序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
霊質とはなにか。
サンショウウオやカタツムリの神、そして『庭師』の言動から察するに、魂的なもの……だとは思うんだけど、魂だったら今の俺が俺と判定されるはずがないんだよな。
今の俺は、本体の俺が残した影法師のようなもの。エリスフィア帝国に残された俺という痕跡、そして『
それを見て、俺が築いてきた縁を見ることができるというのなら……やはり霊質は魂ではないような気がする。
サンプルは……あるには、あるか。
一人目。
「オレの境遇?」
「アア。ボクはこれでも研究者デネ。ここにいるミンナの境遇を見比ベテ、この空間を崩壊させられないカ試したいンダ」
「……信用はしてやる。早く出られるのならそれに越したことはない」
自分のことをガキだと言っていた少年、『王様』。尊大な口調は確かに王様染みてはいるが、魔力の質や気風は戦士のそれだな。
豹の魔族。長い金髪を後ろで括っていて、紅い瞳に加えて子供ながらに結構な強面。こーれは確かに『王様』っぽいからあだ名は理解できるが。
「大前提として、オレは人間に害を加える気が無い。もう少し言うとどうでもいいが正しいか。大人は人間との戦争に松明を掲げているが、オレにとってはどうでもいい」
「まぁ、なんでもかんでも大人に倣う必要はないと思ウヨ」
「そうか。貴様は話の分かる大人だな。……だからオレは、ただただ諸国漫遊……というのは違うが、顔を隠した上での旅をしていた。不都合なことにこの容姿は一目で魔族であるとわかってしまうからだ」
「確かに、大変そうダネ」
「だいたい五十年前か。その頃魔王国のバリムケラスというところを出て、周辺にある各国を旅していた。三年前エリスフィア帝国に立ち寄るまで……ふらふらとどこへでも行く風来坊だったよ」
へえ。良い空気吸ってる魔族だなさては。俺と同じエンジョイタイプと見た。
強大種族はそうあるのがいいよなっていつも思うんだ。力がどうこうじゃなくて、働かなくても食べ物を探さなくても生きられるから、どうとでもなんべの精神でのらりくらりが一番よ。
「オレの境遇というのはこの程度だ。面白いところも無かっただろう」
「確かニネ。デモ、ここは多分何か特別な性質を保有していないと飲み込まれない場所ダ。それについてを教えてはくれないカナ」
「……オレ自体は、普通の魔族だ。秘密などない。だが、オレの生まれた年は……特別であった可能性がある」
「といウト?」
「セイムロンティーカの蛇、というものを知っているか。港湾国家ゼルパパムで暴れた竜の成りそこないだ」
「アア、聞き覚えはあルヨ」
あれだろ。オスティ……。……ローランドとローレンスの名前と似てたやつ! が、裏切って潰したギャング。
へえ、あれって竜の成りそこないから名前取ってたんだ。
「オレはそれが現れた年に生まれた魔族だ。紫輝歴514年。初めて世界に竜災という言葉が現れた年にして、魔族でもないのに魔竜と呼ばれるような竜種が現れた年」
「じゃあキミ、今五十七歳なんダネ。相変わらず魔族の年齢感はわからなイナ。ボクの知り合いの魔族は兎の魔族だったケド、見た目は青年なのに自分のことをお爺ちゃんと言っていタヨ」
「……種族ごとにその辺りは違うが、オレは一応貴族だからな。
「ホウ。……もしかしたら、キミが生まれた年とか全く関係なくて、キミが貴族だから、かもしれないヨネ」
「だとしたらもっと多くの魔族がここへ来ている。貴族王族でも人間の領土へ潜入している魔族は多くいるからな」
成程。……セイムロンティーカの蛇の生まれた年……竜災の始まった年の生まれで、貴族。この二つの要素があってはじめて、って感じか?
しかしそれが条件となると他の奴らプラス俺の意味が分からない。だからそれが条件というよりは、何かしらの要件を満たしていたのがたまたまその条件のコイツだった、ってところかね。
「『庭師』には何か言われなかったカイ。彼女、相当高位の精霊のようだケド」
「悲運の相が見えるだの、覚悟をしておいた方が良いだの、色々言われたな。その後すぐに、ここでのことは多分本体にフィードバックされないから覚悟は無駄だろうが、とも」
「ボクも同じ見解カナ。ここでのことは、多少は覚えていられるかもしれないケド、基本的には無かったことにナル。というか既になって進んでイル。ボクらは"選択の袋小路"に入ってしまった憐れなネズミさん、だかラネ」
「フッ、違いない。その『庭師』も貴様のような者も捕まえてしまうこの空間の恐ろしさたるや、だ。……だが、存在的階位の高さで言うのなら、『庭師』より『探偵』に注意を払うべきだろう」
「それは、どうシテ?」
「あいつは自らこの空間へと入ってきたのさ。世界を破り、こじ開けるようにして」
……ほーう。
それは有力な情報。
しかし、この子アレだな。口調が尊大なだけでめっちゃ良い子な気がするな。口が達者なリュオンって感じ。
バリムケラスは確か魔王国の首都だったはずだから、実はいいところお坊ちゃんだったりして。……いいところのお坊ちゃんが一人で諸国漫遊してんなよ、ではある。
しかしやっぱり割と普通にいんだな魔族って。司書の男もそうだし、キアステンもそうだし。リチャー……ド? であってるよな? あいつも多分魔族混じりだし。あれこの考察したっけ?
それで言うと、シュラインの頃は魔力の質が見えていなかったから推論になるけど、多分最初に「──ですよね?」をしてくれた糸目の子も混じりっぽいんだよな。もう名前覚えてないけど。カズラ君しか覚えてねーやガルズ王国のパーティメンバー。カズラ君もファミリーネームは怪しい。リ……。……リズラ? なワケねーし。
魔族は魔族で種族ごとの見分けつかないし、人は人でやっぱり見分けつかないし。アルカみたいに魔法的にわかりやすいと記憶に残るんだけどな。だからアインとかはまだまだ覚えてる。強かったし。
「貴様……
「ナニがカナ?」
「『庭師』もそうだが、存在としての格が違うと相手の顔を認識しなくなるらしい。オレのようなガキに言われるのは癪だろうが、気を付けた方が良いぞ。それは礼を欠く」
「……」
……それは、ヒントな……気がするな。
俺は相手の顔を見ていない? いや、ちゃんと目を見て喋るタイプだが。……もしかして俺、既に見えているのか?
「気に障ったか? だが、」
「イヤ、考えることがあっテネ。アドバイスはありがたイヨ。ボクは少し人とズレているみたいだカラ」
「そうか。子供の言葉でもしっかりと聞き入れることができるあたり、貴様は柔軟な大人のようだな」
「みたいダネ。……ありがとう。そろそろ行クヨ。まぁ、任せテヨ。これでも難題を研究して解決することに関してだけ言えば、全存在よりも優れている自負があるンダ。この空間もしっかり解いてみせルヨ」
「……ああ、期待をしている」
やはりここは霊質とは何かを見極めるための場と見た。
この際「──ですよね?」を一度隅に置いてでも、これを解決するのが先決かもな。
ありがとう、『王様』。お礼はちゃんと何かしらで献上するよ。
二人目。
「やぁ、『博士の博士』。よく私を見つけられたね」
「この世界、近付かないとそこに物があることに気付けないと魔女は言っていたケド、その説明は正確じゃないヨネ。近付こうと思ったものが目の前に現レル、ダ」
「凄いな。ここへ来て一瞬でそれに気付くだなんて、君には探偵の才があるのかもしれない」
少年、というには少し歳を食っている、まぁ紛らわしいし青年と称しておこう。『探偵』のあだ名のついた青年だ。
彼は小高い丘の上にいた。丘があることもさっき知ったし、なんでそんなところにいるのかは知らんが、この世界のルールは大体わかったのでこれくらいは造作もない。
「『魔女』がキミに会いたいと思わない限リ、キミはどこへだって行ケル。時間や場所に囚われることナク、そして疲労や可能かどうかさえ無視をシテ」
「正解だ、『博士の博士』。キミが聞きたがっていた、私がどのようにして世界を行き来しているか、という部分についてはたったそれだけの真相さ。アテが外れたかい? 世界というものを渡航するような力を持っていてくれと願ったんじゃないかな」
「デモ、この空間へは自らの意志で来たんだロウ? 方法はどうでもいいカラ、目的が知りたイナ」
彼は鹿撃ち帽を指先の上でくるくる回転させながら、そうだなぁ、と思案するふりをする。
……よく見れば、左目が義眼だな。この時代に義眼とは、随分と高度な技術を持っている。ちゃんと見えているようだし。
「まず、開示をしようか。腹を割ってこそ秘密も不思議も語りあえるというものだろう?」
「開示ネ。キミからボクに? それともボクからキミに? どっちもカナ」
「語り合うんだから、どっちもに決まっているだろう。そうだな、じゃあ私は最初に、自身の生まれ年をBETするよ」
「それはキミが未来で生まれたと明かしているようなものだケド」
「そうかもしれない。けれど君は、これに釣り合うものは賭けられないだろう。なんせ君には生まれ年と呼べるものが無いから」
回していた帽子をピタと止めた『探偵』は言う。
「沈黙は肯定と受け取ろう。さらに私は自らの本当の名前もBETしようかな。──これに対しても釣り合うものは出せないよね。君に名前なんて無いから」
「どこぞかで名乗ったものナラ、これでもかというほどにあルヨ」
「それは偽名だよ。本当の名前とは言い難い。……あとは、そうだな。私の大切なものもBETしよう。──君にそんなもの、あるかな?」
「アルヨ、ホラ」
握っていた手を開く。
そこに山を作っている、乳白色の砂粒。
「……これは?」
「ボクの大切なモノ。──それで? BETというンダ、語らい合いで勝負をするんだロウ? そうして勝ったらもらえるって認識でいいのカナ」
「解析……できない。これは……」
「キミね。初対面の時もそうだったけど、ちょっと失礼すぎルヨ。その義眼、ライブラリ的なものと見たけど、相手と喋っている時ニ本を読むのはナシだ。そうだロウ?」
砂粒を消して、手をひらひらさせる。BETBET言うから賭け事が始まるのかとも思ったけど、ただ「お前にはそれが無いだろう」と突きつけるための言葉遊びか。
「アア、大体わかッタ。その義眼、言うなれば『
時代を考えて、そして俺の知っていることを繋ぎ合わせれば。
「キミは【マギスケイオス】の一人ダ。恐らく『遠見』の魔法を使う『観察者』の前代……そうダナ、『先見』と言ったところカナ? そうでありながら、同僚の『
「……『博士の博士』をやめて、『探偵』になる気はないかい?」
「【マギスケイオス】に誘われたのはこれが二度目だケド、生憎と興味が無いンダ。『
「そうかい。それは残念だ。……一つ言っておくと、確かに私は『先見』の称号を持つ魔導士だけど……弟子や後継ぎはいない。察するに『観察者』というのは、私がのちに取る弟子へ名付ける称号なのだろうね」
やっべ。
……いや! ここの空間のことはフィードバックされないと思うから大丈夫!
「つまり君は、未来からきた存在で確定だ。どうかな、その『観察者』とは仲良くやっていたかい?」
「……実は『観察者』には会ったことないンダ。一個か、もう一個あとの『
「まぁ、腐っても世界に十二人だからね。そう何人もに出くわされても困る。……ま、いいよ。腹の探り合いはこのあたりにしよう。どうにも分が悪いから」
「じゃあ、キミがどうしてここにいるのか教えてくれるカイ」
「ああ。……というのも、事の発端は『
「『
「その通り」
再度帽子をくるくるやり出した『探偵』。人差し指と偶の親指で帽子をくるくるやりながら、残りの指で煙管を回すとかいうテクいことをしている。……見た目通りの年齢なら煙管は……あ、そうか成人十五歳か。なんなら国によっては煙管に年齢制限無いとこもあった気がする。
「『
「ボクも見たことはないネ。タブン」
「けど、十三年前。紫輝歴558年に彼らはその姿を現した。エリスフィア帝国近郊で起きた、
……なーるほど。
そもそもが子供の血で……だから子供の恐怖と結びつきやすかったのか。
「ツマリ、『
「そのようだね。むしろ見た目は人間にそっくり……というより、【マギスケイオス】にいる『不死』の魔導士の考えをそのまま借りていうと、彼らは"人の魔族"なんじゃないか、って話だ」
人の魔族。……確かに気にはなっていた。というか思っていた。
この世界の魔族って、ぶっちゃけ獣人だよね、って。
なんらかの獣の混じった人って感じで、けど魔族と呼ばれるだけあって魔法に……というか魔力に依存している。体内に魔鉱石あるし。
そのなんらかの獣には、人がいたっておかしくはないか。
「【マギスケイオス】というのは言ってしまえば自らの研究するテーマに向かって邁進する狂信者たちのようなものでね。私の場合は自身の魔法たる『先見』と、『最小限』に施してもらったこの義眼。その双方で、その場にいながら世界の真相を知ることにある」
「つまらないと思うけドネ、ソレ」
「まぁ他者にはそう映るものさ。私には私の夢がある。君にもそういうものはあるんじゃないかな?」
「……そうダネ。失言だった。キミの夢を否定する気はなイヨ」
俺の「──ですよね?」だって見る人が見れば「そんな面白いか?」になるだろうしな。
何をこんなにワンパターン繰り返してるのかわからんって、はは、それはそう。
「……けど、この魔法にもこの眼にも、『
……批難できないな。俺もギルドの機密資料漁ったし。
「そうして調べ物をしている時、おかしなものが目に入った。『
「ナルホド。出られなくなっタト」
「『庭師』の発言を考慮するに、そして先程君が私に未来のことを話せたことから察するに、本体の私はこの空間に入ることができずに諦めたんじゃないかな。影法師の私だけがここへ入り込み、そして出られなくなった。笑い話というやつさ」
……『
そして……根源的な力を発しておきながら、その力に蛇蝎の如く嫌われている空間、か。
ここ……『
「『探偵』らシク、真相を解決していないから出ていかないだケデ、出ていくことはでキル、ということはないのカナ」
「残念ながら。【マギスケイオス】にいる『別界』の魔導士が私に気付いてくれたらあるいは、だけど、本体がちゃんといるのならむしろ私のことは削除してしまうかもしれないね。どちらにせよこの何もない場所が終わるのならそれは良いけれど」
恐らくそいつが結界関連特化の魔法使いって感じかな。
……うーん。まぁ正直、アテが外れたな、とは思っている。なんでも知っていそうな割に、だった。
「キミから見て、『魔女』には何か特別なところはありそうカナ。それこそ『
「君は魔力の質が見えるんだろう。自分であり得ないと思っていることを他人に期待するのは止めた方がいい」
「ケド、ボクはある例を知ってイル。見た目は完全に人間のそれだった魔力の質をしていたノニ、次に見た時には完全に魔族のそれになっていた、って魔族ヲ」
「……仮面の魔族か。まぁ、可能性はゼロではないだろうけど……本人に自覚がないことなんてあるのかな」
へえ。成程ね。羽澤みたいなやつを仮面の魔族というのか。
ルヴグ村で生まれた
……っていうか、なるほど。"人の魔族"だから人にもなれるし魔族にもなれる感じなのか?
「なんにセヨ、参考になっタヨ。外界にフィードバックが無いとはっきり判明しタラ、未来の話をしてあげてもイイ。きっと面白イヨ」
「ああ、楽しみにしているよ。それで、次は『庭師』かな?」
「そうだケド、何かあるのカイ」
「彼女は精霊というだけあって素直な性格だ。私や君のような裏表も無い。だが、あれはあれで超常な存在だからね。話が通じるとは思ってはいけないよ」
「それは、ボクにも言えるコト。そう続けようとしていないカイ?」
「おや、『先見』かい?」
「人読みダヨ」
ちょっとわかってきたしな、ここの崩し方。
ただそのためには……保険の起動が必要だが。
そっちは俺じゃどうしようもないので、まずは『庭師』に話を聞きにいこうかね。
三人目。『庭師』。見た目は……アンニュイな感じの、長い髪を三つ編みにした……でも服装はカジュアルな少女。エリスフィア基準のカジュアルというより、なんなら現代カジュアルチックですらある。いやこの世界の現代っていつだよってそれ。
「やァ、『庭師』。今、良いカナ」
「たとえ食事時でも気にせず話しかけてくるでしょ、あんた。だったら最初から気にすんなですよ」
「ハハハ、確かニネ。ああでも、キミが精霊だというのなら、お近づきのしるしにこういうものをあげヨウ」
「なんですか賄賂は……。……ま、魔晶石?」
「ここニハ
子供達はなぜか光の魔鉱石を消耗品だと捉えていたけど、基本二、三年は保つんだ。ちゃんとメンテしてやれば十年くらい数個の魔鉱石でローテーション可能である。
その内の一つを魔晶石に作り替えてプレゼント4U。精霊がこういうのにメが無いって知ってんべのっちゃらば。
「変えるってのは……よくわかりませんが、さ……さすがにこれは貰っておきます。ここに迷い込んでから魔鉱石すら食べていないので……お腹、空いていましたし。け、けどこれくらいで懐柔されると思ったら大間違いですよこのスーパー悲しみ量産機!」
「ボク、前は料理人をしていテネ。精霊がお客さんになったことはなかったケド、美味しいものを食べている相手の顔を見るのが好きなノサ。君へプレゼントをした理由はたったそれだけダヨ」
「……うわー。ようやく理解しました。あんた基本善人ですねさては。だけど自分に向かう感情に欠片も頓着が無い……。人間ってのは善意を尽くされたら善意で返すもんですからね、あんたから善意を受け取った多くの善人があんたに心を砕いて、けれどその一切が届かなくて今に至るって感じですか。ご愁傷様です」
そんな風にぶつくさ文句を言っていた『庭師』も、ぺろりと魔晶石を舐めた瞬間、大好物を見つけた子供のような顔になった。
うんうん。存在としては高位かもしれないけど、『
「──はっ。……そ。……それで、うちに何か聞きたいことがあって来た感じじゃないんですか。ここを出る方法以外なら……まぁ、そこそこは喋ってあげますよ、お礼に」
「マズ、確認を取りタイ」
「確認? ですか?」
答えを知っている相手に答えを聞く、というのは俺の流儀じゃないんでね。
あくまで答え合わせをしたい。
「霊質トハ、その者が存在としての終わりを迎えたトキ、その碑に刻まれる事柄の全て。この認識は、正しいカナ」
「……言い方が難解ですけど、概ね間違っていないですよ。霊質っつーのは、そいつそのものの性質みたいなものです。体質っつーのが遺伝的要因と環境要因が相互作用して形成されるモノであるのなら、霊質はそいつの生き様と時の歩みが相互作用して形成されるもの。自らと他者を繋ぐ縁、仲間に預ける信頼。恋人に対する安心感。未来への希望。過去への絶望。勇気や共感、自己肯定感、克己心……。生きていく上で必ず世界に焼きつけねばならない影響。それを霊質って言うんです」
神や精霊には、それが見えると。
そして多分……俺もそれを見ている。彼らほど鮮明には見えないから……言ってしまえば俺は視力が悪いんだ。
だから人が見分けられないのかもな。霊質的に鮮烈なやつじゃないと、他が全部一緒に見えてしまう。
「あんたみたいな怪物は、本来もっとシンプルな霊質をしています。他者へ向ける感情も受け取る感情も大抵ゼロだから。でもあんたは、基本的に善人なんでしょうね。子供に優しくする。怪我をしている人を見捨てられない。守る。悪事はできない。迷惑はあまりかけたくない。善人……と言うと少々行き過ぎですか。だからあんたは、多分普通の人です。そのおかしな生き様以外は普通の人。だけどまぁ、そのおかしな生き様こそがそいつの本質であり霊質なんで、やっぱりあんたは怪物です」
「ちなみにキミ目線、ボクみたいな霊質を持つ者をなんと呼ぶのカナ」
「"
やはり今まで引き戻された名前はそういう理由か。
そして、今の。
霊質を読んで音に変換するやり方。
「
「……今の一瞬でうちの視線を解析しやがりましたか。一応言っておきますけど、初対面の相手にそれやんない方がいいですよ。人間って衣服無い状態見られるの嫌がってましたよね。それと同じです」
「キミたちはずけずけと見てくるのにかい?」
「見えるんだから仕方ないじゃないですか。でも基本言いません。神みたいな性格悪い奴は言いますけどね。うちは言いません」
確かに。目を塞いでくれってのは違う話か。
……いやはや、でも、ありがたい。参考になったよ。
「あ、そウダ。キミの境遇も聞いておこウカ。どうしテここにいるノカ」
「そんなついでみたいな」
「ほぼついでダヨ。ボク、ここの仕組みだいたいわかっタシ」
「ほんとですか? それがほんとなら、ありがたいですね。……じゃあまあ、話しますか。でも面白いことはないですよ」
「みんなそう言うネ」
まだまだ全然減っていない魔晶石を舐めながら、『庭師』は口を開く。
「うちはただ、見にきただけなんですよ。紫輝歴が始まって以来初めて人界に顔を出した『
「……それが誰か、知っているのカネ?」
「知りませんけど、見たらわかりますよ。……『魔女』からはそれっぽい匂いがしたんですけどねー。違いました。つーか『魔女』にそれっぽい匂いがしたせいでここに迷い込んだっつーか。もしかしたら知り合いにでもいたんですかね、『
……流石に、気付く。わかる。
それが誰か、など。
あいつが隠していたことってまさか……これ?
だとしたらとんだ……いや、あいつ自身は制御できていないのか? なんなら知らない可能性までないか?
「見にきて、なにかする気だったのカイ」
「あんたが見た通り、うちの霊質は
「
なるほど。霊質とは、こう見るのか。
全ての側面を内包してこその霊質だ。一側面だけの顔など、そいつと接するだけでわかる。
「放っておけないは、放り出せない。逃したくナイ。……そして独占しタイ。そのすべてを内包しているのがキミの霊質ダ」
「……」
「つまり、キミだよ。エリスフィアのどこかにいるであロウ『
金言だよ、『探偵』。
話が通じると思ってはいけない──まさに、だ。
「『探偵』がいテ、ボクのあだ名は『博士の博士』だけドネ。割合、物語というものの中では、博士というポジションがそれを行うことも少なくないンダ。つまり、マァ」
手を差し出して。
「──さて」
本当の解決編を始めよう。