序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
つまるところ。
「キミは『
「……他人を食欲に突き動かされる魔物のように言いますね」
「魔物も魔族も死ぬまで興奮状態が収まらナイ血液。言うなればドラッグ、あるいは美酒、ってやつダネ。キミが最初からジャンキーだったのかドランカーだったのか、っていうのもまたボクの知らない話だケド、キミはそれを口にしてみたくてたまらなかッタ。だから『
あくまで『
子供が無傷の内から魔物が、ってのはおかしな話だった。
「その時に飛び散った少量の血は、魔物と、そしてキミが飲んだわケダ。……少量でありながら、それはどれほど甘美だったノカ。長くを生きる精霊でありながら、虜になってしまうほどのおいしさだッタ。だからキミは、もっと欲しいと考えたんダネ」
「……」
「そうして出来上がったのが、この空間ダ。『
怒り狂った強大な魔物。
血液が甘美な匂いを発していたというのなら、それを摂取した魔物は、怒り狂う魔物は、より強大な魔物に狙われ続けたことだろう。バトンが回るようにその食い食われが繰り返され、果ては人間に討伐される。
強き魔物。狩猟難度が高く、値段の高い魔物。──それは、皇帝府で食事に出されるほどに。
ニールス・エリスフィア。当時の皇帝の孫にして、最初の被害者。
彼は何者かに助けられたらしい、という話を子供たちから聞いたが……それは恐らく、確認をしに来たこいつ。
「キミの作り上げた『
それはいつしか、エリスフィア帝国という国を覆うほどのものになった。
皮肉ではあるか。だって、たった二年でお目当ての魔族は取り込めていたのだから。けど、完全に隠されてしまっては『
「誤算は、ボクだヨネ。まさか自分の魔力の質を子供判定にして入ってくる大人がいるとは思ってもみなかったダロ」
「……はあ。まぁ……そうですよ。誤算も誤算。つーか誰も想定しないですよ。そんなこと」
「ハハハ、認めたネ」
「ええ、そうです。『
「存在の規模さえ変えてしまうほどノ、カ」
あるいは……血を飲む前の彼女は、異界を作る力なんて無かったのかもな。
誰が悪いって言われたらそりゃこいつが悪いんだが、ある意味『
ま、俺は正義に傾倒していないんで、誰が悪いとかはどうでもいい。俺だってそこそこ悪辣な自覚あるしな。
「『
「どうなんでしょうね。『王様』も遠縁とはいえ貴族ですし、『探偵』は……勝手に入ってきただけですし。あんたに至っては『
……それは薄々勘づいていた。
こいつも多分本体じゃない。本体はとっくに退去している。この傍迷惑な異界を残して……割と初期に。
「『
「魔物獲りの罠みたいなこトカ」
「はい。そんな感じで。けど、なんと言っても精霊ですからね。我がことながら……気が長すぎるので、あと百年帰ってこなくたっておかしくありません。『
「つまり、この世界の維持をしているのはキミではないと言いたいわケダ」
「言ったでしょ、仕組みがわかったならありがたい、って。あれ本心ですよ。ここにいるうちは、『
ふぅん。俺が今ちょっとだけいつもより意地悪になっている感じがするように、こいつもこいつで、か。
霊質に翳りはない……面白いな。魔力の質と霊質の視認を併用すると、相手が嘘を吐いているのかどうかもわかる。これは確かに相手の顔を見なくなりそうだ。多用は控えよう。
「それで? 探偵気取りの博士は、この世界の壊し方を見つけたんですか?」
「あア。そのためにハ保険を起動する必要があるケド」
「保険?」
俺が『
が、そんなの計画でも作戦でもない。ただの救難信号だ。
だから俺は、二人が失敗することも考えていた。
その場合……つまり、結界が保たなくなってしまって、血色の花の開花が
「『魔女』に会いにいこうカ。当事者ナノニ、最後まで蚊帳の外は可哀想ダ」
「……いいですけど、あの子話遮ってくるから苦手なんですよね」
「レジストすればイイ。できないなんてのハ泣き言ダヨ」
「世界からの強制力に抵抗できる方がおかしいんです。ここだってうちの魔法なのに、主導権は『魔女』に奪われちまってるんで」
「それは……成程。キミ、元々高位の精霊ではなかったと言っただロウ。だから多分、
けど、そうなると。
あの子は……『魔女』は素の状態で、高位ではなかったとはいえ精霊よりも強い干渉力を持っていた、ということか?
……俺のこの推測はあくまで彼女がキアステンの近くにいたことがあって、だから『
けど、本当に二人が何も関係なかった場合。
精霊にも【マギスケイオス】にも見抜けない隠蔽で……彼女が正体を隠していた場合。
……一応警戒しておくか。何が起こるかはわからんからな。
そこには全員が集まっていた。
どうやら『探偵』が『王様』に声をかけたらしい。さすがは『先見』、俺と『庭師』が話したらどうなるか、まで見えていた、ってか? だったらとっととお前が探偵やれよ案件なんだが。……こいつも力が落ちていたりすんのかな。
「嬉しいわ。みんなが集まるだなんて、中々ないものね。『博士の博士』には感謝をしなきゃ」
「どういたしまシテ。皆ここで長く過ごしすギテ、気が滅入っていると思っテネ。細やかながらパーティを用意したンダ」
「なんの話ですか、道中寄り道なんかしてなかったくせ……に?」
ホラ、と言って、そこを示す。
そこ──何も無い空間。しかし次の瞬間、大きなテーブルと、豪勢な食事が現れた。
「まぁ!」
「なんっ……いや、『探偵』の旅行の応用……ですか……?」
「そうダヨ。キミたちここの性質をちゃんとわかっていないみたいだかラネ。ボクが最大限活用してあげるノサ」
この世界では、行こうと思った場所が目の前に出てくる。その性質は、万事万物にも適用される。
だから、その料理を鮮明に思い浮かべて食べたいと思えばこれこの通りだ。作りたいでも可。
「……オレの……いや、魔族の舌に合うもの、というのは、あるのか?」
「あるヨ。ただ都会の料理は無イ。ボクは魔王国の田舎にしか行ったことがないかラネ」
言いながら出すのは、ラ……。……リュオンの村の食事処で出ていた料理だ。
ル……ガ……えーと、ヴァルカンで最初に道場開いた村では家庭料理とか出てたかな。……なんだっけな、バリムケラスとは緯度が近いから、似た料理が出せるんだっけ? なんかそんなこと言われた覚えがある。折角だからそれも再現するか。礼を献上するって言ったしな。
「おお……」
「すごいすごい! すごいわ、ケーキまで! 私、こんなにたくさんの料理を見たのは初めて!」
「『探偵』、キミはどこ出身なのカナ」
「私はアスミカタ帝国生まれゼルパパム育ちだよ。だから私の舌に合う食べ物というのは難しいかな」
「イヤイヤ、ボクを舐めてもらっちゃあ困ルヨ。ホラ」
茜座としてかつて作った葦三方の伝統料理、そして俺が料理を志すきっかけとなったゼルパパムの漁師飯。……まぁ漁師飯は大分日本アレンジ多目だけど、レスベンスト冒険隊の舌に合ったなら大丈夫だろう。
「……。……ほう?」
「うちには何かねーんですか」
「キミには魔晶石をあげたばかりだロウ?」
「精霊差別ー。精霊だって料理を食べてみたいですー」
「なら、『庭師』? こっちで私と好みの料理を見つけましょう?」
「……それはアリです」
食え食え。どうせなかったことになる空間だ。
すべてが終わる前の、束の間のひと時、というやつだ。
「──この味、は」
「口にあったカナ?」
「……間違いない。……すごいな。どういう経路を辿ってきたのか……『先見』の名が泣くよ。これは想像もできない。……これは間違いなく『
ん。
んんん~~~~~?
「そういえばさっきうちと話している時も料理人をしていたとか言っていましたね。『探偵』がそうも絶賛する料理ですか。ちょっとそっちも食べてみたいです。『魔女』もどうですか」
「もちろん、いただくわ!」
「人間の食事が舌に合わないということはない。いただこう」
ん……んんんん……いや、まぁ……んんん……一応、身内からの感動の再会的な「──ですよね?」でもないけれど、それは別人でぇ……。
ああそうか、痣火の時は徹底して別の物を作っていたけれど、今回は手癖のものを想像したんだから……そりゃ似るか。いや嬉しいよ。瓜良は大将と呼ばれるほどになったんだなとか、侍と忍者は結局仲良くなれたんかなとか、外国人の入国も頻繁にあるようになったんだとか色々考えることあるけど……。
キ……キタ、か?
「申し訳ないケド、瓜良という人は知らないンダ。ボクが料理を教わったのは別の人だカラ」
「けど、この味は間違いなく『
「美味だ。食べる者のことをよく考えて作ってある。故に、ここに謝罪をさせてほしい、『博士の博士』。オレは貴様を独善的な研究者に見ていた。掲げた大望に邁進し、他者を省みぬ者であると。……だが、この味を出せる者が、そういうことをするとは思えない。……もう一度言う。すまなかった。そして、美味だ」
「いや『王様』、あんたの審美眼はなーんも間違ってねえと思いますけど、確かに美味しいですねこれ。魔鉱石なんか欠片も入ってないのに美味しいって相当ですよ。誇っていいです。研究者とかその他の夢捨てて料理人一本でやった方が良いですよこれ」
う、うーん。『博士の博士』の作り上げたもので「──ですよね?」をされるのならともかく、遠い昔の功績で「──ですよね?」をされるのは……ちょっとあんまり嬉しくない……んだよなぁ。俺の望みじゃないっていうか。
まぁこの期待できない異界であっただけ良しとするか……。
「オ」
「む?」
俺の気付きと『王様』の察知が重なる。……やっぱこの子相当ポテンシャル高いな。
とはいえこの場にいる者は皆特異であるからか、次々に気付きの声をあげていく。
「なんだ……? 微かにだが……外界の魔力を感じたような」
「まるで、久しく吸っていなかった空気を吸ったかのような感じだ。……これはそろそろ終わりが近いかな? 早く食べてしまわないと勿体ないね」
「どういうこと? なにが終わるのかしら?」
「子供時代と、夢がネ」
天頂。夜空に輝くは、涅月。
星々の瞬くその空に──罅が入る。
「すべての可能性を考エテ、何もかもが失敗した場合、ボクはこの『
罅、そしてその向こうにある光が明滅する。繰り返すたびに明るさを増していくそれと……響き渡る地鳴り。
「『
それは、子供達に持たせた『
俺がスムーズに出られていたら回収して起動させないつもりだった。けど、想定していた形とは違うものの、ちゃんと出られなかったからな。
時限式だからこっちからはどうしようもなかった。待たないといけなかった。
「『万能』」
掌に出すは黒き球体。なんでもできるけど、この世界には為す術なかった球体。
そこから伸びるマニピュレータが──罅より降ってきたマニピュレータと結びつく。
「なん……ですか、それ。……
「全然理解できないわ……子供にもわかる言葉を喋ってちょうだい」
「物語はここで終わりということダヨ、眠り姫。ボクの作り上げた魔法が裡と外、双方からこの空間を解析シ、崩壊方法を探リ、そしてそれがわからなかった場合、起点を無理矢理付与して穴を開き、中にあるものを外へ
そもそも俺が作った「
ランダムに組成の変化し続ける『
それを、裡と外から、世界全体に行う。「世界A~ZZZZZZらしいけど、とりあえずお前の名前はA'! だから穴が開けられる! んでもって、内側の存在する結界だっていうんなら、その穴を
結果中の物がどうなるのかとか、現実世界にどんな影響が出るのかとか、一切考えていない。夢に関する以外の迷惑を割と気にする方な俺による、初めてレベルのド迷惑魔法。
「──オレの名は、アンキア・"ヴァーン"・バリムケラスだ! 三年ほどを共にした貴様らのことは、少なくともこの俺が忘れることはない! そして『博士の博士』! 貴様はどうやらあらゆる面において尊敬すべき者であるらしい! いつの日か、本物の貴様と相まみえることができるよう、祖にでも祈っておこう!」
吼えるような声が響く。金髪赤目の彼は、最後まで尊大に、けれど……上品に。
「さらばだ、人間」
そう言って、ブロックノイズのようなものに包まれ、姿を消した。恐らく「整合」されたのだろう。
しかし、"
「おっと……私の番か。しかし、『探偵』と名乗りはしたものの、事件解決には何も貢献できなかったね。あるいは本体の私がなにか外でやっていたらいいのだけど」
「明らかに良いタイミングすぎるカラ、多分キミの本体が手伝ったんじゃないカナ。そんな気がすルヨ」
「はは、気休めの言葉ありがとう。……恐らく最後になるのは、『庭師』ではなく『魔女』だろう。その時何が起きても……君は冷静でいられるかな、『博士の博士』」
「その言葉ですべてを察しタヨ。キミ、実は子供苦手だロウ。『先見』の目にも、泣く子は手に余る、カイ?」
「素晴らしい妄想だね、『博士の博士』。君は博士をやめて小説家になるべきだ。──負け惜しみとして、これ以上の言葉は無いだろ?」
青年は、ニヤリと笑って……どこから取り出したかステッキを突いて。
ザァと、ノイズの塊に包まれて姿を消した。
「……なんもかんも唐突ですが、ま、世界崩壊なんてそんなものですか。……『博士の博士』。うちはあんたに言うこととかなんもねーです。ありがとうございますくらいで」
「だろウネ」
「で。……『魔女』。まず、謝っておきます。……うちなんですよ、あんたを……ずっとここに引き留めていたのは」
「……そう、なの?」
「ええ。『
「だとしたら……お礼を言わないといけないわね」
ん。……やっぱりなんかあるのか?
何ができるとも思えないが、身構えてはおくが……。
「どういう意味ですか? 恨まれることはあれど、感謝なんて……」
「だって多分私、もう死んでいるもの」
さらっと。あっけらかんと。
彼女は。『魔女』は。
「『
「……それ、は」
「あ、今、もしかしたら誰かが助けてくれたかもしれないのに、瀕死の私を取り込んだせいで殺してしまったかも、とか……考えたりした?」
「いえ、そこまで……うちは人に優しくねーです」
「ふふっ、知っているわ。……わかるのよ。自分が死んでしまって、心だけの存在になっている、って。朝目が覚めるたびに、自分がこの世界に溶けてしまったかのような感覚になるの。それが多分、死んでいるってことなんだわ」
成程。ある意味で精霊よりも肉体に囚われていない……幽霊みたいな存在だったから、この構成が甘い世界と癒合して……製作者の『庭師』すら凌駕する干渉力を得たと。
魔法に意識が芽生えたようなモンか。
そんでもって、真っ黒な魔力。……彼女が子供を救ったと。ただ、その時にはもう、ってわけだ。
「私が三年も長く生きて、『王様』や『探偵』、『博士の博士』に会えたのは、『庭師』、あなたのおかげ。『博士の博士』のおかげで……『皇帝』たちが生きているってことも知れたし。私はもう、満足だから」
「……一応聞きますよ、『博士の博士』。あんた、死者蘇生、ないしは霊魂の縫い付けは行えるんですか」
「できルヨ。頼まれたってやんないケド」
できる。明言して、できる。今後やることはないだろうけど。
「じゃあその自制心、これからも大切にしてください。──迷惑をかけました。『魔女』、あんたには……本当に」
「私達、家族でしょう。家族は迷惑なんて思わないわ。分かち合うものだから」
「あんた、家族いないじゃないですか。わかったような口を利きますね」
「わかるわ。だってあなたは、手のかかる妹、って感じだったし。……ね、『博士の博士』。お願いがあるの」
「なにカナ」
だいたい何を言われるかはわかった。
はぁ。俺はあんまりそういう……殺生は好きじゃないんだけどな。
「さっき『探偵』が、『庭師』は私より先に消えてしまうと言っていたけど……私のことも、『庭師』と一緒に消してくれるかしら。……もし可能なら、子供達の記憶からも」
「酷い事を言うネ。『皇帝』は今でも君のことを探していタヨ」
「ええ、私って酷いの。だって……ふふ、『魔女』ですもの。『魔女』は神秘の薬を作って、誰の記憶にも残らない偉業を達成するのよ」
──良いだろう。
俺も、霊質への気付きを本体へ
カリアンの時は人間性に魅せられて、だったが。
今回のこれは……なんだろうね。押しに負けた、か?
「違いますよ。あんたは本質的に子供に優しいだけです。普通の大人がそうであるように、子供というだけで慈愛の対象にするし、子供のお願いは極力叶えてあげたがる。──だから、この後も消えるな、ですよ。外であんたを待ってる子供がいんですから──せめて感動の再会くらいはしていきやがれください」
「フム。キミは、子供カナ?」
「ええ、齢一千歳の赤ちゃんです。赤ちゃんからのお願いを断らねーでくださいよ。そして……ニツァ=ハルティヤ。興味無いだろーですけど、これがうちの名前。──せいぜい元気でやりやがれください」
「私の名前は……いいわよね。『魔女』よ。こわくてわるーい『魔女』。……子供に優しい人に対して、私を殺して、なんて言うんですもの」
「一度承ったんだカラ、最後までやルヨ。──さ、とっとと行くと良い。アア、ボクにも名前は無いヨ。つけなかったかラネ」
少女の存在構成を解き、痛みのないように雲散霧消させる。
閉じていた世界ならばこれはできなかったけど、今はもう外と繋がっている。そもそも存在を保っていられない亡霊は、暴く魔法の前にはなすすべ無い。
そうしてそのまま、二人の少女も消えていった。
「……よし。霊質知識の書き込み終了。……デ」
皮肉なものだ。
あれだけ心待ちにしたのだろうに、『庭師』が消えた直後、罅全体を『
が、早くしないと世界崩壊の方が先になっちゃうぜ。俺はそれに身をゆだねたってもいい。
感動の再会つって、待っているのは既に大人だろう。だったら──。
「だぁぁ、りゃ!!」
入ってくる。外からこっちに入ってきたのは……『剣士』。
「な……なんだ、どうなって、空? ……いや、今は良いや! おーい『博士の博士』! 助けにきた!! みんな外で待ってんだ──手、伸ばせ!!」
……。
ここで手を伸ばすのは、今まで無視してきた者たちへの……不義理となる、か?
「──おや、推理を始める作法は知っていても、もう一つの作法を知らないらしい。いいかい、名探偵が関わった物語は、大団円で締めくくられなければならないんだよ?」
身体が浮き上がる。勝手に。
……負け惜しみか。意趣返し、か。
「っしゃ! 手、掴んだからな! 離さねえぞ! それと、『魔、」
「もらうヨ。手向けダ」
全存在の記憶から『魔女』についての記憶を奪う。それを溶かして……あと、このままだと俺も「整合」されて消えちゃうから、コンストラクトとして存在を成り立たせて、と。
「……すまん、今考えるべきことじゃなかったかも! とにかく……引っ張りぃ、上げる!!」
引っ張り上げられる。
大団円、ねぇ。
興味の無いものではあるけれど……ま、初めて同じ場所に十年以上いたんだしな。
もう少しくらい引き延ばしたってよかろうさ。
***
こうして、エリスフィア帝国を救った英雄の一人として数えられることになった彼。『
彼と彼の教え子たちの描かれた絵は、皇帝府の最も見やすい位置に、『偉大なる七人』として飾られることになる。
記録と記憶を大事にする帝国だ。後世においてもこの絵画は語り継がれていくことだろう。
……妙なことに、後世における歴史家や翻訳家たちでは、この痩せぎすの男性の名を見つけることはできなかったという。
どの書物にも詩にも絵画にも、『博士の博士』という誤訳にしか思えない名前で呼ばれる彼の名を知る者は──。
「……行っちゃいましたね、二人とも。寂しくないですか? エカスベア博士」
「寂しいか寂しくないかで言ったら寂しいけど……僕にも新たな夢ができたから」
「夢? ですか?」
「博士の遺志を継いで、エリスフィアじゅうの子供が駆け込めるような、セーフティエリアを作りたくてさ。というより、この研究所をそういうものにしたいっていうか……まだまだこの国は子供にとって安全とは言い難いし、その、えっと」
「協力しますよ。なんてったって、私は『助手』ですから」
「うん。ありがとう、ブリジット」
「よーういっちょまえにしんみりしてるトコ悪いが、ヘンリック。エカスベアのスペルってこれであってたか?」
「ん……違うよ。cじゃなくてxだって、前言ったじゃないか」
「わりぃわりぃ。そうだっけな。まぁ発音すりゃ全部一緒だろ。これから毎日のように言うんだから、その内慣れるって」
「また適当な……いいかいメッテ、君はそもそも将校なんだから、まずは言葉遣いから、」
「おおっとxxxx! これはあたしのアイデンティティってやつさ!」
「……これは失恋ね。はぁ、私も大人になっちゃったかなー……なんて」
彼女らや。
「うーし、んじゃ……改めて! 俺たちの門出を祝って!」
「まだお酒はダメよ? ヘンリックに言われたんだから。道を踏み外しそうになったらそれとなくでいいから止めてあげて、って」
「うおっ!? き、キアステンさんいたのか……気付かなかった」
「ずっとついてきていましたよ。そしてゲーゼさん。安心してください。『剣士』が言おうとしたのは、お酒ではなく、旗揚げの方ですから」
「旗揚げ?」
「俺が世界一の剣士且つ世界一の冒険者になって、『皇帝』が【マギスケイオス】……【難題解決大好きクラブ】だっけ? まぁそういうのに入るための、……なんつーか、克己心? 違うな、えーと」
「宣誓みたいなものです。エリスフィア……というよりゼルパパムの文化ですが、何か高く、風になびくようなものに目標を書いて、その地に刺して……風に流すことで、世界に宣言する。ついでにパーティの名前を刻むこともあります」
「へえ。面白い文化があるわね。それ、私も書いていいの?」
「ああ、もちろんさ。ちなみに名前はエルヴァホイにするつもりだ」
「え。……不吉じゃない?」
「そんなことないですよ。エルヴァホイは本来、こういう意味があるんです」
「──夢を忘れない、ってな! へっへっへ、『皇帝』。今度は俺がお前の台詞奪ってやったぜ!」
彼らがいるから、それでいいのだろう。