序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい   作:ブ雨堰ド

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37.木漏れ日を湛える器

 今朝ベーカリーで買ったばかりのパンは、この突然の雨で湿気てしまっている。

 とはいえ他に食べるものなど無いのでそれを頬張り、へなっとした食感に顔を顰める彼女へ、爽やかな声がかかった。

 

「ケルスティ主任、周辺で聞き込みをしたところ、すぐそこの路地で小物雑貨売りを営んでいる青年がいるはずだ、ということがわかりました」

「へぇ、小物雑貨ね……。その人が犯人の可能性は?」

「無くはないですが、現場から立ち去ったと思われる足跡がありましたし、可能性は低いものかと」

「決めつけはよくないでしょう。いつだって可能性はゼロじゃあないわ。……その雑貨売りの家に行きましょう」

 

 パンを頬張り、飲み込んで、彼女……ケルスティ巡査部長は遠くを睨みつける。

 此度の殺人事件は凄惨なものだ。絶対に解決してみせると──。

 

「あの、主任。雑貨売りの家はそっちじゃなくてあっちです」

「……トゥーンくん。こういう時は上司を立てるのよ。それが処世術の一つ」

「はぁ」

 

 ケルスティ・ハルナック巡査部長。

 高い行動力と直感で事件を解決に導くことの多い彼女ではあるが、芝居がかった演出を好むあまり時折ポンコツになるのが玉に瑕な、華の二十四歳である。

 

 

 件の雑貨売りの家は、現場からそう離れていない場所にあった。

 ノックをすれば、すぐに返事があって、中から──まだ少年の域にありそうな感じの青年が出てくる。

 

「えっと……刑事さん、ですか?」

「そうよ。私はキロス自治領警察機構凶悪犯罪課巡査部長、ケルスティ・ハルナック。昨日夜から今朝方にかけてまでの間、キミが何をしていたのか、教えてくれるかしら」

 

 威圧的にすら感じられる物言いに、ぅ、とたじろぐような顔になる青年。

 

「主任、ちょっと言い方がキツいですよ。……はじめまして。僕はトゥーン・ペルト。ケルスティ主任の部下なんだ」

「あ……えと、レインです。レイン・ヤーガー。……中、入りますか? 雨……濡れると、寒いと思うから」

「ありがとう。じゃあ、お邪魔するよ。……主任? 子供の相手が苦手なら、今回は僕に任せてください」

「……別に苦手ということはないけれど、わかった。あなたに任せるわ」

 

 許可を得て、にっこりと笑うトゥーン。未だ警戒している様子の青年は、けれど二人を家に招いてくれた。

 すぐ目に付くのは、玄関に飾られたコンゲンスガゼルの彫刻だ。荒々しくも気高い魔物の凛々しさを伝えてくる、非常に洗練された一品。

 さらに壁へ掛けられている雑貨も、美しいものや可愛らしいものなど、かなり多岐に渡るようで。

 

「すごいな……。これ、全部君が作ったのかい?」

「はい……ちっちゃい頃から、こういうの作るの……好きで」

「……その失礼かもしれないけれど……ご両親は?」

 

 捜査に関係ない話を展開しようとするトゥーンに、ケルスティが制止の声をかけようとした……が、ノールックの彼が逆に手で制してくる。

 任せてくださいというかのように。

 

「二人ともいない……死んだ。僕が……小さい時だ。十年は前……」

「そうかい。それでずっと一人で?」

「学校も行ってないけど……お金は、稼げてる。こういうの……買ってくれる人、結構いて」

「すごいね。けど、それも納得だ。なんせこの出来だ。美術館にこれが置いてあっても僕は驚かないよ」

「褒めすぎ……だけど、嬉しい。……聞きたいこと、ある。でしょ。……話す」

「ありがとう。……じゃあ、改めて。レイン、君が昨日の夜から今日の朝方にかけてまで、どこで何をしていたのかを教えてほしい」

 

 ケルスティはトゥーンの評価を改める。彼は爽やかな二枚目ではあれど、犯罪者に対して及び腰になることが多い。他者に対して高圧的になることができず、犯罪者に粘り勝ちされてしまうことがままあったのだ。

 けれど、彼は彼なりの武器を……親しみやすく、誰とでも仲良くなれるという特技を磨き上げてきたのだと、ここでようやく知った。

 

「深夜から朝方にかけては……工作をしていた。毎日の日課で……だけど、昨日、雷が落ちて、怖かったから……いつもより長めに起きていた」

「……朝から今にかけては雨が降っているけれど、深夜から朝方にかけてはそんなことなかったはず。雷なんて聞いた覚えがないわ」

「レイン、具体的にそれが何時頃だったかはわかるかな。雷のような大きな音を聞いた時間だ」

「……ちょっと待ってて」

 

 立ち上がった青年は、ぱたぱたと足音を立てて何かを取りに行った。

 すぐ戻ってきた彼の手にあったのは、作りかけのタペストリー。

 

「一区画編むのに、だいたい一時間かかる。……僕の作業速度は、一定で……作り始めたのは、深夜一時ぴったり、だから」

「二区画と半分。深夜三時半か。……被害者(ヴィック)の死亡推定時刻と重なりますね」

「方角とかはわかるかしら。どっちから聞こえた音で、もう少し具体的に、どんな音だったとかは」

「……聞こえたのは、あっち」

 

 青年が指差す方向は、限りなく事件現場と近しい方向。

 

「音は……雷みたいな、激しい破裂音って感じだった……と、思う。……ごめんなさい、上手く説明できない」

「大丈夫だよ。そうだな……あとは、光とか、声とかはなかったかな」

「……歌が」

「歌?」

「歌が……聞こえた、と思う。──Over sølvskogen vandrer en liten drøm(雨の森を、幼子の夢が彷徨う)Den svarte månen danser stille over vannet(水面に映るは涅月の踊り子)♪ ……だったかな。僕が……勝手に記憶に付け足してる……かもだけど」

「主任、これは……」

「ええ。お手柄よ、レイン君。……さっきは怖がらせてごめんなさい。あなたのおかげで、捜査が無事に進みそうだわ」

 

 ケルスティにもトゥーンにも、その歌には聞き覚えがあった。

 フルドラの誘い歌。キロス自治領の北東に広がる森林。そこに棲むとされる美しい女性の容姿をした精霊、フルドラ。その彼女たちを歌ったこの歌であるが、直近、立て続けに起きている二件の殺人事件でもこの歌を聞いたという証言が得られている。

 その事件の犯人はまだ捕まっていない。つまりこれは──連続殺人事件、だ。

 

「……これ、貰ってほしい」

 

 レインが二人に差し出すのは、掌に目玉が描かれたような、見る人によっては恐怖すら感じるシンボルらしきもの。

 チェーンがついていることから、どこかにつけるものなのだろう。

 

「これは?」

「ハムサの手と呼ばれる……お守り。お兄さんにも……お姉さんにも、()()が見えたから……あげる」

「……ありがとう。大事にするよ」

「じゃあ、トゥーンくん。私達はこのあたりで失礼しましょう」

「ですね。……またね、レイン。今度はお客さんとして買い物に来るよ」

「うん。待ってる」

 

 ──これが、ケルスティ主任とトゥーンがこれから追うことになる連続殺人事件の幕開けにあった"ある出会い"であり。

 

 

 雨が降っている。

 大人数に取り押さえられた犯人は、意味深な言葉を吐いて自決した。

 残されたのは、胸を剣で刺された──。

 

「トゥーンくん! しっかりしなさい! ペルト巡査!! 聞こえているなら返事を」

「き……聞こえて、いますよ。……レインが、守ってくれたんです」

 

 彼の胸元から落ちてくるは、剣による突きの衝撃で真っ二つになったお守り。

 

「な……あそこまで本気の突きを食らって……無傷……?」

「いえ……げほっ、骨、何本かやられました……衝撃は、殺し切れなかった感じかな……ぇほっ」

「ちょ、治癒師を早く呼んで! 怪我人がいるの!」

 

 その決定的な窮地を救い。

 

 

 暗い地下室。ウルマス・オルネステオの邸宅地下だ。

 

「へっへっへ、一人で乗り込んできたその勇気には敬意を表するがなぁ、あんたみたいな上玉が捕まって……どうなるかってのを考えたことは、なかったのかぁ?」

「……」

「だんまりとはツレねえな。……ま、どうせ自分から話したくなるさ。──オラ、こっちを見ろ。魅了(チャーム)

「っ!?」

 

 下卑た視線と鼻息を漏らすは周囲の男たち。彼らは知っているのだ。この尋問官が、先祖に孔雀の魔族の血を混ぜていることを。つまり彼の使う魅了(チャーム)は、何者にも抗いがたいものに──。

 

「……。……ケルスティ様。なんなりとご命令を」

「え……」

「ヨハン!? あんた何言って……」

「じゃあ……腕のロープを解いて、そして、こいつらを気絶させなさい。殺さないように」

「御意に」

 

 解かれた魔封じの縄を横目に、悲鳴を上げる男たちを尻目に。

 彼女は……胸ポケットに入れていたそれが、バラバラに砕け散っていることに気が付いた。

 

「……嘘。レインくん、キミは……いったい……」

 

 やがて彼女と彼女に魅了されたヨハンは協力し合い、その根城を脱出する。ヨハンの供述を受け、オルネステオの悪事が明るみになってもなお、彼はケルスティに忠誠を誓ったままだった。

 

 ようやく一息をつけるようになったその夜、ケルスティは震える声でトゥーンにそれを話す。

 

「これ……わかる?」

「え、もしかして……レインがくれたお守り、ですか?」

「ええ、そう。あのヨハンという男は、先祖に魔族がいたらしくて……強力な魅了(チャーム)を使ってきたの。けれど、今、彼が私に忠誠を誓っている。つまり」

「魅了返し……いや、呪詛返し……?」

「もしあの時の……トゥーンくんが刺された時のそれが、単なる偶然ではなく……守護の結果だとしたら」

「とん……でもないことですよ、それ。あのレベルの一撃の威力を殺し切れて、且つ呪詛返しとしても機能するお守りなんて……子供が作れていいものでも、雑貨として売られていていいものでもありません」

 

 だが、事実である。

 あの青年からそれを買い占め、警察機構に所属する全員に配ってもいいくらいだ。いや、正式に雇い入れてしかるべき才だ。

 

「私は明日にでも、魔法犯罪課のタナックさんを連れて……彼の店に行こうと思っているの」

「魔法犯罪課のご意見番、ですか。……その、厳しい人だと聞きます。もし……レインの望まない方向で……無理矢理、とかあったら、僕、やるせない……のですが」

「大丈夫よ。彼が厳しいのは犯罪者やだらしのない身内に対してだけ。子供には優しい人だから」

 

 それなら、と、トゥーンも納得を示した。

 

 ──こうして、誰かの待ち侘びたその日がやってくる。

 

「……ハルナック。俺に見てほしいものがあるからとお前が言うからついてきてみれば……この俺に対して浮気相手になれというのか?」

「はい? あ、いえ、小物雑貨(ショッピング)だからってデートのお誘いではありませんよ。……奥様がいたのですか?」

「俺が言っているのはお前の浮気の話だ。ペルト巡査と付き合っているのだろう、お前」

「はい!? だ……誰がそんなことを」

「なんだ違うのか。魔法犯罪課ではお前らは職場恋愛をしていると、誰もが知る話だったが」

「──噂の出どころを見つけ次第、暴行事件が起こるかもしれません。先に謝っておきます」

「俺は魔法犯罪以外は知らんから、勝手にやってくれ」

 

 階級違いにより口を挟めないでいるトゥーンだが、「あのぉ、そろそろ……」と鶴の一声を発した。

 それにより、二人はそこへ入る。路地。そこで布を敷いて、小物雑貨を売っている青年のもとへ向かう。

 

「この子は……む。……なんだ、これは」

「ハイ、レインくん。久しぶりね。ちょっと聞きたいことがあって来たの。ああ、一応今回はお客さんよ」

「おひさし、ぶりです。……その、どれも……やすい、あ、安くないのもあるけど……なので、見ていってください」

 

 レインとケルスティの会話など、タナックには聞こえていない様子だった。

 彼は真剣に売られている小物を見つめる。観察する。時折生唾を飲み込んで、瞳を震わせて。

 

「……お前、名前は」

「レイン……です。レイン・ヤーガー」

「ヤーガー!」

 

 タナックの出した大きな声にびくっと肩を震わせるレイン。

 見かねたトゥーンが怒られてでも口を出そうとして──。

 

「十年前、レリックオークションに現れた謎の出品者ヤーガー……それはまさか、お前か? いや、年齢的に父親……?」

「ストップですタナックさん! レインが怖がってる!」

「ん……あ、ああ。すまない。興奮しすぎた」

 

 犯人に食ってかかるほどの剣幕を見せていたタナックだったが、トゥーンの声により冷静さを取り戻す。

 その彼に、今度はケルスティが問うた。

 

「レリックオークション、というのは?」

「……魔法犯罪者が好んで利用する、魔道具(マジックアイテム)専門のオークションさ。出品されるのは曰く付きの魔道具(マジックアイテム)やら明らかに盗品であるものやら様々だが、中には無名の製作者に依る"市場へ流してしまうと市場崩壊が起きかねない効果を有するもの"も売られる。ヤーガーのレリックはまさにそういう類のものだった」

「それが……レインくんの?」

「だが、坊主。十年前じゃまだガキもガキだろう。ってことはやっぱり親父さんが……」

「……いえ。僕……十年前に両親を失くして以来……ずっと一人でやってきて。……でも、信じてもらえるかわからない……ですけど、俺、オークションなんて……」

 

 ちらりとアイコンタクトを入れるタナック。それに対し、ケルスティから頷きが返る。

 彼が信用できるかどうかの確認だ。

 

「……誰かが転売している可能性が出てきた、か? ……坊主。常連を疑うってことはしたくないだろうが、ちとおじさんに話を聞かせちゃくれねえか。俺の長年の勘が言ってんだ。これは、思ったよりとんでもねえヤマかもしれねぇぞ、ってな」

 

 ──そうして調査が開始された。

 これにより明らかになるは、ヤーガーの名を騙り、レリックオークションを通じて「ある犯罪組織」と繋がっていた常連客の存在。

 そこからさらに辿られるは警察機構が長年追っていた「裏ルート」や「モグラ」の存在。

 

 芋づる式に判明した犯罪者たちが全員お縄につく頃には──。

 

「……あれ? レインの店が……無い?」

「あら、どうしたの若い刑事さん。……見覚えがあるわね。確か数年前までこの辺に来ていた人、じゃないかしら」

「ああはい、そうです。そっか、もう年単位で来れてなかったのか。……その、ここにあった雑貨屋って」

「ああ……レインくんね。一年半くらい前かしら……"迷惑をかけることになるから"、って言って、どこかへ行ってしまったのよ。便りも何も無いから、心配で……」

 

 彼らの恩人の姿は、どこにもなくなっていた。

 

***

 

 ──インスタント「──ですよね?」をキメてきた。

 いやー、最近なんか思うような「──ですよね?」を摂取できてなかったから、多少シュラインに似てても良いから、って感じで組んでみたんだけど、結構うまくいった感じある。

 

 お守り。いわゆるマジックアイテムってやつでの「──ですよね?」。主人公パーティことケルスティちゃんとトゥーンくんはしっかり強キャラの強面おじさん(名前忘れた)を連れてきてくれて、その人が強い口調で「──ですよね?」をしてくれて……うむ。ほくほくである。

 

 やっぱりね、変則だのなんだのはありましたけど、王道がいっちゃんいいんですよ何事も。味変はたまにでいーのたまにで!

 なんか俺の影法師が経験してきたことで霊質の見極めとか色々あったっぽくて、それを利用した占い師も考えたんだけど、やってること『先見』とか……えー、フラワー三姉妹長女と同じじゃね? ってなったので、もう王道に「こんなすごいお守りを……!」の「──ですよね?」にした。

 ちゃんと人命も救えたようで何よりである。

 

 ここはキロス自治領という、エリスフィア帝国の属国みたいな場所なんだけど、エリスフィアの子供達が絶対関われないような年代にしたのでマー大丈夫。魔族のキアステンだけはワンチャンあるかもねくらい。……あと、あの中の……なんだっけ、"ヴァーン"の子と、ハルティヤの子。会うとしたらこの三人くらいだろう。

 行政区アケノースが一応首都になるのかな? 歴史的な話は難しいからわかんないッピ。

 温暖で雨が多いため、全体的に曇っている印象が強い。霧の街ほどは行かないけど雨の街って感じ。

 北と東に渡ってをトルノ・ヴェスティア自然保護地区っていうゼルパパムの一部分が覆っていて、そこからマーわんさか珍獣やら珍妙な草木が手に入るのが良い所。悪い所は同じところからわんさか魔物が出てくる点ダネ。

 ちなみに南側に広がる針葉樹林こと仙実国の森からも魔物がわんさか出てくる。スーパー恐ろし立地である。

 

 一応治安はエリスフィア帝国より良いと思う。ケルスティちゃんたちみたいな刑事がそこかしこにいて、目を光らせている。

 ただまー……自治領だからかなぁ。色んな国の犯罪者がここを経由地にしたがるようで、資金洗浄のための受け箱にもされているとか。

 だから、ゼルパパムばりには裏側も真っ黒けって感じ。マフィアやギャングはいないのが救いかねー。

 

 さて、今回の研究テーマはずばり魔道具(マジックアイテム)だ。

 これ簡単に言うと刻印魔法……なんだけど、素材によって効果が違ったり、形によって違う方向性になったりして案外面白い。

 

 刻印自体はモーガンの時に、結界併用はローレンスの時に。結界特化は『博士の博士』でやったので、次はちょっと呪詛系の刻印を軸に魔道具(マジックアイテム)を作っていく所存。

 カノンの心臓を縛っていた呪いあたりが印象深いか。神憑きも呪いと言えば呪いだし。

 俺の勘センサーはまだまだ「──ですよね?」が発掘できると言っているので、もう少しこの国で露見と失踪を繰り返すつもりだ。『博士の博士』の時の経験のおかげで十年そこらを待つのが苦じゃなくなったしな。

 今回はちゃんと子供から大人になるまでをやってみた。両親は架空の書類を捏造したけど、少年期から青年期までを見守ってくれたご近所さんは本物だ。心労を押し付けて申し訳ないとは思っています。

 

 というわけで、まずはご近所さんに挨拶だ。

 

「こんにちはぁ。あら、お引越ししてきた子?」

「はい……その、初めまして。レイン、って……言います」

「あらあら。私はジュノっていうの。そこのアパートを管理しているから、住民のことで何かあったら、私に言ってねぇ」

 

 そこの、というアパートを見る。

 ……えー、霊質的に「世界的犯罪者」、「怪盗」、「薬物売買組織の若頭」、「人身売買組織のハンター兼リーダー」、「快楽殺人鬼」、「死体アーティスト」……よし、霊質を見るのはやめよう。

 

 犯罪者にはあまりマジックアイテム売りたくないけど、「──ですよね?」をしてくれる犯罪者なのであれば……いやどうだろうな。

 しかし恐ろしい。このジュノという女性の霊質、及び魔力の質は普通の人だ。

 それでいてこのラインナップは……ま、ご近所付き合いをしていけばわかるだろう。

 

「僕、こういうの……作ってて。売って、生活しているんです」

「あら……これは、タペストリー? まぁまぁ、自分で作ったの?」

「はい。こういうの……ちょっと、得意で」

「羨ましいわぁ。おばさん、手先が器用じゃないから……。ね、今度何か教えてくれるかしら。おばさんみたいな初心者でもできるやつがいいのだけど」

「わかり、ました。……あのこれ、良かったら、貰ってください」

「いいの? こんなの、買ったら5000ストレイルはしそうだけど……」

「材料費、全然無いから、大丈夫です」

 

 ご近所付き合いの仕方そのイチ。多少迷惑がられてもいいのでなんでもかんでも押し付けよう。とにかく貧しいという印象を持たれないようにして、ポジティブな印象を維持しよう。

 ご近所さんは周囲であったマイナスな出来事に関して、前述のたったそれだけで容疑者から外してくれる。最終的に容疑者から外されるからいい、ではなく、最初から容疑者に入らない位置にいるのが大事だ。目撃者の場合はもう仕方ないけど。

 

「何かお礼……そうだわ。今晩うちで食べていかない?」

「い……いいんですか?」

「息子がね、いたのだけど……エリスフィアの大学へ行ってしまっていて、帰ってこなくて寂しいの。ね、おばさんを救うと思って……いいでしょ?」

「……じゃあ、お世話になります」

 

 ちなみにおばさんおばさん言ってるけど多分この人まだ三十とかそこらだと思う。ま、おばさんをマイナスイメージで使う側の問題かね、これは。

 

 あと……さっきから複数の視線を感じているけれど、努めて無視の方向で。

 ただの青年がそんなことに勘づいちゃぁダメだかラネ~。

 どうやらここでも色々ありそうで、お兄さんはわくわくですよ。

 

 狙うは第二第三の「──ですよね?」!

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