する場所は川幅が狭くナリ、ランナーが増え、情報が通りやすくナル」
「成程……神経というのも学習をするのですね。……私もしますよ?」
どーだか、と嘯く『剣士』と『助手』。
言っても直らないものというのは誰しもにあるものだ。
「話を戻ソウ。胎児……生まれた直後の赤ちゃんは、外界に適応するたメニ、必要かどうかもわからないほどのシナプスを作る。どれが要る情報でどれが要らない情報なのか、というのは赤子にはわからなイシ、足りなくなったら大変だかラネ」
「小さすぎるよりは大きすぎる方が良い、ってやつだな」
「ソウ。このシナプスというのは成長に連れて刈り込みされていくもノダ。使われるものだけを残シ、使われないものは除去スル。この時、使われなくなったシナプス残骸ハ、腎臓より汲み上げられた魔力を保持しながら一定期間脳の中へとどまる。魔法暴発が起きやすいのはこのシナプス残骸に付与された魔力が頭にあるかラサ。けど、その後別の細胞……脳の働きに吸収さレル。……はずダッタ」
しかし、と。ホワイトボードに書かれていく文字は、『
その下に小さく書かれるのは「特別な血を有する魔族。特殊個体魔族の祖であり、その血液の匂いを嗅ぐだけで魔物や魔族が狂乱状態へと陥り、万一飲んでしまうと死ぬまで興奮状態が続き、元に戻らない、とされている」。
「そんな恐ろしいものが……」
「これがどう関係あるの?」
「ボクたち人間もサ、魔物を食べているだロウ。日々、欠かせない食事とシテ」
「……まさか、この血を飲んだ魔物を、ってことか?」
その通り、と。『剣士』をペンで指す『博士の博士』。
「十三年前。当時、エリスフィア近郊で狩られた何匹かの魔物は、手が付けられないほどに怒り狂っていたとされてイタ。『
「じゃあ、それが……」
「恐らクネ。『
そうして子供が生まれる。体内に『
「さっき言った、シナプス残骸。これが『
「消されまいと……」
「ウン。ボクは対象に対して擬人化することを然程は好まないケド、言ってしまえば消えたくなかったダケ。不要なものとされて消されてしまうのが嫌デ、シナプス残骸と反応・結合した『
「恐ろしいもの……?」
「怖いもの……ですか」
「キミたちは何が怖いカナ。昔怖かったものでもイイ」
問われ、子供達は──答える。
「暗闇が……怖かった、かも」
「俺もだ。暗い場所はなんだか怖かった。それは覚えてる」
「ソウ、暗闇だ。エリスフィア帝国は他国と比べて発展している国だから、灯りがそこらじゅうにアル。大人でも暗闇には恐怖を覚えるかラネ、人間の文化とはそも、暗闇を駆逐しようとする動きにあったと言って過言ではなイヨ。だというのにそれによって暗闇が浮き彫りになって余計怖いものになった、というノハ、皮肉だケド」
暗闇。その姿を取った。
もうわかる。それが
「なんで怖いモンの姿になったんだ? 好きなものとか、楽しそうな感じのものの方が……消えたくないっていうなら、そういうののほうがいいんじゃねーかって思っちゃうけど」
「恐怖は消えないかラネ。どれほど勇敢な冒険者にも怖いものはアル。魔族や……魔王にすらあるんじゃないカナ?」
「……『博士の博士』にもあるの? 怖いもの」
「ボクは、そうだねェ。お饅頭と熱いお茶かなァ」
「どういう意味ですか……?」
「ははは、伝わらないヨネ。ごめんごメン。とにかくサ、子供の感情の中で、恐怖っていうのは常に付きまとうものだったンダ。好奇心だって恐怖の裏返しダシ、愛情だって恐怖の裏返シ。『
結論:『
下線が引かれる。
その結論を見て、『皇帝』が震えるように言う。
「そんなもの……どうやって消す、のですか? 子供の恐怖を消し去るなんて……できるとは思えません」
「まぁ
「お、おう。なんかヘンな赤い花があっただけで、あんまし面白そうじゃなかったけど……でもあれから武器ができるんだっけ?」
「それだけじゃない……書室で読んだ覚えがある。あれは
「あの花は、『
ニヤリと笑う『博士の博士』。
かつてヘンリックたち……エカスベア博士らが子供であった時分に倒した、ないしは隙を見て奪取してきたもの。
結晶化した血色の植物。
「イイネ。物事を考えるコツを覚えてきたみたイダ。ソウ、
「
「というか、基本魔物や魔族と反応するものだかラネ。多分合わなかったんダヨ。彼らが憑りついた恐怖は人間由来のモノ。感情に種族が関係あるのか、って気持ちはわからないでもないケド、彼らにとってはあったんだロウ。そうして分離した血液は一か所に集マル。なんせ世界全体が
つまりダ、と。『博士の博士』はペンをくるりと回した。
「ボクが待っていた"或る植物"の生育とはこのことデ、そいつはもう少しで開花を迎エル。ボク、ヘンリックたち、そして彼らの後に来た子供たちに、そしてキミたち。頑張って頑張って採取物を集めてくれただロウ? 中には武器の強化に使うものもあったケド、血色の結晶は全てあの花と融合させ、大きくしてイタ。集まれば集まるほど血を引き寄せる力も強くナル。ボクは開花の瞬間がその引き寄せる力のピークだと踏んでイル。そして開花した瞬間、この『
彼が十年を待った理由はそれだった。無理矢理分離させるということができなかったから、分離を待たなければならなかった。分離しきるのが、つまり血色の花が開花するに足るのに十年が必要だったというだけ。
「待てよ。その血を消す必要は無いってことか? ただ……待っているだけで、解決する、って?」
「そうダヨ」
「なんか……でっけえ魔物を倒すとか、そういうのは無いのかよ。ただ待つだけって……そんなの、俺達が来なくても勝手に消えてた、みたいな……」
「キミたちが採取物を集めてくれたカラ早まったンダヨ? それが無ければ、もう一年くらいはかかったカモ」
「そうじゃなくて!! 解決っていうのは、俺が……俺に手伝えることが……あるって、思って……」
「……『剣士』。気持ちはわかりますが……」
エリスフィア帝国を長年悩ませている病巣、『
大人になった時、誰かに語って聞かせられるような冒険譚があるのだと。
彼はそう期待していたのだ。
「ウーン。じゃ、帰ル?」
あっさりと。『博士の博士』は、言葉を吐いた。
言葉に詰まる『剣士』。
「救助隊の……姿を、ずっと見てねえ。そうさ、これほど危険になったから救助隊も困って、」
「恐怖は愛情の裏返しとさっき言ったけドネ。だからなのか、親の愛の届かない子供には、救助隊が見えないンダ。
「あ……はい。聞きました……」
二人はちゃんと覚えていた……ではなく、『剣士』だって覚えている。だからこれは、ただ、自分がこの世界に残るための理由を探しているだけだ。
このチャンスを逃したくないと……ふいにしたくないと。
「ボクならこっちからあっちへの道をつけらレル。ヘンリックたちもそうやって送り返したかラネ。キミの言う通り、『
「……」
「どうスル? 『
何も言えない『剣士』。ボスと言えるようなものがいないのなら、彼がここに居続ける意味はない。けれど、ここで帰ったら、彼の目的は達成できない。
手が白くなるほどに拳を握り締める『剣士』の様子を見かねて、『助手』が口を出そうとした……その時だった。
「あの……申し訳ありません、今の話で、少し疑問が」
「なにカナ、『皇帝』クン」
少年、『皇帝』は言う。
「言うなれば『
「そうダネ。そう言い換えることもでキル。だから彼らはこれを大事に守ってイタ」
「なら……どうして最近の
問い。あるいは物事の
「飢えダヨ」
「飢え……」
「魔物ダッテ、餌が無いと狂暴になるダロ。『
「なら……『
ペンをくるくる回しながら、フム、と一つ考えた彼は。
「ま、可能性はあルネ。つまり『皇帝』、キミは、その開花の瞬間を守るための護衛戦力が必要ダト、そう言いたいのカナ?」
「こ……『皇帝』」
「いえ、気になっただけで……。それに、子供の私達が護衛戦力になるとは思えませんし」
ウンウン、ウンウンと頷いて、『博士の博士』はそうダナと思案する。
そして。
「こういうのはどうだロウ。まず──」
全員が納得できる『案』を、打ち出した。
***
発覚は早かった。そもそもこういう時のためにヘンリックは子供たちを役職やあだ名で呼んでいるのだ。
子供たち自身のことを忘れてしまっても、役職の存在さえ覚えていれば、それに該当する者がいないことに気付けるだろう、と。
しかし、ヘンリックの覚えている『助手』、『剣士』、『皇帝』というあだ名の少年少女が見つかることはなく、時間だけが過ぎていた……ある日。
「チッ、xxxx! あたしたちが話してる部屋の隣で攫っていくとか、ナメた真似してくれるぜ」
「全部多分、だけどね……。拾った子の名前や性格は全員ちゃんと覚えているはずなのに……忘れている、というのが、ああ、怖いよ」
「──二人とも、下がって!!」
あの日と同じようにエカスベア魔導研究所で「対策会議」をしていた三人。その眼前に、空間の歪みが現れた。
咄嗟に二人の前へ出るキアステン。少女の見た目であるが、魔法に関して言えば、そして特殊な事象に関しての対応力は二人の追随を許さない。だから何が起きてもいいように自身の中の魔力を高めて……。
「……あ。本当に……帰ってこれた」
「今の魔力球は、いったい……」
「──『皇帝』に、『助手』!!」
「わぷっ」
歪んだ空間より、その二人は、子供は現れた。真っ白い箱を持って。
その二人へ駆け寄るヘンリック。
時間にして凡そ二週間。その間彼は二人を忘れていたのだ。
「良かった……よかった、無事で! ……そうだ、君達、『剣士』という子を知らないかい? 僕が拾った子のはず、なんだけど」
「ちょ、そ。その辺も全部話しますので、離れてください! 苦しいです!」
感動の再会である。なんだかほっこりした気持ちになっているメッテは、けれど、今二人が出てきた空間を見て口元へ手を当てているキアステンに気付いた。
「どうした?」
「……今の魔力。間違うはずもない……博士の、だわ」
「んだと? ……つか、そうか。こいつらが単独で出てきたってのはあり得ねえから……あの野郎、またそんな慈善事業してんのか」
軍の方で打ち出された『
「え!」
「なんだ、今度は」
次に大きな声を出したのはヘンリックだった。耳元で叫ばれて、『助手』が顔を顰めている。
そうして語られるは──。
三日後。
エリスフィア帝国軍第一から第四までの大隊がそこに揃っていた。
彼らの前に立つのは、メッテ・イェルネ准将。
「これより、エカスベア博士立ち会いのもと、新結界・『
怒号のような肯定が返る。
小国ながら、他国へ武力の貸し出しすら行うエリスフィア帝国の精鋭部隊だ。その勇猛さたるや。
「んじゃ、頼む。ヘンリック、テメェが上手くやれるかどうか、だからな。最初は」
「ちょ、ヘンに緊張させないでよ。……へへ、でも、久しぶりに博士の作った魔道具を見て……興奮が抑えきれなかったよ。やっぱり博士はすごい。そして……それを理解できるようになった自分を、誇らしく思う」
白い箱を地面に置いたヘンリックは、幾つかの魔鉱石を握りしめ、言葉を吐く。
「"山に響く遠吠え"、"大通りの朝日"、"鍵を閉める執事"、"文を認める老婆"、"緊張のひと時"、"髪を撫でる大きな手"」
六文字-六単語の刻印行使。最も洗練された形と言われる"方式則"。
伴い、白い箱が独りでに開く。その中から出てくるのは無数の刻印だ。いや、古代魔族語の文章にも見える。
それらは半球状の形に自らを形成し直し、そして──空間に大穴を開ける。
軍隊の中から「おお……」という感嘆が上がった。魔法について造詣の深い者がいるのだろう。
「じゃあ、次は私ね。──結界術・
それを覆うように結界を作るは少女、キアステン。どうして彼女がここにいるのかと問う軍人はいない。ヘンリックとメッテから、結界術のスペシャリストだと紹介されているからだ。
子供を守る意思の強いエリスフィアだが、子供の実力を見ないふりはしない気風もある。
「ん……問題なく出入りできるな。さすがだぜ、キアステン」
「ありがと」
装置を守るためだけの結界だ。人間の出入りは制限されていない。
では。
「んじゃ、行くぞ。いいか、気配を感じたら、痕跡を見つけたら、気のせいだと思うな! 必ず見つけ出せ! 報告しろ! んでテメェらも死ぬな! 瓦礫に押しつぶされようが
進軍、である。
子供達の言う『博士の博士』からの案。『
彼の護衛のために『剣士』だけが『
元からトンネルの計画はあった。『博士の博士』の研究上の付き合いがあった研究者がやろうとしていたこと。それをまさか『
すぐに隊が編成され、そうして
計画名『
十三年間エリスフィア帝国を悩ませ続けた『
「しっかし……ヘンリックもキアステンも、ついてくる必要なかったんだぜ? ヘンリックに至っちゃお上が渋い顔するっつったらなかったし」
「久しぶりに博士と会えるっていうのに、メッテだけじゃあ、ね。それに、僕だけじゃ怒り狂うメッテを止められそうにないし」
「そうね。そのまま博士を殺してしまいかねないわ」
「テメェら、あたしのこと魔物かなんかだと思ってねぇ?」
くすくすと笑う二人に後頭部を掻くメッテ。
結局この三人は、幾つになってもこうなのだろう。
「イェルネ准将! 報告します! 前方200athlほどの場所に、無数の
「恐らくそこが目的地で、あたしらがなんとしてでも守り通さなくちゃならねえもんがあるところだ! 今は結界で抑えられているのかもしれねえが、時間の問題だ! 外側から引っぺがして退治してやれ!」
三人の記憶と合致する。あと200athlほどで、博士のいる家だから。
ちなみに現実世界にあった博士の家には、生活感というものがまるでなく、ここに人がいたのかすら怪しいほどだった。あるいはそういう家だから、博士があそこを『
「巨大
「あ? ……そうか、地面を通って結界の中に入りやがったな?
「でも、
無数の
エリスフィア帝国軍の強さだ。結集し、足並みを揃え、力を発揮する。不撓不屈の強き軍隊。
「報告します! 少年を保護! 少年を保護しました! 錯乱状態にあるのか、動く様子の無い巨大
「あたしとヘンリックが行くよ。『
「はい。丁重に保護しました。
軍人たちに護衛されて進む三人。
ほどなくして、叫び声が聞こえてくる。
「離せ、離せよ! なんでこんなことするんだ!?
少年の声だ。焦っているような、震えているような。
泣きそうなような。
その彼を静かに見守るように佇む、超巨大
ヘンリックはまだ思い出せないけれど、『剣士』だろう少年へ近付いていく。
彼らと
「よう。状況証拠的にテメェが『
「ちょっとメッテ、あなたが出る必要あるの? あなたって結構重役なんでしょ」
「いいじゃねえか。十年前は一個の区画を仕切ってたボス
「まったくもう。……だったら、私とヘンリックが後衛につかないと、ね?」
いつもはブレーキ役を務めるキアステンも、この時ばかりは乗り気だったのかもしれない。
後衛といいつつ、メッテの隣に立って、どこから取り出したのか、大きな杖を片手に瞳を瞑る。
彼女らの後ろでは、感動の再会が──。
「君が……『剣士』、だよね。ごめんね、僕はまだ思い出せてないんだけど……」
「あ、エカスベア博士……よかった……じゃねえ! 大変なんだ、さっきから、こいつらも、その女軍人もだけど!」
「うん、もう大丈夫だから。敵は……僕らが、必ず討ち果たすから」
空に罅が入る。差し込んでくる紫輝の光は、この戦いのフィナーレを告げるもの。
「──なんでみんな、『博士の博士』に剣を向けるんだ!?」
「え」
ヘンリックが振り返った先。
静かに佇む巨大
「待、」
その瞬間、真っ黒な世界がバラバラに砕け散る。
突然の明かりに目が眩む皆々。
ざぁ、と。
靄のように……そして吹いて荒ぶ砂絵のように。
すべてが蜃気楼のように消え去った。
黒の世界も、無数の
時代の終わりを、告げるように。