序盤からずっと利用するような施設経営者だけど強キャラに薄目にこやかで見られながら名前を呼ばれて最後に「ですよね?」で締め括られる存在になりたい 作:ブ雨堰ド
重い瞼を持ち上げる。
深くて暗い海の底からなんとか這いあがってきたかのような気怠さ。どこかのベッド。見覚えのない天井の色に警戒心が上がる。
身体を起こそうとして……ズキリとした肩口の痛みに気付く。
急速に掘り起こされる記憶。そうだ。自分が。腕を千切られて。
「起きました……か? 肩……痛むとは思いますけど、神経まで弄ったので仕方がないことで……馴染むまでは待たないといけないし、馴染んだとしても時々痛むってことは伝えておきます……僕、医者じゃないから……そこまで完璧には、できなくて」
自信なさげに語る少年の言葉は、どれもが脳を素通りする。
腕が──あった。
大きさは元のものと変わらないが、材質が半透明な……人体のものではない腕。
「フレキシブルグラスとアルカヘストを混合した新物質、スパティカ。強度や耐久面での心配は……必要ないと思うけど、魔力を通すのにはコツがいる、かな。トムさんの身体に刻まれていた……多分霊体化の魔法? とは……相性がいい……と、思うよ」
透明な指が曲がる。タイムラグなしに、思い通りに。
痛み以外の使用感は、前の腕となんら遜色ない……人体ではないもの。
やはり、この少年は。
「あ、喋る体力ないよね……。ごめんなさい。……腕についてる点滴は、抜かないでね。……それじゃ」
失っていない方の手で顔を覆う。仮面は……無い。
アレクにすら見せていない素顔。これを見たのは、彼で二人目だ。
少し顔を動かせば、ベッド脇に置かれていた仮面が目に入る。それを……つけて。
「……果たして、私の残りの半生程度で返せる額か」
あのくだらないオークションの参加者とて、この義手を見たら閉口するだろう。
無論、まず口に関する出来事に遭遇するのはアレクになるだろうが──。
「仇で返すことだけは、しないようにしなければ」
小さく、誰にも聞かれていないところで。
けれど確実に、そう誓った。
***
引っ越し、だそうだ。
「きゅ、急ですね……」
「そうなのよぉ~。挨拶もできなくてねぇ」
ハンさんとトラフさん……「人身売買組織のハンター兼リーダー」と「薬物売買組織の若頭」が、揃って昨夜のうちに出ていった、ということをジュノさんから聞かされた。
俺に対して実害らしい実害の無かった犯罪者二人組。ハンドメイド教室の生徒としては結構意欲的で、まだ作りかけの作品もあったというのに……。
彼女へは「仕事関係で」という説明だけして去ったとか。まぁ……なんかあるんだろうな、彼らも。
これで住民は二重人格らしき殺人鬼とトムさん、そんで俺は最近まで知らなかったんだけど、ずっと出張に行っているらしいフリオさんという人だけになった。
まぁこのアパート、身分証明が要らない上に家賃が安いとかいう、そりゃみんな住まうわ、っていう好条件らしいので、またすぐに住人も補充されることだろう。
……というのをトムさんに話す。
「マァ、彼らも目当ての物がなくなったのならば、キロスに長居する必要がないでしょうからね」
「目当てのもの?」
「闇の魔晶石デスヨ。もうお気づきかとは思いますが、ワタシを含めた犯罪者たちはアレ目当てにここへ来ていました」
あーね。そんで勝ち取ったのがトムさんなわけだ。
ってことは博物館にいた客たちも多くが、かな。マー『
「トムさんも、どこかへ行くの?」
「まずはリハビリをして……そのあと決めますよ。生涯をかけてこの腕の代金は支払うつもりですので、ご安心を」
「いいよ、そんなの……。材料代がかかったから……十万ストレイルくらいで充分」
「……流石に安すぎデスヨ。ワタシの心の安寧のためにも三百万は貰っていただきたく」
金なー。マジで要らないんだよな。「──ですよね?」達成数が満ちたらいなくなる存在なわけだからさ。
そういえば俺の影法師くんが結構長い間エリスフィアにいたっぽかったけど、金銭面どうしてたんだろう。案外苦労したんかな。するとは思えんが。
「……じゃあ、お願いが……あるかな」
「オオ。何なりとお申し付けください」
「僕の……名前。ヤーガーのレリック、だっけ? 僕が売ったはずないのに、それでお金儲けしている人がいたら……トムさんのやり方でいいから……懲らしめてほしい、かな」
「──いいでしょう。『大怪盗』シンプトムの名を持つこのワタシ……私、本名をオットー・クロイツヴァルトと申しますこの私は、残りの半生を、ヤーガーのレリックの回収に費やすことを誓います。……転売を完全に禁止する、というのは中々難しいと思いますので、こうさせてください」
お、重いッピ。
まぁ俺がなるたけ早くいなくなれば彼も使命から解放される……かな。うー、余計なこと言ったかなぁ。でも三百万とか貰ったって使い道ないしなぁ。
……あと全然ファントムじゃないのね。そっちがまずびっくりだよ。
「あと……トムさんが持ってきた魔晶石、結界で包んで封印してあるけど……あれを持っている限り、その腕を奪った相手からは逃れられないんじゃないかな、って……」
「でしたらそのまま封印しておいてください。金銭面や魔晶石が欲しくてあれを盗ったわけではありませんからね」
「……じゃあなんで……怪盗なんてやってるの?」
そんな危ない目にまで遭って。
「……美しいものを、金銭の価値でしか測れない者が……嫌いなのです。そういう者達の手にあるのは、血にまみれた汚いお金だけで充分。美しいものは、人々を魅了してこそ……意味がある、と。……幼稚な思想の押し付けというやつですよ。どうしても許せなくて、納得ができなくて……このような手段を取っている」
ふぅん。
過去に何があったのか、とかは聞かないけどさ。値段だけしかみてねー好事家っていうのは逆に少ない気がするよ。
それに彼が思い至る日は、果たしていつになるのやら。
「わかった。あの魔晶石は、封印しておく……ね。……はい、ご飯できたよ」
「ありがとうございます。……三食レイン先生の食事が食べられることが、今の私の幸せなのかもしれませんね」
「だからおおげさだって……」
特別な調味料も食材も使っていない、エリスフィアの伝統料理だ。キロスの、ですらない。
……キロス出身じゃないだろうから逆に舌馴染みが良いとかなのかな。バフ料理ですらない普通のご飯をそこまで楽しんでくれるなら、こっちも作り甲斐があるけどさ。
「家の中なら……自由に動き回って、いいからね。ただし、過度な運動はまだダメだよ……もどかしいだろうけど、治ってからじゃないと」
「わかっていますよ」
「うん。それじゃあ、僕は品出しとか、買い出しとか、色々行ってくるから……」
しかしそーなると、警察の皆さんも肩の荷が下りた感じじゃないだろうか。
またどっかのベンチで放心でもしてみようかなー。
してたら、なんか黒服の人に「レイン・ヤーガーだな?」って声かけられたなう。
流石にインスタントが過ぎる。成立していない「──ですよね?」はお断りーノタランティーノ。
いつもの言葉足らずな感じで喋っていたら、イライラしてきたんだろうな、話ぶった切って「ついてきてもらう」とか言い始めた黒服の人。どーしよっかなーとか考えているところに──ボルゾイみたいな犬の魔物が飛び込んできた。
おお、この子俺を怖がっていただろうに、助けてくれるのか。賢いワンちゃんだな。
「そこのお前! 何をしている!」
「……領警察だと? チッ」
舌打ちを吐き捨てて場を離脱する黒服さん。
ただ……。
「君、久しぶりだね。大丈夫かい?」
「はい、ただ……魔法的に見られていますね。伏せて、姿勢を低くしてください。ベンチの背もたれに隠れて」
「え、あ、ああ」
貫通系の魔法だな。ベンチ程度じゃ盾にもならないか。
レイン・ヤーガーは歴代最弱の肉体だ。回避や魔法妨害は肉体性能に関わらず行えるからいいけど、重い物を抱えて走ったり、況してや戦闘なんてことはできない。いつもの感じで腕を振れば腕側が折れる。
前回……ケルスティちゃんとトゥーンくんと強面おじさんの「──ですよね?」の時も似たようなことがあった。
ヤーガーのレリック。俺の作品はどうやら裏界隈には垂涎モノのようで、あわよくば製作者を、と狙うのは理解できるんだが……今回は割と気を付けていた方だったのに、バレたな。
……いや、だから……あの館長さんか。
俺のフルネームと容姿を知っていて、恐らく悪い人なら……さもありなん、かね。
「街中で……魔法を使うけど、僕、捕まったりしない……かな」
「ど、どんな魔法を使う気なんだ?」
「煙幕と攪乱……幻術で煙幕を出して、別方向に逃げる僕らの幻を周囲に見せる。その間に、バムセを連れて……ここから離れよう」
ついでに軽く呪いも撒いておく。死に至る呪い、とかじゃない。
上手く狙いが定まらなくなる呪い、だ。集中しなければならない時ほど照準やピントが合い難くなり、機を逃しやすくなる呪い。
チュンッと……甲高い音がして、ベンチの背もたれ部分と、俺達のすぐそばの地面が円筒状に抉れる。
あっさり撤退したとは思ったけど、やっぱりか。
手に入らないなら殺しておく……ってな。短絡的なんだよ基本。
「──
「グ──ギャ!?」
「──
「な、なんでこいつがここに──ギャアアア!?」
ん……なんだ? 連中に何かが起きている? 俺たちを狙う射線が明らかに減っているが。
ふむ。レイン・ヤーガーの身体能力を考えれば……ここを逃す手は無いな。
「今、です。こっち……」
「バムセ、吼えずについてくるんだ。いいな」
「ばう」
本当に賢い犬だな。……さ、行こう。
来た場所は──キロス警察署。開けたところとか、誰かの家とか、俺の家ですら押し入ってきてドンパチが始まりそうだったので、絶対安全な場所を選ばせてもらいました。
お兄さんは警察の人っぽかったからな。黒服さんも言ってたし。あと今制服着てるし。
途中でどこへ向かっているのかわかっていたのだろう、着くや否やお兄さんは俺に話すのとは違う、凛とした声で以て署員に状況を説明。一気に臨戦態勢まで持ち込んだ。
そこからしばらくは安全のために、ってことで保護された。実際何度か警察署の前を黒服や怪しい目つきの男たちが出入りしていたらしい。
いやー、しかし、もうか。
ジュノさんともお別れかなー。このタイミングで出ていくと俺まで犯罪者みたいじゃんなぁ。
と、ノックがあった。「はい」と返事をすれば、そこにいたのは。
「レイン!」
「あ……トゥーン、さん」
ケルスティちゃんとトゥーンくんが。俺を保護したことを、誰かが伝えた感じかな。
彼は結構な勢いでハグしてきて……というか抱き上げてきて、ああうん、わかったわかった、お互い無事でよかったね。
さらに強面おじさんも入ってくる。名前。えーと。……おおナイスだケルスティちゃん。そうか、タナックさんね。秒で忘れそう。
「まずは謝罪をさせてくれ、坊主。……俺たちの捜査が、おまえを脅かした。キロス自治領民の安全と日常を守るための俺達がそれをしたことは……償っても償いきれねえ」
「ぼ……僕が……ものづくりしていることが……悪い、だけ……なんでしょ。だから、謝らなくて……いいよ」
「そんなはずない! 僕もケルスティ主任も、レインのお守りに命を救われたんだ。そのものづくりが悪いことだなんてあり得ない」
いやー、でも名前も容姿も割れた以上は割とどうしようもなさあるよ。「──ですよね?」センサーはまだ生きているものの、もう名前と素顔を晒しての活動はしづらいかなーって感じ。
トゥーンくんはこう言ってくれているけど、ケルスティちゃんとタナックさんは難しい顔をしている。彼らには現実が見えているのだろう。
「──君が、レイン・ヤーガーだったんだね」
言いながら入室したのはお兄さん。
彼を見て、居ずまいを正す三人。
……え、なんか偉い人だったりする?
「ヤーガーのレリック。十数年前から名前の上がるようになった
「そう、ですか。……やっぱり」
「だから、少し厳しい言葉を使わせてもらうよ。君のものづくりに非はない。だけど、身元の保証されない相手に売ってしまっている現状には非がある。
えー、ド正論にございます。
包丁で殺人があったから包丁職人が悪い、は飛躍に聞こえるかもしれないけど、誰彼構わず包丁を売って包丁による犯罪が起きまくった、はさもありなんというやつだ。そうなることが目に見えていて売って、そういう使い方をされるとは思っていなかった、は……通用しない。
況してやそれが小型爆弾に匹敵するものであれば。
「二つに一つだよ、レイン君。
「署長。なんとかならないんですか? 彼が……レインが好きにものづくりができるようには」
ワオ署長……キロス警察機構のトップさん?
なーに非番だからって犬の散歩してんですか。
「紫輝歴521年『アルドラムを見つめる絵画の会』にて、その類稀なる"読み取る力"を披露し、主催のアルドラム・キャスが当時抱えていた悩みについてのアドバイスまで行ったという少年。紫輝歴521年末『ブルーノ音楽会』にて、かつては"賜りし声"などと言われていた高音……倍音の概念を発見し、その証明までしてみせた少年。紫輝歴522年、ダリクレイタの鉱山で、縦軸回転型のポンプの草案を書き残したという少年。紫輝歴523年『エリスフィア-キロス合同呪術研究会』の初代会長ロッフェンが組み上げた最高難度の呪いを構造の説明をしながら解いてしまったという少年。紫輝歴525年『音の魔鉱石大量盗難事件』にて、担当者の警察官が話していた"アッと驚く手段で魔鉱石の追跡をしてくれた子供がいた"という話に上がっていた少年。紫輝歴527年末、オルファの魔物による水域汚染を
──全部乗せ……だと……!?
「どれだけの功績を……」
「ヤーガーのレリックだけじゃなかったのか……」
「功績。功績はまぁそうだけど、僕にはこれが、自身の才能の価値や重みを理解せずに
俺がこの国でばら撒いてきたもの……幾つかは露見しなかったようだけど、おお、90%くらい回収してくれたぞこのお兄さん。
で、できる。
しかも初代主人公パーティと言えるケルスティちゃんとトゥーンくんがいて、その「──ですよね?」を担当したタナックさんがいるところで……だと……?
もうわざとこっちのノリに付き合ってくれているんじゃないかってレベルの逸材だ!
美味しか~、美味しかばい~。
「君はもうすぐ二十歳だ。大人になってから五年を経る。君は……自身が振りまいた技術や知識に対しての、責任を負わなければならない。それを放置した結果が今であると言える」
……ふむ。
いやその通りではあるんだけど、そんなこと十も承知でやってるからなぁ。
勘センサーさんは掘り尽くしたと言っているし、突然この身体を
あ、でもトムさんが日常生活に戻れるまでくらいの面倒は見てあげたい、か? だとして警察の厄介になる気はゼーロー。
「──そうでしょうか? それはあなたたち大人の責任を彼へ押し付けているだけでは?」
声。咄嗟に構える四人。
けれど彼らの警戒は意味を為さない。なぜなら──コツ、と。音を立てて。
部屋のど真ん中……机の上に、紅のスーツの男が現れたから。
「な──」
「『大怪盗』!?」
「ごきげんよう、皆様方。先日のレリックオークションではワタシのショウを見ていただきありがとうございました。──ワタシ、あの後心機一転することがありまして、しばらくはヤーガーのレリック専門の怪盗になるつもりなのです」
聞いた瞬間、俺を抱きしめ、彼から距離を取るトゥーンくん。
「察しの良い刑事さんデスネ。──ですが、常識に囚われすぎている」
ぽふんと煙が出て……いつの間にか身体が彼の腕の中にあった。
俺と同じ幻術煙幕を使って、その間に風魔法とか闇魔法とか使って引き寄せた感じだなこれ。
魔力の使い方がかなり上手い。操作技術だけならアルカに匹敵しそう。
「つきましては──ヤーガーのレリックの製作者も戴いていきますので、アシカラズ」
「ッ、──行け、バムセ!」
飛びかかってくるワンちゃん。
……ごめんな。助けてくれたのに。
霊質を変化させる。変化のわかりやすいよう、ゆっくりと。
「っ!? Grrrrr!」
警戒するように足を止めるバムセ。その隙をつかない彼ではない。
わざとらしく窓を開け放ち……彼の肉体に刻まれた魔法、霊体化で以て部屋を抜けようとする……が、腕と俺を上手く変化させられなかったらしい。ちょっと焦った雰囲気を感じ取ったので、手伝ってあげる。魔法自体はローレンスで肉体の中を触っていたやつと同じだからな、俺でもできる。
屋上まで躍り出れば──彼の首に、ブッチャーナイフが突き付けられた。
「っと……『
「そう。そうよ。お外のお片づけはお兄様がしてくれたから、安心しなさい」
結局名前の分からなかった人……『快楽殺人鬼』と『死体アーティスト』の二重人格のひとだ。
武器や身体が血にまみれているけれど……警察のもの、ではないっぽいな。
「ありがとうございます」
「いいの。いいのよ。レイン先生を助けるためですものね? ──
「そう……ですか。はい、……嬉しく思います」
「ありがとう、ありがとう。──さぁ、歌いましょう、お兄様。お別れの歌だからって、しんみりする必要はないの。楽しく、明るく、再会を祈って歌を届けましょう」
……ちゃんと話通じたんだな、という驚き。
その驚きの新鮮なうちに、浮遊感を覚える。
「慣れないだろうが、落ちることはないから安心してほしい」
カツ、カツ、と、実体化させた水の魔力を蹴って空中を駆けていくトムさん。これは痣火の……。……誰かが広めたんかな。それとも最初からある技術だったのか。
とまぁこうして、背後に祈るように歌うあの人を残し、俺達は警察署を脱出したのだった。
「……無茶したね、トムさん」
「まだ上手く魔力を通せませんでした。失敗デスネ」
「嘘吐き。肩の断面、焼けるように痛いでしょ。……神経と義手の接合は至難だからね。ゆっくり慣らさないといけないのに、こんな無茶して」
「警察のお世話にはなりたくないし、警察を噛んで小物売りを続行することも嫌だ、と。そう見えましたので、思わず」
大正解。……この人にはもしかしたら、欠片程度の霊質が見えているのかもな。
霊体化の術式もそうだけど、身体の中診た感じ、半死人って感じだったし……色々特殊そう。
「お客さん、どちらマデ?」
「ああ、それについてなんだけど」
幻術でレイン・ヤーガーを作り、ジュノさんやご近所さんに挨拶をさせる。
インクを遠隔操作し、羊皮紙の冊子に腕の説明書を印字する。
満足した。したし、このあと何か知らのトラブルに巻き込まれるのは……ちょっと蛇足感パないよな、ってことで。
「あの家は、トムさんが好きに使っていいから」
「レイン先生? お身体が、軽く──……なにをしようとしているので、」
「どうやら僕は、お呼びではないようだから。
雲散霧消する。
強引極まりないが、このままどっかへランデブーなんてしたらそれこそ続編が始まっちゃうだろうしな。
遠く。俺の家で、作り上げられた冊子が勝手にパラパラとめくられる。
書かれていることに間違いやミスがないか確認されたそれは、ぱたん、と閉じて。
キロス自治領での「──ですよね?」補給編は、これで終わり、だ。中々楽しいスローライフだったよ。
***
勝手に開き、勝手にめくれ、勝手に閉じた本を見て……溜息を吐く男。
無数の古物に囲まれたその男は。
「院長。……やっぱこの時代のどこかにいたんだな」
そうとだけ呟いて……その本を大切そうにしまった。
来客を知らせるベルが鳴る。
誰が来たのかなど、確認するまでもない。
「──人を捜してほしいんだ。たとえその人が、地の底にいたのだとしても」
「古物商になにを求めてんだか。……いいぜ、話を聞かせろよ、親友」
袖がまくられる。そこから顔を覗かせるのは──透明な腕。
彼は男を頼りにきたのだ。
「この義手の、製作者を」
たとえ恩を、仇で返すことになったとしても、と。